FIGHTING IMPACT
第3話
カイリを追って旅を続けるほくと。彼女はいつしか街中の大通りに出ていた。
(騒がしいところに出てしまったわね・・こんなところ、あの人が現れるとは思えない・・)
そこでは手がかりがつかめないと思い、ほくとは場所を変えることにした。
「まさかこのような場所で、和服姿を見られるとは思わなかったわね〜♪」
そこへ声をかけられて、ほくとが振り向く。彼女の視線の先に、1人の少女と1人の巨漢がいた。2人とも黒い肌をしていた。
「すみませんが、私は急いでいますので・・」
「今回も世界を回って、今はこの日本にいるの♪あなたのような人を大和撫子っていうのよねぇ〜♪」
ほくとが言いかけるが、少女は彼女の言葉を聞かずに話をする。
「でもおかしな人も見かけたわね。上半身裸で外をウロウロしちゃってねぇ。」
少女が口にしたこの言葉を耳にして、ほくとが目を見開く。
「あなたたち、その人に会ったのですか!?・・どこで!?」
ほくとが振り返り、少女に問い詰める。
「えっ?えっと確か〜・・」
「この街に入る少し前。この道の先で会いました。」
少女が首をかしげると、男が代わりに答える。
「この道の先ですね・・ありがとうございます・・!」
ほくとが一礼して走り出そうとした。
「ちょっと待った♪せっかく親切に教えてあげたんだから、次はあたしに付き合ってよね♪」
すると少女がほくとの前に出てきて呼び止めてきた。
「あの、私、急いでいるので・・これで失礼します・・!」
「そうはいかないわ。あなたに日本のことをいろいろ案内してもらうんだから〜♪」
ほくとが言いかけるが、少女は聞かずに彼女に呼びかけてくる。
「困ります・・他の方にでも頼んでください・・・!」
「あたしが頼んでるんだから、ありがたくお受けするのが普通でしょ?それともあたしの言うことが聞けないっていうの?」
不愉快を覚えるほくとに少女が文句を言ってくる。彼女が手を伸ばすが、ほくとはその手をつかんだ。
「無理強いや自分勝手は感心しません・・こちらの都合を考えずに私を連れ出そうとするなら、それなりの対応をすることになります・・・!」
ほくとが目つきを鋭くして、少女を警告する。少女はほくとの手を振り払い、距離を取って構える。
「こうなったら力ずくにでも付き合ってもらうんだからー!このプルム・プルナに従いなさーい!」
少女、プルムがほくとに向かって走り出す。
「ドリルプルス!」
彼女が回転しながらキックを繰り出す。ほくとは冷静に突撃をかわす。
「ちょっと、よけないでよー!プリムキック!」
プルムがふくれっ面を浮かべて、足を振り上げる。ほくとはこれも回避してみせる。
「ホントにすばしっこいわねー!ダラン、そいつを捕まえるのよ!」
プルムが男、ダラン・マイスターに呼びかける。ダランがスーツの上着を脱いで構えを取る。
「本来ならこのような行為は卑怯だが、お嬢様のご命令です。お許しください!」
ダランがほくとに向かっていき、両手を伸ばす。ほくとはプルムの動きも見計らいながら、ダランのつかみをかわす。
「ダラン、しっかり押さえなさいよね!」
プルムが不満を見せて、ダランと連携してほくとを挟み撃ちにする。
「さぁ、あたしに道案内してもらうわよ〜!」
「あくまで私を思い通りにしようというのですね・・仕方ありませんが、多少の負傷は覚悟してもらいます・・」
自信満々のプルムに対し、ほくとは感覚を研ぎ澄ませる。
「だったらこれならどう!?プラエクラーム!」
プルムが回転してほくとに回し蹴りを仕掛ける。ほくとが後ろに下がって、プルムのキックをかわす。
だがほくとの後ろにはダランが待ち構えていた。
「インドラ〜橋!」
ダランが体を後ろにそらしてブリッジの体勢になって、腹筋を張らせた腹でほくとを上に跳ね上げた。
「やったわ、ダラン!そのままダランキャッチよ!」
プルムが呼びかけて、ダランがほくとが落下するのを見計らって両手を構える。しかしほくとは空中で体勢を整えていた。
「気錬射!」
ほくとが落下しながら気を弓矢を構えて放つ。ダランがとっさに体を動かして気の矢をかわしたが、ほくとをつかみ損なう。
「もー!何やってるのよ、ダラン!」
プルムが文句を言って、ほくとに飛びかかる。彼女が腕を振りかざして、突風を放ってほくとの動きを封じ込める。
「ダラン、今度こそ投げ技で決めちゃいなさい!」
「はっ!」
プルムの呼びかけにダランが答えて、ほくとに向かっていく。
「こんなところで、足を止めるわけにはいきません・・!」
ほくとが意思を強くして、突風に抗う。彼女の手に大きな薙刀「訃刀」が握られた。
「えっ!?」
「なっ!?」
訃刀を目の当たりにして、プルムとダランが驚きを覚える。ほくとがプルムの横に訃刀を振り下ろした。
切っ先からかすかに火花が散った訃刀の一閃に、プルムが目を見開いたままその場に座り込んだ。
「私、急いでますので、これで失礼します・・」
訃刀を消したほくとが言いかけて、ゆっくりと歩き出す。
「お、お嬢様!」
ダランが慌ててプルムに駆け寄って呼びかける。
「お嬢様、しっかりしてください!お怪我はありませんでしょうか!?」
ダランの心配の声を受けて、プルムが我に返る。
「ダラン・・・!」
「お嬢様、気がつかれましたか・・・!」
声を上げるプルムに、ダランが安堵を覚える。
「コラー!あなたがあたしに構ってるから、逃げられちゃったじゃなーい!」
文句を言ってきたプルムに、ダランが唖然となる。
「もー!ホント役に立たないんだから、ダランはー!」
「お嬢様・・・」
不満いっぱいのプルムに、ダランは気まずくなる。プルムのわがままぶりに、ダランはいつも頭が上がらなかった。
プルムとダランの妨害を切り抜けて、ほくとはカイリを追って足を速めた。しかし街から出てもカイリの姿は見つからなかった。
(私が来るのが遅れてしまったから、どこかへ行ってしまったのでしょうか・・・)
カイリのところへたどり着けないことに、ほくとが辛さを覚える。彼女が自分の胸に手を当てる。
(でも近くにいることは間違いない・・諦めなければ、いつか必ず・・・)
カイリへの思いを募らせて、ほくとはさらに足を速めた。
街外れへと歩いていく1つの影。1人の銀髪の男がゆっくりと歩を進める。
「この辺りかと思ったが、そうではない・・離れてしまったか・・・」
男が呟いて周囲に視線を向ける。
「だが必ず見つけ出す・・我らの未来のために・・・」
男はさらに呟いて歩き出す。自分たちの目的の遂行のために。
木々の広がる小さな山。その頂に来て、カイリが遠くを見据えていた。
(オレは生きる・・オレの命を狙う刺客は、全て倒す・・・)
血塗られた決意を噛みしめて、カイリが拳を握りしめる。
(そしてあの女・・ほくとも・・・)
ほくとのことも思い出していたカイリ。しかし彼はほくとを妹ではなく、水神家分家の手の者だと思っていた。
ほくととの再戦を予感しながら、カイリは再び歩き出した。
1昼夜が流れ、飛行機に乗って日本にたどり着いたアルバとルイーゼ。2人が空港を出て日本の景色を目にしていく。
「ここが日本か・・サウスタウンよりは平和そうだ・・」
「この国のどこかにソワレが、アデスの刺客がいるのね・・」
アルバとルイーゼが呟いて、街のほうに目を向ける。
「あのような街に、ソワレと訪れたいものだ・・必ず実現させてみせる・・・」
1つの願いを胸に秘めて、アルバが歩き出す。ところが少し進んだところで、彼はある人物を目にした。
「あれは、ハイエナか・・?」
アルバのつぶやきを聞いて、ルイーゼも目を向ける。2人の視線の先に、黄緑のスーツとサングラスを身に着けた男がいた。
男の名はハイエナ。アデスの下部組織の1つ「メフィストフェレス」のボス、デュークの腰巾着。口先がうまい情報通でもある。
ハイエナの前に1人の人物がいた。ガイコツ姿の前進タイツを着ていて、ベルトと赤いマフラーも身に着けていた。
「ガイコツヤローがオレに何かようか?あいにく暇じゃないんでな。」
「世界征服を企む悪党ども!このスーパーヒーロー、スカロマニアが成敗してくれる!」
不敵な笑みを見せるハイエナにガイコツ姿の男、スカロマニアが高らかに言い放つ。
「ハッハッハ!悪党ってことは認めるけどな、お前みてぇなふざけたヤツにやられるハイエナ様じゃないんだよ!」
ハイエナがスカロマニアをあざ笑い、軽い足取りを見せて挑発する。
「それじゃ特別にお前に見せてやるとするか。このオレの真の実力ってヤツをな!」
「この私がいる限り、悪が栄えることは絶対にないのだ!」
構えを取るハイエナにスカロマニアが言い放つ。
「ハイエナパンチ!」
ハイエナが右の大振りのパンチを繰り出す。スカロマニアはバック転をして、ハイエナのパンチをかわす。
「私の反撃だ!スカロクラッシャー!」
スカロマニアが前に飛び込んで、頭から突っ込んだ。
「ぐふっ!」
彼の突撃を受けて、ハイエナがうめく。
「おのれ、やってくれたな〜・・もう1発、ハイエナパンチ!」
「スカロスライダー!」
もう1度パンチを出そうとしたハイエナの足元に、スカロマニアがスライディングキックを繰り出した。
「あぎゃー!」
足を攻撃されたハイエナが転んで、痛がって昏倒する。
「どうだ!これがスーパーヒーローの強さだ!」
スカロマニアが腰に手を当てて、高らかに言い放つ。
「アタタタタ・・おのれー・・いい気になりやがって〜!」
ハイエナが痛がりながら立ち上がる。
「これでも食らえー!」
彼がスカロマニアに向かって飛び込む。スカロマニアが横に動いてかわして、ハイエナが地面にダイブして突っ伏した。
「そんなものが、この私に通用すると思ったか!」
スカロマニアが言い放つが、ハイエナはうつ伏せのまま起き上がらない。
「おい、どうした?まさか自滅したのではないだろうな?」
スカロマニアが声をかけるが、ハイエナは答えない。
次の瞬間、ハイエナが両足を振り上げて、かかと落としをスカロマニアに当ててきた。
「うあっ!」
スカロマニアが突き飛ばされて倒される。ハイエナが笑みをこぼして立ち上がった。
「ワーッハッハ!引っかかったな!やられたと思って油断しやがってー!」
今度はハイエナがスカロマニアを見下ろして、高らかに笑い声を上げてきた。
「さーて!ここからはこのハイエナ様の1人舞台だぜ!オレ様の力を存分に味わってからくたばりやがれ!」
ハイエナが部下の黒ずくめの男たちを引き連れて、スカロマニアに駆け寄って踏みつける。
「お前のようなヤツが息巻いたところで、オレたちの前じゃ形無しなんだよ!正義はお前じゃなく、オレたちにあるんだよ!」
「それは違う・・断じて違うぞー!」
嘲笑しながら言い放つハイエナに言い返すスカロマニア。彼の体から高出力のエネルギーが放出された。
「何っ!?」
ハイエナと男たちがエネルギーによって吹き飛ばされる。男たちが気絶して動かなくなり、ハイエナが痛みを噛みしめて立ち上がる。
「スカロエナジー・・正義の力を増幅させて解き放つ力だ!」
スカロマニアがハイエナを指さして言い放つ。
「な、何なんだよ、こりゃ!?何者だよ、お前!?」
「言ったはずだ!私はスーパーヒーロー!お前たち悪を滅ぼすために、私は戦い続けるのだ!」
ハイエナが悲鳴のように文句を言って、スカロマニアが高らかに言い放つ。
「私の本領発揮、受けてみるがいい!行くぞー!スーパースカロクラッシャー!」
スカロマニアが全力を出してハイエナに頭から突っ込んだ。
「ぐぎゃあっ!」
スカロマニアの突撃を受けて、ハイエナが激しく転がっていく。
「まだまだ行くぞー!スーパースカロスライダー!」
スカロマニアがスライディングキックを繰り出す。彼がハイエナにキックを押し込んで、さらに足を回して続けてキックを命中させて。
「がはー!」
ハイエナが蹴り飛ばされて、地面に叩きつけられる。
「おのれ・・こんな・・こんなふざけたヤツなどに〜・・!」
ボコボコにされながらも、ハイエナは息を乱しながら立ち上がる。
「これでとどめだ!必殺、スカロドリーム!」
スカロマニアがハイエナに連続で打撃を当てていく。
「ぐぎゃあっ!」
スカロマニアの連続攻撃を受けて跳ね上げられて、ハイエナが宙を舞った後、地面に落下して倒れた。
「悪は滅びろ!」
スカロマニアがポーズを決めて勝利を実感する。彼が動かなくなったハイエナを指さす。
「この私がいる限り、この世に悪は栄えない!お前たちのボスに伝えておけ!改心するなら今のうちだとな!」
正義を実感して笑い声を上げるスカロマニア。
「ではさらばだ!とおっ!」
スカロマニアは走り出して、この場を後にした。
「何なの、あの人は・・・」
ルイーゼがスカロマニアを見て唖然となっていた。
「おかしなヤツだったが、ハイエナたちを仕留めてくれたことには感謝しておくか・・とりあえずな・・」
アルバは冷静を装い、ハイエナたちが倒れているのを一瞥する。
「コイツらのような下っ端に、自分たちの正体や居場所につながる情報を与えるはずがない。アデスはそういうものだろう?」
アルバが口にした言葉に、ルイーゼが小さく頷いた。
「行きましょう。私たちの到着を、アデスは既にかぎつけているはず・・」
「分かっている。だがそれはオレの望むところだ。」
呼びかけるルイーゼに答えて、アルバが歩き出す。
(ソワレを見つけ出す手がかりとなる・・必ず見つけ出してやるぞ、ソワレ・・・)
ソワレへの思いを募らせて、アルバは前進していく。真っ直ぐな彼にルイーゼは不安を感じていた。
荒廃した山奥の町。都会だった名残があるが、人が住んでいる様子はない。
その町の中にカイリは立っていた。彼は周囲に感覚を研ぎ澄ませて、敵の有無を確かめていた。
「ここに刺客が潜んでいるかもしれんが・・」
カイリが呟いて、町中の建物の1つに足を踏み入れた。彼は腰を下ろして壁にもたれかかった。
(ほくとが近づいてきている気がする・・オレを追って・・オレの息の根を、今度こそ止めようとしているのだな・・・)
ほくとの接近を予感しながら、カイリが目を閉じた。周囲への感覚を研ぎ澄ませたまま。
しばらく静寂が漂い、カイリは束の間の休息を取っていた。だが静寂を壊して足音が響き、カイリが目を開く。
「こんなところに人がいたとはね。しかもそんなボロボロな人が・・」
カイリの前に1人の女性が現れた。彼女は長い金髪をかき上げて、カイリを見下ろす。
「何者だ?お前もオレの命を狙う刺客か?」
「刺客・・確かによく言われるわね。そういうことをよくやるから・・でもあなたを狙っているのは私じゃない。」
カイリの問いかけに対し、女性が妖しく微笑みかけてくる。
「お前からは血のにおいがする・・オレは殺されるつもりはない・・」
カイリが立ち上がり、構えを取り女性と敵対する。
「あなたを狙うつもりはないと言ったのだけれど、攻撃を仕掛けてくるなら仕方がないわね・・」
女性が肩を落としてから、右の手首に装備している通信機を掲げた。
「支援要請。」
彼女が通信機に呼びかけると、空から建物の屋根や天井を突き破って閃光が飛び込んできた。光はカイリのいた場所に落ちたが、カイリは回避して外に出ていた。
「なかなかやるわね。さすがはアデスがマークしているだけのことはあるわね。」
「アデス?何者だ、そいつらは?」
微笑みかける女性に、カイリが眉をひそめる。
「詳しいことは私も分からないわ。目的の1つが、強い肉体を持つ格闘家というくらいね。」
「つまり、命ではなく肉体が狙いなのか・・・!?」
女性の言葉にカイリがさらに疑問を感じていく。
「お前ほどの力の持ち主ならば、ヤツらも支配下に置きたいと考えているだろう・・」
彼に言いかけたのは女性ではなかった。大きな体格の男が姿を現した。
「先走るのはお前の悪い癖だ、リアン。」
男が女性、リアン・ネヴィルに声をかける。
「私はおしとやかじゃないからね、デューク。」
リアンが男、デュークに皮肉を返す。
「お前は何者だ?」
「オレはアデスの下部組織、メフィストフェレスもボスだ・・だが、それも今では過去の話だがな・・」
カイリの問いかけに答えて、デュークが首元に手を当てる。
「オレを裏切ったアデスへの復讐を果たす。貴様がアデスの手に落ちれば、オレにとって脅威になりかねない。恨みはないが、お前を地獄に落とす。」
「お前もオレの命を狙うか・・ならばお前たちを倒してでも、オレは生きる・・・!」
敵意を向けるデュークに対し、カイリが構えを取る。
「抵抗してもムダだということを思い知るのだな。リアン、手を出すな。」
デュークがカイリに不敵な笑みを見せてから、リアンに視線を向ける。
「私は構わないけど、私が首をいただくのだから、勝手に死なないでよね。」
リアンからの皮肉にも笑みをこぼして、デュークも構えを取る。
「かなりの腕を備えているようだが、オレは死なん・・地獄に落ちるのはお前たちのほうだ・・・」
カイリが言いかけて、デュークに向かっていく。拳と足を振りかざして当てるカイリだが、デュークは防御して平然としている。
「思った通りただ者ではないが、オレの敵ではないな・・!」
デュークは呟いてから、カイリの体に拳を叩き込む。
「ぐっ!」
デュークの重みのある打撃を受けて、カイリが吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。追い打ちを仕掛けるデュークに、カイリがとっさに気の弾を放つ。
気の力に押されるデュークだが、難なく踏みとどまる。
「オレを他のヤツと同じと考えれば、命取りとなる・・」
デュークが不敵な笑みを浮かべて、手招きをしてカイリを挑発する。
「関係ない・・オレはオレの命を狙う敵を葬るまでだ・・・!」
カイリが鋭く言ってから、デュークの眼前まで飛び込んだ。
「魔龍裂光!」
カイリが振り上げた拳がデュークの顎に命中した。しかしデュークはわずかに押されただけで平然としている。
「この程度ではアデスは愚か、私を倒すことも叶わんぞ・・・!」
デュークが鋭く言うと、右腕を振りかざしてカイリにラリアットを叩き込んだ。
「ぐふっ!」
カイリが突き飛ばされてうめき、壁を突き破って建物の中に放り込まれた。デュークはゆっくりと歩を進めて、建物の中に入ってカイリを追う。
暗闇に満ちた建物の中を歩くデューク。そのとき、彼に向かってカイリが上から蹴りを繰り出してきた。
しかしデュークはカイリの蹴りをかわし、拳を振り上げて逆に彼を宙に跳ね上げた。
「オレは闇の中で生きてきた。生憎、夜目は利く方でな・・」
不敵な笑みを浮かべるデューク。彼はカイリが音を立てずに移動していることも感付いていた。
「甘いわ!」
デュークが地面を強く踏みつける。爆発のような衝撃が巻き起こり、彼に近づいていたカイリが吹き飛ばされる。
デュークが続けて拳を大きく振りかぶり、カイリに追撃を当てる。カイリが吹き飛ばされて、壁をぶち破り外に飛び出す。
「これで分かっただろう。貴様の末路は地獄に落ちるしかない。ムダな抵抗をやめた方が楽かもしれんぞ・・」
デュークがカイリに近づき、忠告を送る。カイリが立ち上がり、デュークに鋭い視線を向ける。
「まだ抗うつもりか?楽に死ねないことを望むとはな・・」
デュークが右手を掲げて、エネルギーを集中させていく。
「死にぞこないが2度とよみがえらぬよう、この波動で地獄に逝けえ!」
彼が右手を握りしめて、エネルギーを放出する。強力な衝撃波が周囲の建物を吹き飛ばし、カイリを巻き込んだ。
「これで終わりね。意外と呆気なかったわね・・」
リアンが戦況を見て微笑みかける。舞い上がる砂煙の中からデュークが姿を現した。
「早く行きましょう。私たちも暇を持て余しているわけじゃないんだから・・」
リアンが呼びかけるが、デュークはその場にとどまっている。
「どうしたのよ?」
「ヤツはまだ死んではいない・・」
リアンの問いかけに、デュークは振り返らずに答える。
「そればかりか、ヤツの殺気が増している・・」
「えっ・・?」
彼の口にした言葉に、リアンが眉をひそめる。さらに砂煙が治まって、カイリも姿を現した。
カイリの両手に青白い焔が灯っていた。魂の火のような気が彼の手に集まっていた。
「オレは生きる・・オレの命を阻むものを葬ってでも・・・!」
カイリが鋭く言いかけると、音もなく姿を消した。
「あれだけの力が残っていたとはね。でもあれだけの殺気をむき出しにしていたら、イヤでも感じ取ってしまうわ。攻撃をよけれくれと言っているようなもの・・」
リアンがカイリを嘲笑する。次の瞬間、デュークが突然突き飛ばされて、激しく地面を転がる。
「デューク!?」
リアンがデュークを見て驚く。起き上がったデュークが両手を握りしめる。
(ヤツの戦闘力が格段に上がった・・これがヤツの底力というヤツか・・)
カイリの力を痛感して、デュークが警戒する。彼は次にカイリが攻撃したときに、即座に反撃できるよう身構えた。
再び訪れた重い静寂の中、デュークが強い衝撃に襲われる。カイリの拳が彼の体に叩き込まれた。
「捉えたぞ!」
攻撃に耐えたデュークがカイリの足をつかんで振り回す。カイリを空中に放り投げて、デュークが飛び上がり、再び彼の体を逆さにつかんで地面に叩きつけようとする。
「凶邪連舞!」
そのとき、カイリがデュークをつかみ返した。次の瞬間、リアンが瞬きをした瞬間だった。
デュークがカイリを放して地上に叩きつけられた。カイリは着地して、手に灯っていた焔を消した。
一瞬の出来事だったため、リアンには分からなかった。つかみかかったカイリが、デュークに連続で打撃を叩き込んだ。一気にダメージを増したデュークは、カイリを放して落下して倒れたのである。
「すぐに意識を取り戻すだろう・・それだけの強さの持ち主だったようだ・・・」
カイリが言いかけて、デュークとリアンの前から立ち去ろうとした。
「ま・・待て・・・!」
意識を取り戻したデュークが立ち上がり、声を振り絞る。
「まさか、これほどの力を秘めていたとは・・オレもお前を侮っていたようだ・・・!」
デュークが笑みを浮かべて、カイリが足を止める。
「これほどの強さ・・アデスが見逃すはずがない・・遅かれ早かれ、貴様の前にアデスの手の者が必ず現れる・・ヤツらはいかなる手を使ってでも、お前のようなヤツの肉体を手に入れようとするだろう・・」
「関係ないと言った・・オレはオレの命を狙う者は、全て葬り去る・・・」
語りかけるデュークだが、カイリはそれも聞き入れない。
「終わりのない苦しみを味わうことになるぞ・・地獄に落ちたほうが楽だったと思えるほどにな・・・!」
「既にオレは修羅の道を進んでいる・・どのような手の者が現れようと、倒して生き抜くまで・・・」
デュークが忠告を送っても、カイリは意思を変えない。カイリは改めて歩き出し、リアンが彼に攻撃を加えようと構えを取る。
「待て・・・!」
デュークが呼び止めて、リアンが構えを解く。
「どういうつもりなの?みすみす見逃す気?」
「お前が追ったところで敵いはしない・・私を追い詰めるほどの力を発揮したヤツにはな・・」
眉をひそめるリアンにデュークが言いかける。2人の視界からカイリの姿が消えた。
(このオレをも凌駕する力の持ち主・・アデスが必ずヤツに接触してくる・・あの男も時期に動き出すだろう・・)
デュークが心の中で呟き、事態の本格化を予感する。
(このままヤツの行方を追う・・そうすればアデスも、オレの前に姿を現すだろう・・)
「回復次第ヤツを追う。ただしヤツらが現れるまでは、あの男に直接手を出すな・・」
決断を下したデュークがリアンに呼びかける。
「ヤツら・・まさか・・・!?」
「そうだ・・アデスと直接対峙するときが近い・・・」
息をのむリアンにデュークが言いかける。
「あなたと同じ、私のパパとママを殺した仇・・・!」
リアンがデュークに鋭い視線を向ける。
リアンの両親はデュークに殺された。彼に引き取られて暗殺術を叩き込まれたリアンだが、今も彼の首を狙う一方で、仇の根源であるアデスの壊滅も考えていた。
「オレの復讐に付き合ってもらうぞ。オレの首を狙うならその後で好きにしろ・・」
「アデスの壊滅は私の目的でもある。もちろん、あなたの始末も忘れていないわ・・」
不敵な笑みを浮かべるデュークに、リアンが自分の考えを口にする。2人はアデス打倒のため、カイリを追って歩き出した。
“あの男の居場所が分かった。今、タイプDと交戦したそうだ。”
銀髪の男に向けて声が届く。
“すぐに行ってくれ。そして我々の前に連れてきてくれ。”
声に対して男が頷く。彼は目的の人物を狙って歩き出した。