FIGHTING IMPACT

第6話

 

 

 アルバたちの侵入に気付いたジヴァートマは、危機感を感じることなく笑みを浮かべていた。

「ついに来たか・・ユーダイムが回復するまでは持ってもらうぞ。」

 ジヴァートマが後ろに目を向ける。彼らの施しを受けたカイリに。

「この男を向かわせる。私もすぐに行く。」

 ジヴァートマが黒ずくめの男たちに指示を出して、アルバたちの迎撃に備える。

(コカベル様がいらっしゃるのだ。私とて不様をさらすわけにはいかぬ・・)

 ジヴァートマが笑みを消して気を引き締める。彼はここでの失態は許されないと考えていた。

 

 警報を聞きつけて次々に飛び出してくる黒ずくめの男たちを、アルバたちが即座に撃退していく。彼らはソワレとカイリを捜して、施設内を駆け抜けていく。

「ソワレたちはどこだ・・!?

「ここからさらに地下に気配を感じるわ・・!」

 アルバが問いかけて、ルイーゼが感覚を研ぎ澄ませて答える。

「でもあなたたちのお兄さんが、こちらに向かってきている・・!」

「カイリが・・!?

 ルイーゼが続けて言いかけて、ほくとが戸惑いを覚える。

「アデスがやすやすと解放するとは思えない・・洗脳されている可能性があるから、気を付けて・・・!」

「お兄様が、あたしたちを襲うなんて・・・!」

 ルイーゼからの注意を聞いて、七瀬が不安を浮かべる。

 アルバたちが廊下を抜けて広場にたどり着いた。広さも天井の高さもある場所だった。

 その広場にカイリはいた。アルバたちを待ち受けるように彼は立っていた。

「お兄様・・・!」

「カイリ・・様子がおかしい・・まさか、本当に操られて・・・!?

 七瀬が当惑を覚えて、ほくとがカイリの異変を直感する。

「大丈夫ですか、カイリ?・・私の声が分かりますか・・・?」

 ほくとがカイリに向けて声をかける。するとカイリがほくとの眼前まで迫ってきた。

「うっ!」

 カイリが突き出した拳を体に受けて、ほくとが壁に叩きつけられる。

「お姉様!」

 七瀬がほくとに叫んで、カイリに視線を戻す。

「お兄様、やめて!もうあたしたちと戦う必要はないんだよ!」

 七瀬が呼びかけるが、カイリは反応を見せない。

「やはり、洗脳されて、命令されるままに行動している・・・!」

 ルイーゼがカイリの異変を見て呟く。

「ほくとさんにも七瀬さんにも、躊躇なく攻撃してくるわ・・自分の意思ではなく、アデスの命令で・・・!」

「お兄様、目を覚まして!あんな人たちの言いなりになるような弱い人じゃないよ、お兄様は!」

 ルイーゼの言葉をはねつけるように、七瀬がカイリに呼びかける。するとカイリが七瀬に飛びかかり、拳を振りかざす。

 そのとき、アルバが七瀬の前に飛び込み、カイリの拳を拳で受け止めた。

「まやかしに惑わされ、己の妹を手にかけようとするとは・・お前が生き抜いてきた修羅の道とやらは、それほど平坦だったというのか・・!?

 アルバがカイリに向けて鋭く言いかける。アルバが電撃を帯びた左の拳を繰り出して、カイリを引き離す。

「オレがカイリの相手をする。七瀬はオレが食い止めている間に呼びかけて、目を覚まさせろ・・」

「アルバさん・・!」

 アルバの呼びかけに七瀬が戸惑いを募らせる。

「オレがソワレを救いたいように、君とほくとはカイリを救いたいと思っている。その思いを届けるのは、君たちの役目だ。」

「ありがとうございます、アルバさん・・私はカイリを止める・・たとえ今のように操られていなくても、その気持ちは変わりません・・・」

 激励を送るアルバに感謝して、ほくとが立ち上がりカイリを見据える。

「カイリ、あなたはこんなことで自分を見失ってしまうのですか!?・・あなたは自分が生きるために戦ってきた・・今のあなたの戦いは、あなたのための戦いなのですか・・!?

 ほくとがカイリに向けて呼びかける。カイリがほくとを狙って飛びかかるが、アルバに行く手を阻まれる。

「お前が拳を交える相手はオレだ・・!」

 アルバがカイリに拳を振りかざす。カイリも応戦して、アルバと激闘を繰り広げる。

(ソワレ、お前もカイリのように、操られていることが我慢ならないと思っているのか?・・心のどこかで、アデスに手の中にいることに抗っているのか・・?)

 カイリと対峙する中、アルバはソワレのことを考える。

(助け出してみせるぞ、ソワレ・・カイリ、お前もだ・・・!)

 決意を固めたアルバがかまいたちを放つ。カイリは横に動いてかわし、さらに衝撃波でかまいたちをかき消す。

「羅漢風方拳!」

 アルバが一気に詰め寄り、カイリに風をまとった拳を繰り出す。カイリは吹き飛ばされながらも、体勢を整えて着地する。

「操られていても、強さに変化はないようだ・・それでも、オレは・・」

 カイリの強さを分析して、アルバは冷静に事を構える。

「お兄様、目を覚まして・・あたしとほくとお姉様のことを、思い出して・・・!」

 七瀬がカイリに向けて、思いを込めて必死に呼びかける。

「カイリ、あなたを縛るものは何もないのです・・あなたを脅かす敵も、あなたを操るものも・・・!」

 ほくとも続けてカイリに呼びかける。しかしカイリは答えることなく、アルバに拳を振り上げる。

 さらにカイリが空中から鋭利な蹴りを繰り出す。

「甘い・・!」

 アルバが構えを取ってカイリの蹴りを受け流す。カイリは動じることなく着地し、アルバへの攻撃を続ける。

「カイリ、やめて!あなたがこんな戦いを望んでいないはず!」

 ほくとが呼びかけて、気の弓矢を構えてカイリを見据える。

(あなたを呼び戻す・・そのために私は、私の命を賭ける・・・!)

 カイリへの思いを募らせて、ほくとが気を高めて狙いを定めた。

 

 ほくとたちと洗脳されているカイリの戦いを、ジヴァートマは感じ取っていた。

「やはり苦戦しているな、ヤツらは。自分たちの肉親に本気になれず、手にかけることを躊躇するとは、実に滑稽だ。」

 カイリに追い詰められているほくとたちに、ジヴァートマが嘲笑を浮かべる。

「愚かな人間たちは、我々が有効活用する必要があるということか・・」

「その目的のために、あなたは関係ない人を手にかけてきたのね・・・!」

 声をかけられてジヴァートマが視線を移す。次の瞬間が1発の銃弾が彼に向かって飛んできた。

 ジヴァートマは冷静に手を振りかざして、銃弾をはじき返した。

「まだネズミが忍び込んでいたか。ラキアたちに意識を傾け過ぎたようだ。」

 笑みをこぼすジヴァートマの前に、1人の赤髪の女性が姿を現した。

「我々を追うエージェントか。逮捕か、暗殺か。いずれにしろ君たちの思惑通りにはならんな。」

 ジヴァートマが女性、シャロンに不敵な笑みを浮かべる。

「あなたたちが私の両親の行方の手がかりかもしれない・・アデス、あなたたち全員を連行するわ・・!」

 シャロンが銃を構えてジヴァートマに警告する。しかしジヴァートマは笑みを絶やさない。

「お前たちごときに止められる我々ではない。」

 ジヴァートマが右手を伸ばして、シャロンが回避して再び発砲する。ジヴァートマが難なくかわして、右腕を振りかざしてシャロンの銃を弾く。

 シャロンはジヴァートマに飛びかかり、接近戦を仕掛ける。

「射撃だけでなく、格闘技も心得ているか。その腕は確かだが、私を脅かすほどではない。」

 ジヴァートマがシャロンの膝蹴りをかわすと、彼女に突きを連続で当てる。

「うっ!」

 突き飛ばされて壁に叩きつけられたシャロンがうめく。ジヴァートマが繰り出した波動の球を、シャロンは寸でのところでかわした。

「私には用事があるのだ。邪魔をしないでもらおう。」

「用事があるのはオレも同じだ。」

 不敵な笑みを浮かべるジヴァートマが、再び声をかけられる。デュークがリアンを伴って姿を現した。

「まさか貴様までここに来ていたとはな、タイプD。」

「その名を口にするな・・虫唾が走る・・・!」

 振り返るジヴァートマに、デュークが首元に手を当てていら立ちを浮かべる。

「ジャランジはどこにいる?ここにいるという情報を得た・・」

「知ったところで何になるという?何にしろ、この国にはいないがな。」

 デュークの問いかけに、ジヴァートマが笑みを浮かべたまま答える。

「貴様に改造手術を施した博士、ジャランジ。彼が貴様の妹に関して知っていると思っているのだろうが、今の貴様には何の意味もない。アデスの一員となった貴様には・・」

「それを決めるのは貴様や他の連中ではなく、オレだ・・」

 あざ笑ってくるジヴァートマに、デュークが鋭い視線を向ける。

「オレは妹の病気を治してくれることを条件に、手術を受けアデスに加わった。だが妹は死んだ。それがお前たちの謀略だというならば、オレはお前たちを許すつもりはない・・!」

「そんなことで我々を裏切ったというのか?実に滑稽だ・・」

 自分の過去を思い返すデュークを、ジヴァートマがさらに嘲笑する。

「裏切り者には処刑あるのみ。貴様の死刑執行は、私が務めることにしよう。」

 ジヴァートマは質問に答えることなく、デュークを抹殺しようと構えを取る。

「問答無用か。ならばお前はここで始末し、ジャランジを見つけて直接聞き出すまでだ・・」

 デュークが掲げた右手を強く握りしめる。

「お前は手を出すな。支援はここまでは届かんからな。」

「1人で戦うつもり?後で泣きつかないでよね、デューク・・」

 呼びかけるデュークにリアンが肩を落とす。

(デューク・・アデスの下部組織の1つ、メフィストフェレスのボス・・アデスと裏切り、敵対してくるとは・・・!)

 シャロンがデュークに目を向けて息をのむ。

「愚かなことだ。2度と刃向かえぬよう、完全停止させてやろう。」

 ジヴァートマが目つきを鋭くして、デュークに向けて腕を伸ばす。デュークが腕をかわして、ジヴァートマに拳を振りかざす。

「力一辺倒で倒せるほど、私は浅はかではないことを忘れたか、タイプD?」

「その名でオレを呼ぶな、ジヴァートマ!」

 笑みをこぼすジヴァートマにデュークが怒号を放つ。彼が握りしめた右の拳を振り下ろす。

 デュークの拳が床に直撃して、周囲をも大きく揺さぶる。リアンとシャロンが下がり、ジヴァートマは宙に浮いて回避する。

「本当の力がいかに気高いものか、死と共に思い知るがいい。」

 ジヴァートマが強気に言いかけて、デュークに光の球を放った。

 

 体力を回復して意識を取り戻したユーダイム。彼は黒ずくめの男たちから状況を聞いていた。

「分かった。オレも侵入者の抹殺に向かう。」

 男たちに言いかけて、ユーダイムが歩き出す。彼はアルバたちを倒すために行動を開始した。

「お前がアデスのユーダイムか。組織に戻ってきたって聞いたが、本当だったようだな。」

 施設内の廊下の途中で声がかかり、ユーダイムが足を止める。彼の前に1人の男が現れた。

「オレを裏切った組織に協力している連中の1つがお前らだ。このロッソの怒りを受けてもらうぜ。」

 男、ヴルカーノ・ロッソがユーダイムに言いかける。

「オレにはやるべきことがある。ここで時間をムダに費やす暇はない。邪魔をするなら命を落とすことになるぞ。」

 ユーダイムが冷静に言いかけて、ロッソに忠告を送る。

「命懸けの戦いなら、とっくの昔に始めている。お前らに心配される必要も、お前らの言うことを聞く必要もない。」

 ロッソは退こうとせず、ユーダイムに立ち向かおうとする。

「ならば、お前もここで死んでもらう。」

 ユーダイムが足を振り上げて、かまいたちを飛ばす。ロッソは横に動いてかわし、右腕を振りかざして衝撃波の刃を放つ。

 ユーダイムは左腕を振りかざして、衝撃波をはじき飛ばした。

「この程度でオレに戦いを挑むとは、浅はかにもほどがある・・」

 ユーダイムは吐息をひとつついて、ロッソにゆっくりと近づいていく。

「オレの復讐のため、オレに撤退や逃亡の選択肢はない・・!」

 決意を固めているロッソがユーダイムに立ち向かう。加速するロッソがユーダイムの体に拳や蹴りを叩き込んでいく。

 しかしユーダイムはロッソの攻撃を受けても平然としている。

「ムダな時間を費やすつもりはないと言った。すぐに息の根を止める。」

 ユーダイムが振り向きざまに拳を繰り出し、ロッソの体に叩き込む。

「がはっ!」

 痛烈な一撃を受けて、ロッソが衝撃に揺さぶられて吐血する。壁に叩きつけられてうつむくロッソに、ユーダイムが近づく。

「ここで息の根を止める。身の程をわきまえずにオレと戦った己の愚かさを呪うのだな。」

 ユーダイムが告げて、ロッソにとどめを刺そうと拳を構える。

「己の無力さよりも、何もしないことが愚かなことがある・・!」

 ロッソが声と力を振り絞り、拳を前の床に叩きつける。拳の当たった床からユーダイムに向けて火柱が伸びた。

 ユーダイムを巻き込んだ火柱が周囲をも巻き込んだ。

 

 洗脳されているカイリを食い止めるアルバとルイーゼ。ほくとがカイリへの思いを込めて、気の弓矢を構える。

(お願い、カイリ・・七瀬のため、そしてあなた自身のために、自分を取り戻して・・・!)

 心の中で思いをはせて、ほくとがカイリに狙いを定める。

「カイリ!」

 ほくとが叫び、アルバとルイーゼがカイリから離れる。同時にほくとが気の矢を解き放った。

 気の矢はカイリの左肩を貫通した。しかし体に傷はつかず、衝撃だけが彼の体を駆け抜けた。

「お兄様!」

 七瀬が声を上げて、脱力するカイリを見つめる。

「お兄様・・・!」

 ふらつくカイリに動揺を募らせていく七瀬。彼女は棍を持ったまま、カイリにゆっくりと近づいていく。

「七瀬さん、まだ彼に近づくのは・・!」

 ルイーゼが呼び止めるが、七瀬は歩みを止めずにカイリに寄り添った。

「目を覚まして、お兄様・・みんなで一緒に帰ろう・・・!」

「な・・・なな・・せ・・・」

 優しく言いかける七瀬に、カイリが声を漏らす。操られていた彼が自我を取り戻そうとしていた。

「お兄様・・お兄様の意識が・・・!」

 カイリの様子を目の当たりにして、七瀬が戸惑いを感じていく。

「カイリ・・・!」

 ほくともカイリの魂が解き放たれようとしていると感じて、戸惑いを募らせる。

「オレは・・・オレは・・何を・・・!?

 カイリが声をもらして体を震わせる。

「お兄様、あたしだよ!七瀬だよ!思い出して、お兄様!」

「七瀬・・ほくと・・・オレは・・オレは・・・!」

 さらに呼びかける七瀬に心を揺さぶられて、カイリが頭を抱える。アデスからの洗脳と自分自身の生が衝突し、彼は苦悩にさいなまれていた。

(あたしも、お兄様に、思いを込めた一撃を・・!)

 意を決した七瀬が棍の先をカイリの体に当てた。

「はあっ!」

 七瀬が伸ばした棍に突き飛ばされるカイリ。彼女が棍を床に立てて飛び上がり、急降下しながら拳を突き出す。

「お兄様!」

 七瀬の渾身の一撃が、倒れたカイリの体に叩き込まれた。彼女の拳の衝撃に揺さぶられて、カイリが目を見開く。

(オレは生きる・・何者にも脅かされたしない・・・!)

 今までの自分の生きる理由、戦う理由を思い出して、カイリが完全に自我を取り戻した。

「お兄様、大丈夫!?お兄様!」

 七瀬の呼び声がカイリの耳に入ってくる。彼の視界に彼女だけでなく、ほくとたちの姿も入ってきた。

「カイリ・・ほくと・・・オレは、どうしたんだ・・・?」

 カイリがもうろうとしている意識の中、疑問を投げかける。

「お兄様、気が付いたんですね!」

 七瀬が笑顔を浮かべて、カイリを抱きしめる。

「あなたはアデスに操られていたのです・・そして私たちに攻撃を仕掛けたのです・・」

 ほくとが微笑んでカイリに事情を話す。

「オレが、ヤツらにいいようにされるとは・・・!」

 自分を操ったアデスと操られた自分の無力に、カイリが憤りを感じていく。

「まさか、アデスによる洗脳を解くなんて・・・」

 ルイーゼがカイリの様子を見て、当惑を見せる。

「これでソワレを連れ戻す希望が強くなった・・仮に希望がないと言われても、ソワレを救うことに変わりないが・・」

 ソワレを救う希望と決意を強めて、アルバが笑みをこぼした。

「カイリと言ったな?オレはアルバ・メイラ。弟を連れ戻すためにアデスと戦っている。」

 アルバが自己紹介をして、カイリが真剣な面持ちを浮かべる。

「水神家がオレの命を狙うことはもうないだろう。だがオレを狙うヤツはまだいる・・」

 カイリが言いかけて、広場の出入り口に目を向ける。

「オレを操り弄んだヤツらを、オレは許しはしない・・お前たちの思うところもあるが、ヤツらはオレが倒す・・」

「お前がアデスを倒すことを止めはしない。だがオレの弟は先ほどまでのお前のように、アデスに操られている。救い出さなければならない・・」

 意思を告げるカイリにアルバも自分の決意を口にする。

「あの男、ユーダイムと呼ばれた男か・・」

 カイリが記憶を巡らせて、アルバが小さく頷く。

「今度はオレがヤツの攻撃を食い止める。お前が弟を呼び戻せ。それでお前への借りを返す・・」

「貸し借りをしたつもりはないが・・感謝する、カイリ。」

 カイリが投げかけた言葉を聞いて、アルバが笑みをこぼす。2人のやり取りにほくとと七瀬は笑みをこぼした。

 そのとき、ルイーゼが気配を感じ取り、目つきを鋭くする。アルバたちも足音を耳にして振り向く。

 広場に姿を現したのはユーダイム。彼はロッソを腕をつかんで引きずってきた。

 ロッソの繰り出した火柱の直撃を受けたユーダイムだが、大きなダメージは負っておらず、重みのある打撃でロッソを叩き伏せた。

「オレたちの洗脳が解かれ、自我を取り戻している・・ジヴァートマの思惑が外れるとは・・」

 ユーダイムがカイリの様子を見て眉をひそめる。

「ソワレ・・ソワレか・・・!」

 アルバがユーダイム、ソワレを見て心を動かされる。アデスに連れ去られた弟と、アルバは再び対面することができた。

「オレはユーダイム・・アデスの闇の牙、ユーダイムだ・・」

 ユーダイムは無表情に言いかけて、つかんでいたロッソを放す。今の彼はソワレとしての意識がない。

「違う!お前はソワレ!オレの弟、ソワレ・メイラだ!」

「ソワレ?オレはユーダイム。アデスとして、お前たちをオレたちの生贄とする。」

 アルバが呼びかけるが、ユーダイムは表情も態度も変えない。彼にはソワレの人格が失われていた。

「ジヴァートマは手が離せないか・・ならばオレがまとめてヤツらを打ち倒す・・」

 ユーダイムが敵意をあらわにして、アルバに飛びかかる。

「ソワレ!」

 アルバが応戦して、ユーダイムが繰り出した拳を両腕で受け止める。アルバがその体勢から投げ飛ばそうとするが、ユーダイムを持ち上げることができない。

「アルバさん!」

 ほくとが飛び込み、ユーダイムに肘打ちを叩き込む。ユーダイムが押されて壁に叩きつけられる。

「ユーダイムの攻撃は私たちが食い止めます!アルバさんはソワレさんを呼び戻してください!」

 ほくとがユーダイムを見据えたまま、アルバに呼びかける。

「今度はあなたが、大切な人を取り戻す番です!」

「あたしも全力でアルバさんをサポートしますよ!だからアルバさん、ソワレさんを!」

 ほくとに続いて七瀬もアルバに呼びかける。

「ほくと、七瀬・・すまない、みんな・・・!」

 アルバがほくとたちに感謝して、ユーダイムを見据えて構えを取る。

「何を企もうと、オレを止めることはできない。あのときの出力の技も、軌道を見切れば回避は難しくない。」

 ユーダイムが呟いて、カイリに目を向ける。

「本来ならお前たちから受けた屈辱を晴らすところだが、命を奪うわけにはいかないからな・・」

 カイリが落ち着きを見せて、両手に青白い焔を灯した。

「お前を完全に倒し切れなかった借りも返しておく・・カイリ、もうお前はオレに一矢報いることもできない・・」

 ユーダイムが告げると、カイリに向かって飛びかかる。2人が拳を同時に繰り出し、激しくぶつけ合う。

(カイリ、あなたはまた命を燃やしている・・自分自身だけでなく、私や七瀬、アルバさんのために・・・)

 ほくとがカイリを見て戸惑いを感じていく。

(自分が生きるために、他の誰も信じられず、孤独の戦いを続けてきたあなたが・・七瀬が、あなたを孤独から救い出してくれたのですね・・・)

 カイリが救われたことを喜び、ほくとが笑みをこぼした。

 カイリとユーダイムが拳と蹴りをぶつけ合っていく。その衝撃が広場の壁や床、天井を大きく揺さぶっていく。

「このままではここが崩れる・・1度、外へ出たほうがいいわ!」

 ルイーゼが状況を分析して、アルバたちに呼びかける。

「ついてこい・・存分に相手をしてやる・・!」

 カイリがユーダイムに呼びかけて、広場から出る。

「逃がしはしない・・」

 ユーダイムがカイリを追って、続けて広場を出る。

「カイリ・・!」

「お姉様、お兄様を追いかけましょう!アルバさんとルイーゼさんも!」

 戸惑いを募らせるほくとに、七瀬が呼びかける。

「カイリ・・ソワレ、必ず救い出してやるからな・・・!」

 アルバがカイリとソワレのことを考えて、ほくとたちとともに広場から外へ飛び出した。

 

 洞窟内に施されている地下施設。その洞窟からカイリたちとユーダイムが飛び出した。

「ここなら存分にできる・・お前の牙をオレが折る・・・!」

「できはしない・・オレを止めることができるのは、オレと同じアデスの戦士、コカベルの子供だけだ・・」

 言いかけるカイリに、ユーダイムは無表情のまま言葉を返す。ほくとたちも洞窟から出てきた。

「ソワレ、オレの拳で、お前の魂を取り戻す・・・!」

 アルバがユーダイムに告げて、雷を帯びた拳を繰り出す。

「お前たちの技は、オレには通用しない・・」

 ユーダイムが足を振り上げて、アルバの雷光の拳を防いだ。

「この程度か?・・ソワレの蹴りに比べれば実にひ弱だ・・・!」

 アルバが不敵な笑みを見せて、ユーダイムを押し込む。押されるユーダイムだが、冷静に踏みとどまる。

「オレはユーダイム。ソワレなどではない。」

「ならば思い出させてやる。お前がオレの弟、サウスタウンのソワレ・メイラであることを・・」

 淡々と言葉を継げるユーダイムに、アルバが真剣な面持ちで言いかける。

 カイリがユーダイムの背後に回り込み、拳を振り上げる。一撃を体に受けて跳ね上げられるユーダイムだが、すかさず左足を振りかざす。

 カイリが横に動き、ユーダイムの足から放たれた気の刃が地面を削った。

「お前の技は見切っている・・その技でオレを仕留めることはできない・・」

「その判断が愚かであることを思い知ることだ。」

 互いに言葉を投げかけていくカイリとユーダイム。

「万が一にもオレに勝つことができても、アデスから逃れることはできない・・お前たちに希望も逃げ道もない。オレたちに肉体を捧げる以外の道は・・」

「オレたちの道を勝手に決めるな・・決めるのは、オレたち自身だ・・・!」

 強気に告げるユーダイムに、カイリが揺るがない意思を示す。

「あなたの言葉通りとするなら、私たち全員の意思を挫く必要があります。ですがそれは叶いません・・」

「あたしたちは絶対に諦めないからね!」

 ほくとと七瀬も揺るがぬ意思を口にする。アルバも迷いがなく、ルイーゼが彼らの意思を汲み取り、戸惑いを募らせていく。

「ならば世迷言を抱えたまま、決して逃れることのできない敗北を味わうのだな・・」

 ユーダイムが目つきを鋭くして、カイリたちに手を振りかざした。

 

 混迷を極める施設内。アデスの傘下の黒ずくめの男たちが、情報と損害の処理に追われていた。

「情報は逐一報告しろ!火災はすぐに鎮火しろ!」

「ユーダイム様はターゲットと交戦中!ジヴァートマ様はタイプDと接触!」

「すぐに援護に迎え!ターゲットの拘束と敵の排除が最優先だ!」

 男たちが言葉を交わして、混乱の収束に当たる。

「これではアデスの栄光に汚点を残すことになる・・それは絶対に避けなくては・・!」

 男たちが焦りの色を隠せなくなっていく。

「まさか我々の中でこのような体たらくが生じるとは・・」

 そこへ声がかかり、男たちが緊迫を覚える。男たちは一気に押し寄せてきた恐怖のあまり、震えたままその場から動けなくなった。

「この程度で取り乱す者に、大いなる歴史に足を踏み入れる資格はない。」

 声の主が思念を送り、男たちの脳に刺激を与える。男たちのうちの数人が、息の根を止められて昏倒する。

「ターゲットはあの者たちか?」

「はい!現在、ユーダイム様と交戦中です!」

 声の主の問いに男の1人が答える。モニターにはユーダイムの戦いが映し出されていた。

「私もユーダイムと合流する。お前たちはすぐに鎮圧を続けろ。」

「了解!」

 声の主の命令を受けて、男たちが再び行動する。

(アデスの栄光の道。何人たりとも我々を阻むことは許されぬ・・)

 声の主が闇から正体をあらわにする。長い黒髪を束ねた長身の男で、黒ずくめの服とマントを身に着けていた。

(貴様たちの粛清は私が行う。アデスを束ねるこのコカベルが。)

 心の中で呟く男、コカベルがユーダイムのところへ向かう。アデスの総帥、コカベルが戦線に赴いた。

 

 

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