ガルヴォルスFangX 第3話「邂逅」

 

 

 にぎわいを見せながらも、情勢の激しい変動に不安が膨らんでいる街並み。その雑踏の中を走り抜けていく1人の少女がいた。

 牧野(まきの)サクラ。ハルとアキの知り合いで、街を回っている2人を探しに来ていた。

「ハァ・・ハルたちのこと、ニュース以外のことはみんな全然知らないんだから・・」

 サクラが独り言を呟いて肩を落とす。

「あたしの感覚を頼りにここまで来たけど・・ここにハルたちがいればいいんだけど・・・」

 ハルとアキがいることを信じて、サクラは街の中を走り出していった。

 

 街中で暗躍するガルヴォルスと、世界を自分勝手に操作する権力者の動きを予感したハルは、アキと一緒に街を移動していた。2人はビルの1つの屋上から街を見下ろしていた。

「この中にガルヴォルスが、怪物が潜んでいることを、みんな気づいていないんだね・・」

「本当に気づいてない人がほとんどだけど、中には気づこうとしない人もいるんじゃないかな・・自分にとってイヤだと思って、遠ざかろうとして・・・」

 アキが投げかけた言葉に対して、ハルが自分の思ったことを口にする。

「ハルみたいに、だね・・他の人の中にハルみたいな人がいたら、私たち、仲良くなれるのかな・・・?」

「その相手次第だよ・・その人が僕たちを追い込もうとするなら、僕は・・・」

 アキの問いかけに答えて、ハルが手を握りしめる。彼は自分を追い込もうとするものと徹底的に戦おうとしていた。

「ところで、この前のガルヴォルスのことなんだけど・・」

 アキが以前にハルと会ったガルヴォルス、リオについて話を振る。

「力はあるけど・・僕たちに牙を向けてきているなら、倒すだけだ・・・!」

「そうすることで、私たちは安心できる・・・」

「身勝手のせいで僕たちだけがイヤな思いをして、身勝手をしている連中が何も責められていない・・そんなこと、僕は絶対に認めない・・」

 ハルの頑なな意思にアキが頷いていく。自分たちの安心だけが、今のハルの望んでいることだった。

「だったらあとはこれだけ・・ムチャはしないで・・体を壊したりしたら、私は辛くなるから・・・」

「アキ・・分かってるよ・・分かってるから・・・」

 アキの励ましの言葉を受けて、ハルが戸惑いを覚える。彼が純粋に気持ちを受け止めて、彼なりの謝意を見せていることを、アキは分かっていた。

「そろそろ行こう・・ガルヴォルスや悪い人が、どこで何をやっているか分かんないからね・・」

「うん・・・」

 ハルの呼びかけにアキは頷く。自分たちを陥れようとする敵を倒すため、2人は移動をしていった。

 

 暗闇に満ちている地下道。長いその道には冷気と氷も満ちていた。

 その地下道の真ん中に、1人の女子高生が追い込まれてた。

「さ・・寒い・・・」

「寒がることはないわ・・このまま寒さも痛みも、イヤなのも感じなくなるから・・・」

 寒さで震えている女子の前に、白く長い髪の女性が現れた。

「イヤ・・誰なの!?

「別にいいじゃない・・これから何も感じなくなるのだから・・・」

 悲鳴を上げる女子に、女性はさらに妖しい笑みを向けていく。女性から放たれる冷気によって、女子の足が凍り付いてきた。

「動けない・・やめて・・助けて・・・!」

 女子が恐怖と寒さで震えて助けを請う。その彼女の姿を見て、女性が喜びを感じていく。

「その必要も怖がることもないわ。あなたはきれいな氷の中で、何も感じずに安らぎを感じていくことになるのだから・・・」

「やめ・・て・・・イ・・・ヤ・・・」

 女性が笑い声を上げる前で、女子が氷の中に閉じ込められていく。声を出すことも意識を保つこともできなくなり、彼女は完全に氷付けとなった。

「いいわ・・これであなたもきれいになって、安らぎが訪れた・・こういうのを見ていると、私は嬉しくなる・・」

 氷付けになっている女子を見つめて、女性が妖しく微笑む。

「こうしてもっともっと、たくさんの人に何も感じずに安心を感じていくのが、私の喜びになっていく・・・」

 女子を閉じ込めている氷を撫でるように触れて、女性は満足して頷いていた。

「別の子にも安らぎを与えてあげないと・・待っていて、みんな・・・」

 次の凍らせる相手を求めて、女性は歩き出す。地下道には冷気と氷の中で氷に閉じ込められた女子だけが残された。

 

「ミイラ、バラバラの次は凍死ッスか・・」

 人が氷付けにされる事件の捜査に出て、刑事がぼやく。

「これだけおかしな事件が起こると、何が起きても驚かなくなるな・・」

 そこへ警部がやってきて、氷と冷気の残っている地下道を見据える。

「この近くに冷却機器は置いてないッス。凍り付くほどの寒い夜でもないのに・・」

「人間業じゃないってことだ。今回もオレらの手に余りそうだな・・」

「またッスか?これじゃやりきれないッスよ・・」

「やり切れねぇことの連続なのが、オレら警察の仕事っていうもんだ・・」

「それもまたやりきれないことッス・・」

 互いに肩を落とす警部と刑事。

「とりあえず、オレたちの仕事をやるぞ。無駄骨は嫌いか?」

「ものすっごく大嫌いッスよー!」

 警部が捜査を再開し、刑事も追いかけるように走り出していた。

 

 同じ頃、ハルとアキも氷付けの事件の現場のそばを歩いていた。

「また、ガルヴォルスの仕業だよね・・・?」

「それ以外に考えられない・・もしかしたら、この近くにいるのかもしれない・・普通の人の中に紛れて・・」

 現場の野次馬を見据えて、アキとハルが言葉を交わす。

「ハル・・少し寒くなってきた・・・」

「アキ・・見てもいい気がしないし、行こうか・・・」

 震えだしたアキを連れて、ハルは現場から離れていく。だがそのとき、ハルが行き交う人とぶつかってしまう。

「いけない・・ぶつかってしまった・・・!」

 声を上げるハルが振り返る。するとぶつかった相手がアスファルトの地面にひざをついて、前のめりに倒れかかっていた。

「あの、大丈夫ですか・・?」

 アキがその少女に向けて、心配の声をかける。

「あ、はい・・私は大丈夫です・・」

 少女はアキが差し伸べた手を取って立ち上がった。

「ごめんなさい・・慌ててしまって・・本当にごめんなさい・・」

「ううん・・僕たちも慌ててたから・・・」

 謝る少女にハルが不満になることなく答える。

「本当に・・ごめんな・・さ・・・」

 少女がまた謝ろうとしたとき、突然ふらついてアキに倒れこんできた。

「えっ!?ちょっと、しっかりして!」

 アキが倒れた少女に呼びかける。しかし少女、リオは意識を失っていた。

「えっ!?リオちゃん!?

 そこへレンが通りがかって、リオを見かけて声をかけてきた。

「あの、この人の知り合いですか・・・!?

「あぁ・・店が近くにあるから、そこまでリオちゃんを連れていくことにするよ・・ありがとう、君たち・・!」

 アキの問いかけに答えて、レンはリオを抱えてヘブンに向かっていく。

「私たちは、ついていったほうがいいかな・・・?」

「あんまり関わらないほうがいいんだろうけど・・行かないと後味が悪くなりそうだから・・・」

 アキが聞くと、ハルが思いつめた面持ちを浮かべて答える。2人もリオとレンについていくことにした。

 

 ヘブンの休憩室で寝かされることになったリオ。運ばれてしばらくしてから、彼女は意識を取り戻した。

「あれ?・・・ここは・・・?」

「気が付いたみたいだね・・よかった・・・」

 弱々しく声を上げたリオに、レンが安堵を覚える。

「突然倒れたからビックリしたよ・・ここはヘブンの休憩室だ・・」

「ヘブン・・・」

 レンから事情を聞いて、リオが当惑を覚える。そして彼女は、休憩室の出入り口のそばにいたハルとアキを目にする。

「あなたたちは・・さっきの・・・」

「気になってついてきただけだよ・・本当だったら別のところに移動したかったけど・・」

 リオが声をかけると、ハル言葉を返す。

「2人とも助かったよ、ありがとうね・・何かお礼をしないと・・」

「そんな、いいですよ・・困った人は助けてあげないと・・」

 感謝するレンにアキが弁解を入れる。

「ならせめてカレーだけでも食べていって。おなかがすいているのはよくないから・・」

 レンがカレーを勧めたときだった。おなかの鳴る音がしてきた。ハルとアキのものと分かり、レンが笑みをこぼす。

「遠慮しなくていいよ。すぐに用意するから・・」

「はい・・ありがとうございます・・・」

 厨房に向かっていったレンに、アキがお礼を言う。彼女とハルがリオに視線を向ける。

「いい人みたいだね・・心があったまるよ・・」

「はい・・レンさんは本当に優しくて、いつも私を助けてくれます・・もちろんみんなにも・・」

 ハルが声をかけると、リオがレンへの感謝を口にする。2人とも気持ちを落ち着けて微笑みかけていた。

「自分勝手な連中がいい気になっているこの世界の中に、アキやあの人のような心優しい人がいるんだ・・みんなが見習わないといけないのに・・」

「あなた・・あなたも、勝手を嫌って・・・」

 自分の考えを正直に口にしていくハルに、リオが戸惑いを感じていく。

「イヤなものはイヤだって思って、聞き入れようとしない・・私以外にもいたんですね・・・」

「あなたも、ハルみたいに・・・」

 リオの言葉を聞いて、アキも戸惑いを感じていく。

「ハルはイヤなものに逆らい続けているんです・・そうしないと自分が壊れてしまうと思って・・・」

「あなたも・・・何があったんですか・・・?」

 アキの話を聞いて、リオが問いかける。ところがアキもハルも答えようとしない。

「あの・・いけないことを聞いてしまったでしょうか・・・?」

「うん・・僕たちのことに巻き込みたくないから・・別に君が悪いんじゃないから・・・」

 不安を見せるリオに、ハルが言葉を返す。ハルはリオにガルヴォルスのことや自分たちの戦いのことを打ち明けたくはなかった。リオもガルヴォルスであると知らずに。

「僕たちは本当の安心がほしいだけなんだ・・勝手な連中に振り回されることのない、本当の安心を・・」

「本当の安心・・・」

 自分の意思を口にするハルに、リオは戸惑いを感じていく。自分もハルと同じ志を持っているのだと、彼女は再認識していた。

「カレーの用意ができたよ。あたたかいうちにどうぞ。」

 そこへレンがやってきて、ハルとアキに声をかけてきた。

「はい。ありがとうございます・・」

 アキがレンにお礼を言って、ハルと一緒にカレーが用意されているテーブルに向かった。

「リオちゃんは今日は休んでいて。また倒れちゃうと大変だから。」

「大丈夫です、店長・・今日も頑張りますから・・」

 レンに呼び止められるが、リオは立ち上がって仕事をしようとする。が、ふらついて椅子に腰かける。

「今日は人数いるし、リオちゃんがまた倒れられたら大変だし・・」

「店長・・・分かりました・・・」

 レンに言われて、リオはやむを得ず休みを取ることにした。

「リオちゃんの分のカレーも作るよ。食べることで元気が出るものだから。」

「店長・・本当にありがとうございます。私のために・・」

 さらに親切にしてくるレンに、リオが頭を下げた。

(レンさんは本当に優しい・・こんなに優しい人は、今では少なくなってしまっている・・中にはガルヴォルスになって、力を振りかざしている人もいる・・)

 レンの優しさを喜びながら、リオは今の世界の不条理を呪っていく。

(世界にガルヴォルスなんていらない・・全員、この手で・・・!)

 ガルヴォルスを滅ぼすことを、リオは改めて誓っていた。

 

 ヘブンのカレーを食べて、おなかも心も満たしたハルとアキ。2人は食休みをしてから、外に出ていくことにした。

「ありがとうございます。わざわざまかないまでごちそうさせていただいて・・」

「リオちゃんを助けてくれた人に、何もしないのはどうかと思ったからね・・」

 お礼を言うアキにレンが笑みを見せる。

「よかったらまた来て。そのときには腕によりをかけるから。」

「ありがとう・・でも多分僕たちは来ないと思う・・僕たち、街から街に移動していっているから・・」

 親切にするレンに、ハルが申し訳ない心境を見せる。心優しい人を無理に自分たちのことに巻き込みたくないというのが、ハルの本音だった。

「そうか・・ならもしまたここに来たら、そのときは思い出してね・・」

「はい・・もしそのときが来たら、よろしく・・・」

 レンとハルが声を掛け合って、握手をした。ハルとアキはレンと別れて、ヘブンを後にした。

「レンさん、本当にいい人だったね・・カレーもおいしかったし・・リオさんも優しい人だった・・」

「うん・・あんな人たちが世界の中心にいたらって思うよ・・本当にそうだったら・・・」

 アキが声をかけると、ハルは小さく頷く。今の世界の現状を思って、彼はリオ、レンとの出会いを素直に喜べなかった。

「あの人たちが苦しんでばかりの世界なんて、僕はいたくない・・僕が身勝手な連中を・・・!」

「ハル・・・」

 意思を口にして手を握りしめるハルに、アキは戸惑いを感じていた。彼が世界の不条理に対する憤りとともに、心優しい人を受け入れる優しさも持ち合わせていることを、アキは改めて理解していた。

 複雑な心境のまま、ハルとアキは街を離れようとした。だがハルが突然足を止めた。

「どうしたの、ハル・・?」

「近くにいる・・さっきの冷たい空気と一緒に、人と違う気配が・・・」

 アキの問いかけにハルが緊張を込めて答える。アキも緊張を感じて周りに注意を向ける。

 ハルとアキは人込みから外れて、裏路地に入っていく。2人が感じていく冷気が徐々に強まっていく。

「やっぱりこの近くにいる・・」

「ガルヴォルスなの・・・?」

 呟くハルにアキが訊ねる。ハルは感覚を研ぎ澄ませて、冷気を出している相手の居場所を探る。

「わざわざ私のところに来るなんて・・そんなに楽になりたいのね・・・」

 その2人の前に白い髪の女性が現れた。

「お前が、この冷たいのを出していたの・・・!?

「そう・・みんなを何も感じさせずに楽にさせるためのね・・・」

 問い詰めてくるハルに、女性が妖しく微笑んでくる。寒気と恐怖を感じて、アキが体を震わせる。

「アキ、少し離れていて・・僕が相手をする・・・」

「ハル・・・気を付けて・・・」

 ハルに声をかけられて、アキが離れていく。

「悪いけど、僕たちは誰かから楽にされるつもりはない・・その誰かにいいようにされることになるから・・・」

「そのことを気にしなくていいよ・・何も感じなくなれば、楽になれるのだから・・・」

 ハルの呼びかけを聞き入れず、女性が冷気をさらに放つ。

「言っても分からないヤツの1人なのか・・お前も・・・!」

 憤りを覚えたハルの頬に紋様が走る。彼は冷気を出す女性に戦いを挑もうとした。

 そのとき、1つの影が女性の頭の上を飛び越えてきた。影はそのままハルの眼前に着地してきた。

「久しぶりだね、ハル、アキちゃん・・」

 現れた人物にハルは当惑を、アキは戸惑いを感じた。2人の前に現れたのはサクラだった。

 

 

次回

第4話「再会」

 

「やっと会えたよ〜・・よかった〜・・」

「やっぱり心配してるんだね、兄さんたちは・・・」

「あなたたちを・・楽にしてあげる・・・」

「ハルとアキちゃんが求める幸せ・・」

「アンタなんかに邪魔させない!」

 

 

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