ガルヴォルスBLOOD 第13話「傷」

 

 

 小夜の命をあえて奪わず、彼女を弄んだ白夜。自分の死を望むようになった彼女には、束縛することが効果的だと思った。

 放心状態のまま動けなくなっている小夜のそばで、白夜は困惑を感じていた。小夜を束縛という形で手にかけたことに、白夜は納得しきれないでいた。

(結局オレは、アイツに何をしようとしていたんだ・・アイツの息の根を止めることが、みんなのためになるはずなのに・・・!)

 小夜への復讐に苦悩する白夜。

(オレがアイツを殺すことが、みんなだけでなくアイツ自身のためにもなっている・・それが我慢できなくて、殺すことができなかった・・・)

 胸を締め付けられるような気分に駆られて、白夜が顔を歪める。

(オレは何をしても納得できない・・オレは何のために、今まで・・・)

 意思を揺るがせていく白夜。彼は自分に言い聞かせて割り切ろうとしていた。

「私を自分の思い通りにしたはずなのに、納得できていないの・・?」

 そのとき、小夜が声を振り絞って白夜に呼びかけてきた。

「回復してきたのか・・人間を超えた力を持ったガルヴォルス・・回復も早いということか・・」

「私は・・あなたたちのようなガルヴォルスではないわ・・ガルヴォルスの細胞を体に植え付けられている・・・」

 白夜が呟くと、小夜が自分のことを打ち明けてきた。

「全てはヤツらが私にしたことよ・・クロスファングが、私の人生をムチャクチャにしたのよ・・・」

「ならばお前の敵はクロスファングのはずだ・・なぜオレの家族まで・・・!?

「私はクロスファングに属する者を裁いただけよ・・クロスファングに属するガルヴォルス、兵士、科学者さえも・・!」

 小夜の言葉を聞いて、白夜は息をのんだ。彼は彼女の口にした言葉に思い当たることがあった。

「科学者・・オレの父さんも母さんも、科学者だった・・向こうからその話をしてきたことはなかったが・・」

「私はクロスファングへの復讐をしていただけ・・私を弄んだヤツらを許せなかった・・・」

「オレの父さんも母さんも、クロスファングに所属していた・・・!?

 小夜の話を聞いて、白夜が動揺を膨らませていく。

(隊長もオレたちのことを知って、接触してきたというのか・・・!?

 リュウへの疑念を募らせていく白夜。だが1人で考えても、この疑念の答えが見つかるはずもなかった。

「クロスファングは根絶やしにしないといけないと思った・・放っておけば、私のような人が増えることになるから・・・」

「だからオレの家族も殺したというのか!?・・自分の復讐を果たすためだけに、オレの家族を・・!」

「あなただって、私への復讐のために、咲夜を殺したじゃない!・・咲夜は、あなたに何も悪いことをしていなかったのに・・・!」

「お前をやれば全て終わるはずだった・・それを邪魔するヤツもオレたちの敵だ・・・!」

 怒りと憎しみに駆り立てられて、互いに鋭い視線を向けあう小夜と白夜。だが小夜は虚しさを感じて、再び横たわった。

「でも私にはもう耐えられない・・1人で生きていくのが辛くなってしまった・・・だから私は殺されることで、あなたの望みを叶えようとしたのに・・・」

「だがそれはお前の望みにもなっていた・・それはオレたちが満足できるものではなくなった・・・だから殺すよりも、束縛させたほうがいいと・・・」

 辛さを口にする小夜に、白夜も考えを口にしていく。

「このまま思った通りにできると思うな・・・生きろ・・生きて罪を償え・・・!」

 白夜が小夜を抱きしめて、振り絞るように言いかける。

「お前が納得できない形にするのが、オレたちの納得できる形になる・・望むように死ねると、絶対に思うな・・・!」

「私は・・もうどうやっても安心することはできないのね・・・」

 忠告を送る白夜に対し、小夜が物悲しい笑みを浮かべる。

「戦うことも死ぬことも許されない・・私はこれからどうしていけばいいの・・・?」

「オレと行動をともにしろ・・オレは今、もう1つの疑念を抱いている・・オレに情報を与えてきたクロスファングだ・・父さんと母さんがクロスファングだったことを知っていて、オレに接触してきたのか・・・」

 不安を見せる小夜のそばで、白夜が次の行動を模索していた。

「お互い相手を利用する可能性は先刻承知だ・・だが、父さんと母さんまで利用しようとしているなら、オレはヤツを問いたださなければならない・・・」

「・・まさか、目的が同じになるとはね・・・」

 白夜が決心を告げると、小夜が体を起こしてきた。

「私は小夜・・紅小夜よ・・・」

「オレは日向白夜・・せめて名前は覚えてもらわないとな・・」

 互いに自分の名を告げる小夜と白夜。2人は自分たちが命の共同体となったことを自覚した。

 

 小夜と白夜の行方を追う丈二とクロスファングの兵士たち。しかし2人を見つけられないまま、夜が明けようとしていた。

「これ以上ここにいると人目につくことになる・・撤退しかないか・・・!」

「これだけ細かく捜索しても発見できず・・海から這い上がれないまま沈んだ可能性が高いです・・」

 焦りを噛みしめる丈二と兵士。

「事後処理を任せる。オレは隊長に報告する。」

「了解。」

 丈二の呼びかけに兵士が答える。丈二は兵士たちから少し離れてから、リュウへの通信をつなげた。

「申し訳ありません、隊長・・ターゲットB、日向白夜、ともに行方を見失いました・・」

“そうか・・別部隊にその地点の監視をさせる。お前たちは1度引き上げて、情報を洗いなおせ。”

「分かりました。本部に戻ります。」

 リュウからの指示に丈二が答える。

「それと、もう日向白夜の処罰は了承していただけますね?」

“・・あぁ。彼はメリットよりもリスクのほうが高まってしまった・・もしも見つけたなら、独自の判断で処罰して構わん。”

 念を押してくる丈二に、リュウが了承した。彼との通信を終えた丈二が、小夜、白夜との対立を脳裏によぎらせていた。

(たとえ隊長からの了承がなくても、ヤツは断罪しなければならないと、オレは判断する・・)

 

 洞窟の中の広場は、朝になって外の光がわずかだが差し込むようになった。その光を頼りにして、小夜と白夜は互いの姿を確認した。

「こういう形で、お互いの姿と考えを確かめることになるとは・・・」

「私もあなたも感情的になっていて、分かり合おうとする気持ちなんてかけらもなかったから・・」

 白夜も小夜も困惑を感じながら言葉を投げかける。

「私はこれからはお前に付き合う・・だが白夜、私の吸血鬼としての刃を収める鞘になってほしい・・・」

「何っ・・?」

 小夜が口にした言葉に、白夜が眉をひそめる。

「ガルヴォルスの細胞を移植されたことで私は常軌を逸した能力を得たけど、力を使うほどに血を消耗するの・・血が足りなくなればなるほど、血を吸いたくなる衝動を抑えられなくなる・・・」

「それを収める鞘になれと・・オレがお前に血を吸われろというのか・・ふざけるな!オレはお前の犠牲にはならない!」

 懇願してくる小夜に、白夜が憤りをあらわにする。

「誰かの血を奪うのも、死ぬのも許さない!・・だから、オレはお前を自力で生き延びさせてやる・・・!」

「白夜・・・私にはもう、選択肢が残されていないのね・・」

 声を振り絞る白夜に対して、小夜は物悲しい笑みを浮かべた。

「とりあえずここから出ましょう・・いつまでもいてもいいことはないし・・」

「それはオレもそう思っていた・・ついてこい・・・」

 呼びかけてきた小夜の腕をつかんで、白夜は洞窟の中を歩き出していった。自分を引っ張ってくれる彼に、小夜は戸惑いを感じていた。

 外の明かりが差し込んできていたため、小夜と白夜は入ってきたよりも簡単に洞窟を進むことができた。

 洞窟の出入り口に差し掛かったとき、小夜と白夜は外の光に突然照らされて、目をくらませて腕を構える。目が慣れたところで、2人は海岸の景色を見回していった。

(ヤツらはうろついていないか・・どこかで隠れて監視してきているかもしれないが・・見つかったところで都合が悪くなることはない・・)

 白夜が思考を巡らせて、海岸を歩いていく。彼も小夜もクロスファングが監視の目を光らせていることを予感しながらも、あえて警戒を取らなかった。

 海岸から上がって、小夜と白夜は街に通じる道路に出てきた。すると小夜が咲夜との日常を思い出して、辛さを覚える。

「咲夜・・・もう、あなたには会えない・・・あなたのところにも行けない・・・」

「・・・普段の生活が気になっているのか・・・?」

 悲しさを口にした小夜に、白夜が問いかけてきた。小夜は目から涙をこぼしながら、小さく頷いた。

「なら少し寄り道するぞ・・戻れないと分かっていても、すがらないと耐えられないものがあるからな・・・」

「・・・私のことを優先させていいの?・・・私が満足するようなことになったら、あなたが納得できないんじゃ・・・」

「オレが納得できないだけだ・・オレとしても、後悔は残したくない・・・」

 戸惑いを見せる小夜の腕をつかんで引っ張る白夜。小夜は嫌がることも抵抗もせず、白夜についていくことにした。

 小夜と白夜は朱島高校の女子寮の前に来た。小夜は女子寮の建物を見つめて、さらに動揺を募らせていく。

「咲夜・・・私、行くから・・・あなたのところに行くのは、ずっと先になるかもしれない・・・」

 小夜は迷いを振り切ろうとして、流れてくる涙を拭った。

「行こう・・クロスファングに連れて行ってくれるのでしょう・・・?」

 小夜が声をかけると、白夜が無言で頷いた。

 

 朱島高校はこの日も授業が行われていた。だが学校に小夜と咲夜の姿はなかった。

「小夜さんと咲夜ちゃん、どうしたんだろう・・?」

「2人とも欠席なんて・・何かあったのかな・・・?」

 クラスメイトたちが小夜と咲夜の心配をする。不安を感じたまま、彼女たちは教室に戻ろうとした。

「授業が終わったら寮に行こう・・一言ぐらいかけて、元気づけてあげるのも・・・」

 クラスメイトの1人が再び声をかけたときだった。もう1人からの返事がない。

「どうしたの?・・何か言って・・・」

 再び声をかけたときだった。クラスメイトの背中に触手が刺さっており、そこから血が吸い出されていた。

 血を吸われた女子が力なく倒れる。事切れた彼女を目の当たりにして、女子だけでなく、周囲にいた生徒たちが恐怖を覚えた。

「キ、キャアッ!」

 女子が悲鳴を上げた瞬間、伸びてきた触手に胸を刺された。触手は窓や天井を突き破って、次々に校舎に入り込んできていた。

 逃げ惑う生徒や教師たち。だが伸びてくる触手は容赦なく彼らを捉えて血を奪っていった。

 

 朱島高校を襲っていたのは知矢だった。多くの血を手に入れられる場所を求めていた彼は、朱島学校の生徒や教師を襲って血を吸い取っていた。

「そうだ・・こうして人のいるところを狙えば、一気に力を高められる・・まずはここにいるヤツらを片っ端から・・・!」

 知矢が笑みを浮かべて、体からさらに触手を伸ばしていく。

「そうだ・・このままにはしておかないぞ・・1人残らずここにいるヤツらの血を吸って、あの2人を痛めつけてやる・・・!」

 小夜と白夜への憎悪をたぎらせていく知矢。

「もっとだ・・もっと・・もっと力をよこせ!」

 知矢がさらに触手を伸ばして、血と力を求めていく。学校で生徒や教師たちの悲鳴が飛び交っていた。

 

 小夜の耳に学校からの悲鳴が入ってきた。その声は白夜にも聞こえていた。

「学校のほうから・・何かあったんじゃ・・・!?

「これはガルヴォルス・・・しかもこれはアイツの・・・!」

 2人は確信した。学校に知矢が現れたことを。小夜はすぐに学校に向かって走り出していった。

 朱島高校にたどり着いた小夜と白夜は、そこで起こっていた出来事に目を疑った。校庭には刺されて倒れている生徒や教師たちがいた。

「しっかりしてください!どうしたんですか!?

 小夜が教師の1人に駆け寄って声をかけるが、教師は既に命を落としていた。

「キャアッ!」

 校舎から悲鳴が上がった。校舎の中では触手が蠢き、生徒と教師たちを襲って血を吸い取っていた。

「やはりアイツだ・・血を吸うあのガルヴォルスだ・・・!」

 白夜が屋上にいる知矢を見つけて、鋭い視線を向ける。

「関係のない人に手を出すな!」

 いきり立った白夜がウルフガルヴォルスに変身する。彼が一気に速度を上げて飛び上がり、知矢に向かっていく。

 白夜の接近に気付いた知矢が、とっさに体をそらして爪をかわす。体への直撃は避けられた知矢だが、血を吸っている最中の触手を切り裂かれた。

「お前たち・・まさかここでお前たちと会うとはな・・・!」

「何をやっている・・人がいる学校で・・・!?

 不敵な笑みを見せてくる知矢に、白夜が鋭く言いかけてくる。

「これだけ派手にやらかしてて、気付かれないほうがどうかしてるか・・」

「何をやっていると聞いている!」

 呟きかける知矢に怒号を放って、白夜が飛びかかって爪を突き出した。体に爪を突き立てられて、知矢が顔を歪める。

「自分のために、他の人を・・・!」

「効かねぇな・・・!」

 白夜が低く告げると、知矢が不敵な笑みを見せてきた。彼が触手を振りかざして、白夜を横に突き飛ばした。

「人のたくさんいる場所を狙ったのは正解だったみてぇだ・・面白いぐらいに力が湧き上がってくる・・・!」

 飛躍した自分の力に知矢が喜びを感じていく。倒された白夜が立ち上がって、知矢を鋭くにらみつけていた。

 

 学校の校舎の中に入った小夜は、知矢に血を吸われて倒れた生徒、教師たちを目の当たりにして愕然となる。込み上げてくる深い悲しみと絶望は、知矢に対する激しい怒りと憎しみに変わった。

「学校のみんなが・・・みんなが・・・!」

 小夜の瞳が血のように紅く染まった。彼女の激情に呼応したかのように、彼女の手元に刀が現れた。

 小夜は血を吸い取っている触手を刀で切り裂いていく。

「しっかりして!気をしっかり持って!」

 小夜が生徒の1人に駆け寄って声をかけるが、出血多量で既に死亡していた。

「こんな・・・こんなことって・・・!」

 さらに込み上げてくる激情に突き動かされる小夜。彼女の意識は、生徒や教師を手にかけた屋上にいる知矢に向いていた。

 小夜はそばの窓から外に飛び出し、壁を駆け上がって屋上に飛び上がった。彼女の視界に知矢の姿が入り込んできた。

「お前がやったのか・・学校のみんなを襲ったのか・・・!?

「お前も姿を見せてきたか・・強くなったオレの力、お前にも味わわせてやるよ・・・!」

 憤りを膨らませる小夜を知矢があざ笑う。怒りのあまり、歯を食いしばる彼女の口から血があふれる。

「殺す・・お前だけは、絶対に殺す!」

 激情をあらわにした小夜が、知矢に向かって飛びかかっていった。

 

 

次回

第14話「怒」

 

「お前だけは、生かしておいてはならない!」

「ようやくお前たちの血を味わうことができるな・・」

「オレをイラつかせたことを後悔するんだな・・・!」

「このどうにもならない気持ちを・・もうどうすることもできない・・・」

 

 

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