魔法少女エメラルえりなVersuS
第24話「Sun&Moon」
引越しのため、マコトとレイと別れることとなった。
その直後の車の中で、私は2人に見えないように泣いていた。
別れを惜しみたくないと思ってずっとこらえていた涙が、このときになっていっぱいあふれてきた。
そして私は誓った。マコトとの友情を大事にしようって。
今までマコトと過ごしてきた時間と思い出を、絶対に忘れないようにしようって。
だから私は決めた。自分の正義を信じて貫こうって。
その気持ちを強さにしてくれたのは、私を支えてくれた、たくさんの大切な人たち・・・
デルタとロアの決戦の前日、ジュンは両親、ゴウとケイに連絡を取っていた。瀕死の重傷を被った娘に、ゴウもケイも心配でたまらなくなっていた。
“お前はどこまで行っても、親を心配させるヤツだな、お前は。先日に暴走して死に掛けたときは、心臓が止まるかと思ったぞ。”
“私も本当に寿命が縮まったわ。”
「アハハ、ゴメン、ゴメン・・」
大きくため息をつきながら言いかけるゴウとケイに、ジュンが苦笑いを浮かべる。
“ハァ・・本当ならすぐにでも戻って来いと言いたいところだが、お前は聞きそうもないからな・・”
「だって父さんと母さんの娘だからね。ここまで来てやめるわけにいかないでしょう・・」
愚痴をこぼすゴウに半ば呆れながら答えるジュン。だがジュンは真剣な面持ちを浮かべて、気持ちを落ち着かせてから言いかける。
「今度もまた、マコトと戦うことになるかもしれない・・正直、辛くないといったらウソになる・・・でも、もう1度分かり合うためには、全力でぶつかっていかなくちゃならない・・・」
“・・それがあなたの決めたことなら、私は止められないわね・・でも、絶対に無事に帰ってくること。この前のようなことになったら、今度は本気で怒るからね。”
決意を告げるジュンに、ケイが注意を付け加える。母親からの信頼を受けて、ジュンは笑顔で頷いた。
“ジュン、お前は1人じゃない。オレがいる。母さんがいる。お前を支えてくれるたくさんの仲間たちがいる。このことを忘れるな・・”
「父さん・・・うん・・ありがとうね・・・」
ゴウが続けて言いかけると、ジュンは感謝の言葉をかける。
「それじゃそろそろ切るよ。ロアはいつ攻めてくるか分からないからね・・・」
“そうか・・分かった。気をつけろよ、ジュン・・”
“母さんも父さんも、デルタのサポートをしていくからね・・・”
両親からの信頼を受け止めて、ジュンは通信を終えた。
(ありがとうね、父さん、母さん・・・私、もう自分を見失わない・・みんなを守ってみせる・・マコトを救ってみせる・・・)
譲れない願いと誓いを胸に秘めて、ジュンは歩き出した。大切な人たちと向き合うために。自分自身の、これからの夢と未来のために。
市街の上空で激しい戦いを繰り広げていたジュンとマコト。ジュンは街や人々に危害が及ばないよう、場所を考慮してマコトを引き付けていた。
「どうして・・どうしてお前は、管理局に味方するんだよ、ジュン!?」
マコトが感情をむき出しにして拳を繰り出す。ジュンが障壁を展開して、それを受け止める。
「これ以上、みんなが傷ついたり悲しんだりするのを見たくない!だから私は管理局に、デルタに入りたいって言ったのよ!」
「だったらどうして管理局に加わったんだよ!?管理局は、僕たちの幸せをムチャクチャにしただけじゃなく、世界の未来まで壊そうとしてるんだよ!」
ジュンの言葉を跳ね除けて、マコトが拳に力を込める。障壁を打ち破られたジュンが突き飛ばされるも、すぐに踏みとどまって体勢を整える。
「僕は管理局のために何もかも失った!父さんも母さんも、レイも!こんな辛い気持ち、他の人に味わわせてはいけないんだ!」
「だからって、ぶん殴ったり壊したりしても解決しない!辛さが増えるだけだよ!」
マコトの言葉に言い返すジュン。2人の拳がぶつかり合い、その反動で2人が突き飛ばされる。
「確かに暴力で解決するのが、最善手だとは思っていない・・でもこれ以外に、解決の方法がないんだ!」
マコトが右手に魔力を収束させ、再びジュンに向かって飛びかかる。
“Planet breaker.”
貫通性のある打撃を繰り出すマコト。ジュンはその打撃を左手で受け止める。
「なっ・・!?」
マコトがこの瞬間に眼を見開いた。打撃を受け止めたジュンの左手から、かすかに血があふれてきていた。
「どういうつもりだよ!?・・僕の攻撃を、バリアも使わずに受け止めるなんて・・・!?」
「確かめたかったのよ・・マコトが抱えている悲しみと怒り、その痛みを・・・!」
驚愕を見せるマコトに、ジュンが低く言い放つ。その言葉が腹立たしく思え、マコトが左手でジュンを殴りつける。
「お前まで・・お前までオレたちを弄ぶのか、ジュン!?」
怒りが頂点に達したとき、マコトの力が覚醒する。彼女の瞳の色が金になり、魔力光も白くなる。
その魔力の放出に突き飛ばされるジュン。彼女はそのままその先のビルの壁に叩きつけられた。
激しい攻防を繰り広げ、剣の刃をぶつけ合うクオンとバリオス。だがクオンが徐々にバリオスに押され始めていた。
「君にも分かっているはずだ。僕は君よりも多く勝ち星を挙げていることを。それに鍛錬を続けてきたのは君だけではない。」
バリオスがクオンに向けて淡々と言いかける。バリオスの剣から放たれる速い攻撃が、クオンを追い詰めていく。
「それに僕は君と多く対戦している。君のクセはある程度知り尽くしている。たとえ強くなっても、クセはそう簡単に治せるものではないからね。」
バリオスがクオンに詰め寄り、剣を振りかざす。クオンがとっさにスクラムを振りかざすが、バリオスの剣さばきにあしらわれてしまう。
負けられない気持ちを募らせるも、なかなか劣勢を打破できずにいるクオン。そしてバリオスの振り上げた一閃が、スクラムを弾き飛ばした。
「なっ・・・!」
勝敗を決定付けられたことに、クオンは愕然となる。跳ね上げられたスクラムが近くの床に突き刺さる。
「勝負あったね・・防衛よりも、未来への進化が強いということだよ・・」
バリオスがクオンに向けて冷淡に告げる。クオンは愕然となったまま、行動を起こせなくなっていた。
「戦闘意欲の喪失か・・どうやら、僕は君を買いかぶりすぎていたようだ・・」
バリオスがクオンの顔の横に剣をかざす。
「君たちがどんなことをしてこようとも、この新世界が現実のものとなることに変わりはない。」
「そんなことはないよ。」
バリオスがクオンに言いかけたときだった。突如どこからか別の声が響き渡り、バリオスが眉をひそめる。
その瞬間、バリオスがかざしていた剣が突如弾き飛ばされる。あまりにも一瞬のことだったため、バリオスは眼を疑った。
直後、バリオスは回避する間もなく、一蹴を受けて突き飛ばされる。何が起こっているのか分からないまま、彼は壁に叩きつけられる。
「やっぱり君はムチャしてたみたいだね、クオン。」
そのとき、当惑を見せているクオンの前に、ライムが降り立ってきた。彼女はクリスレイサーをリミットブレイクモード「ソリッドモード」に移行させており、バリアジャケットも速さの特化のための形状「ソリッドフォーム」となっていた。
「ライム執務官・・ここまで来たんですか・・・!?」
「うん。ジャンヌは今頃ヴィータたちと合流しているはずだよ。とんでもないのが出てきて、けっこう苦戦してるみたいだから・・」
声を振り絞るクオンに、ライムが微笑みかける。そして床に刺さっているスクラムを引き抜く。
「君は何のためにここまで来たのかな?ちゃんとした気持ちがなかったら、その先へは進めないし、誰も力を貸してくれないよ・・自分自身だって・・」
「何のために・・・」
ライムの言葉を受けて、クオンが戸惑いを見せる。自分が何のために今まで鍛錬に励み、そして今ここにいるのか。その答えを見出そうと、彼は思考を巡らせる。
(そうだ・・僕はようやく答えを出したじゃないか・・ジュンの笑顔を守るために。みんなの幸せを守るために・・・!)
改めて決意を思い起こしたクオンの脳裏にジュンの笑顔が蘇る。彼はライムから受け取ったスクラムの柄を強く握り締める。
(だから、バリオスが間違った道を進んでいるというなら、僕は全力で止めなくてはならないんだ・・・!)
「すみません、ライムさん。みっともないところを見せてしまって・・・」
決意を固めたクオンがライムに謝罪する。
「気にしない、気にしない。僕もみっともないところをよく見せるから・・」
するとライムが気さくな笑みを見せて弁解を入れる。その励ましを受けて、クオンは笑顔を取り戻した。
「ありがとうございます、ライムさん・・もう吹っ切れました・・」
クオンはライムに感謝の言葉をかけると、体勢を整えたバリオスに歩み寄る。
「僕はもう迷わないよ、バリオス・・僕には守りたい大切な人がいる・・貫き通したい信念もある・・・」
「だがその願いも信念も実現しない。新世界に背いた君に、未来はない・・・!」
真剣な面持ちを見せるクオンと、憤りを募らせるバリオス。2人は互いの幼少期の自分たちと今のたちを重ねていた。
今、自分たちの心は違えてしまった。だがこれまで培ってきた幼馴染みとしての友情は、紛れもなく確かなもの。
クオンとバリオスが同時に飛び出し、剣を突き出す。2つの剣の切っ先がぶつかり合って弾け、2人はすれ違う。
2人は体に回転を加えて、再び剣を振りかざす。
“Gravity Break.”
スクラムの刀身に光が宿る。その刀身が激しい振動を発していた。
クオンの放ったその一閃が、バリオスのブレイドデバイスを弾き飛ばした。振動によって威力が向上したスクラムは、バリオスの剣の刀身に深い亀裂を生じさせていた。
「バカな・・・!?」
あまりにも明確な決着にバリオスは愕然となった。自身の剣とともに、彼は心酔していた理念までも打ち砕かれてしまった。
クオンはバリオスに重力の枷「グラビティバインド」をかけて拘束する。自由を奪われたバリオスが転倒すると、クオンに向けて鋭い視線を向ける。
「なぜだ・・僕はこれから、新世界を切り開こうと・・・!」
「それは君自身の夢や願いじゃない・・他の人の夢にすがっても、信念を貫けはしないよ・・」
声を震わせるバリオスに、クオンが沈痛の面持ちで言いかける。
「僕はようやく答えを見つけたよ・・それは君が言うような弱いものじゃない・・本当の強さを宿した、大切なことなんだ・・・」
「クオン・・・」
「それに僕は信じてる・・ううん、確信している・・・僕の周りにいる人は、夢や信念、大切なものを心に宿している人ばかりだって・・・」
クオンは笑顔を見せて、仲間たちへの信頼を募らせる。彼の笑顔を見て、ライムも笑みを見せて頷いた。
「そして君も、本当の大切なものを見つけられるって・・・」
切実な思いを告げるクオン。だがバリオスは信念を撃ち砕かれたことに腹を立てることしかできなかった。
ローグとの激しい射撃・砲撃戦を繰り広げていたなのは。ジャスティのシャープビットとレイジングハートのブラスタービットによる遠隔射撃を、2人は素早い動きで回避していた。
「あなたという存在が、この世界を堕落させたのです!あなたのような強大な力の持ち主の登場で、人々はその人を賛美、崇拝し、世界の在り方を見失ってしまった・・!」
「それは違う!私は誰かを導くつもりなんてない!ただ、大切なことを心に留めてほしいだけ!」
「たとえあなたがその気でなくても、力があるだけで世界は大きく変わる!あなたは進化する世界のための、栄えある人柱となるのです!」
射撃とともに言葉を言い放つローグとなのは。
「世界は自分の手で進化をつかみ取る!自分だけの完全なる進化を!法を含めたあらゆる呪縛から解放され、ともに未来を歩んでいく平和がそこにある!そのため、あなたのような世界から秀でた存在は、混乱を招く火種でしかない!」
「違う!私はまだまだ未熟!世界の誰もが、強さと弱さの2つを持ってる!それを知っているから、人は本当の意味で強くなれる!」
「どんな強さであろうと、世界から外れた存在はやがて疎まれる!かつて特別だと賛美されていたあなたが、同じ特別な力を得た人々から!」
えりなの呼びかけを受け付けないローグが、さらなる射撃の包囲網を展開する。なのはが速さとバリアを駆使して、「スペーシャルシューター」を回避していく。
「あなたのような浮いた存在は、混乱を招く悪魔として新世界からはじき出される!そうなれば絶望しかない!私のこの手向けは、あなたへのせめてもの哀れみなのです!」
“Spiral smasher.”
ローグが言い放つと、彼の前に集まったシャープビットが一斉射撃を行う。数多くの光線は螺旋を描いて収束し、巨大な閃光となる。
「エクセリオンバスター!」
なのはがとっさに砲撃を繰り出し、迎撃する。2つの閃光が衝突し、荒々しい光となる。
「あなたは私が葬り去る!進化を続ける世界のために!」
「私はあなたのいう特別な存在じゃない!ううん!世界にいる誰もが特別じゃない、かけがえのない命!私も、あなたも!」
「あなたが今さらそれを口にするか!」
なのはの言葉をローグが否定する。別方向に展開していたシャープビットが、なのはを背後から狙う。レイジングハートが標的を自動展開したことで防いだものの、なのはは一瞬注意を散漫させられる。
「あなたは滅びる!それで新世界の扉が開かれ、私はエースキラーという因果から脱することができるのだ!」
“Drive charge.”
ローグがジャスティに魔力を注ぎ込む。威力の強化される砲撃が、ついになのはを押し切る。
体勢を崩されたなのはが地上に落ちる。何とか立ち上がったなのはの眼前に、ローグが降り立つ。
「今度こそ終わりです。調整を繰り返された私の命は長くありません。高町なのは、あなたは私とともに、その命を終えるのです・・・!」
ローグが冷淡に告げると、ジャスティの切っ先をなのはに向ける。周囲に展開するシャープビットも、彼女をいつでも狙い撃ちできるように待機していた。
そのとき、シャープビットが突如、飛び込んできた射撃に射抜かれて爆発を引き起こす。この瞬間にローグが眼を見開く。
「何っ!?」
驚愕を覚えたローグが乱入者の気配を探る。彼は今の射撃がなのはのものでないことをすぐに気付いていた。
「終わっていい命なんてないよ!」
そこへ声がかかると同時に、1人の少女が降り立った。救援に駆けつけた玉緒だった。
「玉緒・・!?」
「大丈夫ですか、なのはさん!?リーザさんの指示を受けて、やってまいりました!」
戸惑いを見せるなのはに、玉緒が笑顔を見せて答える。
「豊川玉緒・・あなたがここに来るとは・・・ですが誰が来ようと無意味ですよ。」
「無意味かどうか、やってみなきゃ分かんないよ。それにあたしたちの連係は・・」
言いかけるローグに言い返しながら、玉緒が光の弾を次々と出現させていく。
「単純な足し算じゃ計れないんだから!」
“White rain.”
玉緒が言い放つと、ローグに向けて光の矢の群れを解き放つ。ローグは回避を行いながら、「スペーシャルシューター」で迎撃していく。
「そう!人や命だって、単純にできてない!奇跡も起こせる、無限の可能性を持ってるんだから!」
“Malti force.”
玉緒が言い放つと同時に、幾条もの光を放出、連射する。迎撃が間に合わず、ジャスティのシャープビットが撃ち抜かれて破壊されていく。
「これほどまでの連射を見せてくるとは・・私はまだ、高町なのはさえとどめを刺せずにいるのに・・!」
毒づいたローグが残ったシャープビットを展開させる。ジャスティ本体とともに、シャープビットの先端に魔力を収束させていく。
「これが私の最高の技!定めた標的を完膚なきまでに撃ち抜く、絶対殲滅の砲撃包囲!」
“Justice blast.”
ローグが言い放った直後、ジャスティと全てのシャープビットから閃光がほとばしる。彼の無数の砲撃は、玉緒となのはを閃光に閉じ込めた。
これが放たれて無事でいられた者はいない。ローグはそう確信していた。だが魔力を著しく消耗するため、彼にとっては最後の切り札だった。
「これで終焉です・・あなたたちの命も、私の因果も・・・」
息を荒くしながらも、笑みをこぼすローグ。だがその直後、その笑みが凍りついた。
舞い上がる煙の中で、玉緒となのはは平然としていた。玉緒が球状のバリア「スフィアプロテクション」で自分となのはを包み込み、ローグの砲撃を防いだのだった。
「少しムリをしちゃったけど・・何とか防げたみたいだね・・」
「バカな!?・・ジャスティスブラストを防ぎ切ったというのか・・・!?」
笑みをこぼす玉緒と、驚愕するローグ。その間に、なのはは砲撃のために魔力を収束させ、玉緒も攻撃の準備に入る。
「命はたったひとつのかけがえのないもの・・他の人もどうこうできるものじゃない・・・その命を守るために、私も全部を出し切る!」
なのはが言い放ち、レイジングハートにカートリッジが装てんされる。
「全力全開!スターライトブレイカー!」
なのはがローグに向けて、最高の砲撃魔法を繰り出す。
「目覚めろ、奇跡の力!ミラクルフォース!」
玉緒も立て続けに閃光を解き放つ。2つの閃光は、力の消耗したローグに容赦なく襲い掛かる。
ローグの絶叫が光の中に消える。彼は全ての戦力を奪われて、大の字に倒れた。
気絶して動かなくなったローグを見つめる玉緒となのは。彼女たちも全ての力を使い果たし、まともに動くことができなかった。
「力の全部を使っちゃいましたけど・・」
「まだ休んでいる場合でもないね・・・」
息を絶え絶えにしながら、倒れるのをこらえる玉緒となのは。2人はレイと交戦しているえりなを気にかけていた。
荒々しく攻め立てるマコトに押され気味となっているジュン。起き上がったジュンの前にマコトが降り立つ。
「オレはたくさんの人たちの思い、願い、決意を宿している・・たとえジュンでも、オレを止めることはできない!」
「止める・・私が止めないと、あなたは絶対に後悔する・・これ以上悲しみに満ちたあなたを、私は見たくない・・!」
眼を見開いて言い放つマコトに、ジュンが声を振り絞る。だがマコトはそれを聞き入れない。
「たとえ僕自身にとって傷つくだけの未来しかないとしても、僕はみんなの幸せのために管理局を叩き潰す!」
「管理局を壊して、その先に何があるの!?長い歴史の中で守り続けてきた法を壊して、本当に幸せになれると思ってるの!?」
「このまま管理局の自己満足が続けば、それこそ不幸が増える一方だ!だから僕たちは、世界を変えて、未来をつかみ取るんだ!」
ジュンの悲痛の呼びかけを一蹴して、マコトが言い放つ。マコトの脳裏にはシグマ、ローグ、ジュリア、ポルテ、レイ、自分たちを支えてくれた仲間たちの顔が浮かび上がっていた。
「僕は戦う!僕を支えてくれたたくさんの人たちのために!」
マコトが言い放つと、ジュンに向かって飛びかかる。
“Meteor shoot.”
マコトが繰り出した痛烈な一蹴を受けて、ジュンが突き飛ばされる。彼女はその先のビルに叩きつけられ、廊下を突き抜けてその奥の部屋に転がり込んだ。
体だけでなく、心までも傷だらけとなってしまったジュン。彼女はマコトに対して、これからどうすればいいのか分からなくなっていた。
(私の力って、こんなものだったの・・壊すことでしか、私は強くなれないの・・・?)
瓦礫の中で、ジュンが沈痛の言葉を繰り返していた。彼女の脳裏に、暴走する自分の姿が浮かび上がる。
(守ろうとする私は、こんなに弱かったの・・マコト1人守れないで、私の夢は終わってしまうの・・・!?)
“ジュンは、何のためにデルタに入ったのかな?”
そのとき、ジュンの脳裏にえりなの言葉がよぎってきた。その言葉を思い返して、ジュンは戸惑いを覚えていた。
ジュンはこのとき、デルタで過ごした日々の中のひと時、えりなとの話を思い返していた。
その日、ジュンはクオンとネオンとともに、ジュンと健一に呼ばれていた。えりなたちはジュンたちから、ジュンたちの将来を聞こうとしていた。
「あたしはこの前の出来事で、みんなを守れる役職につきたいとも考えるようになりました。保護隊という線も頭に入れてます。」
「僕はまだ決めかねてます・・現時点では、このままデルタの仕事を続けていきたいと考えていますが、必ず将来を見つけたいとも思っています。」
ネオンとクオンは自分の考えを正直に告げる。
「まぁ、お前らはまだ若いし、ムリして考えることもねぇけどな。オレたちも若いけどな・・」
健一が気さくな笑みを浮かべて言いかける。その返事にクオンとネオンが照れ笑いを浮かべる。
「それで、ジュンは将来のことは何か考えてるの?」
えりながジュンに向けて質問を投げかけた。するとジュンは戸惑いを見せながら答える。
「私もはっきりとは決まってません。まだ、管理局やデルタのことで知らないことばかりで・・・」
「なるほど。確かに入り立ては、みんな分からないことだらけだよね・・」
ジュンの答えを聞いて、えりなは微笑んで頷きかける。
「それじゃ話を変えようか。ジュンは、何のためにデルタに入ったのかな?」
「えっ・・?」
えりなの唐突な問いかけに、ジュンが当惑を見せる。
「あのとき、私に行ったよね?そのとき、デルタに入りたいと呼びかけたとき、ジュンはどんな気持ちだったのかな?」
えりなに言いかけられて、ジュンは自分の気持ちと向かい合った。そして彼女は、かつてえりなに呼びかけたときのことを思い出した。
“もうこれ以上、誰かが傷ついたり悲しんだりするのは見たくない!みんなを守るために、この持てる力を使いたい!それが私の正義です!”
(正義・・私の正義・・・)
自分が口にした言葉に、ジュンは自分自身の正義を思い返す。彼女は落ち着きを取り戻すと、えりなたちに向けて真剣な面持ちを見せる。
「私の力は、みんなを守るための力です・・・」
自分自身の決意、信念、夢を告げたジュン。その言葉を受けて、ジュンは小さく頷いた。
「自分が決めた決心は、簡単に捻じ曲げたらダメ。最後まで貫く気持ちを持たないといけないよ。」
「えりなさん・・・」
えりなの励ましの言葉を受けて、ジュンが戸惑いを見せる。
「そして、あなたたちは、絶対にひとりぼっちじゃない。一緒に励ましあったり力を合わせたりしてくれる仲間がいる。そのことを、絶対に忘れないで・・」
「えりなさん・・・はいっ!」
えりなの願いを受け止めて、ジュンはクオンとネオンとともに返事をする。自分自身、そして自分を支えてくれるたくさんの人たちの願いと誓いを胸に秘めて、ジュンはこれからの精進に励むのだった。
(そうよ・・私はいつも、自分の気持ちにウソをつかずに、みんなを守るために、正義のために頑張ってきたじゃない・・・)
仲間たちの思いを思い返したジュンは、瓦礫の中から這い出てきた。
(クオンくんもネオンちゃんも、必死になってみんなを守っているのに、私がへこたれてる場合じゃない・・・!)
決意を募らせたジュンの、フレイムスマッシャーを身につけている両手に紅い光が宿る。
「フレイムスマッシャー、あなたもそう思うよね・・・?」
“I am with you wherever I go. (私はどこまで行っても、あなたとともにいますよ。)”
ジュンの囁きにフレイムスマッシャーが答える。彼女の両手だけでなく、全身にも紅いオーラがあふれ出す。
(私はもう恐れない・・傷つけることを・・マコトと戦うことを・・力を使うことを・・・!)
胸中で呟くジュンの瞳が金色となる。戦闘機人、ジェネシス・サンとしての力を、彼女は仲間たちや世界を守るために使おうとしていた。
ビルから出てきたジュンが浮遊し、マコトの前に現れる。
「マコト、私は戦うよ・・私の心と体にも、みんなの気持ちが宿ってるから・・・」
「たとえ貴様が何をしようと、オレはこのまま突っ切る!」
ジュンの言葉にマコトが反発する。2人は同時に飛び出し、拳を繰り出す。
衝突した2つの攻撃は荒々しい轟音を響かせ、周囲を大きく揺るがす。ジュンがさらに力を込めて、マコトを押し切る。
突き飛ばされるマコトだが、すぐに体勢を整えて踏みとどまる。だがジュンがすかさず飛びかかり、打撃を見舞う。
「ぐっ!」
続け様の攻撃にうめくマコト。地上に落下しかかるが、魔力を放出させて踏みとどまる。
「こんな程度で、オレは立ち止まらない!」
いきり立ったマコトが反撃に転ずる。ジュンも負けじと追撃に出る。
2人の一撃、一蹴、一打が次々と轟いていく。この激戦の中で、ジュンは思考を巡らせていた。
(私は心の中で思ってしまっていた・・マコトを助けるためには、マコトを傷つけてはいけないって・・・でもそれは、本当の優しさでも正義でもない。間違いを正すには、時に強引さを訴える必要もある・・)
ジュンの放ったフレイムスマッシュが、マコトの体に叩き込まれる。障壁で防がれたものの、マコトにダメージを与えることに成功する。
(私は知っている。マコトは本当は、誰かを無闇に傷つける子じゃないって・・でも降りかかった悲劇の数々が、マコトの心を傷つけてしまった・・・)
マコトの繰り出したメテオシュートが、ジュンの体にめり込む。互いの攻撃に2人は激痛を覚え、吐血する。
(私にまだ、マコトの心の傷を癒せる力があるなら、私はその力を全て出し切る!)
“Burning breaker.”
ジュンの繰り出した打撃が、マコトの打撃を押し返す。押し切られたことに憤り、マコトがさらに力を振り絞る。
「オレはこんなところで、負けるわけにはいかないんだ・・オレが負けたら、今までしてきたことが全部ムダになる・・・!」
仲間たちの思いを自分の中で膨らませて、マコトが全身に力を込める。彼女の体を魔力のオーラがあふれ出す。
「オレは絶対に、この未来を突破する!」
言い放つと同時に、マコトは両手をジュンに向けて、魔力を収束させる。
(全力の力・・あれを跳ね返すには、私も持てる全てを出さないと・・!)
「フレイムスマッシャー、私たちもやるよ!」
“Yes,my master.”
ジュンの呼びかけにフレイムスマッシャーが答える。彼女の両手の魔力が紅い炎へと具現化される。
「バーストエクスプロージョンは使わない。あれは周りにある何もかもを吹き飛ばしかねない・・あのときも、一歩間違えたら取り返しがつかなかった・・・」
マコトに眼を向けて、ジュンが呟くように言いかける。
「私がこれから使う魔法は、みんなの気持ちがこもっている・・・」
ジュンの右手の甲に小さな紅い翼が広がる。それは彼女にとっての、夢と未来を切り開くための一撃だった。
「これで終わりだ・・・ビックバン・テラ!」
マコトがジュンに向けて膨大な閃光を解き放つ。
「炎の鉄拳!フェニックスブラスター!」
その閃光に向かってジュンが飛びかかり、炎の拳を繰り出す。炎の一撃はマコトの放った閃光にめり込み、大きく揺さぶる。
2つの力はさらに力を増し、ジュンとマコトの姿が閃光の中に消える。そして光が膨張し、大爆発を引き起こす。
その閃光の中から、ジュンが力なく落下してきた。彼女はマコトとの激突に競り負けた。
(そんな・・・)
心の中で囁くジュンの視界に、息を荒げながらも浮遊していたマコトの姿が映る。彼女を止められなかったことに耐えかねて、ジュンは眼から涙を浮かべる。
(ジュン・・・)
ジュンに対する気持ちを抱えながらも、マコトは管理局本局に向けて進行を開始した。
(マコト・・・)
落下していたところで、ジュンは満身創痍の体に鞭を入れて踏みとどまる。そしてマコトを追って、彼女も本局へ向かった。
(待ってて、みんな・・必ずオレが、みんなを・・・!)
(マコトを止めないと・・それが私が、1番にやらなくちゃいけないことだから・・・!)
それぞれの思いを胸に秘めて、マコトとジュンは加速していった。
次回予告
地球での混戦を続けるえりなとレイ。
あらゆる魔力を吸収し、破壊衝動に突き動かされるレイ。
本当の幸せのため。
数々の仲間たちのため。
えりなは無垢な少女に、救いの手を差し伸べる。
ついにリミットブレイク「フェニックスモード」の起動を敢行する。
今こそ解き放て・・無限の力を・・・