FIGHTING IMPACT
第4話
カイリとほくとを追って歩き続ける七瀬。彼女はにぎわいのある街に足を踏み入れていた。
「さすがにこんなところにはいないよね、2人とも・・」
七瀬が肩を落として、場所を変えようとした。
「あ、危ない!」
そのとき、1台のトラックが七瀬のいるほうに向かってきた。ブレーキでスピードを弱められず、スリップしてしまった。
七瀬が棍を手にして伸ばして、棒高跳びの要領で跳び上がってトラックをかわした。トラックはブレーキが効いて、建物にぶつかる前に停車した。
「ふぅ・・危なかった〜・・早くここから離れて・・」
七瀬が安心の吐息をついて、移動しようとした。
「あ、あなたー!」
そこへ大声をかけられて、七瀬が驚いて足を止めた。彼女の前に1人の少女が走り込んできた。三つ編みのツインテールをしていて、足にはローラースケートが着けられてた。
「今、何かすごい科学を使いましたねー♪」
「えっ?えっ!?」
笑顔を見せて目を輝かせてきた少女に、七瀬が動揺を見せる。
「あっという間に伸びる棒!まさに科学ですー♪」
「あの、ちょっと・・これは科学じゃないんだけど・・」
感動の眼差しを送る少女に、七瀬が困った顔を浮かべる。
「でもあたしの科学も負けてないですよ〜♪長い年月をかけて、新発明を編み出したんです!」
「聞いてないし・・」
熱弁する少女に七瀬が呆れる。
「これがこのエリアの新発明、“キャンサー”よー♪」
少女、エリアが腕型の万能道具「キャンサー」を右腕に装備した。
「このキャンサーはパワーアームというだけでなく、エネルギーの吸収、蓄積、反射を可能として、さらに遠隔操作をしてエネルギーを放出することもできます!」
エリアがキャンサーについて語っていく。
「わ、私、そろそろ行くから・・発明の授業はまた今度に・・・」
七瀬が苦笑いを浮かべて、エリアの前から去ろうとした。
「すごーい♪魔法使いがいたー♪」
そこへまた声が響いてきて、七瀬が驚く。別の少女がエリアを指さして、目を輝かせていた。
少女は感動を膨らませて、エリアに向かって駆け出す。が、足を躓いて前のめりに倒れてしまう。
「イッタ〜!あう〜!ミニョン大失敗だよ〜!」
ピンクの髪の少女、ミニョン・ベアールが自分の顔を押さえて悲鳴を上げる。
(ま、またおかしなのが出てきた・・!?)
七瀬がミニョンを見て驚きと動揺を膨らませる。ミニョンは服をはたいて、エリアに視線を戻して目を輝かせた。
「あなたのそれ、ものすっごい魔法ですね〜♪」
「あの〜、これは魔法じゃなくて発明なんですけど〜・・」
指さして感動の声を上げるミニョンに、エリアが苦笑いを見せる。
「ううん!ぜーったい魔法だってー♪でも、ミニョンのマジカルパワーのほうが上だけどね〜♪」
「だから発明だって〜!・・ん?ちょっと聞き捨てならないことが〜・・!」
自信満々の態度を見せるミニョンに、エリアが眉をひそめる。
「残念ですが、私の発明は世界一に向かって常に高みを目指しているのです!それを非科学的なものより劣るなど言語道断です!」
「あー!今、ものすっごくひどいこと言ったー!ミニョンのマジカルパワーはすごいんだよー!これから魔法が世界を救うってことを、ミニョンが証明するんだからー!」
言い放つエリアにミニョンがふくれっ面を浮かべる。
「世界を救うのは魔法ではなく科学です!私が時期にそれを証明してみせます!」
「ムッキー!マジカルパワーをバカにするのはミニョンの、世界の敵だよー!このミニョンがあなたを懲らしめちゃうんだからー!」
キャンサーを構えるエリアにミニョンの不満が頂点に達した。2人の周りに野次馬が集まってくる。
「それじゃ、いきますよー!」
エリアがローラースケートで勢いに乗って、キャンサーを振りかざす。
「わわっ!」
ミニョンが慌てて横に動いて、キャンサーをかわす。
「やったなー!ミニョンの反撃開始だよ!ファイヤー!」
ミニョンが火の精霊の力を借りて、火の球を放つ。エリアは走って火の球をかわす。
「まだまだー!ファイヤー!」
ミニョンが続けて火の球を放ち、エリアが軽やかに回避していく。
「パンっ!」
ミニョンが念じた火の球が破裂して、衝撃がエリアの背中にのしかかった。
「おかしな技を・・ラッシュ!」
エリアがミニョンに近付いて、キャンサーを振りかざす。
「うわっ!」
キャンサーに叩かれて、ミニョンが突き飛ばされる。エリアがミニョンに追撃を仕掛ける。
「水の精霊さん、助けて!」
ミニョンが水の精霊の力を借りて、水の壁を作り出してエリアの攻撃を阻む。
「風の精霊さん!」
ミニョンは続けて風の霊性の力を借りて、風を巻き起こしてエリアを引き離す。
「エッヘン!これがマジカルパワーだよ!」
ミニョンが腰に手を当てて自信を見せる。
「どういうからくりか分かりませんが、あのようなものに負けるわけにはいきません!少々危険ですが、キャンサーの出力を上げます!」
エリアが意を決して、キャンサーに意識を傾ける。キャンサーに蓄えられているエネルギーが光となって現れる。
「よーし!こうなったらミニョンもー!火の精霊さん、ミニョンに力を貸してー!」
ミニョンも意識を集中して、巨大な火の球を作り出した。
「グレイトキャンサー!」
エリアがキャンサーを振りかざして、ミニョンの火の球とぶつけ合う。2人の攻撃の衝撃がほとばしり、周囲にも飛び火する。
「こうなったら〜・・砕けてー!」
ミニョンが火の球をその場で爆発させる。衝撃に押されてエリアが吹き飛ばされるも、うまく着地して耐える。
「ミニョンのマジカルパワーと互角だなんて・・信じられな〜い!」
ミニョンが不満を感じて、頭を抱えて悲鳴を上げる。
「高出力のキャンサーでも勝ちきれないとは・・あまり長引くとオーバーヒートになりかねないです・・・!」
エリアがキャンサーを見つめて、緊張を膨らませていく。
「危なっかしいですが、キャンサーを最大出力にして・・!」
エリアが覚悟を決めてミニョンに全力を叩き込もうと考える。
「こうなったら〜!ミニョンの最高の技で勝利をこの手に〜!」
ミニョンも全力を出そうと意気込みを見せる。
「いつまでそんなくだらないことやってるの、お姉ちゃん?」
そこへ声がかかり、ミニョンが振り返る。彼女の視線の先には、黒い服の少女がいた。
「ニ、ニノン!」
ミニョンが妹、ニノンの登場に驚く。
「こんな人前で魔法なんて使ったら大騒ぎになって面倒になるし。お姉ちゃんだけならともかく、ベアール家にまで恥をかかされたくないし。」
「コラー、ニノーン!お姉ちゃんの世界平和に文句を言わないでよねー!」
ニノンが口にする言葉にミニョンがふくれっ面を浮かべる。
「お姉ちゃんのやり方で世界平和になるわけがないし。だいだい世界平和だなんてバカみたい。いつまでも子供なんだから、お姉ちゃんは。」
「ムッキー!妹ながらなんて口が悪いのー!お姉ちゃんがお仕置きするんだからー!」
愚痴を口にするニノンに不満いっぱいになって、ミニョンが飛びかかる。しかしテレポートしたニノンに突撃をかわされて、前のめりに転ぶ。
「いたーい〜!顔すりむいちゃったよ〜!」
「ハァ・・こんな情けないのがお姉ちゃんだなんて、私のほうが情けなくなってくるし・・」
痛がるミニョンに、ニノンが呆れて肩を落とす。
「勉強も魔法もお姉ちゃんより私のほうが上だし。だからお姉ちゃんが私に敵うはずないし。」
「もー!ホントにかわいくない妹ねー!」
「今はたまたま通りがかったけど、私は忙しいの。そろそろ大騒ぎをやめて、家に帰って勉強でもしたら?」
怒り心頭のミニョンに妖しく微笑んでから、ニノンはテレポートで姿を消した。
「あ〜!ニノンが不良になってしまった〜!今は世界の平和よりも家族の平和を守らねば〜!」
ミニョンが頭を抱えて、慌ててこの場から駆け出す。また転んで前のめりに倒れるが、彼女はすぐに起きて走り去っていった。
「と・・とりあえず勝負はお預けですね・・もっともっと、キャンサーの調整や研究を重ねなくては!」
エリアが気持ちを切り替えて、発明に意識を傾ける。
「そうと決まったら早く帰ります!」
彼女が急いでこの場を離れて、野次馬たちも動揺を膨らませたまま解散していった。
エリアとミニョンが対決を始める前に、七瀬は移動していた。2人のことを思い出して、七瀬が肩を落とす。
「ハァ・・付き合ってられない・・・」
呆れてため息をついてから、両頬を両手で軽く叩いて気を引き締めなおす。
「さて、改めてお姉様たちを見つけに行きますか!待ってて、お姉様・・」
ほくととカイリを探しに、七瀬は再び走り出した。
手がかりやすれ違う人々の話を頼りに、カイリを追い続けるほくと。彼女は荒廃した町を訪れていた。
(これは時間が経って崩れたものじゃない・・しかも、最近壊れたような・・)
崩れている壁や建物が自然に起こったものではなく人為的に壊れたものであると、ほくとは直感した。
(それに周囲に強い気が残っている・・殺気が込められていながら、懐かしい気・・)
町の中に漂う気を感じ取り、ほくとが戸惑いを覚える。
(ここにカイリがいた・・しかも誰かと戦った・・・!)
彼女はカイリが町にいたことを確信していく。
(まだ近くにいるかもしれない・・探さないと・・!)
カイリを追いかけようとほくとがきびすを返した。
そのとき、ほくとの前に1人の男が現れた。ほくとは一瞬、男の姿がカイリに見えた。
(カイリ!?・・いいえ、違う・・!)
ほくとはすぐに男がカイリでないことに気付く。
「あなたは何者です・・・!?」
「オレの名はユーダイム・・闇の牙、ユーダイム・・・」
ほくとの問いかけに男、ユーダイムが低い声音で答える。
「オレはある男を探している・・オレたちの仲間になるかもしれない・・」
「その男・・もしかしてカイリのこと・・・!?」
ユーダイムが口にした言葉に、ほくとが疑問を覚える。
「お前・・あの男のことを知っているのか?・・知っていることがあるなら、全て話してもらう・・・」
「私もあの人のことは詳しくは分かりません・・ですがあなたはあの人に何かしようと考えているのですね・・・?」
言いかけるユーダイムにほくとが問いかける。
「あの人に危害を加えようとするなら、私はあなたを止めなくてはなりません・・・」
「オレの邪魔をするのか・・ならば敵として、お前を排除する・・・」
構えを取るほくとにユーダイムが振り返る。
「強靭な肉体を備えているならば、お前にも利用価値がある・・・」
ユーダイムが無表情で呟いて、ほくとに近づいていく。
「行きます・・・!」
ほくとがユーダイムに向かっていく。ほくとが打撃を仕掛けるが、ユーダイムは冷静にかわしていく。
(この人、かなり強い・・・!)
ほくとはユーダイムの強さを痛感して、緊張を膨らませる。
ユーダイムが右手を振りかざして、ほくとがとっさに横に動いてかわす。ユーダイムの右手の先の地面や壁に、大きな爪痕が刻まれた。
「なんという威力・・直撃されたら、致命傷になりかねない・・・!」
ユーダイムの力を目の当たりにして、ほくとが息をのむ。
「今のをよけたか・・アデスに引き入れるには不足なしか・・」
ユーダイムが呟き、再びほくとに向かって手を伸ばす。
「肘激崩!」
ほくとがユーダイムの体に肘打ちを叩き込む。しかしユーダイムは少し押されただけで、ダメージを負っていない。
ほくとが続けて両手を前に出して、今度こそユーダイムを突き飛ばした。
「だがオレを上回るには至らない・・お前はオレの前に敗北を喫する他はない・・」
ユーダイムは表情を変えずに、ほくとに向けて右足を振り上げる。エネルギーの刃が彼の足から放たれる。
「気錬射!」
ほくとが気の矢を放つが、ユーダイムの光の刃にかき消される。
「うあっ!」
横に動いたほくとだが、光の刃に押されて吹き飛ばされる。彼女を倒していないと思っていたユーダイムだったが、砂煙に視界をさえぎられる。
「見逃してしまった・・今は本来の目的通り・・・」
ほくとを見失ってしまった自分を不甲斐なく思いながら、ユーダイムは彼女を追うことなく立ち去った。標的であるカイリを追い求めて。
ユーダイムの攻撃から辛くも逃れたほくと。体勢を整える彼女は、ユーダイムの強さとカイリの危機を痛感していた。
(早くカイリに会わなくては・・もしもあの人とカイリが接触することになったら、大変なことになる・・そう思えてならない・・・)
一抹の不安が頭をよぎり、ほくとは慌ててカイリの行方を追った。カイリと真意を確かめるだけでなく、彼を守るために。
ほくととユーダイムの戦いが行われたときに起こった爆発。その轟音と煙に七瀬は気付いた。
(何、今の音!?・・もしかして、そこにお姉様たちが・・!?)
予感と不安を胸に、七瀬は爆発の起こったほうに向かって走り出した。
自分の周りに刺客や襲撃者が増えつつあることに、カイリの敵意は増すばかりとなっていた。
(オレを狙う刺客・・分家のヤツらだけではないのか・・・?)
疑問を感じながらも、刺客や襲撃者を倒す意志を貫こうとするカイリ。彼は広々とした草原に出た。
(こんな草原、こんな月夜だった・・あのとき、オレはあの女に谷底に突き落とされ、再び死の恐怖を味わった・・・)
自分の過去、ほくとの手にかかり死の淵に立たされた自分を思い出して、カイリは歯がゆさを感じていた。
「このような草原で、私はあなたに襲い掛かった・・」
そこへ声がかかり、カイリが目つきを鋭くする。振り返らない彼の後ろに現れたのは、ほくとだった。
「私は、私に植え付けられた思念に駆られて、抗えないままあなたを手にかけた・・はずだった・・」
「だがオレは生き延びた・・分家党首のときと同様、谷底に突き落とされながらも・・」
血の封印が解かれたときのことを思い出すほくとに、カイリが答える。2人は彼女が血の封印が解かれたときの対峙を思い返していく。
「オレが生きていたことを知り、お前は再びオレの命を狙いに来た・・」
「違うわ・・私はあなたと話をして、水神家に連れ戻すために来たの・・あのとき、私は私自身の意識を失っていた・・水神家本家党首によって、あなたの暗殺の思念を封印されていたの・・」
敵意を向けるカイリに、ほくとが事情を話す。
「本家党首?オレの命を狙っているのは分家の・・」
「全ては分家党首の誤解と、本家党首の思惑が招いたこと。分家党首はあのとき、あなたが本家の子だったことに気付かなかった・・」
信じないカイリにほくとが水神家の悲劇を語りかけていく。
「自分があなたを手にかけてしまったことを知ったのは、悲劇の後だった・・後悔と絶望にさいなまれて、彼は身を投げた・・」
「くだらないたわごとを・・オレが信じると思っているのか・・?」
「本当よ・・でも本家はこの出来事を封じるため、私を本家に招くと同時に、私にあなたの暗殺の思念を封印した。もしも私があなたを見つけたときに、あなたを殺すように・・あなたが、この悲劇の生き証人だから・・」
あざけるカイリにほくとがさらに話を続ける。
「結局、あなたを狙っての水神家の暗躍を追及され、かつての本家党首は失脚することになった。カイリ、もうあなたの命を脅かそうとする、水神家の刺客はいないのです・・!」
「黙れ!そのような絵空事にオレは騙されない!お前はオレの息の根を今度こそ止めようと企んでいる!」
ほくとの話をはねつけて、カイリが感情をあらわにする。
「オレは生きる・・お前のように、オレの命を狙う者を根絶やしにして・・!」
「カイリ、私はあなたと戦うつもりは・・!」
鋭い視線を向けるカイリに、ほくとが呼びかける。
「あのときのようにはいかない!」
カイリがほくとの言葉をさえぎり、回し蹴りを繰り出す。ほくとが腕で防御するが、押されて痛みを覚える。
「これが、カイリの強さと、生への執着・・・!」
カイリの強さを痛感して、ほくとが緊迫を募らせる。彼女が痛みに耐えて、再び身構える。
「魔龍裂光!」
カイリがほくとの眼前まで詰め寄り、拳を振り上げる。
「うっ!」
ほくとが跳ね上げられて、苦痛にうめく。地面に倒れたほくとだが、すぐに起き上がりカイリに視線を戻す。
「お願いです、カイリ・・やめてください・・あなたには、帰れる場所があるのです!」
「まだたわごとを!その口を叩けなくする!」
呼びかけるほくとにカイリがいら立つ。
「豺狼兇手!」
カイリが拳を振り上げてほくとを跳ね上げる。カイリは飛んで、ほくとにさらに拳を叩き込み、頭に握った両手を叩きつける。
地面に倒れたほくとを、着地したカイリが見下ろす。
「すぐに引き返し、水神家に伝えろ。オレを殺すことはできはしないと・・」
カイリはほくとに忠告を送ってから、彼女に背を向けた。
「お願いです、カイリ・・信じてください・・・!」
ほくとが立ち上がり、カイリを必死に呼び止める。
「これ以上言うなら、今度こそ息の根を止めるぞ・・・!」
カイリが足を止めて、拳を握りしめる。
「あなたはもう・・血塗られた戦いをする必要はないのです・・・!」
それでもほくとはカイリを連れ帰ることを諦めない。
「凶邪連舞!」
カイリがほくとにつかみかかり、連続で打撃を繰り出す。衝撃と激痛に襲われて、ほくとが絶叫する。
「やめて!」
そこへ声がかかり、カイリが手を止める。彼とほくとの前に現れたのは七瀬だった。
「な・・なな・・!」
「お前もオレを狙う刺客か・・!?」
ほくとが言いかけるのをさえぎるように、カイリが七瀬に目を向ける。彼がほくとを放して、七瀬に飛びかかる。
「七瀬、逃げて!」
ほくとが声を振り絞って、七瀬に呼びかけた。その瞬間、カイリが七瀬に向けて振りかざした拳を止めた。
「七瀬・・・七瀬・・だと・・・!?」
カイリが七瀬を見つめて驚愕を覚える。彼は目を見開いている七瀬から拳を離す。
「あなたが、カイリお兄様・・・!?」
七瀬がカイリを見つめて戸惑いを見せる。カイリも七瀬と出会ったことで、さらなる記憶を呼び起こしていた。
それは小さな赤ん坊を抱く幼い自分の記憶。七瀬との時間をカイリは思い出した。
「お前・・七瀬なのか・・・!?」
「そうだよ、お兄様・・あなたの妹の、七瀬だよ・・・」
問いかけるカイリに、七瀬が悲しい顔を浮かべて答える。
「七瀬・・なぜあなたがここに・・・!?」
「あたしも連れ戻しに来たんだよ・・お兄様と、お姉様を・・」
ほくとが声をかけて、七瀬が真剣に答える。
「お姉様!?・・この女が、七瀬の姉だと・・!?」
七瀬の口にした言葉に、カイリが耳を疑う。
「何をバカな!?・・そこの女は分家の女・・分家の刺客として、オレの命を狙って・・・!」
「七瀬、私は本家ではなく分家の娘・・本家が娘として迎え入れてくれたに過ぎないの・・」
カイリが七瀬の言葉をはねつけて、ほくとも彼女に自分のことを話す。
「確かに、お姉様のお父様は分家の人・・父親が本家の人の私やカイリお兄様と違って・・でもお母様は、私たちと同じ本家の人だったの・・!」
「私のお母様が、本家の・・・!?」
七瀬が語る話を聞いて、ほくとが驚きを隠せなくなる。
水神家の意向によって結ばれることになったカイリの母。しかし彼女は本当はほくとの父、分家党首を愛していた。
分家党首への想いを捨てられなかった母は、彼との間にほくとを身ごもることになった。しかし結果、母は本家に戻ることになり、ほくとも本家に迎え入れられることになった。
「私の母も、本家の人間・・・!?」
「つまり同じ母・・オレたちは血のつながった本当の兄妹だというのか・・・!?」
七瀬の口から語られた真実に、ほくともカイリも困惑を募らせていた。
「本当のことなのか!?・・分家党首が間違えてオレを手にかけようとした・・その後、オレを抹殺しようとしたのは、オレの実の父である本家党首だと・・・!?」
「本当だよ・・もうお兄様を脅かす人は、水神家にはいない・・私もお姉様も、お兄様に帰ってきてほしいと思ってる・・・!」
問い詰めてくるカイリに呼びかけて、七瀬が微笑みかける。
「帰ろう、お兄様・・一緒に暮らそう・・・」
「ダメだ・・オレは戻るわけにはいかない・・・!」
手を差し伸べる七瀬だが、カイリは聞き入れようとしない。
「オレは自分が生きるために戦ってきた・・そのために近づく者を全て退けてきた・・このまま戻れば、オレは何のために生きてきたか分からなくなる・・・!」
「お兄様は悪くない!お兄様は水神家が起こした悲劇の被害者なだけ!だから、お兄様が気に病むことはないんだよ!」
苦悩を覚えて優しさを受け入れようとしないカイリに、七瀬が必死に呼びかける。
「カイリ、あなたを縛るものは何もありません・・それでも血塗られた運命があるというなら、私もともに背負います・・」
ほくともカイリのために心身を賭ける覚悟を決めていた。
「なのでカイリ、1度でもいいので、水神家に、あなたの家に帰りましょう・・・!」
「オレは戻るつもりはない・・オレはオレの生き方を否定するわけにはいかない・・・!」
ほくとも呼びかけるが、カイリは水神家に戻ることを頑なに拒む。
「オレはこれからも1人戦う・・オレ自身が生きるために・・・!」
「カイリ・・・」
「お兄様・・・!」
揺るぎない意思を口にするカイリに、ほくとも七瀬も困惑するばかりだった。
そのとき、気の刃がカイリたちのいる場所に向かって飛んできた。
「七瀬!」
ほくとが七瀬に飛びついてよけて、カイリが素早く刃をかわす。
「この技・・さっきの人が・・・!?」
ほくとが記憶を巡らせて、緊迫を覚える。3人の前にユーダイムが現れた。
「ついに見つけた・・お前はオレたちの助けとなる・・」
ユーダイムがカイリに目を向けて呟く。
「オレと一緒に来てもらう・・お前の強い肉体、オレたちアデスに差し出すのだ・・」
「水神家とは違う・・・何者だ、お前は・・アデスとは何だ・・!?」
声をかけるユーダイムにカイリが問いかける。
「この星の真の支配者が我らアデスだ。」
答えたのはユーダイムではなかった。新たに1人の男がカイリたちの前に現れた。
「そして私は、アデスの下部組織の1つ“クシエル”を統べる闇の爪、ジヴァートマと見知り置いていただこう。」
男、ジヴァートマが自己紹介をして、カイリに目を向ける。
「お前も来たのか、ジヴァートマ・・」
「あぁ。久しぶりにお前の本気の戦いを直に見たくなってな、ユーダイム。私も赴いたというわけだ。」
ユーダイムが視線を向けて、ジヴァートマが不敵な笑みを浮かべる。
「あの男、カイリがユーダイムの手にかかる一騎打ちを見届けさせてもらう。だが、お嬢さん方が加勢するというなら、私も手を出させてもらうぞ。」
ジヴァートマがほくとと七瀬に目を向けて、警告を送る。カイリとユーダイムが構えを取り、互いの出方をうかがう。
「カイリ、逃げて!その人の力は普通ではありません!」
ほくとが呼び止めるが、カイリはユーダイムと対峙したままである。
「逃げずに我らに挑むというのか。いい心構えだ。だが我々の手から逃れることは不可能だ。」
ジヴァートマが笑みを浮かべて言いかける。
「それだけ我々、アデスという組織は強大なのだ。」
彼がほくとと七瀬に目を向けて、さらに不敵に笑う。
「君たちも相応の実力の持ち主ならば、我々の同士となる資格はある。もちろん、君たちが魅力的な女性であることも評価に含まれているよ。」
「うえ〜・・アンタみたいなののお気に入りになんてなりたくないよ〜・・」
語りかけるジヴァートマに対して、七瀬が気分を悪くする。
「おとなしくオレたちと来るならよし・・逆らうならば苦しみを味わうことになる・・」
「すぐに引き返すなら死ぬことはない・・オレはお前たちの言いなりにはならない・・・!」
互いに忠告を投げかけるユーダイムとカイリ。
「ならば、力ずくで連れていくしかない・・・」
ユーダイムが戦意を強めて、カイリに飛びかかる。カイリが構えを取ってユーダイムを迎撃した。
ソワレとアデスを探して奔走するアルバとルイーゼ。その最中、ルイーゼが強い気配と思念を感じ取った。
「この感じは・・・!」
ルイーゼが緊張を覚えて足を止める。
「どうした、ルイーゼ?・・まさか、近くにソワレが・・!?」
アルバもソワレが近くにいることに気付いて、周囲を見渡す。
「あの森の中よ。彼だけじゃなく、アイツもそこにいる・・・!」
「アイツ・・まさか・・・!?」
「えぇ・・クシエルの、ジヴァートマもいる・・・!」
ルイーゼの言葉を聞いて、アルバが目つきを鋭くする。
「行きましょう、アルバ・・・」
「もちろんだ・・・!」
ルイーゼとアルバが声をかけ合い、森へと駆けだした。