ガルヴォルスExbreak

第2話「退魔の集団」

 

 

 次の日の朝、大学を訪れたツバサとララだが、マサキが来ていないことに気付いて当惑を感じていた。

「マサキくん、来てないみたいだね・・」

「もしかして、犯罪者に狙われたのはあたしたちじゃなくて、マサキくんだったんじゃ・・・!?

 マサキを心配するツバサと、不安を浮かべるララ。

「ジンボーに行ったときに聞いてみよう。何か分かるかもしれない。」

「うんっ!」

 ツバサの言葉にララが頷いた。2人はマサキが来るのを待ちながら、大学での講義を受けた。

 

 異形の姿となって怪物を撃退したマサキ。しかし彼は意識を失い、この場で倒れた。

 次に目を覚ましたとき、マサキは見知らぬ部屋のベッドの上だった。そこはドアだけがあるだけで、他は壁と天井だけだった。

「何だ、ここは?・・オレは、どうしたんだ・・!?

 マサキが部屋を見渡して、動揺を膨らませる。

(オレはバケモノに襲われて、殺されそうになって感情が高ぶって・・・)

 彼が記憶を呼び起こして、自分に起きたことを確かめる。

(それからのことが分からない・・オレはどうしちまったんだ・・・!?

 思い出せないことがあり、マサキは苦悩を感じていた。

(それに、ここはどこだ!?・・病院とかそういうのじゃないみたいだ・・・!)

 マサキは部屋を見渡して、さらに疑問を感じていく。彼は部屋にあるドアに近づいていく。

「あ、開かない・・カギがかかっているのか・・・!?

 ドアを開けようとしたマサキだが、ドアはビクともしない。

「開けろ!誰かいないのか!?返事してくれ!」

 マサキがドアを強く叩いて呼びかける。しかし誰からの返事も何の反応もない。

「ちっくしょう・・こうなったら、このドアをぶち破るぞ!」

 マサキが少し後ろに下がってから、ドアにタックルを仕掛けた。しかしドアは全く開かない。

「イテテテ・・これじゃ出られないじゃないか・・・!」

 ドアにぶつけた右肩に痛みを感じて、マサキが不満を募らせる。

「オレ、このままここにいなくちゃならないのか・・・!?

“目が覚めたようだな。”

 マサキが肩を落としたところで、部屋に声が響いてきた。

「誰だ、アンタは!?アンタがオレをこんなところに閉じ込めたのか!?

“そうだ。倒れていたお前を我々が連れてきて、応急措置を施した。体は万全の状態のはずだ。”

 マサキが問いかけると、声の主である男が答える。

「何のためにオレを!?オレの前に姿を見せろ!」

 マサキが怒鳴り声を上げて、そばの壁に握った左手を叩きつける。すると天井からモニターが降りてきた、男の姿が映し出された。

“オレの名は神藤(しんどう)バサラ。“ヴォルスレイ”の総指揮を務めている。”

「ヴォルスレイ!?・・何を言ってるんだ、アンタは!?

 男、バサラが名乗るが、マサキは疑問を膨らませるばかりだった。

“ここ最近多発している奇怪な障害や殺害事件。その中には人間離れした怪物の仕業のものが含まれている。”

 バサラがマサキに向けて話を続ける。

“お前が昨晩遭遇した殺人犯も、その怪物の1人。”

「何をわけの分かんないことを・・!」

 バサラの話の意味が分からず、マサキがいら立ちを膨らませていく。

“そして犯人から逃走する中、お前も怪物へと変貌したのだ。”

「はっ・・!?

 バサラが口にしたこの言葉に、マサキが耳を疑う。

「オレが怪物になった!?何を寝言言ってんだよ!?オレはれっきとした人間だ!」

“これを見てもそうだと言い切れるか?昨日、お前が怪物と遭遇したときの映像だ。”

 反論するマサキに言い返し、バサラがモニターに映像を流した。昨晩、マサキが怪物と遭遇したときの映像である。

 映像の中のマサキが異形の姿に変わる。変貌を遂げた自分に、マサキが目を疑う。

「ウソだ!?・・何の作り物だよ、こりゃ・・・!?

“ウソでも偽造でもない。その場で変貌を遂げたのは、正真正銘お前だ。”

 顔を横に振るマサキに、バサラが表情を変えずに告げる。

“お前は変身をして、怪物を返り討ちにした。その直後にお前は気を失い倒れた。初めての変身で、体が慣れていなかったのだろう。”

「でたらめを言うな!オレは人間だ!バケモノだなんて信じられるか!」

“あくまで人間だと言い張るならそれでもいい。だが遅かれ早かれ、お前は己の変化を思い知ることになる。”

「バカな!?・・そんなバカな・・・!?

 バサラの言葉に反論できなくなり、マサキが愕然となる。

“だがふさぎ込んでいる場合ではない。怪物の中には、その常人離れした力に溺れて自分を見失う者もいる。”

 バサラは口調を変えずに、マサキに語りかけていく。

「オレに・・オレに何をさせようというんだ!?

“お前に、怪物退治をしてもらおうと考えている。”

 さらに問い詰めるマサキに、バサラが要求をしてきた。

“怪物に対抗するには、同じ怪物が戦うのが効率がいい。人の心を失っていないならばなおさらな。”

「ふざけるな!オレにあんな戦いをさせて、アンタたちは高みの見物かよ!?

“残念ながらそういうことになるな。もしも私に力があるならば、自力で何とかしているところだ・・”

「そんな勝手なことで納得できるわけがないだろうが・・!」

 皮肉を言うバサラに、マサキがさらに怒鳴りかかる。

“だが同じ怪物で、人の心を失っていないお前なら、その暗躍を止めることができる。お前に秘められた力、安息のために使ってもらうぞ。”

「だけど、オレが怪物だなんて信じられない・・仮に事実だとしても、どうやって力が出るって言うんだよ!?

“それはお前自身の感覚によるだろう。昨晩のように、命の危険に直面すれば出せるだろうし、それを繰り返せば感覚をつかめるはずだ。”

「そんなこと、言われても・・・!」

 バサラから戦えると言われても、マサキは実感が持てなかった。

“襲撃者である怪物の行方は我々が追っている。発見次第、お前をそこへ向かわせることになる。”

 バサラがマサキのやるべきことを告げる。

「怪物たちが人を襲うのを、黙って見ていることはできない・・だけど、それでアンタたちの言いなりになるつもりもない!」

 マサキが自分の考えを言い放つ。彼は完全にバサラに屈しようとはわずかも思っていない。

「バケモノを何とかするのは、オレの意思でやる!アンタたちの思い通りになると思ったら、大間違いだぞ!」

“そうか。操り人形同然の扱いは許せないか。”

 意地でも従おうとしないマサキに向けて、バサラのため息の声が届く。

“ならば我々が君を雇うというのはどうだ?お前は収入を気にしているようだ。”

「まさか、オレをバケモノ退治で雇おうっていうのか・・!?

 バサラが投げかけた提案に、マサキが驚きを覚える。

“詳しい話は追々するが、相応の報酬は約束しよう。己の力を振るい敵を倒す。それで収入が入ればすばらしいことではないのか?”

 バサラからの進言を聞いて、マサキが心を動かされていく。

“我々は依頼という形で、お前に怪物、“ガルヴォルス”の討伐をしてもらう。”

「ガルヴォルス・・それが、あのバケモノの名前か・・・!」

 バサラからガルヴォルスの討伐を依頼されて、マサキが覚悟を決める。

「条件がある・・オレの周りにいる人たちには、アンタたちから関わろうとするな。」

 マサキが真剣な面持ちを浮かべて、バサラに進言をしてきた。

「アンタたちはオレの中にある力を使いたいんだろ?他のヤツは関係ないだろうが!」

“フン。えらく情に厚いようだな・・そこは配慮しよう。お前の身近な人間が危機的状況でない限りは、こちらからは介入しない。”

 感情を込めて言い放つマサキからの条件を、バサラは呑むことにした。

“お前も我々のことは他言無用にしてもらうぞ。”

「もちろんだ・・そんなことしたら、それこそみんなを巻き込むことになるからな・・」

 バサラから口止めを言い渡されて、マサキが頷いた。

「そんなことより、そろそろ外へ出してくれよ・・こんな何もねぇとこにいつまでもいたくねぇぞ・・・!」

 マサキが部屋を見回して、バサラに不満を言う。

“いいだろう。これから秘書を向かわせる。詳しい話も彼がする。”

 バサラがマサキに告げると、彼の隣に1人の青年が姿を現した。

“バサラ様の秘書をしています、剣城(けんじょう)シュラです。今からそちらへ向かいますので、少々お待ちを。”

 青年、シュラが挨拶して、マサキのいる部屋に向かった。マサキがしばらく待っていると、部屋のドアが開いた。

「負担をお掛けして失礼しました。お食事を用意しますので、ご案内します。」

 シュラが一礼して、マサキに説明をする。その瞬間、マサキが部屋から飛び出そうと走り出した。

「おあっ!」

 しかしシュラに足を掛けられて、マサキが転んで倒れた。

「私はガルヴォルス討伐部隊の指揮官も務めています。私だけでしたら、ガルヴォルスの対処をすることに問題はありません。」

 顔を上げるマサキに、シュラが微笑んだまま言いかける。

「しかし人手不足という問題は否めません。私ほどの実力の持ち主がたくさんいるわけではありませんからね・・」

「それで、オレの力も必要だってことか・・・!」

 笑顔を見せて語るシュラに、マサキが納得する。

「あなたは私たちと契約しました。これからはあなたが自分の力を引き出すための助力をします。仕事でいうところの研修でしょうか。」

 シュラがこれからのことを話して、マサキを別の部屋へ案内する。立ち上がったマサキが落ち着きを取り戻して、シュラについていく。

 2人が来た部屋は応接室だった。

「では腰かけてください、マサキさん。」

 シュラが示した椅子に、マサキが肩を落としてから座った。

「ガルヴォルスの捜索は我々がします。発見次第、あなたの持つスマートフォンにメールを送ります。直接電話ですと、学生であるあなたの都合に影響しますからね。」

「オレにわざわざ、そんな気遣いをしてくるとは・・・」

 説明をするシュラに、マサキがため息まじりに言い返す。

「これも、お互い効率よく仕事を進めるためです。ただ闇雲にやっても力任せになっても、解決どころか問題が悪化することになりますからね・・」

「それは、そうだけど・・・」

 シュラの投げかける指摘に、マサキは返す言葉がなくなっていく。

「昨晩のガルヴォルスは、現在も我々が行方を追っています。時期に足取りをつかみ、その正体も居所もつかんでみせます。」

「だけどオレ、どうやったら、アンタたちのいう力を出せるようになるのか、分からないんだぞ・・・」

「それは、体で覚えるのが1番です。」

「体で・・・!?

 シュラの投げかけた言葉に、マサキが緊張を募らせた。

 

 街外れの薄暗い道を、2人の男女が歩いていた。2人は仕事仲間と飲み会をして、帰宅しようとするも、酔っぱらったためにフラフラしていた。

「ハァ〜・・まだ飲み足りないよ〜・・」

「僕の家で二次会といこうよ〜・・パーッと盛り上がっちゃお〜♪」

 女性と男性が泥酔しながら呼びかける。2人が仲良く夜道を歩いていく。

 そのとき、男性が頭上を何かが通り過ぎたと思って、空を見上げた。

「ん?どうしたの?」

「いや・・今、何か上を通り過ぎたような・・・」

 女性が問いかけて、男性が首をかしげながら答える。

「気のせいじゃないの?・・それか鳥か飛行機か・・」

「そうかもしれないね・・酔いすぎて勘違いしたのかも・・」

 女性に言われて、男性が肩を落とした。

 その直後、男女の上をまた1つの影が飛び越えた。

「えっ・・!?

 影の正体に男女が目を疑った。それはトカゲにもサンショウウオにも似ている姿をした怪物だった。

「キャアッ!」

「バ、バケモノ!?

 女性と男性が怪物、ヒルガルヴォルスを前にして悲鳴を上げる。

「人間の血・・たっぷりといただいてやる・・・」

 ヒルガルヴォルスが笑みを浮かべて、男女に詰め寄ってきた。ヒルガルヴォルスが舌を伸ばして、女性の胸に突き立てた。

「イヤアッ!」

 悲鳴を上げる女性の体から、血が引き抜かれていく。

「や、やめろ!」

 男性が女性を助けようと、ヒルガルヴォルスに飛びかかった。しかしヒルガルヴォルスに首をつかまれて締め付けられる。

 息ができなくなった男性が、意識を失ってうなだれる。

「あ・・あぁぁ・・・」

 血を吸われて、女性があえぐ。彼女の体が干からびてミイラになっていった。

「やっぱり女性の血はうまい・・しかしまだおなかがすいているから、そいつの血もいただくか・・」

 ヒルガルヴォルスが満足な笑みをこぼして、男性にも目を向けた。彼の血を奪おうと、ヒルガルヴォルスが舌を伸ばした。

 

 バサラたちから解放されたマサキは、ジンボーに戻るため、夜道を歩いていた。

(マスターたち、絶対に心配してるだろうなぁ・・そろそろ連絡したほうがよさそうだな・・)

 マサキがため息をついてから、スマートフォンを取り出した。

(けど、どういえばうまく言い訳できるだろうか・・バケモノに襲われて、それでそいつを退治する組織と契約したって言っても、信じてもらえないし・・何よりみんなを巻き込むことになっちまう・・・)

 うまく話ができなくて、マサキが肩を落とした。

「キャアッ!」

 そのとき、マサキの耳に女性の悲鳴が入ってきた。

「今の声は・・!?

 マサキが血相を変えて、声のした方へ向かっていく。

(おかしいな・・しっかり聞こえたから、そんなに遠くないはずなのに・・・!)

 前進を続けるマサキが疑問を覚える。聞こえてきた悲鳴の音量と距離が合わないと、彼は思っていた。

 疑問を抱えたまま、廃工場の前までたどり着いたマサキ。そこには別の女性の血を吸っていたヒルガルヴォルスがいた。

「この前のと別の怪物・・血を吸ってるのか・・!?

 マサキがヒルガルヴォルスを見て、緊張を覚える。

「また獲物が出てきたか・・あんまり出てきても、おなかいっぱいになってしまうぞ・・」

 ヒルガルヴォルスがマサキに目を向けて、ため息まじりに呟く。

「見られたのを野放しにするわけにいかないし・・お前で終わりとするか・・」

 ヒルガルヴォルスがマサキに向かって飛びかかる。彼が伸ばしてきた舌を、マサキが慌ててよける。

「やべぇ!どうやったら力が出せるんだ・・!?

 バサラとシュラから言われた力の使い方が分からず、マサキは困惑する。

「逃げるなよ・・他のヤツに気付かれると面倒になるから・・・」

 ヒルガルヴォルスが不満を言って、マサキに迫る。

(出てくれ・・オレに力があるなら、すぐに出てくれ・・・!)

 マサキが自分の胸に手を当てて念じる。ヒルガルヴォルスが再び飛びかかり、マサキの両肩をつかんで押し倒してきた。

「逃がさないぞ・・さっさと血をいただかせてもらうぞ・・・!」

 ヒルガルヴォルスが笑みをこぼしてから、マサキを狙って舌を伸ばしてきた。

「やめろ・・やめろ!」

 恐怖が高まって怒りを膨らませたマサキ。その瞬間、彼の体に変化が起こり、その衝撃でヒルガルヴォルスが吹き飛ばされた。

「な、何だ・・!?

 マサキの変化に驚くヒルガルヴォルス。マサキが漆黒の体へと変貌を遂げた。

「まさか、アイツも・・!?

 驚愕するヒルガルヴォルスの前で、マサキの頭部や腕、足から角や刃が出た。

「こ・・これが・・・ガルヴォルスとなったオレ・・・!」

 マサキが変身した自分の姿を確かめる。

「怒りとかで感情が高ぶって、その上でこうなりたいと念じると、この姿になるってことなのか・・」

 彼が呟いてから、ヒルガルヴォルスに鋭い視線を向けた。

「お、おい・・オレたちは仲間じゃないか・・今のことは謝るから、これからは仲良く・・・」

 ヒルガルヴォルスが苦笑いを浮かべて、マサキに呼びかける。

「だったらもう2度と人を襲うな・・人殺しをするんじゃない・・・!」

「それはできない・・だって血を吸わないと、我慢できなくなっちゃって・・・」

 マサキが忠告するが、ヒルガルヴォルスは聞き入れようとしない。

「だったらここでブッ倒すしかないな・・!」

 マサキが怒りを燃やして、ヒルガルヴォルスに飛びかかる。

「ぐっ!」

 マサキが繰り出した拳を体に叩き込まれて、ヒルガルヴォルスが強く突き飛ばされて、壁に叩きつけられた。

「がはっ!・・な、なんという力・・・!」

 ヒルガルヴォルスが激痛を覚えて吐血する。

「だが、そいつの血を吸えば、一気に強くなれるはずだ・・・!」

 ヒルガルヴォルスが笑みを取り戻して、素早く動いてマサキに迫った。

(もらった・・!)

 背後に回り込んだヒルガルヴォルスが、マサキ目がけて舌を伸ばした。しかしマサキが舌をかわして、さらに拳を繰り出した。

 ヒルガルヴォルスが空中に殴り飛ばされて、激痛を増していく。

(冗談じゃない・・このままじゃ死んでしまうぞ・・!)

 危機感を覚えたヒルガルヴォルスが、着地と同時に走り出した。

「待て!」

 マサキがヒルガルヴォルスを追って走り出した。スピードに大きな差はなかったが、ヒルガルヴォルスは建物の間をうまく通り抜けていくのに対し、マサキはうまく追いかけることができないでいた。

「これじゃ追いつけない・・空を飛ぶことができたら・・・!」

 ヒルガルヴォルスに追いつく方法を求めて、マサキが思考を巡らせる。

 そのとき、マサキの背中から悪魔を思わせる形の翼が生えて広がった。

「これは・・!?

 翼の感覚を感じて、マサキが戸惑いを覚える。自分の手足を動かすのと同じ感覚で、彼は翼をはばたかせて飛翔した。

(思ったように動く・・これもオレの体の一部・・オレの力なのか・・・!?

 自分の潜在能力に驚きながらも、マサキは改めてヒルガルヴォルスを追った。建物に阻まれることが少なくなった彼は、ヒルガルヴォルスとの距離を詰めていく。

 そしてマサキがヒルガルヴォルスの前に回り込んできた。

「もう逃がさないぞ・・観念しないなら、ここで叩きつぶす・・!」

「やめてくれ・・殺さないでくれ・・・!」

 目つきを鋭くするマサキに、ヒルガルヴォルスが助けを求めてきた。

「だったら2度と人殺しをするな・・・!」

「それもイヤだ・・血を吸えなくなるなんてイヤだ・・・!」

 忠告するマサキだが、ヒルガルヴォルスは聞こうとしない。その態度に憤りを募らせて、マサキが飛び込んで拳を繰り出した。

「がはぁっ!」

 マサキの一撃で体を貫かれて、ヒルガルヴォルスが鮮血をまき散らした。

「いつまでもふざけたわがままをほざいてんじゃねぇぞ・・・!」

 マサキが怒号を放ち、ヒルガルヴォルスを貫いていた手を引き抜いた。ヒルガルヴォルスが血をあふれさせながら倒れた。

「助けを求めてきた人を、お前はどうした!?・・勝手なマネを続けたのを棚に上げて、自分だけ助かろうなんて、虫がいいにも程があるぞ・・・!」

 怒りを抑え切れず、体を震わせるマサキ。

「た・・たす・・・たすけ・・・て・・・」

 助けを求め続けるヒルガルヴォルスの体が石のように固まり、砂のように崩壊した。

「これが、ガルヴォルスの最期か・・・」

 息絶えたヒルガルヴォルスを見て、マサキは深刻な面持ちを浮かべた。

「オレも死んだら、こうなっちまうってことなのか・・・」

 ガルヴォルスとなった自分が死んだときのことを考えて、マサキは深刻さを募らせていた。

 

 マサキとヒルガルヴォルスの戦いを、シュラが指揮する部隊が監視していた。

(さすがですね、マサキさん。ガルヴォルスの力を自分で出せるようになりましたし、その潜在能力も高い。)

 マサキの力を分析して、シュラが笑みをこぼした。

「あなた方は彼のデータをまとめておいてください。他の人たちは後始末に向かいます。」

「了解です。」

 シュラからの指示に、黒ずくめの格好をした男の1人が答えた。

(これからもよろしくお願いします、マサキさん・・)

 異形の姿、デーモンガルヴォルスとなったマサキに、シュラは期待を抱いていた。

 

 

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