魔法少女エメラルえりなVersuS

第18話「それぞれの決意」

 

 

 新暦76年12月1日

 

 危機的状況に陥ったミッドチルダを救うため、その知らせを受けたフェイト、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、シャリオがデルタ本部を訪れた。

「おお、久しぶりだな、君たち。」

「お久しぶりです、ユウキさん。大変でしたね。」

 出迎えてきたユウキが、フェイトと握手を交わす。

「おっ、久しぶりにあの4人組(フォーマンセル)が揃ったな。」

「エヘヘヘ。こうしてみんなとまた会えて、あたしは嬉しいです。」

 ユウキが気さくに声をかけると、スバルが照れ笑いを浮かべる。ティアナ、エリオ、キャロもこの再会を素直に喜んだ。

「ここまで来てもらってすまなかった。だけど、今回ばかりは本当に、猫の手も借りたいくらいの状況だからな。それに・・」

「それに、何です?」

 言いかけたユウキの言葉に、ティアナが疑問を投げかける。

「今回は、ロアだけと戦うってわけじゃない気がしてる・・ただの思い過ごしならいいんだけどな・・」

 ユウキは深刻な面持ちを浮かべて言いかける。その意味深の言葉に、スバルたちが当惑を覚える。

 そこへナディアとロッキーが駆けつけ、元気のある笑顔を見せてきた。

「お久しぶりですね、みなさん♪」

「ナディア、ロック、久しぶりだね♪先に来てたんだね。」

 声をかけるナディアにスバルが笑顔を見せる。するとロッキーがふくれっ面を見せて、嫉妬を募らせる。

「再会を楽しみたいところではあるんですけど・・」

 そこへエリオが真剣な面持ちを浮かべて声をかける。安らぎをひとまず胸に留めて、スバルたちも頷きかける。

「それで、なのはさんたちは?医務室にいるんですか?」

「あぁ。強力な見張り役がいてくれるおかげで、はやる気持ちを抑え込まれてるみたいだ・・」

 ティアナの言葉にユウキが肩を落としながら答える。

「とにかく、ここで立ち話も堅苦しいからな。医務室に行こうか。みんながいるから。」

「それでユウキさん、ライムさんとジャンヌさん、はやてさんたちは?」

 フェイトたちを促すユウキに、キャロが問いかけてきた。

「連絡はしてあるよ。もうすぐ着くんじゃないか?」

「ライムやシグナムたちと会えて、本当に全員集合というところですね・・」

 それに答えるユウキに、フェイトが微笑みかける。彼らは一路、デルタ本部内の医務室へと向かうこととなった。

 医務室にいるえりなやなのはたちは落ち着いた様子だった。ヴィヴィオやリッキーたちがそばにいるため、彼らは軽い運動もできずにいた。

「あっ、フェイトちゃん、スバル、みんな・・」

「元気そうだね、なのは。大ケガしたって聞いたから心配してたんだよ・・」

 笑顔を見せて声をかけるなのはに、フェイトが安堵を込めて答える。

「えりなちゃんもケガが治ってきたみたいだね。」

「そろそろ包帯が取れますよ。なのはさんやジュンちゃんに比べたらかすり傷ですよ。」

 スバルがかけた言葉に、えりなが照れ笑いを浮かべる。

「みんな辛い思いをしてるのに、ちょっとしたことで音を上げてる場合じゃないですよね。」

「えりなちゃん・・・そうだね・・みんなを守るために頑張る。あたしたちは、そのためにここに来たんだからね・・」

 えりなが切実な心境で語りかけると、スバルが微笑んで頷く。

「やっぱりやる気十分だったみたいだね。」

 そこへ気さくな声がかかり、えりなたちが医務室の出入り口のほうに振り返る。そこにはデルタ本部を訪れたライムとジャンヌの姿があった。

「ライムちゃん、ジャンヌちゃん、久しぶりだね。」

「うん。なのはも無事だったみたいだね・・9年前みたいにボロボロになっちゃったかと、心配になっちゃったよ・・」

 笑顔を見せるなのはに、ジャンヌが安堵の笑みをこぼす。

「傷だらけになったえりなやなのはさんの代わりに、今度は私が体を張りますよ、みなさん。」

「そうだよ♪あたしたちだってやれるんだってところ、みんなに見せてあげちゃうんだから♪」

 明日香と玉緒も意気込みを見せる。それを見たライムが感心とばかりに笑みを見せる。

「そのやる気には敬服するが、今はまだ大人しくしといてくれ。本番になって空回りしたんじゃたまんないからな。」

 そこへユウキが声をかけて、えりなたちをいさめる。それを受けたえりなとなのはが大人しくベットに横たわる。

「ところで、ロアの現在の動きはどうなってますか?」

「今のところ目立った動きはない。襲撃に出てこないのが、こっちにとっては不幸中の幸いだ。」

 フェイトの問いかけにユウキが答える。クラナガンの襲撃以来、ロアは一切襲撃の動きを見せていない。

「とにかく、今のうちに療養して、体勢を整えておくんだ。今度は最終決戦と言わんばかりの勢いで攻められそうな気がしてる・・」

 ユウキの言葉にえりなたちが頷く。彼らは次の戦いに備えて、それぞれの準備を続けるのだった。

 

 その頃、ジュンは苦悩にさいなまれていた。彼女は突如として魔力を発揮することができなくなってしまったのだ。

 肉体も精神も異常がなく、フレイムスマッシャーもフレアブーツも正常の作動が可能となるまで回復したにもかかわらず、デバイスの自動発動によるもの以外の魔法が使えなくなった。しかも使える魔法も、効力は通常の数分の一にも満たないものだった。

「おかしいわね。どこも異常はないはずなのに・・・」

 デルタ本部に赴いていた精密技術官、マリエル・アテンザが、ジュンの異常に思い悩む。

「いったいどうしてしまったんでしょうか・・こんなの初めてですよ・・・」

 ジュンもこの事態に不安にならずにいられなかった。

「もしかして、魔法を使うことに、無意識に拒絶しているのではないかな?」

「無意識に、ですか?」

 マリエルの言葉にジュンが疑問符を浮かべる。

「一種のトラウマかな。魔法を使って何かを傷つけてしまい、それが無意識に自分の魔法を嫌悪してしまっている。そういうケースも少なくないのよ。」

「魔法を嫌悪・・・もしかして!?

 思い立ったジュンが声を荒げる。彼女は魔法が使えなくなった原因に気付いたのだ。

「マコト・・・私、あの時、マコトと戦って、魔力を暴走させたせいで、街や人々を・・・」

 愕然となったジュンがその場にひざを付き、体を震わせる。

「だから、私が魔法を嫌ってたから、魔法が使えなかった・・・私は恐れているんだね・・魔法で、誰かを傷つけてしまうことを・・・」

「ジュンちゃん・・・」

 絶望感にさいなまれ、ついに眼から涙をこぼすジュン。彼女の姿にマリエルも動揺の色を隠せなくなっていた。

「自分を怖がったらあかんよ。」

 そのとき、ジュンは突如声をかけられ、うつむいていた顔を上げる。その声は部屋の入り口から聞こえてきた。

 そこにいたのは4人の少女と女性、青い毛の獣、そして小さな3人の少女たちだった。

「あの、あなたたちは・・・?」

「なんだい、なんだい。この烈火の剣精のアギト率いる八神ファミリーを知らないなんて、逆に驚きだよ。」

 ジュンが疑問を投げかけると、小さな赤髪の少女、アギトが呆れた素振りを見せる。

「何をいっているのですか。あなたも新参者ではありませんか。」

「うるせぇっての。いちいちあたしの言葉に文句言ってくるなよ。」

 そこへ銀髪の少女、リインフォース・ツヴァイが口を挟む。それに反発したアギトが炎を発し、リインフォースを威嚇する。

「やめなさい、2人とも。公衆の面前でもこんなことをして、私まで恥ずかしくなるではないの。」

 そこへ黒髪の少女、バサラがリインフォースとアギトをいさめる。だがアギトは引き下がろうとしない。

「文句ならあのバッテンチビに言ってくれよ。いちいち突っかかってくるから、あたしも・・」

「穏便に事を済ませたいのは、あなたも同じでしょう?私が穏やかでいられるうちに、あなたも剣を鞘に収めましょうね・・・!」

 だが詰め寄って、とてつもなく恐ろしい表情を見せてきたバサラに、アギトが思わず押し黙った。

「おめぇら、いい加減にしとけって。大人気ねぇぞ。」

 そこへ赤髪の少女、ヴィータが半ば呆れながら言いかける。彼らがどんな人物たちなのか理解できず、ジュンはきょとんとしていた。

「ジュンちゃん、調子のほうは・・・」

 そこへネオンがジュンを気にして姿を見せてきた。だが彼らの姿を眼にして、慌てて敬礼を送る。

「ネ、ネオンちゃん?」

 ジュンが疑問符を浮かべると、ネオンが慌てて彼女の頭を下げさせる。

「ちょ、ちょっと、ネオンちゃん!?

「何やってるのよ、ジュンちゃん!この方々はあの八神はやて二等陸佐と、ヴォルケンリッターだよ!」

 驚きの声をかけるジュンに、ネオンが小声で鋭く言い放つ。しかしなかなか鵜呑みにできず、ジュンは言われるままに敬礼を送る。

 八神(やがみ)はやて。なのはやフェイトたちの親友で、かつて起動六課を設立し、その部隊長を務めた人物である。現在は特別捜査官として、ヴォルケンリッター、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リインフォース、アギト、バサラとともに任務に当たっていた。

 今回、はやてたちはユウキと連絡を取り合い、このデルタ本部を訪れたのだった。

「あなたね、デルタの春日ジュンは?」

「はい・・すみません。時空管理局にも入り立てで、事情とかそういうのにもあまり詳しくなくて・・・」

 はやてが声をかけると、ジュンが言い訳染みた返事をする。

「私たちとははじめましてになるね。私は時空管理局特別捜査官、八神はやて言います。」

「はじめまして。私、新しくデルタのフォワードとなりました、春日ジュンです。」

 互いに自己紹介をしながら、はやてが差し出してきた手をジュンが取り、握手を交わす。

「八神二佐、みなさんは医務室にいますよ。案内します。」

「それなら心配しないで。ここは前に来たことがありますから・・」

 ネオンが声をかけると、シャマルが笑顔を見せてきた。

「ではせめて、みなさんに知らせさせてください。会えるのを楽しみにしていますから・・」

 ネオンはそういうと、医務室に向かって駆け出していった。

「けっこう元気なヤツもいるもんだな。」

 ネオンの活発な様子を見て、ヴィータが笑みをこぼす。

「ではそろそろ行きましょう。いつまでもここにいたら、みんながなだれ込んできそうですから。」

「そうやな。みんなは先に行ってて。私はこの子に用事あるから。」

 シグナムの言葉を受けて、はやてが言いかける。

「だったらあたしも一緒に・・」

「私だけで平気やて。ヴィータはなのはちゃんたちのところに行ってあげてな。」

 口を挟んできたヴィータを、はやてが言いとがめる。ヴィータは渋々納得して、シグナムたちとともに医務室に向かった。

「そんでマリー、ジュンに何があったん?」

 はやてに訊ねられて、マリエルは事情を説明した。

 

「なのは!無事だったのか!・・よかった・・・」

 医務室を訪れたシグナムたち。なのはの無事を確かめて、ヴィータが安堵を浮かべる。

「ヴィータちゃん、みんな、来てくれたんだね・・・はやてちゃんは?」

「今、ジュンというデルタのフォワードと会ってる。ちょっとそいつに用があるって。」

 なのはが声をかけ、ヴィータがその問いかけに答える。

「ジュンに用事?・・・あの子、悩みを抱えているみたいで・・・」

 それを聞いたえりなが深刻な面持ちを浮かべる。そこへ沈黙を守ってきたザフィーラが、えりなに向けて声をかけてきた。

「己が抱えている試練は、己の力で乗り越えなければならない。お前が鍛えた者ならば、それを乗り越えられると信じられるはずだ。」

「ザフィーラさん・・・そうですね・・私と健一の教え子なんだから、私が信じなくてどうするんだって話ですよね・・・」

 励まされたえりなが、決意を思い起こして頷く。だがそこで彼女は、健一に対する心配を思い返す。

「健一、ロアに捕まっているのだろう?・・気がかりにならないほうがムリか・・」

 シグナムがえりなの心境を察して、深刻な面持ちを浮かべる。健一はロアに人質とされ、安否を確かめることもできないでいた。

「あああーーー!あ、あ、あなたは!」

 そのとき、医務室を訪れたカタナが突然大声を上げる。その声にえりなたちが唖然となる。

「守護騎士ヴォルケンリッターの将にして、剣の騎士・・シグナム二等空尉・・・こんなところでお会いできるなんて・・・!」

 歓喜の声を上げるカタナが、シグナムに駆け寄って深々と頭を下げてきた。

「自分、デルタのフォワードの、カタナ・カワサキ準陸尉です!お手合わせを、お願いできますでしょうか!」

「あ、あぁ・・それは構わないが・・もう少し落ち着いてからにしておけ。」

「あ、あわわっ!す、すみません!分かってはいるのですが、この喜びを抑えることが・・あ、あ、あわわ・・!」

 シグナムが半ば呆れながら答えるが、カタナは落ち着く様子が見られない。それほどシグナムと会えたことが嬉しかったのである。

「カタナさんは強い剣士を目指していて、ヴィッツやシグナムさんに憧れているんです。」

 明日香が説明を入れると、カタナが気恥ずかしくなって言葉が出なくなってしまう。

「とにかく一息入れよう。体を動かすのはそれからでもいいよね。」

「そうだな。そうさせてもらおう、テスタロッサ。」

 フェイトが呼びかけ、シグナムが微笑んで頷く。

「では私はジュンの様子を見てきますね。ジュンが悩んでいるなら、私が解決できるようにしてあげないと。」

「あたしも行くぞ。えりなが鍛えたヤツがどんなもんなのか、ちょっと拝見してくる。」

 えりながジュンのところに向かおうと医務室を出て、ヴィータもそれに続く。

「結局、全員集合になっちゃったね。起動六課フォワードメンバーの・・」

 その後、ジャンヌが唐突に声をかけてきた。それを聞いたなのはたちが思わず苦笑いを浮かべる。

「そうだね・・みんな、それぞれの道を歩いていって・・正直、プライベートで会うことはあっても、全員一緒に仕事をこなすっていうのはないと思ってた・・・」

「でも、こうしてみんなとまた会えたことも正直嬉しい。そうだよね、なのは。」

 なのはが切実に語りかけると、ライムが気さくに話を続ける。その言葉になのはだけでなく、明日香やフェイト、スバルたちも頷く。

「でも今度は私も一緒だからね、みんな。」

 そこへ仁美がやってきて、なのはたちに声をかけてきた。

「仁美さん、お久しぶりですー♪」

 リインフォースが笑顔を見せて、仁美に近づいてきた。彼女を自分の肩に乗せて、仁美も微笑みかける。

「本当に手のひらサイズね。でも、中身は大きいんだよね?」

「もちろんですよ。はやてちゃんやシグナムさん、ヴィッツさんたちの力になってますよ♪」

 仁美が声をかけると、リインフォースが自信を込めて答える。

「けど、あたしの魔力のほうがデカいけどね。他の連中には負ける気がしないっての。」

「何を言っているんですか。ユニゾンデバイスとしては私のほうが先輩なんですから。」

 そこへアギトが食って掛かり、リインフォースがこれに反論する。

「やれやれ。あなたたちは手に負えないわね・・」

 この2人のやり取りにあきれ返るバサラ。3人のユニゾンデバイスを見て、仁美が笑みをこぼす。

「本当に、私が妊娠中の間に、いろいろなことがあったみたいだね・・」

「そうですね・・今までだけでもいろいろとありすぎて、話し始めたら明日になってしまいそうなくらい・・」

 仁美の言葉を受けて、シャマルも切なさを浮かべて答える。これまで彼らは数々の経験や思い出を得てきた。楽しいことも悲しいことも、そのひとつひとつがかけがえのないものとなっていた。

「今回は私も戦うよ。起動六課みたいにってわけにはいかないかもしれないけど、みんなの仲間としてなら・・」

「心配しなくていい。仁美、あなたはもう、私たちの仲間であり、親友だ・・いつでもどこでも、ともに戦っていける・・これまでも、これからも・・・」

 決意を告げる仁美に、シグナムが励ましの言葉をかける。これを受けて、仁美が微笑んで頷く。

「ところで仁美さん、ユウキさんは?」

「うん。連絡の取り合いに追われてるの。大きく出たから、周りがうるさくてね・・」

 リインフォースからの問いかけに、仁美が苦笑を浮かべて答える。それぞれ思いを胸に秘めて、次の戦いに備えるのだった。

 

 次の攻撃に向けて着々と準備を進めるロアの面々。その中でシグマは、ポルテの検診を受けていた。

 シグマはかつて肉体への調整を強要され、人造魔導師同然の体質となってしまった。誰がこのようなことをしたのか、彼はその正体を依然としてつかめていなかった。

 強靭な力を得た代わり、シグマの寿命は著しく低下していた。その寿命の予測を、ポルテは常に立てていたのだ。

「普通に生活していれば、10年は生きられるようだけど・・大きな力を使って体への負担をかければ、それも怪しくなってくるわ・・」

「そうか・・・全ての力をつぎ込めば、向こうの難攻不落の城壁を崩すことくらいはできるだろう・・・」

 深刻な面持ちを浮かべて診察の結果を告げるポルテに、シグマが苦笑気味に言いかける。その言葉にポルテは胸を締め付けられるような感覚を覚える。

「何を言っているのよ、シグマ・・あなたの体は、いつ壊れてもおかしくない状態なのよ!ここまで無事でいられることが奇跡といっても過言じゃないわ!」

「お前には本当に感謝している、ポルテ・・お前が、私やマコト、多くの仲間の面倒を見てくれるおかげで、私たちは生きながらえている・・」

 たまらず声を荒げるポルテに対し、シグマが物悲しい笑みを浮かべて答える。するとポルテがシグマを背後から抱きしめてきた。

「だったらどうして・・・あなたの命は、あなただけのものではないのよ・・・」

「分かっている・・だがそれでも、やり遂げなくてはならないことがあるんだ・・・」

 想いを募らせるあまり、眼から涙を流すポルテ。だが、それでもシグマの決意は変わらない。

「シグマ・・私は、あなたを失いたくない・・・務めていた研究部から切り捨てられ、地獄を這いずり回っていた私を救い上げてくれたのは、あなたなのだから・・・」

「私も、お前のことが好きだ・・・ポルテ・・・」

 想いを告げるポルテに、シグマも自分の心境を打ち明けた。

「私やお前が味わったような、地獄を思わせる悲劇を繰り返させてはならない・・そのためにも、私たちは戦わなければならない・・・」

 あくまで確固たる信念を貫き通すシグマ。もはや何を呼びかけても意味がないと悟り、ポルテは押し黙ることにした。

 

 時空管理局の撃破とレイの奪還を胸に秘めて、マコトは集中力を高めていた。そんな彼女のいる部屋のドアがノックされ、彼女は体を休める。

 入ってきたのはローグだった。彼はマコトの前に立ったところで声をかけた。

「マコト、あなたに話しておきたいことがあります。とても重要な話です・・」

「重要な話?それだったら僕よりもシグマに話したほうが・・」

「いいえ。これはマコト、あなただからこそ話したいことなのです・・・」

 ローグの神妙な様子に戸惑いながらも、マコトはその話に耳を傾けることにした。

「マコト、ロアのメンバーの多くは、クローンや戦闘機人など、普通の人間でない存在であるといえます。私もその例にもれることなく、異形の存在として生を成しています。」

「ローグ・・君は・・・」

「あなたもご存知の通り、管理局には現在、高町なのはと坂崎えりな、2人のエースオブエースがいます。ですがそのエースの存在を快く思わない人間もいたのです。」

 当惑するマコトに向けて、ローグが語りかける。苦い記憶を思い起こさせて、彼は歯がゆさを募らせる。

「その人間の集まりによって、最強の人造魔導師の生成と育成が立案、実行されました。それは当時、潜在能力の向上がしやすく、馴染みがあった、プロジェクト・フェイトを活用して・・プロジェクト・フェイトはクローン技術の大きな発展をもたらしました・・非合法ながらも・・」

「以前現れたフェイト・テスタロッサ・ハラオウン、エリオ・モンディアル、ロッキー・トランザムもそうだって聞かされた・・・まさか、ローグも・・・」

「はい・・私もそのプロジェクト・フェイトによって生み出されたクローン・・コードネーム“エースキラー”の1人なのです・・・」

 ローグが告げた言葉に、マコトが息を呑む。

「エースキラーはエースを倒すためだけに存在するクローンの集団・・最強の人造魔導師の誕生とそのデータの収集と蓄積のために彼らが行ったのは・・・エースキラー同士の、バトルロワイヤルです・・・」

「バトルロワイヤル・・殺し合いをしたっていうのか!?

 衝撃の事実を聞いて、マコトが声を荒げる。人の命をないがしろにするその行為に憤りを覚えたのだ。

「私はその殺し合いを強いられ、生き残ったエースキラーの1人です。ですが追い求めていた理想のエースキラーに行き着く前に、時空管理局の手が回りました・・」

「管理局が・・・」

「これまでモルモット同然の扱いを受けてきた私たちは、管理局の保護を受けて虐待から解放されるはずでした・・ですが、彼らは私たちエースキラーを危険分子と判断し、抹殺を図ったのです・・」

 次々と語られるローグの過去。改めて時空管理局の対応に憤りを覚え、マコトは拳を強く握り締めていた。

「エースキラーの中で生き残ったのは私だけでした。管理局もエースキラーである私を発見することができず、捜索を打ち切りました。」

「それでローグも、ロアのメンバーに・・」

「研究者の方針に従うことになってしまうのは癪に障りますが、時空管理局の対応にも賛同しかねますからね・・私は私の信念に基づいて、時空管理局を葬り去ります・・・!」

 ローグがマコトの前で鋭く言い放つ。彼が感情をあらわにするのは滅多にないことだった。

「でもローグ、どうしてこのことを、僕に・・・?」

「それはマコト、あなたがこの世界の、真の平和をつかみ取ると、私が信じたからです・・・」

 マコトが疑問を投げかけると、ローグが落ち着きを見せて答える。その言葉にマコトは動揺の色を隠せなくなった。

 

 情報のやり取りのために紛争していたアレンは、デルタ本部に帰還してきた。ユウキは彼からの報告を聞いて、安堵を浮かべていた。

 その情報の内容は、なのはやはやてたちも含めたデルタのメンバーの出力リミッターの解除の申し出だった。アレンはクロノと面会し、リミッター解除の了承を得たのだった。

「すまなかったな、アレン・・本当なら通信1本で済むはずだったんだが、まだお偉いさん連中の抗議が止まらなくてな・・」

「事情を話したら、クロノさん、呆れて言葉が出なくなってましたよ・・・」

 ユウキが感謝の言葉をかけると、アレンが苦笑いを浮かべて答える。

「でも、クロノさんは了承してくれましたよ。次の戦闘から、デルタのバックアップをしてくれると約束してくれました。」

「そうか・・本当にみんなに世話になってばかりだな・・・」

「そんな・・ユウキさんの指揮がなかったら、僕たちは今頃空中分解しているところでしたよ・・」

 謝意を見せるユウキに、アレンが弁解を入れた。

 そのとき、廊下を歩く2人は近くから響いてきた。それを気にした2人は、その音がした訓練場に来た。

 そこではジュンとヴィータの対戦が行われていた。ただし2人とも各々のデバイスを使っておらず、制限された魔力と格闘技だけでの対戦となっていた。

「ジュン、ヴィータ、模擬戦か?」

 ユウキが唐突に声をかける。それに答えたのは、観戦していたえりなだった。

「ジュン、魔法が使えなくなってしまって・・ヴィータさんに発破をかけてほしいって頼んだんです。」

「魔法が使えなくなった?まだ疲れが残ってるのか?」

 疑問を投げかけるユウキに、えりなは説明を入れた。それを聞いた彼は小さく頷く。

「これは厄介だな・・こればっかりは、自分で乗り越えるしかないぞ・・」

「はやてさんもマリーさんも了承しています。私も、ジュンは乗り越えられると信じています・・・」

 深刻さを浮かべるユウキに対し、えりなは信頼を込めた笑みを見せる。

「それは私もみんなも同じやて。」

 そこへはやてがマリエルとともにユウキたちの前に現れた。ユウキが笑みをこぼすと、はやてと握手を交わす。

「久しぶりだね、はやてちゃん。わざわざすまない。」

「いいって、ユウキさん。私もみんなと会えて嬉しいんや。私たちも力になるから、遠慮せんといて。」

 挨拶を交わすユウキとはやて。2人は頷き合うと、ヴィータに立ち向かっていくジュンに視線を向ける。

「どうした?おめぇの力と勢いはそんなもんなのか?」

 ヴィータが不敵な笑みを見せて挑発する。それに触発されたかのように、ジュンは再びヴィータに向かっていく。だが猪突猛進の動きになっているため、ヴィータに軽々とかわされる。

「今のおめぇは闇雲突っ込むだけで、信念とかそういうのとかがまるで感じられねぇ。」

 ヴィータに言いかけられて、ジュンが戸惑いを覚える。

「あたしのバトルスタイルは、グラーフアイゼンを使って、眼の前に壁をブッ叩いて壊すもんだ。アイゼンなしじゃあたしはフルに力を使えねぇ。けど、今のおめぇなら、そんなハンデでも十分どうにでもなっちまうぞ。」

「ヴィータさん、私は・・」

「もしもあたしがアイゼンと一緒に攻撃を仕掛けたら、おめぇは間違いなく叩き潰されるだけじゃなく、粉々になっちまうだろうな。そんなもろい気持ちじゃ、あたしに一糸報いることもできねぇぞ!」

 鋭く言い放ったヴィータの言葉に、ジュンは息を呑む。彼女はヴィータが抱えている強い信念を感じ取ったのだ。

 はやてを守るため、騎士の仲間たちのため、そしてかつて傷ついたなのはのため、ヴィータは持てる力をつぎ込む決心をしている。自分たちの前に壁があり、それを破らなければならないのなら、迷わずに力を使って道を切り開く。それが彼女の決意だった。

「おめぇにもあるはずだろ。戦う理由っていうのが。おめぇは今まで、何のためにデルタの魔導師として頑張ってきたんだ!?

 ヴィータに呼びかけられて、ジュンは自分の心境を確かめる。彼女の脳裏に、これまでの戦いと交流の日々がよぎってきた。

 ともに訓練と任務をこなしてきたクオンとネオン。厳しさと優しさをもって自分を鍛えてくれたえりな、健一、なのは。再会とすれ違いを経て、ついに衝突に発展してしまったマコト。

 様々な経験を決意を経て、今の自分がいる。自分を支えてくれる人たちの願いを、絶対にないがしろにしてはいけない。

 守りたいものがある。救いたい人がいる。そのために必要な力なら、それを使うことを恐れたり嫌ったりしてはいけない。

「マコト・・ネオンちゃん・・・クオンくん・・・私は・・・」

 大切な人たちに対する自分の本当の気持ちを思い返して、ジュンは決意を思い起こす。自分の胸に手を当てて、今まで揺らいでいた気持ちを安定させる。

「クオンくんにこの気持ちを伝えたい・・・マコトにこれ以上、罪を重ねてほしくない・・・そのために私は、私の中にある力を使う・・それが罪だというなら、私は喜んで背負っていく!」

 ジュンが決意を言い放った瞬間だった。彼女の握り締めた両手に、紅い魔力の光が煌いた。今まで心の奥底に追いやられていた力が、深い眠りから覚めたのだ。

「ジュン・・・」

「ジュン、やったね。魔法が、あなたの力が戻ったね・・」

 これを見たヴィータとえりなが微笑みかけ、ユウキとはやてが頷きかける。両手の中からあふれてくる光を眼にして、ジュンは戸惑いを感じていた。

「もう迷いません・・私もあなたやみなさんのように、立ち塞がる壁をぶち破ります・・私の持てる全力で!」

 思い立ったジュンがヴィータに向かって駆け出す。ジュンは魔力の光を宿したまま、拳を繰り出す。

 ヴィータが障壁を展開するが、ジュンの打撃はその障壁さえも打ち破る。一瞬眼を見開くヴィータだが、復活したジュンを素直に喜んだ。

「その意気だ。それなら大抵のことなら自力で乗り切れる。その調子でおめぇの力を信じろ。おめぇは1人じゃねぇんだからな。」

「ヴィータさんの言うとおりだよ。心の強さはその人の気持ち次第で強くも弱くもなる。1人じゃない人は、心が弱くなるなんてことはない。自分の力を信じていれば、どんなことだって乗り越えられるから・・」

 ヴィータに続いてえりなも微笑んで声をかける。そしてえりながジュンの頭を優しく撫でる。

「あなたにも、私のような負けん気の強さがあるし、かけがえのない仲間や友達がいる・・今のあなたを、そう簡単には止められないよ。」

「それは私よりもえりなさんたちに言えること。そうですよね。」

 激励を送るえりなに、ジュンも笑顔を返す。

「やったね、ジュンちゃん。」

 そこへクオンがネオンとともにやってきて、ジュンに声をかけてきた。

「クオンくん・・ネオンちゃん・・・」

「あたしはジュンちゃんに何度も励まされてきたんだよ。今度はあたしがジュンちゃんを支える番だね♪」

 戸惑いを見せるジュンに、ネオンが笑顔を向けてきた。親友たちの支えを実感して、ジュンは喜びを抑えきれず、眼に涙を浮かべていた。

「ありがとう・・・ありがとう・・みんな・・・」

 ジュンはたまらず、クオンとネオンに飛びついた。2人は泣きじゃくってくる彼女を受け止め、その友情を確かめていた。

「これからも、一緒に頑張っていこうね、ジュンちゃん・・・」

「一緒にマコトちゃんを助け出そうね・・僕たちならできる・・・」

「うん・・・そうだね・・クオンくん・・ネオンちゃん・・・」

 優しく声をかけてくるクオンとネオンに、ジュンも涙ながらに微笑んで頷いた。

 

 多くの研究員が尽力を注いでいる研究室。そこへ男が3人の人物を連れて入ってきた。

 3人は黒のマントを頭まで被っており、素顔をうかがうことはできない。

「主任、こちらのデータ収集は順調です。」

「そうか。この3人も最終調整を終えて、外に出したところだ。彼女同様、私たちの命令に忠実に従うようにしてある。」

 敬礼を送る研究員に、男が不敵な笑みを浮かべて言いかける。男は部屋の奥に進み、その先にいる1人の少女の前で立ち止まる。

「3人も相当の数値の高さを示しましたが、彼女には及ばない。なぜなら、彼女こそが私の最高傑作なのですからね。」

 男は少女を見つめ続けて、笑みを強めていく。

「これぞ新たな時代を切り開く、人類の進化の結晶!彼女がいれば、世界は本来のあるべき形に作り変えることができる!」

 哄笑を上げる男と、それを受けて歓喜を見せる研究員たち。だが3人と少女は無表情を変えずに立ち尽くしているだけだった。

「後は出撃する機会を待つだけだ。君たちはそれまで通常通りの業務を行うように。」

 男は研究員たちに呼びかけると、少女と3人を連れて研究室を後にした。

(私が手がけた戦闘機人の総称、ジェネシス。新たな創世をもたらすジェネシスは3人。そのジェネシス最後にして最高の戦闘機人が彼女、ジェネシス・アーツなのだ・・・!)

 廊下を歩きながらも、男は歓喜を募らせていた。

 ロアの総攻撃と時空管理局の防衛。その裏で、彼らの策略が開始されようとしていた。

 

 

次回予告

 

かつての仲間たちの集結は、デルタとロアの最終対決を示唆していた。

傷ついた体に鞭を入れて、戦場に赴こうとする少年少女。

えりな、ジュン、マコト。

それぞれの思いと願いが、出撃の狼煙となって解き放たれる。

 

次回・「決戦前夜」

 

ついに、ファイナルバトルのゴングが響く・・・

 

 

作品集

 

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