FIGHTING IMPACT

第7話

 

 

 ユーダイムとカイリたちのことを気にしながらも、ジヴァートマはデュークとの戦いで優位に立っていた。

「往生際が悪いぞ、タイプD。力任せの攻撃は私には通じん。」

 うずくまって息を乱しているデュークを見下ろして、ジヴァートマが不敵な笑みを浮かべる。

「お前は我々によって調整された点を除けばただの人間と同じ。我々に牙を向けたところで、牙を折られるしかないのだ。」

「オレを見くびるな・・オレの牙は、貴様らの首をかき切れるほどに研ぎ澄まされているぞ・・!」

 あざ笑ってくるジヴァートマに、デュークが鋭い視線を向ける。

「どうするの?そんな不様でも、手助けはいらないの?」

 リアンが笑みを浮かべてデュークに声をかける。

「言ったはずだ。手を出すなと・・ヤツはオレ1人で仕留める・・・!」

 デュークが力と声を振り絞り、ジヴァートマを見据えたままリアンに答える。

「フン。私も見くびられたものだな。まぁ、お前たちが束になろうと、この私に勝つことは不可能だがな。」

 ジヴァートマが不敵な笑みを浮かべて、全身から黒いオーラを放出する。

「お前たちにムダな時間を費やしているわけにはいかん。ここで塵にしてくれる。」

「瘴気を放つか・・ならば、この波動を食らわせてくれる!」

 不敵な笑みを見せるジヴァートマと、激情をあらわにするデューク。

「愚かな・・いや、哀れというべきか・・」

 ジヴァートマがデュークを嘲笑して、黒いオーラをさらに放出した。

 そのとき、ジヴァートマが突然体に衝撃を覚える。彼の後ろにリアンが回り込んでいた。

「デュークとの勝負に夢中になりすぎたわね。これは真剣勝負ではないのよ・・」

「ぐっ・・こ、小娘が・・・!」

 微笑みかけてくるリアンに対し、ジヴァートマがいら立ちを覚えて顔を歪める。

「貴様・・手出しするなと言ったはずだ・・!」

 デュークがいら立ちを見せるが、リアンが呆れた素振りを見せる。

「別にあなたの言いなりになっているわけじゃないわ。だから勝手にやらせてもらうわ。」

「くっ・・まったく。やはりお前はおしとやかではないな・・」

 自分の考えを告げるリアンに、デュークがため息をつく。彼が右手から放った波動の衝撃波が、攻撃のタイミングを外したジヴァートマを吹き飛ばした。

「まさかここで加勢が入るとはな・・お互い、思い通りにならないことには我慢がならないな・・・!」

「だがお前はさらなる屈辱を味わうことになる・・敗北という屈辱をな・・!」

 いら立ちを募らせるジヴァートマに、デュークが不敵な笑みを見せる。

「いい気にならないでもらおうか・・己の分をわきまえない愚か者が・・!」

 ジヴァートマが憤りを募らせて、また体から黒いオーラをあふれさせる。

「この力は私の真の力・・お前たち全員を、ここで闇の中に葬り去ってくれる・・!」

 ジヴァートマがデュークに向けてオーラを解き放つ。デュークが両腕でオーラを受け止めて、踏みとどまろうとする。

「受け止めたか。だが何秒持つかな?」

 ジヴァートマが笑みを強めて、さらにオーラを注ぎ込む。デュークが押されて廊下の先の壁に押し付けられる。

 リアンがジヴァートマに向けて手刀を繰り出すが、ジヴァートマのオーラに攻撃を止められる。

「小娘の攻撃など、もはやわざわざよけるまでもない・・」

 ジヴァートマが振り向かずにリアンに言いかける。

(あの力を貫くには力が足りない・・でも私にそれだけの力はない・・支援要請でも私たちのいる階層まで貫いて、ジヴァートマまで届かない・・!)

 打開の糸口を探るリアンだが、ジヴァートマの力を打ち破る手立てが見つからない。

「お前たちを葬り、私はユーダイムに加勢する。誰も我々アデスを止めることはできん。」

 ジヴァートマが勝ち誇り、デュークを押しつぶそうとした。

 そのとき、1つの弾丸がジヴァートマをオーラごと貫いた。

「な、何っ!?

 突然のことにジヴァートマが驚愕する。弾丸を撃ったのはリアンではない。

「私のことを忘れてもらっては困るわね・・あなたを無傷で拘束するのは難しいようね・・」

 シャロンがジヴァートマに向けて微笑む。彼女が手にしたアサルトライフルの弾丸が、ジヴァートマとオーラを貫いたのである。

「そ、そのような武器を持っていたとは・・!?

 ジヴァートマがうめきながらシャロンに目を向ける。

「ぬうおおぉぉぉー!」

 デュークが力を振り絞り、ジヴァートマが放ったオーラを握りつぶした。

「まさか、我々が改造した強化人間が、私の力を上回るとは・・!」

 デュークの力を痛感して、ジヴァートマが緊迫を覚えて後ずさりする。

「オレやお前たちにまつわる真実を確かめるため、オレは戦う・・アデスを滅ぼしてでも・・・!」

 デュークが意思を見せて、ジヴァートマに迫る。

「君ほどの男が従順であったなら、アデスはさらに強固な存在となっただろうに・・・」

「オレはお前たちの飼い犬ではない・・犬は犬でも、地獄の番犬というところか・・・!」

 笑みをこぼすジヴァートマに、デュークが拳を振りかざす。彼の渾身の一撃が、ジヴァートマの体に叩き込まれた。

「がはっ!」

 ジヴァートマが吐血して、床の上を激しく昏倒する。鮮血をまき散らした彼が仰向けに倒れて動かなくなる。

「ま、まさか・・私が不様に敗れるとは・・・」

 起き上がれなくなったジヴァートマの前に近寄り、デュークが見下ろす。

「不本意だが、お前の勝ちのようだ・・好きにするがいい・・・」

 とどめを刺されることを覚悟するジヴァートマ。デュークが彼を見下ろして、拳を握りしめる。

「そうさせてもらおう・・・」

 デュークが真剣な面持ちでジヴァートマに言いかける。ジヴァートマが死を確信して目を閉じた。

 しかしデュークはジヴァートマにとどめを刺すことなく、きびすを返した。

「どういうつもりだ?・・なぜとどめを刺さん・・・?」

 ジヴァートマがデュークの行動に疑問を覚える。

「お前の言う通り、勝手にさせてもらうだけだ・・お前はオレの求める真実を語らん。ならばお前にもう用はない・・」

 デュークがジヴァートマに背を向けたまま、自分の考えを口にする。

「まさか、あなたがこうも甘いとはね・・」

 リアンがデュークに呆れて苦笑をこぼす。

「彼女の言う通りだ・・私を長らえさせれば、いつか必ず、私は君を処罰するために現れるだろう・・」

「ならばまた返り討ちにするまでだ・・地獄に逝きたければ、いつでもかかってこい・・・」

 忠告を送るジヴァートマに言葉を返してから、デュークが歩き出す。

「あくまでジャランジという人を探して聞き出そうというのね・・」

 デュークの考えにリアンが呆れ果ててため息をつく。

「私からも言っておくわ。デュークの息の根を止めるのは私よ。邪魔をするならたとえ誰だろうと容赦しないから、あなたたちもそのつもりでね・・」

 ジヴァートマに忠告を投げかけてから、リアンがデュークに続いて歩き出す。

「2人のことも見逃せないけど、まずはあなたを連行しないとね・・」

 シャロンがジヴァートマに近づき、見下ろして言いかける。

「あなたからは聞きたいことがたくさんある・・」

「この私が、そうやすやすと同士を売る軽い男だと思っているのか・・?」

 腕をつかんできたシャロンに、ジヴァートマが嘲笑を投げかける。シャロンがジヴァートマを連れて移動しようとした。

 そのとき、シャロンが突然強い衝撃に襲われて、壁に激しく叩きつけられた。吐血した彼女がうなだれて動かなくなる。

(この力は・・!)

 ジヴァートマが実感した気配に緊迫を覚える。

「まさか貴様まで不様をさらしているとはな、ジヴァートマ。」

 倒れているジヴァートマの前に現れたのはコカベルだった。

「コ、コカベル様・・おいでになられていたのですね・・・!」

 ジヴァートマがコカベルを見て息をのむ。

「我らアデスの栄光への旅立ち、失態は一切許されない。ジヴァートマ、お前ほどの者が滑稽だったな・・」

 コカベルが冷徹に告げると、ジヴァートマに左手をかざしてきた。

「コ、コカベル様・・!?

 目を見開くジヴァートマが、コカベルの左手から放たれた光に巻き込まれたジヴァートマが身動きの取れないまま、光の中に消えた。

「貴様は進化の歴史から外れた。この先の未来を進む資格は、貴様にはない。」

 ジヴァートマを見限り、コカベルが視線を移す。

「ユーダイムも戦っているな。ヤツも手こずっているのか。」

 コカベルがユーダイムの気配を感じ取り、目つきを鋭くする。

「全ての邪魔者は一掃する。最終的には私の手によって。アデスの旅立ちは迅速に、確実に遂行されなくてはならんのだ。」

 自分たちの目的を果たすことのみを考えて、コカベルはこの場を離れた。

 

 カイリとユーダイムの攻防は過激さを増していく。2人は体力を消耗して、呼吸を乱していく。

(これでは消耗戦になるばかり・・ソワレを呼び覚ますカギは、兄であるアルバ・・・!)

 ルイーゼがユーダイムとアルバに目を向けて、戦況の打開を信じる。

「思い出せ、ソワレ・・オレと過ごしてきた日々を・・!」

 アルバがユーダイムに向けて呼びかける。アルバはソワレに思いを伝えようと必死になっていた。

「孤児院にいた頃、お前は院にいたヤツとケンカをして、飛び出して帰ってこなかったことがあった。オレが必死に探して、見つけたときにお前はオレに泣きついてきたな・・」

 ソワレとの思い出を語っていくアルバ。彼はソワレと記憶と思い出を通わせようとする。

「女性を口説こうとして、逆に罠にかかって滅多打ちにされたお前を、オレが助けたこともあったな。痛い目にあったはずなのに、お前は懲りなかったな・・」

「それがどうした?オレはユーダイム。ソワレなどではない。」

 アルバが思い出を語っていくが、ユーダイムは態度も考えも変えず、彼にも飛びかかり攻撃を仕掛ける。

「サウスタウンに来たとき、オレたちはフェイトをキングにしようと躍起になっていた。フェイトが死んだ後はオレをキングにしようとしてくれたが、その姿勢は変わっていない。」

 さらに話を続けるアルバ。ユーダイムが彼の体に拳を叩き込んだ。

「ぐっ!」

「お前のくだらない話に耳を貸すつもりはない。」

 うめくアルバにユーダイムが冷徹に告げる。

「オレはアデスのユーダイム。闇の牙であるオレは、アデスの栄光ある目的のため、戦うのみ。」

 怯むアルバにユーダイムが迫る。そこへカイリが飛び込み、ユーダイムに膝蹴りを繰り出す。

「お前の相手はオレだ・・!」

「性懲りなく、オレたちの邪魔を・・!」

 低い声音で告げるカイリに、ユーダイムが目つきを鋭くする。2人がさらに重みのある打撃のぶつかり合いを繰り広げる。

「オレはオレ自身の答えを見出そうとした・・オレ自身の力で・・ソワレと言ったな・・お前の自分の答えを見出そうとする力は、その程度なのか・・!?

 カイリもユーダイムに向けて呼びかける。

「この程度のことで屈するような情けない男ではない・・お前の兄はそう思っている・・・!」

「お前までわけのわからないことを口にする。それで惑わされるオレではない。」

 カイリが投げかける言葉にも、ユーダイムは冷淡に言い返す。

「そろそろ終わりにする。オレたちにはやることが残っているからな。」

 ユーダイムが全身から白いオーラをあふれさせて、身体能力を増強させる。

「うっ!」

「キャッ!」

 一気に加速したユーダイムの拳を受けて、ほくとと七瀬が突き飛ばされる。ユーダイムの戦闘力が飛躍的に増していた。

「ソワレ、いつまでそのようなヤツのいいようにされているつもりだ・・!?

 アルバが激情をあらわにして、ユーダイムに拳を繰り出す。だが彼の一撃を受けても、ユーダイムは押されない。

「もはやお前たちの力はオレには通用しない。オレが全員、この爪で切り裂く・・」

「ソワレ、目を覚ませ・・これ以上、オレに不様を見せるな・・・!」

 無表情に言いかけるユーダイムに鋭く声をかけて、アルバが力を込めた拳を再び繰り出す。

「お前たちの力は通じないと言っている。」

 ユーダイムも拳と足を振りかざし、アルバの打撃とぶつけ合う。アルバが衝撃に襲われて痛みを覚えるが、耐えてユーダイムを攻め立てる。

「戻ってこい、ソワレ!お前はオレの弟!オレと一緒に、サウスタウンに帰るんだ!」

 アルバがユーダイムと拳をぶつけ合う。その直後、アルバが足を振り上げて、ユーダイムを宙に跳ね上げる。

「幻影雷神流星拳!」

 アルバも跳んでユーダイムに連続で拳を叩き込む。

「お前から息の根を止める・・!」

「戻ってこい、ソワレ!」

 目つきを鋭くするユーダイムと、ソワレへの思いを込めるアルバ。ユーダイムが振りかざした爪からの漆黒の刃と、アルバの旋風を伴った拳がぶつかり合う。

 2人の衝突による衝撃が彼らの体に強い圧力を与えていく。

(な、何だ!?・・おかしな感覚だが・・懐かしく思う・・・!?

 広がる白い閃光の中、ユーダイムが違和感を覚えて目を見開く。

(この光景・・何だ?・・何だ・・!?

 光の中で見えてくる光景に、ユーダイムが疑問を募らせる。その光景が全く覚えがないと、彼は思えなかった。

 

 この日、ソワレは大勢の男たちとの闘いを強いられることになった。男たちはメフィストフェレスの残党や、アルバがサウスタウンのキングになったことに異を唱える者など、様々だった。

 1人1人の力はソワレを下回っていた。しかし男たちは徒党を組み、なだれ込むようにソワレに襲い掛かってきた。

 ソワレは苦戦を強いられながらも、男たちを全員返り討ちにした。その後、ソワレはボロボロの状態で廃墟の壁にもたれかかっていた。

「まさか1人で片づけるとはな、ソワレ・・・!」

 疲れ果てているソワレの前に、アルバが駆けつけた。

「遅かったな、アニキ・・アニキの分、残してやれなかったぜ・・・」

 ソワレが気が付いて、アルバに作り笑顔を見せる。

「そのことはいい・・間に合わなくてすまない・・」

「気にすんなって・・アニキが出るまでもない相手ばっかだったから・・」

 謝るアルバにソワレが満面の笑みを浮かべた。

「帰ろう、ソワレ。街のみんなが待っている・・」

「おっと・・みんなにも心配かけちまったらやべぇぜ・・・」

 手を差し伸べてきたアルバの手をつかんで、ソワレが立ち上がった。

「次は今回のようなヤツらが出てきたら、オレが相手をする。あまり他のヤツに任せ切りだと、体がなまってしまうからな・・」

「そういうことなら、次はアニキに任せようかな・・ま、一緒に戦うっていうのもいいけどな・・」

 言いかけるアルバにソワレが気さくに答える。ソワレがアルバの肩を借りて、一緒に歩き出す。

「ソワレ、オレたちはこれからも一緒だ・・」

「もちろんだ、アニキ・・メイラ兄弟は不滅だぜ・・・」

 決して離れ離れにならないという確信を抱いて、アルバとソワレは安らぎを感じていた。

 

 頭によぎった光景に、ユーダイムは心を揺さぶられていた。

(どういうことだ・・オレはこんなこと、知らないはずなのに・・・!?

 光景の中のひとときに疑問を感じて、動揺を募らせるユーダイム。彼は次第に頭に痛みを覚える。

(何だ、この痛みは!?・・考えるとなぜ痛みを覚える・・!?

 激しくなる頭痛に耐えられなくなり、頭を抱えるユーダイム。

(オレはユーダイム・・アデスの闇の牙、ユーダイムだ・・・!)

 彼は必死に自分に言い聞かせて、痛みと悩みを振り払おうとする。

(オレたちは帰る・・麗しい空の世界へ・・・!)

“違う・・オレが帰るのはそんなおかしなとこじゃない・・・!”

 そのとき、ユーダイムの脳裏に声が響いてきた。それは彼自身と同じ声。

(オレには果たすべき役目がある・・オレは、アデスのユーダイム・・・!)

“オレは、サウスタウンのソワレ・メイラ!キング、アルバ・メイラの弟だ!”

 流れてくる声を拒絶しようとするユーダイムだが、声は感情を込めてさらに響き渡ってくる。

「お前は誰だ!?オレはユーダイム!ハデスの闇の牙だ!」

 激情を抑えられず、ユーダイムが叫び声を上げる。

“オレは帰るんだよ!アニキのところへな!”

 ユーダイムの中に声と思いが広がった。ソワレの意識がユーダイムの力を押し返した。

 

 アルバとユーダイムの攻撃の衝突による閃光が消えた。アルバが着地して、ユーダイムがその場で膝をついた。

「アルバさん・・ソワレさんは・・・!?

 ほくとがアルバたちを見つめて戸惑いと緊張を感じていく。

「ソワレ、いつまでも寝ている場合ではないぞ・・早く帰ろう・・みんなが待っている・・・」

 アルバが静かな様子で手を差し伸べてきた。

「ア・・・アニ・・キ・・・」

 そのとき、ユーダイムの口から声がもれて、アルバたちが耳にした。

「ソワレ!?ソワレなのか!?

 アルバが戸惑いを感じて歩み寄る。

「アニキ・・オレ、一体・・・!?

「ソワレ、戻ってきたんだな・・オレの弟、ソワレ・メイラ・・・!」

 周りを見回すソワレに、アルバが喜びを覚える。目の前にいるのはユーダイムではなく、ソワレだった。

「まさか、ユーダイムからソワレを呼び戻したなんて・・・!?

 ソワレがユーダイムの呪縛から解放されたことに、ルイーゼは驚きを隠せなくなる。

「アニキ、オレ、何をしてたんだ・・・!?

 ソワレがアルバたちに疑問を投げかける。

「ソワレ、お前はアデスに操られていたんだ・・」

「アデス・・オレが、操られてた・・・!?

 アルバが説明するが、ソワレはまだ記憶が混乱して困惑していた。

「今は深く考えなくていい。今は休むのが先決だ・・」

 アルバが励ましの言葉をかけて、ソワレに肩を貸す。

「戻ってきたのだな、弟が・・」

 カイリが呟き、アルバとソワレが彼に目を向ける。

「な、何だ、おめぇは!?全身傷だらけじゃんか!」

 ソワレがカイリの姿を見て驚く。

「その男と、そのお嬢さんたちに助けられた。そして彼女にも・・」

 アルバがカイリ、ほくとと七瀬、そしてルイーゼに目を向ける。

「アンタは、あのキングオブファイターズに出ていた・・!?

「ルイーゼ・マイリンクよ。改めてよろしく。」

 声を荒げるソワレにルイーゼが微笑みかける。2人が手を差し出して握手を交わす。

「何がどうなってんのかさっぱり分かんねぇけど、話は落ち着ける場所に行ってからだな・・」

 ソワレが言いかけて、ルイーゼが頷きかけた。

 そのとき、ルイーゼが気配を感じ取り、緊迫をあらわにする。

「どうした、ルイーゼ・・?」

「この力・・まさか、あの人が・・・!?

 アルバが問いかけるが、ルイーゼは体の震えを止められない。

「久しぶりにユーダイムに会えると思っていたのだが・・」

 声がかかり、カイリたちが振り返る。

「やはり、あなたはコカベル・・・!」

 ルイーゼが現れたコカベルに声を荒げる。

「貴様もここにいたか、ラキア・・ユーダイム、また不様をさらすことになるとは・・」

 コカベルがルイーゼに目を向けて、ソワレに視線を戻す。

「ユーダイム・・オレのことを言ってるのか・・!?

 ソワレがコカベルの言葉に疑問を覚える。

「どうやらソワレ・メイラの意識が目覚めてしまったか。ユーダイムも永い眠りについていたため、本領発揮できなかったか・・」

 ソワレの様子を見て、コカベルが毒づく。

「そしてこの者たちが、ジヴァートマが目を付けた強靭の戦士たちか。」

 コカベルはカイリ、ほくと、七瀬に視線を向けていく。

「私はアデスの統治者、コカベル。我々の新たな船出のため、貴様たちにはその人柱となってもらう。」

「お前がオレたちを狙う集団の頭か。だがオレたちを思い通りにすることはできないぞ・・」

 名乗るコカベルにカイリが落ち着いた様子で言葉を返す。

「我々の栄光ある船出を阻むことは誰にもできぬ。貴様たちは私の力の前に屈服することになるのだ。」

 コカベルが淡々と言いかけると、左手を掲げて強く握りしめる。彼の手から爆発のような衝撃が巻き起こる。

「うあっ!」

「キャッ!」

 カイリたちが衝撃波に押されて、地面を転がり岩場や木の幹に叩きつけられた。

「な、何という力・・今まで出会った人の中で、最も強いかもしれない・・・!」

 体を起こしたほくとがコカベルの力を痛感する。

「どれほどの強さを備えていようと、貴様たちは束になろうと、私の手から逃れることはできん。」

 コカベルがひと息ついてから、カイリたちに鋭い視線を向ける。

「コカベルはアデスを統べる存在・・それだけの強さを備えているのよ・・・!」

 ルイーゼがコカベルを見据えて、声を振り絞る。彼女はコカベルの強さも威圧感も知っていた。

「けどそいつが、オレたちをムチャクチャにしようとした張本人なんだろ・・!?

「オレたちの心を踏みにじり、ソワレを徹底的に利用しようとしたお前たちを、オレは許すつもりはない・・・!」

 ソワレが憤りを見せて、アルバが鋭く言いかける。

「コカベルと言ったな・・お前には、ここで消えてもらう・・2度とオレたちの前に現れないように・・・!」

「その闘志・・記憶を失っても、我々を刺激する闘争本能は消えはしていないようだな。」

 構えを取るアルバを見て、コカベルが笑みを浮かべる。

「お前も忘れているようだな、ユーダイム。ユーダイムという存在は、お前たち2人で1つの存在なのだ。」

「オレたちが、2人で1つ・・!?

「どういうことだよ、そりゃ・・!?

 コカベルの告げる言葉にアルバとソワレが驚く。

「1つの意識を共有する2つの闇の牙。アルバ・メイラ、貴様もまたユーダイムなのだ。」

「ユーダイム・・あの男、ジヴァートマはオレのことをユーダイムと呼んでいた・・」

 コカベルの言葉を聞いて、アルバが記憶を巡らせる。

「だがオレはアルバ・メイラ。コイツは弟のソワレ・メイラだ。ユーダイムなどではない。」

「これ以上、オレたちを思い通りにできると思ったら、大間違いだぜ!」

 揺るがぬ意思を示すアルバと、強気に言い放つソワレ。

「私も、あなたたちのような人たちを野放しにするわけにはいきません・・」

「お兄様を連れていこうとしたアンタたちを、あたしも許さないんだから!」

 ほくとと七瀬もコカベルに憤りと強い意思を見せる。

「私とアデスの力を理解せず、逆らい続けようとする愚か者たち・・その体で思い知るがよい。」

 コカベルが目つきを鋭くして、宙に浮いて全身から衝撃波を放つ。カイリたちが耐えて、コカベルから目をそらさない。

「何でもかんでも思い通りにしようとするアンタは、あたしがやっつけてやる!」

 七瀬が棍を構えて、コカベルに向かって飛びかかる。

「愚かな・・」

 コカベルが左手をかざして念力を放つ。七瀬が念力に捕まって、空中で動きを止められる。

「七瀬!」

「うわっ!」

 ほくとが叫ぶ前で、七瀬がコカベルに振られて地面を転がる。

「下等な脳しか持ち合わせていない貴様たちに、私に触れることすらおこがましいこと・・」

 コカベルが七瀬やカイリたちを見下して言いかける。

「だが人間全てが愚かとは言わん。優秀な頭脳の持ち主もいるからな。」

「それが、博士たちの拉致ということね・・」

 笑みをこぼすコカベルにルイーゼが言いかける。

「そうだ。栄光ある我々だが、宇宙へ出るための科学までは失われている。そこでこの星の選りすぐりの頭脳の持ち主を集め、宇宙に漕ぎ出す船を作らせている。」

「無理やり働かせているくせに・・自分たちのために、関係ない人たちを・・・!」

 語りかけるコカベルに、ルイーゼも憤りを噛みしめていく。

「我々の栄光の架け橋を作ることは、名誉あることだ。彼らも光栄に思っている。」

「どこまでも自分中心に考えやがって・・・!」

 悪びれることのないコカベルに、ソワレがいら立ちを募らせる。

「自分たちのためだけの行為がお前たちの栄光か?滑稽もいいところだ・・!」

「不条理によってもたらされる死の恐怖がどのようなものか、お前も理解するのだな・・・!」

 アルバとカイリがコカベルに鋭く言いかける。ほくととルイーゼも諦めてはいない。

「もはやお前たちを死の寸前まで追い詰めるのみ。その後でお前たちの強靭な肉体を有効活用するだけだ。」

 コカベルが全身から淡い光を発する。彼の力を目の当たりにして、ルイーゼが緊迫を募らせる。

「みんな、気を付けて・・コカベルの力は、ジヴァートマを大きく上回るわ・・!」

 ルイーゼが忠告を送り、カイリたちが気を引き締めなおす。

「注意したところで、私から逃れることはできぬ。観念したほうが楽というものだ。」

 コカベルが言いかけると、再び全身から衝撃波を放つ。

「ぐっ!」

 アルバたちがコカベルの力に耐えて踏みとどまる。

「オレたちは帰る・・サウスタウンへ・・オレたちの街へ・・・!」

「アニキ・・そうだ・・オレたちは帰るんだよ・・2人一緒にな・・!」

 アルバとソワレが声を振り絞り、決意を口にする。自分たちの帰郷のため、彼らはコカベルに立ち向かった。

 

 

 

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