ガルヴォルスFate 第26話「FATES」
由記とちはやを石化して、黎利はついに2人を手中に収めた。2人の石の体を抱きしめながら、黎利は自分の心の世界を思い描いていた。
彼女が心の奥底で抱擁していた2人は、石化していない柔肌だった。そのあたたかなぬくもりが、黎利に快楽を与える。
「由記、ちはや・・あたたかい・・あなたたちの想い・・・」
2人の肌を撫で回して、黎利が歓喜に湧く。彼女の眼には、由記とちはやも快感を覚えてあえいでいるように見えていた。
「この感触、この心地よさ・・あなたたちだけが、私の心を満たしてくれる・・・」
その快楽が強まり、黎利があえぎ声を上げるようになる。
(そう・・これが私が望んでいた世界・・・由記とちはやがいてくれれば、私はどうなってもいい・・・)
自分の中の感情や欲望を抑えきれず、黎利はひたすら由記とちはやの体に触れていく。ふくらみのある胸を撫で回し、腰や腕に指を滑らせていく。
(たとえこの体が滅びても・・・)
黎利は由記とちはやの体に触れていく。頭から足まで、触れられるもの全てに手を滑らせていく。
黎利の感情がさらに高められて、彼女の眼から涙が、秘所から愛液があふれ出る。自分の持てる感情を全て、由記とちはやにぶつけていた。
フェイトの運命が導く世界の破滅など気に留めないほどに、黎利は感情を高めていた。彼女の眼には、笑顔を絶やさないでいる由記とちはやの姿しか映っていなかった。
彼女にとって2人は想いの、彼女自身の全てである。2人の存在が、彼女に生を与えていたのだ。
もはや彼女に未練はなかった。
運命の朝が明けた。
黎利は由記とちはやを抱きしめたまま、2人の顔をじっと見つめていた。抱擁したまま眠っていたのかもしれない。そう思いながら、黎利は笑みをこぼしていた。
「由記、ちはや、楽しかったわよ・・あなたたちとこうして一夜を過ごせて、私は満足よ・・・」
2人の石の頬をすり寄せて、黎利は自身の快楽を確かめる。
「もう心残りはない・・私にはもう邪な気持ちはない・・・」
そのとき、黎利の体が無機質な音を立て始める。由記やちはやにかけられた石化とは違い、何かが壊れるような音だった。
それは怪物の死を意味するものであった。黎利は由記から受けた剣の一閃で胸を貫かれ、致命傷を負った。剣は彼女の心臓を捉え、本来ならば即死と呼べる損傷だった。傷は消したものの、心臓はもはやその機能を停止しようとしていた。
「最後にこんないい気分になれて、これ以上幸せなことはないわね・・・ありがとう・・由記、ちはや・・・」
由記とちはやに触れる黎利の手から砂のようなものが零れ落ちる。
「あなたたちは、幸せになりなさいよ・・・私以上に・・これからもずっと・・・」
由記とちはやに満面の笑顔を見せた直後、黎利の体が崩壊して崩れ去った。最高の歓喜を堪能して、彼女は最期を迎えた。
彼女の死によって、由記やちはや、天音たちにかけられていた石化が解ける。石化の束縛から解放されて、彼女たちがその場に座り込む。
「私・・・いったい・・・?」
「由記・・・もしかしてあたしたち、元に戻ったの・・・?」
自分たちがどうなっていたのか一瞬分からず、由記もちはやも呆然となっていた。だが互いの顔を見ると、2人は微笑みあった。
「帰ってきた・・・ちはや・・・」
「いろいろ迷惑かけちゃったね、由記・・・」
由記もちはやも眼に涙を浮かべて抱きしめあった。そこで2人は床にこぼれていた砂に気付き、由記が一部を手ですくう。
「これって・・黎利先輩・・・!?」
「先輩が・・・だからあたしたち、助かったんだね・・・」
由記もちはやも黎利の死に悲しみを覚えていた。
「先輩も私たちがほしかったんだね・・私とちはやが互いを求め合うように・・・」
「もう少し、分かり合えればよかったのに・・・気持ちを押し付けようとしたところは、あたしたちも文句は言えないよね・・・」
黎利の亡骸を胸に抱いて、由記とちはやは再び寄り添いあい、床に横になる。
「由記・・あたし、信じてもいいんだよね・・・由記が信じられるものだったら、あたしも信じられるかもしれない・・・」
「ちはや・・・」
物悲しい笑みを見せるちはやに、由記は少し戸惑いを感じながらも微笑んで頷く。
「ちはや、今回は私がちはやに触れていく番ね。今度はあなたが私たちに迷惑かけたんだから・・」
「あぁぁ・・そうだね、アハハ・・」
由記の言葉に思わず苦笑いを浮かべるちはや。
「あなたは自分を、自分たちを守ろうとして、たくさんの人を傷つけた・・その罪は背負っていかないといけない。それは分かるよね・・?」
由記の言葉にちはやは無言で頷く。
「私はちはやを信じてる。あなたが私を信じているように・・」
「・・ありがとう、由記・・・いいよ・・好きにしちゃって・・・」
ちはやは由記に全てを委ねようとすると、由記は小さく頷いてちはやに寄り添った。互いのあたたかなぬくもりを感じて、2人は喜びを覚える。
「この前、私を子供みたいだって言ったよね?・・・今度はあなたを子供っぽくしてあげる・・・」
悩ましい眼差しを向ける由記が、ちはやの胸に手を当てる。その感触に由記もちはやも心地よさを感じて顔を歪める。
「あたし・・・あたしも忘れてたかもしれない・・・こうして自分の体に触れられることを・・・」
「私も・・・今回はそんなに時間がたってないはずなのに・・・今こうしていることが、久しぶりのような気がしてる・・・」
こみ上げてくる歓喜を感じて微笑むちはやと由記。由記はさらにちはやの胸を揉みほぐしていく。
「感じる・・由記の気持ちが、あたしの中に流れ込んでくる・・・」
ちはやが由記の抱擁に快感を覚える。由記がおもむろに彼女と唇を重ねる。
由記の接触に弄ばれて、ちはやの呼吸が荒くなる。体が硬直しながらも、ちはやはこの快楽を受け入れようとしていた。
「由記、もっと・・もっとあたしに触れて・・・!」
声を荒げるちはやに、由記もたまらず感情をあらわにする。ちはやの胸の谷間に顔をうずめて、そのぬくもりを確かめる。
「ちはや、私、ちはやのことが好きだよ・・・!」
「あたしも、由記のことが好き!・・この世界で誰よりも、あたしは由記が好きだから・・・!」
互いに自分の気持ちを言い表す由記とちはやが寄り添いあい、再び口付けを交わす。2人の足を伝って愛液が床に零れ落ちていた。
しばらく寝ていたような感覚があった。そんなもやもやした心地の中で、由記とちはやは眼を覚ました。
「すっかり、入り浸ってしまったね・・・」
「そうだね・・思わず抜け出せなくなっちゃうくらいに・・」
互いの顔を見つめ合って、笑顔を見せ合う由記とちはや。
「全く、2人ともずい分とハレンチなことしていたわね。」
そこへ天音が声をかけてきた。憮然とした面持ちを見せてくる天音に、由記とちはやが顔を上げて振り返る。
「天音先輩も、元に戻ったのですね・・・?」
「元に戻ったっていっても体だけで、着ていたものはみんな破られて・・・全く・・最後の最後まで迷惑ばっかかけて・・・」
黎利に対して愚痴をこぼす天音だが、由記とちはやには、天音が自分たち以上に黎利の死を悲しんでいたことを理解していた。
「とりあえず誰か呼んだほうがいいわね。このままじゃここから動けないし。」
天音が頬を赤らめながら由記たちに促す。だが由記は微笑みかけて首を小さく横に振る。
「天音先輩、みんなを誘導して、ここから離れてください。私とちはやには、まだやることがありますから・・」
「やることって・・何を・・・!?」
天音の困惑を気にかけながらも、由記とちはやは天井の窓からかすかに見える空を見上げた。巨大なエネルギーの接近で、空は雲ひとつない静けさを漂わせていた。
「ワームホールからやってきたエネルギーが、迫ってきてる・・・」
ちはやが小さく呟くと、由記も頷く。
「止めなくちゃ・・・私たちの居場所を守るために・・・」
「分かったわよ・・後のことは私に任せて、アンタたちは自分の気持ちにけじめをつけてきなさい。」
由記とちはやの気持ちに観念してか、天音が2人に言いかける。
「ありがとう、天音先輩・・ゴメンなさい、いろいろ迷惑をかけてしまって・・」
「いいのよ、いいのよ。ここまで付き合ったんだから、最後までやりとおすわよ。」
意気込みを見せる天音に、思わず笑みをこぼす由記とちはや。
「ただし、ちゃんと帰ってきなさいよ。ひやひやさせるようなことをしたら承知しないわよ。」
「もちろん生きて帰ってきますよ。あたしたちの居場所はこの世界ですから・・」
念を押す天音にちはやが笑顔で答える。ようやく意識を取り戻した女性たちの保護を確立するため、天音は動き出した。
彼女を見送ってから、由記とちはやは空を仰ぎ見た。
空は雲ひとつない完全な青空だった。その晴天の先で、ワームホールから現れた巨大なエネルギーが不気味に輝いていた。
由記とちはやはじっと空を見上げていた。世界の崩壊が迫っていることを目の当たりにして、2人は覚悟を決めていた。
「私たちはフェイトの運命から、この世界を守る・・・」
「でも正義のためとか、そんな大それた理由じゃない・・この世界が、あたしたちがいたい場所ってだけ・・・」
互いの気持ちを確かめ合った由記とちはやの顔に紋様が走る。そして2人の姿が、白と黒の翼を広げたフェイトへと変貌する。
「行こう、ちはや。」
「由記、あたしたちの居場所を守るために・・・!」
頷き合ってから、由記とちはやは空に輝く閃光に向かって飛び立った。両手に持てるだけの力を集束させて、エネルギーの接近の妨害に備える。
「ここは私たちの居場所なのよ!」
「そんなデカいもの、落とすわけにはいかないのよ!」
内に秘める感情とともに、由記とちはやが力を集めた両手を突き出す。膨大な力の衝突によって荒々しく火花が散る。
2人の力でエネルギーの進行は遅くなったが、まだ食い止めるには至っていない。
「由記、コレ、思ってたより重いよ・・・!」
思わず声を荒げるちはや。2人はさらに力を上げて、エネルギーの進行を阻む。
そしてついに、2人の背中の翼が神々しい輝きを放つ。それは彼女たちが持てるフェイトとしての力の全開を表していた。
(私に力を・・もしも世界の運命を変えられるくらいの力があるなら、フェイト、私に力を貸して・・・!)
由記が自分自身に問いかける。巨大な力の衝突が、ついに膨大な閃光の放出へと発展した。
全ての力を使い果たしたような感覚にさいなまれる由記とちはやの姿が、閃光から現れる。
「やったの・・あたしたち・・・?」
「分からない・・・私たちは・・世界はどうなったの・・・?」
もうろうとしている意識の中で、由記とちはやが呟きかける。白んでいた風景が徐々に色を取り戻していく。
その先の光景に由記もちはやも驚愕を覚える。2人の見つめていた先には、エネルギーが点在していた。はじめと比べて小さくなっていたが、重力に引かれて地上に進行していた。
「そんな・・・あたしたちの力でも、コレを止められないっていうの・・・!?」
絶望感にさいなまれて、ちはやが肩を落とす。すると由記が突然人間の姿に戻った。
「ゆ、由記・・・!?」
突然のことにさらなる驚きを覚えるちはや。振り返った由記の背中には、フェイトとしての白い翼が残っていた。
「ちはや、私、ちはやには本当に感謝しているよ・・こうして最後まで付き合ってくれて、私を求めてきてくれて・・」
「由記・・何を言って・・・!?」
微笑みかけてくる由記に、ちはやが動揺をあらわにする。
「もしもちはやがいてくれなかったら、私自身のフェイトに振り回されていた・・・ちはやが支えてきてくれたから、私は私でいられたのよ・・・」
「それはあたしも同じだよ!・・由記が止めてくれなかったら、あたし、心まで怪物になって、由記やみんなを裏切っていたよ・・・!」
ちはやが悲痛の声を上げて、由記に寄り添う。感情があらわになっていたちはやの姿も、由記と同じ、黒い翼を生やした人間になっていた。
「ダメ!行かないで、由記!あたし、由記と離れ離れにはなりたくないよ!」
「ちはや・・・大丈夫。私は死にに行くわけじゃない・・」
抱きしめてきたちはやを優しく離して、由記は微笑む。
「私は私たちの居場所を守る。そして必ずあなたの元へ帰る・・もしも私が死んだら、あなたやみんなが悲しむから・・・」
「由記・・・」
笑顔を見せる由記に、ちはやはこれ以上言いとがめることができなかった。
「だから、別れの言葉は言わない・・・待ってて、ちはや・・・」
「由記!」
由記が声を荒げるちはやを突き放す。必死に由記に手を伸ばすが、徐々に由記との距離が離れていく。
「由記!待って、由記!」
(ちはや・・・どんなことがあっても、私はちはやのところに帰る・・・)
ちはやに対する想いと約束を胸に秘めて、由記はエネルギー体へと向かう。完全な破壊のため、由記は残された力の全てを注ぎ込む勢いで彼女は飛び立つ。
(由記・・・絶対、帰ってきて・・・でないとあたし、許さないから・・・)
由記に対する想いを巡らせながら、神々しく破裂する閃光を見つめながらゆっくりと地上に落下していった。
「ちはや!・・しっかりしなさい、ちはや!」
呼びかける声に起こされて、ちはやは眼を覚ました。眼を開くと天音が心配そうに見つめていた。
「天音先輩・・・ここは・・・」
「黎利の家の庭よ。アンタはあの星を止めようとして、ここに落ちてきたのよ。」
「そうですか・・・」
天音に説明されてちはやは小さく微笑む。頭に軽く手を当てて記憶を巡らせると、ちはやは笑みを消して眼を見開く。
「先輩、由記は!?由記はどこですか・・!?」
ちはやが周囲を見回しながら天音に問いかける。すると天音は首を横に振る。
「ここにはいないわ・・落ちてきて受け止めたのはアンタだけだったし・・その直後に、あの星が爆発して消えたのよ・・」
その言葉を聞いてちはやは立ち上がり、虚空を見上げた。地上に落下しようとしていたエネルギー体は消滅し、空は星のような瞬きが広がり、徐々に消えていく。
「由記が、やったの・・・?」
ちはやが空を見上げたまま呟く。エネルギーの消滅によって、世界の崩壊は食い止められた。
ちはやは必死に由記の気配を探った。だが最大限に注意を研ぎ澄ましても、由記の気配は感じられなかった。
しかしちはやは驚きも悲しみもさほど感じてはいなかった。由記が必ずどこかで生きていて、いつか必ず会いに戻ってくることを信じていたからだ。
(由記、あたしは信じてる・・由記は必ずあたしの前に帰ってきてくれるって・・・)
空をじっと見つめるちはやの眼から、うっすらと涙が流れる。それは別れと悲しみの涙ではなく、再会と誓いの涙だった。
それから時はたち、世界は徐々に平穏な日常へと戻っていった。
エネルギーの消滅してすぐに、宇宙に現れていたワームホールは消滅し、世界規模の危機と不安は解消された。
そしてその一連の出来事の当事者であるちはやも日常に戻っていた。いつもどおりに学校に通い、いつもどおりに寮に帰る。
だがその日常には、以前あったものが欠けていた。黎利とイブキは亡くなり、由記はまだ帰ってきてはいない。それがちはやの心に少なからず虚無感を植えつけていた。
そしてある日の朝。このときもちはやのそばに由記の姿はなかった。
心からの元気が湧き上がらないまま、この日もちはやは学校へと向かった。
「おはよう、ちはや。朝から元気がないじゃないの。」
その途中の道で、天音がいつもの活気のある声をかけてきた。ちはやの気持ちを察していた天音は、彼女に言いかける。
「由記がなかなか戻ってこなくて寂しいのは分かるけど、あんまり悲しい顔を見せてるのもどうかと思うよ。そんな顔で由記を迎えるつもり?」
「分かっています。でもこの気持ち、自分でも抑えられなくて・・・」
天音の励ましの言葉を受けながらも、ちはやは自分の気持ちを抑えきれないでいた。
「とにかく、どんなときでも笑顔を見せる。強く明るく元気よくってね。」
「天音先輩・・・」
天音に励まされていくうちに、ちはやは次第に笑顔を取り戻していく。
「むしろ文句があるのは由記のほうよ。これだけちはやが心配にしているってのに、何の音沙汰もないなんて。」
「確かに心配にはなってますけど、あたしは由記を責めてはいません。むしろあたしのほうが、いろいろ迷惑をかけちゃったから・・・」
ムッとする天音に、ちはやは作り笑顔を見せて答える。彼女の心境を目の当たりにして、天音はとてもやるせない気持ちを覚えた。
そして学校の正門に差し掛かったときだった。ちはやは突然足を止めて、その先をじっと見つめている。
「どうしたの、ちはや・・?」
天音が声をかけるが、ちはやはじっと見つめたまま聞いていない。天音がちはやが見ているほうへ眼を向けると、その先に1人の少女が立っていた。
ちはやには彼女が誰かすぐに分かった。
「やっと・・やっと帰ってきたんだね・・・」
ちはやが眼に涙を浮かべて喜びをあらわにした。
「今まで待たせてゴメンね、ちはや・・・」
そんな彼女に向けて、少女、由記が満面の笑みを見せる。
「お帰り・・由記・・・」
「ただいま・・・ちはや・・・」
互いに挨拶を交わすと、ちはやは自分の気持ちを抑えきれないまま、由記に飛びついた。由記はちはやをしっかりと受け止めた。
久しぶりの再会。ずっと変わっていない、互いを想う心。
変わらない想いを分かち合う2人は、周りの反応など気にしていなかった。
「全く、再会をしたと思ったら、思いっきり見せ付けてくれちゃってるんだから・・」
呆れた素振りを見せながらも、由記とちはやの再会を心から喜ぶ天音。彼女たちが見つめる中で、由記とちはやは口付けを交わした。
(もう絶対放さないからね、由記・・・)
(どんなことがあっても、これからはずっと一緒だよ、ちはや・・・)
由記とちはや。2人の想いはこれからも変わらない。
決して逃れることのできないはずの血塗られた運命。
だがそれは、強い想いがあれば乗り越えられないことはない。
世界の破滅をもたらす忌まわしき運命でさえ、想いひとつで抗うことができる。
運命は、自分の手で切り開くことができるのだ・・・