魔法少女エメラルえりなVersuS

第22話「闇夜の攻防」

 

 

 それぞれの決意を胸に秘めて、かつての親友と激突するジュンとマコト。2人が繰り出した拳が衝突し、激しく火花を散らす。

「全ての元凶は管理局にある!人の命を何とも思わない管理局がこのまま世界のルールになってたら、僕たちみたいな人を増やすことになる!」

「そんなことはない!確かに私たちにはまだまだ悪いところはあるけど、管理局はみんなのために一生懸命な人たちばかりだよ!」

 言葉を言い放ちながら、マコトとジュンが左手を突き出す。その衝突の反動で突き飛ばされるも、2人はすぐに踏みとどまる。

「マコトやみんなとも、必ず分かり合える!あなたたちは心のある優しい人たちばかりだから・・!」

「ウソだ!管理局は自分たちのことしか考えてない!連中を倒さないと、世界が壊れる!僕も、君も、何もかも!」

 必死に呼びかけるジュンの言葉を、マコトが怒号を上げて一蹴する。その言葉にジュンは思わず息を呑む。

「そんな連中にどうして味方するんだ、ジュン!?僕たちの幸せをムチャクチャにした連中を、どうしてそういう風に見るんだよ!?

「確かにマコトとレイちゃんをムチャクチャにした人が、管理局の中にいたかもしれない・・でも、管理局の人たちの多くは、みんなを大切に思っている!」

 いきり立つマコトの言葉に、ジュンが反論する。

「その悪い人のために、管理局全部を壊させるわけにいかない!だから私はマコト、あなたを止める!」

「本当に大切なものが何なのか、ジュン、君に思い出させてやる!たとえ、そのために君を傷つけることになっても!」

 ジュンとマコトは決意を言い放つと、再び飛び出して拳を繰り出した。

 

 ジュンとマコトの荒々しい激闘。それをモニターで見つめていたコルトが、高揚感を含んだ笑みを浮かべていた。

(やはりすばらしいな、2人も。ジェネシス・アースには及ばないが、それでも十分すぎるほどの力を発揮している。伊達にクラナガンを崩壊寸前に追い込んだわけではないということだな。)

 自身が改造を施した2人の少女の力に歓喜を募らせるコルト。心の奥底に収めていた野心が、徐々に表へと現れ始めていた。

 そのとき、コルトのいる研究室の扉が粉砕され、開け放たれた。しかし彼は笑みを消さなかった。

「来たようですね。だがもう手遅れだ、何もかもが・・」

 コルトは呟きながら、姿を現したえりなたちを視認する。

「おやおや。ずい分と荒々しい入室ですね、ヴィータ三等空尉。」

 コルトが扉を打ち破ったヴィータに声をかける。

「あなた・・・!?

「第4研究部主任・・コルト・ファリーナ・・・!?

 フェイトと明日香が驚愕を浮かべる。えりなたちもコルトを眼にして、驚愕の色を隠せないでいた。

「ようこそ我が第4研究部へ。今は“デルタのみなさん”と呼んだほうがいいですかな?」

 淡々と語りかけるコルトが、隣にいたレイに眼を向ける。

「紹介しよう。彼女こそ私の最高傑作、新世界の完全なる創世をもたらす存在、ジェネシス・アースだ!」

 コルトが高らかに言い放った言葉に、えりなたちがさらなる驚愕を覚える。レイは無表情のまま、彼女たちを見つめていた。

「せっかくここまで来てくれたんだ。彼女の力の一端を披露してやろう。ジェネシス・アース、お前の力を見せてやれ。」

 コルトが呼びかけると、レイが小さく頷く。彼女はえりなたちに向けて右手をかざし、魔力を収束させる。

「危ない!みんな、離れて!」

 えりながとっさに呼びかけ、彼女たちが2手に別れる。その瞬間、レイが彼女たちのいた場所に向けて閃光を放っていた。その威力は凄まじく、破壊された出入り口を再び破壊していた。

「な、何て威力だ・・・!?

「あんなのをまともに受けたら、私たちでもひとたまりもない・・・!」

 レイの力にヴィータと明日香が毒づく。レイは無表情のまま、かざしていた右手を下ろす。

「どうかな?これが私がもたらした力。新世界の扉を開く鍵だよ。ジェネシス・アースを始めとしたタイプ・ジェネシスは、世界だけでなく、私自身にも革命をもたらした・・」

 コルトが歓喜の笑みを強めて、悠然と語りかける。

「では、レイだけでなく、ジュンとマコトに戦闘機人への改造を施したのは、あなたなのですね・・・!?

 明日香が問い詰めると、コルトは頷く代わりに笑みを強めた。

「アンタは、人の命を何だと思ってんのよ!?

「人の命?ハッ!今さら愚問を投げかけるとはね。」

 アクシオが言い放つと、コルトがそれをあざ笑う。

「人はこれまでの長い歴史の中で進化を求め、尽力を注いできた。今の私たちの魔法や科学力も、それらの結晶であるといえる。だが人と世界はまだまだ進化の可能性を秘めている。そう。私のもたらす新世界の創世も、その進化の一端であるといえるのだよ。」

「そのために、苦しみや悲しみを増やしてもいいっていうの!?・・誰かが傷ついたり悲しんだりしてもいいっていうの!?

 感嘆を膨らませるコルトに、明日香が感情をあらわにする。だがコルトは哄笑をやめない。

「進化に耐えられない弱者など、新世界には不要なのだよ。不様に存在するくらいなら、古い世界とともに朽ち果てるべきなのだ。」

「あなたもジェイルやメトロと同じ、自分の野心に駆り立てられているのね・・」

「それは違うぞ、フェイト・テスタロッサ。私はもはやFや戦闘機人などで収まる器ではないのだよ。人類の目指す境地は、それらを超越した先にある。最高のFであるお前をも凌駕する高みへ、私たちは上り詰めるのだよ。」

 鋭く言いかけるフェイトにも、コルトは淡々と語りかける。もはや何を言っても聞き入れようとしないと思い、えりなたちは押し黙るしかなかった。

「では再開しよう。新世界のための創世を!」

 コルトが言い放つと、レイが魔力の光を全身にまとわせる。

「こうなったら、潰しにかかるしかねぇな!」

 ヴィータがグラーフアイゼンを構えて、レイへの攻撃を試みる。

「待ってください!彼女は秋月マコトの妹!コルトに操られてるだけです!」

「そんなことは分かってる!けど、このくらいじゃねぇと、あたしらがやられちまう!」

 えりなが呼びかけるが、ヴィータは思いとどまらない。

「あれだけとんでもねぇパワーを出してるんだ!本気でやってもバラバラにはならねぇって!」

「心配要りませんよ、えりなさん。万が一歯止めが利かなくなったら、私が制御するから。」

 言い放つヴィータに続いてバサラも言いかける。振り向いてきたレイに向かってヴィータが飛びかかり、グラーフアイゼンを振り下ろす。

 その瞬間、レイの姿が突然消える。その瞬間を目の当たりにしたヴィータが、鉄槌を振り下ろすのを思いとどまる。

「消えた!?

「どこに!?

 アクシオとえりなが声を荒げる。ヴィータがレイを追って周囲を伺おうとした。

 そのとき、ヴィータが突如右腕をつかまれる。振り向いた先にレイがおり、彼女は眼を見開く。

(いつの間に!?

 驚愕するヴィータの腕をつかむレイの手に光が宿る。その瞬間、ヴィータが全身の痛みを覚えて顔を歪める。

「な、何だ!?・・体から・・力が抜けてく・・・!」

「ヴィータちゃん!」

 苦悶の声を上げるヴィータに、なのはがたまらず叫ぶ。そこへえりなが飛びかかり、ブレイドモードのクリスレイサーを振りかざす。

 その接近に気付いたレイが、ヴィータから手を離す。解放されたヴィータが力なくその場にひざを付く。

「大丈夫ですか、ヴィータさん!?

 えりなが呼びかけるが、ヴィータは疲弊しきっており、返事をするどころではなくなっていた。そしてバサラとのユニゾンも解除される。

「どうなっているの!?・・まるで魔力を吸い取られたかのように・・!」

「その通り。ジェネシス・アースには、他者の魔力を読み取って吸収し、自分の力に変える能力を与えている。リミットブレイクを行った状態で真っ向から飛び込んできたヴィータは、まさに格好の餌食。」

 同じく苦悶の表情を浮かべるバサラの言葉に、コルトが高らかに答える。レイはつかんだ腕からヴィータの魔力の質を読み取り、それを自分に取り込んだのだった。

「まぁ、吸収の際にはその魔力の質を読み取る必要があるから、攻撃に転換された魔力は取り込めないがね。それでも彼女は、君たちにとっても恐るべき脅威であることに変わりはない。」

 淡々と語りかけるコルト。疲弊しているヴィータとバサラのそばにアクシオが駆け寄る。

「君たちには感謝しないといけないね。君たちデルタが逮捕してくれたおかげで、新世界を築く媒体が手に入った。」

「では逮捕したロアのメンバーは全員・・!?

「そんな大掛かりなことをして、第4研究部の誰もが反感を抱かないわけ・・!?

 コルトの言葉に明日香とフェイトが声を荒げる。

「疑問だね。今や第4研究部は私の取り仕切る部署。今いる面々は私の賛同者のみ。それ以外は粗悪な実験品として始末させてもらったよ。」

「じゃあ、バリオスくんも・・・!?

 あざ笑ってくるコルトに、明日香が問い詰める。彼の不敵な笑みを浮かべて、えりなは深刻さを覚えた。

 

 ブレイドデバイスの切っ先をクオンに向けながら、バリオスが手招きをする。その態度にクオンは動揺を浮かべていた。

「どういうことなの、バリオス!?・・新世界って・・・!?

「僕たちはコルト主任の描く理想郷、新世界を築くために動いている。弱さを取り除き、さらなる高みへと登りつめることが可能なんだ。その世界でなら、僕はもっと強くなれる・・」

 問い詰めるクオンに向けて、バリオスが淡々と語りかける。その言葉を耳にして、クオンはさらなる動揺を感じ取る。

「クオン、君も強くなることができるんだよ。大切な人も守れる。正義も貫ける。強さがあれば、全ての行動が可能となるんだよ・・・」

「バリオス・・・」

「君も一緒に行こう、クオン・・君と一緒なら、お互いさらに高みへと登りつめられる・・」

 バリオスがクオンに向けて手を差し伸べる。だがクオンはその手を取ることができなかった。

「どうして、そこまで強さを求めるんだ、バリオス・・・?」

 クオンがかけた言葉にバリオスが笑みを消し、眉をひそめる。

「確かに僕と君は強くなろうと日々精進してきた。それぞれの思い、願い、夢のために・・でも僕の知っている君は、今のように強さしか固執していない人間じゃない・・・」

「力のない願いは叶うことはない。叶えるためには強さを得なければならない。そしてその強さは、コルト主任の描く新世界の中にある。」

「弱さを取り除くことが、強さだというの・・・!?

 クオンの言葉に対し、バリオスは悠然さを崩さない。クオンは歯がゆさを覚えながら、言葉を切り出した。

「バリオス・・・残念だけど、僕は君が願っている新世界に行くつもりはないよ・・・」

「クオン・・・」

 クオンの返答にバリオスが眉をひそめる。

「僕は君が、何のために強くなろうとしているのかが見えてこない・・ただ、強さばかりを求めていて、目的も何もない・・」

「目的?目的ならあるよ。執務官になるという夢を、僕は捨ててはいないよ。ただ、執務官になるにも、正義を貫くにも、力がなくてはたどり着けない・・」

「力こそが正義だというの?・・でも力だけが正義じゃない・・」

 バリオスの言葉にクオンが反論する。

「僕はデルタに入って、えりなさんたちからいろいろ教わって、ジュンちゃんやネオンちゃんたちと頑張って・・ようやく分かったんだ・・本当の強さは、自分の弱さをちゃんと理解して初めて得られるものだって・・」

「弱さ?何を言ってるんだい?弱さは強さとは対称的なもの。強さを得るためにはまず、弱さを切り捨てることから始まるんだよ。」

「違う!正義は力だけじゃなく、心も必要なんだ!力を使う上で本当に大切なことを理解していることこそが、本当の強さなんだ!」

 バリオスの言葉に反発して、クオンが感情をあらわにする。

「僕が見つけた本当の強さ・・君にも教えてあげたい・・・」

「そう・・君がそんな答えをしてくるとは予想外だった・・正直、信じられなかった・・・だけど、僕たちの目指す新世界に向かわないのなら、君も朽ち果てるしかない・・・」

 バリオスは冷淡に告げると、魔法陣を展開させる。

「どうせ滅びるしかないのなら、僕の手で始末してやる・・・!」

「戦うしかないというの、バリオス・・・!?

 歯がゆさを抱えたまま、クオンもスクラムの切っ先をバリオスに向ける。

「できれば違う形で、君と勝負をしたかったよ・・・」

「僕もだよ、クオン・・・」

 呟くように声を掛け合うクオンとバリオス。デバイスを持つ手に力を込めると、2人は戦意をむき出しにして飛び出していった。

 

 市街の上空で激闘を繰り広げていたアレンとシグマ。速さでけん制しているものの、アレンはシグマの力に押され気味になっていた。

「いい加減に理解できただろう。お前では私を止められない。ストリームとともに粉砕されたくなければ、退くことを勧める。」

「そうはいかない・・このままお前たちを野放しにすれば、世界は荒む・・」

「荒んでいるのは今のこの世界だ。未来を壊す世界を逆に壊すのが、今、私が全てを賭けてすべきことなのだ!」

「違う!世界はまだやり直せる!抱えている問題など、僕たちが解消してみせる!」

 シグマの言葉に反発するアレンが、自身の抱えている決意を言い放つ。

「僕も管理局の人間だ。世界で起きている悲劇や、局内での問題をたくさん見てきた。それでも、僕の知らない悲劇がまだまだある・・だが、その悲劇を未来に残したくはない・・お前たちが抱えている悲劇とも、僕は向き合いたい・・・」

「もう全てが手遅れなのだ・・取り返しのつかないところまで、世界は荒れ果ててしまった・・・悲劇を断ち切るためには、もはや断罪しか術がない!」

「悲劇を終わらせるために、お前たちは新たな悲劇を招きかねないことをしようとしている!・・何の罪もない人たちにまで、お前たちの攻撃を及ぼすわけにはいかないんだ!」

Starker Wind.”

 アレンは言い放つと、ストリームを振りかざして一条の旋風を発射する。シグマはスティードを振り下ろして、その一閃を叩き壊す。

「ストリーム、これから全てを賭けて彼と戦うことになる・・ついてきてくれるかい・・・?」

Wo war ich, Sie folgen unseren Kunden.(私はどこまでも、あなたについていきますよ。)

 アレンの呼びかけにストリームが答える。それを聞いたアレンが微笑んで頷く。

「それじゃストリーム、行くよ・・・エンドロースフォルム!」

Endlos form.”

 アレンの呼びかけを受けたストリームから、まばゆいばかりの光があふれ出す。その光はアレンの右腕と同化するかのように膨れ上がり、一条の刃へと形成される。

 ストリーム・インフィニティーのリミットブレイク「エンドロースフォルム」。アレンの右腕と密接となるこの形態は、彼からの魔力の供給を最短に行うことで絶大な力を発揮するが、ストリームだけでなく、彼自身にもかなりの負担をかける。そのため、アレンも滅多なことではこの形態の起動敢行は行わない。

 シグマの攻撃を食い止めるため、アレンはエンドロースフォルムの使用を決意した。

「それがお前の全力の姿か・・いいだろう。お前のその力、私も全力で叩き伏せてやろう!」

 シグマも持てる力の全てをつぎ込み、アレンに飛びかかり、スティードを振り下ろす。その重い一閃を、アレンは右手の光の刃を振りかざして跳ね除ける。

「ぐっ!」

 アレンの発している刃の重みに、シグマがうめく。とっさにスティードを振りかざして、アレンとの距離を取る。

(あの剣、見た目以上に重みがある・・一瞬でも油断すると、一気に敗北に追い込まれるぞ・・・!)

 アレンの脅威に毒づくシグマ。スティードを握る彼の手に力が入る。

「スティード、どうやら私たちも、次の一撃に全てを費やす必要があるな・・・」

Please leave it,my master.(お任せください、マスター。)

 シグマの言葉にスティードが答える。

Drive charge.”

 スティードにシグマの魔力が注がれ、その刀身に光が宿る。その光を見つめて、彼は心の中で呟いていた。

(おそらく私は、この少年を倒すだけが限界だろう・・だが私は知っている・・私以上に、未来を切り開ける仲間たちがいることを・・・)

 シグマの脳裏に、マコト、レイ、ローグ、ジュリア、ロアの仲間たちの姿が蘇ってきた。彼らのために自分が活路を切り開かなくてはならない。今の彼の心には、その決意しかなかった。

「ひとつ聞かせてくれるか?お前の名は?」

「時空管理局執務官、アレン・ハント・・」

「そうか・・アレン、お前と出会えたことを、私は誇りに思うぞ・・・!」

 名乗るアレンに感謝の言葉をかけるシグマ。

「できれば違う形で出会えればよかった・・・エンドロースシュベルト!」

Endlos schwert.”

 アレンはシグマに向けて強烈な一閃を繰り出す。シグマも身構え、スティードを突き出す。

 2人が繰り出した突きが衝突し、火花をまき散らす。激しい魔力の発動の負担が右腕にのしかかり、アレンが激痛を覚えていく。

(何度か使用したことがあるけど、やはり負担が大きすぎる・・このまま長引けば、負担の大きい僕たちがやられる・・・!)

 アレンが胸中で焦りを募らせるも、様々な思いを思い起こして、力を振り絞る。

(だけど、僕たちは負けるわけにはいかない!えりなたちも必死に戦っているのに、僕だけ弱音を吐いている場合じゃない!)

「たとえこの腕が壊れても、僕は!」

 アレンは全身の力を右腕に収束させる。ストリームの光刃が輝きを増し、スティードを押し返す。

「何っ!?

 アレンの力にシグマが驚愕する。限界を超えるストリームのパワーに、スティードの刀身に亀裂が生じる。

 攻撃の衝撃に耐え切れなくなり、シグマがスティードとともにストリームの一閃で突き飛ばされる。その刃で、シグマの左肩に傷が付けられる。

(これが・・お前の底力・・譲れない誓いだということか・・・アレン・ハント・・・)

 地上に落下しようとしているシグマが、胸中で呟く。彼の視界が徐々に白み始めていた。

(すまない、ポルテ、みんな・・・せめて一矢報いたかったが・・ここまでのようだ・・・)

 仲間たちへの謝意を募らせながら、シグマは力なく落下していく。地上に激突した瞬間に、自分の命が果てると、彼は思っていた。

 だが落下の衝撃はなかった。疑問に思ったシグマは、閉ざしていた眼を開いた。

 その先にはアレンの姿があった。彼がシグマを受け止めていたのだ。

「どういう・・つもりだ・・・私を、助けるとは・・・!?

「僕は倒すために戦っているわけじゃない・・守るために、悲しみを打ち消すために戦っている・・だから僕は、お前の命を絶つことを快く思わない・・・」

 弱々しく問いかけるシグマに、アレンは真剣な面持ちで言いかける。彼の持つストリームからは光が消え、損傷を被っていた。同時にそれを持つ彼の右手も傷や火傷がついていた。過剰な力の行使、リミットブレイクの代償だった。

「いずれにしても、僕はしばらく戦えない・・僕もストリームも、お前を止めるために力の全てを出し切ってしまったからね・・」

「お前にも、かけがえのない、信頼できる仲間がいるのだな・・・」

「うん・・僕は信じている・・みんなも、それぞれの未来を切り開いていくことを・・・」

 シグマの言葉にアレンは小さく頷く。えりなたちへの信頼を胸に秘めて、アレンは地上に降り立った。

 

 不意打ちを受けて左肩を負傷したヴィッツに、パッソが迫る。パッソはブーメランを投げるだけでなく、接近戦での攻守にも活かしていた。

(圧倒的に我々が不利だ・・こちらは手傷を受け、相手は遠近問わずに攻撃を仕掛けられる・・)

(ですが、あの人を何とかしないと、街に被害が出てしまいます・・私たちで何とかしないと・・)

 ヴィッツが胸中で毒づき、リインフォースがそれに答える。ここで自分たちが食い止めなければ、ロアの猛威に人々が脅かされることになる。彼女たちは背水の陣を強いられていた。

「リイン、今以上に苦しい思いをさせることになるが・・私に力を貸してくれ・・・!」

「もちろんです・・はやてちゃんたち以外に、こうして一心同体で協力し合える人と会えたのはヴィッツさんが初めてでしたから・・・」

 ヴィッツの呼びかけにリインフォースが答える。その感謝を受けて、ヴィッツが微笑みかける。

 パッソがブーメランを構えて、ヴィッツを見据える。ヴィッツもブリットを構えて、意識を集中する。

「次の一撃に全てを賭ける・・私の、私たちの最高の技で・・・!」

 ヴィッツの言葉にリインフォースが同意する。

I will also put all power in this blow. (私も全ての力を、この一撃に込めましょう。)

 ブリットも2人に向けて答える。小さく頷いてから、ヴィッツはブリットを持つ手に力を込める。

「ブリット、ドライブチャージ!」

 ヴィッツがブリットに魔力を注ぎ込む。その刀身に光が宿り、白い稲妻がほとばしる。

 パッソがブーメランを振り上げたまま飛び出した。ヴィッツは確実に攻撃を当てられる一瞬の好機を探る。

 パッソが振り下ろしてきたブーメランを、ヴィッツは紙一重で回避する。パッソは身を翻して、ヴィッツに向けてブーメランを投げつける。

 ヴィッツが痛みをこらえながら、ブーメランをかわす。そして間髪置かずにパッソの懐に飛び込んだ。

「一閃必殺!天光刃!」

 ヴィッツとリインフォースの声が重なる。彼女が繰り出した一閃は、閃光のようにパッソに叩きつけられる。

 重みのある光の刃を受けたパッソが突き飛ばされ、激しく横転する。反転してきたブーメランも、ヴィッツが掲げたブリットの刀身に弾かれる。

 意識を失い動かなくなるパッソ。それを確かめたヴィッツが、疲弊と肩の傷を覚えてひざを付く。

「ヴィッツさん!」

 ユニゾンが解除されて姿を現したリインフォースが、ヴィッツに声をかける。傷ついた左肩を押さえながらも、ヴィッツは微笑みかける。

「大丈夫だ、リイン・・力を使いすぎただけだ・・・」

 ヴィッツの答えを聞いても、リインフォースは不安の色を隠せなかった。

「だが、これではもう、ダイナやカタナ、シグナムたちの援護には行けそうもない・・すまない・・」

「そんな・・ヴィッツさん、みんなのために一生懸命でした・・それに、みなさんも大丈夫です。みなさん、本当に強いですから・・・」

「リイン・・・そうだな・・私たちの仲間は、私たちに勝るとも劣らない・・ここは、みんなを信じるときだ・・・」

 リインフォースに励まされて、ヴィッツは微笑んで頷きかける。

「ひとまず、救護班と合流しましょう。またいつ戦うことになるか分かりませんから・・私も応急措置を・・」

「いや、それはいい。力を消耗しているのはお前も同じだ。そのお前に、これ以上負担をかけるわけにはいかない・・」

 リインフォースが治癒魔法を施そうとしたが、ヴィッツはそれを拒んだ。2人は仲間たちへの信頼を募らせながら、カタナと合流すべく歩き出した。

 

 ハーツの繰り出す打撃と、その動きから放たれる真空の刃を、カタナはエスクードを振りかざして弾き返す。2人は一進一退の攻防を繰り広げていた。

「ヴィッツさんもシグナムさんも、リインさんやアギトさんとともに命懸けで戦っているのです・・ここで弱音を吐くわけにはいきません・・・!」

 呟きかけるカタナが、エスクードの握る手に力を込める。

「エスクード、私にも、あのような高みへと上り詰められるだろうか・・・?」

There is no stage by which you cannot reach it at last if the will to aim at height is not forgotten. If you have the will, I will also answer it. (高みを目指す志を忘れなければ、あなたにたどり着けない境地はありません。あなたがその志を持つのなら、私もそれに応えましょう。)

 カタナの言葉にエスクードが答える。自身の剣に励まされて、カタナは決意を強める。

「感謝する、エスクード・・これからも、ともに戦っていこう!」

 カナタはエスクードに呼びかけると、ハーツに向かって飛びかかる。カタナの振りかざした一閃と、ハーツの繰り出した一蹴が衝突する。

 その反動で距離を取るカタナとハーツ。カタナの脳裏にヴィッツ、シグナムとの模擬試合の光景がよぎる。

(立派な剣士となるために、私はこれまで剣を交えてきた。特にヴィッツさん、シグナムさんとの試合は、私に至福の瞬間と、新たな目標を与えてくれた・・・)

 彼女の中で決意が大きく膨れ上がっていく。

(私はこれからも戦い続ける・・さらなる高みを目指して!)

「雷炎必勝!魔光龍斬閃!」

 炎と雷が入り混じったカタナの一閃は、眼にも留まらぬ速さと激しい重みをもたらした。ハーツが真空の刃を放つが、その一閃はものともせずに彼女を弾き飛ばした。

 激しく横転して建物の壁に叩きつけられるハーツ。その壁にめり込んだまま、彼女は動かなくなる。

「やった・・・」

 安堵を覚えたカタナが、疲弊を覚えてその場に座り込む。そこへ同じく戦いを終えたヴィッツとリインフォースが現れた。

「大丈夫か、カタナ・・?」

「ヴィッツさん、リインさん・・私は大丈夫です・・・すみません・・不様なところを見せてしまって・・・」

 声をかけてきたヴィッツに、カタナが微笑みかける。

「そちらも決着がついたみたいですね・・」

「はい・・でも力を使い果たしてしまって・・・まだまだ未熟です、私は・・・」

 リインフォースの言葉を受けて、カタナが物悲しい笑みを浮かべる。するとヴィッツが彼女に向けて手を差し伸べてきた。

「そんなことはない・・お前もまた、剣士の道に足を踏み入れたのだ・・・」

「ヴィッツさん・・・」

 カタナはその手を取ると、ヴィッツは彼女を引き上げる。立ち上がったカタナが、ココロからの笑顔を見せた。

 

 驚異的な力を発揮するレイの閃光をかいくぐり、えりなたちはその猛威を食い止めるため、攻撃を仕掛けていた。だが遠距離からの砲撃はレイが無意識に発している障壁に阻まれ、魔力を吸い取られることを懸念しているがために彼女たちは接近することさえできないでいた。

「これじゃただの消耗戦だよ!せめて何とかここから出さないと被害が・・!」

「でも、無闇に近づけば、ヴィータさんの二の舞だよ!」

 えりなと明日香が毒づく。悪戦苦闘している彼女たちを見て、コルトが哄笑を上げる。

「ムダなことはやめておけ。何をしようと、彼女を、ジェネシス・アースを止めることはできない!」

 その言葉に反論できずにいるえりなたち。ヴィータとバサラの回復を試みようとするアクシオだが、レイの放つ光弾を回避するのに精一杯だった。

「最高の力を備えているのに、手こずっているようですね。」

 そのとき、研究室に向けて声が飛び込んできた。降り立ったのはえりなたちを追跡してきたローグだった。

「遊ばせているだけだよ。彼女は幼い。まだまだ遊び足りない年頃だからね。」

「しかし、優位に変わりなくとも、後々面倒なことになってしまいますよ。遊びもほどほどに。」

 悠然と声をかけるコルトに、ローグが淡々と答える。そのやり取りにえりなたちが疑念を抱いていた。

「どういうことなの!?・・あなたはロアに所属しているはず・・・!?

「確かに私はロアの一員です。ただし、コルト・ファリーナのスパイとしてですが。」

 問いかけるなのはに、ローグが顔色を変えずに答える。するとコルトが再び哄笑を上げる。

「紹介しておこう。彼はローグ・デュアリス。エースオブエース打倒のために調整、調教された“エースキラー”の1人。私の部下だ。」

 その言葉にえりなたちが驚愕する。ローグもまた、コルトの尖兵の1人だった。

 

 

次回予告

 

本能の赴くままに動くレイと、因果を打ち砕かんとするローグ。

新世界に向けて、コルトの陰謀が着々と進行しつつあった。

その野望を食い止めるべく、全身全霊を賭けたえりなたちが立ちはだかる。

そして、レイの狙う攻撃の矛先とは?

 

次回・「思い出の場所」

 

小さな破壊者との激闘、そして・・・

 

 

作品集

 

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