ガルヴォルスFang 第25話「信念の牙」
警察の上層部の施設に現れたのはハルとアキだった。ハルはファングガルヴォルスとなって、上層部の男たちの前に立っていた。
「お前・・伊沢ハル・・・!」
鋭い視線を向けてきているハルに、男たちが身構える。
「お前たちも、オレたちを追い込もうとしているのか・・・!?」
「わざわざ出てくるとは・・ここでひと思いに処罰してくれる。」
問い詰めるハルに対して、男たちが警官たちとともに銃を構えて発砲する。しかしハルの強靭な体に弾かれる。
「くっ!・・やはり効かないか・・・!」
「どうして分かろうともしないんだ・・オレたちは安心して暮らしていたいだけなんだよ!」
驚愕する男たちにハルが怒号を放つ。同時にアキがハルから離れて物陰に隠れた。
そしてハルが男たちに飛びかかり、爪を振りかざす。体を切りつけられて、男たちが血をまき散らして倒れていった。
「バ・・バケモノ・・・イヤだ!死にたくない!」
他の男や警官たちが恐怖をあらわにして逃げ出していく。ハルは彼らを追おうとはしなかった。
「そうだ・・何もしないで放っておいてくれればいい・・そうすれば、オレも何もしないんだ・・・」
ハルが悲痛さを呟きかけて、人間の姿に戻る。
「僕たちに襲い掛かるだけじゃなく、安全なところで僕たちを陥れるヤツらも許さない・・見つけ出して、思い上がりを叩き潰す・・・」
自分たちを追い込む敵を徹底的に叩いていく。今のハルに迷いはなかった。
そんなハルのそばにアキが歩み寄ってきた。
「ハル・・大丈夫・・・?」
「アキ・・僕は大丈夫だよ・・体も気分も・・・」
心配の声をかけてきたアキに、ハルが微笑んで答えてきた。
「ここにはもう僕たちの敵はいない・・また戻ってくるかもしれないけど・・・」
「そのときにまた戦うんでしょう?・・本当なら理解するところだけど・・・」
「分かんなかったら・・そのときこそ、今回のように・・・」
ハルはアキに答えて、不条理に憤って手を握りしめる。
「僕はこれからも敵であるものと戦っていく・・僕たちが心から安心できるようになるまで・・・」
ハルは決意を口にして、アキの手を取った。彼に手を握られて、アキは戸惑いを感じていく。
2人は施設を後にして、安心できる場所を求めて、また歩き出していった。
警察の上層部の施設が受けた襲撃。この知らせはすぐに政治家や議員、権力のある者の多くに伝わることとなった。
「ガルヴォルス・・このようなものが存在するとは・・・!」
政治家たちが秘密裡にガルヴォルスについて議論を交わしていく。
「存在だけでも国民に不安を与えることになる。早急に、なおかつ秘密裡にガルヴォルスを処分しなければ。」
「対ガルヴォルスの特殊部隊を結成しよう。ガルヴォルスの存在が国民に知れることないよう、すぐに処理させよう。」
「ではその方針で対応を・・」
政治家たちがガルヴォルスへの対処を決定した。
「た、大変です!」
そこへ1人の警備員が政治家たちが会議をしている議場に飛び込んできた。
「今は重要な会議の真っ最中だぞ!いきなり入るヤツがいるか!」
「申し訳ありません!ですが大変なんです!・・怪物が・・!」
怒鳴る政治家に警備員が慌ただしく報告をする。
「な、何だと!?」
政治家たちも慌ただしくなって、警戒を強める。その議場の別のドアが爆発を起こして吹き飛ばされた。
ファングガルヴォルスとなったハルが、政治家たちのいる議場に足を踏み入れてきた。
「ガルヴォルス・・対応策をまとめようとしていたところで・・・!」
ガルヴォルスであるハルの登場に、政治家たちが歯がゆさを見せる。
「お前たちも、オレたちを追い込もうとしているのか・・・!?」
「ふざけるな!お前たちのようなバケモノを野放しにするだけで、この国が不安で満たされていくのだ!」
問いかけてくるハルに、政治家たちが怒号を放つ。彼らの態度と言動が、ハルの感情を逆撫でする。
「いつまでもみんなを不安にさせておきながら、それでも自分たちが正しいと言い張る・・ふざけているのはお前たちのほうだ!」
憤りをあらわにして、ハルが政治家たちに近づいていく。
「今のこの世界にはどうしても納得できない・・自分たちのことしか考えないお前たちがいるからだ・・・!」
「それは貴様だろうが!無法者の怪物の分際で!」
「我々に危害を加えることは、この国を、世界全てを敵に回すことと同じ!それでも構わないというのか!?」
鋭く言いかけるハルに、政治家たちが怒鳴りかかる。彼らに問い詰められても、ハルの頑なな意思は変わらない。
「オレが世界を敵に回すんじゃない・・世界がオレを敵に回しているんだ・・・!」
「貴様・・・!」
「オレたちを追い込もうとするお前たちは、この世界にいるべきじゃない・・・!」
苛立ちを見せる政治家たちに対して、ハルが体から刃を引き抜いて手にする。
「本当の世界の敵は、お前たちのようなヤツらだ!」
言い放ったハルが飛びかかり、刃を振りかざす。自分たちの平穏のため、彼は人の命を奪うことにためらいはなかった。
議場から少し離れた場所にアキはいた。彼女が待っていると、人の姿に戻ったハルが戻ってきた。
「ハル・・・」
アキがハルに駆け寄って寄り添う。ハルがアキを優しく抱き留める。
「ここも終わったよ・・これでしばらく、僕たちを狙ってくることはないと思う・・・」
「でも、他の人たちが・・・」
「だとしても、僕がその人たちを返り討ちにする・・僕たちはただ、安心して過ごしていたいだけなんだ・・それを邪魔してくるってことは、自分たちの安心を壊されることを覚悟しないと・・」
戸惑いを見せるアキに、ハルが自分の考えを口にしていく。
「できることなら人殺しはしたくない・・でも、そうでもしないと、もうアイツらは分からない・・分かろうともしないから・・・」
「本当・・辛くなるばかりだね・・私たちもみんなも・・・」
「違う・・僕たちを追い込もうとしている人たちは、全く辛くなっていない・・辛い気持ちが分かるなら、最初から僕たちに何もしてこないはず・・」
ハルがアキにさらに自分の気持ちを打ち明けていく。彼は疑心暗鬼に駆り立てられていて、心から信じられるものしか信じられないでいた。
そのとき、ハルが周りに注意を傾けた。
「ハル・・・?」
「今度は、ガルヴォルスが僕たちを狙っているみたい・・とりあえずここから離れよう・・・」
当惑を見せるアキに言いかけて、ハルは彼女を連れてこの場を離れた。2人に狙いを向けているのは、ガルヴォルスも同じだった。
次々に国の重要な場所や人物がハルに襲撃されていた。それはついにマスコミに知られて、ニュースで報じられることになってしまった。
ただし今回は未成年に対しての考慮はなされていた。指名手配をする側も、自分たちの威信を揺さぶられたくないと思っていたのだろう。
そのニュースを聞いて、ナツとマキは困惑を募らせるばかりになっていた。
「やっぱりハルくんとアキちゃんなんだね・・」
「だろうね・・でも今回は公にはされていない・・向こうも支持とか名誉とか気にしてるってことか・・」
マキが言いかけると、ナツが困惑を浮かべて答える。
「そんなことをしても、今のハルは止まらない・・それどころか、アイツの怒りを買うことになるんだぞ・・・」
「みんなそれが分かんない・・分かろうともしないから・・ハルくんは・・・」
「・・・これで、この国が変わることになるかもしれない・・いいのか悪いのか、オレには分かんないけど・・・」
ナツがマキに物悲しい笑みを浮かべる。彼はハルの行為がいいことなのか悪いことなのか、全く分からなくなっていた。
「ところで、サクラちゃん、最近見かけてないよ・・学校にも来てない・・」
「サクラちゃんが・・・そういえば、全然連絡が来てない・・・」
マキが投げかけた言葉に、ナツも戸惑いを見せる。
「もしかして、ハルとアキちゃんを探しに行ったんじゃ・・!?」
「こっちからサクラちゃんに連絡取ってみたら?何か分かるかも・・」
不安を覚えるナツに、マキが呼びかけてくる。彼女に促されて、ナツは携帯電話を取り出してサクラへの連絡を取った。
「もしもし、サクラちゃん・・今、どこにいるの?・・学校にも来てないって・・」
“ナツさん・・・やっぱりあたし、ハルとアキちゃんを探すことにしたよ・・”
言いかけるナツの耳に、サクラの苦笑いが入ってきた。
ナツからの連絡を受けたサクラ。彼女は街外れの通りを歩いていた。
「ハルとアキちゃんのこと、どうしても心配になってきちゃって・・信じるって決めたはずなのに・・何でか割り切れなくて・・・」
“サクラちゃんも思ってたんだね・・僕もそう思ってないと言ったら、ウソになっちゃうかな・・”
サクラが自分の気持ちを打ち明けると、ナツも苦笑いを返してきた。
“オレは普通の人間で、何とかする力も持ってない・・でもサクラちゃんには、それだけの力を持ってる・・気持ちのほうだって、オレより強いし・・”
「そういわれても、全然褒められたもんじゃないよ・・力があっても気持ちがあっても、どうにもならないことだってあるんだよ・・今もハルとアキちゃんを助けることも支えてあげることもできてないし・・」
自分の無力を口にするナツに、サクラが物悲しい笑みを浮かべる。
「それでも、ハルとアキちゃんに何かしてあげたいって気持ちが強くなっちゃって・・・」
“サクラちゃん・・ハルとアキちゃんを探しに行くんじゃ・・・”
「うん・・どこかで会うかもしれない・・・会ったらナツさんたちに知らせるつもりでいるよ・・」
“ありがとう、サクラちゃん・・2人に会ったら、支えてあげて・・・”
「もちろんそのつもりだよ・・そうしたいって・・そうしてあげたいって気持ちが強くなってる・・・」
ナツから感謝の言葉をかけられて、サクラが微笑んで頷いた。
「それじゃ、ナツさん・・あたしも行くね・・・」
サクラがナツとの連絡を終えて、携帯電話をポケットにしまった。
(あたしもけっこうわがままだね・・だからハルに嫌われちゃったんだけど・・・)
サクラが心の中で苦笑する。
(それなのにハルに構おうとしてる・・ホントわがまま・・・)
自分の勝手を痛感して、サクラが肩を落とす。しかし彼女はすぐに気持ちを切り替える。
「でも、それがあたしなんだよね・・イヤなことにとことん反発していくのがハルであるように、そんなハルを心の底から支えてあげたいって思っているのがアキちゃんであるように・・」
サクラが自分の頬を両手で叩いて、気を引き締めた。
「それじゃ、気ままな長旅を楽しむことにしようか♪」
普段の明るく元気な自分を取り戻して、サクラは走り出した。ハルとアキを追い求めて、彼女も動き出した。
ハルとアキを狙って、ガルヴォルスも立ちはだかってきた。
「てめぇか、好き勝手やってるガルヴォルスは・・!?」
「偉そうな人間片付けてくれてるのは感謝するが、あんま調子に乗られると気分が悪くなんだよ・・!」
「ちょっと身の程を思い知らせてやるよ・・!」
ガルヴォルスがハルに向けて苛立ちを見せる。するとハルも不満を募らせていく。
「僕たちの邪魔をしないでよ・・僕たちは安心して暮らしていたいだけなんだ・・・」
「何ワケのわかんねぇことを・・!」
不満を口にするハルだが、ガルヴォルスたちはさらに苛立ちを膨らませていく。
「叩きのめしてやる!その生意気な口を黙らせてやる!」
ガルヴォルスたちが一斉にハルに襲い掛かってきた。アキが恐る恐るハルから離れる。
「人もガルヴォルスも関係ない・・自分たちの思い通りにしないと気が済まない勝手なのばかりだ!」
怒号を放つハルがファングガルヴォルスに変化する。彼がガルヴォルスたちに向けて爪を振りかざす。
ハルの爪に切りつけられて、ガルヴォルスたちが血をまき散らしながら昏倒していく。
「速くて強い・・とても手に負えない・・・!」
「こんなの勝てるわけねぇよ!」
ハルの力を目の当たりにして、他のガルヴォルスが逃げ出していく。
「怖がって逃げだすぐらいなら、最初からオレたちの邪魔をしなければよかったのに・・みんな、それが分からない・・分かろうとしない・・・」
不満を口にするハルが、人の姿に戻る。
「だからオレは戦う・・こうでもしないと誰も分かろうとしないから・・」
「そして私はハルのそばにいる・・ハルから離れたくないから・・・」
アキが歯がゆさを感じているハルに歩み寄る。
「行こう、アキ・・僕たちはまだ行くところがある・・・」
「ハル・・・うん・・・」
ハルとアキが歩き出していく。2人はただひたすらに、自分たちが落ち着ける場所を求め続けた。
ハルとアキが家を出てから1ヶ月がたとうとしていた。権力者やガルヴォルスたちとの戦いを続けていた2人は、街外れの草原で束の間の休息を取っていた。
「これでみんな、少しはおとなしくしてくれるかな・・・」
「分からない・・おとなしくしているかもしれないし、私たちの知らないところで何かしているのかもしれない・・」
「これは、こっちから何とかすることができないんだね・・・」
「だったら、仕掛けてくるまで休ませてもらうことにしよう・・動き回って、戦い続けて、疲れてきている・・・」
ハルの提案にアキが頷く。2人が広がる草の上に横たわる。
「久しぶりな気がする・・アキとこうして一緒にいるのを・・」
「今日までいろいろあったからね・・ハルとこうしたいと思っていた・・・」
ハルとアキが微笑んで、優しく抱きしめ合う。2人は互いのぬくもりを確かめ合って、安らぎを感じていく。
「気分がよくなっていく・・僕がどれだけアキとこうしたかったか、分かった気がする・・」
「私も・・思っていた以上に、ハルとこうすることを望んでいた・・・」
互いを見つめ合って、ハルとアキが口づけを交わす。2人は抱擁を深めることで、だんだんと心地よさを感じていった。
そしてハルとアキは衣服を脱いで、直接肌と肌を触れ合わせた。2人は抱擁で互いのぬくもりを感じ合って、快楽に身を委ねていった。
「こうして、心の底から安心できるのは、まだまだ先かもしれない・・それでも安心できるようにするのを諦めない・・諦めたくない・・・」
ハルが自分の正直な気持ちをアキに告げていく。
「こうしてアキを抱きしめていると、気分が落ち着く・・アキが安心していられるのが、僕が安心できる場所なんだ・・・」
「ハル・・・」
ハルが告げた想いにアキが戸惑いを募らせていく。
「アキを抱いていたい・・僕はいつまでも、アキと一緒にいたい・・・」
「ハル・・・私も・・ハルといつまでも一緒にいたい・・またこうして、抱きしめていたい・・・」
互いの想いを確かめ合うハルとアキ。ハルの手がアキの胸に触れて、2人は快楽を募らせていった。
自分たちだけの安息と快楽の夜を、ハルとアキは過ごしていった。
1人の青年の感情が世界を変えた。
それでも2人の心に、本当の安らぎは訪れていない。
安らぎを追い求める2人の戦いは、まだ終わらない・・・