魔法少女エメラルえりなVersuS
第26話「未来への旅立ち」
全ては、あの再会から始まった・・・
デルタに入ってからのこの3ヶ月。
楽しかったこと、辛かったこと、いろんなことがあった。
えりなさんや健一さんたちから、たくさんのことを教わった。
怒りに駆り立てられて、守らなくちゃいけないものを傷つけてしまった。
自分のけじめのため。
大切な人たちのため。
自分の夢のため。
この世界にいるたくさんの人たちのため。
私たちは一生懸命に走り続けた。
その時間と衝突の中で、私の見つけ出した答えは?
私たちは、それぞれの夢と未来に向かって歩き出す・・・
ミッドチルダでは、事件は終息に向かいつつあった。ロアのメンバー、コルトとその部下たちは管理局によって拘束され、デルタのメンバーも本部へと帰還しつつあった。
コルトによってマインドコントロールされていたギーガたちも、管理局の保護の下、精神治療を施されていた。
一方、地球での戦いを終えたえりなたちは、海鳴臨海公園に降り立った。そこでえりなは、抱えていたレイをマコトに渡す。
「魔力を使いすぎて、眠っているだけ・・命に別状はないよ・・」
えりなが優しく言いかけるが、マコトは困惑を浮かべるばかりだった。
「もうすぐ救援がやってくるよ。それまでここでしばらく待つことになるね・・」
明日香が言いかけると、えりなは小さく頷く。2りだけでなく、なのはたちも懐かしさを感じていた。経緯はどうあれ帰郷したことに、彼女たちは素直に喜びを浮かべていた。
「久しぶりに来ちゃいましたね・・海鳴市・・私たちの故郷に・・・」
「そうね・・みんなとまた会いたいけど、やっぱりヴィヴィオと一緒じゃないと・・・」
えりなとなのはが言葉を交わしあう。海鳴市にいる家族や親友たちと再会したいという気持ちを、彼女たちは少なからず抱いていた。
「それに、今はいろいろと整理しなくちゃいけないことがあるから、会うにしてもしばらくはムリだよ・・」
そこへフェイトが言いかけ、えりなたちが苦笑いを浮かべる。
「今度はみんなで一緒に行きましょう。ちゃんと連絡を取って・・」
「そうだな・・いきなり押しかけてもあれだし・・」
明日香も言葉をかけて、健一が同意する。
「少し残念だけど、今だけが本部に戻ることを優先しよう・・・」
玉緒もがっかりした面持ちで呟きかけた。
「私の住んでいた場所を、みなさんにも紹介しますね・・でも、本当に年月がたってるから、ちょっと様変わりしてるかも・・」
ジュンも言葉をかけ、クオンとネオンも笑みをこぼした。帰郷の喜びを分かち合い、彼らには笑顔が宿っていた。
そのとき、マコトがレイを抱えたままえりなから距離を取り、身構える。その様子にえりなたちが眼を見開く。
「マコト・・・!?」
「確かにお前たちのいうとおり、時空管理局は悪いヤツらばかりじゃなかった・・だけど、お前たちの中にコルト・ファリーナがいて、その罪を止めなかったのも間違いがない。そんなお前たちを、僕はやっぱり受け入れることができない・・」
マコトの口にした言葉に、ジュンが困惑する。
「僕はみんなの思いや願いを抱えてここまで来たんだ・・ここで諦めたら、僕たちがしてきたこと全部がムダになるし、何も変わらないままだ・・」
「何を言っているの、マコト・・私たちは、手を取り合って、みんなのために頑張ることができるはずだよ・・さっき、レイちゃんを助けたように、みんなだって・・・!」
ジュンが呼びかけるが、マコトは聞き入れようとしない。するとえりなが沈痛の面持ちを浮かべたまま、マコトの前に立つ。
「確かにこれは、私たちの不甲斐なさが招いたことかもしれない・・私たちの弱さが、あなたたちを傷つけてしまった・・・でも私たちは変わっていける。あなたが間違っていると言っていることを、私たちは変えてみせる・・・!」
マコトに対して決意を告げるえりな。明日香や健一、なのはたちも小さく頷く。
「それでも僕は、管理局を受け入れることができない・・僕の中の何かが、受け入れることを拒んでいる・・・」
「トラウマになっている、というなのかな・・言葉じゃ収まらないことも、時にあるよね・・・」
えりなとマコトが身構え、臨戦態勢に入る。
「1度言っておくよ。今の私たちは披露困ぱい。でもそれはあなたたちも同じ。これだけの人数を相手に、レイちゃんを抱えたあなたには、打ち倒すことも逃げ切ることもできない・・」
えりながマコトに向けて鋭く言い放つ。健一も明日香もなのはたちも、各々のデバイスを構えてマコトを見据える。
マコトは苦渋の選択を迫られていた。現状を考えれば、どの選択を選んでも活路はないことは明白だった。
だが退路を選ぶわけにはいかない。もしも選べば自分たちの全てが壊れる。
マコトのつかんだ選択肢は、既に決まっていた。
「このっ!ちくしょう!」
いきり立ったマコトがえりなに向かって飛びかかる。えりなはやむなく、魔法の発動に意識を集中した。
しかしマコトに勝ち目はなく、バインドによる拘束を余儀なくされた。こうしてロアの総攻撃は終焉を迎えることとなった。
こうして、デルタの最大の戦いは幕を閉じた。
平穏と喜びを取り戻した反面、悲しみや問題点を浮き彫りにすることとなった。
ロアのメンバーは全員拘束。
マコトとレイちゃんも、治療と精密検査を受けることになった。
暴走を引き起こしていたカオスコアが壊れたものの、また何が起こるか分からなかったからだ。
たくさんの混乱が治まり、ミッドチルダは安定を取り戻しつつあった。
それでも、私たちに課せられたことは多く、そして大きかった。
その気持ちを抱えたまま、私たちは休息に入った。
気持ちの整理をつかせるかのように、後処理と療養の時間を過ごすこととなった。
新暦76年12月10日
ロア、そしてコルトたち反逆者たちとの壮絶な戦いでの療養を終えつつあったデルタの面々。中には完治して、リハビリと称してウォーミングアップや模擬戦を行う者もいた。
そしてえりなや健一も、完治目前というところまで来ていた。2人の手は熱量を上げたブレイブネイチャーを握ったことでの火傷のため、包帯が巻かれていた。
ジュンも戦いの傷が癒えつつあった。しかし彼女の傷は体よりも心のほうが深かった。
世界の未来を切り開くため、罪に手を染めた親友、マコト。マコトは仲間たちの願いと想いを背に受けて、時空管理局に戦いを挑んだ。それが犯罪の部類に入っても、彼女の信念をとがめることはできない。
世界のために、これからのために何が必要なのか。ジュンはベットで横たわりながら、そのことを深く考え込んでいた。
「やっぱり気になっちゃうよね、マコトちゃんとレイちゃんのこと・・」
そこへネオンが声をかけ、ふさぎこんでいたジュンが起き上がる。
「マコトちゃんの気持ち、何となく分かる・・・あれだけイヤなこと、辛いことが続いたら、あたしも攻撃的になってたかもしれない・・」
「ネオンちゃん・・・」
ネオンの言葉にジュンが戸惑いを見せる。
「この出来事の前だったら、あたしたち管理局は正義の味方だって思ってた・・でも、今回のことを考えると・・・」
「そうだね・・・皮肉ってことになっちゃうのかな・・マコトやレイちゃん、ロアの人たちがいなかったら、この間違いに気付くのはずっと先立ったかもしれない・・・」
ネオンの言葉を受けて、ジュンが物悲しい笑みを浮かべる。
「体が治ったら、マコトちゃんたちに会いに行こう。そして、きちんと仲直りしよう・・」
「ネオンちゃん・・・ありがとう、ネオンちゃん・・あなたやクオンくんには、いつも励まされてばかりだね・・・」
ネオンからの言葉を受けて、ジュンは喜びを取り戻す。
次々と押し寄せてくる苦難に挫けそうになっていた自分を、クオンやネオン、たくさんの仲間たちが支えてくれた。だからこそ、マコトと真っ直ぐに向き合うことができた。ジュンはそう感じていた。
「でもいきなり押しかけるのもよくないし、事前に連絡を入れたほうがいいよね?」
「そうだね。ちょっと病院に連絡してくるね、ネオンちゃん。」
ネオンに促されて、ジュンは起き上がる。だがベットから飛び起きたときに体の痛みを覚え、ジュンは苦笑いを浮かべた。
「ジュンさん!ジュンさん、大変です!」
そこへカタナが慌しく医務室に飛び込んできた。その様子にジュンとネオンをはじめ、医務室にいた全員が当惑を覚える。
「どうかしたんですか、カタナさん?」
「はいっ!秋月マコトと秋月レイが、病院を・・!」
ジュンの問いかけに、カタナが切羽詰った面持ちで答える。事情を聞いたジュンが、一気に困惑を膨らませた。
デルタの訓練場にて、フェイトとライムが軽い模擬戦を行っていた。えりな、健一、なのは、ヴィヴィオが2人の観戦をしていた。
「相変わらず元気だな、あの2人・・」
「ホント。とても大激闘を潜り抜けた後とは思えないくらい・・まぁ、人のこと言えないけど・・」
フェイトとライムを見て、健一とえりながため息混じりに言いかける。
「正確にはライムちゃんが、だけどね。フェイトちゃんは乗り気じゃなかったんだけど、ライムちゃんがすっかりその気になってて・・」
なのはも呆れながら補足を付け加える。ヴィヴィオはフェイトとライムの模擬戦を見て、応援していた。
「でも、無事に帰ってきてくれてよかった・・健一・・・」
「お前やみんなには、いろいろと心配かけてすまなかったな、えりな・・・」
互いに微笑みかけるえりなと健一。2人は改めて再会の喜びを分かち合い、口付けをもかわした。
「もう。人のいる前で見せ付けてくるんだから・・」
えりなと健一の様子にも呆れるも、なのはも安堵を募らせていた。
「えりなさん、健一さん、大変です!」
そこへネオンが駆け込み、えりなたちに声をかけてきた。その慌てぶりに気付いて、フェイトとライムも戦闘を中断する。
「どうしたの、ネオン?何かあったの?」
「えりなさん、大変です!ジュンちゃんが、マコトちゃんとレイちゃんを追いかけていってしまったんです!」
ネオンが告げてきた言葉に、えりなたちが緊張を覚える。マコトとレイが脱走し、ジュンも2人を追いかけていってしまったのだ。
「早く見つけて止めないと・・クオンはまだ医務室?」
「いえ。クオンくんもジュンちゃんを探して、医務室から本局方面に向かっています。」
深刻さを浮かべるえりなの問いかけに、ネオンが答える。
「私と健一は空から探してみる。ネオンはユウキさんにこのことを伝えて。」
「えりなさん、あたしにも探させてください!ジュンちゃんを探したい気持ちは、あたしにもあります!」
指示を出すえりなに、ネオンが捜索の参加を申し出る。その気持ちを受けたえりなが、真剣な面持ちで頷く。
「分かった。でもその前にクオンと合流して。なのはさんはユウキさんに連絡を。」
「でも、えりな・・」
えりなの言葉になのはが深刻さを浮かべる。だがえりなは考えを変えない。
「友達がどうなるかの瀬戸際だというのに、このまま指をくわえて待っているわけにいかないですよね?」
そこへ明日香が現れ、声をかけてきた。その言葉に、フェイトとライムも心を動かされていた。
「これは大がかりな捜索になりそうだ。僕がユウキさんやみんなに知らせてくるから、みんなで手分けして探そう。」
ライムの呼びかけを受けて、明日香とフェイトも同意して頷く。なのはもようやく了承して、小さく頷いた。
「それでは行きますよ。気を抜かずにお願いします。」
えりなは呼びかけると、ジュン、マコト、レイを追って飛翔していった。健一も彼女に続き、明日香たちもデルタのメンバーへの連絡を行った。
本局研究室にて療養していたマコトとレイ。だがマコトはレイを連れて研究室を脱走。市街の郊外に行き着いていた。
「お姉ちゃん・・どこに行くの・・・?」
「どこに行くかはまだ決めてない・・ただ、このまま時空管理局に留まることはできなかった・・・」
レイの問いかけにマコトが落ち着きを払って答える。
「このままクラナガンに留まれば、僕たちは罪の償いをしながら平穏の生活に戻ることができるかもしれない・・だけど、僕の中の何かが、未だに管理局を受け入れられずにいる・・」
「お姉ちゃん・・・」
「僕自身の手で平和をつかみ取らなくちゃ、僕のしてきたことの全部がムダになってしまう・・シグマたちを残していってしまって、裏切りになってしまうけど・・・」
自分の気持ちを正直に告げるマコト。するとレイが微笑みかけて、マコトに優しく手を添えてきた。
「みんな、分かってくれるよ・・ずっと一緒にいたんだから・・・」
「レイ・・・」
レイの言葉を受けて、マコトは戸惑いを見せる。妹からの支えを受けて、マコトは迷いを払拭していく。
「そうだね・・僕たちに全てを託していったローグのためにも、ここで立ち止まるわけにはいかないよね・・・」
物悲しい笑みを浮かべて、マコトは小さく頷く。
エースキラーとして調整を繰り返されてきたローグは、デルタとの決戦の時点で寿命がつきかけていた。そして3日前、管理局の局員の懸命な療養も実ることなく、ローグは命を終えた。
戦いの直前でローグから託された思いを胸に秘めて、マコトはレイとともに世界の平穏を確かめようとしていた。
「行こうか、レイ・・今度は今までと違って、少しゆっくりになるから・・」
マコトの言葉にレイが小さく頷く。2人は向かう場所も定めないまま、歩き出そうとしていた。
「待って、マコト、レイちゃん!」
そのとき、ジュンの声を耳にしてマコトが足を止める。たまらず振り返ったマコトに見つめる先に、息を絶え絶えにしているジュンの姿があった。
「ジュン・・・!?」
「マコト、どこに行こうとしてるの・・どうしてみんなに黙って行ってしまうの・・・!?」
戸惑いを見せるマコトに、ジュンが沈痛の面持ちで呼びかける。
「もう1度、私たちで始めよう、マコト・・管理局も世界も関係ない。私は私の気持ちで、みんなの幸せを守りたいって思っている・・マコトだって、その気持ちはあるはずだよ・・・!」
「ダメだよ、ジュン・・僕は心のどこかで、管理局に加わることを嫌悪している・・僕も分からないくらいに・・」
ジュンの呼びかけを受け入れられずにいるマコト。
「お姉ちゃん・・やっぱりジュンお姉ちゃんを置いていけないよ・・」
「レイ、ゴメン・・ここは、ジュンと2人だけで話をさせてくれ・・・ここはどうしても、2人だけで話をしなくちゃいけないんだ・・・」
レイが言いかけるが、マコトは手を差し伸べて制する。
「ジュン、僕は僕たち自身で、この世界をよくしていく。今の管理局の中で大人しくしているつもりはない。」
「マコト・・それがあなたの望むことなの?・・私たちは、一緒に頑張ることはできないの・・・!?」
「・・・少なくても、今は君とはいられない・・これからの僕たちのため・・みんなのために・・・」
固い決意を秘めたマコトに、ジュンは歯がゆさを見せる。だがその気持ちを汲み取って、彼女は真剣な面持ちで頷いた。
「けっこうガンコだよね、マコトは・・」
「ジュンにだけは言われたくないね・・」
ジュンが苦言を呈すると、マコトも苦笑いを浮かべる。いろいろなことがあってもお互い変わらないところは変わっていないことを、2人は実感していた。
「待って、マコトちゃん、レイちゃん!」
そこへジュンを追いかけてきたクオンとネオンが駆けつけてきた。
「クオンくん・・ネオンちゃん・・・」
「やっと追いついた・・ジュンちゃん・・マコトちゃん・・・」
戸惑いを見せるジュンと、安堵の笑みを見せるネオン。クオンがマコトとレイに向けて、切実に語りかける。
「今、デルタのみなさんがこちらに向かっています・・犯罪者であり逃亡犯であるあなたたちを、このまま逃がすわけにはいかない・・」
「クオンくん・・・」
マコトに忠告するクオンに、ジュンが戸惑いを見せる。
「このまま止めなかったら、2人の将来を壊すことになってしまう・・だから、大人しくしてほしいんだ・・・」
クオンはそう言いかけると、起動させたスクラムの切っ先をマコトに向ける。困惑を見せるレイの横で、動揺を見せないマコト。
「たとえ僕たちがどうなっても、みんなを幸せにしたい・・それが僕たちの願いだ・・・!」
「マコト!」
マコトの言葉に声を荒げるジュン。マコトはジュンたちに背を向け、小さく言いかける。
「ありがとう、ジュン・・そして、ゴメン・・・」
「マコト・・・」
マコトの謝意にジュンが戸惑いを見せる。
「落ち着いたら、今度は僕が君に会いに行くから・・・」
「マコト・・・私がじっとしていられる人じゃないってこと、マコトも十分分かってると思うけど?」
マコトが言いかけると、ジュンが気さくな笑みを見せる。
「またいつか、どこかで・・ジュン・・・」
マコトはジュンに言いかけると、レイを連れて飛翔していった。一瞬駆け出そうとしたクオンとネオンだが、思いとどまることにした。
(マコト・・私は信じてるからね・・マコトとレイが、私たちやみんなと分かり合えるときが来るって・・・)
マコトへの信頼を胸に秘めて、ジュンは決意を新たにするのだった。
「わざと2人を逃がしたね、あなたたち・・」
そこへえりな、健一、明日香、玉緒が駆けつけてきた。その声を聞いて、クオンとネオンが気まずくなる。
「えええ、えりなさん、これは、その・・」
ネオンが弁解を入れようとするが、うまく言葉が出ない。するとジュンがえりなの前に立ち、頭を下げる。
「すみません、えりなさん!でも、マコトの気持ちを無視することはできなかったんです!」
「ジュン・・・」
ジュンの言葉にクオンとネオンだけでなく、えりなたちも戸惑いを見せる。
「マコトは真っ直ぐに、みんなを守ろうと決意したんです!もう絶対に、彼女は無闇に傷つけることはしません!」
「信じているということだね、マコトのことを・・」
ジュンの言葉に明日香が声をかける。その言葉にジュンが微笑んで頷く。
「おめぇらはマコトとレイを追いかけるが、途中で見失ってしまった・・ということでいいんだろ?」
「健一さん・・・?」
健一が口にした言葉に、クオンが戸惑いを見せる。
「頭の固い連中にはただの言い訳にしかなんないけど、そこらへんはユウキさんが何とかしてくれるだろ。」
「健一さん・・えりなさん・・・すみません・・私たちのために・・・」
憮然とした態度を見せる健一に、ジュンが謝意を見せる。するとえりながジュンに手を差し伸べてきた。
「ひとつだけ言っておくね。私たちは逮捕の意味で、マコトとレイちゃんを探すつもりでいる。でも私たちは、絶対に2人に危ない思いはさせない。それだけは忘れないで・・」
「えりなさん・・・本当に・・ありがとうございます・・・」
えりなたちの優しさを受けて、ジュンが喜びのあまりに涙を浮かべる。
「それじゃ、まずは報告だね。出直すとしましょうか。」
玉緒が笑顔を見せて声をかけ、えりなたちが同意する。彼らは陣形を整えるため、一路デルタ本部に戻った。
その後、デルタを中心としたマコトとレイの捜索は続けられた。だが必死の捜索にもかかわらず、2人を発見することはできなかった。
一部の人間からは「発見しながらもわざと逃がしたのではないか」という指摘が持ち上がったが、ユウキはそれに否定の意思を示した。
マコト、レイの捜索を続行する傍らで、デルタは従来の任務に戻ることとなった。なのはたちも出向任務を終えて、それぞれの部隊、職務に復帰していった。
問題が残る中、人々は徐々に平穏を取り戻しつつあった。
そんな中、ジュンはある決断を固めつつあった。
新暦76年12月24日
その日の夜、ジュンはゴウとケイに連絡を入れていた。ジュンは2人に自分の新たな決断を告げていた。
それは時空管理局の一時的な脱退と、世界を回ることである。マコトとレイの捜索ではなく、自分自身の精進のためである。
ジュンが事情を説明したところ、えりなとユウキはそれを了承した。旅立ちを直前に控えたジュンは、連絡を取っていたのである。
“そう・・そういう道を選ぶのね、ジュン・・・”
ジュンの決意を聞いたケイが、瞳を閉じて小さく頷いた。
「ゴメンね、お父さん、お母さん・・また、わがままを言って・・」
“ううん、構わないわ・・あなたがいろいろと経験して決めたことことだから・・”
謝るジュンにケイが弁解を入れる。するとゴウがジュンに声をかけてきた。
“ジュンもオレや母さんに負けないくらいガンコだからな・・1度言い出したら言うことを聞かないお前さんだから、オレはもう何も言わない・・”
「お父さん・・・」
“お前の決めたのだから、好きにやるといい・・その代わり、その選んだ道を、精一杯進んでいけ・・・!”
「はい、お父さん、お母さん・・・!」
ゴウの激励を受けて、ジュンが笑顔を見せて頷いた。
“ジュン、必ず無事に帰ってくること。それを条件にさせてもらうわよ・・”
「それ、えりなさんにも言われたよ・・・」
ケイの言葉にジュンが苦笑いを浮かべる。だがジュンは気持ちを落ち着けて、改めて声をかけた。
「それじゃ、お父さん、お母さん・・行ってきます・・・」
ゴウとケイに挨拶をすると、ジュンは通信を終えた。胸に宿していた決意を募らせて、彼女は眠りに着いた。
新暦76年12月25日
ミッドチルダにも雪が降ってきていた。ホワイトクリスマスを堪能した人々が行き交う街を、ジュンはデルタ本部の前から見つめていた。
(この景色を見るのも、しばらくなくなるね・・)
名残惜しさを感じて胸中で呟きかけるジュン。再びこの景色を見ることができることを信じて、彼女は旅立ちの時を待つ。
そんな彼女のいるこの場所に、クオンとネオンがやってきた。
「行っちゃうんだね、ジュンちゃん・・・」
ネオンが沈痛の面持ちでジュンに声をかける。振り返ったジュンが小さく頷く。
「ジュンちゃん自身で決めたことだから文句は言えないけど・・やっぱり悲しいよ・・・」
「ネオンちゃん・・大丈夫だよ。永遠の別れってわけじゃないし、またここに帰ってくるから・・」
泣きじゃくるネオンに弁解するジュン。
「ホント!?ホントだよね!?ウソついたら針千本飲ますよ!」
泣きじゃくってくるネオンの頭を、ジュンが優しく撫でる。
「分かった、分かった。戻ってきたら、盛大に祝ってちょうだいね。」
「もちろんだよ♪任せといてね♪」
ジュンの言葉に、ネオンが笑顔を取り戻して頷く。2人は握手を交わし、再会を誓う。
そこへえりな、健一、明日香、玉緒、ユウキ、仁美がやってきた。
「ユウキさん、えりなさん・・・」
えりなは微笑みかけると、えりなたちに向けて敬礼を送る。
「この世界に何があるのか、オレにもまだまだ分からないことがある。お前が学ぼうとしているのは、そんな未知の境地だ。」
語りかけるユウキに、ジュンが小さく頷く。
「ジュン、お前がたくましくなって帰ってくるのを、オレたちは待ってるからな・・」
「ユウキさん・・必ずここに帰ってきます・・まだまだ世界は広い。私たちの知らない犯罪や悲劇もたくさんある・・それを見つけて、本当の平和と幸せをつかみとりたいと思います・・それが私の見つけた答え、夢だと思いますから・・・」
激励を送るユウキに、ジュンが自分の心境を告げる。するとジュンはえりなに歩み寄り、改めて声をかけた。
「えりなさん、お世話になりました・・なのはさんたちにもよろしくお伝えください・・」
「ジュン・・私たちも近いうちに、それぞれの部署に戻ることになるけど・・私たちはあなたが帰ってくるのを待っているからね・・」
一礼をするジュンに、えりなが微笑んで言いかける。
「えりなさん、ひとつ約束してもらえますか?・・私が帰ってきたら、試合をしていただけますか・・・?」
「ジュン・・・いいよ。再会したら、勝負しよう・・あなたがどのくらいたくましくなったのか、私が見てあげる・・」
ジュンの申し出を、えりなは笑顔を見せて頷く。2人は再会を約束し、固い握手を交わす。
「それじゃ、行ってきます・・・」
ジュンはえりなたちに挨拶をすると、リュックを背負って歩き出そうとした。
「待って!」
その彼女を突然呼び止めたのはクオンだった。足を止めたジュンが当惑を覚える。
「ジュンちゃん・・僕、ジュンちゃんに負けないくらいに強くなる!そして、これからは、僕が君を守るから!」
「クオンくん・・・」
クオンからの告白に、ジュンが戸惑いを見せる。クオンは周囲の眼に囚われることなく、自分の想いを正直に伝えたのだった。
「クオンくん・・・ありがとう、クオンくん・・・でも、私は守られてばかりじゃないよ・・・」
その想いを受け止めたジュンは、クオンを抱きしめる。厚い抱擁の中、ジュンも想いを告げる。
「私も、みんなを守りたい気持ちは一緒だよ・・もちろんクオンくん、あなたも・・・」
「ジュンちゃん・・・ありがとう・・・」
ジュンの言葉にクオンが微笑みかける。互いの顔を見つめあった2人は、そのまま唇を重ねた。
2人の姿を目の当たりにして、えりなたちが照れ笑いを浮かべる。
「やれやれ。人前で堂々と見せ付けてくれるな、あの2人・・」
憮然とした態度でぼやく健一だが、結ばれていくジュンとクオンを祝福した。
唇を離したところで、ジュンとクオンは声を掛け合う。
「それじゃ、行ってくるね・・・」
「うん・・お互い強くなろう・・・」
ジュンはクオンから離れ、改めて歩き出していった。見送りの声をかけるネオンたちに声を返し、ジュンは旅立っていった。
誰もがその人だけの夢、未来、道を歩いていくことになる。そのことを改めて実感し、えりなはジュンの後ろ姿を見つめて小さく頷いた。
「行っちまったな・・・」
健一が呟きかけると、えりなは小さく頷いた。
「どれだけ強くなって帰ってくるか・・私たちも負けてられないかな・・」
「そうだな・・魔法も・・恋もな・・・」
えりなに続いて健一が言いかけると、彼女を自分に抱き寄せる。2人も想いを馳せて、口付けを交わした。
「もう、あなたたちも人のこと言えないわね・・」
仁美が2人の姿を見て苦笑いを浮かべる。
「まぁ、オレとお前も似たもの同士だからな。文句はなしってことで。」
「それもそうね。子持ちの魔法使いもいるわけだし。」
そこへユウキが言いかけ、仁美がそれに答える。愛、想い、決意、夢が、この場に大きく収束されていた。
「さて、そろそろ戻るぞ。オレたちはみんなのために、全力を出さなくちゃいけないんだからね。」
「了解!」
ユウキの呼びかけを受けて、唇を離したえりなと健一が敬礼を送る。
(待ってるからね、ジュン、マコト・・強くなったあなたたちを、私たちは待ってるから・・・)
未来を担う少年少女への気持ちを抱いて、えりなは自分の道を突き進んでいった。
新暦76年12月27日。
えりな、健一、明日香、リッキー、ラックスはデルタを脱退。出向任務を終えてそれぞれ所属している部隊へ帰還していった。
今現在も犯罪や悲劇、時空管理局そのものにおける問題は後を絶たない。しかしそれらをひとつひとつ解消し、世界や人々に幸せをもたらしていく。
その願いと決意を胸に秘めて、えりなたちは空を駆け抜けていった。
町井明日香。
時空管理局1831航空隊に帰還後、再び前線で活躍する。
ラックスとの連携も見せ、砲撃魔導師としての風格を見せ付けている。
豊川玉緒。
ヴィッツ、アクシオ、ダイナとともにデルタの一員として活躍中。
はやてたちとの合同任務もこなし、前線での活躍の場を増やしている。
アレン・ハント。
現在もソアラとともにデルタを活躍の場としている。
仁美とともに前線に赴き、メンバーを指揮している。
リッキー・スクライア。
特別救助隊へ帰還し、救助活動を続けている。
治癒魔法、補助魔法にさらなる磨きをかけ、救助や支援に役立てている。
シグマ・ハワード。
管理局での治療により、調整の後遺症が回復しつつあった。
刑務を続ける傍ら、デルタの面々と和解。刑務終了後の部隊所属に向けて話が進められている。
ポルテ・セラティ。
管理局医務官と協力して、シグマの療養に当たる。
その功績が認められ、シグマとともにデルタへの配属と、研究員への復帰に向けて、話が進められている。
ジュリア・ファミリア。
健一との和解を期に、管理局への協力を志願。
保釈と部隊所属に向けて、懸命の勉学に励んでいる。
ギーガ・タイタン。
管理局からの療養により、コルトに施された洗脳と調整の影響が解消されつつある。
パッソ、ハーツとともにリハビリに励んでいる。
ローグ・デュアリス。
管理局、及びデルタの捜査協力を頑なに拒否。
管理局の療養の甲斐なく、命を終えた。
コルト・ファリーナ。
デルタによって拘束された後、捜査協力の拒否により、ヴォクシーら部下共々軌道拘置所へ収監。
これにより第4研究部は解散。
新世界という理想郷の固執により、刑期短縮も拒否している。
バリオス・ゼファー。
コルトとともに軌道拘置所に収監。
クオンの申し出における刑期短縮の要請も拒否し、これを期に彼と完全に袂を分かつこととなった。
カタナ・カワサキ。
デルタのフォワード陣の筆頭として活躍中。
ヴィッツとシグナムを目標として、立派な剣士を目指して鍛錬を続けている。
神楽ユウキ。
神楽仁美。
現在もデルタのコマンダー、サブコマンダーとして全力を注いでいる。
次々と浮き彫りになっている管理局の問題解消を視野に入れて、デルタの任務に当たっている。
クオン・ビクトリア。
ネオン・ラウム。
デルタのフォワードとして活躍中。
平和と幸せを守るため、ジュンと再会した際に笑われないようにするため、任務と鍛錬を続けている。
秋月マコト。
秋月レイ。
管理局保護施設から脱走。管理局の包囲網をかいくぐり、世界を転々としている。
管理局とは別の方向から、世界の改善を行おうとしていた。
春日ジュン。
管理局、及びデルタを一時退任し、世界を放浪。
自分自身の精進のため、空と地上を駆け抜けている。
坂崎えりな。
辻健一。
デルタの出向任務を終えて、1039航空隊、及び戦技教導隊へ帰還。
デルタのメンバーとの交流、ロアとの激闘から得た教訓と想いを胸に秘めて、2人は飛翔する。
「どうしたー!?こんなのはまだまだ序の口だぞー!」
その日の訓練メニューの半分しかこなしていないにもかかわらず疲れ果てて弱音を吐く局員の面々に、健一が檄を飛ばす。
「そんなー!こんな敷き詰めたメニュー、こなせるわけないですよー!」
「こんなの続けてたら、作戦に出る前にノックアウトですよー!」
局員たちが上げる非難の声に、健一は目じりを釣り上げるばかりだった。その彼を制して、えりなが言いかける。
「今までもこのくらいのメニューを続けてきたよ。でもあの子たちは夢や願いに真っ直ぐで、簡単に弱音を吐いたりしなかったよ・・」
「あの子たち・・・?」
えりなが語りかけてきたことに、局員たちが当惑を見せる。
「みんなに幸せになってほしい。悲しみを増やしたくない・・そういう願いを、あの子たちは持ち続けてきた・・・」
えりなは自分たちが教えてきたジュン、クオン、ネオンのことを思い返していた。それぞれの信念を抱きながら、彼らは夢や未来に向かって走り続けている。
「こんなことで音を上げてたら、その子たちに笑われてしまうよ。だから、気を引き締めていこうね・・」
局員たちに優しく微笑みかけるえりな。局員たちが次々と触発されて立ち上がっていく。
「そういえば坂崎教導官と辻教官、どちらが強いんですか?」
「えっ?」
局員の1人からの突然の質問に、えりなと健一が生返事をする。
「そういわれれば、2人が勝負したところ、全然なかったですよね?」
「たまには見せてくださいよ、2人の力を。」
「しっかり勉強させてもらいます!」
局員たちが次々と申し出てくる。その言葉に健一がため息をつく。
「ったく。休みたいっていう魂胆見え見栄だっての・・」
「仕方ないね・・でも、こういうのも悪くないかもね・・」
えりなが苦笑いを浮かべつつ、その気を見せる。
「それもそうだな・・どっちが強いかハッキリさせとくのもいいかもな。」
健一もやる気を見せて、ウォーミングアップを始め出した。
「ちゃんと見ておいてね。こういう勝負でも、学ぶことがきっとあるはずだから・・」
「はいっ!」
えりなの声に局員たちが返事をする。えりなと健一がブレイブネイチャーとラッシュを構えて、互いを見つめる。
「そういえばお前とこうして勝負したことなかったな。模擬戦でもこういうのはなかった・・」
「そうだね・・私も何だか楽しみになってきたよ・・・」
健一とえりなが期待に胸を躍らせ、笑みをこぼす。
(私たちも、私の周りにいるたくさんの人たちも、それぞれの道を目指して歩き続け、飛び続けている・・明日香ちゃんも、なのはさんも、ジュンも・・・)
たくさんの仲間たちの姿を思い返し、自身への奮起につなげるえりな。未来を担う人々の夢の道は果てしない。
えりなたちの未来への道は、果てしなく続いていく。
「それじゃ、ぶっちぎるぜ、えりな!」
「うんっ!行くよ、健一!」
駆け出し、飛翔していく健一とえりな。新たなる未来に向かって。