魔法少女エメラルえりなVersuS
第23話「思い出の場所」
ローグはロアへのスパイとして行動していたコルトの尖兵だった。この事実を聞かされて、えりなはさらなる疑問を感じていた。
「コルトの部下が、どうしてロアに潜んでいたの!?・・あなたに何が・・・!?」
なのはが問いかけると、ローグは彼女に鋭い視線を向けて答える。
「全てはあなたたちを葬るためですよ・・エースオブエース、高町なのは、坂崎えりな・・」
「私たちを、葬る・・・!?」
ローグの言葉に息を呑むえりなとなのは。
「世界はお前たちをエースオブエースと呼び、賛美しています。だが逆に、その功績を妬ましく思う存在もいます。彼らによって生み出されたのが、エースキラーなのです・・・」
「エースキラー・・人造魔導師の中でも、虐待と変わらない調整と調教を強いられてきた存在・・」
ローグの説明を受けて、明日香が呟く。
「私もそのエースキラーの1人です。これまでの非道といえる行為を受けてきたのも、全てはあなたたち2人の存在があるからなのです・・」
「そんな言いがかり・・逆恨みもいいところじゃない・・!」
ローグの言葉にアクシオが憤りを覚える。だがローグは考えを改めない。
「経由はどうあれ、彼女たちの存在が私の因果に大きく起因しています。故に私は、彼女たちを葬り、この因果を断ち切る!」
ローグが言い放ち、ジャスティを振りかざす。
「私は私が被ったような理不尽を抹消するため、コルトの描く新世界に共感した!だからこそ私は彼に身を委ねた!しかし彼の技術を持ってしても、私を長らえさせるには至らなかった!それでも私は、この因果を断ち切ることに、この命を費やすことを心に決めた!」
そしてジャスティの先端をなのはに向ける。
「高町なのは、坂崎えりな、お前たちの存在を、私は認めはしない!」
いきり立ったローグが、ジャスティからシャープビットが射出される。えりなたちがとっさに回避行動を取り、光線の包囲網をかいくぐる。
「みんな、バラバラに別れよう!注意を散らせて、攻撃を分断させれば!」
「えりな!」
えりなが呼びかけ、明日香が答える。彼女たちは同意して、小さく頷く。
「ヴィータとバサラはあたしに任せて!えりなたちはコルトたちを!」
「そんなマネはさせませんよ、アクシオ三等陸尉。」
そこへ1人の青年が声をかけてきた。
「丁度よいところへ来たね、ヴォクシー。君にも手伝ってもらおう。」
「アクシオ、ヴィータ、バサラの3名を拘束するのですね。お任せください。負傷者を抱えた剣士ならば、私だけでも十分です。」
コルトが悠然と声をかけると、青年、ヴォクシーが淡々と答えて、アクシオたちに眼を向ける。
「くっ!バカにしちゃって!」
アクシオが毒づいた直後、レイが全身から魔力の光を放出してきた。えりなたちはとっさに散開し、攻撃を回避する。
「散開しましたか・・コルト、私は高町なのはを追います。レイは坂崎えりなを追っていったようですから。」
「構わんよ。いずれにしろ、私の描く新世界が現実のものとなることに変わりないのだから。」
ローグの言葉にコルトが答える。レイは既にえりなを追って移動していた。
「私はアクシオたちの始末にかかります。」
ヴォクシーも言いかけてから行動を開始する。追跡に向かう2人を見送って、コルトが不敵な笑みを浮かべる。
「悪あがきにしかならんぞ。新世界に刃向かうお前たちに、未来はないのだから・・」
えりなたちをあざ笑い、コルトが各地をモニタリングする。新世界に向けて、彼はその野心をむき出しにしていた。
魔力を奪われたヴィータとバサラを連れて、アクシオは研究室を飛び出して、その先の廊下を進んでいた。彼女は追跡者に十分注意を払いながら、安全な場所を探していた。
近くの広場でひとまず足を止めるアクシオたち。彼女は改めて、周囲に警戒の眼を向ける。
「アクシオ・・あたしらに構うな・・なのはたちを助けに行け・・」
そこへヴィータが声を振り絞って声をかける。するとアクシオが不満の面持ちを浮かべる。
「何言ってんのよ、ヴィータ!アンタたちを置いてここを離れるわけにいかないでしょ!」
「でも、このままあなたの重荷になるわけにもいかないわ・・ここはヴィータさんの言うとおりに・・」
アクシオの反論にバサラが口を挟む。だがアクシオの考えは変わらない。
「2人とも!今度またそんなこと口にしたら、気絶させるからね!」
アクシオが怒鳴りかけると、ヴィータとバサラが半ば唖然となりながら押し黙る。大きくため息をついたところで、アクシオが意識を集中する。
「今のうちにあたしが回復させるから、アンタたちはすぐにここから脱出。外にいるみんなと合流して。反論は許さないから。」
「そんなことをされたら私が困るのですが。」
アクシオがヴィータたちに回復魔法をかけようとしたとき、彼女たちに向けて声がかかってきた。追跡をしてきたヴォクシーが姿を見せてきた。
「もう追いついてきたの・・・!?」
「万全の状態のあなたたちなら、とても私の手には負えなかったでしょうが・・手負いの騎士を連れた剣士を取り押さえることなら、私でも十分可能ですよ。」
毒づくアクシオに向けて、ヴォクシーが淡々と言いかける。その言葉に反論できず、彼女たちは歯がゆさを募らせるしかできなかった。
「言っておきますがこれは試合ではありません。あなたたちを葬るためなら、いかなる手段にも打って出ますよ。」
ヴォクシーは言いかけると、1丁の拳銃を取り出す。魔力を弾丸にして撃ち込む銃型デバイスである。
「この銃の弾丸は誘導式です。あなたたちがどこに逃げようと、私の攻撃は決して外さない。」
ヴォクシーは言いかけると、銃の引き金を引く。
“Ice shield.”
アクシオがオーリスを掲げて氷の障壁を展開し、ヴィータとバサラを守る。だが防御に専念することとなり、アクシオは2人の回復に手を回せなくなる。
「どうしました?防戦一方ではいずれ敗北に追いやられますよ。」
ヴォクシーは発砲を続けながら、アクシオたちに呼びかける。その弾丸の数発が、ヴィータとバサラを狙ってきた。
「くっ!」
危機感を覚えたアクシオが、何とかして2人を守ろうと体を動かす。だが障壁の展開が間に合わず、彼女は体を突き出した。
「アクシオ!」
ヴィータが叫ぶ前で、アクシオが彼女たちを庇って弾丸を受ける。全身に痛みを覚えて顔を歪めるも、アクシオはその場で踏みとどまる。
「障壁展開が間に合わないと踏み、自らを盾にしますか。ですがそれは滑稽の選択ですね。」
ヴォクシーが冷淡に告げる前で、アクシオが弾丸の雨の直撃を受けて、傷だらけになる。
「アクシオ、もうやめろ!あたしらなんかほっとけって!」
「バカ言わないで・・アンタがなのはやはやてを守ろうって思ってるように、あたしにも守りたいと思ってる人がいるのよ・・だからあたしは、ここで逃げるわけにはいかないのよ・・・!」
ヴィータが悲痛の叫びを上げるが、アクシオはそれでも退かず、傷ついた体に鞭を入れる。それを見たヴォクシーが嘆息をもらす。
「浅はかですね。たとえあなたが体を張ろうと、 ヴィータとバサラが助かる見込みはありません・・いいでしょう。仲良く始末してあげましょう。一緒に逝けるなら不満はないでしょう。」
ヴォクシーがアクシオたちにとどめを刺そうと、銃口を向ける。アクシオが迎撃に出ようと、オーリスを握り締めた。
そしてヴォクシーの銃から光の弾の群れが放たれた。
“Gravity fall.”
だがその弾丸が、上からの干渉によって突如弾け飛んだ。
「何っ!?」
「えっ・・・!?」
ヴォクシーが毒づき、アクシオが戸惑いを浮かべる。
「危機一髪ってところだったね・・」
そこへ降り立ったひとつの人影。それはジャンヌだった。ジャンヌの持つシャイニングソウルから放たれた重力の衝撃波が、ヴォクシーの弾丸を押しつぶしたのだった。
「ジャンヌ・・」
「ジャンヌ・フォルシア・マリオンハイト・・・!?」
ヴィータが呟くように言いかけ、ヴォクシーが驚愕を見せる。彼はジャンヌの介入を予期していなかったのだ。
「アクシオ、ヴィータ、バサラ、大丈夫・・・!?」
「ジャンヌ、どうして!?・・だってアンタ、外で本部の守りをしていたんじゃ・・!?」
ジャンヌが呼びかけると、アクシオがたまらず声を荒げる。
「外の守備はユウキさんと仁美さん、はやてがやってくれてる。私が回復と防御に専念するから、アクシオは攻撃に。」
「ジャンヌ・・・分かった。ヴィータたちをお願い!」
ジャンヌの呼びかけを受けて、アクシオが飛び出す。危機を覚えるヴォクシーの前に立ち、オーリスを構える。
「さあて、反撃の時間だよ!倍にして返してやるわよ!」
「くそっ!」
言い放つアクシオに向けて、ヴォクシーが魔力の弾丸を放つ。
“Marine shock.”
だがアクシオとオーリスから放たれた水蒸気の爆竹で、弾丸が弾け飛ぶ。
「ぐっ・・・!」
ヴォクシーが眼を見開き、危機感を膨らませる。アクシオがオーリスの切っ先を彼に向けて言い放つ。
「一生懸命になってるみんなの幸せを、アンタたちに壊させたりしない!」
“Avalanche.”
アクシオがヴォクシーに向けて、閃光を帯びた突きを放つ。その光刃は彼の持つ拳銃の先端を切り裂いただけだったが、その衝撃で彼はその場に倒れ、気絶してしまった。
「ふぅ・・もう音を上げるなんてね・・・」
アクシオがため息をつきながら愚痴をこぼす。ヴィータとバサラもジャンヌの魔法を受けて、自力で動けるほどに回復していた。
「ワリィ、ジャンヌ・・おめぇに助けられるなんて・・」
「みんなの力になるのが私の仕事だからね。気にしなくていいよ・・」
物悲しい笑みを浮かべるヴィータに、ジャンヌが微笑んで弁解を入れる。
「なのはさんとえりなさんが気がかりです・・すぐに向かいたいところではありますが・・」
「今のあたしらじゃ、みんなを脱出させるだけで精一杯だ・・ここは、なのはたちを信じよう・・」
バサラとヴィータが歯がゆさを抱えながら言いかける。彼女たちはえりなたちの無事を信じて、一路本局の外に出ることにした。
「ヴィータ、途中でリーザさんを見つけたよ。救出した後、ユウキさんに報告するといって、自力で外に向かったよ。」
「リーザ執務官が!?・・コルトに捕まってたのか・・・」
アクシオの口にした言葉に、ヴィータが一瞬声を荒げた。
“ジャンヌさん、あなたの救助に感謝しますよ。”
そこへリーザからの念話が飛び込んできた。ジャンヌが意識を傾けて、小さく頷く。
(私はヴィータたちの救助に成功しました。ただ今外に向かっています。)
“私も丁度、ユウキさんたちと合流したところです。今、ユウキさんが玉緒さんを救援に向かわせました。”
(玉緒を・・)
リーザの言葉にジャンヌが一瞬当惑を覚える。だがすぐに同意して、外に向けて急行するのだった。
明日香たちと別れて別行動を取っていたえりな。その途中、彼女は同じく別の道を通っていたなのはと合流する。
「なのはさん!」
「えりな!・・いつの間にか同じ場所に向かってたみたいだね・・」
声を掛け合うえりなとなのは。2人は今まで進んできた道に注意の眼を向ける。
「すごい魔力が・・レイちゃんが近づいてきている・・・」
「それだけじゃない・・もうひとつ・・ローグ・デュアリスが・・・!」
2人が言いかけたときだった。強烈な閃光を身にまとい、レイが姿を現した。
「レイちゃん・・・」
えりながレイを見つめて、歯がゆさを覚える。この純真無垢な子供が破壊者となったことに、彼女は心苦しさを感じていた。
「どこへ逃げてもムダですよ。あなたたちのような新世界の反逆者に未来はないのですから。」
そこへ遅れてローグが現れ、淡々と声をかけてきた。だがその直後、彼はレイの様子がおかしいことに気付き、眉をひそめる。
レイはどことも覚束ない場所を見つめていた。彼女の足元に純白の四角の魔法陣が現れる。
「召喚魔法?・・何を呼び出すつもりなの・・・?」
「でも、少しヘンじゃないですか・・・!?」
なのはの呟きにえりなが言いかける。召喚魔法の際の別の魔法陣が出現されない。
そのとき、レイの姿が突如消えた。その瞬間にえりなとなのはが眼を見開く。
「消えた!?」
「召喚じゃなく転移!?・・でも、どこに・・・!?」
2人はレイの行方を追って周囲を見回す。しかしレイの気配はこの場からも、本局の外からも感じられない。
「そうか・・彼女はやはり本能の赴くままに行動するのですね・・・」
ローグが思い立って呟きかける。その言葉にえりなとなのはが疑問を投げかける。
「どういうことなの・・レイちゃんはどこに行ったの!?」
「彼女は今、自分の記憶にある忌まわしいと思っている過去を全て排除しようとしています。それは、その記憶にまつわる場所の破壊です。」
「記憶の場所・・思い出・・・まさか、レイちゃんは!?」
ローグの説明を受けて、思い立ったえりなが声を荒げる。
「そうです。おそらく彼女が向かったのは、かつて自分が生まれ育った場所、地球です。」
ローグの言葉にえりなたちは息を呑んだ。レイは攻撃の矛先を、自身の故郷である地球に向けたのだった。
マコトたちの無事帰還を祈り、待機していたポルテ。配備していた機械兵を総動員して、防衛線を張っていた。
(ここは信じるしかないわ。シグマたちが戻ってくることを・・・)
仲間たちが戻ってくる場所を守るために、ポルテもまた尽力を注ごうとしていた。
そのとき、ポルテのいるすぐ近くから爆発音が響いてきた。振り返った彼女の視界に、爆発による黒い煙が立ち込めてきているのが入ってきた。
その煙の中から現れた1人の少女。それはレールモードのレールストームを手にしたネオンだった。
「あれをやっつけて、ここまで来たっていうの・・・!?」
「あたし1人じゃないです・・スバルさんやエリオさんたちがサポートしてくれたから、ここまで来れました・・・」
驚きの声を上げるポルテに、ネオンが真剣な面持ちを浮かべる。ネオンはスバルたちのサポートを受けて先行し、ポルテの前にたどり着いたのだった。だがこれまで順調に進んでいたわけではなかった。機械兵を撃退するために、彼女は体力を消耗していた。
「あたしたちと一緒に来てください。あたしたち時空管理局は、あなたたちの安全と将来を保障します・・」
「何を言っているの・・私たちは、あなたたち管理局が世界を狂わせていると考えて、行動を起こしたのよ。そのような言葉で、私たちは屈したりしないわ・・」
ネオンの呼びかけを聞き入れず、ポルテは銃を取り出す。護身用に持ち合わせていたものだが、バリアを張れる魔導師や戦闘能力の高い騎士には気休めにしかならないものだった。
「私たちは諦めない。もう後戻りもできない・・私たちに残されているのは、天国か地獄よ・・」
「そんなことはない。あたしたちはあなたたちの不幸を取り除きたい・・イヤな思いがどういうものなのか、あたしはよく知ってるから・・・」
鋭く言い放つポルテに向けて、ネオンが優しく微笑みかける。その優しさに、ポルテの心が揺れる。
「もう争わないで・・もうすぐ、あたしたちの仲間が来るから・・あたしもあたしの仲間も、無闇に人を傷つける人たちじゃないから・・」
「もう逃げられないとでも思っているの?・・甘く見ないでもらいたいわ。」
ポルテが言い放って銃を構えると、ネオンも同時にレールストームを構える。
「あたしたちは、もうあなたたちと分かり合えることはできないの・・・?」
ネオンが沈痛の面持ちを浮かべて言いかける。その一途の願いを撃ち砕くかのように、ポルテが銃の引き金を引く。
その銃口から1発の弾丸が放たれる。
“Rail burst.”
レールストームから一条の閃光が放たれる。その光はポルテの弾丸だけでなく、彼女の後方で待機していた機械兵をも撃ち抜いた。
打開の術ばかりか、全ての戦力を破壊され、ポルテは愕然となった。ネオンがレールストームを下げて、肩の力を抜く。
「これがあたしの本当の勇気です・・みんなが教えてくれた、あたしの本当の強さです・・・」
ネオンがポルテに向けて優しく語りかける。そこへ機械兵の防衛線を突破して、スバルたちが駆けつけてきた。
「終わったみたいだね、ネオンちゃん・・・」
「スバルさん・・・」
スバルが声をかけると、ネオンが振り向いて笑顔を見せる。彼らのやり取りを目の当たりにして、ポルテは困惑を見せる。
「シグマ・・・先に音を上げたのは、私のほうだったかな・・・」
「そんなことはないわ。シグマ・ハワードは、アレンが保護したって・・」
物悲しい笑みを浮かべて呟きかけるポルテに、ティアナが言いかける。その言葉を耳にして、ポルテが動揺を膨らませる。
「あの人に手荒なマネはしないで・・あの人の体は、内外ともに傷だらけなのよ・・・!」
「心配要らないです。あの人は管理局がしっかりと療養させますから・・」
声を荒げるポルテに、キャロが優しく言いかける。もはやポルテには、彼らに声をかける言葉が見つからなかった。
「あたしたちは、みんなの不幸を消すために頑張っています・・あたしたちは、あなたたちの幸せを願っている・・・」
ネオンは決意を込めて言いかけると、ポルテに手を差し伸べる。
「一緒に頑張っていきましょう・・みんなの幸せのために・・・」
「あなたたち・・・」
ネオンからの優しさを受けて、ポルテが涙をこらえきれなくなる。彼女は涙ながらに、ネオンの手を取ったのだった。
コルトの前に完全と立ちはだかる明日香とフェイト。コルトは追い詰められた様子を見せず、不敵な笑みを浮かべていた。
「余裕ですね。ここまで追い詰められて・・・えりなやなのはさんたちに勝てると思っているんですか・・・?」
「余裕だと?余裕だよ。ジェネシス・アースの前では、どんな相手も無力に等しい。たとえあのエースオブエースであっても。」
明日香が低く言いかけると、コルトがあざ笑いながら言葉をかける。
「私の手がけたタイプ・ジェネシスは、様々な試行錯誤と調整の繰り返しによって、無尽蔵のエネルギーの発現を実現させた。中でもジェネシス・アースは最高傑作だ。新世界という理想郷を現実のものとしてくれる。」
「そのために、あなたは命を弄んでいいと思ってるの・・・!?」
「この崇高な進化に耐えられない命のほうが不良品なのだよ・・・!」
憤りをあらわにする明日香に、コルトがさらに哄笑をもらす。
「だが、君たちの命と体は実にすばらしい。高いポテンシャルを持った水の魔導師と、Fの最高峰。期待以上の進化をもたらしてくれる。君たちのような存在が、新世界のキーパーソンとなるのだよ。」
コルトは言い放つと、明日香とフェイトに向けて手を差し伸べる。
「ともに来るがいい、町井明日香、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。この先の未来は、君たちが切り開いていくことになるのだからね。」
「・・私たちは未来を切り開いていく・・・でも!」
コルトの誘いに対して返事をする明日香の持つウンディーネの宝玉に輝きが宿る。
「その未来は、あなたの身勝手な理想郷ではない!」
“Splash form,awakening.”
彼女が言い放った瞬間、ウンディーネの形状が変化する。杖の先端にある宝玉の光が白くまばゆいものへと変化する。ウンディーネのリミットブレイクフォーム「スプラッシュフォーム」である。
「いきなりリミットブレイクを発動するとは穏やかではないね。しかし、君たちではジェネシス・アースはおろか、私にすら歯が立たない。君たちのデータは既に分析済みだ。リミットブレイクも含めてね。」
「そういう相手は私たちは何度も見てきていますよ。でも私たちは、日々強くなっていくのよ・・・!」
悠然さを浮かべるコルトに向けて、明日香が水の魔力の弾丸を放つ。その数は100個を超えていた。
「ふむ。かなりの数だね。殲滅戦なら絶大な効果をもたらすだろう・・だが・・」
コルトの眼前に突如障壁が展開される。その無数ともいえる「インフィナイト・ドロップスフィア」が、障壁にぶつかった瞬間に消失する。
「そんな!?」
「AMF!?明日香の攻撃が・・!?」
明日香とフェイトがこの光景に驚愕する。
「教えてやろう。私も戦闘機人。部下たちの協力を得て私を改造させたのです。そして私のインビューレスキルは“クリアマジック”。魔法の無力化だ!」
眼を見開いてコルトが言い放つ。AMFをも凌駕する魔法の無力化が、明日香とフェイトを包囲しようとしていた。
突如地球へと転移してしまったレイ。えりなとなのははクラウンやシャリオたちに連絡し、彼女の正確な位置を確かめようとしていた。
“えりなちゃん、なのはさん、秋月レイの居場所が分かりました!”
2人に向けて、シャリオからの念話が飛び込んでくる。
“彼女は第97管理外世界「地球」、海鳴市です!”
「なっ!?」
続けてのクラウンの報告に、えりなとなのはは驚愕を覚える。海鳴市は2人の故郷である。その思い出の場所が、レイの攻撃にさらされようとしていたのだ。
「いけない!このままでは海鳴市が・・早く何とかしないと・・・!」
「残念ですが、あなたたちの相手は私ですよ。」
えりなが焦りの言葉を口にしたとき、ローグが2人に向けてシャープビットによる射撃を放ってきた。2人はとっさに動いて、その光の雨を回避する。
「あなたたちは私の因果。私が直接始末してやりますよ。」
ローグがえりなとなのはに向けて鋭い視線を向ける。
「えりな、あなたは海鳴市に行って。私があの人を押さえるから。」
「なのはさん・・・!?」
なのはの呼びかけにえりなが声を荒げる。
「1番の問題はレイちゃんの暴走を食い止めること。でもあの人が妨害をしてくる。私たちが向かうには、あの人を何とかする必要もある。でもそんな時間を費やしたら、海鳴市が危ない・・」
「だからなのはさんがローグを押さえて、私が先に海鳴市に行き、レイちゃんを止める・・・」
なのはの説明を受けたえりなが答える。なのはが頷き、ローグに視線を戻す。
「だからえりな、あなたは先に行って。私もすぐに行くから・・」
「なのはさん・・・分かりました!ですけど、あなたも無事で!」
なのはの言葉を受け入れて、えりなが本局内の転移装置へと向かった。
「逃がさないと言ったはずです。」
そこへローグが飛び掛ろうとしたが、なのはの放ったアクセルシューターに行く手を阻まれ、えりなを逃がしてしまう。
「あなたの相手は私ですよ。」
「・・・いいでしょう。まずはあなたから始末してあげますよ。エースオブエース、高町なのは!」
声をかけるなのはに、ローグが感情をあらわにする。
「私はあなたを完膚なきまでに葬り去ることに全てを捧げましょう。坂崎えりなはレイが倒してくれます。」
ローグがなのはに向けて、ジャスティの切っ先を向ける。
「行きますよ、ジャスティ・・レジェンドモード!」
“Legend mode,awakening.”
ローグの呼びかけを受けて、ジャスティが形状を変化させる。槍のような先端がさらに鋭利なものとなり、周囲に展開していたシャープビットがそれぞれ2つに分裂する。
「これがジャスティのリミットブレイクモード、レジェンドモード。ジャスティの包囲網を本格化させるだけでなく、威力も増加させる。あなたとえ、絶対に逃げることはできません。」
ローグが鋭く言いかける前で、なのはをシャープビットが取り囲む。
「あなたもそろそろ見せたらどうですか?レイジングハートにもあるのでしょう?限界突破(リミットブレイク)が。」
ローグに促されて、なのははレイジングハートに眼を向ける。リミットブレイクは絶大的な威力を発揮する反面、デバイスや術者に大きな負担をかけることになる。
「ここはやるしかないね、レイジングハート・・えりなにあれだけ言っておいて、出し惜しみなんてしたら文句を言われかねない・・」
“All the power that I can also have is put forth completely. Do so up to now. (私も持てる全ての力を出し切りますよ。今までそうしてきたように。)”
なのはの言葉にレイジングハートが答える。この信頼を胸に秘めて、彼女は意を決した。
「レイジングハート、ブラスターモード!ブラスター1、ドライブ!」
“Blaster set.”
なのはの呼びかけを受けて、レイジングハートが形態を変化させる。フルドライブの「エクシードモード」と外見上の差はないが、威力が極限まで向上している。
レイジングハートのリミットブレイクモード「ブラスターモード」である。
「全力のあなたを倒し、この因果を断ち切る!」
いきり立ったローグがシャープビットを操作する。なのはもレイジングハートの遠隔操作機「ブラスタービット」を射出し、ジャスティの射撃の包囲網への迎撃に出た。
レイの暴走を食い止めるべく、先行していたえりな。海鳴市に向かうべく、彼女は本局内の転移装置にたどり着いた。
「クラウンさん、準備OKです!飛ばしてください!」
“座標をあわせておいたから、そっちも準備万端だよ!気をつけてね!”
えりなの呼びかけにクラウンが答える。転移装置が起動し、えりなを包んでいく。
(止めなくちゃ・・マコトやジュン、私たち全員のためにも・・・!)
「坂崎えりな、ブレイブネイチャー、行きます!」
決意を固めたえりなの姿が転移装置から消えた。彼女はレイを追って、地球へと向かうのだった。
過去の破壊への衝動と本能の赴くまま、レイは海鳴市の上空に転移していた。両親を殺された忌まわしき記憶から、彼女は自分の故郷に対して憎悪を抱いていた。
「ここ、嫌い・・レイ、こんなところ、いらない・・・!」
その憎しみのあまりに顔を歪めるレイ。彼女は海鳴市の街並みに向けて右手をかざし、魔力を収束させる。
「こんなのがあるから・・レイは・・みんなは・・・!」
眼を見開いたレイが、町に向けて魔力の弾を放つ。だが突如飛び込んできた別の光の弾と衝突して相殺される。
眉をひそめたレイが、弾の飛んできたほうに振り返る。そこにはフルドライブ「スピリットモード」のブレイブネイチャーを手にしたえりなの姿があった。
スピリットモードは魔力を光の槍の形状にして相手に叩き込む形態であり、絶大な突進力と破壊力を持つ。
「邪魔をするの、お姉ちゃん・・・?」
レイが冷たい眼差しをえりなに向ける。だがえりなは冷静だった。
(クラウンさん、私が誰もいない海へ導きます。その間に結界を張って、修復作業を。)
“分かった。レイちゃんのほうはお願いね。”
えりなの念話にクラウンが答える。レイをうまくおびき寄せようと、えりなは考えを巡らせる。
「みんなの幸せを壊そうとする管理局の人・・・レイがみんなやっつける・・・!」
いきり立ったレイがえりなに向かって飛びかかっていく。えりなが加速して、彼女との距離を取る。
(しめた!レイちゃんは私を追ってきている!このまま誰もいない海へ・・!)
えりなが反転して海上へと向かい、レイも彼女を追う。
(ジュン、マコト、レイちゃんは私が助けるから・・!)
ジュンとマコトの絆を胸に秘めて、えりなは全身全霊を賭けて、レイに挑もうとしていた。
次回予告
幼い頃から築き上げてきた友情。
だがひとつの企みが、2人の心と絆を粉々にした。
大切なものを守るため。
本当の未来を切り開くため。
2人の少女は今、最後の戦いに身を投じていく。
その拳に宿るのは、揺るぎない夢と信念・・・