魔法少女エメラルえりなVersuS
第20話「New world」
時空管理局との最後の戦いに向かう少し前のことだった。
ジュリアは拘束していた健一を解放することを決意した。人気のない森林地帯にて、彼女は彼の両手と魔力を封じているバインドを解除する。
「勘違いしないで。別にあなたを助けようというつもりはない。ただ、このまま人質を取った卑怯者と呼ばれるのが癪に障るだけよ・・」
ジュリアが健一に向けて憮然さを見せて言いかける。しかし健一は素直に感謝を示した。
「分かったよ。けどいいのか?せっかくオレをここまで封じ込めてたのに・・今度は2度と捕まえられねぇかもよ。」
「そんな強気な態度がどこまで続くか・・」
健一が告げた言葉に呆れ、ジュリアが苦笑いをこぼす。だがすぐに気持ちを切り替えて、彼女は鋭く言いかける。
「私が大人しくしている間に消えなさい。次に会ったときは、私はあなたに容赦しないわ。」
「・・引き下がるつもりはねぇのかよ・・おめぇらが話を持ちかけてくれるなら、オレたちはその話を聞くっていうのに・・」
「言ったはずよ。もう全てが遅いって・・・」
歯がゆさを抱えて問い詰める健一に、ジュリアも歯がゆさを見せて言い返す。
「もう1度言うわよ。すぐに私の前から消えて。次に会うときは、あなたたちと戦うときよ。」
再び鋭く言い放つジュリア。もはや何を言っても通じないと悟り、健一は腑に落ちないながらも、仕方なくこの場を立ち去ることにした。
(自由にはなったけど、まだ魔力が思うように使えねぇ・・しかもこの辺りはまだ通信妨害がかかってる・・もう少しあるかないといけねぇか・・)
いち早くえりなたちと合流すべく、健一は森の中を駆けていった。
だが健一が森を抜ける前に、ロアを思しき集団がクラナガンに向かっていった。
(やべぇぞ・・急がねぇと・・!)
健一は自分の体に鞭を入れて、足をさらに速めた。
ロアの進撃に対し、デルタは迎撃体勢に入った。えりなたちは空と地上に別れて、防衛線を張ることとなった。
そしてえりなとなのはも出撃に備えていた。2人は雲ひとつな青空を見据えていた。
「いよいよですね、なのはさん・・今さら止めないでくださいよ。」
「分かってる。1度心に決めたことを、あなたはなかなか変えないからね・・」
声をかけてくるえりなに、なのはが苦笑いを浮かべて答える。
「健一のことは心配だけど、今はみんなのいるこのミッドチルダを守るために戦う。健一が帰ってくるこの場所を・・それが健一の望んでいることでもあるから・・」
「えりな・・・今は、私たちのやるべきことを、全力でやり通すだけ・・・!」
えりなとなのはは言いかけると、それぞれ左腕と頭に巻いていた包帯を振りほどく。臨戦態勢に入った2人は、自分たちのデバイスに呼びかけた。
「ブレイブネイチャー・・」
「レイジングハート・エクセリオン・・」
「セットアップ!」
“Standing by.Complete.”
“Standby ready,setup.”
ブレイブネイチャーとレイジングハートが起動し、杖の形状へと変化する。同時に2人の体を各々のバリアジャケットが包み込んだ。
魔力の接近を感じ取ったえりなとなのはは、デルタ本部から出撃した。2人に続くように、明日香、フェイト、ヴィータ、バサラも飛翔していく。
「2人だけ先に行かせるわけにいかないよ。」
「そうだよ。なのはたちは本当にムチャするからね。」
明日香とフェイトがえりなとなのはに微笑みかける。
「今回もあたしがついてるからな。なのはたちにはケガはさせねぇぞ。」
「今回は私もついているから、本当の意味で打ち破れない壁はないわよ。」
ヴィータとバサラに笑みを見せて言いかける。自分たちを支えてくれる仲間たちの気持ちを背に受けて、えりなとなのはは頷いた。
「それじゃみなさん、全力全開で行きますよ!」
えりなが呼びかけると、彼女たちが一気に加速する。ロアの襲撃を止めるべく、彼女たちは全身全霊を賭けた戦いに身を投じるのだった。
時空管理局本局の攻撃のため、クラナガンに侵入したシグマたち。そこで彼は接近する人影を確認する。
「あれは・・?」
眼を凝らすシグマが眉をひそめる。その人影の正体を確かめて、マコトが眼を見開く。
「あれは、高町なのは・・・!?」
マコトは向かってるデルタの面々の中にいるなのはに眼を疑った。彼女の脳裏に、前回の戦いの記憶の断片が蘇る。
なのはは魔力を暴走させたマコトに倒されたはずだった。だが現になのはは平然と空を翔けていた。
「だって僕が無意識に・・・それが、どうして・・・!?」
「死んでいなかったということですか・・・!」
驚愕するマコトと、歯がゆさを覚えるローグ。えりなたちもシグマたちの姿を目撃していた。
「だったら何度でもアイツを・・レイを傷つけたアイツを、僕が!」
いきり立ったマコトが、なのはに向かって直進していく。
“Meteor shoot.”
一蹴を繰り出してきたマコトに対し、なのはが身構える。だがその一蹴は、ヴィータが振りかざしたグラーフアイゼンに阻まれる。
「何っ!?」
「なのはには手は出させねぇぞ!」
声を荒げるマコトに向けて言い放つヴィータ。ヴィータがグラーフアイゼンに力を込め、マコトを突き飛ばす。
「大丈夫か、なのは!?」
「私は大丈夫だよ、ヴィータちゃん・・」
ヴィータの呼びかけになのはが微笑みかける。
「あたしが攻め入って、向こうを分散させる。なのはたちはそれに対処してくれ。」
「私もやるわよ。なのはさんを窮地に追い込むほどの力なら、私とのユニゾンを行うべきだわ。」
指示を出すヴィータにバサラが呼びかける。ヴィータがそれに頷き、えりなたちも指示に従って身構える。
「すぐに攻撃を中止して、武装を解除しろ。これ以上攻撃を仕掛けるつもりなら、鉄槌の騎士、ヴィータと鉄の伯爵、グラーフアイゼンが、おめぇらを止めるぞ。」
「攻撃を中止しろだと?・・ふざけるな!お前たち管理局の言うことを聞くと思ってるのか!」
ヴィータが送る忠告をマコトが一蹴する。
「気をつけなさい、マコト!彼女はヴォルケンリッターの1人ですよ!」
「ヴォルケンリッター?」
そこへローグが呼びかけ、マコトが眉をひそめる。
「彼女がいるということは、他の守護騎士やその夜天の主、八神はやても来ているということでしょう・・いえ、おそらく、起動六課のフォワードだった魔導師と騎士全員が。」
ローグが言いかけた言葉に、マコトは息を呑む。同時に彼女は徐々に落ち着きを取り戻して行く。
「こっちの指示に従わねぇつもりなら、仕方がねぇな・・・やるぞ、バサラ!」
「分かったわ、ヴィータ。」
ヴィータの呼びかけにバサラが答える。2人は意識を集中し、それを互いに向ける。
「ユニゾンイン!」
バサラがヴィータの体に入り込んでいく。するとヴィータの紅い髪と騎士服の紅が黒に変わっていく。
重力操作の魔法を得意とするバサラと、打撃に重点を置くヴィータ。2人の力を掛け合わせたパワーは、いかなる壁もものともしない。
「それじゃおめぇら、後は頼んだぞ!」
ヴィータはえりなたちに言いかけると、マコトに向かって飛びかかっていった。
「くそっ!そんなもの、僕が!」
“Planet breaker.”
マコトがヴィータに向けて拳を繰り出し、ヴィータが振りかざしたグラーフアイゼンと衝突する。バサラとのユニゾンで、ヴィータの打撃は威力を増していた。
その強靭な一撃に競り負けて、マコトが突き飛ばされる。だが寸でのところでシグマに受け止められる。
「大丈夫か、マコト!?」
「シグマ・・僕なら大丈夫だよ・・」
呼びかけるシグマに微笑んで答えるマコト。2人はグラーフアイゼンを構えるヴィータを見据える。
「ここは集まっていては不利だ。分散するぞ!」
「だけど、それだとアイツらの思う壺じゃ・・!」
「向こうは遠近問わずに強力な攻撃を仕掛けられる。このままでは集中砲火を浴びることになるんだぞ。」
「結局、アイツらの思い通りかよ・・・!」
シグマに言いとがめられて、マコトが毒づく。
「マコト、あなたは先に本局に行ってください!」
そこへローグが呼びかけ、マコトたちが眼を見開く。
「ローグ、何を・・!?」
「マコト、あなたには助けたいと思っている人がいます。あなたはその人のために、全てを賭けることができます。」
「ローグ・・・」
ローグの言葉に戸惑いを見せるマコト。彼女の脳裏にレイの笑顔が蘇ってきた。
自分たちが受けてきた悲劇を、他の人たちに受けてほしくない。それは自分だけでなく、レイの願いでもある。マコトはそう思っていた。
「シグマもジュリアも別ルートから本局に向かってください。私もすぐに向かいます。」
「だが、これだけの相手を、ローグだけでは・・!」
ローグの呼びかけに、今度はシグマが反論する。
「心配は要りません。たとえ敵わなくても、あなたたちを先行させてけん制するくらいのことはできます。私に構わず、行ってください、マコト。」
「ローグ・・分かった!だけど、絶対に無事でいてよ!」
ローグの呼びかけを背に受けて、マコトは本局に向けて加速していった。
「行かせるか!」
ヴィータがマコトを追いかけようとし、明日香もそれに続く。だが突如飛び込んできた光線に2人は行く手を阻まれる。
プロヴィデンスモードのジャスティから放たれたシャープビットからの射撃が、えりなたちに狙いを向けてくる。
「それは私のセリフです。あなたたちの相手は私です。」
ローグがえりなたちに向けて低く告げる。毒づきながらも、えりなたちはローグに眼を向ける。
「このままじゃ連中、本局に行っちまうぞ・・!」
「大丈夫。本局近くにはみんながいるから・・ここはみんなを信じましょう・・」
毒づくヴィータにえりなが呼びかける。彼女たちはひとまず、ローグの射撃を切り抜けることに専念した。
クラナガン内で防衛線を張っていたユウキ、仁美、はやて。他の部隊と連携して、防衛線は強みを増していく。
そんなユウキに向けて、ひとつの念話が飛び込んできた。だがそれが弱々しく伝わってきたため、ユウキはそれに意識を傾ける。
「どうしたの、ユウキ?」
仁美が声をかけるが、ユウキは気に留めずに念話に集中する。
“誰か・・誰か応答してくれ・・オレは時空管理局の、辻健一三等陸尉だ・・・”
(健一?・・健一か!?無事だったのか!?)
その念話の主を特定したユウキが、一気に呼びかける。その相手は健一だった。
“その声は、ユウキさん・・・よかった。通じた・・”
(よくロアから逃げられたな・・健一、今どこにいる!?)
“今、クラナガンについたところッス!えりなたちとロアの連中がやり合ってるのが見える!”
(よし、分かった。リッキーを向かわせる。彼に回復してもらうまで、絶対に戦闘には参加するな。いいな。)
“一応聞くけど、相手が許してくれるかどうかは分かんないッスよ・・”
ユウキが指示を出すと、健一は苦笑しながら頷いた。そこでユウキは仁美が声をかけてきていることに気づく。
「私も聞いたよ。健一くんからでしょ?」
「あぁ・・ロアから逃げ出せたけど、消耗しているようだ・・」
仁美の問いかけにユウキが答える。ユウキはリッキーに向けて念話を送る。
(リッキー、健一を見つけた。かなり疲れているみたいだ。すぐに向かってくれ。)
“健一くんが!?・・分かりました。すぐに向かいます。”
リッキーが答えたのを確かめて、勇気は小さく頷いた。
「あの、それなら私が向かったほうがよかったのでは・・?」
そこへ声をかけてきたのはシャマルだった。指輪型アームドデバイス「クラールヴィント」を駆使した彼女の転移魔法と治癒魔法を使えば、迅速に事を済ませられるはずである。
「回復魔法に関したら、君のほうが上だ。だからこそ、君にはリッキー以上に、仲間の回復に専念してほしいんだ。」
「でも、私も・・」
「これから戦いはますます激しくなる。瀕死の重傷を負うヤツも出てくる。そいつの回復のために魔力を温存しておくべきだと、君のほうが分かってるはずだ。リッキーもそういうふうに考えているはずだ・・」
ユウキに言いかけられて、シャマルは納得する。自分がやるべきことを痛感して、彼女もそれに専念した。
「私はあなたのサポートに回るからね。ザフィーラもお願い!」
「心得ている。」
仁美の呼びかけにザフィーラが答える。向かってくるロアの戦士たちに対して、ユウキは迎撃に出た。
ユウキからの指示を受けて、健一はリッキーの到着を待つこととなった。周囲からロアが現れないとも限らないため、彼は警戒心を強めていた。
だが、彼には非情の運命が待っていた。
接近する魔力を感知して、健一は身構える。その魔力はリッキーのものではなかった。
眼前に現れた少女、ジュリアをじっと見据える健一。ジュリアも健一を眼にして、戦慄を覚えていた。
「また会ったな・・」
「まだこんなところをウロウロしていたなんて・・何であれ、腹は決まってるんでしょう・・・?」
笑みを見せる健一に、ジュリアが淡々と言いかける。彼女の眼つきが次第に鋭くなっていく。
「前にも言ったわね。次に会うときは、私はあなたに容赦しないって。」
「そいつはどうしても避けられねぇことなのかよ・・戦わなくちゃ解決しないことじゃねぇだろ・・・!」
健一が深刻さを込めて言いかけるが、ジュリアは聞き入れようとしない。もはやこの状況に言葉は無意味となっていた。
「私はここを突破して活路を切り開く・・もう、誰にも邪魔はさせないわ!」
いきり立ったジュリアが健一に向かって駆け出す。彼女が繰り出した一蹴を、健一は跳躍してかわす。
「やるしかねぇってのかよ!・・・ラッシュ、行くぞ!」
“Standing by.Complete.”
健一は鍵を差し込んで回し、ラッシュを起動させる。剣の形状となったラッシュを手にして、彼は身構える。
「たとえあなたが攻撃してきても、私のやることは変わらない・・そしてこれから私たちが切り開く未来も!」
ジュリアは再び叫ぶと、アウトランナーから発せられるビームブレイドを放つ。健一はラッシュを振りかざし、その光刃をなぎ払う。
だがその直後、健一は苦悶の表情を浮かべる。彼はまだ力が回復しきっていなかった。
「この前の勢いが感じられないわ。でも同情はしない。私たちの邪魔をするものは、全て私たちの敵よ!」
ジュリアが健一に向けてさらなる攻撃を繰り出していく。健一は思うように動けず、呆然一方に陥ってしまう。
(何とか踏みとどまるしかねぇ・・せめてリッキーが来るまで、生き延びねぇことには話にならねぇ!)
健一も負けじと力を振り絞り、ラッシュを振りかざす、重みのある一閃を叩きつけられて、ジュリアが後ずさりする。
「くっ!まだまだ!」
ジュリアも健一を倒そうと、全身全霊を賭けて挑みかかった。
男に導かれて建物の中にある広場に足を踏み入れた少女。ジェネシス・アースと称されたその少女は、持てる力を解放しようとしていた。
「では始めるとしようか。私が長年追い求めてきた新世界。その介入の第一歩を。」
男の呼びかけに少女は頷く。彼女の体から漆黒の霧のような光があふれ出してきた。
(ジェネシス・アースは創世をつかさどる存在。全てを無に還す闇の力と、全てを生み出す光の力を兼ね備えている。なんびとたりとも、彼女の創世の力を阻むことはできない。)
男の中で歓喜が膨らむ。少女が植え付けられた狂気を解き放ち、本能の赴くままに破壊行為を開始した。
突如膨れ上がった魔力を感じ、えりなたちは眼を見開いた。
(な、何、この力・・!?)
驚愕した明日香がその魔力の発生した方向、時空管理局本局に振り返る。
「この力・・もしかして、カオスコア・・・!?」
えりなはその魔力の正体に感付いた。彼女を形成していた邪なる魔力体、カオスコアのものと酷似していた。
「まさか、アイツが入り込んだのか!?」
「いいえ。彼女はまだ向かっている最中よ。これは別の、さらに強大で禍々しい魔力・・」
マコトの侵入と思ったヴィータに、バサラが呼びかける。
「あれだけの魔力を本局で発生させたら、管理局が・・!」
「とにかく、早くやめさせないと・・!」
フェイトとなのはも深刻さを募らせて言いかける。だが彼女たちの前にローグが立ちはだかる。
「あなたたちの相手は私だと言ったでしょう。」
ローグがえりなたちに向けて鋭く言いかける。ジャスティのシャープビットに包囲されて、彼女たちは毒づく。
そのとき、無数の水色の光の弾が飛び込み、ローグを退ける。えりなたちが振り向いた先には、オーリスを構えたアクシオの姿があった。
「アクシオ!」
「待たせたね、明日香、みんな。今のうちに本局に向かうよ。」
明日香が呼びかけ、アクシオが笑顔を見せる。
“Aqua sphere.”
アクシオは間髪置かずに再び魔力の弾を放ち、ローグをけん制する。だがローグはえりなたちを見逃さない。
だがそのとき、アクシオの発した「アイスバインド」に気付き、ローグが回避行動を取る。だが彼はこれで、えりなたちの移動を許してしまう。
「しまった!」
毒づいたローグはシャープピットをジャスティに戻し、えりなたちを追いかけていった。
別ルートから本局に向かっていたシグマ。仲間たちのことを気にかけながらも、彼は未来を切り開くために行動を続けていた。
その間にシグマは、本局から発せられた魔力を感じ取っていた。その魔力に疑念を感じながらも、彼は本局への進行を諦めなかった。
そのとき、シグマは立ちはだかる人影を目の当たりにして進行を止める。眼前に立ちはだかっていたのはアレンだった。
「お前・・以前にあったな・・・」
「これ以上、お前たちの暴挙を認めるわけにはいかない・・ここでお前たちを止める!」
淡々に告げるシグマにアレンが鋭く言い放ち、ストリームを構える。
「私たちは立ち止まるわけにはいかない・・この世界の本当の平和をつかみ取るために、私は戦う!この私の全てを賭けて!」
叫ぶシグマがアレンに飛びかかる。彼が振り下ろしたスティードを、ストリームが受け止める。
「お前がどうしても、戦うことでしか未来を切り開けないというなら、僕はお前たちに、絶対に負けるわけにはいかない!・・行くよ、ストリーム!」
“Jawohl.”
アレンの呼びかけにストリームが答える。彼が振りかざした一閃がストリームのドライブチャージによる威力の向上を伴い、シグマの重みのある攻撃を跳ね除ける。
「そのデバイス・・グラン式と思ったが、元々はベルカ式のアームドデバイスか・・」
「その通りだよ。ストリーム・インフィニティーは僕の相棒だ。僕とともに修羅場を潜り抜けてきた仲間だ。」
シグマの指摘にアレンが淡々と答える。シグマはアレンの眼つきが、迷いのないものと受け止めていた。
「お前も数々の死線を垣間見てきたのだろう。ならばお前にも理解できないはずはない。人間としての扱いをされず、虐げられてきた私たちの心を!」
シグマが感情をあらわにして、再びアレンに飛びかかる。アレンは跳躍して、シグマが振り下ろすスティードをかわす。防御よりも回避のほうが最善の選択肢と判断したからだった。
「的確な判断だ。私とスティードの攻撃を立て続けに受けきることは不可能に近いからな。」
シグマは低く告げると、続けて一閃を繰り出す。とっさにストリームで受け止めようとするが、アレンはその攻撃に突き飛ばされる。
「私も負けるわけにはいかないのだ。私の背にも、多くの人々の命運がのしかかっているのだからな!」
シグマは決意を言い放ち、アレンに向けて攻撃を続行した。
本局から突如発生した強大な魔力を感じ取り、ヴィッツ、ダイナ、カタナ、シグナム、リインフォース、アギトが足を止めていた。
「この魔力・・これまでのロアのものとは違いますね・・」
「だが危険なものと判断するのが妥当だろう。すぐに沈静化させる必要があるぞ。」
カタナの言葉にヴィッツが答える。
「ロアの動きにも十分に注意を払う必要がある。気を引き締めろ。」
ダイナの呼びかけにシグナム、リインフォース、アギトも頷く。彼らは一路、本局に向かおうとした。
だがその眼の前で爆発が起こり、ヴィッツたちが足を止める。彼らは注意を強めて、その爆発での煙を見据える。
そこには複数の人物が立ちはだかっていた。彼らは慄然さを漂わせて、ヴィッツたちに眼を向けていた。
その人物たちにヴィッツとカタナが眼を疑った。
「お前たち、なぜここに・・!?」
「知っているのか、ヴィッツ?」
声を荒げるヴィッツがシグナムが問いかける。その集団はデルタをはじめとした管理局に逮捕されていたロアのメンバーで、その中にギーガ、パッソ、ハーツの姿もあった。
「我々が逮捕したロアのメンバーたちだ・・第4研究部に身柄を預けていたはずだが・・」
「脱走してきたんじゃないの?さっさと拘置所に送らねぇから・・」
ヴィッツの説明にアギトが口を挟む。そのとき、ダイナがギーガたちの様子がおかしく思え、眉をひそめた。
「気をつけろ。この者たち、様子がおかしいぞ。」
その言葉にヴィッツ、カタナ、シグナムが眼を凝らす。ギーガたちから各々の感情がまるで感じられない。
「目標発見。これより排除を開始する。全員、戦闘開始。」
ギーガが無表情のまま言葉を口にする。するとロアのメンバーがいっせいにヴィッツたちに向かって飛びかかっていく。
「まずい!散開しろ!」
ヴィッツがとっさに呼びかけ、2手に別れて回避する。ギーガたちも2手に別れて、追撃していった。
右方向のビルの屋上に着地したダイナ、シグナム、アギト。ギーガ率いるロアのメンバーが彼らに向かって押し寄せてきた。
「どうなっているのかは知らないが、このまま放置するわけにもいかないぞ。」
「彼らの行動を止める・・アギト、やるぞ。」
「任せておけって!大人数の相手、一気に蹴散らしてやる!」
ダイナ、シグナム、アギトが声を掛け合う。シグナムとアギトがギーガたちの前に立ちはだかり、意識を集中する。
「ユニゾンイン!」
アギトがシグナムの中に入り込む。シグナムの髪と騎士服の桃色が薄紫へと変色し、背中に2対4枚の炎の羽が広がる。。
炎の魔力を備えたシグナムと、炎のユニゾンデバイスであるアギト。2つの炎を掛け合わせた騎士が、襲い来るロアの前に立ちはだかる。
「剣閃烈火!火龍一閃!」
シグナムとアギトの声が重なる。炎をまとったレヴァンティンを振りかざすと、ロアに向けて灼熱の炎の一閃が解き放たれる。
その炎に巻き込まれて、ロアのメンバーの多くが昏倒するが、ギーガは拳を地面に叩きつけて大きく飛び上がり、炎を回避していた。
そこへダイナが飛び上がり、空中にいるギーガに向けてヴィオスを振り下ろす。ギーガもグローブ型アームドデバイスをまとった拳を繰り出し、その重みのある一閃を跳ね返す。
「何っ!?」
攻撃を跳ね返されて突き飛ばされたダイナが驚愕する。以前対峙したときをはるかに凌駕する力を、ギーガは備えていた。
一方、一気に殲滅したはずのロアのメンバーの数人が立ち上がってきた。さらに後続からメンバーが押し寄せてきたことも相まって、シグナムとアギトは毒づいていた。
「コイツら、やっぱり何かヘンだぞ!」
「あぁ。あの耐久力もだが、人としての生気がまるで感じられない・・まるで人形か機械の類だ・・」
ロアの様子に疑念を抱く2人。それでもその猛威を止めるべく、2人は迎撃に専念した。
左方向の路地に来ていたヴィッツ、カタナ、リインフォース。ダイナたちと合流することを念頭に置きながらも、2人はロアを退けることを優先することにした。
「まずはロアを止めることに専念しよう。我々が退避すれば、彼らは周囲に攻撃の矛先を向けることになる。」
「分かっています、ヴィッツさん・・行きましょう!」
ヴィッツとリインフォースが声を掛け合う。
「ユニゾンイン!」
意識を集中し合い、リインフォースがヴィッツに入り込んでいく。ヴィッツの金髪と騎士服の金色が白に変化し、体から白い稲妻がほとばしっていく。
「これが、リインフォースさんとのユニゾンを果たしたヴィッツさんの姿・・・」
「リインフォースと一体となった私の電撃と剣は、一騎当千を可能とする!」
カタナが驚きを覚える前で、ヴィッツがブリットを構える。ドライブチャージを施して魔力の光を宿したブリットの刀身にも、純白の稲妻が取り巻いていた。
「天に煌く雷!全てを切り裂く刃となり、立ち塞がる敵をなぎ払え!天上一閃!天刃波!」
ヴィッツとリインフォースの声が重なる。ヴィッツが振りかざしたブリットから、まばゆいばかりに煌く一閃が放たれ、向かってきたロアをなぎ払う。
「すごい・・ユニゾンを果たすだけで・・これほどの力が発揮できるなんて・・・」
ヴィッツとリインフォースの力を目の当たりにして、カタナが感嘆の声をもらす。ブリットの刀身を下に向けて、ヴィッツが爆発による煙を見つめる。
「すごいです、ヴィッツさん、リインフォースさん!これがユニゾンの力なのですね!」
喜びをあらわにしたカタナが、ヴィッツに駆け寄ってきた。
「いつか私もユニゾンをしてみたいです!まだまだ自分の可能性があることを確かめたいです!」
喜びを隠し切れずにいるカタナ。するとヴィッツは彼女に向けて微笑みかける。
「残念だが、おそらくお前はリインフォースとのユニゾンはできない。」
「ヴィッツさん・・・」
ヴィッツがかけた言葉を耳にして、カタナが笑みを消す。
「ユニゾンは互いの相性がよくなければ成立しない。ユニゾンそのものができないか、最悪、融合事故を起こしてどのような以上を来たすか分からない・・」
「そうでしたか・・すみません。突然、わがままを言ってしまって・・・」
ヴィッツに諭されて、カタナが沈痛の面持ちを浮かべる。
「だが、お前にもいずれ、かけがえのない仲間や相棒と出会うときが必ず来る。このユニゾンに勝るとも劣らない絆を伴うほどに・・」
「ヴィッツさん・・・」
ヴィッツからの激励に、カタナは笑みを取り戻す。
「まだです、2人とも!」
そこへリインフォースが呼びかけ、ヴィッツとカタナが身構える。その瞬間、煙の中から一条の刃が飛び出してきた。
「カタナ!」
ヴィッツがとっさにカタナを横に突き飛ばす。すぐさま迎撃に出たヴィッツが、その刃をブリットで弾き飛ばす。
だが別方向から来た刃が、ヴィッツの左肩に傷を付けた。
「ぐっ!」
「うっ!」
激痛を覚えたヴィッツが顔を歪め、リインフォースもうめく。斬りつけられたヴィッツの左肩から出血があふれてきていた。
「ヴィッツさん!リインさん!」
「来るな、カタナ!狙われるぞ!」
声を荒げるカタナを制するヴィッツ。そこへさらに刃が飛び込み、2人が跳躍して回避する。
狙ってきたのはパッソとハーツだった。パッソがブーメランを放ち、ハーツが手足を振りかざして真空の刃を発していた。
「戦闘能力が向上している・・ユニゾンしている我々に傷をつけるとは・・!」
毒づきながらも、ヴィッツは迎撃に打って出る。だが傷ついた体は彼女とリインフォースに重荷を背負わせていた。
ローグの援護を受けて、本局に向けて先行していたマコト。レイを救い出すため、全ての悲劇に終止符を打つため、彼女はさらに加速していた。
途中、行く手を阻む武装局員と交戦することになったが、マコトは彼らを次々となぎ払っていく。撃墜されていく局員たちを尻目に、マコトはさらに突き進む。
そのとき、一条の閃光が地上から飛び出し、マコトはとっさに進行を止める。
「これは!?」
その光にマコトは眼を見開いた。その紅い光に彼女は覚えがあった。
その直後、マコトの前に現れたのはジュンだった。ジュンはマコトに向けて迷いのない視線を送っていた。
「ジュン・・・」
「マコト・・・」
かつての親友と対面して戸惑いを見せるマコトとジュン。だがマコトはすぐに憤りを募らせる。
「僕は決めたんだ・・レイやみんなを救い出し、本当の平和をつかみ取るって・・たとえ君でも、僕は容赦しない・・・!」
「できれば戦いたくはなかった・・あなたと戦うことが本当に辛いって分かったから・・だけど、あなたがみんなを傷つけるつもりでいるなら、私はもう迷わない・・・!」
想いと決意を込めて、拳を握り締めるマコトとジュン。
「僕は君を倒して、未来を切り開く!」
「大切な人たちを守るため、私はマコト、あなたを倒す!」
言い放ったマコトとジュンが今、拳を交えようとしていた。それぞれの思いを心の中に宿して。
次回予告
ついに開始されたそれぞれの戦い。
その中で浮上していく暗躍の影。
浮き彫りになっていく謎を追い求めて、奮起するデルタの面々。
そしてついに、少年少女の前に、全ての黒幕が現れる。
小さき道化が、えりなたちに牙を向く・・・