魔法少女エメラルえりなVersuS
第21話「戦慄の破壊者」
健一の救出とロアの本拠地の機能の停止のため、先行していたネオン、リッキー、エリオ、キャロ。彼らは竜召喚によって真の姿となったフリードリヒの背に乗っていた。
彼らは地上を進んでいるスバル、ティアナ、ナディア、ロッキーと2手に別れていた。ティアナはライムからバイク型デバイス「ゲイルチェイサー」を託されていた。
(このルートにロアの本拠地があるのですか?)
(そのはずよ。健一は今日の朝に解放されて、10時過ぎにユウキさんに連絡を入れてきた。歩きだけで移動してきたなら、連絡を入れてきた地点からそんなに離れていない。)
ネオンの問いかけにティアナが推測を告げる。
(あれだけ整ったロアの人員です。おそらく魔法技術に精通した人がロアの中にいるはずです。)
(多分ガジェットとかファントムみてぇなヤツを出してくるだろうな。)
ナディアとロッキーも続けて言いかける。
(ネオンちゃん、エリオ、キャロは先に行って。あたしたちは地上から向かっていくから。)
スバルの呼びかけを受けて、ネオンは真剣な面持ちを浮かべて頷く。
「僕とキャロもあなたを援護します。ですがもしかしたらネオンさん、あなただけで先行する場合もあります。」
「そのときはネオンさん、あなたに全てを任せます。」
エリオとキャロもネオンに呼びかける。仲間たちからの支えを受けて、ネオンが感謝を覚える。
「ありがとう、みんな・・あたし、やり遂げてみせます!」
意気込みを見せるネオンに、エリオとキャロも微笑んで頷いた。
そのとき、進行方向から魔力の弾が飛び込み、それに気付いたネオンがレールストームで迎撃する。弾は彼女の射撃で相殺されるが、さらに弾が飛び込んでくる。
“Luftmesser.”
それをエリオの持つストラーダから放たれた真空の刃が撃ち落とす。
「大丈夫ですか、ネオンさん!?」
「エリオさん・・ありがとうございます!」
エリオの声にネオンが答える。2人は前方を注視して、その先の襲撃者たちを見据える。
彼らを待ち構えていたのは、人型の機械の軍勢だった。今の弾はその数体が放ったものだった。
(こちらに向かって機械の兵士が攻撃を仕掛けてきました!スバルさんたちのほうは!?)
(あたしたちのほうも待ち伏せを受けたよ!ネオンちゃんたちは構わずに突き進んで!)
ネオンが念話を送り、スバルが答える。スバルたちも機械兵たちの妨害に遭遇していた。
(スバルさん・・分かりました!こっちは任せてください!)
ネオンがスバルたちに呼びかけると、眼の前に立ち塞がる敵の撃退に専念することにした。
「フリード、ブラストレイ!」
キャロの指示を受けて、フリードリヒが炎を放つ。機械兵が炎に巻き込まれて、爆発を引き起こしながら落下する。
だが残りの機械兵が散開し、フリードリヒの注意を散漫にしようとする。
「これでは、一気に撃退させて活路を開くことができない・・・!」
打開の糸口を見出せず、エリオが毒づく。焦りが募る状況の中、ネオンは決断を下す。
「キャロさん、あたしを降りられる場所まで連れてってください!」
ネオンのこの呼びかけに、キャロだけでなくエリオも驚きを覚える。
「あたしが1人でロアのアジトに乗り込んで、あの機械たちを動かしている人を止めてきます!」
「でも、それではネオンさんが!」
「あたしもデルタの一員ですよ!みなさんが必死に頑張ってるのに、あたしが安全なところにいるなんてできない!」
キャロが言いとがめるが、ネオンの決意は変わらなかった。その気持ちを察して、エリオとキャロは小さく頷いた。
「分かりました。私たちができるだけ前に出ます。ネオンさんは合図と同時に降りてください。」
キャロが呼びかけると、ネオンは頷き、落下のタイミングを計る。
「フリード、前にできるだけ出て!」
キャロの呼びかけにフリードリヒが咆哮を上げる。フリードリヒはブラストレイで応戦し、機械兵を退けて前進していく。
「ずい分大胆になったね、キャロとフリード・・」
「これもフェイトさん譲りだよ・・それに、エリオくんもけっこう大胆なところもあるよ。」
苦笑するエリオに、キャロが微笑みかける。2人のやり取りに笑みをこぼすも、ネオンはすぐに真剣な面持ちになってタイミングを計る。
そしてスバルたちと交戦している地上の機械兵の集団が途切れたのを、ネオンは見逃さなかった。
「行きます!」
ネオンは言い放つと、フリードリヒの背から飛び降りた。地上に落下する直前で、彼女はレールストームを発射し、その弾圧で落下の衝撃を和らげた。
一瞬崩れかかった体勢をすぐに整えて着地し、ネオンは森の道を駆け出す。だが彼女の走る先にも、機械兵が数体出現してきた。
「ホントは温存したいところなんだけど・・・やるしかないよね、レールストーム!」
“It also associates also even of where.(どこまでも付き合いますよ。)”
ネオンの呼びかけにレールストームが答える。向かってくる機械兵に対し、彼女は2機のレールストームの引き金を引いた。
機械兵たちと交戦するスバルたちも、ネオンの先行を感知していた。
「ネオンさん、うまく前に出られたみたいですね。」
「でもまだ敵がいたようね。あの子、戦ってる。」
声を掛け合うナディアとティアナ。
「このままアイツの援護に行ったほうが!1人だけじゃ頼りねぇぞ!」
「ダメだよ!あたしたちがここを離れたら、この機械たちはクラナガンを襲うよ!」
ロッキーの呼びかけにスバルが反論する。
「あたしたちが今やることは、この機械の兵隊を撃退すること。そしてネオンが成功することを信じること。」
ティアナの指示にスバルたちが頷く。
「あたしとスバルが戦力を分散させる。ナディアとロックはその隙を突いて機械を破壊して。」
「よし!任せとけ!」
「分かりました!」
ティアナが提示した指示に、ロッキーとナディアが答える。
「あなたもお願いね、ゲイルチェイサー。」
“OK.”
ティアナの呼びかけに答えるゲイルチェイサー。1機のクロスミラージュを手にして、ティアナはゲイルチェイサーを走らせ、機械兵への射撃を行う。スバルも同時に進行して、打撃を見舞い、機械兵たちを怯ませる。
その隙を突いて、ナディアとロッキーが渾身の攻撃で次々と機械兵を破壊していく。
(信じていますよ、ネオンさん、みなさん・・・!)
ネオンや仲間たちへの信頼を胸に秘めて、ナディアは全力を振り絞った。
時空管理局本局前で迎撃体勢を取っていたライム、ジャンヌ、クオン。満身創痍のクオンから眼を離さないことも、ライムとジャンヌの役目でもあった。
「地上は君に任せるけど、危ないと思ったらすぐに安全な場所に退避するんだよ。」
「分かっています。よろしくお願いします、ライムさん、ジャンヌさん。」
ライムの呼びかけにクオンが頷く。3人はロアの襲撃に備えて、周囲を警戒する。
だが彼らの前に現れたのはロアのメンバーではなく、球状の機械の大群だった。
「あれはガジェット・ドローン!?」
「そんな!?ジェイル・スカリエッティが逮捕されて、ガジェットは全て破棄されたはずじゃ・・!?」
ライムとジャンヌが驚愕を覚える。ガジェットは現在ではデータのみが存在するだけである。
「ジャンヌさん、あれはガジェット・ドローンですよね!?それがなぜここに・・!?」
「分からない・・でもあれをこのまま放っておくことはできない・・」
クオンの問いかけにジャンヌが深刻さを込めて答える。
「僕とジャンヌでガジェットを退ける!クオンは周囲の人たちを避難させるんだ!」
ライムはクオンに呼びかけると、ガジェットたちに向かって飛びかかる。彼女の背中からジュの悪の光の翼が広がる。
「久々に大暴れするよ、クリスレイサー!」
“Alright.”
ライムの声にインテリジェントデバイス「クリスレイサー・ソリッド」が答える。ブレイドモードのクリスレイサーを振りかざし、ライムがガジェットを切り裂いていく。魔法効果の無力化「AMF(アンチマギリンクフィールド)」を備えているガジェットだが、ライムには問題はなかった。
そしてジャンヌもインテリジェントデバイス「シャイニングソウル」を振りかざし、重力操作の魔法を発動させていた。魔力による衝撃波に襲われ、ガジェットたちが損傷を被る。
「クオン、行って!あなたがみんなを助け出すのよ!」
「ジャンヌさん・・・分かりました!」
ジャンヌの呼びかけと思いを受けて、クオンは本局内に駆け込んでいった。
(中にはバリオスがいるはずだ。無事でいればいいけど・・・)
一抹の不安を胸に秘めて、クオンは局内の廊下を駆け抜けていった。
猛攻を仕掛けるジュリアに対し、満身創痍の健一は劣勢を強いられていた。逆転のチャンスをつかもうと、彼は必死にけん制を繰り返していた。
飛行して時間を稼ぐ手もあった。だが飛行も若干ながら魔力を消費するため、体力の温存には適さない。しかも攻撃から完全に逃れられるわけでもない。
「いつまでも逃げてばかりなんて、つまらないことをしてくるのね・・1度は私を追い込んだとは思えない・・」
ジュリアが健一に対して落胆し、あきれ返っていた。しかし健一は彼女の挑発的な態度に食いつこうとしない。
「まぁいいわ。あなたに入れ込んでいたわけでもないしね・・いつまでも、あなたと遊んでいるわけにはいかないのよ!」
いきり立ったジュリアが健一に飛びかかる。アウトランナーから発せられるビームブレイドの一蹴が、ラッシュの刀身を叩く。
(ぐっ!・・何とか踏ん張ってくれ、ラッシュ!チャンスは必ずやってくる!)
痛みに顔を歪めるも、健一はラッシュに心の声をかける。隙を見て反撃に転じてラッシュを振りかざす健一だが、ジュリアに決定打を与えることができないでいた。
やがてジュリアの鋭い一蹴が、健一を怯ませて横転させた。
「ぐっ!・・しまった・・!」
「これでチェックよ。今度こそ、あなたを倒して管理局を打破する!」
うめく健一を見下ろして、ジュリアが鋭く言い放つ。
(コイツは相当にヤバいぜ・・オレはまだ、こんなところで終われねぇのに・・・!)
この危機の打開を見据えるも、覚悟を受け入れるしかないと思ってしまった健一。ジュリアがアウトランナーがビームブレイドを発したまま、健一に向けて足を前に出す。
そのとき、ジュリアが突如光の輪に拘束される。突然のことに彼女は体勢を崩され、健一に向けての一蹴が大きく外れる。
「な、何っ!?」
驚愕の声を上げたジュリアが横転する。健一も何が起こったのか分からず、きょとんとなっている。
「やっと見つけたと思ったら、何辛気臭い顔してんだよ。」
健一の前に降り立った少女が気さくに声をかけてきた。それは少女の姿をしたラックスだった。
「ラックス・・おめぇ・・」
「よかった。間に合ったみたいだね・・」
半ば呆然としている健一に向けて声をかけてきたのは、リッキーだった。遅れてソアラもこの場に駆けつけてきた。
「大丈夫ですか、健一さん?すぐにリッキーが治してあげますから。」
ソアラも明るく声をかけ、健一を支える。健一がふらつきながらも立ち上がり、笑みを取り戻す。
「ラックス、ソアラ、援護をお願い!」
「任しといて!」
「うんっ♪」
リッキーの呼びかけにラックスとソアラが答える。ラックスがジュリアへの攻撃に、ソアラが健一とリッキーの守りに徹する。
「仲間がやってくるなんて・・でも医務官と使い魔だけで、私をどうにかできると思わないことね!」
ジュリアがリッキーからの治癒魔法を受けている健一に向かって飛びかかる。だがその間にラックスが割って入ってきた。
「アンタの相手はあたしだよ。」
「勘違いしないで。私の相手は最初からアイツなんだから。」
不敵な笑みを浮かべるラックスに、苛立ちを募らせるジュリア。彼女が繰り出した一蹴に対し、ラックスが拳を繰り出す。
魔力を帯びた拳での一撃だが、ジュリアの強く鋭いビームブレイドに弾き飛ばされてしまう。
「ぐっ!」
怯んだラックスがうめき、顔を歪める。足をならしながら、ジュリアが笑みを見せる。
「これ以上は命の保障はできないわ。死にたくなかったら邪魔をしないで。」
「そう言われて、“はい、そうですか”って言うと思ってんの?」
忠告を送るジュリアだが、ラックスは退かない。
「仕方がないわね・・悪く思わないでよね!」
嘆息をついたジュリアがラックスに向けて一蹴を繰り出す。ラックスも負けじと再び拳を繰り出す。
そこへ一条の刃が飛び込み、ジュリアのビームブレイドを受け止めた。その衝撃にジュリアとラックスが眼を見開く。
割って入ってきたのは健一だった。リッキーの「フィジカルヒール」で回復した彼がラッシュを振りかざし、ジュリアのビームブレイドを受け止めていた。
「待たせたな。せっかくのご指名、受けさせてもらうぜ!」
言い放った健一がラッシュを振り抜き、ジュリアを突き放す。踏みとどまったジュリアが、万全の状態となった健一を眼にして毒づく。
「どうした?まさかフルパワーのオレじゃ相手が悪いって言うんじゃねぇだろうな?」
「ふざけないで。たとえあなたがどんな状態であっても、私は負けるわけにはいかないのよ・・・!」
挑発的な態度を見せる健一に言い返すジュリア。アウトランナーの車輪が激しく回転し、彼女を加速させる。
「みんなの目指す未来のために、私はあなたを!」
叫ぶジュリアが健一に向けて右足の一蹴を繰り出す。
“Pressure strush.”
健一も魔力を宿したラッシュを振りかざし、迎え撃つ。2つの刃が激しく火花を散らし、周囲を揺るがす。
ジュリアが左足を振りかざし、追撃を命中させようとする。だが健一は跳躍して前転し、その2撃目をかわす。
「もう出し惜しみはしねぇぜ・・ワリィが、一気に叩き伏せる!」
「それは私の言葉よ!」
互いに言い放つ健一とジュリア。
“Ultimate strush.”
ラッシュの刀身に宿る輝きが一気に強める。健一とラッシュの最強の技が、ジュリアに向けて放たれる。
(中途半端な攻撃は跳ね返されるだけ!魔力を一点集中させて、一気に突き飛ばす!)
「アウトランナー!」
ジュリアもアウトランナーに呼びかけ、右足を突き出す。右足用のアウトランナーのビームブレイドの光が荒々しくなる。
2つの刃の衝突で、周囲がまばゆい閃光に包まれた。そのまぶしさに、リッキー、ラックス、ソアラもたまらず眼を背ける。
爆発的な威力のため、双方のデバイスに大きな負担がのしかかる。その中で健一が、左の拳を握り締める。
「アルティメットストラッシュ・ブレイクブースト!」
健一は拳をラッシュの刀身の後ろから殴りつける。彼自身の攻撃に威力の増強を与えたのだ。
健一とラッシュに一気に押されて、ジュリアのビームブレイドが粉砕され、アウトランナーに傷を付ける。攻撃を跳ね返されて突き飛ばされ、ジュリアが激しく横転する。
「ぐっ!」
その衝撃に押されて、ジュリアがうめく。全ての戦力を削がれた彼女が、その場で倒れたまま動けなかった。
「ふぅ・・これで、今度こそ終わりだ・・・大丈夫だったか、ラッシュ?」
“No problem.”
安堵の吐息をつく健一にラッシュが答える。光が消失したことで、リッキーたちも健一に視線を戻していた。
「健一・・・」
「どうやら、決着がついたみたいだね・・」
ラックスが当惑を見せ、リッキーが安堵をこぼす。健一が戦意を弱めて、立ち上がれないでいるジュリアの前に立つ。
「・・私の負けよ・・せいぜい最上級の地獄でも見せることね・・・」
敗北を認めながらも、管理局の情勢に対してあざけるジュリア。すると健一が大きく肩を落としてため息をつく。
「生憎だけどな、地獄はまっぴらなんだよ。見るのも見せるのも・・」
「ま・・待ちなさい!早く私を捕まえないと、取り返しのつかないことになるわよ!」
「そんなマネはもうさせねぇよ・・おめぇを捕まえるのはリッキーたちがしてくれる。正確には保護だけどな。それにオレにはまだやることがあるし・・」
声を振り絞るジュリアの呼び止めを一蹴する健一。そこへリッキー、ラックス、ソアラが駆け寄ってきた。
「健一くんのしようとしていることは分かってる。でも君は今ので、力を一気に使ってしまったはずだよ・・」
「リッキー・・分かった。だけど、なるべく早めに頼むぜ。」
リッキーの呼びかけに、健一が苦笑いを浮かべながら従った。
「ラックス、ソアラ、そいつを送り届けてくれ。」
「健一・・・分かった。明日香やえりなたちによろしくね。」
「ここは私たちに任せてください。」
健一の呼びかけにラックスとソアラが答える。リッキーからの治癒が終わり、健一は自身の回復を確かめる。
「それじゃ行ってくる。アイツ、昔から危なっかしいところがあるからな。オレが支えてやらねぇと・・」
健一はリッキーたちに言いかけると、交戦の続く空に飛翔していった。
(待ってろよ、えりな・・すぐに行ってやるからな・・・!)
リッキーたちの思いを背に受けて、健一はラッシュを手にして、時空管理局本局に急いだ。
迫り来るロアの一団をなぎ払っていくシグナム。数は減ったものの、彼女とアギトの体力は確実に消耗していっていた。
「ちくしょう!まるでゾンビだぜ!倒しても倒しても起き上がってくる!」
「確実に数は減っているが、こちらも体力を減らしているのも事実だ・・しかも、ダイナも苦戦しているようだ・・」
アギトが毒づき、シグナムも焦りを覚える。彼女が向けた視線の先では、ダイナがギーガに対して押し切れないでいた。
(この男、以前と比べて格段に力を増している・・オレが力で押されるとは・・!)
ダイナもギーガの力に毒づいていた。ヴィオスによる重い一閃を、ギーガは持てる力で跳ね返してみせていた。
(このまま戦闘を続けても押し切られるだけだ。アギトとユニゾンしているシグナムだが、速さと広範囲攻撃は優れているが、打撃、斬撃の重みはオレと同等・・)
打開の糸口を見つけられずにいるダイナ。
(せめて力の向上を図れる術があれば・・ドライブチャージのような一時的なものではなく・・)
ギーガと交戦しながら、思考を巡らせるダイナ。
「この手しかないか!」
ひとつの妙案を見出したダイナは、打撃を繰り出してきたギーガを突き飛ばすと、ロアのメンバーを撃退したシグナムの横に降り立った。
「どうした?お前も苦戦しているようだが・・」
シグナムがダイナの行動に眉をひそめ、声をかける。するとダイナは思い立った打開策を告げた。
「シグナム、アギトとのユニゾンを解除しろ。」
「なっ!?」
その言葉にシグナムとアギトが声を荒げる。
「バカなことを言うな!ユニゾンしてるのにこれだけ苦戦してるのに、ユニゾン解いてどうしろってんだよ!」
「最後まで聞け。お前とユニゾンをするのはオレだ。」
たまらず抗議の声を上げるアギトにダイナが告げる。その言葉にアギトは絶句する。
「あの男のパワーはオレをも凌ぐ。ならばオレもパワーアップをすればいいだけのこと。」
「しかし、可能なのか?私とアギトは炎の力を持つ者同士だからこそ、ユニゾンが可能となったんだぞ・・」
「忘れたのか?オレは三銃士の炎の剣士。お前たちと同じ炎の力を宿しているのだぞ。」
シグナムが口を挟むが、ダイナはさらに言いかける。その言葉にシグナムとダイナがようやく納得する。
「あの力を跳ね返すのは、お前でも単体のオレでも難しい。だがユニゾンを果たせば、オレはヤツを退けられる。」
「ダイナ・・・分かった。この決着、お前に委ねるぞ・・・!」
ダイナの申し出を受けたシグナムが、アギトとのユニゾンを解除する。1回肩の力を抜いたアギトが、ダイナに眼を向ける。
「お前とはまだ、ユニゾンしたためしはない。どんなことになるかは分かんねぇぞ・・」
「失敗したときは、オレとお前がその程度だったということだ。だがやらなければ、やれるかどうかも見出せない。」
「・・・ったく、お前も見かけと違ってムチャなヤツだよなぁ・・しょうがない、やってやるよ!」
ダイナの覚悟に根負けしたように、アギトも彼とのユニゾンを決意する。
「シグナムのときのように、オレの覚悟を試してくれ、アギト・・」
「気に入らなきゃ焼き殺せってか。もう、お前もつくづく・・」
微笑みかけるダイナにアギトが呆れる。2人は頷きかけると、互いに向けて意識を集中する。
「ユニゾンイン!」
ダイナの体にアギトが入り込む。これまで体感したことのなかったユニゾンの感覚に、ダイナの感情が高ぶる。
ダイナの紅い髪と騎士服の紅が黒く変色していく。それは紅い炎が燃焼度を増して、黒い地獄の業火となったかのようだった。
変貌を遂げたダイナの姿に、シグナムは息を呑んでいた。ひとつ吐息をついてから、ダイナは口を開いた。
「シグナムほどの順応性はないと見た・・オレが興奮を覚えるとはな・・・」
呟くように言いかけると、ダイナがギーガに眼を向ける。
「オレとアギトの持つ炎のように、感情も高ぶってきている・・だが、それは力もまた同じ・・・」
いきり立ったダイナがヴィオスを構える。
「こいつもすげぇ力だ・・シグナムのときとは違うあたたかさを感じる・・まるで背中を強く押してくれてるみたいに・・」
アギトもダイナとの魔力を実感して、高揚感を覚える。2人が高ぶる感情を抱えたまま、ダイナがギーガに眼を向ける。
「アギト、お前は炎の魔力の挿入に専念しろ。オレが力と打撃に全力を注ぐ。」
「分かった。だけどしくじるなよ。」
ダイナの呼びかけにアギトが答える。降下しながら拳を構えるギーガを見据えて、ダイナがヴィオスを振り上げる。
ヴィオスの巨大な刀身に赤黒い炎が灯る。それは迫り来る壁を容赦なく粉砕する業火そのものだった。
「黒き炎は、立ち塞がる全てのものをなぎ払い、焼き尽くす・・黒炎必砕!ブラックブレイク!」
ダイナとアギトの声が重なる。彼が繰り出した黒き一閃が、ギーガが繰り出した拳の一撃を跳ね返し、突き飛ばした。
一閃はギーガだけでなく、その先にいるロアのメンバーを吹き飛ばす。吹き飛ばされた彼らが、その先の壁に次々と叩きつけられて、昏倒していく。
「はやりダイナだな。力だけなら私やヴィータ、ヴィッツをも凌駕する・・それが、アギトとのユニゾンによって、荒波のような勢いをももたらした・・」
ギーガたちを一気に殲滅してみせたダイナの姿を見つめて、シグナムが呟きかける。
そのとき、ダイナとアギトのユニゾンが突如解除された。アギトと分離したダイナがその場にひざを付き、息を荒げる。
「ダイナ!?」
ダイナの異変にシグナムが声を荒げる。ダイナは体力を消耗していて、呼吸を整えるのに精一杯となっていた。
「ダイナのパワーはすごかった・・だけど、魔力の消耗も激しすぎて、ユニゾンまで解けちまう・・」
アギトが深刻な面持ちを浮かべて言いかける。落ち着きを取り戻したダイナが、シグナムとアギトに眼を向ける。
「これもまたオレの未熟ということか・・悔しいが、オレの戦いはこれまでのようだな・・」
「そのようだな・・後は、テスタロッサやヴィッツたちに任せるしかないな・・・」
疲労の色を隠せず、ダイナとシグナムが肩を落とす。彼らは体力の回復を見越して、戦線を離脱した。
ライムとジャンヌの指示を受けて、本局内にいる人々を避難させていたクオン。その中で、彼はバリオスとの合流を視野に入れていた。
(バリオスはもう脱出したのかな・・それともまだ研究部に・・)
心配する気持ちを心の奥底に押し殺して、クオンは第4研究部のほうへ駆け出していた。真っ直ぐに伸びる廊下からは、次第の人の気配がなくなっていた。
しばらく走ったところでクオンは立ち止まり、後ろにも眼を向ける。しかしその視線の先には人がいる様子はない。
「誰かいませんか!?いるなら返事をしてください!」
試しに大声で呼びかけるクオン。彼の声が反響し、廊下に響き渡る。
「そんなに大声を上げなくても聞こえてるよ。」
そのとき、クオンの耳に聞き覚えのある声が響いてきた。前に視線を戻すと、そこにはバリオスの姿があった。
「バリオス・・無事だったんだね・・・」
「君も、ここまで来てしまったみたいだね、クオン・・」
安堵を見せてきたクオンに対し、バリオスが悩ましい面持ちで言いかける。その様子にクオンは当惑を見せる。
「クオン、もうすぐ世界は新たな境地に差し掛かる。この歪んだ因果を断ち切るほどにね・・」
「バリオス、何を言って・・!?」
バリオスの言った言葉が理解できず、困惑にさいなまれるクオン。するとバリオスは形の整ったブレイドデバイスを手にし、クオンに切っ先を向けてきた。
「僕と一緒に来てくれ、クオン・・僕たちは君を、この新しい世界に歓迎したい・・・」
手招きをしてくるバリオスに対し、クオンは動揺を隠せなくなっていた。
異常な魔力の出現を感知したえりな、明日香、なのは、フェイト、アクシオ、ヴィータは、本局内を突き進んでいた。局内からあまりにも人の気配が感じられないことに、彼女たちは疑念を感じていた。
「これだけの魔力が出てるのに、人がいる気配が全然しない・・」
「どこかに避難している可能性もあるけど・・」
左右を見回して、えりなと明日香が呟きかける。
「とにかく、あの魔力を何とかしないと・・」
「魔力が出たのは第4研究部の研究室の辺りからだよ・・」
なのはとフェイトも続けて言いかける。そのとき、彼女たちの進む廊下の隔壁シャッターが突如閉ざされた。
「なっ!?」
突然のことにたまらず立ち止まるえりなたち。彼女たちの後方も隔壁シャッターが降り、袋小路になってしまった。
「非常事態と判断して、シャッターが下りたのね・・」
「周りとの連絡が取れねぇ・・仕方ねぇが、ぶち破らせてもらうぞ!」
明日香が毒づき、いきり立ったヴィータがグラーフアイゼンを構える。
「こんな乱暴な手段、本当ならしたくはないのですけどね・・」
ヴィータの中にいるバサラが半ば呆れながら呟きかける。だがヴィータの心と同調し、意識を集中する。
「ぶっ潰せ!」
“Todlichschlag.”
ヴィータの叫びに答えたグラーフアイゼンが、シャッターを叩く。だがシャッターは強力な防御バリアによって、ビクともしなかった。
「防護と犯人の確保を兼ねたシャッターだ。さすがのアイゼンでも一筋縄じゃいかねぇか・・だったら・・アイゼン!」
“Zerstorungsform.”
ヴィータの呼びかけを受けて、グラーフアイゼンの形状が変化する。巨大な鉄槌の先端にドリルが突き出される。
グラーフアイゼンのリミットブレイク「ツェアシュテールングスフォルム」である。
「一気に突き破る!ツェアシュテールングスハンマー!」
ヴィータが全力を込めて、グラーフアイゼンを振りかざす。最大出力の打撃は、完全防護のシャッターを粉砕した。
「本当に手痛い1発だね・・」
「後で始末書を書かされる意味でも手痛いね・・」
明日香とアクシオが呟きかける。反論したかったがそれどころではないと思い、ヴィータは前進を開始した。
(あたしのほうはバサラとのユニゾンで踏ん張れるが、アイゼンまでは負担を抑えきれねぇ・・十分に注意しなきゃな・・)
胸中でグラーフアイゼンを気遣うヴィータ。彼女に続いてえりなたちも前進を再開する。
彼女たちはしばらく進んだところで立ち止まる。眼の前には第4研究部の研究室の扉があった。
「魔力はここからだよ・・しかも、どんどん上がっている・・」
明日香が言いかけると、えりなたちも頷く。
「罠が待ち構えてるってこともある・・あたしがその罠ごとぶち破る!」
ヴィータが続けてグラーフアイゼンを振りかざし、続けて扉をも打ち破る。轟音を響かせながら、研究室が開け放たれた。
「おやおや。ずい分と荒々しい入室ですね、ヴィータ三等空尉。」
煙の巻き上がる研究室から声が響いてきた。治まった煙の中にいた人物を眼にして、えりなたちが驚きを覚える。
「あなた・・・!?」
「第4研究部主任・・コルト・ファリーナ・・・!?」
フェイトと明日香が驚愕を浮かべる。そこにいたのは悠然さを込めた笑みを浮かべているコルトだった。
「ようこそ我が第4研究部へ。今は“デルタのみなさん”と呼んだほうがいいですかな?」
えりなたちに向けて淡々と声をかけるコルト。彼の隣には1人の白髪の少女がいた。
その少女になのはとフェイトは見覚えがあった。彼女はマコトの妹、レイだった。
「紹介しよう。彼女こそ私の最高傑作、新世界の完全なる創世をもたらす存在、ジェネシス・アースだ!」
コルトが高らかに言い放った言葉に、えりなたちがさらなる驚愕を覚える。レイはタイプ・ジェネシスの1人、ジェネシス・アースだった。
次回予告
ついに姿を現した元凶。
邪なる世界の創世のため、秘められた力を解放するレイ。
その恐るべき魔手が、えりなに、明日香に伸びる。
そして、破壊衝動に駆られたレイがたどり着いた場所は・・・
血塗られた因果、断ち切るのは誰か・・・?