FIGHTING IMPACT
第5話
カイリ、ほくと、七瀬の前に現れたユーダイムとジヴァートマ。カイリとユーダイムが激しい格闘を繰り広げる。
「さすがだ。あのユーダイムと渡り合えるとは。」
ジヴァートマがカイリの強さを見て笑みをこぼす。
「だが、闇の牙、ユーダイムの力はこんなものではない・・」
ジヴァートマが呟いた直後、ユーダイムが繰り出した拳を受けてカイリが押される。カイリは空中で体勢を整えて、ユーダイムを見据える。
ユーダイムが足を振りかざして、気の刃を放つ。カイリは素早く動き、ユーダイムに詰め寄っていく。
カイリとユーダイムが再び拳をぶつけ合う。だがユーダイムの振りかざした気の爪が、カイリの体をかすめた。
「くっ・・・!」
「お前がどれほどの力を備えていようと、オレには勝てない・・」
毒づくカイリにユーダイムが無表情で言いかける。
「それでオレを倒せると思うな・・お前も倒して、オレはこれからも生きる・・・!」
カイリが意思を口にして、気を放つ。ユーダイムが体に力を入れて、飛んできた気をはじき飛ばした。
次の瞬間、カイリがユーダイムの眼前まで一気に詰め寄っていた。
「魔龍裂光!」
カイリがユーダイムの体に拳を当てる。しかし踏みとどまっているユーダイムを跳ね上げることができない。
「オレの攻撃が通じない・・・!?」
驚愕を覚えるカイリに、ユーダイムが拳を叩き込む。
「ごふっ!」
苦痛を覚えて突き飛ばされるカイリ。彼は地面を蹴って空中高く飛び上がる。
「雅竜滅蹴!」
カイリが急降下して蹴りを繰り出す。ユーダイムも右足を振り上げて、カイリと蹴りをぶつけ合う。
「ぐあっ!」
カイリが力で負けて、ユーダイムに蹴り飛ばされる。
「カイリ!」
追い込まれていくカイリにほくとが叫ぶ。倒れたカイリを追いかけて、ユーダイムが彼の体を踏みつける。
「お兄様!」
七瀬がたまらず棍を手にして構えるが、ジヴァートマが前に出て彼女を妨害しようとする。
「邪魔しないで!お兄様を助けるんだから!」
「足掻いてみるかね、この私に。」
怒鳴りかかる七瀬に悠然と言葉を返すジヴァートマ。歩を進める彼に対し、七瀬がジャンプして棍を振りかざす。
ジヴァートマが軽やかに動き、七瀬の棍をかわす。七瀬が棍を伸ばして突きを仕掛けるが、これもジヴァートマにかわされる。
「面白い武器を使っているな。だが・・」
ジヴァートマが言いかけて、七瀬に向けて右手を出した。彼のその手が実際に伸びた。
七瀬が棍を構えてジヴァートマの手を受け止めた。だが彼の力に押されて突き飛ばされる。
「七瀬!」
ほくとが声を上げて、ジヴァートマに向かっていく。
「七瀬、あなたはカイリを助けなさい!この者は私が押さえます!」
「お姉様!」
呼びかけるほくとに七瀬が叫ぶ。
「愚かな。あのような小娘1人加わっても、ユーダイムを、我々を止められるものか。」
あざ笑うジヴァートマが、ほくとに向けて伸ばした手を振りかざしてきた。ほくとが紙一重で回避し、さらに防御する。
「護流攻!」
ジヴァートマの振りかざした右手を防いで、ほくとが直後に肘打ちを繰り出した。ジヴァートマが押されるが、ダメージを負っていない。
「君もアデスに身を置くにふさわしい力を備えているようだ。だが我々を脅かすほどではない。」
ジヴァートマが不敵な笑みを浮かべて、さらに手を伸ばす。
「うっ!」
彼の突きが左腕をかすめて、ほくとが痛みを覚えて顔を歪める。
一方、ほくとに援護された七瀬は、ユーダイムに向けて棍を伸ばした。ユーダイムは跳躍して棍をかわし、七瀬に詰め寄り拳を振りかざす。
とっさに棍を振り上げる七瀬。棍に持ち上げられるユーダイムだが、彼が振りかざした拳の衝撃が彼女を突き飛ばした。
「七瀬!・・おのれ!」
カイリが怒りをあらわにして、手の中に気を集める。
「神鬼発動!」
彼がユーダイムに向けて気の弾を放つ。ユーダイムが気の弾を受け止めて踏みとどまる。
「何っ!?」
気の弾を止められたことに驚愕するカイリ。ユーダイムが両腕に力を込めて、気の弾を握りつぶした。
「オレは闇の牙、ユーダイム・・アデスにあだなすものを狩る・・」
ユーダイムが呟いて、着地したカイリに詰め寄る。ユーダイムが足を振り上げて、気の刃でカイリを跳ね上げた。
「骨が砕けるのは覚悟してもらう・・・」
ユーダイムが飛び上がり、空中のカイリに右手を振り下ろした。爪の一閃がカイリの体に強い衝撃を与えた。
「がはっ!」
激痛に襲われたカイリが吐血する。ユーダイムの一閃で、カイリが強く地面に叩きつけられる。
「お兄様!」
七瀬が倒れたカイリに駆け寄ろうとしたが、眼前に着地したユーダイムが繰り出した蹴りに突き飛ばされる。
「キャッ!」
七瀬が激しく草むらを転がって倒れる。彼女は意識を失い動かなくなる。
「な、七瀬・・!」
ほくとが傷ついた腕を押さえながら、七瀬に目を向ける。
「これで幕引きだ。当初は彼が目的だったが、君たち姉妹も大歓迎だ。君たちの強き肉体、我々に差し出すのだ。」
ジヴァートマが喜びを感じて、ほくとに近づいていく。
「この男とあの娘はオレが連れていく・・すぐに輸送部隊を・・」
ユーダイムも言いかけて、カイリに目を向けた。
そのとき、倒れていたカイリがゆっくりと体を起こした。彼の両手に青白い焔が灯った。
「この焔は・・・」
カイリの焔に疑問を覚える。
「オレや七瀬を、これ以上脅かすことは許さん・・・!」
低く鋭く言いかけるカイリ。彼がユーダイムに殺気を向けてくる。彼がユーダイムに右の拳を振りかざす。
ユーダイムが回避しようとしたが、カイリの拳が体に叩き込まれる。
「なっ!?」
その瞬間、ユーダイムが驚愕を覚える。彼がカイリの一撃で大きく突き飛ばされる。
足で地面を踏みつけるが踏みとどまれず、ユーダイムが空中に跳んで体勢を整える。
「何だと!?ユーダイムが押された!?」
ジヴァートマもユーダイムが押されたことに驚く。
「お前たちは、オレが必ず倒す・・・!」
カイリが言いかけて、ユーダイムに飛びかかる。彼が繰り出した拳がユーダイムの体に立て続けに叩き込まれる。
「お、おのれ・・!」
ユーダイムがダメージを覚えてうめく。彼が右手を振りかざして爪の一閃を繰り出すが、カイリは難なく左腕で受け止める。
「魔龍裂光!」
カイリが振り上げた拳が、鋭い刃の一閃のようにユーダイムの体に叩き込まれた。
「ぐっ!」
ダメージの増したユーダイムが、口から血をあふれさせる。
「オレは負けはしない・・アデス以外の者に負けることなど、あり得ない・・・!」
ユーダイムが感情をあらわにして、全身に力を込める。彼の体から青白いオーラがあふれ出してきた。
「これは・・ユーダイムが、本気になる・・・!」
ジヴァートマがユーダイムを見て息をのむ。彼はユーダイムの全力を目の当たりにするのは久しぶりだった。
「オレの全力を受けて、生き延びた地球人はいない・・オレ自身、制御が難しいからな・・・!」
ユーダイムが笑みを浮かべて、両手を握りしめる。体から出ていたオーラが両手に集中される。
カイリとユーダイムが同時に繰り出した拳をぶつけ合う。カイリがユーダイムの力に押されて突き飛ばされる。
体勢を整えて着地するカイリに、ユーダイムが落下を利用として追い打ちを仕掛ける。カイリがユーダイムと拳と蹴りのぶつけ合いを演じるが、徐々に劣勢を強いられていく。
(カイリが一気に強さを増した・・その彼でも、あの人に押されている・・・!)
ほくとが戦況に困惑を覚える。彼女はカイリが命を燃やして力を発揮していると思っていた。
ユーダイムに殴り飛ばされて、カイリが大木の幹に強く叩きつけられた。
「ぐっ!・・オレは、こんなところで、倒れるわけにはいかない・・・!」
カイリが体を起こして声を振り絞る。
「オレは生きる・・それを阻むものは、何であろうと容赦しない・・!」
カイリが両手を握りしめて、気を集中させる。ユーダイムがカイリに近づき、闘気を強める。
「凶邪連舞!」
カイリがユーダイムに詰め寄り、高速で打撃を繰り出す。だがユーダイムも高速の打撃を仕掛けて、カイリと攻撃をぶつけ合う。
連続攻撃がことごとく通じないことに、カイリの驚愕が一気に強まる。
「何をしようと、お前はオレたちから逃れることはできない・・」
ユーダイムが低く告げて、カイリに拳を叩き込む。重みのある打撃を受けて、カイリが体も精神も揺さぶられる。
「ムダな抵抗はやめろ・・そうすれば苦痛を味わわなくて済む・・」
ユーダイムがカイリに忠告を送る。ユーダイムがさらにカイリに拳を叩き込んだ。
「終わりだな。ユーダイムをここまでさせたことには、私も正直驚かされた・・」
ジヴァートマが勝利を確信して、不敵な笑みを浮かべた。
(オレは倒れるものか・・オレは生きる・・生きるのだ・・・!)
「瘴鬼発動!」
カイリがユーダイムに向けた両手から巨大な気を放った。
「ぐ、ぐおぉっ!」
ユーダイムが気に押されて苦痛にあえぐ。カイリがさらに気を放出して、ユーダイムを吹き飛ばそうとする。
「何と!?ヤツめ、まだあのような力が!?」
ユーダイムもカイリの全力に驚愕する。ユーダイムがカイリの気に跳ね上げられて、そのまま落下して地面に叩きつけられた。
「くっ・・ぐはっ!」
直後、カイリもその場に力なく倒れた。彼は今の気の放出で力を使い果たしてしまった。
「カイリ・・今の技は、自身の体力を大きく消耗してしまう、危険な技・・・!」
ほくとがカイリの気と状態を目の当たりにして、さらなる緊張を感じていく。
(このままではカイリが危険です・・私が助けないと・・!)
ほくとが意を決して、傷ついた体に鞭を入れる。だが次の瞬間、ジヴァートマが彼女の眼前を通り過ぎて、カイリのそばに来た。
「ユーダイムと相打ちになるとは、目を疑わざるを得ん・・だが結果として、最高の肉体を得ることができた・・」
ユーダイムが笑みをこぼして、意識を失っているカイリを念力で持ち上げる。
「放して・・カイリを放しなさい!」
ほくとがジヴァートマに向かって歩き出し、声を振り絞る。
「せっかくの標的だ。見逃す手はない。君の妹もアデスに連れていくことにしよう。」
カイリを手放そうとしないジヴァートマ。ユーダイムを抱えた彼が、気絶している七瀬に近づいていく。
「あなた、カイリだけでなく、七瀬まで・・・!」
絶望を覚えるほくとが、ジヴァートマに対して気の弓矢を構える。しかし傷ついた腕の痛みで、彼女が体勢を崩す。
「そこでおとなしくしていろ。そうすれば苦しまずに済む。」
ジヴァートマがほくとに不敵な笑みを見せる。彼が七瀬に向けて手を伸ばした。
そこへかまいたちが飛び込み、ジヴァートマがとっさに後ろに下がる。かまいたちはほくとが放ったものではない。
「ついに見つけたぞ、ジヴァートマ・・・!」
ジヴァートマに向けて攻撃を仕掛けたのは、駆けつけたアルバだった。ルイーゼが七瀬を抱えて、ほくとのそばまで移動した。
「大丈夫ですか・・・?」
ルイーゼが心配の声をかけて、ほくとが彼女から七瀬を託される。
「七瀬・・ありがとうございます・・あなた方は・・・?」
「話は後です。今はこの状況を解決するのを優先しましょう・・」
感謝を示すほくとに、ルイーゼが微笑んで言いかける。2人がジヴァートマとアルバに目を向ける。
「ソワレを返してもらう・・今のオレは、とても自分を抑えられる自信がない・・・!」
アルバがジヴァートマに呼びかけて、鋭い視線を向ける。
「もはや貴様の弟は存在しない。ここにいるのは我が同士、ユーダイムだ。」
不敵な笑みを浮かべるジヴァートマ。次の瞬間、アルバが一瞬にして電撃を帯びた拳を繰り出し、ジヴァートマが手で受け止めていた。
「ソワレから離れろ・・容赦しないぞ・・・!」
「その狂い猛る姿・・また懐かしさをかき立ててくれるな、ユーダイム。」
鋭く言いかけるアルバに、ジヴァートマが笑みをこぼす。
「お前たち2人は元々は我々の同士だ。お前も闇の牙をもう1度尖らせるときだぞ?」
「オレはお前たちとは違う・・もちろんソワレも、お前たちの仲間などではない・・!」
「お前も思い出すときが来る・・ユーダイム、闇の牙の本当の力がよみがえるときが・・・」
アルバの反論にジヴァートマが言いかける。彼が腕を伸ばして、アルバを引き離す。
だがアルバはジヴァートマの腕を腕でつかんで、力を込めて振りかぶり投げ飛ばす。
「何っ!?」
「お前の技は、この前の戦いで見切っている・・」
驚くジヴァートマに、アルバが低く告げる。ジヴァートマが空中で体勢を整える。
「フフフ・・お前との勝負を楽しみたいところだが、今はこの男を連れていかなくてはならんのでな・・」
ジヴァートマが笑みをこぼすと、黒ずくめの男たちが続々と姿を現してきた。男の数人がユーダイムを抱えて、ジヴァートマがカイリを引き寄せた。
「君たちは改めて迎えに行くことにしよう。」
「カイリ!」
笑い声を上げるジヴァートマに連れて行かれるカイリに、ほくとが叫ぶ。追いかけようとする彼女を、残るの黒ずくめの男たちが行く手を阻む。
「どきなさい!」
ほくとが怒号を放って、薙刀を手にして振りかざして男たちを薙ぎ払う。だがジヴァートマ、カイリ、ユーダイムは姿を消していた。
「カイリ!」
「ソワレ!」
ほくとだけでなく、アルバも叫び声を上げた。
「また1人、アデスの手に落ちてしまった・・・」
さらなる状況の悪化にルイーゼが深刻さを募らせていく。ほくととアルバがカイリとソワレを連れて行かれたことがやるせなくて、体を震わせていた。
ジヴァートマが去ってから少しして、七瀬が意識を取り戻した。
「あ・・あたし・・・」
「気が付かれましたね。痛みを感じたりしませんか?」
声をもらす七瀬にルイーゼが微笑みかける。
「あなたは?・・お兄様、お姉様・・!」
ルイーゼに疑問を投げかけて、七瀬がカイリとほくとのことを思い出して、周りを見回す。
「七瀬・・」
ほくとが七瀬を見て安堵の微笑を浮かべた。
「お姉様!・・・お兄様・・カイリお兄様は・・・?」
声を上げる七瀬が、さらに周りを見回してカイリを探す。
「あのジヴァートマという人に、連れて行かれてしまいました・・私に、助けることができませんでした・・・」
ほくとが深刻な顔を浮かべて事情を話す。彼女の言葉に七瀬が耳を疑う。
「ウソ・・お兄様が、捕まるはずがない・・・!」
「信じられませんが、本当のことです・・すみません、力になれなくて・・・」
体を震わせる七瀬に、ルイーゼが謝罪する。苦悩する七瀬の目から涙があふれる。
「お礼がまだでしたね。私はほくと。この子は妹の七瀬です。」
「オレはアルバ・メイラ。弟の行方を追ってここまで来た・・」
ほくととアルバが自己紹介をして、手を取って握手を交わす。
「あなた方が戦った男の1人、ユーダイムと呼ばれていた人。彼がアルバの弟、ソワレ・メイラよ。」
ルイーゼがほくとと七瀬に語りかける。メイラ兄弟の境遇と、アデスとの邂逅で明かされた真実についても。
「アデス・・それがあなたの弟さんだけでなく、カイリまで・・・」
ほくとがジヴァートマのことを思い出して、憤りを覚える。
「アデスは強靭な肉体の持ち主も探していた。あの人の修羅と呼べる強さは、組織の格好の獲物・・」
「自分の目的のために、お兄様を・・・!」
ルイーゼの話を聞いて、七瀬がアデスやジヴァートマへの怒りを噛みしめる。
「でも、なぜあなたの弟が、アデスに味方をして・・・?」
ほくとがアルバに疑問を投げかける。
「おそらく、アデスに操られているのだろう・・でなければ、ソワレがオレのことが分からないはずがない・・」
「今の彼は、ユーダイムとしての人格が目覚めているのよ。アデスの目的の遂行のために、彼は自分たちの障害となるものを排除していく・・」
考えを告げるアルバに、ルイーゼが言いかける。
「ソワレもオレもユーダイムではない・・オレが必ずソワレの目を覚まさせる・・・!」
「もしも彼が、あなたに襲い掛かってきたら、あなたはどうするの・・?」
「それで悩むオレたちではない。オレたちらしいやり方をするまでだ。」
ルイーゼからの警告を聞いても、アルバのソワレを救うという決意に揺らぎはない。互いに譲れないものがあるとき、何らかの形で勝負をすることになったとき、拳を交える。そのやり方をアルバとソワレは行ってきた。
「連れ去られたもう1人も、オレが助け出してみせる。あなたたちの兄だそうだな・・」
「えぇ・・といっても、長い間、離れ離れでいたのです・・今日、やっと再会することができたのに・・・」
声をかけるアルバに、ほくとも自分たちのことを打ち明けていく。水神家、カイリの悲劇を聞いて、アルバもルイーゼも深刻さを感じていた。
「あなたたちはずっと、修羅の道を進んでいた兄と離れ離れだったのか・・」
「えぇ・・しかも彼の悲劇の一端は、私が原因がある・・思念に操られて、私はカイリを殺しかけた・・・」
当惑を覚えるアルバに、ほくとがカイリへの罪の意識を口にする。
「お姉様は悪くない・・お姉様も、被害者だよ・・・!」
「七瀬・・・」
必死に励ます七瀬に、ほくとが戸惑いを感じて頷く。
「お互い、深い宿命ってヤツを抱えているのだな・・オレは宿命に従うばかりでいるつもりはない・・」
アルバが真剣な面持ちで言いかけて、朝日に照らされた空を見上げる。
「オレは必ずソワレを連れ戻す。たとえソワレがオレに襲い掛かってきたとしても・・」
「救いたいと思っている弟と戦うことになっても・・カイリと戦うことになっても、私があの人を救おうとしたように・・・」
決意を口にするアルバに、ほくとが共感する。
「あなたの弟やカイリを連れ去った者が、どこにいるか分かりませんか?」
ほくとが真剣な面持ちでアルバとルイーゼに問いかける。
「ヤツらがどこに潜んでいるのか、オレも分かってはいない。だがまだこの国のどこかに潜んでいる可能性が高い・・ソワレたちを連れて簡単に離れられるとは思えない・・」
「それに、アデスはあなたたちを諦めてはいない・・」
アルバに続いてルイーゼが話しかける。
「ヤツらはまだこの近くを離れてはいない。あなたたちを狙って、再来の機会を待っている・・」
「お兄様だけじゃなく、お姉様とあたしも狙っているってわけですね・・・」
ルイーゼの言葉に七瀬が言いかける。彼女の言葉にルイーゼが小さく頷く。
「だったらあたしが囮になって、アイツらをおびき出してやります!返り討ちにして、お兄様たちを助け出してみせるんだから!」
「それは危険よ、七瀬。彼らの手に落ちる危険が高いわ・・」
意気込みを見せる七瀬を、ほくとが制止する。
「ほくとさんの言う通りよ。アデスは目的のためなら手段を選ばない。その上どこに潜んでいるか、私でも全てを把握していない・・」
ルイーゼも深刻な面持ちで、七瀬に注意を投げかける。七瀬が2人に止められて、歯がゆさを覚える。
「ここは迎え撃つよりは、こちらから向こうへ乗り込んだほうが賢明だ。ヤツらの懐に飛び込むのはリスクが増すが、奇襲をされる危険が大きく減る・・」
「そうね・・私たちが彼らに奇襲を仕掛けるしか、私たちに活路は開かれない・・」
アルバが口にした提案に、ほくとが納得する。
「私たちも協力させてください。奪われた大切なものを取り戻す戦いに、ともに挑みましょう。」
ほくとが微笑んで、アルバに手を差し伸べてきた。
「オレは弟を、あなたたちは兄を救い出すために・・」
アルバも微笑んで、ほくとの手を取って握手を交わした。七瀬とルイーゼも顔を見合わせて、笑みをこぼした。
カイリとの激闘で体力を大きく消耗したユーダイムは、ジヴァートマに運ばれて力を与えられていた。
「これで半日ほどで全快するだろう・・まさかユーダイムと相打ちになるとは・・」
回復を待つユーダイムを見つめて、ジヴァートマが息をのむ。しかし彼はすぐに笑みを取り戻す。
「しかしこの男を我々の手中に収めることができた。どれほどの戦力になってくれるか、私も期待を抑えられなくなりそうだ。」
カイリのことを思い出し、ジヴァートマが喜びを膨らませていく。
「時期にあのお嬢さんたちも迎え入れることになる。そして我々は再び、あの壮大な空へと漕ぎ出すのだ・・」
自分たちの遥かなる過去と未来を頭の中に浮かべて、ジヴァートマが笑い声を上げる。
「そのための担い手となってもらうぞ、カイリ・・」
カイリのことを考えて、ジヴァートマは次の行動に備えることにした。
手当と束の間の休息を終えて、ほくとたちは動き出した。ルイーゼがジヴァートマたちの気配の痕跡を辿りながら、ゆっくりと歩を進めていく。
(この先にカイリが・・ようやく見つけたのよ。必ず救い出してみせる・・)
ほくとが心の中でカイリへの思いを募らせていく。
(お姉様・・あたしも、お兄様を助けたいって気持ちは一緒だからね・・)
七瀬もほくとに視線を向けて、カイリへの思いを胸に秘める。
「お兄さんを助けたい気持ちは分かるわ。私も、父を捜してアデスを追ってきたから・・」
ルイーゼがほくとと七瀬に話を切り出した。
「私の父はロボット工学の権威だけど、アデスに拉致された可能性が高いの・・」
「ルイーゼさんも・・!?」
ルイーゼの話を聞いて、七瀬が驚きの声を上げる。
「誰かを助けたいという気持ちばかりに囚われるのは、大きな隙を作ることになりかねない。だから気を付けて・・」
「ありがとうございます、ルイーゼさん。私は大丈夫です。決心は強くなっていますが、冷静ですから・・」
ルイーゼに励まされて、ほくとが微笑んで感謝を口にした。
「では行くぞ。ここから先、後戻りはできないぞ・・」
アルバが声をかけて、ほくとたちが真剣な顔で頷いた。彼らはカイリとソワレを助けるため、アデスへの攻撃に踏み切った。
ほくとたちの接近を察して、黒ずくめの男たちがジヴァートマに報告をした。
「先ほどの4名がこちらに向かってきています。」
「ラキアたちが来てくれて好都合だ。全員こちらに引き入れてやろう。」
男の報告を聞いて、ジヴァートマが笑みを浮かべる。
「それと、コカベル様がこちらに向かわれたとの連絡がありました。」
「何?コカベル様が?・・まさか、直にユーダイムに会いに来られるとは・・・」
男の続けての報告に、ジヴァートマが眉をひそめる。
「ユーダイムの力と強靭な肉体の数々。コカベル様への報告と献上が尽きないな・・」
ジヴァートマが笑みを浮かべて、腰かけていた椅子から立ち上がる。
「ユーダイムが回復するまであと少しか。代わりにあの男を使わせてもらおう。」
ジヴァートマがカイリのことを思い出す。カイリを操りアルバたちにけしかけようと、ジヴァートマは企んでいた。
山奥に点在していた洞窟の入り口の前に、ほくとたちはたどり着いた。
「この先からジヴァートマの気配を感じる・・彼はこの奥にいる・・・」
ルイーゼが洞窟を指さして、アルバとほくとが真剣な面持ちを浮かべて、七瀬が息をのむ。
「どんな罠が待ち受けているか分からない・・だがそれは先刻承知。それでもオレは乗り込む。」
「私も迷いはありません。行きましょう・・」
揺るぎない意思を口にするアルバとほくとが、洞窟へと入っていく。
「お姉様、待ってー!あたしも行くー!」
七瀬も2人を追いかけるように慌てて駆けだす。ルイーゼも微笑んでから洞窟に入っていく。
洞窟の中は暗かったが、外の日の光が差し込んでいた。アルバとルイーゼは夜目を利かせて、洞窟を進んでいく。
「この近くに人がいる気配は感じない・・」
「何か罠が仕掛けられている様子もないわ・・」
アルバとルイーゼが周囲に注意を向ける。彼らは慎重に洞窟の奥を目指す。
やがて道が岩場から金属の壁と道に変わった。アルバたちは施設の中へと足を踏み入れた。
「この先に、お兄様が・・・!」
カイリのことを考えて、七瀬が気を引き締める。
「ここから先に踏み込めば、向こうに確実に気付かれる。一気に駆け抜けるわ・・」
「覚悟の上です・・」
「ここまで来て逃げるつもりはないよ・・!」
ルイーゼからの忠告に対し、ほくとと七瀬は引き下がらない。
「では行くぞ・・ヤツらから、大切なものを取り戻す・・・!」
アルバが呼びかけて、鉄の扉を開いた。次の瞬間、施設の中に警報が鳴り響き、赤いランプが点灯を始めた。
ほくとたちが一気に施設の廊下を駆け抜けていく。黒ずくめの男たちが出てきて襲撃を仕掛けるが、ほくとたちに即座に撃退される。
(待っていて、カイリ・・すぐに行くから・・・!)
(今度こそ、お兄様とお姉様、3人で家に帰るんだから!)
カイリへの思いを募らせていくほくとと七瀬。彼女たちとアルバ、ルイーゼはカイリとソワレを追い求めて駆け抜けた。