ガルヴォルスFangX 第26話「牙と剣」
捕まえようとしてくるミサに対して、ハルはファングガルヴォルスとなった。彼は戸惑いを見せているアキを離す。
「アキ・・離れていてくれ・・・」
「ハル・・・お願い・・リオさんを救ってあげて・・・」
互いに呼びかけ合うハルとアキ。
「それは絶対にやるとは言わない・・オレとアキが安心できることが、オレが優先することだ・・・」
ハルが口にした考えにアキが辛さを覚える。しかしこれがハルなのだと彼女は割り切った。
「最後に1回言う・・オレたちを放っておいてくれ・・そうすれば何もしない・・」
「ダメだよ・・あなたたちを放っておいたら、リオが安心できない・・」
「そう・・だったらもうオレは容赦しない・・覚悟してもらうぞ・・・!」
ミサに忠告を拒否されて、ハルが歯がゆさを浮かべて手に力を込める。
「私はあなたを押さえる・・石化が解けたのも、きっと何かの偶然のはずだから・・・」
自分に言い聞かせるミサの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼女がメデューサガルヴォルスに変貌する。
「もう1度オブジェにする・・もちろん2人一緒に・・」
ミサがハルにゆっくりと近づいていく。ハルが体から刃を引き抜いて、ミサに向けて振りかざす。
するとミサが音もなく姿を消して、ハルの刃をかわした。
「どこだ・・どこに行ったんだ・・・!?」
ハルが感覚を研ぎ澄ませて、ミサの行方を追う。
「ハル、横!」
アキが声をかけて、ハルがその方向に意識を傾ける。同時に現れたミサが右手を伸ばして、念力を放ってきた。
「うっ!」
「ハル!」
動きを止められてうめくハルに、アキが悲鳴を上げる。ミサがハルを見つめて妖しく微笑んでいく。
「少しおとなしくしていて・・あの子も一緒にいさせてあげるから・・・」
ミサがハルに言いかけて、アキに近づいていく。アキが怯えてたまらず後ずさりする。
「アキを追い込むな・・これ以上、お前の思い通りにはいかない!」
激高したハルが全身から禍々しいオーラを放出する。彼の体が刺々しいものへと変わり、強さを上げていく。
「ダメだよ・・どんなに力を上げても、たとえ強力なガルヴォルスでも、この力を跳ね返すことはできない・・」
ミサがハルに向けて両手を伸ばして、さらに強い念力をかける。再びハルが体を束縛される。
「ハル・・・!」
身動きが取れなくなるハルに、アキが困惑を見せる。
「私はあなたたちを放っておかない・・リオのためなら、私は何でもする・・」
「それが身勝手を正しいことにするいいわけか・・・!」
言いかけるミサに、ハルが声を振り絞って言い返す。
「オレは・・オレたちは、そんな身勝手に振り回されたりしない!」
彼が強引にミサの念力を打ち破ろうとする。
「だから、ここまで強くしている私の力、誰にも破ることは・・」
ミサがハルに言いかけたときだった。ハルの力がミサの念力を強引に打ち破った。
「そんな!?」
思っていなかったことが起こって、ミサが驚きの声を上げる。念力を破ったことでの消耗で、ハルが息を乱す。
「どうして!?・・私の力は、その人の力さえも抑えることができるのに・・・!」
「だから分からないと言っただろう・・オレはこの力を打ち破りたい・・そう考えて、それをやっただけだ・・」
驚愕するミサにハルが自分の考えを口にする。
「オレはお前の思い通りにはならない・・なった時点で、オレはオレでなくなるから・・・」
「ならリオはどうなるの!?・・リオがリオでなくなってもいいの!?」
「オレたちには関係ない・・自分たちのことをオレたちに押し付けてこないでくれ・・・」
感情をあらわにしていくミサだが、ハルは考えを変えようとしない。アキもハルの考えについていくことを変えていない。
「リオが絶望していくのを、私は耐えられない・・・!」
ミサがいきり立ってハルに飛びかかる。ハルが目つきを鋭くすると、向かってきたミサの背後に回り込んできた。
「えっ・・!?」
一瞬にして背後に回られたことに、ミサが驚愕を覚える。
(私が見失い、後ろを取られるなんて・・・!?)
次の一瞬の間に、ミサはこの状況の理由を求めて、思考を巡らせた。その彼女の右肩にハルが刃を突き立てた。
「うっ!」
後ろから肩を貫かれて、ミサがうめく。この瞬間が、ミサが久しぶりに感じた痛みの瞬間だった。
「私の力を・・確実に超えている・・・!?」
「オレたちはお前の思い通りには絶対にならない・・どうしてもオレたちの邪魔をしようとするなら、オレはここでお前を殺す・・・!」
困惑しているミサにハルが自分の気持ちを正直に口にしていく。
「私はリオを助ける・・そのためには、あなたたちが・・!」
ミサが激高してハルに念力を仕掛ける。またハルが動きを封じられる。
「今度こそ・・今度こそ完全に動きを封じて・・・!」
ミサがハルに対する念力をさらに強めていく。このまま彼を押しつぶしてしまっても構わないとさえ、彼女は思っていた。
「思い通りにならないと・・何度も言わせるな!」
ハルが叫んで力を込めて、ミサの念力を打ち破った。彼の体からあふれたオーラが部屋の壁にぶつかって削った。
「どうして・・さっきはあの子と一緒にオブジェにできたのに・・・!?」
ミサがハルの見せる力に愕然となっていく。その彼女の体にハルの刃が刺さった。
ミサは自分の身に起きたことに目を疑った。刃は彼女の腹を貫いていた。
「私が・・こんな・・・!」
ミサが刃に刺されたまま、ゆっくりとハルに振り返る。
「私は・・まだ倒れるわけにいかない・・私が倒れたら、リオは救われないままに・・・!」
「救われたいと願ってるなら、もう自分で切り開くしかない・・オレたちは、そうするしかない・・・」
リオのために尽力するミサと、アキとともに安心のできる場所を求め続けていくハル。
「私は・・私はまだリオを・・・」
ミサがハルに手を伸ばしかけた。次の瞬間、彼女は力なく床に倒れていった。
「わ・・私・・・」
力が弱まってガルヴォルスから人の姿に戻るミサ。彼女は石化して立ち尽くしているリオに目を向ける。
「リオ・・私は・・あなたを助けたい・・・だから・・まだ・・・まだ・・・」
ミサが力を振り絞って、リオに向けて手を伸ばしていく。
“やめて・・助けて・・・”
ミサの心の中にリオの声が響いてくる。
“私は・・こんなイヤなものの中にいたくない・・・”
リオが自分ではなく他の人に助けを求めていることに、ミサは耳を疑った。
“誰か・・誰か助けて・・・”
「リオ・・何を言っているの!?・・私が助けてあげるから・・・」
“助けて・・・このままじゃ、お姉ちゃんに振り回されてばかりになってしまう・・・”
さらに手を伸ばそうとしたミサだが、リオからの拒絶の言葉を耳にして、絶望を感じていく。
「私が・・リオを振り回している・・・!?」
必死にリオを信じようとするミサ。
「そんなことはない・・・そんなことは・・・」
自分自身の希望が絶たれたことを痛感して、ミサが完全に倒れた。
「リオ・・・私・・・私は・・・」
リオにすがり続けて涙を流すミサ。彼女が事切れて、体が音もなく消えていった。
消えていったミサを、ハルとアキは見守っていた。ハルが人の姿に戻って、アキに振り返る。
「アキ・・これでもう大丈夫だよ・・・」
「ハル・・・うん・・・」
声をかけるハルにアキが小さく頷く。彼女の顔には笑みがなかった。
ミサが事切れたことで、彼女に石化されていた女性たちが元に戻った。リオもサクラも石化から解放されて、たまらずその場に座り込んだ。
「リオさん!・・サクラさん!」
リオに声を上げたとき、アキはサクラに気付いて駆け寄る。
「サクラさんも石にされていたんですね・・・」
「エヘヘ・・すっかりやられちゃったよ・・」
アキが声をかけると、サクラが照れ笑いを見せる。2人はリオに振り向くと、表情を曇らせた。
「リオさん・・・お姉さんのことで・・・」
リオの心境を察して不安を感じていくアキ。愕然となっていたリオが、アキとサクラ、そしてハルに目を向ける。
「まさかあなたたちに助けられるなんて・・・」
「助けたつもりはないよ・・あくまで僕たちが安心するためだ・・・」
皮肉を口にするリオに、ハルも自分の考えを口にしていく。
「それでも・・あなたは私を助けた・・私にとってもあなたにとっても不本意だったけど・・・」
リオがハルたちに対してさらに皮肉を口にする。
「でも、私はあなたたちにすがるつもりはない・・あなたはガルヴォルスで、私の気持ちを裏切った・・それに自分たちの目的のために、私に危害を加えることもためらわない・・」
「リオさん、でもそれは・・・!」
決別を告げてきたリオに、アキが言い返そうとした。しかしハルに手を出されて止められる。
「それは君が僕とアキに手を出してきたからだ・・何もしてこなかったら、僕も何もしないのに・・」
「してきたのはそっち・・私も本当は、心から分かり合えたらよかった・・・」
互いに自分の意思を頑なにして、相手の考えを受け入れようとしないハルとリオ。
「私はお姉ちゃんのやることを拒否した・・だから私は、お姉ちゃんがいなくなった悲しみも怒りも弱いのかもしれない・・」
「リオさん・・・リオさんは気に病むことは・・・」
アキが声をかけるが、これもリオは聞き入れようとしない。
「もう私には何もない・・お父さんもお母さんも、ナオミもレンさんもお姉ちゃんも・・・」
リオが悲しい表情を浮かべて呟くと、ハルたちに背を向けた。
「それでも私は生きていく・・でも、私はあなたたちと違う道を進んでいく・・・」
「リオさん・・・」
「私はどうしても、あなたたちを受け入れることができない・・そうすることが、私の全否定になるから・・・」
戸惑いを募らせるアキの前で、リオが自分の気持ちを正直に伝えていく。
「私は行くよ・・私自身が心から納得できる答えを見つけるつもりでいる・・・」
「好きにしていいよ・・僕たちを追い込まなければ・・・」
するとハルがリオに言い返す。
「それなら、もう私に会わないことを祈ることね・・・」
リオはハルたちに言いかけて歩き出す。しかし数歩歩いたところで、彼女はふと足を止めた。
(さようなら・・お姉ちゃん・・・)
姉、ミサとの別れを心に刻んで、リオは改めて部屋を出て行った。
「リオちゃん・・・ハル、アキちゃん、追いかけなくていいの・・・!?」
サクラが心配の声をかけるが、ハルはリオを追いかけようとせず、アキも首を横に振る。
「もう私たちには・・ううん、きっと誰にもリオさんを止めることはできないのかもしれない・・リオさんは、リオさんだけの答えを見つけようとしている・・・」
「それに、僕は僕とアキが安心できるなら、アイツが何をしようと関係ない・・・」
アキに続いてハルも自分の気持ちを口にしていく。2人の考えを聞いて、サクラが苦笑いを浮かべた。
「ホントに、ハルとアキちゃんだね・・あたしも敵わないや・・」
「ごめんなさい、サクラさん・・でも、これがハルなんです・・・」
アキがサクラに謝意を見せながら、ハルのことを口にしていく。
「イヤなものはとことん拒絶していく。自分が安心できることを1番に考える。自分たちを追い込もうとしてくるものは、敵として容赦なく倒そうとする・・」
アキは語りながら、ハルに目を向ける。
「でもハルをそうさせたのは、自分勝手な世界の人たちのせい・・向こうが何もしてこなければ、ハルもおとなしくできた・・・」
「もう、僕の心の支えは、アキしかいない・・・」
ハルがアキに近寄って、彼女を抱きしめてきた。この抱擁にアキが戸惑いを覚える。
「ハル・・・私も、もうハルしかいないよ・・・」
アキも微笑んでハルとの抱擁を交わす。2人が抱きしめ合うのを見て、サクラがまた苦笑いを見せた。
「もう、ホントに2人には敵わないよ・・」
肩を落としたサクラに、ハルとアキが抱擁したまま振り向いてきた。
「僕たちはまた行くよ・・まだ僕たちの戦いは終わったわけじゃなから・・・」
「止めはしないけど・・とりあえず服着てからのほうが・・・」
言いかけるハルにサクラが言い返す。彼らは全くの裸だった。
ソードガルヴォルスとなって移動して、リオはかつて住んでいたマンションの自分の部屋に戻っていた。彼女はそこで新しい服を身に着けた。
「また、ここに帰ってきてしまったね・・でも、今度こそもうここに帰ってくることはないと思う・・・」
呟きかけるリオの脳裏に、これまでの自分の日常と戦いを思い返していた。
もう自分のかけがえのないものはない。家族も友達も、彼らとの何気ない時間も失われた。
「さようなら・・みんな・・・でも、みんなのことは、絶対に忘れない・・・」
大切な人たちに別れの言葉を口にして、リオは部屋を出た。
1度家に帰ってきたハルとアキ。ナツとマキに迎えられて休息を取った2人だが、その後すぐに家を出ることにした。
「もう行っちゃうのか・・これからもずっとここにいてほしいのが、オレの本音なんだけど・・」
「ゴメン、兄さん・・僕はどうしても、行かないといけないんだ・・・」
「私もハルについていきます・・これからも、どこまでも・・・」
苦笑を浮かべるナツに、ハルとアキが自分の気持ちを口にする。ナツたちに言われても、ハルとアキの決意は揺るがなかった。
「ハルくん、アキちゃん、あたしもナツもサクラちゃんも、あなたたちが帰ってくるのを待ってるからね・・」
「ないとは思うけど、何かあったら連絡してきてね。あたしがすぐにすっ飛んでいくから・・」
マキとサクラもハルとアキに言いかけた。アキは頷いたが、ハルは辛そうな顔を見せてきた。
「サクラを頼るつもりはない・・僕たちが安心するためには、僕自身がやるしかないんだ・・・」
「相変わらずだね、ハルは・・でもそれだから、ハルはどんなことも乗り越えられそうな気になる・・アキちゃんと一緒に、安心をつかめると思えてくる・・・」
「そんなこと言ってきても、もう僕はサクラに気を許さないよ・・・」
サクラに不満げに言い返すと、ハルはアキと一緒に歩き出していった。
「ハル、アキちゃん・・何度も言うことになるけど、絶対に無事に帰ってきてくれ・・・!」
「兄さん・・・うん・・もちろんだよ・・・」
呼びかけてきたナツに、ハルが頷いて答えた。ハルは改めてアキと一緒に歩き出していった。
(ハル・・アキちゃん・・・)
サクラはハルとアキだけでなく、リオの心配をしていた。サクラはハルたちがまた対峙するようなことがないようにと祈っていた。
(ムチャかもしれないけど・・仲良くして・・ハル・・アキちゃん・・リオさん・・・)
儚いと感じながら、ハル、アキ、リオが和解していくことを、サクラは心から願っていた。
僕はこれからも敵と戦っていく。
僕たちが安心するために戦っていく。
安心できるまで、僕は絶対に容赦しない。
私は生きていく。
私自身の今の答えを見つけ出すために。
私を陥れようとするものを、私は許さない。