FIGHTING IMPACT

第3話

 

 

 カイリを追って旅を続けるほくと。彼女はいつしか街中の大通りに出ていた。

(騒がしいところに出てしまったわね・・こんなところ、あの人が現れるとは思えない・・)

 そこでは手がかりがつかめないと思い、ほくとは場所を変えることにした。

「まさかこのような場所で、和服姿を見られるとは思わなかったわね〜♪」

 そこへ声をかけられて、ほくとが振り向く。彼女の視線の先に、1人の少女と1人の巨漢がいた。2人とも黒い肌をしていた。

「すみませんが、私は急いでいますので・・」

「今回も世界を回って、今はこの日本にいるの♪あなたのような人を大和撫子っていうのよねぇ〜♪」

 ほくとが言いかけるが、少女は彼女の言葉を聞かずに話をする。

「でもおかしな人も見かけたわね。上半身裸で外をウロウロしちゃってねぇ。」

 少女が口にしたこの言葉を耳にして、ほくとが目を見開く。

「あなたたち、その人に会ったのですか!?・・どこで!?

 ほくとが振り返り、少女に問い詰める。

「えっ?えっと確か〜・・」

「この街に入る少し前。この道の先で会いました。」

 少女が首をかしげると、男が代わりに答える。

「この道の先ですね・・ありがとうございます・・!」

 ほくとが一礼して走り出そうとした。

「ちょっと待った♪せっかく親切に教えてあげたんだから、次はあたしに付き合ってよね♪」

 すると少女がほくとの前に出てきて呼び止めてきた。

「あの、私、急いでいるので・・これで失礼します・・!」

「そうはいかないわ。あなたに日本のことをいろいろ案内してもらうんだから〜♪」

 ほくとが言いかけるが、少女は聞かずに彼女に呼びかけてくる。

「困ります・・他の方にでも頼んでください・・・!」

「あたしが頼んでるんだから、ありがたくお受けするのが普通でしょ?それともあたしの言うことが聞けないっていうの?」

 不愉快を覚えるほくとに少女が文句を言ってくる。彼女が手を伸ばすが、ほくとはその手をつかんだ。

「無理強いや自分勝手は感心しません・・こちらの都合を考えずに私を連れ出そうとするなら、それなりの対応をすることになります・・・!」

 ほくとが目つきを鋭くして、少女を警告する。少女はほくとの手を振り払い、距離を取って構える。

「こうなったら力ずくにでも付き合ってもらうんだからー!このプルム・プルナに従いなさーい!」

 少女、プルムがほくとに向かって走り出す。

「ドリルプルス!」

 彼女が回転しながらキックを繰り出す。ほくとは冷静に突撃をかわす。

「ちょっと、よけないでよー!プリムキック!」

 プルムがふくれっ面を浮かべて、足を振り上げる。ほくとはこれも回避してみせる。

「ホントにすばしっこいわねー!ダラン、そいつを捕まえるのよ!」

 プルムが男、ダラン・マイスターに呼びかける。ダランがスーツの上着を脱いで構えを取る。

「本来ならこのような行為は卑怯だが、お嬢様のご命令です。お許しください!」

 ダランがほくとに向かっていき、両手を伸ばす。ほくとはプルムの動きも見計らいながら、ダランのつかみをかわす。

「ダラン、しっかり押さえなさいよね!」

 プルムが不満を見せて、ダランと連携してほくとを挟み撃ちにする。

「さぁ、あたしに道案内してもらうわよ〜!」

「あくまで私を思い通りにしようというのですね・・仕方ありませんが、多少の負傷は覚悟してもらいます・・」

 自信満々のプルムに対し、ほくとは感覚を研ぎ澄ませる。

「だったらこれならどう!?プラエクラーム!」

 プルムが回転してほくとに回し蹴りを仕掛ける。ほくとが後ろに下がって、プルムのキックをかわす。

 だがほくとの後ろにはダランが待ち構えていた。

「インドラ〜橋!」

 ダランが体を後ろにそらしてブリッジの体勢になって、腹筋を張らせた腹でほくとを上に跳ね上げた。

「やったわ、ダラン!そのままダランキャッチよ!」

 プルムが呼びかけて、ダランがほくとが落下するのを見計らって両手を構える。しかしほくとは空中で体勢を整えていた。

「気錬射!」

 ほくとが落下しながら気を弓矢を構えて放つ。ダランがとっさに体を動かして気の矢をかわしたが、ほくとをつかみ損なう。

「もー!何やってるのよ、ダラン!」

 プルムが文句を言って、ほくとに飛びかかる。彼女が腕を振りかざして、突風を放ってほくとの動きを封じ込める。

「ダラン、今度こそ投げ技で決めちゃいなさい!」

「はっ!」

 プルムの呼びかけにダランが答えて、ほくとに向かっていく。

「こんなところで、足を止めるわけにはいきません・・!」

 ほくとが意思を強くして、突風に抗う。彼女の手に大きな薙刀「訃刀(しらせがたな)」が握られた。

「えっ!?

「なっ!?

 訃刀を目の当たりにして、プルムとダランが驚きを覚える。ほくとがプルムの横に訃刀を振り下ろした。

 切っ先からかすかに火花が散った訃刀の一閃に、プルムが目を見開いたままその場に座り込んだ。

「私、急いでますので、これで失礼します・・」

 訃刀を消したほくとが言いかけて、ゆっくりと歩き出す。

「お、お嬢様!」

 ダランが慌ててプルムに駆け寄って呼びかける。

「お嬢様、しっかりしてください!お怪我はありませんでしょうか!?

 ダランの心配の声を受けて、プルムが我に返る。

「ダラン・・・!」

「お嬢様、気がつかれましたか・・・!」

 声を上げるプルムに、ダランが安堵を覚える。

「コラー!あなたがあたしに構ってるから、逃げられちゃったじゃなーい!」

 文句を言ってきたプルムに、ダランが唖然となる。

「もー!ホント役に立たないんだから、ダランはー!」

「お嬢様・・・」

 不満いっぱいのプルムに、ダランは気まずくなる。プルムのわがままぶりに、ダランはいつも頭が上がらなかった。

 

 プルムとダランの妨害を切り抜けて、ほくとはカイリを追って足を速めた。しかし街から出てもカイリの姿は見つからなかった。

(私が来るのが遅れてしまったから、どこかへ行ってしまったのでしょうか・・・)

 カイリのところへたどり着けないことに、ほくとが辛さを覚える。彼女が自分の胸に手を当てる。

(でも近くにいることは間違いない・・諦めなければ、いつか必ず・・・)

 カイリへの思いを募らせて、ほくとはさらに足を速めた。

 

 街外れへと歩いていく1つの影。1人の銀髪の男がゆっくりと歩を進める。

「この辺りかと思ったが、そうではない・・離れてしまったか・・・」

 男が呟いて周囲に視線を向ける。

「だが必ず見つけ出す・・我らの未来のために・・・」

 男はさらに呟いて歩き出す。自分たちの目的の遂行のために。

 

 木々の広がる小さな山。その頂に来て、カイリが遠くを見据えていた。

(オレは生きる・・オレの命を狙う刺客は、全て倒す・・・)

 血塗られた決意を噛みしめて、カイリが拳を握りしめる。

(そしてあの女・・ほくとも・・・)

 ほくとのことも思い出していたカイリ。しかし彼はほくとを妹ではなく、水神家分家の手の者だと思っていた。

 ほくととの再戦を予感しながら、カイリは再び歩き出した。

 

 1昼夜が流れ、飛行機に乗って日本にたどり着いたアルバとルイーゼ。2人が空港を出て日本の景色を目にしていく。

「ここが日本か・・サウスタウンよりは平和そうだ・・」

「この国のどこかにソワレが、アデスの刺客がいるのね・・」

 アルバとルイーゼが呟いて、街のほうに目を向ける。

「あのような街に、ソワレと訪れたいものだ・・必ず実現させてみせる・・・」

 1つの願いを胸に秘めて、アルバが歩き出す。ところが少し進んだところで、彼はある人物を目にした。

「あれは、ハイエナか・・?」

 アルバのつぶやきを聞いて、ルイーゼも目を向ける。2人の視線の先に、黄緑のスーツとサングラスを身に着けた男がいた。

 男の名はハイエナ。アデスの下部組織の1つ「メフィストフェレス」のボス、デュークの腰巾着。口先がうまい情報通でもある。

 ハイエナの前に1人の人物がいた。ガイコツ姿の前進タイツを着ていて、ベルトと赤いマフラーも身に着けていた。

「ガイコツヤローがオレに何かようか?あいにく暇じゃないんでな。」

「世界征服を企む悪党ども!このスーパーヒーロー、スカロマニアが成敗してくれる!」

 不敵な笑みを見せるハイエナにガイコツ姿の男、スカロマニアが高らかに言い放つ。

「ハッハッハ!悪党ってことは認めるけどな、お前みてぇなふざけたヤツにやられるハイエナ様じゃないんだよ!」

 ハイエナがスカロマニアをあざ笑い、軽い足取りを見せて挑発する。

「それじゃ特別にお前に見せてやるとするか。このオレの真の実力ってヤツをな!」

「この私がいる限り、悪が栄えることは絶対にないのだ!」

 構えを取るハイエナにスカロマニアが言い放つ。

「ハイエナパンチ!」

 ハイエナが右の大振りのパンチを繰り出す。スカロマニアはバック転をして、ハイエナのパンチをかわす。

「私の反撃だ!スカロクラッシャー!」

 スカロマニアが前に飛び込んで、頭から突っ込んだ。

「ぐふっ!」

 彼の突撃を受けて、ハイエナがうめく。

「おのれ、やってくれたな〜・・もう1発、ハイエナパンチ!」

「スカロスライダー!」

 もう1度パンチを出そうとしたハイエナの足元に、スカロマニアがスライディングキックを繰り出した。

「あぎゃー!」

 足を攻撃されたハイエナが転んで、痛がって昏倒する。

「どうだ!これがスーパーヒーローの強さだ!」

 スカロマニアが腰に手を当てて、高らかに言い放つ。

「アタタタタ・・おのれー・・いい気になりやがって〜!」

 ハイエナが痛がりながら立ち上がる。

「これでも食らえー!」

 彼がスカロマニアに向かって飛び込む。スカロマニアが横に動いてかわして、ハイエナが地面にダイブして突っ伏した。

「そんなものが、この私に通用すると思ったか!」

 スカロマニアが言い放つが、ハイエナはうつ伏せのまま起き上がらない。

「おい、どうした?まさか自滅したのではないだろうな?」

 スカロマニアが声をかけるが、ハイエナは答えない。

 次の瞬間、ハイエナが両足を振り上げて、かかと落としをスカロマニアに当ててきた。

「うあっ!」

 スカロマニアが突き飛ばされて倒される。ハイエナが笑みをこぼして立ち上がった。

「ワーッハッハ!引っかかったな!やられたと思って油断しやがってー!」

 今度はハイエナがスカロマニアを見下ろして、高らかに笑い声を上げてきた。

「さーて!ここからはこのハイエナ様の1人舞台だぜ!オレ様の力を存分に味わってからくたばりやがれ!」

 ハイエナが部下の黒ずくめの男たちを引き連れて、スカロマニアに駆け寄って踏みつける。

「お前のようなヤツが息巻いたところで、オレたちの前じゃ形無しなんだよ!正義はお前じゃなく、オレたちにあるんだよ!」

「それは違う・・断じて違うぞー!」

 嘲笑しながら言い放つハイエナに言い返すスカロマニア。彼の体から高出力のエネルギーが放出された。

「何っ!?

 ハイエナと男たちがエネルギーによって吹き飛ばされる。男たちが気絶して動かなくなり、ハイエナが痛みを噛みしめて立ち上がる。

「スカロエナジー・・正義の力を増幅させて解き放つ力だ!」

 スカロマニアがハイエナを指さして言い放つ。

「な、何なんだよ、こりゃ!?何者だよ、お前!?

「言ったはずだ!私はスーパーヒーロー!お前たち悪を滅ぼすために、私は戦い続けるのだ!」

 ハイエナが悲鳴のように文句を言って、スカロマニアが高らかに言い放つ。

「私の本領発揮、受けてみるがいい!行くぞー!スーパースカロクラッシャー!」

 スカロマニアが全力を出してハイエナに頭から突っ込んだ。

「ぐぎゃあっ!」

 スカロマニアの突撃を受けて、ハイエナが激しく転がっていく。

「まだまだ行くぞー!スーパースカロスライダー!」

 スカロマニアがスライディングキックを繰り出す。彼がハイエナにキックを押し込んで、さらに足を回して続けてキックを命中させて。

「がはー!」

 ハイエナが蹴り飛ばされて、地面に叩きつけられる。

「おのれ・・こんな・・こんなふざけたヤツなどに〜・・!」

 ボコボコにされながらも、ハイエナは息を乱しながら立ち上がる。

「これでとどめだ!必殺、スカロドリーム!」

 スカロマニアがハイエナに連続で打撃を当てていく。

「ぐぎゃあっ!」

 スカロマニアの連続攻撃を受けて跳ね上げられて、ハイエナが宙を舞った後、地面に落下して倒れた。

「悪は滅びろ!」

 スカロマニアがポーズを決めて勝利を実感する。彼が動かなくなったハイエナを指さす。

「この私がいる限り、この世に悪は栄えない!お前たちのボスに伝えておけ!改心するなら今のうちだとな!」

 正義を実感して笑い声を上げるスカロマニア。

「ではさらばだ!とおっ!」

 スカロマニアは走り出して、この場を後にした。

「何なの、あの人は・・・」

 ルイーゼがスカロマニアを見て唖然となっていた。

「おかしなヤツだったが、ハイエナたちを仕留めてくれたことには感謝しておくか・・とりあえずな・・」

 アルバは冷静を装い、ハイエナたちが倒れているのを一瞥する。

「コイツらのような下っ端に、自分たちの正体や居場所につながる情報を与えるはずがない。アデスはそういうものだろう?」

 アルバが口にした言葉に、ルイーゼが小さく頷いた。

「行きましょう。私たちの到着を、アデスは既にかぎつけているはず・・」

「分かっている。だがそれはオレの望むところだ。」

 呼びかけるルイーゼに答えて、アルバが歩き出す。

(ソワレを見つけ出す手がかりとなる・・必ず見つけ出してやるぞ、ソワレ・・・)

 ソワレへの思いを募らせて、アルバは前進していく。真っ直ぐな彼にルイーゼは不安を感じていた。

 

 荒廃した山奥の町。都会だった名残があるが、人が住んでいる様子はない。

 その町の中にカイリは立っていた。彼は周囲に感覚を研ぎ澄ませて、敵の有無を確かめていた。

「ここに刺客が潜んでいるかもしれんが・・」

 カイリが呟いて、町中の建物の1つに足を踏み入れた。彼は腰を下ろして壁にもたれかかった。

(ほくとが近づいてきている気がする・・オレを追って・・オレの息の根を、今度こそ止めようとしているのだな・・・)

 ほくとの接近を予感しながら、カイリが目を閉じた。周囲への感覚を研ぎ澄ませたまま。

 しばらく静寂が漂い、カイリは束の間の休息を取っていた。だが静寂を壊して足音が響き、カイリが目を開く。

「こんなところに人がいたとはね。しかもそんなボロボロな人が・・」

 カイリの前に1人の女性が現れた。彼女は長い金髪をかき上げて、カイリを見下ろす。

「何者だ?お前もオレの命を狙う刺客か?」

「刺客・・確かによく言われるわね。そういうことをよくやるから・・でもあなたを狙っているのは私じゃない。」

 カイリの問いかけに対し、女性が妖しく微笑みかけてくる。

「お前からは血のにおいがする・・オレは殺されるつもりはない・・」

 カイリが立ち上がり、構えを取り女性と敵対する。

「あなたを狙うつもりはないと言ったのだけれど、攻撃を仕掛けてくるなら仕方がないわね・・」

 女性が肩を落としてから、右の手首に装備している通信機を掲げた。

「支援要請。」

 彼女が通信機に呼びかけると、空から建物の屋根や天井を突き破って閃光が飛び込んできた。光はカイリのいた場所に落ちたが、カイリは回避して外に出ていた。

「なかなかやるわね。さすがはアデスがマークしているだけのことはあるわね。」

「アデス?何者だ、そいつらは?」

 微笑みかける女性に、カイリが眉をひそめる。

「詳しいことは私も分からないわ。目的の1つが、強い肉体を持つ格闘家というくらいね。」

「つまり、命ではなく肉体が狙いなのか・・・!?

 女性の言葉にカイリがさらに疑問を感じていく。

「お前ほどの力の持ち主ならば、ヤツらも支配下に置きたいと考えているだろう・・」

 彼に言いかけたのは女性ではなかった。大きな体格の男が姿を現した。

「先走るのはお前の悪い癖だ、リアン。」

 男が女性、リアン・ネヴィルに声をかける。

「私はおしとやかじゃないからね、デューク。」

 リアンが男、デュークに皮肉を返す。

「お前は何者だ?」

「オレはアデスの下部組織、メフィストフェレスもボスだ・・だが、それも今では過去の話だがな・・」

 カイリの問いかけに答えて、デュークが首元に手を当てる。

「オレを裏切ったアデスへの復讐を果たす。貴様がアデスの手に落ちれば、オレにとって脅威になりかねない。恨みはないが、お前を地獄に落とす。」

「お前もオレの命を狙うか・・ならばお前たちを倒してでも、オレは生きる・・・!」

 敵意を向けるデュークに対し、カイリが構えを取る。

「抵抗してもムダだということを思い知るのだな。リアン、手を出すな。」

 デュークがカイリに不敵な笑みを見せてから、リアンに視線を向ける。

「私は構わないけど、私が首をいただくのだから、勝手に死なないでよね。」

 リアンからの皮肉にも笑みをこぼして、デュークも構えを取る。

「かなりの腕を備えているようだが、オレは死なん・・地獄に落ちるのはお前たちのほうだ・・・」

 カイリが言いかけて、デュークに向かっていく。拳と足を振りかざして当てるカイリだが、デュークは防御して平然としている。

「思った通りただ者ではないが、オレの敵ではないな・・!」

 デュークは呟いてから、カイリの体に拳を叩き込む。

「ぐっ!」

 デュークの重みのある打撃を受けて、カイリが吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。追い打ちを仕掛けるデュークに、カイリがとっさに気の弾を放つ。

 気の力に押されるデュークだが、難なく踏みとどまる。

「オレを他のヤツと同じと考えれば、命取りとなる・・」

 デュークが不敵な笑みを浮かべて、手招きをしてカイリを挑発する。

「関係ない・・オレはオレの命を狙う敵を葬るまでだ・・・!」

 カイリが鋭く言ってから、デュークの眼前まで飛び込んだ。

「魔龍裂光!」

 カイリが振り上げた拳がデュークの顎に命中した。しかしデュークはわずかに押されただけで平然としている。

「この程度ではアデスは愚か、私を倒すことも叶わんぞ・・・!」

 デュークが鋭く言うと、右腕を振りかざしてカイリにラリアットを叩き込んだ。

「ぐふっ!」

 カイリが突き飛ばされてうめき、壁を突き破って建物の中に放り込まれた。デュークはゆっくりと歩を進めて、建物の中に入ってカイリを追う。

 暗闇に満ちた建物の中を歩くデューク。そのとき、彼に向かってカイリが上から蹴りを繰り出してきた。

 しかしデュークはカイリの蹴りをかわし、拳を振り上げて逆に彼を宙に跳ね上げた。

「オレは闇の中で生きてきた。生憎、夜目は利く方でな・・」

 不敵な笑みを浮かべるデューク。彼はカイリが音を立てずに移動していることも感付いていた。

「甘いわ!」

 デュークが地面を強く踏みつける。爆発のような衝撃が巻き起こり、彼に近づいていたカイリが吹き飛ばされる。

 デュークが続けて拳を大きく振りかぶり、カイリに追撃を当てる。カイリが吹き飛ばされて、壁をぶち破り外に飛び出す。

「これで分かっただろう。貴様の末路は地獄に落ちるしかない。ムダな抵抗をやめた方が楽かもしれんぞ・・」

 デュークがカイリに近づき、忠告を送る。カイリが立ち上がり、デュークに鋭い視線を向ける。

「まだ抗うつもりか?楽に死ねないことを望むとはな・・」

 デュークが右手を掲げて、エネルギーを集中させていく。

「死にぞこないが2度とよみがえらぬよう、この波動で地獄に逝けえ!」

 彼が右手を握りしめて、エネルギーを放出する。強力な衝撃波が周囲の建物を吹き飛ばし、カイリを巻き込んだ。

「これで終わりね。意外と呆気なかったわね・・」

 リアンが戦況を見て微笑みかける。舞い上がる砂煙の中からデュークが姿を現した。

「早く行きましょう。私たちも暇を持て余しているわけじゃないんだから・・」

 リアンが呼びかけるが、デュークはその場にとどまっている。

「どうしたのよ?」

「ヤツはまだ死んではいない・・」

 リアンの問いかけに、デュークは振り返らずに答える。

「そればかりか、ヤツの殺気が増している・・」

「えっ・・?」

 彼の口にした言葉に、リアンが眉をひそめる。さらに砂煙が治まって、カイリも姿を現した。

 カイリの両手に青白い焔が灯っていた。魂の火のような気が彼の手に集まっていた。

「オレは生きる・・オレの命を阻むものを葬ってでも・・・!」

 カイリが鋭く言いかけると、音もなく姿を消した。

「あれだけの力が残っていたとはね。でもあれだけの殺気をむき出しにしていたら、イヤでも感じ取ってしまうわ。攻撃をよけれくれと言っているようなもの・・」

 リアンがカイリを嘲笑する。次の瞬間、デュークが突然突き飛ばされて、激しく地面を転がる。

「デューク!?

 リアンがデュークを見て驚く。起き上がったデュークが両手を握りしめる。

(ヤツの戦闘力が格段に上がった・・これがヤツの底力というヤツか・・)

 カイリの力を痛感して、デュークが警戒する。彼は次にカイリが攻撃したときに、即座に反撃できるよう身構えた。

 再び訪れた重い静寂の中、デュークが強い衝撃に襲われる。カイリの拳が彼の体に叩き込まれた。

「捉えたぞ!」

 攻撃に耐えたデュークがカイリの足をつかんで振り回す。カイリを空中に放り投げて、デュークが飛び上がり、再び彼の体を逆さにつかんで地面に叩きつけようとする。

「凶邪連舞!」

 そのとき、カイリがデュークをつかみ返した。次の瞬間、リアンが瞬きをした瞬間だった。

 デュークがカイリを放して地上に叩きつけられた。カイリは着地して、手に灯っていた焔を消した。

 一瞬の出来事だったため、リアンには分からなかった。つかみかかったカイリが、デュークに連続で打撃を叩き込んだ。一気にダメージを増したデュークは、カイリを放して落下して倒れたのである。

「すぐに意識を取り戻すだろう・・それだけの強さの持ち主だったようだ・・・」

 カイリが言いかけて、デュークとリアンの前から立ち去ろうとした。

「ま・・待て・・・!」

 意識を取り戻したデュークが立ち上がり、声を振り絞る。

「まさか、これほどの力を秘めていたとは・・オレもお前を侮っていたようだ・・・!」

 デュークが笑みを浮かべて、カイリが足を止める。

「これほどの強さ・・アデスが見逃すはずがない・・遅かれ早かれ、貴様の前にアデスの手の者が必ず現れる・・ヤツらはいかなる手を使ってでも、お前のようなヤツの肉体を手に入れようとするだろう・・」

「関係ないと言った・・オレはオレの命を狙う者は、全て葬り去る・・・」

 語りかけるデュークだが、カイリはそれも聞き入れない。

「終わりのない苦しみを味わうことになるぞ・・地獄に落ちたほうが楽だったと思えるほどにな・・・!」

「既にオレは修羅の道を進んでいる・・どのような手の者が現れようと、倒して生き抜くまで・・・」

 デュークが忠告を送っても、カイリは意思を変えない。カイリは改めて歩き出し、リアンが彼に攻撃を加えようと構えを取る。

「待て・・・!」

 デュークが呼び止めて、リアンが構えを解く。

「どういうつもりなの?みすみす見逃す気?」

「お前が追ったところで敵いはしない・・私を追い詰めるほどの力を発揮したヤツにはな・・」

 眉をひそめるリアンにデュークが言いかける。2人の視界からカイリの姿が消えた。

(このオレをも凌駕する力の持ち主・・アデスが必ずヤツに接触してくる・・あの男も時期に動き出すだろう・・)

 デュークが心の中で呟き、事態の本格化を予感する。

(このままヤツの行方を追う・・そうすればアデスも、オレの前に姿を現すだろう・・)

「回復次第ヤツを追う。ただしヤツらが現れるまでは、あの男に直接手を出すな・・」

 決断を下したデュークがリアンに呼びかける。

「ヤツら・・まさか・・・!?

「そうだ・・アデスと直接対峙するときが近い・・・」

 息をのむリアンにデュークが言いかける。

「あなたと同じ、私のパパとママを殺した仇・・・!」

 リアンがデュークに鋭い視線を向ける。

 リアンの両親はデュークに殺された。彼に引き取られて暗殺術を叩き込まれたリアンだが、今も彼の首を狙う一方で、仇の根源であるアデスの壊滅も考えていた。

「オレの復讐に付き合ってもらうぞ。オレの首を狙うならその後で好きにしろ・・」

「アデスの壊滅は私の目的でもある。もちろん、あなたの始末も忘れていないわ・・」

 不敵な笑みを浮かべるデュークに、リアンが自分の考えを口にする。2人はアデス打倒のため、カイリを追って歩き出した。

 

“あの男の居場所が分かった。今、タイプDと交戦したそうだ。”

 銀髪の男に向けて声が届く。

“すぐに行ってくれ。そして我々の前に連れてきてくれ。”

 声に対して男が頷く。彼は目的の人物を狙って歩き出した。

 

 

 

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