魔法少女エメラルえりな

第4話「3人の魔法使い、集合だよ」

 

 

それは、突然の出会いでした。

 

大きな機関の登場に、気分は驚きの連続。

でも、やりかけたものを途中で投げ出すことは、やっぱり心が晴れない。

 

みんなが自分の信じる気持ちを進んでいく。

その気持ちが、自分や周りの人たちが幸せになれると信じて・・・

 

魔法少女エメラルえりな、始まります。

 

 

 カオスコアによってガラスに閉じ込められてしまっていたえりなだが、リッキーとソアラに介抱されていた。困惑を浮かべているえりなの前に、ストリームを剣のペンダントに戻したアレンが歩み寄ってきた。

「はじめまして。僕は時空管理局執務官補佐、アレン・ハント。その子は僕の使い魔のソアラ。君たちは?」

 アレンが自分とソアラの紹介をして、えりなに手を差し伸べる。

「私はえりな。坂崎えりな。」

「僕はリッキー・スクライアです。僕たち、カオスコアの回収を行っていまして・・」

 えりなに続いてリッキーが名乗る。

「そうだったのか・・今まで頑張ってくれて感謝するよ。ここから先は、僕たち時空管理局がカオスコアの回収を行う。」

 アレンは言いかけて、えりなに眼を向けて眉をひそめる。

「そういえば君は、管理局の正式な魔導師じゃないみたいだけど・・」

「え、あ、その、これは・・」

 アレンの指摘にリッキーが困惑を見せる。

「実は僕がカオスコアを回収しようとしていた際にえりなちゃんと出会って、結果的に彼女に協力してもらうことになってしまって・・」

「なるほど・・とにかく、詳しい事情を聞くために、一路アースラに来てもらいたいんだけど・・」

「アースラ・・」

 リッキーの説明を受けたアレンが、えりなたちに同行を求める。その言葉にリッキーが眉をひそめる。

「大丈夫、話を聞くだけです。今回の君たちの行動はこちら側からすれば民間協力という形になりますし、その点に対して強い指摘や非難をするつもりはありません。」

「そうなの・・分かりました。行きましょう。」

 アレンの指示を受けて、えりなはアースラに行くことを込めた。

(艦長、詳しい事情を聞くため、少女、坂崎えりなと少年、リッキー・スクライアをそちらに同行します。)

“スクライア?・・分かった。2人を頼む。”

 意味深な呟きをもらしつつ、クロノはアレンの言葉を受け入れた。それからアレンとソアラは、えりなとリッキーを連れて、転移魔法でアースラに帰還した。

 

 時空管理局の介入に、ラックスは焦りを覚えていた。これでカオスコア封印において行動が制限されることになる。

“予測できたことだったけど、管理局の局員がやってくるなんて・・”

 町井家に戻ってきたところで、子犬の姿のラックスが明日香に呼びかける。

(落ち着いて、ラックス。確かに管理局が出てきたことで、カオスコア封印がやりにくくなる。それでも私たちは、カオスコアを封印しなくてはならない。)

 明日香は何とか落ち着きを払いながら、ラックスに呼びかける。

(それに、私とあなたは今までカオスコアと戦ってきた。私たちの力が、管理局の魔導師に及ばないはずがないと思う。もう少し自信を持とう、ラックス。)

“そうなんだけど・・・”

(とにかく、ここまで引き下がるなんてできない。やろう、ラックス。これ以上、誰かが傷つかないために・・・)

 自分と同じ境遇の人を増やしてはならない。そのためなら、どんな相手でも戦ってみせる。たとえ次元世界の司法機関であろうと。

 明日香の決意は、もはや揺るぎないものとなっていた。

 

 アレンとソアラに案内され、アースラに乗艦したえりなとリッキー。彼らを迎えてくれたのはクロノとエイミィだった。

「は、はじめまして。わ、私、あの、その・・」

「そんなにかしこまらなくてもいいよ。話を聞くといってもそんな尋問みたいなもんじゃないから。」

 緊張するえりなに対して、エイミィが笑顔で言いかける。その横にいるクロノが、同じく緊張の様子を見せているリッキーに眼を向けてきた。

「その前に君、スクライアといったね?もしかして、ユーノ・スクライアの・・」

「えっ?あ、はい。ユーノさんは僕の魔法の先生です。今は確かここの無限書庫の司書をしていると聞きましたが・・」

 クロノの質問にリッキーが答える。クロノは微笑んだところで、リッキーが話を続ける。

「ジュエルシードの一件以来、会ってなかったんです。連絡は取っていて近況などは聞いていたのですが・・」

「そうだったのね・・それにしても、こういうのを見ていると、6年前を思い出しちゃうね。」

 リッキーの言葉を受けて、エイミィが安堵を浮かべる。

「そうだな。彼女との出会いも、こんな感じだった・・」

「彼女?」

 続けてクロノが同意すると、えりなが疑問を浮かべる。するとアレンが照れくさそうに答える。

「今は管理局の戦技教導隊の教導官をしているんだ、その人は。数々の事件の解決に貢献してきたエースの1人って噂も耳にしているよ。」

「そうなんだ・・けっこうすごいんですね・・」

 アレンの言葉に、えりなが感心の言葉をかける。するとアレンがさらに照れ笑いを見せる。

「さて、そろそろ本題に戻るとしようか。えりな、リッキー、君たちはなぜカオスコアの回収を?」

 言葉を切り出したクロノに、えりなとリッキーが真剣な面持ちになる。

「カオスコアを輸送している途中で紛失してしまって、えりなちゃんの世界に散らばったカオスコアを回収しようとしたんです。ところがカオスコアの魔力で僕は石にされて、そこをえりなちゃんに助けられたんです。」

「リッキー、カオスコアを失くしたのは自分のせいだって、自分だけで解決しようとしてたんです。でもそうやって自分だけで抱えるのはよくないと思って、私も力になりたいと思ったんです。」

 リッキーに続いてえりなも事情を説明する。状況を飲み込めたクロノが小さく頷く。

「ありがとう、今まで回収に奮闘してくれて。ここから先は僕たちアースラスタッフが回収を引き継ぐ。自分たちの思いや責任から介入を続けたい気持ちは分かるが、ここは僕たちに任せてほしい。」

 クロノが事件の解決を引き受けることを申し上げ、えりなとリッキーに引き上げることを告げた。2人の身を案じての申し出だった。

 えりなはその申し出に対して戸惑いがあった。このままクロノたち管理局に任せるのが妥当だと思っていたが、自分の気持ちと正義感がこれを素直に受け入れようとしなかった。

「艦長さん、申し訳ないのですが、最後までお手伝いさせてください・・・」

「えりな・・」

 えりなの申し出にクロノが当惑を見せる。

「確かにこれ以上のことは、私には関わりのないことのように思えますし、あなたたちに任せたほうが正しいとも思っています。でも、でも・・・」

 えりなは言いかけて言葉を詰まらせる。このまま誰かに任せてしまうのは、自分の正義に反する。彼女はそう感じていたのだ。

 彼女のその真っ直ぐな気持ちを目の当たりにして、クロノは笑みをこぼした。

「やはり君は彼女とそっくりだよ。真っ直ぐで、どんなときでも自分の気持ちを曲げようとしない。」

 呟いたところで、クロノがエイミィに眼を向ける。するとエイミィが笑顔で頷いてみせる。

「分かった。ただし、こちらの指示には最優先に従ってもらうよ。」

「はいっ!ありがとうございます!」

 クロノの了承に、えりなが満面の笑みを見せた。

「えーーっ!?」

 その了承にアレンとソアラが同時に驚きの声を上げる。

「艦長、いいんですか!?高い潜在能力を持っているとはいえ、民間人ですよ!」

「君の師匠も、始めは民間協力者だったんだ。それにえりなは、たとえここで協力を拒んでも、カオスコア回収に関わってくるだろう。」

 アレンの抗議に、クロノが笑みを崩さずに言いとがめる。

「責任は僕が取る。アレン、えりなとともにカオスコア回収を続けてくれ。」

 クロノの指示にアレンは渋々頷くしかなかった。

「アレンくん、本局から連絡が入ったよ。」

 そこへエイミィが声をかけ、アレンが駆け寄ってきた。

「誰からですか?」

「あなたのお母さん、クリス・ハント提督から。」

「えーーっ!?」

 その報告にアレンが再び驚きの声を上げる。

 クリス・ハント。アレンの母親にして、時空管理局本局勤務の提督である。外見上、いつも笑顔を絶やさない優しい女性だが、その笑顔を崩さずにとんでもない言動をすることから、息子のアレンからも恐れられている。

「うぇ〜・・また説教かなぁ〜・・」

「大丈夫じゃないかな?多分、実際に現場に出てどうだったのか、聞きたいんだと思う。」

 肩を落とすアレンにエイミィがなだめる。アレンは力なくブリッジを後にする。

「えりなちゃんとリッキーくんもついていってあげて。クリス提督にも言っておくから。」

「は、はぁ・・」

 エイミィの誘いとアレンの様子に、リッキーは唖然となりながらも頷いた。

 

 ひとまず本局に転移してきたアレン、ソアラ、えりな、リッキー。4人は緊張と困惑を抱えたまま、本局運用部のある部屋を訪れた。

「失礼します。」

 アレンが一礼して、えりなたちとともに部屋に入る。そこには制服に身を包んだブラウンの長髪の女性がいた。アレンの母、クリスである。

「久しぶりね、アレン。クロノくんには迷惑かけてない?」

「は、はい。大丈夫です。艦長もエイミィさんも親切にしてくれています。」

 優しく語りかけるクリスに、アレンがおどおどしながら答える。クリスはアレンに近づいて話を続ける。

「あんまり迷惑かけたらいけませんよ。でないと、お仕置きをしないといけなくなるから・・」

「イテ、イテテテ、もうお仕置きしてるって・・!」

 突然アレンの両頬を手で伸ばすクリス。抗議の声を上げるアレンを、えりなとリッキーが唖然と見つめる。

 そこへクリスが2人に気づき、アレンから手を離す。

「あらあら、お客さんが来てたのですね。すみません、お見苦しいところを見せてしまって。」

「い、いえ・・」

 笑顔を見せるクリスに、えりなは戸惑いを見せる。怯えているようにも思える彼女の様子に喜びを見せながら、クリスは優しく語りかける。

「そういえば見かけない顔ね。お名前を聞かせてもらえます?」

「え、あ、はい。坂崎えりなです。」

「僕はリッキー・スクライアです。」

 クリスの声にえりなとリッキーが自己紹介をする。

「はじめまして。私はアレンの母、時空管理局運用部所属、クリス・ハントです。よろしく。」

 クリスが手を差し伸べると、えりなも笑みをこぼしてその手を取り、握手を交わす。

「管理局の魔導師じゃないようですね。えりなさん、どのようにして魔法を?」

「リッキーと出会ったときにこのブレイブネイチャーを受け取って、それで魔法使いになっちゃったんです。」

 クリスの問いかけにえりなが戸惑いながら答える。彼女の答えを聞いたクリスは淡々と頷く。

「偶然から生まれた魔法ってことね。それでもすごいですね。何の魔法訓練を受けていないあなたが、カオスコアを封印してるなんて。」

「私も最初はよく分からなかったんです。でもリッキーとブレイブネイチャーが教えてくれて。」

Thanks my master.”

 えりなの説明に、ブレイブネイチャーが感謝の言葉をかける。

「成り行きというものは、運命の出会いのきっかけなんですよ。」

「母さんがそういうことを言ってもあんまり説得力が・・イタタ・・!」

 口を挟んできたアレンの頬を、クリスは笑顔のまま引っ張る。痛がるアレンに、リッキーとソアラが唖然となっていた。

「あまり無理をしないようにお願いしますね。動くときは動いて、休むときは休む。それが万全を生むのです。」

「・・はいっ!ありがとうございます!」

 クリスの励ましの言葉に、えりなが感謝の言葉をかける。改めて奮起した少女の姿に、クリスは満面の笑みを見せた。

 

 それからえりなとリッキーは、アースラを経由して海鳴市へと戻ってきた。アレン、そして猫の姿のソアラも同行してきていた。

「僕とソアラは別方向からカオスコアの捜索を行ってみるよ。えりなたちは、もし見つけてもすぐには捕まえようとせず、僕たちかアースラに連絡するんだ。いいね?」

「うん、分かったよ。」

 アレンの言葉にえりなは笑顔で頷いた。そしてアレンは、狐の姿のリッキーに眼を向ける。

「リッキー、もしもえりなが突っ走っていくようなことがあったら、君がストッパーになってやってほしいんだけど。」

「止めようとしても止まらないと思うけど、心に留めておきます。」

 アレンの言葉に、リッキーは苦笑いを浮かべて頷いた。

「それじゃ、えりな、リッキー、気をつけるんだよ。」

「うん。アレンくんもね。」

 互いの無事を案じると、アレンとソアラはえりなとリッキーと別れた。

「さて、そろそろ帰らないとね、リッキー。」

 リッキーに呼びかけてから、えりなは家へと戻っていった。時間は既に夕暮れ時となっていた。

 レストランに戻ると、えりなは雄一と千春に謝った。しかし2人はえりなをとがめようとはせず、優しく接してくれた。

 悪いと思う気持ちでいっぱいになっていた中、えりなは両親の優しさに感謝を感じていた。

「もう、こんな遅くまで寄り道してるなんて。」

 そんな心境のえりなに、まりなが駆け寄ってきて声をかけてきた。

「やっぱり、妹のあたしがしっかりしないと。リッキー、あなたもそう思うよね?」

 まりながリッキーを抱えて言いかけるが、リッキーは首を傾げるだけだった。

「そうね。もっとしっかりしないとね、ま・り・な・ちゃん♪」

 えりなはリッキーを取り上げると、笑顔を振りまいて部屋に戻っていった。腑に落ちない気分を覚えて、まりなはふくれっ面を見せた。

 

 その翌日の休日、えりなは狐の姿のリッキーを連れて、カオスコアの捜索に躍り出た。まるで小さな探し物をしているような感覚で、2人は細かく捜索を行っていった。

 しかしカオスコアの影も形も、気配さえ見つけられないでいた。

「ん?えりなちゃん?」

 そんな中、えりなは声をかけられて顔を上げる。その先には篤の姿があった。

「あ、篤さん!?」

 たまらず驚きの声を上げるえりな。だが篤は笑顔を絶やさなかった。

「えりなちゃん、どうしたの?何か探し物?」

「えっ?あ、い、いいえ、大丈夫です!もう、見つかりましたから!」

 篤の問いかけに何とか答えようとするえりな。だが明らかに彼女は赤面して落ち着きがなかった。

「近くで少し休もうか。僕が何かご馳走になるよ。えりなちゃんとは、いろいろお話もしたいからね。」

 篤のこの誘いに、えりなは完全に顔を赤くしてしまった。彼女はただただ頷くばかりで、言葉が出なくなっていた。

 2人は臨海公園内で置かれているクレープ屋台を訪れ、クレープを購入した。

「本当に、ありがとうございます、篤さん。」

 えりなが戸惑いを見せながら篤に感謝する。

「気にしないでいいよ。明日香がお世話になっているから。」

 篤が弁解の言葉をかけると、えりなは沈痛の面持ちを見せる。

「その様子だと、明日香とあまりうまくいってないみたいだね・・」

 篤の指摘に、えりなは答えることができなかった。

「まさかとは思うけど、ケンカしたとか・・?」

「いえ、そういうのじゃないんだと思うんですけど・・・」

 篤の言葉にえりなが弁解を入れる。すると篤が安堵を込めた笑みを見せる。

「よかった。あんまり深刻に考えることじゃないみたいだね。」

「え、えぇ・・」

 えりなが力なく頷くが、篤は笑みを崩さなかった。

「もし僕にできることがあったら協力するよ。えりなちゃんは、明日香の大切な友達だからね。」

「ありがとうございます、篤さん。篤さんは本当に優しいですね。」

「そ、そんなことないよ。まぁ、明日香からもよく言われるけどね。」

 感謝の言葉をかけるえりなに、篤が照れ笑いを浮かべる。時折戸惑いを見せたりするのも彼のいいところのひとつだと、えりなは思った。

「それじゃ私、そろそろ行きますね。クレープ、ありがとうございました。」

「いいよ、気にしないで。実はクレープが食べたかったところだったんだけど、男の僕1人で買うのも何だか恥ずかしいかなって・・ゴメンね、利用したみたいで・・」

「いいえ、そんな・・・そうだ。篤さんがお店に来たとき、私が注文と取りますね。」

 えりなは軽やかに動いてみせるえりなに、篤が満面の笑みを浮かべる。

「楽しみにしているよ。それじゃ、気をつけるんだよ。」

「はい♪」

 篤と話をして、えりなはわだかまりの深まった気持ちが和らいだように感じた。

 そのとき、えりなは強い魔力を感じ取り、緊迫を覚える。その場で周囲を見渡し、気配を探る。

(これはカオスコアの・・篤さんがそばにいるこんなとき・・・!)

 毒づきながらカオスコアの行方を追うえりな。だが魔力を扱えない篤は、えりなの様子に疑問を浮かべていた。

「どうしたの、えりなちゃん?」

 篤がえりなに問いかけたときだった。2人の前に1人の女性が姿を現した。

「カッコいいお兄さんとかわいいお嬢さんね。」

 女性がえりなと篤に妖しく言いかける。

「あの、あなたは・・?」

「でもピカピカにしたら、もっとよくなるかも。」

 訊ねる篤を見つめながら、女性は笑みを強める。その瞬間、女性の前方に金色の光が出現し輝く。

「篤さん!」

 えりながとっさに篤に飛びかかり、その拍子で篤が横に倒される。その直後に放たれた金色の光が標的を外れ、その先の大木を金色に染め上げる。

「外してしまったわね。でも、このくらいのほうが面白いわね。」

「何だ、これは・・!?」

 さらに妖しく微笑む女性の力に、篤が驚愕を見せる。視線を向けてくる女性に対し、えりなが篤の前に立つ。

「えりなちゃん、危ない!君は逃げるんだ!」

 篤が呼びかけるが、えりなはその場を離れようとしない。

「あらあら、威勢のいいお嬢さんだこと。いいわ。あなたから金にしてあげる。」

 女性が言いかけて、再び光を出現させる。

(このままじゃ、篤さんが・・できればここで魔法は使いたくなかったけど・・・)

 篤の前で魔法を使うことに抵抗を感じていたが、カオスコアから篤を守るためにはやむをえない。えりなは覚悟を決めて、箱と鍵を取り出す。

「ブレイブネイチャー、イグニッションキー・オン!」

Standing by.Complete.”

 箱に鍵を差し込んで回し、、ブレイブネイチャーを起動させるえりな。杖へと形状を変えたデバイスを手にする彼女も、防護服を身にまとう。

「えりな、ちゃん・・・!?」

 えりなの変身に篤は眼を疑った。そんな彼に後ろめたさを感じながら、えりなは女性と対峙する。

「あなたの相手は私だよ!篤さんには手を出さないで!」

「勇ましいこと。でも残念。あなたの言うことは聞けないわね。」

 えりなの言葉を拒んで、女性が魔力を注ぎ込む。その瞬間、えりなは篤に危険が及ばないように飛翔する。

「こっちだよ!」

 えりなが呼びかけると、女性はえりなに向けて光を放つ。

Leaf sphere.”

 えりなは球状の淡い光で身を守る。自動防御よりも強度のある障壁は、女性の光を完全に防ぐ。

「なかなかやるわね。でも離れてよかったのかしら?」

 女性は悠然さを崩さずに、今度は篤に狙いを定める。篤はとっさに飛びのいて光をかわす。

「篤さん!」

「えりなちゃん、僕に構わないで!」

 助けに向かおうとしたえりなに、篤が呼びかける。

「でも、それじゃ篤さんが・・・!」

「僕がいることが、えりなちゃんの重荷になるのは我慢がならないんだ。僕のことは気にせず、えりなちゃんは自分が無事でいることを考えるんだ!」

 篤がえりなに呼びかけた直後、女性の放った光が篤に命中した。

「篤さん!」

 声を荒げるえりなが見つめる先で、篤の下半身が金へと変質していく。

「大丈夫だから・・僕のことは、大丈夫だから・・・」

 えりなに笑顔を見せながら、篤は完全に金色に包まれた。歯がゆさを噛み締めて、えりなは女性に振り返る。

「次はあなたの番よ、お嬢さん。仲良く金になりなさい。」

 女性がさらに金色の光を放つ。えりなは魔法を詠唱して、防御の体勢に入る。

 だがそこへ水色の閃光が飛び込み、金色の光をなぎ払った。

「この魔法は・・!?」

 えりなは閃光の飛んできたほうへと眼を向ける。その先にはウンディーネを向ける明日香と、人間の姿のラックスがいた。

「あら?またかわいいお嬢さんが来たようね。」

「カオスコア・・・私が、私が全部封印する!」

 妖しく微笑む女性に、明日香が怒りをあらわにする。その怒りには、篤を金にされたことへの怒りも含まれていた。

「ラックス、コアをうまく引き付けて。その隙に私が封印する。」

「わ、分かったけど、ムチャしないでよ、明日香・・」

 明日香の指示に、ラックスが渋々頷く。感情的になっている明日香を、ラックスは心配せずにはいられなかった。

 心境に揺らぎを抱えながら、ラックスは女性に向かって先行する。女性はラックスに狙いを定め、光を放つ。

 ラックスは素早い動きで光をかわし、女性を翻弄する。その間に明日香が魔力の収束を行っていた。

Drive charge.”

 魔力の収束を完了させ、明日香がウンディーネを構える。

「オーシャン・・」

「明日香ちゃん!」

 そこへえりなが立ちはだかり、明日香の砲撃を阻む。しかし明日香の感情を逆撫ですることとなる。

「そこをどいて、えりな!私はカオスコアを・・!」

「篤さんをあんなふうにしたから?・・でもそんな気持ちでカオスコアを封印したって、篤さんは喜ばないと思うし、明日香ちゃん自身もきっと辛くなるよ!」

 言い放つ明日香に、えりなが沈痛の面持ちで呼びかける。

「あなたには分からない!私がどんなにお兄さんを慕っていたか・・お兄さんまでいなくなったら、私は・・私は!」

 明日香は感情の赴くままに、えりなが前にいるのも構わずに砲撃を放つ。眼を見開くえりなに閃光が迫る。

Starker Wind.”

 そこへ一条の風が飛び込み、水色の閃光を弾き飛ばす。難を逃れたえりなが視線を移すと、その先には短剣「ストリーム」を手にしているアレンと、人間の姿のソアラがいた。

「アレンくん!ソアラちゃん!」

「えりな、大丈夫!?」

 声を上げるえりなにアレンが呼びかける、えりなが頷くのを確かめてから、アレンは明日香に、ソアラが女性に眼を向ける。

「君の行為は、民間人への武力行使での重罪。だけど、抵抗しなければ弁護の余地はある。同意するなら武装を解除するんだ。」

「たとえ時空管理局でも、私の邪魔はさせない!カオスコアは全部私が封印する!」

 アレンの警告を聞かずに、明日香はいきり立ってアレンに水の光弾を放つ。だがアレンはストリームを振りかざして光弾を弾き飛ばす。

「自慢することになるけど、僕はこれでも厳しい訓練をきちんと受けている。このくらいの攻撃じゃ僕を打ち負かすことはできないよ。」

 真剣な面持ちで言い放つアレンに、明日香は追い込まれていた。そこへえりなが飛び込み、2人はデバイスをつき合わせてつばぜり合いに持ち込む。

「明日香ちゃん、もうやめようよ!私、今の明日香ちゃんを見てると、胸が張り裂けそうで怖いよ・・!」

「ダメだよ、えりな・・私には、カオスコアを封印する以外に、自分を幸せにはできない・・・!」

 必死に呼びかけるえりなの言葉を拒み、明日香は力任せにえりなを突き飛ばそうとする。しかしえりなは踏みとどまり、押し返そうとする。

 明日香の危機にラックスが飛び込もうとする。だが途中で進む方向を変える。向かおうとしていた先には、バインドによる罠が張られていた。

「悪いけど、あたしに同じ手は2度効かないよ!」

 ラックスが言い放った先には、魔力を手に集めているリッキーの姿があった。ラックスを押さえることに苦戦を感じ、リッキーは毒づいていた。

 その間に、アレンは女性と対峙していた。女性の放つ金色の光を、アレンとソアラは軽々とかわしてみせる。

「遅いよ!」

Lang form.”

 アレンの握るストリームの光の刀身が長くなる。長剣はさらに魔力の弾丸を装てんして、威力をさらに高める。

 強烈な一閃を叩き込まれ、女性が人としての形を保てなくなる。漆黒に輝く水晶がアレンの前に現れる。

「ソアラ、カオスコア、封印。」

「うん。マジックケージ!」

 アレンの指示を受けて、ソアラが魔法の発動に意識を傾ける。

「泉を沈めし礎よ、その力をもって彼の者を封じよ。」

 詠唱の直後、ソアラが発した魔力が水晶を包み込む。「マジックケージ」は球状の光に対象を閉じ込め、その魔力を封じ込める魔法である。この中にいる間は、基本的に魔法は使えなくなる。

 カオスコア封印の機能を持つデバイスを持っていなかったアレンは、それに代用する手段を持ち合わせていた。拘束系の魔法に長けているソアラが、マジックケージを駆使してコアを封印するのだ。

 球状の光に収まった水晶を手にして、ソアラがアレンに笑みを見せる。

「封印完了だよ、アレン♪」

「よし。ごくろうさん、ソアラ。」

 アレンがソアラに安堵を見せると、対峙しているえりなと明日香に眼を向ける。

「えりな、カオスコアは封印した!そこの魔導師も戦闘をやめるんだ!」

 アレンが2人に呼びかけると、えりなは明日香から離れて距離を取る。

「お願い、明日香ちゃん!篤さんも、みんな無事だから・・・!」

 えりなの言葉に、明日香は攻撃の手を休めて篤に眼を向ける。女性の魔力が消え、篤や周囲の草木が金から元に戻ろうとしていた。

 明日香は無言でこの場を後にした。自分が魔法使いであることは、兄の篤には明かしていないのだろうと、えりなは思っていた。

 後悔の念を抱えながら、えりなはアレンとソアラに近寄った。リッキーも遅れて彼らに駆け寄ってきた。

「えりな、リッキー、大丈夫?」

「うん・・大丈夫かと聞かれたら大丈夫なんだけど・・・」

 アレンの声に答えつつ、えりなは困惑を浮かべたまま振り返る。その先には、カオスコアの呪縛から開放された篤の姿があった。

「あ、篤さん、それは、その・・」

 何とか弁解しようとするえりな。すると篤が笑顔を見せて声をかけてきた。

「すごいじゃないか、えりなちゃん。そんなすごい力を持ってるなんて。」

「えっ・・・」

 篤の意外な反応に、えりなだけでなく、アレン、リッキー、ソアラも唖然となった。

「お、驚かないんですか・・こんな不思議なことが起きて・・・?」

「驚いていないといったら嘘になっちゃうけど、すごさに対する気持ちのほうが強いかな。」

 当惑するえりなに、篤が照れ笑いを見せる。

「本来、僕は部外者みたいだから追求しない。でもさっきも言ったように、僕にできることがあったら協力するから。」

「あ、ありがとうございます。でも、できれば危険だからあまり踏み込まないほうがいいと思うんですけど・・」

 優しく言いかける篤の身を案じるえりな。篤は彼女の気持ちを汲んで小さく頷いた。

「篤さん、本当にありがとうございます。今度、私が腕によりをかけてお店を案内しますので。そうだ。アレンくんもソアラちゃんもどうかな?」

「えっ!?いいの!?わーい♪」

 えりなの誘いにソアラが飛び上がって喜ぶ。

「コラコラ、ソアラ、そんなにはしゃぐもんじゃないだろ。」

 アレンが注意して、ソアラの頭を軽く叩く。ソアラが苦笑いを浮かべるも、喜びはあまり抑えていなかった。

「それじゃ、アレンくん、篤さん。ご来店、お待ちしております♪」

 えりなはアレン、ソアラ、篤に一礼して、バリアジャケットを解除し、ブレイブネイチャーを元に戻してこの場を後にした。

(これは、後片付けが大変になりそうだ・・)

 アレンはこの現状に対し、胸中で苦言を呈していた。

 

 

次回予告

 

出会いは突然起きた。

また新しくつながった友情。

でもそれは、新しい争いの始まりでもあった。

いろいろな人の気持ちがすれ違い、そしてぶつかっていく・・・

 

次回・「出会いは運命のいたずらだよ」

 

あなたのハートの、イグニッションキー・オン!

 

 

作品集

 

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