魔法少女エメラルえりなVersuS

第17話「創世(ジェネシス)」

 

 

 ジュンとマコトの暴走と衝突により、クラナガンは甚大な被害を被った。

 死傷者多数。未だに行方不明となっている人までいる。施設の多くも建て直しまでかなりの時間を要することとなった。

 そしてこの出来事の原因が時空管理局の局員が引き起こしたとして、人々は管理局に対して避難や不審の声を上げていた。長い歴史の中で次元世界の法と平和を守ってきた管理局にとって、前代未聞の忌々しき事態だった。

「何だか、とんでもないことになってしまったな・・・」

 この現状を垣間見たユウキが深刻な面持ちで言いかけ、仁美も頷く。

「真っ向から否定できないというのも事実よね。現にジュンの暴走で、こんな事態になってしまったわけだから・・」

「それで、ジュンやみんなの具合はどうなんだ?」

「命に別状はないけど、任務や戦闘を行うにはきつい状態よ。なのはちゃん、ジュン、クオンはまだ眼を覚ましていないし・・・」

「そうか・・オレたちだけでも、万全の状態を保っていないとな。いつまたロアが襲ってくるか分からないからな・・」

 仁美とユウキは言葉を交わすと、デルタ本部内の廊下を進んでいく。

「管理局への批判の声が強まってる・・私たちデルタにも飛び火してるよ・・」

「むしろオレたちに集中砲火してるな・・この事態を引き起こした張本人の1人がオレの部下だからな・・」

「それを自覚してるのに、ずい分と落ち着いてるじゃないの。」

「ヘンにジタバタしたって意味がない。それに、こういうときこそ落ち着かないと、みんなが混乱してしまうからな・・・」

 互いに困惑を込めて言葉を掛け合う2人。そこへデルタに合流していたナディアとロッキーがやってきた。

「おお、お前たち。わざわざすまなかったな。」

「いいえ。あたしたち、ライムさんとジャンヌさんの計らいでこちらに来ましたから。」

 気さくに振舞うユウキに、ナディアが笑顔を見せる。

「それでロック、破損したデバイスの具合はどうなの?」

「ボロボロになってたヤツはホントにひどい有様だったぜ。フレイムスマッシャーもフレアブーツも自己修復してるけど、回復まで時間がかかるぜ。」

 仁美の問いかけにロッキーが憮然とした態度で答える。

 ロッキーは第1研究部に所属した後、デバイスに関するノウハウを覚えていった。今ではデバイスマイスターの資格を有しており、必要時にデバイスの面倒を見ることもある。

「特にレイジングハートにはホントに複雑な気分だぜ。もしもレイジングハートがバリアを張って庇わなかったら、なのはがどうなってたか・・・」

「そうだったか・・相棒思いのいいヤツだよ。伊達に10年以上の付き合いじゃないってわけだ。」

 苦言を呈するロッキーに、ユウキが思わず苦笑いを浮かべる。

「それで、お前たちの上官さんたちはどうしてる?」

「はい。2人ともそれぞれ用事があって、それを済ませてからこちらに来るそうです。」

 ユウキの問いかけにナディアが答える。

「分かった。とりあえず医務室に行こう。みんな疲れ切ってるから・・」

 ユウキたちは一路、えりなたちのいる医務室に向かった。

 

 デルタの医務室では、負傷者がベットで横たわっていた。その中でジュン、クオン、なのはは眠り続けたままだった。

 誰もが心身ともに疲弊していた。デルタ本部の機能は持ち直したものの、負傷と人々からの避難で滅入っていた。

「こういうの、ホントにイヤな感じだよね・・」

 えりなが沈痛の面持ちを浮かべて、呟くように言葉をかける。負傷していた彼女の左肩は良好に向かいつつあった。

「僕もやれるだけのことをやり抜いた。後はみんなが元気な姿を見せてくれるのを信じるしかないよ。」

 そこへリッキーがえりなに声をかけてきた。

「そうだね・・ここまで来たら、信じて待つだけだよね・・みんな、いろんな逆境を越えてきてるんだから・・・」

 えりなが笑顔を取り戻して頷く。

 そのとき、意識を取り戻したクオンとなのはが、体を起こしてきた。2人とも体の痛みを感じて、顔を歪めていた。

「イタタタ・・こ、ここは・・・」

「ママ・・めがさめたんだね・・・」

 周囲を見回すなのはに向けて、ヴィヴィオが喜びを見せてきた。その声を耳にしたなのはが、ヴィヴィオの頭を優しく撫でた。

「ゴメンね、ヴィヴィオ・・あなたに心配かけて・・・」

「よかった・・・ママ・・ホントによかった・・・」

 微笑みかけるなのはに対し、ヴィヴィオが大粒の涙をこぼして泣きじゃくってきた。

「クオンくん、眼が覚めたんだね・・よかったぁ・・・」

「ネオンちゃん・・・僕、あのとき・・・」

 喜びの笑みを見せるネオンに、クオンが当惑しながら記憶を巡らせる。

「マコトちゃんの注意を引きつけて、それで攻撃を受けて・・・あれから、どのくらいたったの・・・!?

「あれから3日たったよ・・リッキーさんの話だと、1週間は意識が戻らないんじゃないかってことだったけど・・・」

 声を荒げるクオンに、ネオンが困惑の面持ちを浮かべながら答える。

「丁度なのはさんも眼を覚ましたとこだよ。後はジュンちゃんだけだね。」

「ジュンちゃんが・・・!?

 ネオンの言葉にジュンが再び声を荒げる。慌てて飛び起きたため、体の痛みを感じて顔を歪める。

「まだムリしたらダメだよ、クオンくん・・九死に一生を得たとこだったんだからね。」

「ゴメンゴメン・・ビックリしちゃったからつい・・・」

 心配の面持ちを浮かべるネオンに、クオンが苦笑いを浮かべる。だが改めてジュンに眼を向けて、2人は沈痛の面持ちを浮かべる。

「クオンくんを傷つけられて、ジュンちゃん、ものすごく怒ったんだよ・・それでマコトちゃんとケンカになって・・2人の凄い力の影響で、クラナガンが・・・」

 ネオンが言いかけて、悲痛のあまりに言葉を続けられなくなってしまった。その様子から、クオンも事態が尋常でないことは容易に想像がついた。

 そこへユウキ、仁美、ナディア、ロッキーが医務室にやってきた。

「お、噂をすれば、2人は眼が覚めたようだな。」

「ユウキさん・・すみません。迷惑をかけてしまって・・」

 気さくに声をかけてきたユウキに、なのはが謝罪の言葉をかける。

「いや、気にしないでいい。こうして無事でいてくれたことが、みんなにとって喜ばしいことなんだ。」

「でも、またみんなに迷惑をかけてしまって・・あのときみたいに・・」

「ストップ。それ以上はなし。そうやって自分を責められるほうが迷惑になるからさ。」

 昔、瀕死の重傷を負ったときのことを思い返したなのはに、ユウキが激励の言葉を投げかける。その気持ちを察して、なのはは安堵を見せることにした。

「みんなにも今回のことで連絡を入れてある。ずれはあるが、みんな集まってくるって信じてる・・・」

 ユウキのこの言葉に、えりなたちが笑みをこぼす。かつての仲間たちと再会できることに、彼らは素直に喜んだ。

 

 時空管理局本局の1室にて、ゴウはある人物と面会していた。それは同じ執務官で、なのはやフェイトの親友である。

 小室ライム。特務部隊「ハイネ隊」所属。スピードを重視した魔法とスタイルを備えており、「切り込み隊長」と呼ばれることもある。

 今回、ライムはある諸問題における執務で動いており、ゴウとの面会を果たしていた。その傍ら、彼女はナディアを先にデルタに派遣。援護に回していた。

「お前さんと会う機会はあまりないな。お前さんのライバルとは、時々会ってはいるがな。」

「僕もあなたみたいな気さくな人が相手なら、気楽に話ができるんだけどね・・」

 憮然とした態度で声をかけるゴウに、ライムも笑みをこぼす。だがすぐに真剣な面持ちになって、彼女は話を切り出す。

「話は分かっていますね?今回の話題は春日執務官、あなたの娘さんに大きく関わることなんですから・・先日起きたクラナガンでの魔力暴発も、彼女の仕業なのですから・・」

「だが、それはな・・」

「分かっています。彼女も本意であんなことをしたとは僕も思っていません。ただ、あることを確認したいだけです・・」

 弁解を含めて、ライムが話を続ける。気持ちを落ち着けたところで、ゴウは改めて口を開いた。

「あれは不幸な事故というべきなのだろう・・だが、オレたちとしてはそう割り切れるものではなかった・・・」

「手を出したのですね・・戦闘機人への改造手術に・・・」

 ライムの言葉にゴウが小さく頷く。

 戦闘機人は人体に機械が植えつけられている機械人間のことを指す。人体実験と同様、倫理的、技術的に問題視されているが、常人を超えた身体能力を発揮することができる。

 その戦闘機人への改造手術は非合法である上に、人体の機能との適合性がかみ合わず、実現不可能とされてきた。だが近年の犯罪者の中で、その改造手術を実現させた経験を持つ者が出てきた。

 プロジェクトF同様、この改造手術を蘇生の手段として持ちかけ、裏取引をすることもある。家族の荒んだ心に付け込み、打算的に取引を行う例も少なくない。

「失いたくはなかった・・ジュンを・・・それはアイツも、ケイも同じ気持ちだった・・・」

「・・話してもらえますね・・春日ジュンさんのことを・・・」

 微笑んで言いかけるライムに対し、ゴウは全てを打ち明けた。

「あれは1年半前のことだ・・ジュンは散歩中に、道路に飛び出した子供を助けようとして、車にひかれた・・当たり所が悪く、ジュンは1度は死亡した・・・だがオレたちは認めたくはなかった・・大切な娘が、こんなに早く命を終えることなど・・・」

「それが、あなたたちが手術の取引をした発端なんですね・・・」

「あのときのオレたちは、ジュンが生きて帰ってきてほしいという願いしか頭になかった・・だからオレたちは、戦闘機人への改造手術の誘いに乗ってしまった・・・」

 歯がゆさと後悔を感じて、苦悩するゴウ。

「結果、ジュンは蘇った・・戦闘機人“タイプ・ジェネシス”の1人として・・・その後はケイとのケンカが絶えなかった・・このような非合法に手を染めてしまったことで、オレたちはいつしか考えが合わなくなり、挙句の果てに別居・・お笑い種だな・・」

 語っていくうちに苦笑を浮かべるゴウ。だがライムは深刻な面持ちを浮かべるばかりだった。

「タイプ・ジェネシスは、確認されている上では3人。ジェネシス・サンのジュンさんとジェネシス・ムーンの秋月マコト、あと1人、ジェネシス・アース・・・」

 ライムが告げた言葉にゴウが頷く。真実を明らかにしつつまとめ上げるため、彼女はさらに問い詰めていくのだった。

 

 同じ頃、ケイもジュンに関することで質問を受けていた。訪れていたのは時空管理局第一技術部所属の魔導師だった。

 ジャンヌ・F・マリオンハイト。なのはやライムたちの親友で、デバイスや兵器の開発や試験に着手している。回復魔法の他、重力、空間操作の魔法を得意としている。

 ジャンヌもジュンがタイプ・ジェネシスの1人として、ケイと面会を果たしていた。彼女も事前にロッキーをデルタに先に派遣していた。

 ケイはジャンヌに全てを打ち明けていた。ジュンがジェネシス・サンであることを。

「あなたもゴウさんも、戦闘機人への改造手術に対する誘いを受けてしまった・・そういうことですね・・・」

「なぜあのときに思い留められなかったのか、今でも後悔を感じるわ・・ジュンに、死よりも重い重荷を背負わせることになってしまって・・・」

 ジャンヌの言葉を受けて、ケイが罪悪感を募らせる。いくら娘を助けたいとはいえ、自分たちがしたことが全てを裏切る大罪であることに対し、彼女は自分を攻めずにいられなかった。

 するとジャンヌが微笑みかけて、ケイに言葉をかける。

「子供を助けたいと思わない親はいませんよ・・あなたたちは、ジュンさんのために苦渋の決断をした。自分たちの全てを投げ打ってでも、彼女を助けようとした・・その気持ちに、偽りはないはずです・・・」

「ジャンヌさん・・・ありがとう・・あなたにそういってもらえると、気が楽になるわ・・」

「親子の気持ちは、私も少なからず理解しているつもりです。私の友人の多くが、家族や友情で苦い経験をしています。ですがみんな、自分自身の強さと、仲間たちからの支えを受けて、それを乗り越えてきました・・私もみんなに助けられ、そして今はみんなを助けて、支えあっています・・・」

 ジャンヌの言葉を受けて、ケイは微笑んで頷く。

「それで、私たちは罪に問われることになるの・・・?」

「現時点では問われないでしょう。あなたたちは親としての責任を全うしようとした・・非合法に手を出したのはいけませんが、その親の愛情を責めることは、誰もできません・・・」

 不安の言葉を投げかけるケイに、ジャンヌは落ち着いた態度で答える。その答えにケイは複雑な心境に駆られていた。

「後は私たちに任せてください。私の知り合いに、戦闘機人に詳しい人がいますし。私たちが支えて上げれば、ジュンさんの精神も安定するはずです・・・」

「ジャンヌさん・・・分かった。後はあなたたちに任せるわ。デルタと、かつて起動六課にいたあなたたちを・・・」

 席を立つジャンヌに、ケイが信頼を込めた言葉をかける。

「ゴウさんのほうにも、私の友人が面会しています。同じように話をつけていますよ・・・それとひとつ、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「それは時空管理局捜査官としての申し出?それとも、あなた個人の?」

「それはあなたの思ったとおりに。」

「それで、そのお願いというのは?」

 問いかけるケイに、ジャンヌは間を置いてから答えた。

「これからはゴウさんと仲良くしてあげてください。そして、いつかジュンさんと家族で、楽しい時間を過ごしてあげてください・・」

「・・・後者はともかく、前者は聞けるかどうか分かんないわね・・・」

 ジャンヌの願いに対して、ケイは苦笑いを浮かべた。

 

 ミッドチルダの人々は、時空管理局に対して強い疑念を抱いていた。ジュンとマコトの暴走に対する非難の声が鳴り止むことはなく、管理局の上層部は頭を悩ませるばかりだった。

 深い苦悩と試行錯誤の末、上層部はデルタ・コマンダーであるユウキに矛先を向けることとなった。

「これは忌々しき事態ですぞ、神楽部隊長。」

 提督の1人がユウキに問い詰める。他の提督や部隊長たちも、ユウキの向けて懸念の声を浴びせてくる。

「確かにこれまでデルタは数々の難事件を解決に導いてきた。」

「その指揮を執ってきた君だけでなく、部隊に所属する局員たちの功績も見事という他ない。」

「だがこの度の不始末、とても見過ごせるものではないぞ。」

「局長直属の特別部隊であろうと、全てが認められるわけではない。」

 次々と飛び交うユウキの責任に対する発言。だがそれは次第に、個人的主観が織り交ざったものとなっていく。

「そもそも私は、デルタという存在そのものに疑問を感じていたのだ。あんなひよっこばかりの寄せ集めが、なぜ部隊として成り立つのか。」

「時空管理局の歴史に長く携わっている我らが、成り上がりの若僧に出し抜かれるようなこと・・」

「局長の承認を得て特別扱いされていると思い上がった挙句の果てがあの有様だ。」

「こんな小僧の率いる部隊の存続など、私は断固反対だ!」

「すぐに部隊を解散させ、全員を追放すべきだ!」

「そうだな!デルタの存在をなくせば、人々も納得してくれようぞ!」

 ついに理不尽な発言まで飛び出し、今まで押し黙っていたユウキがついに口を開いた。

「ずい分と好き勝手が過ぎますね、あなたたちは。」

「な、何だとっ!?

 周囲が声を荒げる中、ユウキはさらに続ける。

「確かにオレは若い。あなたたちと比べたらまだまだひよっこだ。ですが、そんなオレでも、今どういう状況にあるのかは理解できる。もちろん自分たちのこともだ。」

「貴様!何という無礼を!」

「己の失態を棚に上げて、生意気な口を叩きおって!」

 ユウキの発言に対して怒号を上げる一同。

「静粛に!審議会の場であるぞ!」

 そこへ議長が呼びかけ、騒然となっていた議会が静まり返る。議長がユウキに眼を向けて、毅然とした態度で言い放つ。

「デルタ部隊長、神楽ユウキ一等陸佐に申し渡す。局員への指揮権の剥奪と、デルタの解散。」

 議長の下した決断に、議会に再び声が湧き上がった。

「以後の防衛は、各部隊の合同部隊が執り行う。神楽一佐は3日以内に部隊の解散と報告書の提出を・・」

「残念ですが、その申し出を受け入れるわけにはいきません。」

 議長の言葉をさえぎって、ユウキがこの決定に反論する。議会が再び騒然となる中、彼は話を続ける。

「確かにこれはオレたちの失態です。自分たちの部下が暴走し、世界や人々を傷つけ、悲しみを植えつけてしまった罪は計り知れないものです。責任は果たされるべきだと、オレも思います・・・ですが、辞任することだけが、責任の取り方ではありません!」

 言い放つユウキが、拳を強く握り締める。

「もうこれ以上、誰かが苦しんだり悲しんだりするのを見たくない!自分がまいてしまった災厄なら、自分で始末をつけなくてはならない!だからオレたちは、オレたちの全てを賭けて、ロアの猛威を止める!それがオレたちの、大罪の償いだ!」

「貴様!この期に及んで何という暴言!」

「これ以上の失態をさらして、何の恥もないというのか!?

「身の程知らずの若僧が!いつまでも図に乗るな!」

 ユウキの発言に対して、再び怒号が飛び交い始める。

「連中のような部隊など即刻解散させるべきだ!汚点は早急に払拭させるに限る!」

「アンタたちの答えは聞いてない!これはオレたちのけじめであり、オレたち全員がやらなくちゃいけないことなんだ!」

 上層部の怒号を、ユウキは鋭く言い放って黙らせる。騒然となっていた議会が再び静寂に包まれる。

「ロアはまた攻撃を仕掛けてくる。今度は最後の決戦とばかりに死に物狂いでな。その攻撃からみんなを守るために、オレたちも全てを賭けて戦う!」

 ユウキは決意の言葉を言い放つと、周囲からの憤慨の声や制止を聞かずに、議会から立ち去っていった。混乱に満ちた議会の中で、議長は神妙な面持ちを浮かべていた。

 

 議会を途中退室したユウキは、憮然とした面持ちを浮かべたまま廊下を進んでいた。するとその先には仁美とアレンが待っていた。

「どうしたんですか?まだ議会が終わる時間では・・」

「みんな融通が利かないんで、ボイコットしてきた。」

 アレンが問いかけると、ユウキが憮然さを崩さずに冗談交じりに答える。

「どっちにしても、これで引くに引けなくなったってことよね、あなたも、私たちも?」

「そうだな・・どっちにしても、ここまで来て尻尾巻いて逃げるわけにもいかないからな。あれだけ上層部に大見得切ってきたし・・」

 仁美の問いかけに、ユウキが肩を落としながら答える。3人は真剣な面持ちになって、これからのことを考える。

「ロアの動きに十分注意するんだ。その間に体勢を整えて、いつでも全力を出せるようにしておくんだ。」

「分かっています。次のロアの襲撃に備えて、僕もみなさんも準備を進めています。」

 ユウキの言葉にアレンが答える。3人は自分たちのやるべき責務のため、動き出そうとしていた。

 

 第4研究部の最近の行動を不審に感じ、調査を行っていたリーザ。彼女は単身、研究部の潜入捜査を敢行していた。

 その研究室の1室に足を踏み入れ、リーザは捜索に当たっていた。

(この第4研究部で不審な行動が継続されているのは確か。彼らは拘束したロアのメンバーの身柄を、この場から出していない・・何かに利用されていると見て間違いないでしょう・・)

 胸中で思考を巡らせながら、リーザはさらに足を進めていく。

(必ず見つけ出してみせます。もしも重罪に相当する暗躍をしているのでしたら、ロアを見つけることでその証拠を握ることもできます。)

 隠された秘密を暴くため、意を決するリーザ。彼女は淡い明かりがもれている部屋を発見し、徐々に近づいていった。

 その部屋をのぞき込んだところで、リーザは驚愕を覚える。そこでは実験と酷似した手術が行われていた。

 数人の研究員に囲まれている中でその手術を受けていたのは、1人の少女だった。彼らの顔を眼にしたとき、リーザはさらなる驚愕を覚える。

(あの人は・・・!?

 その愕然さのあまり、一瞬冷静さを欠いたときだった。

 リーザは突如、頭の中を電気が駆け抜けたような感覚を覚える。意識を保つことができなくなり、彼女はその場に倒れる。

 その背後で、1人の少年が彼女に冷たい視線を向けていた。

「僕たちに対してこのような暴挙に出るとは・・ですがそれがあなたにとって仇となったわけです。」

 少年はリーザに向けて冷たく告げる。するとその物音に気付いたのか、研究員たちが部屋から姿を見せてきた。

「どうやら侵入者のようだね。しかし私たちに対して査察とは、あなたも浅はかになりましたね、リーザ・アルティス。」

 その中の男がリーザをあざ笑う。少年の放った電撃のため、リーザは眼を覚まさない。

「いかがいたしますか?洗脳することも可能でしょうが。」

「いえ、彼女はこのまま拘束しておこう。洗脳しても戦闘での戦力にならないし、洗脳しようとして、向こうに彼女の危機を気取られても面倒だし。」

 少年の問いかけに男が悠然さを崩さずに答える。

「分かりました。彼女は牢獄に幽閉しておきます。」

 少年が頷くと、リーザが2人の研究員に連れて行かれる。彼女は世界の影に潜む野望が、着々と進行しようとしていた。

 

 暴走に陥り魔力を消耗したため、深い眠りについていたマコト。彼女はポルテからの療養を受け、ようやく意識を取り戻した。

「あ・・あれ?・・・僕は・・・?」

「眼が覚めたようね。あれから1週間が経過したのよ。」

 おぼろげな様子で周囲を見回すマコトに、ポルテが安堵を浮かべながら答える。

「1週間も寝ていたのか!?・・・僕は、何を・・・?」

「覚えていないの?あなたはクラナガンで、とんでもない暴徒と化したのよ。」

 ポルテの言葉に驚きを見せるマコト。彼女は横たわっていたベットから起き上がろうとしたが、体の痛みを覚えて思いとどまる。

「ムリをしないで。あなたはまだ動ける状態ではないのよ。」

「だけど、僕はあのとき何をしていたのか・・・」

「それなら画像を記録してあるから・・それで確かめなさい。もっとも、この惨状を見て、あなたが辛くなるかもしれないという後ろめたさはあるけど・・」

 深刻な面持ちを浮かべるポルテに、マコトが困惑を見せる。ポルテがコンピューターを操作して、クラナガンの映像を見せる。

 崩壊の大地と化したクラナガンを目の当たりにして、マコトが息を呑んだ。敵地とはいえ、これはあまりにも悲惨な光景だった。

「これはあなたがやったことよ。正確には、暴走したあなたと、あなたの親友がね。」

「あれが、僕がやったのか・・・アイツは!?高町なのはは!?

 説明を入れるポルテにマコトが問い詰めてくる。そこへシグマとローグが2人のいる部屋にやってきた。

「シグマ、ローグ・・・」

「私から話そう。あのとき、お前の身に何が起こったのか・・」

 さらなる困惑を見せるマコトに、シグマが気持ちを落ち着けて語り始める。

「お前は高町なのはと交戦中、突如内に秘めていた力を覚醒させた。その力を持って高町なのはを撃退したが、その後同じ力を暴走させた春日ジュンと交戦。結果お前たちは相打ちとなり、戦いの影響でクラナガンは崩壊へと追い込まれた・・」

「僕とジュンが・・・僕は、見境をなくしていたのか・・・」

「いいえ。あのときあなたは確かに意識を持っていました。ただし感情を高ぶらせていたあなたは、その怒りの赴くままに力を振るっていたのです。」

 シグマに続いて、ローグもマコトに向けて説明を入れる。

「時空管理局は街の復旧作業と部隊の編成に尽力を注いでいます。私たちの次の攻撃に備える意味を込めて。」

「だったら今のうちに攻撃をしよう!連中が回復しないうちに!」

「いや。満身創痍なのは我々も同じだ。攻撃を仕掛けても、こちらも無事では済まなくなる・・」

 勇み立つマコトだが、シグマに言いとがめられる。

「とにかく、回復しきっていないのはお前だけではない。レイを取り戻したいとはやる気持ちは分かるが、光を焦ってつまらないことで倒されたら元も子もない。」

「シグマ・・・」

「今は体を治せ。それがオレたちが勝利をつかむための、現在の最善手だ。」

「私もシグマと同意見です。今度の戦いの鍵はマコト、あなたなのですから・・」

 シグマとローグに励まされて、マコトは気持ちを落ち着ける。だが彼女はジュンに対するわだかまりを拭えずにいた。

(ジュン、僕は・・・僕は・・・)

 一抹の苦悩を抱えたまま、マコトはベットに横たわり、再び眠りについた。

 

 同じ頃、デルタ本部内の医務室にて意識を取り戻したジュン。室内の明かりがまぶしく、彼女は眼を細める。

「ここは・・・私は・・・?」

「あっ!眼が覚めたんだね、ジュンちゃん!」

 おぼろげになっていたところへ、ネオンの喜びの声が飛び込んできた。

「リッキーさん、ジュンちゃんが眼を覚ましましたよー!」

 ネオンの呼びかけを受けて、リッキーだけでなく、えりな、クオン、明日香が駆け寄ってきた。

「ジュンちゃん、大丈夫?どこかおかしいところとかない?」

「クオンくん・・うん・・体はそんなに痛くないし・・・あれ?」

 ジュンがクオンに向けて答えようとしたときだった。彼女は自分の右手の感覚に違和感を覚え、動かしてみると筋肉音の中に機械音が混じっていた。

「破損してしまったからパーツを付け替えたんだよ。もう少しすれば、馴染んで安定するはずだって。」

「そうですか・・・」

 リッキーが説明を入れると、ジュンは物悲しい笑みを浮かべて頷く。戦闘機人である彼女も、人と機械の中間に当たる存在だった。

 ジュンの右手はマコトとの激しい戦いと、彼女自身の膨大な魔力の放出による過剰な付加により破損していたのだ。

「フレイムスマッシャー、フレアブーツは自己修復装置にかけて回復を急いでいるよ。レイジングハートとスクラムは完全回復したけど・・」

「もしかして、私が力任せに戦ったせいで、フレイムスマッシャーもフレアブーツも・・・」

 リッキーがさらに説明を続けると、ジュンが悲痛さを募らせる。

(ゴメンね・・私が頭に血を上らせたから・・・ホントにゴメン・・・)

 自分を責めるジュンが、自分の胸に手を当てて、体を震わせる。そのとき、クオンがジュンのその体を優しく抱きしめてきた。

 その突然の抱擁にジュンが戸惑いを覚える。そして彼女はそこでようやく、クオンがそばにいたことに気付く。

「よかった・・ジュンちゃん・・眼が覚めて、ホントによかった・・・」

「クオンくん・・・無事だったの・・・!?

 お互いの無事を確認して、喜びの言葉を掛け合うクオンとジュン。ジュンもクオンの体を優しく抱きしめていた。

「ちょっと2人ともー、とりあえず公衆の場だからー。」

 そこへえりながからかいの言葉をかけてきた。それを耳にしたジュンとクオンが我に返り、抱擁をやめて赤面する。

 えりなたちもなのはたちも、このやり取りに笑みをこぼしていた。ジュンとクオンも安らぎを感じて、照れ笑いを見せた。

「リッキーさん、少し、歩いてきてもいいですか?体がなまってきちゃったっていうか・・」

「それならいいよ。ただし本部の中だけ。しかも、ネオンちゃんと一緒でだよ。」

 ジュンの申し出をリッキーが条件付きで了承する。彼女はネオンに支えられながら、一路外へと向かった。

「ジュン、本当に大丈夫なのかな・・・?」

「少しは体を動かしておいたほうが、治りが早いってこともありますからね・・」

 心配の言葉をかけるなのはに、えりなが微笑みかけて答える。彼女たちもそれぞれの戦いに備え、体を休めるのだった。

 

 ネオンに支えられながら、ジュンはメンテナンスルームを訪れていた。そこではデバイスや兵器に携わる研究員が、修理と整備に尽力を注いでいた。

 そこでジュンは、その中で自己修復を行っているフレイムスマッシャーとフレアブーツを目の当たりにする。彼女は再び胸の苦しさを覚え、沈痛の面持ちを浮かべる。

「ゴメン・・私のせいで・・あなたたちにケガをさせちゃって・・・」

Don't worry,my master.(気にしないでください、マスター。)

 謝罪の言葉を投げかけたジュンに、フレイムスマッシャーが声をかけてきた。その呼びかけにジュンが戸惑いを覚える。

We are always with you. We are not regrettable in damaged etc. because those of us.(私たちはいつでも、あなたと共にあるのです。そのためでしたら、私たちは傷つくことなど惜しくはありません。)

「フレイムスマッシャー・・フレアブーツ・・・」

Your power will be endured this time. Therefore, master must try for all one is worth hesitatingly.(今度はあなたの力に耐えてみせます。ですからマスターは迷わずに、全力を出し切ってください。)

 いろいろな時間と苦楽をともにしてきた相棒たちの励ましに、ジュンは奮い立つ。彼女の体の震えが治まり、落ち着きを取り戻す。

「そうだね・・・こんなときこそ、真っ直ぐ突き進んでいかないとね・・・」

 笑みをこぼしたジュンが、自分の右手をじっと見つめる。

「もう怒って見境を失くしたりしない・・もう1度マコトと会って、話し合って・・・」

 ジュンが想いを膨らませて、自分の中にある魔力を呼び起こそうとした。激しい魔法が使えなくても、魔力を実感することぐらいは可能と思っていた。

 だがそのとき、ジュンは自分自身の魔力を感じ取ることができず、違和感を覚える。

「どうしたの、ジュンちゃん・・?」

「・・出ない・・私の魔力が・・・」

 問いかけるネオンに、ジュンが再び体を震わせながら答える。予期せぬ事態に、彼女は動揺の色を隠せなかった。

 

 

次回予告

 

混迷する世界を守るため、デルタに次々と集結していくかつての仲間たち。

その中で、魔法が使えなくなったことに、ジュンは苦悩する。

次々と飛び交う様々な思い。

ジュンとマコトに託される、一抹の願い。

 

次回・「それぞれの決意」

 

彼らを待ち受ける運命とは・・・?

 

 

作品集

 

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