魔法少女エメラルえりな

第3話「水と緑の衝突だよ」

 

 

それは、突然の出会いでした。

 

嬉しいはずの出会い。

それは辛い悲しみとすれ違いの始まりでもあった。

そしてその錯綜は、心だけじゃなく、力のぶつかり合いにまで発展してしまった。

 

もう1度話し合って、それで分かち合いたい。

友達になりたい。

正真正銘、心の底から・・・

 

魔法少女エメラルえりな、始まります。

 

 

 魔導師として、運命の邂逅を果たしたえりなと明日香。動揺を浮かべたまま、2人は互いを見つめ合っていた。

「明日香、ぼんやりしてたら危ないよ!」

 その沈黙を破ったのはラックスだった。狼の姿の彼女に呼びかけられて、明日香は我に返り、少女を見下ろす。

「えりな、そこをどいて。私はカオスコアを封印する・・!」

「明日香ちゃん、どういう・・!?」

 言いかけてきた明日香に呼びかけようとするえりなだが、少女が放った吹雪に阻まれる。

Drop Sphere.”

 明日香が構えたデバイス「ウンディーネ」から水の光弾が出現し放たれる。光弾は吹雪をかいくぐり、そのうちの数発が少女に命中する。

 一瞬苦悶の表情を浮かべた少女が右手をかざし、先ほどよりも強い吹雪を放つ。紙一重でかわそうとする明日香だが、ウンディーネの先端が吹雪を受けて凍てついてしまう。

「ウンディーネ・・!」

 氷に包まれた杖に驚愕する明日香。困惑を抱えたまま、えりなは明日香から少女へと振り向く。

(どうしたらいいの・・どうしたら・・・?)

“えりなちゃん!ドライブチャージを使うんだ!”

 そこへリッキーの念話が飛び込んできた。

「リッキー!」

“グラン式デバイスには、ベルカ式カートリッジシステムから派生したドライブチャージシステムが備わっているんだ。”

「それって・・!?」

“君の魔力を、ブレイブネイチャーに注ぎ込むんだ。魔力を一点集中させることで、魔法の力を爆発的に高めることができるんだ。”

 リッキーの言葉を聞いて、えりなはブレイブネイチャーに眼を向ける。

「ブレイブネイチャー、できる?」

Yes,my master.”

 えりなの問いかけにブレイブネイチャーが答える。自分のデバイスの意思を受けて、彼女は決意する。

「それじゃ行くよ、ブレイブネイチャー・・ドライブチャージ!」

Drive charge.”

 えりなはブレイブネイチャーに呼びかけると、自分の中にある力を杖に注いだ。杖の先端の宝玉に光が宿り、徐々に輝きが強まっていく。

(これはちょっときついかも・・力の加減を間違ったら、魔法を使う前に参っちゃう・・)

 初めての魔力の一点集中に戸惑いを見せるえりな。だがすぐに気を取り直して、少女に狙いを定める。

「ブレイブネイチャー、長距離魔法を出すよ・・!」

Blaster mode.”

 ブレイブネイチャーの形状が変化し、砲撃型へと形を成す。

Natural blaster.”

 そしてえりなは少女に向けて若草色の閃光を解き放つ。閃光は少女の放つ猛吹雪を突き破り、少女に命中する。

 まばゆい光と激しい轟音が治まると、少女がいたその場所には、漆黒の水晶が浮遊していた。

「これが、カオスコア・・・」

“えりなちゃん、早く封印するんだ!”

 戸惑いを見せていたところへリッキーに呼びかけられ、えりなは水晶に向かって飛び込む。

「そうはさせないよ!」

 そこへ白い狼が飛び込み、えりなを横から突き飛ばす。不意を突かれながらも、えりなはすぐに体勢を立て直した。

「狼・・・!?」

「明日香、この子はあたしが引き止めとくから、早くカオスコアを!」

 えりなを見据えながら、狼、ラックスが明日香に呼びかける。魔力を使ってウンディーネの凍結を解いた明日香は、水晶に眼を向ける。

「明日香ちゃん!」

「悪いけど、アンタの相手はあたしだよ。」

 明日香を追おうとしたえりなの前に、ラックスが立ちはだかる。

 そのとき、ラックスの体を光の鎖が縛り付けた。虚を突かれたラックスが必死にもがくが、鎖はなかなか引き千切れない。

「えりなちゃん、今だよ!」

 そこへ狐から少年の姿に戻っていたリッキーが、えりなに呼びかける。ラックスをチェーンバインドで拘束した後、リッキーはカオスコアに向かっていた明日香に向けて、再び魔法を使う。

 即効性に長けたリング状のバインドが、明日香の両手、両足を捉えて動きを止める。

「明日香!」

 動きを封じられた明日香に毒づくラックス。えりなはその間に、水晶へと向かっていく。

「行かせない!」

 いきり立ったラックスが力任せに光の鎖を引き千切る。だがその前にリッキーに行く手を阻まれる。

「カオスコア、封印!」

 えりなが水晶にむけてブレイブネイチャーを振りかざす。その宝玉に水晶が取り込まれる。

Receipt complete.”

 カオスコアの封印を完了し、えりなが肩の力を抜く。そしてバインドを解除した明日香に振り返る。

「明日香ちゃん、これはどういうことなの!?明日香ちゃんもカオスコアっていうのを回収しているの!?」

「えりなちゃんこそ、どういうことなの・・えりなちゃんも魔導師だったの・・・!?」

 互いに問いかけるえりなと明日香。募る疑問を払拭しようと、2人は切実な思いだった。

「明日香、話しかけることないよ!」

 そこへラックスが呼びかけ、えりなと明日香の呼びかけをさえぎる。

「明日香、アンタはカオスコアを封印していくんだろ!?だったらこんなところで立ち止まってる場合じゃないよ!」

「ラックス・・・」

 ラックスの呼びかけに明日香が戸惑いを見せる。そして自分の中にある信念を思い返した明日香は、えりなに眼を向ける。

「ゴメン、えりな。今は話せない。私にはやらなくちゃいけないことがあるの。だからもし邪魔をするなら、たとええりなでも全力で・・」

 明日香は言いかけると、困惑しているえりなにウンディーネを向ける。そしてラックスとともに、転移魔法を使ってその場を立ち去った。

「明日香ちゃん、どうして・・・いったいどういうことなの・・・!?」

「えりなちゃん・・・」

 悲痛さをあらわにするえりなに、リッキーも沈痛の面持ちを浮かべていた。その眼下では、カオスコアの魔力で凍結していた街や人々が解放されようとしていた。

「ここを離れよう、えりなちゃん。もうすぐ凍結が解けるから・・」

 リッキーの言葉に頷き、えりなもこの場を後にした。

 

 突如街で発生した魔力の発生。それはアースラのレーダーも捉えていた。

「凍結効果を持った魔力を感知!カオスコアだよ!」

 エイミィの報告に、クロノとアレンが深刻な面持ちを見せる。

「艦長、僕に行かせてください!僕がカオスコアを封印、回収してきます!」

 そこへアレンが声をかけてきた。

「僕の力でみんなを守りたいんです!せめて状況確認だけでも!」

「待って!反応が消えてく・・・」

 アレンが言いかけたところで、エイミィが報告を続ける。探知していた魔力反応がレーダーから消失した。

「魔力が消えた?転移したのか?」

「違う。これは封印されたと見たほうがいいわね。転移ならわずかに魔力が残るはずだから。」

 クロノの問いかけにエイミィが答える。

「誰かがカオスコアの封印と回収を行ってるみたい。管理局内の魔導師じゃなさそう・・」

「管理局内じゃない?・・じゃ、誰が・・・?」

 深まる謎と疑問に対し、模索を繰り返すエイミィとクロノ。そこで再びアレンが言葉を切り出した。

「やはり僕に行かせてください。現場に行って、この事態の詳細をこの眼で直接確かめてきます。」

 気を落ち着けて言いかけるアレンに、クロノは真剣な面持ちで頷いた。

「分かった。だがどんなに些細なことでも、何かを発見したらこちらに報告。僕たちの指示を受けてもらうよ。」

「了解です。でもやれるだけやらせてください。」

 クロノの指示を受けてアレンは動き出し、ソアラもそれに続いた。

「いいの、クロノくん?ここは執務官か、上位魔導師に任せたほうが・・」

 エイミィが不安を口にするが、クロノは微笑んで首を横に振る。

「彼女は別の任務で動いているし、もし彼女を呼び戻しても、アレンはじっとしてはいないだろう。」

「やっぱりあの子の教え子ってことかな。楽観視できない事件なのに、何だかわくわくしてきちゃうよ。」

 クロノの言葉にエイミィも笑みをこぼして同意した。

 

 明日香の魔導師としての姿を目の当たりにしたえりな。一路、家の自分の部屋に戻ってきたものの、彼女は動揺を隠し切れなかった。

「明日香ちゃん、どういうことなんだろう・・」

“何かわけがあるみたいだけど。管理局の魔導師ってわけじゃなさそうだったし・・話ができればいいんだけど・・・”

 えりなの言葉にリッキーが答える。彼は変身にて狐の姿になっていた。

「管理局?」

“あ、えりなちゃんには言ってなかったね。魔法や次元に関する災害や事件を対処するのが、時空管理局と呼ばれてる機関だよ。”

「時空管理局?魔法の世界の警察ってところかな・・?」

“まぁ、そんなとこ・・”

 えりなが納得すると、リッキーが苦笑いを浮かべて答える。

“本当ならこういった事件は管理局に任せるべきなんだけど・・僕がカオスコアをしっかり保管しなかったから・・”

「だから自分で解決しようと思ったんだね・・でも今は私がいる。私もカオスコア回収に協力するから。せめてその管理局の人たちが来るまで。」

 笑顔で言いかけるえりなに、リッキーが当惑を見せる。

「明日香ちゃんともきちんと話をしたいし、ここまで来たら最後まで付き合っちゃうから♪」

“ありがとう、えりなちゃん・・本当に感謝してるよ・・”

 えりなの気持ちを受け入れて、リッキーは感謝の言葉をかけた。

 

 同じ頃、明日香も自宅の自分の部屋に戻ってきていた。子犬の姿となっているラックスの眼の前で、明日香は困惑を抱えていた。

 えりなとの魔導師としての出会い。これからのカオスコアの回収には、えりなの介入の可能性が強い。

(えりなちゃんがカオスコアを集めてるなんて・・もしかしたら、えりなちゃんと戦うことになるかもしれない・・・)

 明日香がえりなに対して困惑を拭えずにいた。

“明日香、あんまり気に病むことはないよ。明日香とあたしには、カオスコアを封印していくって使命があるんだよ。だったら悩んだり迷ったりしてないで前に進む。”

 彼女の心境が流れ込んできていたラックスが、彼女に励ましの言葉をかける。その言葉を受けて、明日香はある出来事を思い返していた。

 それは彼女がかつて住んでいた場所、如月町で起きた災害。通称「如月の悲劇」である。

 幼かった頃のある日、明日香は如月町に突如まばゆい光が発せられるのを目撃した。その直後、彼女は一変した街を目の当たりにした。

 建物や人々が半透明の水晶に変わり果てていた。そしてその爆発的な閃光の影響で、水晶は崩壊を始めていた。

 一抹の不安を抱えながら、明日香は自分の家へと急いだ。そこでは父と母が帰りを待っているはずだった。

 だが、その彼女を待っていたのは、水晶へと変わり果てていた家と両親だった。愕然となりながら、明日香は固まっている母に恐る恐る手を伸ばす。

 その手が体に触れた瞬間、母が、そして父と家が砂のように崩れ去った。

「そ、そんな・・お母さん・・お父さん・・・!」

 眼の前の光景が信じられず、明日香は体を震わせた。絶望にさいなまれたあまり、彼女は悲鳴を上げると、その場で倒れて意識を失った。

 それから彼女は、管理局の局員に保護され、一時期局内で療養していた。その中で彼女は、局員から聞いたカオスコアに対して憎悪を抱くようになっていた。

 明日香はグラン式デバイスの1機「ウンディーネ」を奪い、その起動によって解放された魔力を駆使して本局を抜け出した。

 それから明日香は兄の篤に保護され、日常へと戻った。だが本当の平穏が訪れるのは、心の底に沈んでいる悲しみを取り払った先にある。明日香はそう信じて、デバイスとともに運び出していた魔力魂魄から誕生させた使い魔、ラックスとともに、カオスコアの回収へと赴いた。

(そう・・私が、全てのカオスコアを封印する・・私がやらないと、私のように辛い思いをする人がまた出るから・・)

 改めて決意を秘めて、明日香はカオスコア回収に奮起するのだった。

 

 互いにすれ違いをしたまま、その翌日、えりなと明日香はいつものように登校してきていた。姫子や広美には笑顔を見せていたが、明日香と眼を合わせると戸惑いを見せていたえりな。そして明日香もえりなに対して、なかなか言葉を切り出すことができないでいた。

 そんなわだかまりを抱えたまま、2人はいつものように授業を受け、いつものように休み時間を過ごした。そして昼休み、2人は校舎の屋上に向かい、話し合いの場を持ち込もうとした。

「ここだったら、周りをあんまり気にせずに話せるね。」

「ひとつ言っておくけど、私はここで話し合いをしても、私の考えを変えるつもりはないよ。私には、やらなくてはいけないことがあるから・・」

 安堵の面持ちを浮かべるえりなに、明日香は淡々と言いかける。

「だったら、そのやらなくちゃならないことを、私にも手伝わせて・・理由は分からないけど、カオスコアを封印しようとしてるのは同じだから・・」

「ダメ。これは私がやらなくちゃいけないこと。えりなちゃんを巻き込みたくないの。」

「そうやって自分だけで抱え込むのって、自分もみんなも辛いんだよ。だから私、明日香ちゃんを放っておけない・・」

「そうやって首を突っ込まないで。でないと、私はあなたを倒さなくちゃならなくなるよ・・」

 明日香はそう言いかけると、えりなの横をすり抜けて屋上を後にした。声をかけようとしたえりなだが、既に明日香の姿はなかった。

「明日香ちゃん・・・」

 困惑を抱えるえりなだが、明日香と気持ちを分かち合いたい考えに変わりはなかった。

 

 一方、カオスコアの捜索のため、凍結の起こった現場の近くの町に降り立ったアレンとソアラ。周りに奇妙に見られないため、アレンはあらかじめ用意していた私服に着替え、ソアラは猫の姿になってアレンの肩に乗っかっていた。

“へぇ。これがあの人が住んでたっていう町だね。”

(そういえば、ソアラはこっちの世界に来るのは初めてだったね。)

 念話を通じて、ソアラの言葉にアレンが答える。

(言っとくけど、珍しいものを見つけても、勝手に行ったりしないでよ。)

“大丈夫だよ。私はそんな行儀の悪い使い魔じゃないよ。”

 注意するアレンに、ソアラが不満混じりに答える。だがしばらく町を歩いたところで、ソアラが近くのゲームセンターにあったクレーンゲームに眼を光らせていた。

「ハァ・・何だか先が思いやられてきたって感じが・・」

 手を頭に当てて、アレンがため息をついた。

(それでソアラ、カオスコアの気配、つかんだ?)

“ううん。魔力を出していないから、はっきりとした場所が・・”

 アレンの問いかけにソアラが困った様子で答える。

(とりあえずこの辺りを探ってみよう。意外なところに隠れてるかもしれないし。)

“うん、分かったよ、アレン。”

 アレンの指示に頷くソアラ。2人はカオスコア捜索のため、行動を開始したのだった。

 

 明日香とすれ違ったまま、えりなは下校しようとしていた。姫子と広美と一緒に昇降口に向かおうとしていると、後ろから健一が走りこんできた。

「よぉ、オレも混ぜてくれよな。」

「健一!?またアンタってヤツは・・!」

 気さくに声をかけてくる健一に、えりなが呆れた面持ちで答える。すると健一がえりなの顔を見るなり、眉をひそめる。

「えりな、お前元気ねぇな。何かあったのか?」

「えっ?何言ってんのよ。私はいつでも元気なんだから。」

 不機嫌に答えるえりなだが、健一はいぶかしげな面持ちを崩さない。

「そうか?何だかいろいろ考え込んじまって、お前らしくないって思ってさ。」

「余計なお世話よ・・」

 えりなが苛立たしげに健一に言いかける。

「私だって、考えたりすることだってあるんだから・・アンタなんかにいつまでもバカにされたくないんだから!」

 えりなは悲痛の声を上げると、たまらず駆け出していった。健一、姫子、広美が唖然と彼女が去っていくのを見つめていた。

「おい・・オレ、何か悪いこと言ったか・・・?」

「多分・・・」

 健一の呟くような声に、姫子が小さく答えた。

 

 悲痛さにさいなまれ、どうしようもない混乱を抱えたえりなは、ひたすら道を駆け抜けていた。しばらく走り抜いたところで、彼女は足を止める。

(人が一生懸命になろうとしてたのに、どうして水を差すのよ・・・!)

 健一に対する愚痴をこぼすえりな。気持ちが何とか和らいできたと感じて、彼女は顔を上げる。

 そのとき、えりなは近くに不思議な感覚を覚えた。彼女はその気配がカオスコアのものだと思った。

“えりなちゃん、感じた!?”

(リッキー!・・うん、感じたよ!)

 そこへリッキーの声が飛び込み、えりなが答える。

(リッキー、私、頑張るから!みんなが悲しい思いをしないように!)

“えりなちゃん、ムチャしないで!”

 決意を告げて飛び出すえりなに、リッキーが呼びかける。えりなはその声を聞きながら、草原へと飛び出した。

 その草原に隣接している森の中から、淡く輝く水晶が飛び出してきた。水晶は液状の物体に包まれて浮遊していた。

「あれも、カオスコア・・・」

 えりなは水晶を見据えながら、小さく呟く。

(私がやらなくちゃ・・私がやらないと、明日香ちゃんをさらに辛くしてしまうし、みんなも辛くなっちゃう・・・!)

「行くよ、ブレイブネイチャー!」

Standing by.”

 えりなが箱に鍵を差し込み、回す。

「イグニッションキー、オン!」

Complete.”

 起動したブレイブネイチャーが形状を杖へと変わる。そしてえりなはバリアジャケットを身にまとう。

「ブレイブネイチャー、ブラスターモード!」

Blaster mode.”

 ブレイブネイチャーの形状がさらに長距離砲撃用へと変わる。そして液体に包まれている水晶に狙いを定める。

 そのとき、水晶がえりなに向かって飛び込んできた。

Breeze move.”

 えりなはとっさに飛び上がって回避し、再び水晶に眼を向ける。水晶は転回して再度えりなに向かって飛び込んでくる。

「一気に撃ち込む!ナチュラルブラスター!」

 水晶に向かってえりなが砲撃を放つ。だが砲撃は水晶を包んでいる液体に軌道を捻じ曲げられてしまう。

「ウソッ!?」

 驚きを見せるえりなが、紙一重で水晶の突進をかわす。だが水晶の液体が彼女のバリアジャケットにかすかに付着する。

 距離を取って体勢を立て直したえりなが、その液体を払おうとする。だが液体はガラス細工のように固まって、衣服から離れない。

「固くなってる・・これもカオスコアの力・・・!」

「その通りよ。」

 えりなの呟きに対してかかってきた声。それは水晶からのものだった。

「話してきた・・・!?」

「私たちカオスコアは意思を持った一種のプログラム体。話せて当然でしょ?」

 当惑するえりなに、水晶が淡々と話しかけてくる。

「かわいいお嬢さんね。私が固めてあげるわ。」

「残念だけど、私はあなたたちを封印して、集めなくちゃならないの。」

 妖しく語りかける水晶に対し、えりなが魔法の杖を水晶に向ける。

「そう?ならお嬢さんのその願いは、叶いそうもないわね。」

 水晶は言い終わると、まとっている液体を弾丸のように飛ばしてくる。液体の弾は一瞬にして固くなり、威力を一気に高める。

Leaf shield.”

 ブレイブネイチャーが自動防御にて障壁を発動し、弾丸からえりなを守る。何とか水晶の攻撃を防ぎきったところで、えりなは水晶に向けて一気に飛び込む。

Saver mode.”

 光刃を発したブレイブネイチャーを、えりなは水晶目がけて振り下ろす。だが水晶は上昇して回避する。

「リーブセイバー!」

 えりなは振り返りざまにブレイブネイチャーを振りかざし、光刃を水晶に向けて飛ばす。飛んできた光刃を受けて、水晶が突き飛ばされる。

 えりなは追撃のためにさらに飛び出していく。だが光刃を振り上げたところで、えりなと水晶の間を水色の閃光が飛び込んできた。

「この魔法・・!」

 えりなは閃光の飛んできたほうに振り向く。そこにはウンディーネを構えた、バリアジャケット姿の明日香がいた。

「邪魔しないでって言ったよ、えりな。カオスコアは、全部私が封印する。」

「明日香ちゃん・・・だから、明日香ちゃんと私、2人一緒に協力すれば・・」

 淡々と告げる明日香にえりなが呼びかける。しかし明日香はえりなの声を頑なに拒む。

「私はえりなちゃんを傷つけたくない。だからこれは、私1人でいいのよ・・」

 明日香はウンディーネを振りかざし、光の弾をえりなに向けて放つ。虚を突かれたえりなが、その弾を受けて突き飛ばされる。

 明日香はその間に、水晶の封印のために飛び込んでいく。すぐに体勢を立て直して、えりなも水晶に向かう。

 だがえりなは突然背後から羽交い絞めにされる。後ろに視線を向けると、1人の女性の姿があった。逆立った白い髪をしており、異様の衣服を身にまとっていた。

「悪いけど、アンタはここで進行禁止だよ。」

「あ、あなた、この前の狼の・・!?」

 人間の姿を取っている使い魔、ラックスに動きを止められ、えりなが焦りを覚える。2人の見つめる先で、明日香が水晶に向けて砲撃を放っていた。

 だが水晶を覆っている水が粘膜を作り、砲撃を防いでしまう。

(ダメ・・水の障壁が邪魔して、コアまで届かない。それに私の魔法の属性も水。攻撃するには相性が悪い。)

 毒づく明日香だが、諦めずに水晶への攻撃を続けようとする。だがそこへ水晶からの水の弾丸が飛び込んできた。

Water field.”

 ウンディーネがとっさに防御魔法を発動させるが、その衝撃で明日香は体勢を崩す。そこへ水晶が彼女を狙って飛び出した。

「明日香!」

「明日香ちゃん!」

 声を荒げるラックスとえりな。えりなはたまらずラックスの腕を払い、明日香に向かって飛び出す。

(このままじゃよけきれない・・やられる・・・!)

 迫ってくる水晶に明日香が覚悟を決める。

「明日香ちゃん!」

 そこへえりなが飛び込み、明日香を横に突き飛ばす。明日香をかばって、えりなは水晶の突進をまともに受けてしまう。

「えりな!?」

 驚愕を覚える明日香。その眼の前で、えりなは水晶が展開している液体の中に閉じ込められてしまった。

 水の中で息ができず、えりなが苦悶の表情を見せる。水と水晶は彼女を取り込んだまま、ゆっくりと地上へ降下する。

「捕まえた。苦しいでしょう?今すぐに楽にしてあげるわ。」

 水晶が言いかけると、水が突然固まりだした。えりなは体の自由が利かなくなり、束縛される感覚を覚えていた。

 次第に力が抜けていく、やがてえりなは呆然とした面持ちのまま、液体が固形化したガラスの中に閉じ込められてしまった。

「えりなちゃん!」

 そこへリッキーが姿を現し、固まってしまったえりなを目の当たりにして驚愕する。ガラスの中から液体に包まれた水晶が姿を現す。

「けっこうかわいく固まったじゃないの。さて、次は誰を固めてあげようかしらね。」

 水晶が淡々と語りかけて、次の標的を求める。

「えりな・・私をかばって・・・!」

 明日香がガラスに閉じ込められたえりなの姿を見て愕然となる。カオスコア封印という使命感とえりなとの友情との葛藤にさいなまれ、明日香は戦意を揺さぶられていた。

 そんな彼女に狙いを定めた水晶が、再び水の弾丸を発射する。戦意を喪失しかかっている明日香は、回避する素振りさえ見せない。

 そのとき、放たれた弾丸の群れに一条の光刃が飛び込み、これらを破壊する。そして水晶にも同様の光刃が飛び込み、水晶に痛烈な打撃を与える。

 振り返った明日香とラックス、リッキーの先には、短剣を手にしている1人の少年の姿があった。彼も異様な衣服を身にまとい、水晶を見据えていた。

「その服は・・時空管理局の・・」

 リッキーが少年、アレンを眼にして当惑を見せる。続けて少女の姿のソアラも駆けつけてきた。

「ふぅ。やっと見つけたよ、カオスコア。」

「ありがとう、ソアラ。ここからは僕の仕事だ。」

 安堵の吐息をつくソアラに、アレンは感謝の言葉をかける。そして水晶を見据えながら、アレンはアースラへの連絡をする。

(こちら、アレン。カオスコアを発見。これから封印と回収を行います。)

“分かった。アレン、慎重に頼む。”

 クロノの指示を受けて、アレンが短剣「ストリーム」を構える。水晶が彼の存在に気づいて、水の弾丸を放つ。

「そんな物理攻撃じゃ、僕とストリームには通用しない。」

Zerstorung Blatt.”

 これをアレンはストリームを振りかざして一閃し、なぎ払う。そして間髪置かずに飛び込み、水晶に一閃を叩き込む。

 水晶がかすかにひび割れ、それが魔力ダメージを受けたことを証明していた。

「ソアラ、封印を!」

「任せて♪」

 アレンの呼びかけで、ソアラがカオスコアを封印するために動き出す。だがそこへラックスが飛び込み、ソアラを阻む。

「明日香、早くカオスコアを!」

 ラックスが明日香に呼びかけ、ソアラに拳を繰り出す。ソアラは障壁を駆使してこの攻撃をかわし、上空に飛翔する。

「アレン、急いで!コアを奪われちゃうよ!」

 ソアラはアレンに呼びかけて、ラックスに向けて魔法を発動する。ラックスの手足を光の輪がかけられ、動きを封じる。

 さらにソアラは球状の淡い光「スフィアケージ」でラックスを閉じ込め、完全に動きを封じる。ソアラは多くの魔法を習得しており、特に攻撃、拘束系の魔法を得意としている。そのため、バインドやケージといった拘束魔法を素早く発動させることができるのだ。

 ラックスをソアラが押さえている間に、水晶に向かう明日香をアレンが追う。

「カオスコア、封印!」

 明日香が必死に水晶にウンディーネを伸ばす。アレンの追撃が届くことなく、杖の宝玉に水晶が取り込まれる。

Receipt complete.”

 カオスコア封印を告げるウンディーネ。その直後、アレンが振りかざしたストリームの刀身が、ウンディーネの先端を叩く。その衝撃でウンディーネに亀裂が生じ、明日香も突き飛ばされる。

 傷つきながらも体勢を保つ明日香。彼女は怯むことなく、ラックスを閉じ込めている球体を、魔力を注ぎ込んで破壊する。

「たとえ管理局でも、私の邪魔はさせない!この体が傷だらけになっても、私はカオスコアを封印する!」

 明日香はアレンにそう言い放つと、満身創痍の体に鞭を入れて動き出し、束縛から解放されたラックスの手を取ってこの場を後にした。

「待て!」

 アレンが追おうとするが、明日香はラックスを連れて転移魔法を使い、姿を消していた。歯がゆさを抱えながら、アレンはストリームを下げて臨戦態勢を解く。

(アレンです。すみません。カオスコアを奪われてしまいました。)

“分かった・・アレン、君はその少年と少女を保護するんだ。”

 報告を入れるアレンに、クロノが指示を送る。アレンは当惑を見せているリッキーと、ガラスに閉じ込められているえりなに眼を向ける。

(了解です。僕とソアラはしばらくこちらに滞在して、カオスコアの捜索を続けます。)

 アレンがアースラとの通信を終えた頃、カオスコアの封印によってガラスから解放されたえりなが、リッキーとソアラに介抱されていた。

 

 

次回予告

 

私の前に現れた少年、アレンくん。

これでやっと時空管理局ってところに仕事を任せられるはずだった。

でもやっぱり、誰かに任せっきりにするのって、何だか納得できないよね。

自分の気持ちのためにも、ここは頑張らないと。

 

次回・「3人の魔法使い、集合だよ」

 

あなたのハートの、イグニッションキー・オン!

 

 

作品集

 

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