魔法少女エメラルえりなVersuS
第25話「魂の解放」
コルトの放つインビューレスキル「クリアマジック」によって、明日香とフェイトは攻めきれないでいた。焦りを覚える2人を見つめて、コルトが哄笑をもらす。
「もはや何をしても無意味だ。ジェネシス・アースを止めることも、私を止めることもできない。」
「止める・・止められる・・私たちはあなたを止めて、えりなもレイを止めてみせる・・」
コルトの言葉に明日香が反発する。しかしコルトは笑みを消さない。
「強がりはやめておけ。もはや君たちは、私の手の上で踊らされる人形同然なんだよ。」
コルトは言い放つと、指を鳴らす。すると明日香の足元から光の線が飛び出す。
虚を突かれた明日香がその線に絡め取られる。彼女は魔力を放出して脱出しようとするが、魔力が発揮されない。
「力が出ない・・これにも魔法の無力化が・・!?」
「明日香!」
毒づく明日香にフェイトが叫ぶ。魔力封じの線が伸び、フェイトが飛翔して回避する。
(あれだけの魔法封じを破るには、ライオットしかない・・・!)
「バルディッシュ、ライオット!」
“Riot Blade.”
フェイトの呼びかけたバルディッシュの刀身が分割される。フルドライブの「ザンバーフォーム」から、リミットブレイクフォーム「ライオットフォーム」へと形状を変えたのだ。
ライオットフォームにおけるライオットブレードは、破壊力に特化したザンバーブレートと比べて切断力に特化している。だが限界突破のこの形状は、他のリミットブレイク同様、負担が激しい。
同時にフェイトのバリアジャケットも、速さを重視した「ソニックフォーム」へと軽量化される。
フェイトがライオットブレードを振りかざし、光の線をなぎ払う。
「それが君のリミットブレイクか。だが、お忘れか?私は今、町井明日香を拘束しているのだよ。」
コルトが言いかけた言葉に、フェイトが明日香に眼を向ける。魔法を封じられている明日香は今、無防備といっても過言でない状態だった。
「もし私が攻撃を仕掛ければ、彼女には守る術がない。リミットブレイクを防戦一方のために使うことになるぞ。」
「そんなことにはならないよ、このくらいのことでは・・」
悠然さを浮かべたコルトに言いかけたのは、拘束されている明日香だった。ウンディーネの宝玉に淡い光が宿る。
「ムダだ。私のクリアマジックは、たとえリミットブレイクレベルの力でも破ることはできない。なぜなら、それほどの力を発揮することも・・」
あくまで余裕を見せるコルトだったが、徐々に強まっていく明日香の光を目の当たりにして眉をひそめる。
「バカな!?・・完全に魔力を封じ込めているはず・・・!?」
コルトの顔に焦りの色が浮かび上がっていく。明日香の足元に水色のひし形の魔法陣が出現する。
「海はどこまでも広がっているもの・・その海のように、私とウンディーネには、無限の希望が宿っている!」
“Drive charge,infinite splash.”
明日香が言い放つと、ウンディーネが最大の魔力収束「ドライブチャージ・インフィニティ」を発動させる。無限の魔力を収束させたウンディーネが、明日香を縛っていた光の線を断ち切る。
「なっ!?」
自由を取り戻した明日香に、コルトが驚愕をあらわにする。明日香がウンディーネを構えて、コルトに狙いを定める。
「手加減はしませんよ・・魔法を封じ込められるくらいなら、全力で!」
言い放つ明日香の横に近づき、フェイトも金色の光刃を構える。
「撃ち抜け、雷神!ジェットザンバー!」
「海神激流!スプラッシュスマッシャー!」
フェイトと明日香が最高峰の魔法を発動させる。ウンディーネから大津波が巻き起こり、コルトに迫る。
「たとえどのような魔法を撃とうと、この私には届かない!」
いきり立ったコルトが両手をかざし、魔力の無効化を図る。だが大津波は衰える様子を見せない。
そこへフェイトがその津波を割って飛び込み、バルディッシュを振り下ろしてきた。切断に長けた金色の刃は、魔力の無効化を切り裂いてコルトの体に叩き込まれる。
「ぐっ!」
うめくコルトがフェイトの一閃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。その後うつ伏せに倒れた彼は意識を失い、動かなくなる。
「や・・やった・・・」
危機を脱した明日香がその場にひざを付き、フェイトもまともに立てなくなる。だが、2人にはまだ安堵はなかった。
えりなはまだレイと交戦している。彼女を援護するため、2人は力を振り絞り、ゆっくりと立ち上がる。
「2人とも、けっこうムチャしちゃってますね・・」
そこへ玉緒がなのはとともに現れ、声をかけてきた。すると明日香がため息をつきながら言い返す。
「玉緒もなのはさんも、人のこと言える格好ではないですよ。」
「アハハ・・そうだね・・」
その言葉に苦笑いを浮かべる玉緒となのは。フェイトも笑みをこぼしていたが、彼女たちはすぐに真剣な面持ちを浮かべる。
「えりながレイと戦ってる・・海鳴市で・・私たちの故郷で・・・」
「今回ばかりは、ムチャするなっていっても聞けそうもないね・・自分でも・・・」
明日香の言葉に続いて、なのはが苦笑を浮かべて言いかける。それは自分の課してきた禁を破ることにつながることだった。
「でも、私たちの生まれた故郷だから・・・」
フェイトが微笑んで明日香たちに言いかける。フェイトはミッドチルダ南部アルトセイム出身であるが、なのはたちと過ごした地球を第2の故郷としていた。
「行こう・・えりなちゃんのところに・・・」
玉緒が明日香たちに言いかけたときだった。
「おいおい、オレをのけものにして話を進めんなよ。」
そこへ声がかかり、明日香たちが身構える。だがそこへ現れたのは健一だった。
「健一・・・!?」
「いろいろと心配かけたけど、やっとここまで戻ってこれたぜ・・・」
驚きの声を上げる明日香の前で、健一が気さくな笑みを浮かべてきた。
「うまくユウキさんたちと合流できてな、シャマルさんとクラールヴィントの世話になったってわけ。」
事情を説明する健一の横には、はやて、ライム、ジャンヌ、クオン、シャマル、ザフィーラの姿があった。
「はやてちゃん、ライムちゃん、ジャンヌちゃん、みんな・・」
戸惑いを見せるなのはに、シャマルが微笑みかけてきた。
「私がみなさんをすぐに治しますね・・」
「ここは私とシャマルで守りにつく。お前たちは海鳴市に行け。」
シャマルに続いてザフィーラも言いかける。その言葉を受けて、明日香たちは真剣な面持ちで頷いた。
海鳴市から離れた海上にて、えりなとレイは交戦していた。だがスピリットモードとなっているブレイブネイチャーでも、レイの膨大な魔力を食い止めるには至らなかった。
「お姉ちゃん・・レイの邪魔はさせない・・・みんな壊して、みんなを幸せにする・・・」
レイがえりなに向けて囁くように言いかける。えりなは呼吸を整えながら、レイをじっと見つめる。
「すごい力・・スピリットモードでも防ぎきれないなんて・・・」
驚異的なレイの力に毒づくえりな。
「こうなったらフェニックスモードを使うしかない・・でもフェニックスモードは、ブレイブネイチャーにも私にも、すごく危険なもの・・」
“I have always fought with you. Therefore, I am of one mind and flesh with you.(私はいつも、あなたと一緒に戦ってきました。ですから私はあなたと一心同体です。)”
「ブレイブネイチャー・・」
ブレイブネイチャーの答えにえりなが戸惑いを覚える。
“Call me "Phoenix mode".(コールしてください、「フェニックスモード」と。)”
「・・・うん・・分かった・・・どこまでも私たちは一緒だからね、ブレイブネイチャー・・・」
ブレイブネイチャーの意思を受けて、えりなが意識を集中する。
「ブレイブネイチャー、フェニックスモード!」
“Phoenix mode,awekening.”
えりなの呼びかけを受けたブレイブネイチャーから、灼熱の炎が巻き起こる。同時に彼女のバリアジャケットの基調である緑も紅へと変化し、背中から広がっている翼も炎のものとなって鋭利な形状となる。
ブレイブネイチャーのリミットブレイクモード「フェニックスモード」は、炎属性の魔力を放出し、高出力、大威力の打撃、砲撃を繰り出すことができる、その炎で火傷を被るなど、破損しかねないほどに反動が大きすぎるため、滅多なことでは発動されない。
「それじゃレイちゃん、これから全力で行くよ・・少し痛いかもしれないけど、我慢してね・・・!」
えりなはレイに言いかけると、魔力を収束させて飛びかかる。速く熱を持ったブレイブネイチャーの突きを、レイは魔力を放出しつつ回避する。
「すごいね・・その力、レイにちょうだい・・」
反転してきたえりなに向かって、レイが飛びかかる。彼女はえりなの持つブレイブネイチャーをつかみ、魔力を吸い取ろうとした。
「熱い!」
だがブレイブネイチャーの膨大な熱量に蝕まれ、レイはえりなから魔力を吸い取れないまま手を放してしまう。
「あ・・熱い・・こんなのって・・・!」
「熱いのは当然だよ・・今のブレイブネイチャーは、炎そのものなんだから・・・」
火傷した手を押さえて痛がるレイに、えりなが淡々と言いかける。
「一気に行くよ、レイちゃん・・私の最高の連続攻撃!」
えりなが言い放つと、ブレイブネイチャーに光が宿る。
「熱血一貫!フェニックスランサー!」
えりながレイに向かって飛び出し、ブレイブネイチャーを突き出す。レイも魔力を放出して、えりなの紅の刃を受け止める。
貫通力に長けたフェニックスランサーは、レイの展開した球状のバリアを破り、レイの体に叩き込まれる。
「ソウルクラッシュ!」
えりなの詠唱によって、ブレイブネイチャーから繰り出されていた一閃がきらめきを放つ。魔力を放出させていたレイの体を貫く。
えりなは踏みとどまると、間髪置かずに砲撃魔法の体勢に入る。
「フェニックスブラスター!バーストクラッシュ!」
ブレイブネイチャーから紅い閃光が放たれ、レイを飲み込んだ。砲撃を終えたえりなが、火傷の痛みを覚えて顔を歪める。
「やっぱりフェニックスモードは負担が大きい・・これで終わらなかったら、いい加減に耐え切れなくなる・・・」
現時点での決着を切実に願うえりな。フェニックスランサーとフェニックスブラスター、2つの攻撃を受けて、無事でいられるはずがなかった。
だが爆発での煙の中から現れたレイはさほど落ち着いていた。皮1枚ほどの魔力の膜を作り、えりなの攻撃を紙一重で防いでいたのである。
「そんな・・これだけの攻撃を、耐えたっていうの・・・!?」
さらなる脅威を見せるレイに、えりなは愕然とならざるを得なかった。
ジュンの猛攻を切り抜けて、時空管理局本局に侵入したマコト。彼女を止めようとジュンも追ってきていた。
(待っていてくれ、みんな・・ここをぶち壊して、管理局のヤツらを・・・!)
管理局打倒のためにさらに加速するマコト。研究室にたどり着いた彼女は、シャマルとザフィーラを見つけて立ち止まる。
「管理局・・あの守護騎士たちか・・・!」
眼つきを鋭くしたマコトが身構える。だが彼女はシャマルとザフィーラのそばにいるコルトを眼にして、憤怒を覚える。
「貴様・・・こんなところにいたとはな・・オレたちの幸せをムチャクチャにした張本人が!」
いきり立ったマコトがコルトに向かって飛び掛ろうとした。だがコルトと同じくバインドで拘束されているローグを眼にして、彼女は驚愕して動きを止める。
「ローグ!?・・どうして、お前が・・・!?」
「マコト・・・あなたもここに来たのですか・・・」
眼を疑うマコトに、ローグが呟くように言いかける。彼は魔力を消耗し、手足を動かすこともままならなくなっていた。
「久しいな、ジェネシス・ムーン・・たった今、ジェネシス・アースが、坂崎えりなと戦っている・・」
「その名前で呼ぶな!オレたちだけじゃ飽き足らず、みんなの命や心を弄んで!」
あざ笑うコルトに、マコトがさらに怒りをあらわにする。そこへジュンが遅れてやってきた。
「マコト・・・コルト主任・・・」
ジュンもマコトとコルトを眼にして、当惑を見せる。
「お前も来たか、ジェネシス・サン・・お前たちは私に反旗を翻しながら、結果的に私の描く新世界の構築に加担したのですよ。コルトがうまく話を進めてくれたおかげで、私もやりやすかったですよ。」
「何を言っているんだ・・ローグはオレたちロアの仲間だ!」
「彼は私の部下、ロアに対するスパイですよ。」
「黙れ!どこまでオレを侮辱するつもりだ!今すぐここで仕留めて・・!」
「コルトの言っていることは真実ですよ。」
コルトの言葉に憤るマコトに向けて声をかけてきたのはローグだった。その言葉にマコトは耳を疑った。
「ローグ・・何を言って・・・!?」
「私はコルト・ファリーナに賛同しています。その意志に基づいて、私は今まで行動してきたのです。」
「バカな!?ローグ、お前は僕に全てを託した!僕なら世界を正しい形にできるって!その信頼もウソだったっていうのか!?」
「ウソではありませんよ。なぜなら、あなたが切り開こうとしていた未来は、コルトの新世界そのものだったのですから。」
「ウソだ!」
ローグの言葉を感情をあらわにして否定するマコト。今まで貫いてきた信念が、憎むべき敵の理想だったことを、彼女は信じようとはしなかった。
「こうしている間にも、新世界は着々と構築されている。ジェネシス・アースが、君の妹が坂崎えりなを倒したのの皮切りが、その本格化となる。」
「レイが・・お前は、どこまで・・・!」
コルトのさらなる言葉に反発しようとしたマコト。だがそのとき、彼女はモニターに映し出されている、えりなと交戦しているレイを眼にして愕然となる。
「レイ・・・何がどうなっているんだ・・・!?」
マコトは今のレイが、今まで過ごしてきた妹でないことにすぐに気づいた。
「あの子はコルトに植えつけられた破壊本能の赴くままに行動しているわ。その彼女に地球を壊させないように、えりなちゃんが食い止めようとしている・・」
「えりなさんが!?・・・それでなのはさんは、みなさんは!?」
シャマルが告げた説明に声を荒げるジュン。その問いかけに答えたのはザフィーラだった。
「主たちが今、えりなの援護に向かった。私とシャマルはここの防衛を行っている。」
「そうですか・・・シャマルさん、私とマコトの傷を治してください!私たちも向かいます!」
ジュンが申し出た言葉に、シャマルが驚きを覚えた。
「ちょっと待って、ジュンちゃん・・秋月マコトも・・!?」
「レイちゃんは今、どういうことは分からないけど、地球を、私たちの故郷を壊そうとしています。それを止めようと、えりなさんたちが頑張っています・・それなのに、私たちが何もしないわけにはいかないです・・・!」
自分の気持ちを切実に言いかけるジュン。その揺るぎない決意を聞いて、シャマルは真剣な面持ちで頷いた。
「クオンくんも向かっていったわ。みんなの力になってあげて・・」
「はいっ!」
ジュンが微笑んで頷くと、当惑しているマコトに手を差し伸べる。
「あなたが今でも管理局を許さないとしても、レイちゃんを助けるにはマコトの力が必要なの・・力を貸して、マコト・・・!」
「僕は・・・レイを助けたい・・だけど、僕は管理局を・・・」
「あなたがレイちゃんを助けないで、誰が助けるのよ!?あなたがレイちゃんやみんなのことを大切に思っているなら、一緒に地球に行こう!私たちの故郷に帰ろう!」
困惑するマコトに必死に呼びかけるジュン。その言葉を受けて、マコトは再びレイに眼を向ける。
そのときマコトは気付いた。わずかながら、レイの眼から涙があふれてきていることに。それは彼女が心の奥底で、今の戦いを望んではいないことを示唆していた。
「管理局の施しは受けない・・レイを助け出すのは僕だ・・・!」
マコトは振り絞るように声をかけると、シャマルの治癒を受けることなく、稼動している転移装置に飛び込んだ。
「マコト!」
ジュンも治療が完了しないまま、マコトを追いかけていった。深刻さを浮かべるシャマルだが、2人を信じてこの場に留まることにした。
フェニックスモードのブレイブネイチャーでもレイを押さえ込めずにいることに、えりなは焦りを覚えていた。その間にも負担と熱量は上昇を続けていた。
「今のは痛かったよ、お姉ちゃん・・・でも、レイはもう負けないから・・」
レイがえりなに向けて右手をかざし、速さのある閃光を放つ。負担を抱えているえりなは、この奇襲からの回避に移れない。
そのとき、その閃光が真っ二つに両断され、えりなへの命中を回避させた。その瞬間にレイが当惑を見せる。
「やっぱり、信じ続ければ実るものなんだね・・・」
呟きかけたえりなが微笑を浮かべる。彼女の後ろには、ラッシュを手にした健一の姿があった。
「待たせちまったな、えりな・・かなりムチャさせちまったな・・」
「ホントに遅いよ、健一・・私たちがどれだけ心配してたか・・・」
気さくに言いかける健一に、えりながわざと憮然とした態度を見せる。
「それはお互い様だよ、えりな。」
そこへなのはもえりなに向けて声をかけてきた。明日香、玉緒、フェイト、はやて、ライム、ジャンヌもやってきていた。近くの海岸にはクオンの姿もあった。
「コルトたちは全員拘束した。みんなシャマルさんの治療を受けてきたよ。」
明日香の言葉を聞いて、えりなは微笑んで頷いた。
「ここに来るのも久しぶりだよね・・」
「だけど、懐かしんでる場合じゃないよ・・」
「海鳴市を・・この世界を守らなあかんよね・・」
ジャンヌ、ライム、はやてが言いかけ、レイを見据える。レイはさほど動じた様子を見せず、魔力をあふれさせている。
「あの子は触れた相手の魔力を吸い取る能力を持ってるから、気をつけて・・」
なのはの呼びかけに明日香たちが頷く。なのは、はやて、ジャンヌがレイを取り囲むように3方向に散開する。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも、完全に回復してるわけやない。一気に仕掛けよう。」
はやての指示にジャンヌが頷く。3人はそれぞれのデバイスを構え、レイも球状の障壁を展開する。
「スターライトブレイカー!」
「ラグナログ!」
「シャイニングブラスター!」
なのは、はやて、ジャンヌがレイに向けて砲撃を仕掛ける。レイは障壁を拡大させて、閃光を跳ね返そうとする。
3人の全力の攻撃に一進一退に持ち込まれるレイ。そこへフェイトとライムが飛びかかり、バルディッシュ、クリスレイサーを振り下ろす。
速く重い2つの刃が、揺さぶられている障壁を打ち砕く。その反動でレイが体勢を崩される。
「今だよ、明日香!」
フェイトが呼びかけると、明日香がウンディーネを振りかざす。
“Drive charge,infinite splash.”
「スプラッシュスマッシャー!」
最大出力の砲撃魔法を放射する明日香。障壁を打ち破られたレイに、その閃光が叩き込まれる。
爆発に巻き込まれるのを避けるため、後退する明日香たち。遠距離、近距離、そして遠距離からの立て続けの攻撃。かなりの消耗をもたらしたはずだと彼女たちは推測していた。
だがレイは浮遊していた。魔力を大きくそぎ落とされたが、それでも戦闘の続行に支障はなかった。
「ここまでして、レイちゃん・・・」
戦況を見守っていたクオンが、レイの姿に深刻さを募らせる。空を飛べない自分を、彼は深く責めていた。
「誰が来ても怖くない・・誰にも邪魔させない・・みんなの幸せが、その先にあるから・・・」
レイが明日香たちに向けて魔力を放とうとする。
「レイ!」
そのとき、レイに向けて声がかかってきた。直後、彼女の前に現れたのは、転移してきたマコトだった。
「レイ、何をやってるんだ!?ここは僕たちの住んでた場所じゃないか!」
マコトが切実に呼びかけるが、レイは表情を変えない。
「お姉ちゃん、ここはイヤな思い出のある場所だよ・・だから、レイが壊すの・・」
「イヤな思い出って・・・そうか・・レイは父さんと母さんが殺されたことを・・・」
レイの言葉に困惑を膨らませるマコト。レイは心の中にある忌まわしき記憶の起因となっているものや場所を消し去ろうとしていたのだ。
「ダメだ、レイ・・ここは僕やレイ、父さんと母さんと一緒に過ごした場所じゃないか・・その思い出の場所を壊すなんて・・・僕たちが壊そうとしていたのは時空管理局だ!ここで戦うのはやめるんだ、レイ!」
「ダメ・・ここはレイやお姉ちゃんを悲しませるところ・・だから!」
マコトの呼びかけを拒み、町に向けて攻撃を放とうとするレイ。えりなと健一がとっさに町を守る障壁を作り出す。
「レイちゃん!」
そこへマコトを追ってきたジュンが駆けつけてきた。
“Flame smash.”
彼女は魔力を帯びた拳を繰り出し、レイが収束させている魔力の弾を押し付ける。その衝撃で弾は爆発し、レイとジュンが吹き飛ばされる。
「ジュン!」
マコトだけでなく、えりなも叫ぶ。ジュンもレイも踏みとどまり、互いを見据える。
「レイちゃん、お願いだからやめて!こんなこと、レイちゃん自身も望んでいないはずだよ!」
「違う・・これはレイが、心から願っていたこと・・みんなのために、レイがしたいこと・・・」
「だったらレイちゃん、その涙は何なの・・・!?」
ジュンに言われて、レイは自分の目元に手を当てる。そこで彼女は、自分が涙を流していることに気付く。
「レイちゃんが本当はすごく悲しんでいること、壊したくないことを望んでいるはずだよ・・お姉ちゃんのためにも、気持ちを落ち着けて・・・」
「ダメ・・壊したくないけど・・悲しいのは、もっとイヤだよ・・・!」
ジュンの言葉を頑なに拒むレイ。
「ジュン、もういいよ・・・」
そのとき、マコトがジュンに向けて声をかけ、レイの前に出てきた。
「マコト・・・」
「もういいよ、ジュン・・もうこれ以上、レイの心が引き裂かれていくのを見たくない・・・」
戸惑いを見せるジュンの前で、マコトがレイに近づいていく。そしてマコトはレイの体を優しく抱きしめる。
「レイ、これからは、僕がずっとそばにいるから・・・」
マコトはレイに優しく囁くと、全身に光を宿す。
「この光・・ビックバン・テラ・・・!?」
ジュンはマコトがやろうとしていることに愕然となる。マコトはレイと道連れにして果てようとしていたのだ。
「ダメ!そんなの、何の解決にもならない!」
ジュンが自身の魔力を放出しながら、マコトにつかみかかる。
「ジュン、何を!?・・放せ!このままではお前も!」
「放さない!あなたを死なせない!そんなことをしたら、悲しむ人がいるから!」
振り払おうとするマコトだが、ジュンはそれを聞かない。その言葉にマコトは動揺を覚える。
「もう誰も傷ついてほしくない!あなたも、レイちゃんも、誰も!」
「ジュン・・・ダメだ!もう力を抑え切れない・・・!」
悲痛の叫びを上げるジュンと、力の発動を止められないマコト。
「だったら、私がマコトの力を抑える!みなさんはレイちゃんの中にあるカオスコアを!」
ジュンの呼びかけにえりなたちが眼を見開く。ジュンはレイを引き離すと、マコトを抱えて意識を集中する。
「マコトのビックバン・テラを抑え込むには、バースト・エクスプロージョンしかない・・でも力を拡散させたら、海の上でも大きな被害が出てしまう・・・!」
思い立ったジュンが見出した打開の糸口。それは膨大な魔力を範囲を狭めて発動させることだった。
「バーストエクスプロージョン・ナローバースト!」
ジュンが放った炎のエネルギーが、マコトからあふれ出してきていた力を包み込む。2つの力は相殺されながらも爆発を引き起こすも、ジュンの制御によって範囲は狭まっていた。
しかし至近距離での爆発を被ったため、ジュンとマコトは爆発の煙をまとったまま、海へと落下していく。このまま海へと落ちていくだろうと、ジュンは内心予測していた。
そのとき、ジュンとマコトが突如飛び込んできた何かに受け止められる。2人を受け止めたのはクオンとネオンだった。
「えっ・・・!?」
なぜ空を飛べない2人が海上にいるのか分からず、驚きを見せるジュン。ネオンはクオンを抱えた状態でレールストームを発射し、その反動で海岸を飛び出して、ジュンとマコトを受け止めたのである。
「アクティブガード!ホールディングネット!」
ネオンが2つの魔法を同時に発動し、突進の減速と海への落下への回避を行う。4人は間一髪のところで踏みとどまることに成功する。
「ネ、ネオンちゃん、どうして・・・!?」
ジュンがネオンに対して、驚きを見せる。
「僕も最初はビックリしたよ。ロアのアジトを押さえてたはずのネオンちゃんが、どうしてこっちに来れたのかって・・」
「ロアのポルテさんが転移装置を使ってここまで送ってくれたんだよ。スバルさんたちはあの場所で待機してるよ。」
クオンとネオンが事情を説明する。それを聞いたジュンが安堵を浮かべた。
「後は、レイちゃんだけだね・・・」
レイに眼を向けたネオンが真剣な面持ちを浮かべる。
「僕たちはここまでみたいだね・・」
「後はお願いします、みなさん・・・」
クオンとネオンがえりなたちにレイの救出を託すことにした。
未だに魔力の暴走を抑え切れずにいるレイ。彼女を見据えて、えりなは思考を巡らせていた。
(レイちゃんを死なせずにカオスコアを破壊するには、貫通性に長けた攻撃が適当。それを1番やりとおせるのは、私・・・!)
「ここは私に任せてください!私のフェニックスランサーで、カオスコアだけを破壊します!」
思い立ったえりなが呼びかける。だがブレイブネイチャーのフェニックスモードを行使し続けたための負担が大きく、それを持つ右手が焼け付いているのは、誰の眼からも明らかだった。
そのとき、えりなの持つブレイブネイチャーを、健一が握ってきた。
「健一・・・!?」
突然のことにえりなが驚きを覚える。熱気の痛みを覚えながら、健一は笑みを見せてきた。
「ユウキさんから預かり物があるんだ。コイツで力を合わせるんだ・・」
健一はえりなに言いかけると、手に持っていたものを見せる。それはユウキから手渡されていたシェリッシェルだった。
「シェリッシェル・・ユウキさんが・・・」
「シェリッシェルはデバイスのブースターの働きもあり、フルドライブなんかの負担も軽くしてくれる。これでブレイブネイチャーの熱を抑えられるはずだ。」
健一の言葉にえりなが小さく頷く。健一は手にしているシェリッシェルとラッシュをブレイブネイチャーにかざす。
「シェリッシェル、ラッシュ、お前たちも力を貸してくれ・・・!」
“Yes.”
“OK,boss.”
健一の呼びかけにシェリッシェルとラッシュが答える。シェリッシェルの形状が変化し、ブレイブネイチャーのブースターとなると同時に、ラッシュをつなげるパイプ役ともなった。
3機のデバイスの結合体「ブレイブネイチャー・レゾナンス」である。
「いくら負担が軽くなったっていっても、長引かせたら結局はこっちの不利になる。一気に終わらせるぞ!」
「分かってる!行くよ、健一!」
健一とえりなが呼びかけあって、レイに眼を向ける。レイはカオスコアの破壊衝動に駆り立てられて、魔力を放出しようとしていた。
「熱血一貫!」
「共鳴必勝!」
「フェニックスランサー!」
えりなと健一の声が重なる。2人がまとっていた紅い炎が純白の光となったかのように輝きを放つ。
それに気付いたレイが2人に向けて魔力をぶつけようとする。だが突進してきた2人は眼にも留まらぬ速さを見せつけ、一瞬にしてレイの体を貫いた。
レイの背後で立ち止まるえりなと健一。2人の放った一閃は、レイの暴走を引き起こしていたカオスコアを正確に打ち抜き、粉砕していた。
意識を失ったレイが力なく落下していく。
「レイちゃん!」
えりなが健一とともに駆けつけ、レイを受け止める。そこで彼女は、レイがまだ息をしていることを確かめる。
「よかった・・・この子を、みんなを救えて・・・」
安堵を覚えたえりなが微笑みかける。健一も、ジュンたちも、明日香やなのはたちも安心感を募らせていた。
「近くの降りられる場所に行こう・・私も健一もみんな、けっこうムチャばかりしたから・・・」
「そうだな・・・そこで小休止しながら、みんなと連絡を取らなくちゃな・・・」
えりなの言葉に健一が答える。2人に明日香やなのはたちが近寄り、声を掛け合って互いを安心させる。
えりなたちがジュンたちに眼を向ける。その視線を受けてジュン、クオン、ネオンが微笑みかける。
「レイ・・・ジュン・・僕は・・・」
「もう大丈夫だよ、マコト・・・あなたもレイちゃんも、みんな助かったから・・・」
戸惑いを見せたマコトにジュンが笑顔を見せる。それはかつての彼女がいつも見せていたもの、そのままだった。
親友の優しさに抱かれて、マコトは静かに瞳を閉じた。
次回予告
デルタに入ってからのこの3ヶ月。
楽しかったこと、辛かったこと、いろんなことがあった。
その時間と衝突の中で、私の見つけ出した答えは?
私たちは、それぞれの夢と未来に向かって歩き出す。
明日に向かって・イグニッションキー・オン!