FIGHTING IMPACT
第2話
ハヤテがほくとたちに助けられてから一夜が過ぎた。ハヤテは落ち着きを取り戻して、傷の治りを確かめていた。
(これならば山を降りられそうか・・)
両手を握りしめてある程度は体力が回復したと判断したハヤテ。彼のいる部屋に七瀬が入ってきた。
「おはようございます、ハヤテさん。もう大丈夫なんですか?」
「普通に歩く分にはな。まだあの男のような強者と一戦交わらぬことを思うだけだが・・」
挨拶する七瀬にハヤテが微笑みかける。
「まだ動かないほうが・・完治するまでいても大丈夫だって、お姉様も言ってましたし。」
「かたじけない・・しかし私には急ぎ済ませなければならぬ用がある・・」
心配する七瀬にハヤテが謝意を示す。
「ところで、ほくとどのはどうしたのだ?姿が見えないが・・」
「あ、そういえば・・もう起きてるはずなのに・・」
ハヤテから聞かれて、七瀬が部屋の外に目を向ける。早起きのほくとだが、今朝は姿が見えない。
気になった七瀬がほくとを探すが、屋敷中を見て回っても見当たらない。
「いない!?お姉様が、どこにも・・!?」
ほくとが屋敷にいないことに、七瀬が緊張を覚える。
「もしや、私が昨日会った男を探しに行ったのでは?・・どういうことなのかは分からんが・・」
ハヤテがカイリのことを思い出して、予測を口にする。
「お姉様・・その人と何が・・・!?」
ハヤテが戦った男とほくとに何があったのか。七瀬の中に疑問と不安が膨らんでいた。
カイリのことを気にして、水神家を出たほくと。山道を進む彼女は、人の通った跡を辿ってカイリの行方を追う。
(七瀬、ごめんなさい・・私はどうしても、あの人に会わなくてはいけない・・そう思ったから・・)
七瀬への謝罪を心の中で呟いて、ほくとはさらに歩を進める。
(まさか生きていたとは・・カイリ、あなたはさらに戦いの道を歩んでいるのですね・・)
カイリのことを思い、ほくとが胸を締め付けられるような気分に駆られる。
(私は本当の自分を隠してきました。私自身にも・・それが、水神家の継承者としての務め・・・)
ほくとが自分のことを振り返っていく。
(カイリと七瀬の父は水神家本家党首だけれど、私の父は分家の党首。父の死によって、私は本家の娘として育てられることになった。そして、私の本当の名は訃。死の知らせを意味するこの名は、本家の陰で暗躍する分家の者に付けられる名前・・)
ほくとが自分の過去も振り返っていく。分家から本家に引き取られたときに、彼女は今の名前となった。
(全ての悲劇は、私の父、分家党首の過ちから・・暗殺の場に居合わせた子供を、誤って手にかけてしまった。その子供がカイリだったことに気付いたのはその後だった・・父は自ら犯した過ちを責めて、身を投げた・・・)
水神家で起きた悲劇を思い返していくほくと。
(そしてこの事件を完全に封殺しようと考えた本家党首は、カイリが生きていたときに備えて、私にある封印を施した。私がカイリと対面したときに彼を抹殺するように・・)
彼女は頭に手を当てて、本家党首から血の封印を施されたことを思い出す。そしてカイリと会った瞬間に封印が解かれて、党首の念じた命令のままに戦い、カイリを谷底に突き落としてしまった。
2度も谷底に突き落とされて地獄を味わったカイリ。しかし彼はどちらも死の淵から生き延びていた。
(カイリは生き延びるために、血塗られた戦いを続けている。強さのある者全てを敵だと思って、打ち倒しながら・・)
戦いを続けているカイリの身を案じるほくと。
(私が止めるしかない・・悲劇の一端を担っている私が・・)
カイリを救うという使命感に駆られて、ほくとは歩き続けて山を降りた。
男を追ってほくとは家を出た。そう思った七瀬も出かける準備をしていた。
「何かイヤな予感がする・・お姉様の身に何か起きるんじゃないかって予感が・・!」
必要最低限の荷物を鞄に入れながら、七瀬はほくとを助けようとする決心を強めていた。彼女は荷物を持って、自分の部屋から道場に行った。
そこで七瀬は右手をかざして1本の棒を手にした。「棍」と呼ばれる伸縮自在の棒で、普段は手の中に納まるほど小ささにしている。
七瀬は棍を両手で持って、振りかざして扱いを確かめる。しかし手元が狂い、道場の壁に棍をぶつけてしまう。
「あちゃ〜・・失敗しちゃったよ〜・・」
壁を叩いた衝撃で引き出しにしまってあったものが外に出てきてしまい、七瀬が慌てて後片付けをする。
そのとき、七瀬は1冊の本を見て手を止めた。日記として使われていたようで、さほど古くないものだった。
気になった七瀬は日記を開いて目を通す。そこに書かれていたのは、水神家に関する出来事だった。
その中には、分家を発端とした事件も記されていた。
「これは・・お父様の・・・!」
七瀬がその事件の1つに当惑する。それはカイリが分家に殺されかけた事件で、本家もそれを封殺しようとしたことも書かれていた。
「カイリ・・・私にはお姉様だけでなく、お兄様も・・・!」
ハヤテと戦い、ほくとが探している男、カイリが自分の兄であると知り、七瀬は動揺を隠せなくなる。
七瀬はさらに日記を読み進めていく。
「これは・・・お姉様は、このことを知っているの・・・!?」
他の記述も目にして、七瀬は困惑を募らせていく。彼女のほくとを追いかける決意がさらに強まる。
「急がなくちゃ・・でないと、お姉様とお兄様が・・・!」
ほくとたちを心配して、七瀬は荷物を整えて外へ出た。そこではハヤテも屋敷を後にしようとしていた。
「おぬしも行くのか。1人で大丈夫か?」
「平気です!これでもあたし、お姉様から鍛えられてますから♪」
声をかけるハヤテに答えて、七瀬が自信を見せる。
「私はこれからも旅を続ける。助けていただいた恩は忘れない・・」
ハヤテが感謝して七瀬に微笑みかける。
「ほくとどのにも、よろしく言ってくれないだろうか。」
「はい♪また来てくださいね♪あたしもお姉様も大歓迎ですから♪」
ハヤテの送る言葉に、七瀬が笑顔で答えた。彼女に見送られて、ハヤテは去っていった。
「さて、あたしも行かなくちゃ・・!」
七瀬は気を引き締めて、ほくとを追いかけて家を飛び出した。
山を後にして港町を歩いていたカイリ。彼は人目を避けて、町外れを沿うように進んでいた。
(分家は目的のためなら手段を選ばない。周りに誰がいようと、人に紛れて暗殺を図る。ならば人混みの中にいても逆に不利となる・・)
自分の保身のために思考を巡らせるカイリ。彼は人目を避けて、常に奇襲に備えていた。
その道中、カイリは気配を感じて足を止めた。
「あなたから出ている気、ただならぬものがありますね。」
1人の少女がカイリに向けて声をかけてきた。カイリは振り向かずに少女に視線を向ける。
「その体を見ただけでも、ただ者でないことは明らかですが。」
「何者だ?オレの命を狙う刺客か?」
「刺客?何を仰っているのか分かりかねますが・・紹介が遅れました。私はチェ・リム。テコンドーの鍛錬に尽力している身です。」
カイリからの問いかけに少女、リムが答える。
「お前もくだらないことに命を賭けている1人か・・?」
「聞き捨てならないことを言いましたね。テコンドーは韓国に留まらない、世界最高峰の格闘技です。今の腕で私が語ったところで鼻で笑われるところでしょうが、テコンドーに精進すること、私は誇りに思っています。」
嘲笑するカイリに言い返して、リムが構えを取る。
「刺客ではないようだが、そのような志ではたかが知れているな・・」
「ならば受けてみなさい・・テコンドーの真髄を!」
冷淡に告げるカイリにリムが向かっていく。彼女が足技を繰り出すが、カイリに難なくかわされる。
「やはりただ者ではない・・ならば、半月斬!」
リムが縦回転して開脚蹴りを繰り出す。しかしこれもカイリにかわされる。
「やはりこの程度か・・それがお前の誇りか・・」
カイリが1つ吐息をつくと、回し蹴りを繰り出す。回避と防御をするリムだが、カイリの力に耐えられず押される。
(力も並みではない・・一瞬の油断でも命取りとなる・・!)
危機感を痛感して、リムがカイリの動きを警戒する。
「これならば・・飛翔脚!」
リムが飛び上がり、蹴りを繰り出して連続でカイリに仕掛ける。カイリは回避して、飛び上がってリムの上を取る。
「飛燕斬!」
カイリが降下しながらの蹴り、竜刃脚に対してリムが足を振り上げる。2人の蹴りがぶつかり合い、激しい衝撃を巻き起こす。
「うっ!」
リムが力負けして押される。カイリの力に押されて、彼女は蹴りをぶつけ合った足に痛みを覚える。
「戦いをやめるなら見逃してやる。さもなければ死ぬことになるぞ・・」
カイリが忠告を投げかけるが、リムは引き下がろうとしない。
「身の程をわきまえ、退くも勇気でしょう・・ですが、ここで下がることは、テコンドーの名誉に関わります・・・!」
リムが声を振り絞って、カイリを見据える。
「テコンドーのためなら、命尽きることも厭いません!」
リムが闘気を発揮して、カイリに飛びかかる。
「鳳凰脚!」
彼女が高速の蹴り技が連続で繰り出される。カイリが腕と足で蹴りを防いでいく。
カイリが飛び上がり、リムの足技をかいくぐった。
「雅竜滅蹴!」
カイリが繰り出した蹴りがリムの体に叩き込まれた。
「ぐあっ!」
リムが蹴り飛ばされて地面を激しく転がる。倒れた彼女をカイリが冷たく見下ろす。
「お前が命を賭けた技は、オレには通用しないということだ・・・」
「私が、ここまで叩きのめされるなんて・・・!」
言いかけるカイリの前で、リムがうめく。しかし体に痛みが駆け抜けて、彼女は立ち上がることができない。
「2度とオレの前に現れるな・・次は命を落とすことになるぞ・・・」
「ま、待て・・私は、まだ・・・!」
歩き出すカイリを追いかけようとするリムだが、体に力が入らない。
「くっ・・・恐るべき男だ・・強さだけでなく、殺気もすさまじい・・・!」
カイリの強さに毒づくリム。彼女が立ち上がったときには、カイリの姿は消えていた。
「世界にはまだ、あのような強者がいるとは・・私はまだまだ未熟・・もっと習練が必要だ・・・!」
リムは世界の広さと自分の無力さを痛感した。彼女はさらに厳しい鍛錬に励む決心を強くした。
ソワレの行方とアデスの手がかりを追うアルバ。彼はルイーゼとともに空港に向かっていた。
(待っていろ、ソワレ・・必ずお前を見つけて、一緒に帰るぞ・・)
ひたすらソワレのことを考えているアルバ。弟を思う兄の姿に、ルイーゼは深刻さを感じていた。
そのとき、ルイーゼは強い力の接近を感じ取り、緊迫を覚える。アルバも強い気配を感じて、車を止めた。
「あなたも感じたのね・・」
「力というよりも威圧感と言ったほうが正しいが・・・アデスの手の者か・・!?」
声をかけるルイーゼにアルバが問いかける。
「違うわ・・でも、強力なエネルギーを備えているのは確か・・」
ルイーゼの答えを聞いて、アルバが緊張を膨らませる。2人は車から降りて、力の持ち主を迎え撃つ。
アルバたちの前に1人の人物が現れた。独特のスーツに身を包んでおり、正体は分からない。
「フッフッフッフ・・その異質の力、貴様もアデスの一員か?」
男が笑みをこぼしてアルバたちに声をかけてきた。
「お前もアデスを追っているのか?オレもアデスの行方を追っている。」
アルバも自分たちの事情を男に話す。すると男は再び笑い声をもらした。
「アデスの情報を持っているか。ならば私にその情報を教えてもらおう。」
「何者かも分からないヤツに詳しい話をする気にはならない。まずは正体を明かしてもらおうか。」
「シャドウガイストと名乗っておこう。今は巨悪の壊滅のために行動している。アデスもその標的の1つだ。」
アルバの声に男、シャドウガイストが答える。
「アデスに関する情報を教えるのだ。さもなくば、お前たちも敵とみなすことになる。」
「強要か。穏やかなやり方ではないな・・オレたちから情報を引き出して、アデスと戦うのか?」
「そうだ。アデスは1人残らず打ち倒す。それが正義だ。」
「いやいや従っている者、操られている者であってもか・・!?」
「悪の事情など聞く耳は持たない。悪は滅ぼされなければならんのだ。」
「そうか・・ならばお前の要求に従うつもりはない・・」
シャドウガイストの要求を拒んで、アルバが構えを取る。
「今、オレの弟がアデスに捕らわれている。洗脳されてヤツらに加担させられているかもしれない。弟まで問答無用に手にかけようとするなら、オレはお前を倒さなければならない。たとえ共通の敵を追う者であっても・・」
「邪魔をするか。よかろう。私と戦えること、誇りに思いがいい。」
戦う意思を見せるアルバに対し、シャドウガイストも構えを取る。
「今はそんなことをしている場合じゃ・・」
ルイーゼが呼び止めるが、アルバは戦いをやめない。
「この男はソワレにも牙を向けつつある。オレたちを手にかけようとする者は、誰であろうと容赦はしない・・」
「アルバ・メイラ・・・」
「ヤツとの戦いも、ソワレを助け出すためには避けられない戦いだ。」
シャドウガイストとあくまで戦おうとするアルバに、ルイーゼは戸惑いを覚える。
シャドウガイストがゆっくりとアルバに近づいていく。距離が詰まったところでアルバが拳を繰り出す。
シャドウガイストは難なくかわし、突進を仕掛けてきた。
「ぐっ!」
重みのある突撃を受けて、アルバが大きく突き飛ばされる。苦痛を感じてアルバが顔を歪める。
(力だけではない・・見た目に似合わない速さも兼ね備えている・・・!)
シャドウガイストの強さを痛感して、アルバが毒づく。彼の前にシャドウガイストが立ちはだかる。
「どうした?まさかもう終わりなのか?」
シャドウガイストが言いかけると、アルバが地面を蹴って真上に飛び上がる。降下しながら拳を振りかざす彼に対し、シャドウガイストが足を振り上げてサマーソルトキックを繰り出した。
キックを受けたアルバが体勢を崩して、地面に倒れる。
「くっ!羅漢雷方拳!」
アルバが立ち上がり様に、着地したシャドウガイストに雷を帯びた拳を繰り出した。シャドウガイストがアルバの打撃を受けて押されるが、すぐに踏みとどまる。
「この程度とは・・期待はずれなヤツだ・・」
シャドウガイストが平然とした様子でアルバをあざ笑う。
そこへルイーゼが光の球を放ってきた。シャドウガイストはバック転をして光の球をかわす。
「これは試合ではないわ。悪いけど先を急ぐので・・」
落ち着いた様子で言いかけるルイーゼに、シャドウガイストが振り向く。
「2人まとめてでも構わん。私の勝利は揺るぎない。」
強気な態度を崩さないシャドウガイストに、ルイーゼが向かっていく。彼女は軽やかな動きでシャドウガイストの注意を乱そうとする。
シャドウガイストが繰り出す拳を、ルイーゼは手で受け流してかわしていく。彼女は力を利用して、シャドウガイストを投げ飛ばそうとする。蝶のように、蜂のように。
しかしシャドウガイストは全身からエネルギーを発して、宙に浮いて地面への衝突を避ける。
「あなたもただの人間ではない・・もしかして、強化人間・・?」
「そういうことになるな。全てを失った私は、悪を討つ力を手に入れた。私の敵を滅ぼすために。」
ルイーゼが投げかけた疑問に、シャドウガイストが悠然と答える。彼は独裁国家によって全てを失い、敵を倒す力を得るために常人の身を捨てたのである。
「アデスも私から逃れることはできない。必ず見つけ出して壊滅させる。」
「その前に必ず弟を、ソワレを助け出す・・!」
企みを口にするシャドウガイストに、アルバが口を挟む。
「たとえお前の目的を阻むことになろうと、ソワレを手にかけるマネはさせない・・!」
「そこまで言うなら私を倒してみせろ。私はこの正義を止めるつもりはない。」
決意を口にするアルバに、シャドウガイストが挑発を投げかける。
アルバが一気に加速して、連続で拳を繰り出す。しかしシャドウガイストにことごとく回避と防御をされる。
ルイーゼも加勢して、上空からシャドウガイストに手を伸ばした。
「デスブレイク!」
シャドウガイストが拳を地面に叩きつけて、爆風でアルバとルイーゼを吹き飛ばす。踏みとどまるアルバに、シャドウガイストが飛び込んできた。
「デスクラッシャー!」
シャドウガイストが連続で蹴りを繰り出して、アルバの体に叩き込む。
「ぐあっ!」
重みのある攻撃と壁に叩きつけられた衝撃で、アルバがうめいて吐血する。
「アルバ!」
ルイーゼが叫ぶ前で、アルバが壁にもたれかかる。
「戦いは勝つことだ。敗北した時点でもはや戦士ですらない。」
シャドウガイストがアルバを見下ろしてあざ笑う。
「これで終わりだ。アデスも他の悪も、私が殲滅する・・」
「待て・・・!」
立ち去ろうとしたシャドウガイストをアルバが呼び止める。
「オレは負けを認めてはいないぞ・・・!」
「まだ立つ力が残っていたとは・・だが力の差は明らか。今引き下がらなければ、お前の息の根を止める。」
声を振り絞るアルバに、シャドウガイストが忠告を送る。しかしアルバの信念は折れない。
「オレを殺すしかオレを止める方法はない・・だがオレは死なない・・ソワレを連れ戻すまでは・・!」
「ならばお前は、闇に葬られる以外の末路はない。私がお前を闇へと落としてくれる。」
ゆっくりと前に進むアルバに対し、シャドウガイストが全身からエネルギーを放出する。磁力を帯びた彼の光に、アルバとルイーゼが引き寄せられる。
「引き寄せられる・・あの人の力・・・!」
ルイーゼがシャドウガイストの力を痛感する。彼女は力を出して踏みとどまるが、アルバは徐々にシャドウガイストに引き寄せられていく。
「今のお前なら、私のデスエナジーに触れれば体がバラバラになるだろう。おとなしく引き下がればよかったものを・・」
シャドウガイストがアルバを見据えて笑い声を上げる。
「オレは引き下がるつもりはない・・オレはお前を倒し、アデスに乗り込んでソワレを連れ戻す!」
アルバが言い放つと、両足に力を入れて飛び上がった。
(そんなことすれば、男のエネルギーに飛び込むことになる・・・!)
ルイーゼがアルバの絶体絶命を予感する。
(この技は負担がかかるので乱発は避けたいが、これしかヤツを倒すことはできない・・!)
「幻影雷神流星拳!」
覚悟を決めたアルバが雷と旋風を帯びた拳を繰り出した。シャドウガイストの磁気エネルギーの引力を利用して、勢いを付けて。
「ヤツ、私の力を利用して、渾身の一撃を・・!?」
驚愕を覚えるシャドウガイストに、アルバの一撃が叩き込まれた。
「ぐふっ!」
シャドウガイストが吹き飛ばされて、その先の壁を突き破ってさらに遠くまで飛ばされた。着地したアルバだが、体力の消耗で倒れそうになったのをルイーゼに支えられる。
「相変わらずムチャするのね、あなた・・」
呆れるルイーゼに支えられて、アルバが立ち上がる。
「全てはソワレのためだ・・だからオレは倒れるわけにはいかない・・・!」
「本当にお父さんが好きなのね・・・飛行機に乗るのは、手当てをしてからよ・・」
一途なアルバに苦笑をこぼしてから、ルイーゼは彼とともに空港に向かった。
アルバが突き飛ばしたシャドウガイストは、空港へ行ったアルバたちの前に現れなかった。2人を見失ったからか、そのまま別行動を取ったのか。アルバたちはそのことを分からないままだった。
ほくとを追いかけてひたすら走り続ける七瀬。しかしほくとのいた手がかりさえも見つけられず、七瀬は途方に暮れていた。
「お姉様、どこに行っちゃったの!?・・早くあのことを知らせないと・・・!」
乱れる呼吸を整えながら、七瀬は前進を続ける。
その道中、七瀬は広場のほうで人だかりができているのを目にした。
「あれは・・・まさか、そこにお姉様が・・・!?」
七瀬が人だかりをかき分けて中をのぞいた。広場の中ではストリートファイトが行われていた。
「あ〜あ、こんなんで盛り上がるなんて、大したことないね、お前もギャラリーも。」
ファイトをしていた少女が、対戦していた青年と観客に愚痴をこぼす。
「このガキ・・人気じゃオレのほうが上だっての・・・!」
青年が少女に向かって不満を浮かべる。すると少女が青年の鼻先を指さしてきた。
「お前も“オレモテる〜?”とか思ってるタイプ?男の魅力っていうのは、顔じゃなくて背中に出るもんなんだよ。それが分かってないから、お前のようなヤツはムカつくだよ。」
少女が言われて青年が不満を見せながらも口ごもる。
「あ〜あ。どいつもこいつもよわっちぃくせに調子に乗ってるヤツらばっかなんだから・・」
少女が周りに目を向けて不満を口にする。彼女の視線が、人込みをかき分けて出てきた七瀬で止まった。
「今度はお前があたしの相手をしてよ。退屈で困ってるんだよね・・」
「えっ?あたし?悪いけど今は忙しいの!他の人を当たって!」
少女に呼びかけられて、七瀬が言い返してきびすを返す。すると少女がジャンプして、七瀬に向かって火の球を放ってきた。
周囲の人々が逃げ出して、七瀬が棍を手にして火の球を弾く。
「お前の都合なんてどうでもいいんだよ。このままだと後味悪いから相手してって言ってるんだよ。」
「何であたしが一方的にアンタに付き合わなくちゃなんないのよ!」
「お前もみんなもあたしの強さを引き立てるだけなんだから、四の五の言わずにあたしの言う通りにすればいいんだよ。」
「あったまきた!人の話を聞かない人に、容赦はできないよ!」
自分勝手に話を進めようとする少女に、七瀬が怒りを爆発させる。
「そんなに相手してほしいならやってやるよ!でもあたしは急いでるから、今だけ卑怯でも何でもやるからね!」
七瀬が棍を構えて少女を迎え撃つ。
「それじゃ見せてやるよ。このナガセのテクニックをね!」
少女、ナガセが笑みを浮かべて七瀬に飛びかかる。ナガセが振りかざす両手を受け止めて、七瀬が棍を振りかざして彼女を引き離す。
「やっぱりちょっとはやるみたいだね。でもあたしには勝てないよ!」
ナガセが強気に言って、七瀬に火の球を放つ。七瀬が棍を振りかざして火の球をかき消す。
七瀬が振りかざした棍が伸びて、ナガセの体に命中した。突き飛ばされるナガセだが、空中で体勢を整えて着地する。
「そんな武器だったなんてねぇ。でも棒術より忍術のほうが上だからね!」
ナガセが言い放ち、手裏剣を七瀬に投げつける。七瀬が棍で手裏剣を弾くが、彼女の視界からナガセが消えた。
ナガセを見失い、七瀬が彼女の行方を追って視線を移す。
「こっちだよ!」
次の瞬間、ナガセが七瀬の眼前に現れた。ナガセが振りかざしたくないを、七瀬が棍で防ぐ。
「このっ!」
七瀬が棍を伸ばして突きを仕掛ける。ナガセは棍をかわして、七瀬を背後からつかんだ。
「バグるよ!」
ナガセがそのまま上に飛んで、空中で逆さになって回転しながら落下する。
「やらせない!」
七瀬がとっさに棍を構えて。ナガセの体に向けて伸ばす。
「甘いね!」
ナガセがわずかに体をずらして棍をかわした。技が決まったと彼女は確信した。
だが伸びた棍が地面に当たり、ナガセと七瀬の落下を止めた。
「なっ!?」
落下を止められたことに驚くナガセ。その隙に七瀬が彼女を突き飛ばして、体勢を整えて着地する。
「ここからあたしの反撃開始だよ!」
七瀬が目つきを鋭くして、ナガセに飛びかかり棍を振りかざす。
「十六夜烈棍!」
七瀬が連続で棍を振りかざし、ナガセを攻め立てる。紙一重でかわしていくナガセだが、回避が間に合わず打撃を受ける。
「いい気になんないでよね!」
ナガセが言い放つと同時に炎を巻き起こして、七瀬を吹き飛ばす。彼女の前から再びナガセの姿が消える。
「今度はどこに行ったの・・・!?」
七瀬が棍を構えて、ナガセの行方を探る。周りの人たちもナガセを探して周りを見回す。
周囲からの動揺の声が湧く中、七瀬が突然後ろから押された。彼女がすぐに視線を後ろに向けるが、ナガセの姿はない。
(いない!?そんなはずは・・姿を消してる・・!?)
ナガセの姿がないことに対して、七瀬が思考を巡らせる。彼女は自分の感覚に意識を集中していく。
七瀬が構えた棍が、突然の衝撃を防いだ。
(今度は姿を消している・・消しているなら、それなりに対処できる・・!)
状況判断を下してさらに感覚を研ぎ澄ませる七瀬。気配を感じ取った彼女が棍を突き立てた。
「うっ!」
打撃を受けてうめくナガセが姿を現した。彼女は姿も音も消して七瀬に奇襲を仕掛けていたが、気配を読まれて居場所を捉えられた。
「コイツ、あたしの居場所を・・!」
「あなたと遊んでる暇はないの!これで終わらせるよ!」
いら立ちをふくらませるナガセに、七瀬が構えを取る。
「調子に乗らないでよね!それはこっちのセリフ!」
ナガセが言い放って、七瀬に向かっていく。
「弥生投棍技!」
七瀬が棍を回転を加えて投げつける。ナガセは横に素早く動いて、棍をかわした。
「終わりなのは、お前のほうだよ!」
ナガセが勝ち誇って、七瀬につかみかかろうとした。
「有明!」
次の瞬間、ナガセが後ろから打撃を受けて昏倒した。彼女がかわした棍が、七瀬の意思を受けて戻ってきた。
「まさか、戻ってくるなんて・・!」
苦痛を感じて倒れるナガセ。七瀬の棍による一撃で、彼女は立ち上がれなくなっていた。
「これで終わりだよ!まだ戦いたいなら、あたしの用事が終わった後にしてよね!」
「待て・・あたしは、まだ・・・!」
呼びかけて立ち去る七瀬に、ナガセが声を振り絞る。しかし彼女はすぐに立ち上がることができなかった。
「くっ・・上等じゃない・・アイツ、必ず仕留めてやるから・・・!」
立ち上がったナガセがいら立ちを募らせる。彼女は七瀬を次の標的に決めた。