FIGHTING IMPACT

第8話

 

 

 アルバたちの前に姿を現したコカベル。彼はアルバたちを掌握しようと、自ら力を振るっていた。

 全身から衝撃波を発したコカベルが、一気にスピードを上げてアルバたちに手を付き出した。

「ぐっ!」

「うあっ!」

「キャッ!」

 コカベルの打撃を受けて、アルバたちが岩場の壁や地面に叩きつけられた。

「これでも軽く動いた程度だ。これではムダな時間を費やしている気にしかならんぞ。」

 倒れているアルバたちを見下ろして、コカベルに言いかける。

「確かに尋常な相手ではないようだが・・」

「オレたちの力を甘く見過ぎてるな・・!」

 アルバが言いかけて、ソワレが強気を見せる。

「この程度でオレたちを思い通りにできると思うとは、お前たちの野望も大したことはないな・・」

 カイリもコカベルに対して嘲笑を見せる。

「身の程知らずが。その愚かさを後悔するといい。」

 コカベルが再び高速で攻撃を仕掛ける。カイリが両手に青白い焔を灯して、コカベルを迎え撃つ。

 互いに拳をぶつけ合うカイリとコカベル。その衝撃が激しく巻き起こり、周囲をも揺るがす。

「お兄様、負けないで・・・!」

 七瀬がカイリの勝利を信じて、気を高める。

「カイリは再び命を燃やしている・・それでもあのコカベルという男に押されている・・・!」

「えっ・・!?

 ほくとが口にした言葉に、七瀬が当惑を覚える。

「考え方はともかく、強さは本物・・下手な加勢は、逆にカイリをより劣勢にさせることになる・・・!」

「お姉様・・あたしたちは、どうしたらいいの・・・!?

 危機感を感じていくほくとに、七瀬は困惑を膨らませていく。

「即断即決・・1つの判断の誤りが命取りになる・・そう思わないと・・・」

「一瞬の油断もできないってことだね・・・!」

 ほくとからの注意を受けて、七瀬が気を引き締めて棍を握りしめる。

「魔龍裂光!」

 カイリが振り上げた拳を、コカベルは難なくかわす。

「全力でもやはりその程度ということだ。」

 コカベルが右手をかざして念力を放ち、カイリを捕まえる。

「うっ!・・オレが、抜け出せないだと・・!?

 うめくカイリが抗うが、コカベルの念力から抜け出せない。

「何人たりとも、私の手から逃れることはできん。」

 コカベルが手を動かして、カイリを振り回して地面に叩きつける。

「お兄様!」

「くそっ!」

 七瀬が叫び、アルバが毒づいてコカベルに向かっていく。だがコカベルが左手から出した念力に捕まってしまう。

「ムダなことを。共に朽ち果てることを望むか。」

 コカベルがため息をついて、カイリとアルバをぶつけ合おうとした。

「これで両手がふさがったな!」

 ソワレが飛び込み、コカベルに向けて足を振りかざす。コカベルが体から衝撃波を放つが、ソワレの蹴りを止め切れずに蹴り飛ばされる。

 カイリとアルバが念力から解放されて、すかさずコカベルに追撃を仕掛ける。カイリがコカベルに追いつき、回し蹴りを連続で当てていく。

「六極連弾!」

 アルバがコカベルに詰め寄り、拳を繰り出して連打を叩き込む。だがアルバの左の拳がコカベルにつかまれる。

「奇襲を仕掛けてその程度か。笑わせる。」

 コカベルが呟いて、アルバを振り回して投げ飛ばす。

「アルバ!」

 ルイーゼが飛翔して、空中に跳ね上げられたアルバを受け止める。だが次の瞬間、2人の後ろにコカベルが回り込んだ。

「貴様もいつまでも傍観者でいられると思うな、ラキア。」

 コカベルが右手をかざして衝撃波を放ち、ルイーゼとアルバを吹き飛ばして地上に落とす。

「アニキ!・・マジでとんでもねぇ力だ・・・!」

 叫ぶソワレがコカベルの強さに毒づく。

「お姉様、力を貸して・・!」

「七瀬!」

 呼びかけて飛び出す七瀬に、ほくとが叫ぶ。ほくとも七瀬に続いて、コカベルに向かっていく。

「気練射!」

 ほくとがコカベルに向けて気の矢を放つが、コカベルに軽々とかわされる。

「速かろうと直線的では・・」

 コカベルが呟きかけた瞬間、七瀬も棍を伸ばしてきた。気付いてかわすコカベルだが、七瀬が棍を振りかざして彼に当てる。

 そこへすかさず、ほくとが薙刀を手にして、コカベル目がけて突き出した。コカベルが棍をつかんで、七瀬を振ってほくとに当てる。

「うあっ!」

 七瀬をぶつけられて体勢を乱すほくと。彼女が突き出した薙刀はコカベルから外れる。

「神鬼発動!」

 コカベルの後ろに回ったカイリが気の弾を放つ。振り返ったコカベルが両手で気の弾を受け止める。

「このまま押し切れると思わんことだな。」

 コカベルが気の弾を押し返そうとした。

「覇王雷光拳!」

「ビッグウェンズデイ!」

 アルバとソワレが拳と回し蹴りを繰り出して、衝撃波と旋風を巻き起こす。2人の攻撃を後ろから受けて、コカベルが体勢を崩し、カイリの気の弾にも押される。

「やったか!?

 地上に落ちたコカベルに、ソワレが優勢を覚える。

「まだだ・・ヤツは倒れてはいない・・・!」

 アルバが注意深く地上を見据える。コカベルは平然と立っていて、アルバたちを見上げていた。

「人間風情が私にほこりを付けるとは、小賢しいマネを・・」

 コカベルが自分の服の土とほこりを払い、アルバたちに目を向ける。

「だが所詮、我々を阻むには至らない小細工だ。」

 コカベルが全身から光をあふれさせる。彼は両手の中に光を集中させる。

 コカベルが一気にスピードを上げて、アルバの体に光の拳を叩き込んだ。

「がはっ!」

 重みのある打撃で吐血するアルバ。コカベルがさらに光の拳を叩き込んでいく。

「アニキ!このヤロー!」

 ソワレがコカベルに飛びかかり足を振りかざす。コカベルが振り返り、旋回してソワレのわき腹に蹴りを叩き込む。

「ぐっ!」

 ソワレが突き飛ばされて、痛みに顔を歪める。

「もう1度目を覚ませ、ユーダイム。お前たち2人が目を覚ませば、少しはまともな勝負が期待できるだろう。」

 コカベルがアルバとソワレに目を向けて言いかける。

「何度も言わせるな・・オレはアルバ・メイラ・・ユーダイムなどではない・・!」

「貴様も記憶が戻りつつあるはずだ。ユーダイムとしての記憶が、貴様の脳裏によぎっている。」

 否定するアルバにコカベルが言いかける。

 次の瞬間、アルバの脳裏に1つの姿、1つの光景が一瞬よぎった。フラッシュのように駆け抜ける光景で、アルバが頭痛に襲われる。

「アニキ!?

 アルバの異変にソワレが声を荒げる。

「あ、あの姿は!?・・何なのだ、いったい・・・!?

「アルバ!?・・まさかあなたも、ユーダイムの記憶が・・・!?

 頭を押さえてうめくアルバに、ルイーゼが困惑を覚える。

「どうしちまったんだよ、アニキ!?いったい、何が・・!?

「あなたに起きたことが、アルバにも起きているのよ・・今のあなたたちとは別の人格の記憶が・・・!」

 動揺するソワレにルイーゼが深刻な面持ちで言いかける。

「オレに起きたことが、アニキにも・・・!?

「あなたもアデスに捕まる直前に覚えがあるはずよ。ソワレ・メイラとは別の、自身の姿と記憶が頭をよぎったことが・・」

 困惑を募らせるソワレにルイーゼが語りかける。

「ぐっ!」

 そのとき、ソワレも頭を光景がよぎり、苦悩に襲われた。

「ソワレさん!?・・まさか、ソワレさんも・・!?

 七瀬がソワレまで異変に襲われたことに、動揺を隠せなくなる。ソワレがまた、自分の中にあるユーダイムの人格に囚われていた。

「口でどれほど拒絶しようと、体と魂に刻まれている記憶までは偽ることはできない。」

 息を乱すアルバとソワレを見て、ユーダイムが言いかける。

「ユーダイムとしての人格と記憶。貴様たちはそれぞれ2つの人格に挟まれて、その衝動に揺さぶられているのだ。」

「どこまでも、勝手なことをぬかしやがるな・・・!」

 語りかけるコカベルにソワレが言い返す。

「たとえオレたちと違う人格が隠れているとしても、今のオレたちはアルバとソワレだ・・お前たちの思い通りにはならないぞ・・・!」

「そうだ・・オレ、みんなに大分心配かけちまったからな・・さっさと帰らなくちゃな・・!」

 コカベルに向けて声を振り絞るアルバと、彼に笑みを見せるソワレ。2人は自分の意思を貫こうと気を引き締めていた。

「オレもお前たちの思い通りにはならん・・オレはオレが生きるため、オレであるために戦い続ける・・相手が何者であろうと・・・!」

 カイリも自分の意思を口にする。アルバたちと考えは違うが、自分の意思を貫こうとする姿勢を見せていた。

「私はカイリの歩む道を見届けます・・彼がこの先進むのが精進の道なのか修羅道なのか・・あなたたちのような輩に、その道を阻むことは許しません・・・!」

「あたしも、お兄様とお姉様についていくよ!あたし自身で、そう決めたから!」

 ほくとと七瀬もそれぞれの決意を告げる。

「あなたたちアデスの野心を止める。それが、私の本来の、変わらない使命よ。」

 アルバたちの揺るがない決意に感化されながら、ルイーゼも意思を示した。彼らはコカベルに追い詰められながらも、意思は揺らぐどころかさらに強固となっていた。

「貴様たちが何を企もうと、貴様たちは私には逆らえん。私に屈服する以外に、貴様たちの道はない。」

 コカベルが態度を変えずにエネルギーを集中させていく。

「私の力とともに、そのことを思い知ることだ。」

 コカベルが繰り出した衝撃波が、カイリたちに襲い掛かった。

 

 ジヴァートマを倒し、地下施設を後にしたデュークとリアン。施設にはジャランジの姿はなかった。

「ここにもいなかったか・・だが必ずヤツを見つけ出してみせる・・・」

 ジャランジの捜索を諦めないデュークが、休むことなく次の場所へ向かう。

「どこまで人探しを続ければ気が済むの?私はあなたの首を討ちたいのを我慢しているのだから・・」

 リアンが声をかけて、デュークがからかってくる。

「さぁな。ジャランジに聞くのだな。」

「本当に面倒ね、あなたは・・退屈しないと割り切るしかないわね・・」

 皮肉を口にするデュークに呆れて、リアンがため息をつく。

「それに、ジャランジを見つけた後も、アデスに狙われることになるだろうがな。もっとも、オレはヤツらを返り討ちにするだけだがな。」

「私もそのつもりよ。私の邪魔は誰にもさせないわ。たとえあなたでもね・・」

「好きにしろ。ただし、オレのやるべきことが終わってからだ・・」

「いつもそれね。私に殺される前に、その首のアカでも洗っておくことね。」

 言いかけて歩き出すデュークに、リアンも皮肉を口にする。

(この力・・コカベルが本気になっている・・!?

 デュークがコカベルの力を感じて、目つきを鋭くする。彼が首元に疼きを感じて、手を当てる。

(今はオレを標的にはしていないようだが・・わざわざオレが出向く必要もない・・)

 しかしデュークはコカベルと戦おうとせず、自分の目的に専念する。

「どうしたの?」

 そこへリアンが声をかけて、デュークが視線を移す。

「何でもない。行くぞ。」

 デュークが答えて、改めて歩き出す。

(そうだ・・オレの目的はあくまでジャランジ。アデスはその障害に過ぎない・・)

 自分に言い聞かせて、デュークは自分の戦いを続けることにした。

「本当にしょうがない男ね、あなたは・・」

 リアンはまたため息をついてから、デュークを追いかけていった。

 

 秘めていた力を発揮したコカベルに、カイリたちは攻撃の連続を受けて何度も突き飛ばされていた。

「貴様たちが束になっても私に敵わない、ということだ。」

 コカベルが呟いて、カイリに迫る。

「貴様が口にする死の恐怖など、私のもたらす力の前では簡単に霞む。私の力に打ちのめされることこそが、真の死の恐怖だ。」

「ならばお前に抗うまでだ・・死の恐怖から逃れるために、オレは戦い続けてきたからな・・・!」

 冷たく告げるコカベルに、カイリが声を振り絞る。

「オレの拳はもはや血塗られたものだ・・修羅の道で穿たれた拳、受けるがいい・・・!」

 カイリが両手を握りしめて、コカベルに詰め寄った。

「凶邪連舞!」

 カイリの高速かつ連続の打撃がコカベルに繰り出される。コカベルは全身にエネルギーの幕を張って防御する。

「何発仕掛けようと、私を脅かすには至らない。」

 コカベルがエネルギーを集めた右の拳を、カイリの体に叩き込んだ。

「がはっ!」

 重みのある一撃を受けて、カイリが吐血して怯む。

「お兄様!」

 七瀬が叫ぶ前で、カイリがコカベルからのさらなる打撃で大きく突き飛ばされる。

「貴様たちの言う修羅とやらも、私を止めることもできないということ。私を止められる可能性があるとすれば・・」

 コカベルが言いかけて、アルバとソワレに視線を移す。

「ユーダイム、アデスの中でも私の次に力のある闇の牙ぐらいだろう・・」

 コカベルが呟き、ユーダイムの覚醒を見据える。

(オレの中に、まだ力が残されているというのか・・そうすれば、ヤツに勝つことができるのだろうか・・・!?

 アルバが力への渇望を実感していく。コカベルを倒すための力への渇望を。

(ヤツの言葉に耳を貸すつもりはない・・だが、オレの中に力があるのならば、それでヤツを倒す・・オレとソワレが、一緒に帰るために・・・!)

 コカベルを倒すことに意識を傾けていくアルバ。彼が手を強く握りしめて、力を欲する。

「アニキ、どうしたんだ・・・まさか、アニキ・・・!?

 ソワレがアルバに声をかけて、一抹の不安を覚える。ソワレもアルバがユーダイムの力を求めているのではないかと感付いた。

「ダメよ、アルバ!冷静になりなさい!」

 同じく気付いたルイーゼがアルバを呼び止める。アルバが力を振り絞り、ゆっくりと立ち上がる。

「自分を取り戻せ、ユーダイム。たとえ私に牙を向けようと、貴様が戻ってくるならばそれでいい。」

 コカベルが笑みを浮かべて、アルバたちが手を差し伸べる。

「何度も言わせるな・・オレは、オレたちは、お前たちの思い通りにはならない・・・!」

 アルバが意思を口にして、全身に力を込める。

「待ちなさい、アルバ!落ち着きなさい!自分を見失わないで!」

 ルイーゼがアルバに呼びかけて、彼に駆け寄ろうとした。

「邪魔をするな、ラキア。」

 コカベルが左手を振りかざして旋風を巻き起こして、ルイーゼを吹き飛ばす。

「ルイーゼさん!」

 岩場に叩きつけられるルイーゼに、七瀬が声を上げる。

「オレたちの日常を壊すお前は、オレが倒す!」

 激高したアルバが全身に力を込めた。

 次の瞬間、アルバの体から淡い光があふれ出した。彼の赤い髪が銀に染まっていく。

「ア、アニキ・・!?

 アルバの異変にソワレが驚愕する。

「ソワレがユーダイムとして覚醒していたときと同じ・・・!」

「貴様も覚醒を果たすか、もう1人のユーダイム。」

 ルイーゼが緊迫を募らせて、コカベルが笑みを浮かべる。アルバの体からさらに光があふれ出してくる。

「どうしちまったんだ、アニキ・・!?

 ソワレが困惑して、アルバからルイーゼに視線を移す。

「あなたの身にも起こったことよ、ソワレ・・ユーダイムとしての力が目覚めようとしている・・!」

「ユーダイム・・オレが操られてたときの・・・!」

 ルイーゼの話を聞いて、ソワレが記憶を巡らせる。

「あなたはソワレだったときよりも、並外れた戦闘力を発揮した・・アルバは力を求めるあまり・・!」

「アニキもオレみてぇに、自分を見失っちまうのかよ・・!?

 深刻さを浮かべるルイーゼに、ソワレが困惑を募らせる。

「落ち着け、アニキ!アニキはアニキなんだ!」

 ソワレがとっさに呼びかけるが、アルバは自信が発揮している力を制御できていない。

「ヤツを倒すには、この力が必要だ・・だがオレは、オレを見失ったりしない・・・!」

 アルバが意思を込めて自分に言い聞かせていく。彼は自分に余る力を制御しようと考えていた。

「コカベル、オレはお前を倒す!アルバ・メイラの意思で!」

 自分からあふれる力を解放していくアルバ。まばゆい光が彼の体から煙のように出ていく。

「ここはやむを得ない・・気絶させてでも、アルバを止める・・・!」

 ルイーゼがアルバを止めようと、自身も光を解き放つ。

「ムダだ。もはや今さら何をしようと、ユーダイムを止めることはできない。貴様たちがオレに勝つことができないのと同じように。」

 コカベルがルイーゼに言いかけて笑みを浮かべる。彼の言葉を聞き入れることなく、ルイーゼがアルバ目がけて閃光を放つ。

 だがルイーゼの閃光は、アルバから出ている光にかき消された。アルバが1度肩の力を抜いて、落ち着きを取り戻す。

「アルバさん・・しっかりしてください・・・!」

 ほくとが緊張を感じながら、アルバに声をかける。

「もはやヤツはアルバ・メイラではない。アデスの闇の牙、ユーダイムだ。」

 コカベルが微笑んで、アルバにゆっくりと近づいていく。彼にアルバが視線を向けてきた。

「さぁ、来るがいい、ユーダイム。ともにアデスの旅立ちに向けて・・」

 コカベルがアルバに向けて手招きをした。呼びかけているところで、コカベルの懐にアルバが飛び込み、拳を叩き込んできた。

「ぐっ!」

 打撃の衝撃におされてコカベルがうめく。アルバの力は光を発する前よりも格段に上がっていた。

「言ったはずだ・・オレはお前を倒すと・・・!」

 アルバが低い声で言いかける。コカベルが全身から衝撃波を放って、アルバを引き離す。

「その力と風貌は確かにユーダイム・・だが意識は違う・・戻っていない・・・!」

 コカベルがアルバを見て驚愕を隠せなくなる。ユーダイムの力を発揮していたが、人格はアルバのままだった。

「オレはアルバだ・・ユーダイムなどではない・・お前が何を言おうと、それが変わることはない・・・!」

 アルバが声を振り絞り、コカベルに拳を振りかざす。コカベルは力を集めた手でアルバの拳を受け止めた。

「ユーダイムに戻りきらなかったことは残念だが、ヤツの力と一戦交えることができるのは喜ばしいぞ。」

 コカベルが笑みをこぼして、反撃に転じて拳を振るう。アルバが回避して、間髪入れずに拳を繰り出す。

 2人の驚異の力のぶつかり合いが、周辺を大きく揺るがしていく。

「アニキ・・すげぇ・・アイツと互角と渡り合ってる・・・!」

 ソワレがアルバの戦いを見つめて、戸惑いを感じていく。

「違う・・このままでは、アルバは・・・!」

 ルイーゼがアルバの様子を見て、深刻さを募らせていく。

「何だよ・・アニキがどうだっていうんだよ・・・!?

「確かにアルバはアルバとしての意識を失ってはいない・・でも彼は力を求めるあまり、力に振り回されている・・ユーダイムとしての力に・・・!」

 困惑を見せるソワレに、ルイーゼがアルバの状態を語る。

「だから、何だっていうんだよ・・・!?

「この状態で戦い続けて、無事に終わるはずがない・・何が起こるのか分からない・・・!」

「そんなことになるか・・アニキが、ちっとやそっとじゃくたばったりするもんかよ!」

 ルイーゼが投げかける言葉をはねつけて、ソワレがアルバを信じる。アルバとコカベルは激しい攻防を続けていた。

「アルバ・・・!」

 アルバに助力したいと思いながらも無力とも痛感し、ルイーゼはただ戦いを見守ることしかできなかった。

「オレはお前を倒す・・そして燃え尽きはしない・・1人でどこかに行くようなこともしない・・・!」

 アルバが意思を口にして、コカベルの体に拳を叩き込む。コカベルが重い一撃を受けて、痛みを覚えて顔を歪める。

「ソワレとともに、町に帰る・・お前のようなふざけたヤツらに、邪魔はさせない・・!」

 アルバがさらに拳を振りかざして、コカベルを追い込んでいく。

「おのれ・・たとえユーダイムであろうと、我々アデスの旅立ちを阻むことは許されない・・・!」

 コカベルが声を振り絞り、全身から衝撃波を放つ。しかしアルバは押されずに踏みとどまる。

「私はアデスを統べるコカベル!我々は栄光の大海原へと再び漕ぎ出すのだ!」

 コカベルが両手に光を集めて、アルバに向ける。彼の光が一気にきらめいて放たれた。

 アルバが両手を広げてコカベルの閃光を受け止める。しかしアルバは押されて、岩の壁に叩きつけられる。

「アニキ!」

 ソワレがアルバに駆け寄ろうとしたが、コカベルの閃光の衝撃に押し返される。

「ソワレさん!」

 七瀬が飛び出してソワレを受け止める。ほくとも続いて2人を支える。

「七瀬、しっかりして!ソワレさん、大丈夫ですか!?

「お、お姉様・・・!」

 呼びかけるほくとに七瀬が声を上げる。

「とんでもねぇ力だ・・近寄れねぇ・・!」

 ソワレがアルバとコカベルの力のぶつかり合いに、緊迫を隠せなくなる。

「このままつぶれて、完全に消滅させてくれる!完全にユーダイムとして覚醒しないのであれば、貴様は我々の障害でしかないのだからな!」

 コカベルが高らかに言い放ち、閃光にさらに力を込める。アルバが光に押されてさらに岩場に押し込まれる。

(オレはここで立ち止まるわけにはいかない・・必ず帰る・・ソワレと一緒に・・・!)

 アルバが心の中で叫び、コカベルの光を押し返そうとする。光の圧力と筋肉の耐久力の限界で、彼の腕から血があふれ出す。

「いけない!アルバの体に限界が!」

 アルバの体の限界を目の当たりにして、ルイーゼが声を荒げる。

「このままじゃアニキが・・けど、オレには力が足りねぇ・・・!」

 ソワレが自分の無力を痛感して、憤りを浮かべる。

「アニキにできるなら、オレにだって・・だいたい、アイツやルイーゼの言うことがホントなら、オレにだって・・!」

 ソワレが自分がユーダイムだったことを自覚して、意識を集中しようとした。

「やめなさい、ソワレ!あなたまで過剰に力を解放したら・・!」

 ルイーゼがたまらずソワレを呼び止める。

「あなたをユーダイムから元に戻すのも簡単じゃなかった・・戻せるかどうかも分からなかったのよ・・あなたまでユーダイムの力を解放すれば、あなただけじゃなく、アルバも今度こそ・・!」

「言っただろ・・アニキにできるなら、オレにだって・・!」

 ルイーゼの忠告に言い返して、ソワレが全身に力を込める。

 アルバが両腕を振り上げて、コカベルの光を跳ね上げた。しかしアルバは大きく消耗し、満身創痍に陥っていた。

「これが上には上があるということだ。いや、貴様たちでは、たとえユーダイムとして目覚めようと、私を超えることはできんということだ。」

 息を乱すアルバに近づき、コカベルが見下ろす。

「オレたちのことを勝手に決めるな・・何度も言わせるな・・・!」

「勝手ではない。貴様たちが今、私に敗れ屈服する。紛れもない現実だ。」

 声を振り絞るアルバに、コカベルが冷淡に告げる。彼がアルバに向けて右手をかざし、光を集める。

「これで終わりにするぞ。たとえ我が同士であろうと、我々の栄光が阻まれてはならんのだ。」

 コカベルがアルバに向けて鋭い視線を向ける。アルバが抗おうとするが、体が思うように動かない。

「ユーダイム、お前との有意義なひとときも、終焉を迎える・・」

 ユーダイムとともに過ごせる幸福を噛みしめて、コカベルがアルバに光を放とうとした。

 そのとき、コカベルが突然体に蹴りを受けて、横に突き飛ばされた。この瞬間、アルバの視界に入ったのはソワレだった。

「ソワレ・・・!」

 ソワレに助けられたことに戸惑いを覚えるアルバ。しかし彼の戸惑いがすぐに陰った。

 ソワレからも淡く白い光があふれていた。その姿にアルバは覚えがあった。

「ソワレ・・お前、まさか・・・!?

 アルバが緊迫を浮かべながら声をかけた。彼はソワレがまたユーダイムになってしまったのではないかと、不安を感じた。

「オレも戦うぞ、アニキ・・・!」

 ソワレがアルバに振り向いて笑みを浮かべた。

「ソワレ・・お前なのか・・・!?

「また心配かけちまったが、オレはオレだぜ・・もうどこにも行ったりしねぇよ・・」

 アルバが問いかけて、ソワレが気さくに答える。ソワレは自我を失ってはいなかった。

「1人でダメだっていうなら、2人でやっちまえばいい・・オレたち兄弟はいつもそうしてきただろ・・?」

「ソワレ・・そうだな・・オレたちは、そうして戦い、生きてきた・・今までも、そしてこれからもだ・・・!」

 ソワレの言葉を受けて、アルバが落ち着きを取り戻して笑みを浮かべた。

「ユーダイム・・違う・・ヤツもユーダイムの力を使いながら、人格に変化がない・・・!」

 ソワレも完全にユーダイムになっていないことに、コカベルが驚愕を隠せなくなる。

「我が同士の力を持ちながら、我々に牙を向け徹底的に逆らう・・最大のイレギュラーだ・・・!」

 ユーダイムとして生を受けながらも、別人として立ちふさがるアルバとソワレを、コカベルが脅威を覚える。

「行くぞ、ソワレ・・!」

「おうよ、アニキ!」

 アルバとソワレが声をかけ合い、コカベルに向かっていった。

 

 

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