FIGHTING IMPACT

第9話

 

 

 ユーダイムの力を覚醒させながらも自我を保っているアルバとソワレ。驚愕を隠せなくなるコカベルに、2人が向かっていく。

 コカベルが全身から衝撃波を放つ。が、アルバとソワレはものともせずに衝撃波を突き抜けてきた。

 アルバの拳とソワレの蹴りが同時にコカベルの体に叩き込まれた。

(ぐっ!・・2人のユーダイムが揃い、威力も連携も格段に上がっている・・・!)

 2人の高まっている強さを痛感して、コカベルが毒づく。

「すごい!アルバさんもソワレさんもすごくなってる!」

 七瀬がアルバとソワレの力を見て感動を見せる。

「しかしやはり、2人とも肉体の消耗が著しい・・カイリと同様、命を燃やしているような・・・!」

 ほくとはアルバたちの状態を悟り、深刻な面持ちを浮かべていた。

「あなたも気付いているのね・・アルバは肉体が限界を迎えて、ソワレも二の舞を演じようとしている・・・」

 ルイーゼがほくとたちに歩み寄り、声をかけてきた。

「ユーダイムの力はあくまでユーダイムのもの。ユーダイムだからこそ使いこなせるものなのよ。アルバとソワレが扱うには負担が大きすぎる・・」

「それじゃ、このままあの状態で戦い続けたら、アルバさんたちは・・!?

 ルイーゼの話を聞いて、七瀬が緊張を募らせる。

「だがヤツらはそれを承知で力を求めた。生き抜くことを考えた上でな・・」

 カイリが言いかけて、アルバたちの戦いを見据える。

「生きて帰るために命を賭ける・・矛盾しているな・・」

「ここで勝たなければ、死ぬか弄ばれるかするしかなくなる。そうなるくらいなら、その矛盾にもすがる・・2人は、そう思っているのでしょう・・」

 皮肉を口にするカイリに、ほくとがアルバたちの心情を告げる。

 生きるために戦う。そのために死と隣り合わせの状況から這い上がろうと躍起になる。

 生きるためにいつの間にか命懸けで戦っていた。自分もそんな戦いを続けていたことを、カイリは思い返していた。

「アルバもソワレも生きるために、己の命を賭けて戦っている・・その上で生き延びて帰ることを心に決めている・・・」

「命を燃やして戦ったカイリ、あなたのように・・・」

 アルバたちを自分と重ねるカイリに、ほくとが言葉を投げかける。

「ただ、2人はお互いのためにも命を賭けている・・もう2度と、家族を失いたくないという思いもある・・」

 ルイーゼがアルバたちの心境を察して言いかける。彼女の言葉にほくとと七瀬が共感する。

(オレはオレ自身が生き延びるためだけに戦ってきたわけではない・・オレにも、オレ以外の守りたいものがあった・・・)

 カイリが今までの自分の戦いを振り返り、自分が求めていた本当の答えを見出せた気がした。

(七瀬、お前が修羅の道の真ん中にいたオレを連れ戻したのだ・・本当の地獄から・・・)

 大切なものと再会できたことを喜び、カイリが七瀬に目を向ける。

(お兄様・・・)

 カイリへの思いを感じて、七瀬が戸惑いを覚える。

「2人がこのまま戦い続けて死の恐怖が及ぶと言うなら、他の者が支えればいいだけのこと・・」

 カイリが言いかけて、両手に青白い焔を灯して前に出る。

「カイリ、まさかあなたも・・・」

 ほくとがカイリに当惑を見せる。彼女もアルバとソワレのために決意を固めていた。

「お兄様・・お姉様・・・」

 七瀬も戸惑いを募らせて、2人に続いて前に出た。

「あたしも戦うよ・・せめて、お兄様とお姉様を支えるぐらいのことはしてみせる・・・!」

「七瀬・・・」

 同じく決意を口にした七瀬に、カイリが声をかける。

「ありがとう、七瀬・・私たちも、無事にともに帰るために・・・」

「うんっ!ほくとお姉様と、カイリお兄様と・・!」

 ほくとの感謝に頷いて、七瀬が彼女とカイリに目を向けた。

「あなたたちも、アルバたちのために・・・!」

 カイリたちの言葉に、ルイーゼが心を動かされる。

(私はアデスとの決着を着けるため、命を賭けてきたつもりでいた・・でもまだ覚悟が足りなかったようね・・・)

 自分の甘さを痛感して、ルイーゼが思わず笑みをこぼした。

「私があなたたちの声を届けるわ。心の中でアルバたちに向けて念じれば、直接伝えることができる・・」

「分かった・・お前の力、当てにさせてもらう・・」

 助言を投げかけたルイーゼにカイリが答える。彼は目を閉じて意識を集中する。

(オレがヤツに向けて気を放つ。隙のできたヤツにとどめを刺せ・・)

 心の中で呼びかけたカイリの声は、コカベルと交戦しているアルバとソワレに届いた。

(カイリ!・・アイツが隙を作るのか・・!)

(このままじゃオレたちはやられるだけだ・・乗っかるしかねぇぜ!)

 アルバとソワレも意思疎通をして、目を合わせて小さく頷いた。

「観念しろ・・貴様たちに勝ち目など最初から存在せん!」

 コカベルが感情をあらわにして、全身から閃光を放つ。アルバとソワレが光に吹き飛ばされて、地面に叩き落とされた。

「アルバ!」

「ソワレさん!」

 倒れたアルバたちにルイーゼと七瀬が叫ぶ。アルバたちが痛みに耐えながら、立ち上がってコカベルに視線を戻す。

「貴様たちとの戦い、有意義に思うぞ、ユーダイム!」

 コカベルが自身の閃光を収束させて、アルバとソワレに向けて一気に解き放とうとした。

「貴様たちも栄光の架け橋となれ、ユーダイム!」

「瘴鬼発動!」

 そのとき、カイリがコカベルに向けて持てる気の全てを解放してきた。彼の両手から放出された気が、コカベルに直撃した。

「ぐっ!」

 カイリに気をぶつけられて、コカベルが動きを押さえられてうめく。

(今よ、アルバ、ソワレ!)

 ルイーゼが呼びかけて、アルバとソワレが全身に力を集中させる。怯んで地上に落下するコカベルに、2人が向かっていく。

「これで決める!」

 アルバとソワレがそれぞれ右と左の拳を、同時にコカベルの体に叩き込んだ。

「ぐふっ!」

 体勢を乱していたコカベルが、苦痛を覚えて顔を歪める。続けてアルバとソワレが同時に足を振りかざした。

 渾身の力を込めたアルバたちの攻撃を受けて、コカベルが耐えきれずに突き飛ばされた。彼は施設の入り口となっている洞窟の中に放り込まれた。

「やった!今のは効いたよ!」

「でもこれで倒れるコカベルじゃないわ・・追いかけて捕まえないと・・・!」

 七瀬が喜びの声を上げるが、ルイーゼは緊張を解かない。

「ぐっ・・!」

 気を放出したカイリがその場に倒れ込む。

「カイリ!」

「お兄様!」

 ほくとと七瀬が駆け寄って、カイリを支える。

「大丈夫、お兄様!?

「オレは大丈夫だ・・ヤツを追うなら、オレに構うな・・・!」

 心配する七瀬に答えて、カイリが呼びかける。ルイーゼが頷いてから、コカベルを追って洞窟の中に飛び込んだ。

「ソワレ、オレは行くぞ・・アイツの最期、この目で見届ける・・・!」

「オレも行くぜ、アニキ・・オレも考えてることは同じだからよ・・!」

 アルバとソワレが頷き合ってから、コカベルを追って洞窟に入っていく。

「オレに構うな・・ヤツを追うのだろう・・・?」

「だからって、お兄様を置いて行けるわけないよ・・!」

 カイリの呼びかけに言い返して、七瀬が彼と一緒に行こうとする。

「私も、あなたのことを最後まで見届けさせてもらいます・・」

 ほくともカイリを支えて、自分の思いを口にする。

「2人とも・・オレのために・・・」

 2人の妹に助けられていることに自分の無力を感じて、カイリは皮肉を込めた笑みを浮かべた。

「私たちも行きましょう、七瀬。」

「はい、お姉様。」

 ほくとと七瀬が声をかけ合い、カイリを連れて洞窟に入っていった。

 

 カイリ、アルバとソワレの攻撃に追い詰められたコカベルは、アデスの施設に戻っていた。コカベルはアルバたちに刃向かわれたことに憤りを募らせていた。

(ユーダイムに反旗を翻されたばかりか、人間などに追い詰められるとは・・・!)

 満身創痍の状態のまま、コカベルが施設内の廊下を進む。施設は壊滅的な被害が出ていて、アデス所属の黒ずくめの男たちも気絶や死亡、あるいは避難を余儀なくされていた。

(ユーダイムを手にかけるのは腑に落ちないが、ここをヤツらの墓場にしてくれる・・・!)

 施設の地下の奥にある動力炉の前までたどり着いたコカベル。彼はここでアルバたちを迎え撃とうとした。

「待ちなさい、コカベル!」

 ルイーゼが追いついて、コカベルに声をかけてきた。

「ラキア・・・!」

 コカベルがルイーゼに振り返り、鋭く睨みつけてくる。

「あなたはもう終わりよ、コカベル・・あなたやアデスがこの星を離れることはできない・・この星の人間として、生涯を全うするしかないのよ・・」

「まだだ・・たとえ私が志半ばで朽ち果てようと、アデスの栄光の架け橋が途絶えることはない・・」

 呼びかけるルイーゼにコカベルが不敵な笑みを浮かべる。

「これまで着々と準備を整えてきた。我々の旅立ちの時まで目前に迫っているのだ。たとえここで私の息の根を止めても、この崇高なる旅立ちを阻むには至らんぞ・・」

「ならば私がその旅立ちを阻む・・そして私の父、マイリンク博士を見つけ出してみせる・・・」

 アデスの躍進に確信を抱くコカベルに、ルイーゼが決意を口にする。

「もう逃がさないぞ・・!」

 アルバがソワレとともにたどり着いて、コカベルに鋭い視線を向ける。

「ユーダイム・・貴様たちも来たか・・・!」

 コカベルがアルバたちを見て、目つきを鋭くする。

「オレをいいように操って、好き勝手にやってくれた礼をさせてもらうぞ・・・!」

 ソワレがコカベルに怒りを向けて、拳を握りしめる。

「これで、最後の舞台に役者が全員そろったというところか・・・」

 追い詰められたことを実感しながらも、コカベルが笑みをこぼした。

「これはここを機能させている動力炉。大破すればここはもちろん、近辺も巻き込まれることになる・・もちろん貴様たちも巻き込まれることになる・・!」

「何っ!?

 コカベルが口にした言葉に、アルバが声を荒げる。

「ラキア、今の貴様にここにいる全員を連れて瞬間移動するだけの力は残ってはいない!」

 コカベルの指摘を受けて、ルイーゼが息をのむ。

(コカベルの言う通り、私も余力が残っていない・・アルバたちみんなを連れて外へ出ることができない・・・!)

 一転して窮地に追い込まれたルイーゼが、打開の糸口を探る。しかし思考を巡らせても、彼女はすぐに施設を脱出する術を見出せない。

「私をここまで追い込んだことはすばらしいと言っておこう・・だが貴様らの運命もまたここで終わりを迎えるのだ・・!」

 自身の最期を悟りながらも、コカベルがアルバたちの破滅を確信し、高らかに笑う。

「だから、オレたちのことを勝手に決めんなって・・!」

 ソワレがコカベルに向けて、気さくさを込めて言い返す。彼がアルバとともに体に力を込める。

「オレたちはこんなところでくたばるつもりはない・・サウスタウンに、オレたちの街に帰る。それだけだ・・」

 アルバも続けて揺るぎない意思を告げる。2人の不変の決意にいら立ちを覚えて、コカベルが両手を握りしめる。

「往生際が悪いぞ、お前・・・!」

 カイリもほくとと七瀬に支えられて、アルバたちに追いついてきた。

「あなたの野心もこれで終わりです。諦めるしかありません・・」

「もうこれ以上、あたしたちに構わないで!」

 ほくとがコカベルに忠告を送り、七瀬が叫ぶ。

「フン。全員のこのことここにやってくるとは・・よほど天に昇りたいようだ・・・!」

 コカベルが不敵な笑みを浮かべて、動力炉に手を当てた。

「破滅への引き金は私が握っている・・貴様たちが逃亡や阻止を行う前に、ここは崩壊に襲われることだろう・・!」

「コカベル、あなた・・そんなことをすれば、あなたも確実に・・・!」

 笑みをこぼすコカベルに、ルイーゼが声を荒げる。

「どのみち貴様たちを前にすれば、こうでもしなければ私に未来などないのだ・・!」

 コカベルが声を振り絞り、動力炉に触れている手に力を込める。

「やらせるか!そんな物騒なマネさせる前にテメーを!」

「待て・・迂闊に手を出せば、ヤツはすぐにでもここを破壊するぞ・・!」

 いきり立つソワレをアルバがなだめる。ほくとと七瀬も現状の打破を必死に考える。

 そのとき、カイリの手元に淡い焔が灯ったことに、ほくとが気付いた。

「カイリ・・あなた、まさか・・・!?

「ヤツを止めるには、瞬時にヤツを倒すしかない・・それができるのは、オレだけだ・・・!」

 緊迫を覚えるほくとに、カイリが意思を口にする。

「ダメだよ、お兄様!気を使い果しているのに、これ以上力を使ったら、お兄様の命が・・!」

 七瀬がカイリを心配して呼び止める。

「オレは死なん・・オレはこんなところで、足を止めるつもりはない・・オレはこれからも、オレの目指す道を進む・・・!」

「お兄様・・・!」

 揺るぎない意思と生への執着を示すカイリに、七瀬は戸惑いを感じていく。彼女はカイリを止めることはできないと実感していた。

「あなたを死なせるわけにはいきません。あなたが死ねば悲しむ人がいるのが分かっているから・・」

 ほくとがカイリに自分の意思を告げる。

「たとえ私たちの全滅につながることになろうと、あなただけを死なせるようなことは、私がさせません・・・!」

「好きにしろ・・オレを止められるものならな・・・」

 ほくとの言葉を受けて、カイリが皮肉を返した。彼の手元の青白い焔が濃くなった。

(お前はすぐに出られるように備えておけ・・オレがヤツを倒す・・・!)

 カイリが念じて、ルイーゼに心の声を投げかけた。

(カイリ・・でもあなたに、それだけの力はもう・・・!)

(オレは死なん・・オレはヤツを倒し、オレの戦いを続ける・・・!)

 心配の声をかけるルイーゼだが、カイリは考えを変えない。

(危険だと判断したら、私が連れ戻します・・七瀬も同じ思いです・・!)

 ほくとも続けてルイーゼに声を伝える。七瀬も真剣な面持ちでルイーゼに頷きかけた。

(では行くぞ・・すぐに動けるよう備えておけ・・・!)

 ほくとたちに呼びかけて、カイリが飛び出した。コカベルに向かう彼が一気に加速した。

「そこまで死に急ごうとするか・・!」

 コカベルが動力炉に向けて力を加えた。

「凶邪連舞!」

 同時にカイリがコカベルにつかみかかり、連続で打撃を叩き込んだ。ダメージが致命的な度合となり、コカベルが昏倒した。

 しかしコカベルの放った力を受けて、動力炉に圧力がかかり、変調をきたした。熱が膨張し、動力炉が赤くなっていく。

(みんな、すぐにここから一気に外に出るわ!)

(お兄様、急いで!こっち!)

 ルイーゼと七瀬が呼びかけて、カイリが彼女たちのほうへ向かう。

「このまま・・私のもたらす破滅から逃れられると思うな・・・!」

 コカベルが最後の力を振り絞り、念力でカイリたちを引き寄せようとした。

「アイツ・・!」

「何とか押し返さねぇと、みんなこっから出られねぇ!」

 アルバとソワレが声を上げて、体に力を入れて気を解き放つ。2人がコカベルの念力に抗う。

「おのれ、ユーダイム・・!」

 コカベルがアルバとソワレへのいら立ちを募らせる。

「いい加減に引っ込みやがれってんだ!」

「2度とオレたちの前に現れるな・・!」

 アルバとソワレが言い放ち、それぞれ拳と足を振りかざす。2人から強力な衝撃波がコカベルに向かっていく。

「ぐあっ!」

 アルバたちの力に注意を乱され、コカベルが気圧される。カイリがアルバたち、ルイーゼたちと合流した。

(今!)

 ルイーゼが一気に集中力を高めて、施設から一気に外へ転移した。同時に動力炉がエネルギーの暴走に耐えられず、爆発を起こした。

(私が倒れようと、アデスが滅びることはない・・我らの栄光の旅立ちを遂行する者はまだ存在する・・必ずや、あの星の海へ漕ぎ出す時が、必ずや・・・!)

 アデスの栄光が成就されることを確信したまま、コカベルは爆発の閃光に巻き込まれた。

 アデスの地下施設が爆発に巻き込まれて、一気に崩壊を来たした。

 

 アルバたちを連れて施設の外に瞬間移動したルイーゼ。力を振り絞った彼女は、すぐさま倒れて意識がもうろうとなった。

(な、何とか全員、外に連れ出すことができた・・・)

 うまくアルバたちを連れ出せたことに、ルイーゼが安心を覚える。

「お兄様・・・お兄様!」

 七瀬がカイリが意識を失っていることに気付き、声を上げる。

「お兄様、しっかりして!目を開けて、お願い!」

「カイリ・・・!」

 七瀬が呼びかけて、ほくともカイリを見て深刻な面持ちを浮かべる。

「目を覚ましなさい、カイリ・・七瀬を、悲しませるつもりですか・・・!?

 ほくとがカイリに近づき、両手を当てて気を送ろうとする。心臓マッサージをする感覚で。しかしほくとも気力が残されていない。

(あたしたちにはもう、お兄様を助けることができないの・・・!?

 力が残されていないことに、七瀬が辛さを募らせる。

「オレたちのために、ここまで力を使い切るとは・・・!」

 アルバもカイリを真に当たりにして、歯がゆさを覚える。

「オレたちの力を送れば、そいつを助けられるかもしれねぇ・・今はやるしか・・!」

 ソワレがカイリを助けようと近づいていく。

「やめなさい、ソワレ・・あなたたちも、これ以上力を使ったら、死んでしまうかもしれないわ・・・!」

 ルイーゼが声を振り絞り、ソワレとアルバを呼び止めた。

「だからって、このまま指をくわえて黙ってるわけにいかねぇだろうが・・・!」

「カイリはオレたちのために命を賭けた・・このまま恩を返せないままでいられるものか・・・!」

 しかしソワレもアルバもカイリを助けることを諦めない。

「ならば私たちの気を、わずかずつでも与えれば・・」

 ほくとが知恵を振り絞り、アルバたちに提言する。

「私たちに残されている力も少ないです・・その状況下で私たちにできることは、このぐらいしかないのかもしれません・・・」

「でも、やれることがあるなら、すがりついてでも・・・!」

 ほくとに続いて七瀬も言いかける。2人とアルバ、ソワレの決意は固まっていた。

「確実とは言い切れないし、私たちの命にもかかわる危険もあるけど、やるしかないようね・・」

 ルイーゼも意を決して、アルバたちとともにカイリの体に手を当てる。

「バラバラの意思では効果がないわ。心を合わせる必要がある・・」

「その心配は無用だ・・オレたちの意思は同じで、より強い・・・」

 ルイーゼの言葉にアルバが答えて、ソワレたちが頷く。彼らは目を閉じて、カイリに意識を傾けた。

 カイリの体に、アルバたちの残された気力が送られた。

 

 深い闇の底。カイリは暗闇の中に沈んでいるような感覚に襲われていた。

(どこだ、ここは?・・・オレは・・・)

 自分が置かれている状況を確かめようとするカイリ。

(体が動かない・・力が入らない・・・)

 身動きが取れず、カイリは自分の状態を確かめることもできない。

(オレは生きているのか?・・それとも、死んでしまったというのか・・・?)

 さらに思考を巡らせるカイリ。生への執着を呼び起こした。

(オレは死なない・・オレは死ぬつもりはない・・・)

 生きようと死に抗おうとするカイリ。彼が無理やりにでも力を入れようとする。

(オレは2度にわたって、谷底に突き落とされて死の恐怖を味わった・・オレは自身が生き延びるために、血塗られた戦いを続けてきた・・だが、オレが生きようとしている理由は、他にもあった・・・)

 カイリの脳裏に七瀬の姿が浮かび上がった。

(七瀬・・お前のためにも生きねばならない・・地獄を見てきたオレの光は、お前だったかもしれない・・・)

 1つの希望を見出して、改めて生き抜く決意を固めたカイリ。次の瞬間、全く体を動かせなかったカイリの手の指先がかすかに動いた。

(オレの生きようとする意思は変わらないが・・その意思が強くなったと、オレは思う・・・)

 思わず笑みをこぼすカイリ。かすかに見える一筋の光に向けて、彼は手を伸ばした。

(オレは死なない・・これからも、オレの道を進む・・オレ自身の意思で・・・)

 揺るぎない決意を強めて、カイリが体を起こした。

 

 カイリに気力を送ったことで、アルバたちも力を使い果たしてうなだれる。

「カイリ・・・目を覚まして・・・」

 ほくとがカイリを見つめて、無意識に彼の胸に手を当てていた。そのとき、ほくとがカイリの心臓の鼓動を感じ取った。

「カイリ・・生きている・・・」

「えっ・・・!?

 ほくとが口にした言葉を聞いて、七瀬が顔を上げる。

「お兄様は、まだ生きている・・・!」

「は、早く手当てをしなければ・・・!」

 七瀬が安堵を覚えて、ほくとがカイリを介抱しようとする。

「私が連絡をして、救護隊を呼ぶわ・・」

 ほくとたちに声をかけてきたのは、爆発の直前で施設から脱出したシャロンだった。ロッソも彼女と合流して、外に出ていた。

「まさかオレが助けられるとは・・感謝するぜ。」

「危険な状態にあったのはみんな同じだった。見殺しにもできなかったから・・」

 礼を言うロッソにシャロンが微笑みかける。

「けど、オレは行かせてもらうぜ。オレにはまだやることがあるからな。」

 ロッソはシャロンに告げると、彼女の前から去っていった。

「仕方がない人ね・・・別部隊に連絡するわ。もう少しの辛抱よ。」

 ロッソに呆れてから、シャロンがほくとたちに振り向いて言いかけた。

「あの、あなたは・・・?」

「アデスを追って調査をしていたのよ・・ジヴァートマは逃がしてしまったけど・・・」

 問いかけるほくとに答えて、シャロンが通信機で別働隊との連絡を取った。少しして彼女の同胞を伴った救護隊が駆けつけて、ほくとたちを保護した。

 

 シャロンの所属する組織の管轄する医療施設にて、カイリたちは療養を受けることになった。疲弊が激しかったカイリも一命を取り留めた。

(まさか、こうして助けられるとは・・あの方には感謝しても足りないわね・・・)

 ベッドの中、ほくとが心の中でシャロンたちへの感謝を感じていた。

(みなさんも、カイリも無事でしょうか・・・?)

 カイリたちのことを気にしたほくとだが、疲労が大きく起き上がることができない。

(体が動かない・・まだ休んでいないといけないようね・・・)

 すぐに体を起こすのをやめて、ほくとはベッドに横たわった。

(これで、悲劇は終わるのでしょうか?・・水神家の、私たちの悲劇は・・・)

 ほくとが目を閉じて、これまでの出来事を振り返っていく。

(全ては私の父、分家党首の事件から始まった・・誤ってカイリを手にかけたことから・・そして私も、本家党首の思念によって、カイリに死の恐怖を与えてしまった・・・)

 一族と自分の過去に罪の意識を感じていくほくと。

(生き延びたカイリは己が生きるために戦い続けていた。近付く者全てを敵だと認識して・・そんな彼の本当の希望は、七瀬だった・・・)

 七瀬との出会いがカイリの凍てついた心を解き放ったと、ほくとは実感していた。

(私もカイリを止めようと考えて、最悪、差し違えるつもりでもいた・・七瀬は、私も救ってくれた・・)

 自分とカイリの血塗られた宿命を終わらせたのも七瀬への思いであるとも、ほくとは思っていた。

(ありがとう、七瀬・・あなたがいてくれてよかった・・・)

 ほくとは七瀬に感謝して、眠りについた。

 

 ほくとたちとは別の病室にて、アルバ、ソワレ、カイリは休息を取っていた。カイリは安静にしているが、まだ意識は戻っていない。

 アルバとソワレが先に意識を取り戻していた。

「アニキにはすっかり助けられちまったな・・すまねぇ・・・」

「気にするな、ソワレ。こうしてまた一緒にいられるだけでも、オレは嬉しく思っている・・」

 謝るソワレにアルバが正直な気持ちを口にする。

「お前がいなくなって、オレは心の中に穴が開いたような気分を感じて、それを払拭することができなかった・・お前のことをどれだけ大事に思っていたか、オレは思い知らされた・・・」

「アニキ・・・」

 アルバの言葉を受けて、ソワレが戸惑いを覚える。

「何としてでもお前を連れ戻す。それがオレの心をつなぎ止めていたのだろう・・」

「アニキがいなかったら、オレは帰ってこれなかったんだ・・ありがとな、アニキ・・」

 安堵を覚えるアルバに、ソワレが微笑んで感謝した。

「前の大会のとき、オレの頭の中に別のオレが現れたんだ。そしたら頭が痛くなって、自分を保てなくなって・・どうすることもできなかった・・・」

 ソワレも自分の記憶と気持ちを感じていた。ユーダイムとして覚醒させられて、ソワレは自我を保てずにアデスに捕まってしまった。

「オレ、オレの分かんねぇ間に、アニキやみんなにひどいことをしてたんだろ?・・マジですまなかった・・・」

「もう気にするな、ソワレ。オレはお前が帰ってきただけで嬉しいんだ・・」

 自分を責めるソワレをアルバが励ます。

「アニキ・・・ただいま、アニキ・・・」

「おかえり、ソワレ・・・」

 兄弟の再会を分かち合い、ソワレとアルバが笑みをこぼした。

 

 

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