FIGHTING IMPACT

第10話

 

 

 アルバたちが医療施設での療養を受けてから数日がたった。

 コカベルを失ったアデスは暗躍もままならない損害を被り、計画を進められない状態にあった。少なくとも何か動きがあったと、ルイーゼは探知していない。

 アデスに対して用心しながらも、大きな行動が取れる状態にないとも考えて、ルイーゼは休息に専念することにした。

「お兄様は、まだ意識が戻らないですか・・・」

 七瀬が話を聞いて、ルイーゼが小さく頷く。

「ここに運ばれたときはかなり衰弱していたそうよ。あのとき、私たちが力を分け与えていなかったら、おそらく命はなかったでしょう・・」

「私たちは、カイリを助けることができたのですね・・・」

 ルイーゼの話を聞いて、ほくとが安堵して微笑む。

「あなたたちやアルバと出会わなければ、私は最後まで信じ抜く気構えを持つことができなかったわ・・私こそ、礼を言うわ・・」

 ルイーゼが安らぎを感じて、ほくとと七瀬に感謝した。

「それで、アルバさんとソワレさんの具合は・・?」

「2人とも落ち着いているわ。体も回復に向かっているし、ユーダイムになることも暴走もない。」

 七瀬の問いかけに、ルイーゼが微笑んで答える。

「2人も助かってよかった・・一緒にいれてよかったです〜・・・」

 七瀬が安心の吐息をついて、ほくとも微笑んだ。

「ケガが治ったら、私たちはそれぞれの家に帰ることになりますね・・アルバさんとソワレさんも・・」

「私には、まだやることが残っている・・父の行方を見つけなくては・・・」

 ほくととルイーゼがこれからのことを話し合う。

「お父さんを捜していると言っていましたね・・あたしたちにも何か手伝えることがあれば・・・」

「ありがとう、七瀬さん。でもこれは私個人の問題。だから私がやらないといけないわ。」

 協力しようとする七瀬に、ルイーゼが感謝をする。

「2人には2人の、いいえ、3人のやるべきことがあるのでしょう?私に構わず、あなたたち自身のことに専念して。」

「ルイーゼさん・・お心遣い、感謝します・・」

 ルイーゼから励ましの言葉を受けて、ほくとが微笑んだ。七瀬も喜びを感じて笑顔を見せた。

(カイリと七瀬、そして私・・3人そろって、家に帰ることができる・・・)

 兄妹そろっての生活に戻れると信じて、ほくとは安堵を感じていた。

 

 それからさらに1日がたった。ほくとと七瀬は立って歩けるほどにまで回復していた。

「これでお兄様に会いに行くことができるよ〜・・」

「七瀬ったら、仕方がないんですから・・」

 安心して大きく肩を落とす七瀬に、ほくとが苦笑いを浮かべる。

「あたしたちが会いに行って、安心させてあげなくちゃ♪」

「それは、私も同じ気持ちよ・・行きましょう、七瀬。」

 笑顔を見せる七瀬と、小さく頷くほくと。2人は病室を出て、アルバとソワレ、カイリのいる病室に向かう。

「た、大変だ!大変!」

 病室の外の廊下に、ソワレが慌てて飛び出してきた。

「ソ、ソワレさん!?

 突然のことに七瀬が驚く。

「何かあったのですか・・!?

 ほくとが緊張を覚えて、ソワレに問いかける。

「カイリが、カイリがいなくなっちまった!」

「えっ!?

 ソワレの口にした言葉に、ほくとと七瀬が耳を疑った。

「お兄様がいなくなったって・・どういうことですか・・・!?

 七瀬が声を震わせて、体を引きずって病室へ向かう。病室にいたのはアルバと数人の医師、看護師だけ。

「お兄様!?・・お兄様は、どこ・・!?

 七瀬が病室を見回すが、カイリの姿が見当たらない。

「オレたちが今朝目を覚ましたときには、もういなかった・・夜中に出ていったのだろう・・」

 アルバが七瀬たちに状況を話す。医師たちもカイリがいなくなったことに困惑している。

「お兄様・・どうして・・・!?

 カイリがいなくなったことが信じられず、七瀬が不安を隠せなくなる。

「捜しましょう・・まだ近くにいるかもしれません・・・」

 ほくとがカイリを捜しに外に出ようとした。しかし彼女はふらついて、ルイーゼに支えられる。

「まだ激しい運動ができる体ではありません・・あまり無理をしないほうが・・・!」

「やっと見つけたのです・・また、離れ離れになるのには、納得できません・・・!」

 ルイーゼが呼び止めるが、ほくとはカイリを捜そうとするのを諦めない。

「あたしもお兄様を捜すよ!お兄様だって、まだ動けるような体じゃないんだから!」

 七瀬もカイリのことを心配して、医療施設から出ようとする。

「い、いけません!まだ外へ出ては・・!」

 医師たちもほくとたちに近寄って止めに入る。

「放しなさい!私たちはもう2度と、あの人と離れたくはないのです!」

 ほくとが怒鳴って、医師がつかんでいた手を振り払う。しかしほくとはふらついてまた倒れかかる。

「彼は私たちが捜しますから、あなた方は病室で休んでいてください・・!」

 医師に呼びかけられて、ほくとと七瀬が看護師たちに病室に連れられていく。

「カイリさんは私が捜します。見つけたらあなたたちに知らせます・・」

 ルイーゼがほくとに囁いて、カイリを捜しに外へ出た。

(ルイーゼさん・・・お兄様・・・)

 ルイーゼへの感謝とカイリへの思いを感じて、七瀬が動揺を募らせていた。

 

 カイリが突然いなくなったことを、アルバとソワレも病室で気にしていた。

「アイツ、妹たちと再会できたのに、何でまたいなくなっちまったんだ・・・」

「アイツは今までずっと1人で戦い続けてきた・・ヤツの中にある修羅が、兄弟の絆を振り切り突き動かしたのだろう・・」

 困惑するソワレに、アルバが推測を口にする。

「あんな2人の妹を置き去りにするなんて、オレには理解できねぇなぁ・・」

「カイリが何を考えているのか、オレにも分からない・・オレも、1人でほくとたちを離れたことには納得しきれてはいないが・・」

「ほくとさんと七瀬ちゃん、じっとしてられるだろうか・・・?」

「ムリかもしれないな・・オレがソワレを血眼になって捜したように、2人もすぐにでも動き出すだろう・・・」

 気まずくなるソワレと、さらに推測を広げて自分の考えを口にするアルバ。2人もカイリだけでなく、ほくとと七瀬のことも気に掛けていた。

「このままここでじっとしてるつもりなのか、アニキ?」

「お前はどうしようと考えている、ソワレ?」

「決まってんだろ。オレがじっとしてられるタマじゃねぇの、アニキは知ってるだろ?」

「ならば、お前もオレがおとなしくしているだけの小さい男でないことも分かっているな?」

 笑みを浮かべるソワレとアルバが意気投合して、カイリを捜すことに乗り出した。

 

 カイリのことを気にせずにいられなかったのは、アルバとソワレだけではなかった。ほくとと七瀬も医師たちの目から離れて、カイリを捜しに外へ出た。

(申し訳ありません、先生・・私たちはどうしても、カイリを放っておくことはできません・・・!)

 医師たちへの謝罪を感じながら、ほくとはカイリの行方を追った。

(ここで彼と向き合わなければ、私は立ち止まり、そこから一歩も進めなくなってしまうでしょう・・その気持ちは、七瀬も同じでしょう・・)

 カイリのため、自分たちのために後悔しないようにと、ほくとは思っていた。

「オレとソワレは森のほうを探す。あなたたちは・・」

「私と七瀬は反対方向の草原のほうを探してみます。行きましょう、七瀬。」

「はい、お姉様・・!」

 ソワレの声に答えたほくとに呼びかけられて、七瀬が頷く。彼女たちはさらにカイリの捜索を続ける。

「オレたちも行こうぜ、アニキ・・」

「あぁ・・」

 ソワレとアルバが声をかけ合い、森のほうへ向かった。

 

 カイリを追い求めて草原に来たほくとと七瀬。草原の奥は崖になっていて、人が訪れる場所でないとされていた。

「谷底のある崖・・カイリは2度に渡って谷底に落ちて、死の恐怖を体感した・・その1つは、本家党首の思念に駆られた私が追いやったこと・・」

「お姉様・・・」

 目の前の景色を見つめて過去を思い返すほくとに、七瀬が戸惑いを見せる。

「しかしこの水神家の宿命は終焉を迎えたのです・・真実を知り、私たちは分かり合えたのですから・・・」

「絶対に一緒に帰るんだから・・あたしたち、3人みんなで・・!」

 一途な思いを口にするほくとと七瀬。2人にとってカイリはかけがえのない存在で、彼がいないことは彼女たちにとって心に大きな穴が開くようなものである。

「お前たちは、オレを放ってはおかないのだな・・」

 そんなほくとと七瀬の後ろにカイリが現れた。

「カイリ・・・!」

「お兄様!」

 振り返ったほくとと七瀬が、カイリを見て声を上げる。

「どうして・・お兄様、あたしたちと一緒に帰るんでしょ!」

 七瀬が激情を込めて、カイリに呼びかける。するとカイリがほくとと七瀬に背を向けた。

「オレはあの戦いで、己の弱さを痛感した。このままではお前たちはおろか、オレ自身が生き延びることもできない・・」

 ソワレが変貌したユーダイム、アデスの統率者であるコカベルの前では無力だったと思い、カイリは自分の弱さを責めていた。

「オレは強くなる・・己が生き残るため、敵を倒すためでなく、己の強さを高めるために・・」

「お兄様は弱くない!今まで血塗られた戦いを乗り越えて、今回もあたしやお姉様、アルバさんたちを守ってくれたじゃない!」

 強さを求める決意を口にするカイリに、七瀬が思いを呼びかける。

「強くなりたいと考えているのは、修羅の道ではなく、武道家の道を歩むということですか・・・?」

 ほくとが口にした言葉に、カイリが小さく頷く。

「でしたら、私もあなたについていきます。私も強くなりたいという思いが、心の中にあります。」

 ほくとがカイリについていくことを告げる。

「今回の件であなたの心の変化が垣間見えました。自分自身だけでなく、自分以外の人のために戦う姿も、あなたにはある・・ですが、全く暴走しないという確証はまだありません。たとえあなたが望まなくても、修羅の道に足を踏み入れないとも限りません・・」

「だから、それを見張るためについてくるというのか・・」

 自分の心境を口にするほくとに、カイリが言葉を返す。

「オレは勝手にしろと言った・・ついてきたければついてくればいい・・・」

「そうさせてもらうわ・・あなたのために、私自身のために・・・」

 カイリの投げかけた言葉を受けて、ほくとが真剣な面持ちのまま頷く。

「あたしもついていくよ!」

 七瀬もほくととカイリに決意を口にする。

「お兄様についていきたいって気持ちは、あたしにもある!お兄様、お姉様と離れ離れになるのはイヤ!」

「七瀬・・・」

 思いを口にする七瀬に、ほくとが戸惑いを浮かべる。

「たとえお兄様が突き放しても、お姉様に止められても、あたしはついていくよ!」

「七瀬・・死ぬかもしれない道になるのだぞ・・・?」

「危険なのは覚悟してる・・でもあたしは死なないよ・・お兄様やお姉様、みんなを悲しませたくないから・・・!」

 カイリから忠告をされても、七瀬は引き下がらない。彼女の覚悟を聞いて、カイリは彼女の強さを感じ取った。

「お前も一人前になっていたようだ・・そこまでいうならついてくるのだな・・・」

「お兄様・・・うんっ!」

 歩き出すカイリに七瀬が笑顔で頷いた。

「カイリ・・・七瀬、どうやら私はあなたからも目を離してはいけないようですね・・・」

 ほくとは半ば呆れながら、カイリと七瀬を追いかけていく。

(ルイーゼさん、申し訳ありません・・アルバさんとソワレさんにも伝えてください・・ありがとうございました、と・・)

 ほくとは心の中で、ルイーゼに向かって伝言を送った。

 

 カイリを捜していたルイーゼが、ほくとからの声を捉えた。ルイーゼはほくとと七瀬がカイリにこのままついていって、施設から離れる決意をしたことを知った。

(ほくとさん、七瀬さん、あなたたちもカイリさんのように、帰らずに旅を続けるのですね・・)

 ほくとたちの決心を受け止めて、ルイーゼが気分を落ち着けた。

(アルバ、ソワレ、カイリさんとほくとさんたちは・・・)

 ルイーゼはアルバとソワレに、カイリ、ほくと、七瀬のことを伝えた。

 

「ハァ・・カイリだけじゃなく、ほくとさんと七瀬ちゃんまで行っちゃうなんてなぁ〜・・」

 ルイーゼからカイリたちのことを聞いて、ソワレが肩を落とす。

「3人はそれぞれ決心したんだ。オレたちがわざわざ止めに入る必要はない。」

 アルバはカイリたちの決意を汲み取り、受け入れていた。

「わざわざ危なっかしい道を選ばなくてもいいのにさぁ〜・・」

「他のヤツのことを気にしてばかりではいられないぞ。オレたちにもオレたちの戦いが待っている。」

 肩を落とすソワレに、アルバが真剣な面持ちのまま言いかける。

「そうだな。サウスタウンに戻って、改めてメイラ兄弟の力を証明してやらなくちゃな。」

 ソワレが気さくな笑みを浮かべて、意気込みを見せる。

「コカベルは倒れたけど、アデスが壊滅したわけではないわ。」

 ルイーゼがアルバとソワレの前に姿を現した。

「アデスの残党がオレたちをしつこく狙ってくるということか。」

「だったら返り討ちにしてやりゃいい!もうオレもアニキもヤツらの思い通りにはならねぇ!」

 これからの事態を推測するアルバと、強気を見せるソワレ。

「ヤツらが何をしてこようと、オレたちのすることに変わりはない。敵として立ちはだかるならば倒す。それだけだ。」

「それがサウスタウンのキングとその弟、メイラ兄弟ってもんだ!」

 揺るがない意思と意気込みを見せるアルバとソワレ。彼らの意思も変えられないと、ルイーゼは実感していた。

「今のあなたたちなら、これから先、何が起こっても乗り越えてしまいそうね・・」

 ルイーゼが納得して微笑むと、アルバたちに背を向けた。

「私は引き続き、父の行方を追うわ。アデスはまだ壊滅したわけではない。もし生きているなら、必ず彼らの施設のどこかにいるはず・・」

「オレも捜すのを手伝おうか?アンタには世話になりっぱなしになっちまったし、1人でこういうことをさせるのは忍びねぇなってね。」

 これからの自分のやることを告げたルイーゼに、ソワレが力になろうとする。

「ありがとう。でもこれは私自身がやるべきこと。あなたたちもあなたたちのやるべきことがあるでしょう?」

「それは・・だけど・・・!」

 謝意を示すルイーゼに、ソワレが口ごもる。

「それに私はもう1人じゃないわ。あなたたちが離れ離れでもお互いがそばにいたように、私のそばにも、家族や仲間がいるから・・」

 ルイーゼがソワレとアルバにさらに微笑みかける。彼女の中にある2人への信頼は強いものとなっていた。

「ありがとう、ルイーゼ・・君がいなければ、オレたち兄弟は今そろっていなかった・・」

 アルバがルイーゼに感謝して微笑みかけた。

「私は特に何もしていないわ・・あなたたちを助けたのは、ほくとさんたちと、あなたたち自身の強さよ・・」

「いや、君の助言がなければ、オレたちは対処もできなかっただろう・・どうしたらいいのかも分からず、アデスの思うがままになっていたかもしれない・・」

 言いかけるルイーゼにさらに謝意を示すアルバ。

「私も、そこまであなたたちの力になれていたのね・・あなたたちが救われるほどに・・・」

「というわけだ。オレからも感謝するぜ。ありがとな。」

 笑みをこぼすルイーゼに、ソワレも気さくに言いかける。

「行くわ、私・・また、どこかで会うかもしれないわね・・」

「あぁ。またどこかで会ったら、ゆっくりと話をしよう・・」

 微笑みかけるルイーゼに、アルバが頷く。彼女とアルバたちはそれぞれの向かう場所を目指して歩き出した。

 

 ジャランジを追い求めて日本を後にしたデュークとリアン。デュークはジャランジのかすかな手がかりを頼りに行動していた。

「コカベルがいなくなって、アデスは壊滅したも同然なんでしょう?それでもまだ世界を回るの?」

「当然だ。もっとも、妹と直接会うことができれば、それで全てにケリが付くだろうだがな・・」

 疑問を投げかけるリアンに、デュークが淡々と答える。

「そのケリが付いたときに、アンタの首、もらうからね・・」

「そういう約束だからな。好きにしろ・・」

 忠告を送るリアンに、デュークが口調を変えずに言葉を返す。

「だがこれでアデスそのものが何もしてこないとは言えんな。オレたちの首を狙う残党どももまだいる。」

「邪魔するヤツは誰だろうと容赦はしないわ。あなたもそうなのは分かっているわ。」

「やはりお前はオレの妹とは違うな・・」

「私は妹さんと違って、おしとやかではないからね・・」

 互いに皮肉を投げかけ合うデュークとリアン。

(目的を果たすまで、邪魔する者は容赦しない・・地獄の底に叩き落としてやるぞ・・・)

 自分の目的を果たすことだけに意識を傾けるデューク。リアンも自身の目的を果たすことだけを考えていた。

 

 地下施設は壊滅に追いやられたが、シャロンから逃げ切ったジヴァートマ。コカベルの敗北を耳にしていた彼だが、精神的に追い詰められてはいなかった。

(これで終わりだと思わないことだ、ユーダイム、ラキア・・アデスは不滅・・栄光への旅を果たすまで、我々は歩みを止めることはない・・)

 アデスの果てなき野望を見据えて、ジヴァートマが笑みを浮かべる。

(体勢を立て直し次第、再び迎えに行くぞ、ユーダイム・・次こそはお前たちとともに、あの空の海へ漕ぎ出そう・・)

 自分たちの理想に胸を躍らせて、ジヴァートマは姿を消した。彼とアデスの面々は次の暗躍に備えて力を蓄えようとしていた。

 

 アルバ、ソワレと別れ、再び1人の旅を始めたルイーゼ。父の手がかりを求めて、彼女は歩を進めていた。

(世界のどこかに必ずいるはず・・まだアデスは、宇宙の海へ漕ぎ出してはいないのだから・・・)

 父がまだ世界のどこかにいることを確信するルイーゼ。

(アルバもソワレも、ほくとさんたちも諦めなかった。私も希望がある限り、どこまでも探し続ける・・待っていて、父さん・・・)

 アルバたちへの感謝を胸に、父への想いを募らせて、ルイーゼは再び歩き出した。

 

 カイリは強さを極める戦いの旅に出た。彼は血塗られた修羅の道ではなく、格闘家としての道を歩もうとしていた。

 カイリの行く末を見守ろうと、ほくとと七瀬も付いてきていた。

「私たちのこれからの旅も、危険と隣り合わせ。しかもいつ終わるか分からない旅・・それでもついてくるというのね、七瀬・・」

 ほくとが声をかけて、七瀬が真剣な面持ちで頷いた。

「あたしも、お兄様の戦いをそばで見届けたいって思ってる。そしてお兄様とお姉様が、これから何を見るのかを・・」

「私のことも・・・」

 七瀬の決心を聞いて、ほくとが戸惑いを覚える。

 七瀬はいつもほくとに憧れて、その眼差しを送っていた。しかし今の七瀬はそれだけではなく、カイリとほくとの行く末を見届けることが自分の道を切り開くことになると、決心と覚悟を持っていた。

「お前の決意も変わらないということか、七瀬・・」

 カイリが振り向かずに七瀬に言いかける。

「ならば決して死なないようにしろ・・オレたちの戦いは、生き抜くことが大切だからな・・」

「お兄様・・はいっ!」

 カイリからの言葉を受けて、七瀬が決意を込めて頷いた。笑顔ではなく真剣な顔で。

(七瀬は心身ともに強くなった。この子の真っ直ぐな思いが、カイリの心をつなぎ止めている・・)

 カイリと七瀬の心境を察して、ほくとが安らぎを感じていく。

(2人の間をつなげるのは、私の役目・・)

 これからの自分の本当の思いを確かめて、ほくとが微笑んで頷いた。

(これが、私たち3人がみんな、意志を貫ける形・・・)

 3人とも不幸になることなくそれぞれの答えを見据えられると、ほくとは思っていた。

 カイリ、ほくと、七瀬。兄妹の道が1つの交わりをついに果たしたのだった。

 

 ソワレとともにサウスタウンに戻ってきたアルバ。2人はサウスタウンの街並みを見て、安らぎを感じていた。

「懐かしいな・・そんなに経っていないはずなのだが、1年も2年も過ぎた気がしている・・・」

「オレもだ・・といっても、オレはオレを取り戻すまでの記憶がぶっ飛んじまってるけどなぁ・・」

 アルバが呟いて、ソワレが苦笑いを浮かべる。

「オレたちはともに生きてきて、ともに戦ってきた。今までも、これからも・・」

「そして今のオレたちの故郷は、このサウスタウン!アニキはこの街のボスだぜ!」

 揺るがない決意を口にするアルバと、彼に気さくに言いかけるソワレ。

「この先、どのようなヤツが狙ってきても、オレたちが返り討ちにするまでだ・・」

「クシエルだろうがアデスだろうが、オレたちを思い通りにすることはできないぜ!」

 揺るぎない意思を口にして、アルバとソワレが歩き出す。

「では行くぞ、ソワレ。みんな待っている・・」

「そうだな、アニキ。みんなの前に帰って、心配かけたことを謝っとかないとな。」

 アルバとソワレが声をかけ合って、再び歩き出す。

(オレたちはもう離れ離れにはならない。この孤独と悲しみは思っていた以上に深いものだと思い知らされた・・)

 弟、ソワレの大切さと結束の強さを改めて実感したアルバ。

(オレたちは一緒に、この街でずっと暮らしていく。オレたちの前に立ちはだかるヤツらには、メイラ兄弟の力を思い知らせる・・・!)

 アルバはこれからもソワレとともに戦う決意を固めた。サウスタウンのキングとして、ソワレやタウンの仲間たちを守るために。

「あっ!アルバさんだ!」

「ソワレさんも一緒だ!2人とも帰ってきた!」

 サウスタウンのギャング仲間が、アルバとソワレの帰りを待っていた。

「ソワレ、ただいま・・」

 アルバがソワレに振り向いて、手を差し伸べてきた。

「アニキ・・ただいま、アニキ、みんな!」

 ソワレが戸惑いを覚えるも、いつもの気さくな笑みを見せて答えた。

 

 それぞれの思い、それぞれの目的、それぞれの戦い。

 戦士たちの戦いと魂は果てることはない。

 

 

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