魔法少女エメラルえりなVersuS

第16話「邪なる覚醒(後編)」

 

 

こんなこと、私は望んでいなかった。

 

本当は仲良くなれるはずだった。

友達や家族のために、いつも一生懸命になっていた。

だから私の気持ちも、きっと分かってもらえると思っていた。

 

でも、何もかも荒れてしまった。

あの人の心だけじゃなく、私自身まで。

 

私たちは壊れてしまった・・・

 

苦しみと悲しみに満ちたこの街のように・・・

 

 

 突如異常といえる魔力を放出したマコト。彼女は動揺の色を隠せないでいるなのはに向けて、鋭い視線を投げかける。

「殺す・・・高町なのは、貴様だけは、絶対にオレが殺してやる!」

 怒りに駆り立てられて、持てる力を放出するマコト。その直後、彼女が一気になのはの懐に飛び込んできた。

 マコトの加速にさらに驚愕するなのは。マコトの突進に押されて、なのはは突き飛ばされる。

(は、速い・・!)

 マコトの力に脅威を覚えるなのは。何とか踏みとどまって体勢を整えるも、マコトが再び突っ込んできた。

「殺す!殺す!殺す!貴様だけだ、絶対に殺してやる!」

 怒りの赴くままに力を使う殺人鬼と化したマコト。徐々に高まっていく彼女の力に、なのはは次第に追い込まれていくのだった。

 

 マコトの膨大な魔力の上昇を、デルタ本部は感知していた。

「秋月マコトの魔力数値が上昇中!このままではSクラスに到達する可能性も・・!」

「コマンダー、直ちに高町教導官を援護しなくては!」

 カレンとルーシィが報告しつつ、ユウキに呼びかける。

「明日香たちとアレンたちはどうなっている?」

「みなさん、ロアとの交戦で手一杯のようです!」

 ユウキの声にエリィが答える。全員が交戦と人々の救助に尽力を注いでおり、なのはの援護に回れないでいた。

「彼女の近くにいるのは?」

「春日ジュンとクオン・ビクトリアです!」

「2人に援護に向かわせろ。これ以上なのはちゃんに負担をかけさせるな!」

 ユウキの呼びかけを受けて、クラウンたちがジュンとクオンに連絡を入れた。

 ユウキは胸中で歯がゆさを抱えていた。自らなのはの援護に向かいたかったが、自分がここを離れれば、デルタ本部は無防備になる。デルタのコマンダーとしての責務のため、ユウキはここに留まるしかなかった。

 

 さらに暴走するマコトの猛攻に吹き飛ばされ、なのはは市街の建物のひとつの壁に叩きつけられた。防戦一方となり、彼女は反撃に転ずることができないでいた。

(このままじゃやられてしまう・・エクシードモードでも防ぎきれない・・・!)

 打開の糸口を必死に探るなのは。マコトは彼女を狙って、さらに突っ込んできていた。

(このピンチを乗り切るには、ブラスターモードを使うしかない・・でも、レイジングハートに負担をかけることになる・・・!)

 なのはは切り札を使うことを躊躇していた。リミットブレイクモード「ブラスターモード」は最大出力の砲撃を可能とするが、なのはにもレイジングハートにも大きな負担がかかることになる。

 そんな彼女の迷いを吹き飛ばすかのように、マコトが拳を繰り出してきた。

Hoop bind.”

 なのははとっさにフープバインドを発動し、マコトの体を縛りつける。その間に距離を取り、次の判断のための時間を稼ぐ。

(このままの状態でいても、やられてしまう・・・迷っている暇はない!)

 判断を下したなのはの脳裏に、えりなの顔が浮かび上がる。

「えりなも、レイジングハートもそう思うよね・・・?」

Please muscle up as I don't worry.(私を気にせずに、全力を出してください。)

 微笑んで呟きかけるなのはにレイジングハートが答える。マコトはさらに増大する魔力を放出させ、フープバインドを強引に引きちぎる。

「レイジングハート、ブラスター・・!」

「ビッグバン・テラ!」

 なのはがブラスターモードを起動させようとしたときだった。マコトが持てる魔力を一気に放出してきた。

 その膨大なエネルギーを両手に収束させ、マコトがなのはに向けて解き放つ。レイジングハートが最終形態を取る前に、なのはがその閃光に巻き込まれる。

「えっ・・・!?

 その瞬間にジュンは眼を疑った。マコトの放った閃光の直撃を受けて、なのはが力なく落下していく。

 なのはは体勢を整えることなく、地上に落下する。今の攻撃で彼女は意識を失っていた。

「なのはさん・・・まずい!落とされた!」

 思い立ったクオンが声を荒げる。道の真ん中に倒れて動けないでいるなのはに向けて、マコトが再び魔力を解き放とうとしている。

「僕がマコトちゃんを食い止める!ジュンちゃんはなのはさんを!」

「それなら私がマコトを!」

「僕より君のほうが速い!それに今はマコトちゃんを止めることよりも、なのはさんを助けることが先決だよ!」

 クオンはジュンに呼びかけると、マコトの攻撃を食い止めるべく飛び出した。ジュンはやむなく、なのはを助けるために動き出した。

Drive charge.”

「グラビティスラッシュ!」

 魔力を込めたスクラムを振りかざし、クオンが一閃を放つ。なのはばかりに気を取られていたマコトが、この一閃を受けて怯む。だが膨大な魔力の放出が防御壁の役割をしていたため、マコトは全くダメージを受けていなかった。

「邪魔をするなら、誰だろうと容赦はしない・・全員叩き潰してやる!」

「くっ!」

 叫ぶマコトに毒づくクオン。彼女の魔力の放出が、彼に向かって飛んでいく。

 クオンは跳躍して、魔力の衝撃波を回避していく。マコトがいきり立って彼を追いかける。

(注意は引き付けたけど、あんなものが何度も撃たれたら、街が持たない!)

 クオンはこれ以上街へ被害を及ぼさないため、街から離れようとする。だが背後で閃光による爆発を背に受けて、彼は横転する。

 即座に立ち上がるクオン。だが彼の前には、魔力をあふれさせているマコトが立ちはだかっていた。

「逃がさないぞ・・オレたちの敵は、誰1人逃がさない!」

 マコトがクオンに向かって飛びかかり、拳を繰り出す。クオンも魔力を帯びたスクラムを振りかざし、迎え撃つ。

 だがマコトの攻撃は重く、クオンは受け止めきれずに吹き飛ばされる。

「ぐあっ!」

 痛烈な打撃を受けて、その先の建物の壁に叩きつけられる。激痛が全身を駆け巡り、彼は吐血する。

 痛みでまともに動けないでいるクオンを見据えて、マコトが魔力を拳に込める。

「ダメ!」

 そこへジュンが駆けつけ、マコトに呼びかける。

「クオンくんは私の友達!だからマコトとも分かり合えるって!」

 ジュンが必死に呼びかけるが、マコトには届いていない。

「マコト!」

 ジュンが叫ぶ前でマコトが飛び出し、クオンに向けて拳を繰り出す。魔力を込めた一撃がスクラムに亀裂を刻みつけ、クオンを吹き飛ばす。

「クオン!」

 クオンに向けて悲痛の叫びを上げるジュン。激しく横転したクオンがうつ伏せに倒れ込み、動かなくなる。

「クオン・・・!」

 眼の前で起きた現実を受け入れることができず、愕然となるジュン。彼女は小刻みに震える自分の体を押さえることができずにいた。

「どうして・・・マコト・・どうしてクオンくんを・・・!?

 ジュンがマコトに向けて、呟くように言いかける。

「クオンくんは何もしていないじゃない・・クオンくんも私と同じように、あなたの友達になろうとしてた・・それなのに・・・」

「友達?・・時空管理局の人間は全員、オレの敵だ!倒されて当然なんだよ!」

 ジュンの悲痛の叫びを一蹴するマコト。その態度に、ジュンの中で激しい憤怒が込み上げてきた。

「当然って何よ・・時空管理局の局員だからって理由だけで、クオンくんを傷つけたっていうの・・・!?

 ジュンの体から紅い稲妻がほとばしってきた。その直後、彼女の体から赤い霧のようなものがあふれ出してきた。

「許せない・・こんなこと、私は絶対に許せない・・・クオンくんをそんな理由で傷つけたあなたを、私は絶対に許せない!」

 怒りを爆発させた瞬間、ジュンが紅い魔力を放出させる。それはマコトと同じ魔力の暴走だった。

「アンタだけは、絶対に許さない・・・マコト!」

 怒りに駆り立てられたジュンが叫ぶ。彼女の心には、マコトに対する憎悪しかなかった。

 

「春日ジュンの魔力数値が急激に上昇しています!」

「何っ!?

 カレンの報告を耳にして、ユウキが声を荒げる。モニター画面にも、膨大な魔力を放出しているジュンの姿が映し出されていた。

「まずいぞ・・あれだけの魔力を放出した状態で2人がぶつかったら、被害が一気に広がる・・最悪、市街が壊滅するぞ・・・!」

 振り絞るように発したユウキの言葉に、クラウンたちが息を呑む。

“ユウキさん、私が行きます!”

 そこへ医務室にいるえりなが声をかけてきた。だがユウキはこれを受け入れようとしない。

「ダメだ。いくら教え子でも、負傷している君を行かせるわけにはいかない・・・!」

 ユウキに言いとがめられて、えりなが歯がゆさを浮かべる。そばにいるヴィヴィオも沈痛の面持ちを浮かべていた。

「こうなったらオレが出る以外に、街を守る術はない・・・玉緒を本部に呼び戻してくれ。守りに徹するよう、伝達してほしい。」

「ユウキさん、まさかあなた・・・!?

 ユウキの指示にクラウンが驚きの声を上げる。

「それと局長に連絡を。オレのリミッターの解除を。あれだけの魔力を、解除しないで押さえ込むのは骨が折れるからな。」

 ユウキは不敵な笑みを浮かべながら、続けて言いかける。彼は待機状態のシェリッシェルを手にして、胸中で呟く。

(全力全開で行ってもらうぜ、シェリッシェル・・・!)

 様々な想いを背に受けて、ユウキもデルタ本部を飛び出した。

 

 爆発的な魔力を解放させたジュンとマコトの暴走に気付き、明日香たちとローグが攻撃の手を止める。

(この魔力の上昇・・マコト、あなたの持つ潜在能力を解放したのですね・・・)

 マコトの力を感じ取りながら、ローグが胸中で呟く。

(シャープビットが万全でない以上、これ以上の戦闘の継続は無意味のようですね・・・)

「今回はここまでにしましょう。あまり長引かせて、巻き添えになるのは敵いませんからね。」

 ローグは明日香たちに言いかけると、きびすを返してこの場を離れた。

「どういうことかは分からないが、あの魔力の奔流を野放しにするわけにはいかない・・すぐに向かおう!」

 ヴィッツの呼びかけに明日香たちが真剣な面持ちで頷く。

“玉緒ちゃん、あなたはすぐに本部に戻ってきて!”

 そこへクラウンからの通信が玉緒に向けて飛び込んできた。

「クラウンさん、どういうことなんですか!?

“ユウキさんが街の魔力を押さえ込むために向かったの!玉緒ちゃん、あなたは代わりに本部の守りをお願いしたいの!”

「分かりました!すぐに戻ります!」

 クラウンからの指示に玉緒が頷く。

「明日香ちゃんはユウキさんに協力して!ヴィッツたちは街のみんなを守ってあげて!」

「分かった。任せて、玉緒。」

「分かりました。こちらもお任せください。」

 玉緒の呼びかけに明日香とヴィッツが答える。彼女たちはそれぞれのやるべきことのため、散開していった。

 

 突如放出された魔力に、アレン、カタナ、ネオン、シグマ、ジュリアが動きを止める。

(この魔力・・マコトだ・・だがこの大きさ、これまでの彼女の振るっていたものを大きく上回る・・・!)

 強大なマコトの魔力、そしてそれに並行するジュンの魔力を察知して、シグマが息を呑む。

(ジュリア、お前はすぐに撤退しろ!マコトは私が連れ戻す!)

“シグマ!?どういうことなの!?”

 シグマが念話を送ると、ジュリアが声を荒げる。

(今、マコトは自分の力を暴走させている!まさに破壊の権化のように、狙った相手を滅ぼそうと力を使うだろう。周囲の状況など無関係に。)

“シグマはどうするつもりなの!?”

(もしもマコトが自分で力を全く制御できないというならば、私が連れ戻す・・・!)

 シグマの呼びかけを受けて、ジュリアが渋々頷いた。彼女がネオンから離れていくのを察してから、彼は言い放つ。

「お前たちも離れたほうがいいぞ!巻き込まれることになるぞ!」

「そうはいかない!街を放置して逃げるわけにはいかない!」

 呼びかけてくるシグマに対し、言葉を返すアレン。アレンとカタナがジュンを止めるために街に向かい、シグマも2人を追う形で飛び出した。

 

 クオンを傷つけられ、激しい怒りに駆り立てられるジュン。彼女の体からも紅のオーラがあふれ出し、眼の色も紅から金色に変わっていた。

「マコト!アンタは私が倒す!絶対に!」

「貴様もオレたちの邪魔をするつもりなのか!ジュン!」

 激情を込めて叫ぶジュンとマコト!ジュンがマコトに向けて、あふれさせていた魔力をぶつける。

 その強烈な衝撃波でマコトが吹き飛ばされる。ビルの1階フロアを突き抜けたところで、彼女が踏みとどまる。

 その貫通した穴からジュンが飛び出してきた。いきり立ったマコトが、拳を繰り出して迎撃に出る。

 2人が突き出した拳がぶつかり、激しく火花が散る。その衝撃が周囲の建物を大きく揺るがす。

「マコト!」

「ジュン!」

 マコトとジュンが一蹴を繰り出す。その衝撃の反動で2人は吹き飛ばされ、後方のビルの壁に叩きつけられる。

 だが2人はすぐに飛び出し、再度衝突する。互いの痛烈な打撃が、次々と2人の体に叩き込まれていく。それでも2人が怯まないのは、激しい怒りによる暴走故だった。

 2人の戦いの影響を受けているのは、街や人々だけでなかった。2人自身の体、そして2人の手足に装着されているデバイスにも、大きな負担がかかっていた。

 だがジュンとマコトには、眼前の相手を倒すこと以外が頭になかった。

「マコト!アンタがクオンくんを!クオンくんを!」

「貴様たちがオレたちの邪魔をするからだろうが!ジュン!」

 怒りをさらにあらわにして、攻撃を続けるジュンとマコト。フレイムスマッシャー、フレアブーツ、ライトスマッシャー、メテオブーツが破損し、電気を発していた。

The way things are going, it will fall into the system down. Please discontinue the combat action.(このままではシステムダウンに陥ります。戦闘行動を中止してください。)

 フレイムスマッシャーが呼びかけるが、ジュンの耳には届いていなかった。

 そこへユウキ、明日香、アレン、カタナが駆けつけるが、膨大なエネルギーの渦に近づくことができない。

「やめるんだ、ジュン!ミッドチルダを廃墟にするつもりか!?

 アレンが呼びかけるが、その声もジュンたちには届かない。

「やむを得ません・・ここは力ずくにでも!」

「ダメだ!ここから狙えば、街に被害が出る!」

 身構えるカタナだが、ユウキの手に制される。

「ですが、このままでも既に街は!」

「下から打ち上げる!急いで地上に降りるぞ!」

 声を荒げるカタナをいさめて、ユウキが指示を出す。明日香とアレンが頷き、降下しようとしたときだった。

 ジュンとマコトが放出させていた魔力を収束し始めた。マコトがその魔力を前にかざした両手に集める。

「くらえ!ビッグバン・テラ!」

「終わりよ!バーストエクスプロージョン!」

 マコトが魔力の閃光を放出し、ジュンも自身を取り巻く紅い魔力を爆発させる。

「まずい!伏せろ!」

 ユウキがたまらず声をあげ、明日香、アレン、カタナが地上に伏せる。2つの巨大な力が衝突し、新たな大爆発を巻き起こす。

 その余波で周囲の建物が崩壊を引き起こしていく。ユウキたちが人々を守ろうと、伏せながら周囲に障壁を展開させていく。

 やがてエネルギーと衝撃が治まり、ユウキたちが体を起こす。その壮絶かつ悲惨な光景に、彼らは眼を疑った。

 彼らの周囲は崩壊の大地と化していた。障壁に守られた人々は大事には至らなかったものの、この上ない恐怖を与えることは否めなかった。

(爆発が治まったのか・・しかし、街が・・・!)

 周囲から響いてくる悲痛の声を耳にしながら、ユウキは崩壊の街に憤りを覚える。

「みんな、無事か!?無事ならすぐに起きてくれ!」

 ユウキが明日香たちに呼びかける。すると明日香、アレン、カタナが瓦礫から這い出てきた。

「ユウキさん、私たちは平気です・・」

「ですが、他の人たちとの連絡が・・」

 明日香とアレンがユウキに言いかける。彼らが周囲を見回すが、街にいた他の仲間たちの姿を確認することができない。

(デルタ本部!状況はどうなってる!?

 ユウキが本部にいるクラウンたちに呼びかける。

“ユウキさん!よかった・・市街全域が危険な状態にあり、こちらも情報を収集しきれない状態で・・”

(そうか・・他のみんなの安否をすぐに確認しろ!特になのはちゃんとクオン、ジュンが気がかりだ・・!)

“分かりました!すぐ確認します!”

 ユウキの指示を受けて、クラウンたちオペレーター陣が、ジュンたちの行方を追った。

「なのはちゃんたちはクラウンたちが探してくれる。オレたちは人々の救助を行いながら、ロアの追撃に備えよう。」

「分かりました・・急ぎましょう・・・!」

 指示を出すユウキに、アレンが頷く。彼らは自分たちが今やるべきことを行うため、散開し、行動を開始した。

 

 混乱に満ちた街の中で、ネオンと仁美は歩いていた。ネオンは仁美に肩を貸していた。ジュンとマコトの衝突で起きた爆発に巻き込まれ、仁美は頭から血を流していた。

「大丈夫ですか、仁美さん・・?」

「うん、私は大丈夫よ。このくらいの傷じゃ、私はへこたれないわよ・・」

 心配の声をかけるネオンに、仁美が微笑んで答える。

「とにかく、すぐにリッキーさんか医療班と合流しないと・・いくら浅く見える傷でも、重傷でない保証はどこにもありませんからね・・」

 ネオンは周囲を見回して、手当ての手立てを見出そうとしていた。しばらく歩いたところで、2人は傷ついた人々の手当てをしているリッキーを発見した。

「リッキーさん!大丈夫ですか、リッキーさん!?

「あっ、仁美さん、ネオンちゃん・・僕は大丈夫です。負傷した人たちに応急措置を・・」

 ネオンの呼びかけに気付き、リッキーが振り向く。そこでリッキーは、負傷している仁美に気付く。

「大変です!仁美さん、すぐに傷を・・!」

「私は後でいいわ。それよりも街の人たちを・・」

 駆け寄ってきたリッキーに、仁美が弁解を入れる。

「今までありがとう、ネオン。私もみんなを助けに行くから・・」

「ダメですよ、仁美さん、その傷で・・救助は僕がやりますから・・」

 ネオンから離れる仁美に、リッキーが心配の声をかける。

「そうですよ、仁美さん!リッキーさんの手伝いはあたしがしますから!仁美さんはしばらくここで休んでいてください!」

 続けてネオンにも呼びかけられて、仁美はやむなくここで待機することにした。彼女は束の間の休息を取りながら、デルタ本部へ連絡を入れた。

 

 同じく人々の救助に当たっていたヴィッツ、アクシオ、ダイナ。その中で、アクシオは傷つき倒れているなのはとクオンを発見する。

「いた!ダイナ、手伝って!」

 アクシオはダイナに呼びかけながら、なのはとクオンに治癒魔法「フォンテインヒール」を発動する。

(この場で傷は消せるけど、消耗した体力までは・・でも、これだけでも、あたしが・・!)

 自分のできることを全力でやることを信念にして、アクシオは魔力を強める。そこへダイナが駆けつけ、なのはとクオンの容態を見る。

「アクシオ、2人の傷は大丈夫なのか?」

「疲れ切ってるけど、傷は治しておかないと・・」

 ダイナの言葉にアクシオが不安を込めて言いかける。

「2人はオレが担いでいく。アクシオはヴィッツと合流しろ。」

「分かった。任せたよ、ダイナ!」

 ダイナの言葉にアクシオが頷く。ダイナはなのはとクオンを抱えて、医療班と合流すべく飛翔した。

 

 デルタ本部の守りについていた玉緒が、司令室に戻ってきていた。

「大丈夫ですか、クラウンさん、みなさん・・!?

「玉緒ちゃん、私たちは大丈夫。でもクラナガンやみんなが・・・」

 玉緒の呼びかけに、クラウンが沈痛の面持ちで浮かべる。

「みなさんへの連絡は私たちがしています!」

「玉緒さんはクラナガンへ!」

「今は1人でも救いの手が必要のときですから!」

 エリィ、カレン、ルーシィが玉緒に呼びかける。彼女たちの言葉を受けて、玉緒は真剣な面持ちを浮かべて頷いた。

「玉緒ちゃん、私も・・!」

 そこへえりなが現れ、玉緒たちに声をかけてきた。彼女のそばにはヴィヴィオもいた。

「こういうときまで指をくわえてじっとしているなんてできない・・せめて救助活動だけでも!」

「それはダメ!けが人に救助をさせるなんてこと、絶対にできない!」

 言いかけるえりなに玉緒が言いとがめる。彼女が強く言うことなど滅多になかったため、えりなは押し黙ってしまった。

「まだ何が起こるか分かんない状態だからね。えりなちゃんはそのときのためにここで待機。それまではあたしたちが頑張るからね。」

「玉緒ちゃん・・・ゴメン・・・」

「謝らなくていいって。なんたってえりなちゃんは“無敵のエース”なんだからね。」

 沈痛の面持ちを浮かべるえりなに、玉緒が笑顔で励ます。

「それじゃヴィヴィオちゃん、えりなちゃんをお願いね。」

 玉緒はヴィヴィオにも声をかけて、再びデルタ本部を飛び出していった。外に出て空に飛翔したところで、彼女は胸中で呟く。

(ゴメンね、えりなちゃん・・でもえりなちゃんまで辛くさせるわけにいかないから・・・)

 えりなへの謝意を感じながらも、彼女の想いを胸に秘めて、玉緒はクラナガンへと急行した。

 

 未だに混乱の続くクラナガンにて、ユウキはクラウンたちの連絡を行いながら、なのはとクオンの行方を追っていた。そこへヴィッツとアクシオが彼の前に降り立ってきた。

「ヴィッツ、アクシオ、無事だったか・・!」

「ユウキさん、なのはとクオンを発見し、たった今医療班と合流したと、ダイナから連絡がありました。」

「あたしが応急措置をしておいたから、危ないことはないと思うけど・・」

 ユウキが声をかけると、ヴィッツとアクシオが深刻な面持ちを浮かべて答える。

「後はジュンか・・あの爆発の後、どこに落ちたのか・・・」

「あれだけの魔力の暴走だ・・魔力が残っているはずもないだろう・・・」

 ユウキとヴィッツが周囲を見回しながら言いかける。ジュンの魔力の反応を、彼らは依然としてつかめていなかった。

「もう1度、周辺を調べてみよう。ジュンも危険な状態にあるのは、簡単に分かることだからな・・」

「分かりました。急ぎましょう。」

 ユウキの呼びかけにヴィッツが答える。3人は散開し、ジュンの捜索を開始した。

(みんなもいいか。手分けして捜索するんだ。)

 アレンたちにも指示を出し、ユウキは傷ついた体に鞭を入れて駆け出していった。

 

 ユウキたちからの連絡を受けて、ネオンもジュンの捜索を行っていた。

(ジュンちゃん、どこにいるの!?・・クオンくんも大変なことになってるのに・・・!)

 不安と心配を込めた言葉を心の中で呟くネオン。2人の安否を気にせずにいられず、彼女は常に駆け足になっていた。

 ジュンとマコトの衝突が起こった地点の地上に足を踏み込んでいたネオン。そこでは既に人々は避難のためにその姿はなく、人気はなくなっていた。

(ジュンちゃん、ホントに何があったの?・・あたしまでこんなに胸が苦しくなるほど・・・ジュンちゃん・・・)

 仲間たちへの思い、友情の絆に駆り立てられて、ネオンは必死に捜索を続ける。しばらく彼女は走り抜け、広場だった場所にたどり着いた。

 そこで彼女は大きく眼を見開いた。噴水があった場所の傍らで、ジュンがうつ伏せに倒れていた。彼女の下半身が噴水に浸かっている状態だった。

「ジュンちゃん!」

 ネオンが慌ててジュンに駆け寄る。ネオンは引き上げたジュンを支えて、状態をうかがう。

「ジュンちゃん!しっかりして、ジュンちゃん!」

 ネオンが呼びかけるが、ジュンは全く反応を見せない。ネオンはジュンの安否を確かめつつ、念話による連絡を取る。

(ジュンちゃんを見つけました!デルタ!ユウキさん、みなさん!)

 ネオンは連絡を取り合うと、ジュンを抱えて、仲間たちと合流すべく駆け出した。マコトとの激しい戦いの影響で、マコトが装備していたフレイムスマッシャー、フレアブーツは破損し、システムダウンを引き起こしていた。

 そのとき、建物が瓦解して、その瓦礫がジュンを抱えるネオンに向けて落下してきた。ネオンは虚を突かれてしまい、打開の手段が取れない。

(ダメ!これじゃ間に合わない!)

 回避できないと思い、ネオンが覚悟を覚えた。

「あたしはいつでも全力疾走!」

 そのとき、ネオンは突如、何かに横から引っ張られる感覚を覚える。眼を向けると、1人の少女が速いスピードで抱えて走り込んできた。

「オレを止められるのは、オレだけだ!」

 それと同時に、落下する瓦礫に向けて、一条の刃が刃が飛び込んできた。その一閃が、その瓦礫を両断、粉砕する。

 少女は立ち止まると、ネオンから手を離す。そして少女は満面の笑顔をネオンに見せてきた。

「よかった・・無事だったみたいですね・・・」

「あ、ありがとうございます・・・あなたは・・・」

 優しく声をかけてくる少女に、戸惑いを見せるネオン。そこへ1人の少年が駆けつけてきた。

「ったく。ナディアちゃん、いきなり飛び出していくんだもんなぁ。オレもビックリしちまったよ。」

「ゴメンなさい。でも危なかったものですから・・」

 不満の面持ちを浮かべる少年に、少女、ナディア・ワタナベが照れ笑いを浮かべて答える。

「2人とも無事だったみたいですね・・あたしは時空管理局ハイネ隊所属、ナディア・ワタナベ一等陸士です。」

「オレは本局第一技術部のロッキー・トランザムだ。よろしくな。」

 ナディアと少年、ロッキーが自己紹介をする。2人の救援に、ネオンは安堵を覚えて笑みをこぼした。

 

 ジュンとの激しい戦いを繰り広げたマコトは、駆けつけたシグマに救われていた。彼女も魔力を消耗して意識を失い、ライトスマッシャー、メテオブーツも損傷していた。

(これほどの魔力を暴発させるとは・・この潜在能力にも驚かされたが・・)

 マコトの力に驚愕を感じずにはいられなかったシグマ。

(マコト、お前に何があった?・・レイを失ったことが、これほどの力を引き起こさせるほどに、激しい怒りを植えつけたというのか・・・)

 胸中でマコトの安否を気がかりにするシグマ。

(結果的にお前は、あの高町なのはを撃破し、同じく魔力を暴走させたかつての友と衝突。最後はその戦いの余波で、クラナガンを廃墟の街へと追い込んだ・・これは紛れもなく、全てを無に還す破壊の力だ・・・)

 マコトの抱える力と因果に、シグマは歯がゆさを感じていた。これが彼女自身が望んだことなのか、彼は疑念を感じていたのだ。

(とにかく今は帰還すべきだ。我々も満身創痍であることは否定できない・・・)

 シグマはマコトを連れて、ローグたちと合流すべくスピードを上げた。

 

 クラナガンで巻き起こった壮絶な激闘。それを垣間見ていた男は、歓喜を抑えきれずに哄笑を上げていた。

「すごい!すごいぞ!まさか私がもたらした存在が、この戦いの中で2人も見つけられるとは!」

 男はモニター画面を切り替えて、憤怒に駆られたジュンとマコトを映し出す。

「すぐに取り戻してもいいのだが、この混乱した状態では監視が厳しくなっているだろう。それに、こちらには3つのうち、1つの切り札を手中に収めているのだから。」

 徐々に落ち着きを取り戻しながら、男はコンピューターのキーボードを叩いて、データベースに眼を通す。

「まずはこの切り札の調整を済ませることに専念しよう。捕獲の手段としても十分に重宝することになるから。」

 男はデータを確認すると、コンピューターの電源を切り、部屋を後にする。廊下に出たところで、青年が歩み寄ってきた。

「秋月マコト、および春日ジュンの戦闘データ、全て収集し、分析を完了しました。彼女の調整準備も既に整っております。」

「そうか。では直ちに調整手術を開始する。」

 青年の報告を受けて、男は指示を出す。

(この調整を済ませた後は君たちが次の標的だよ、ジェネシス・ムーン・・そして、ジェネシス・サン・・・)

 野心に満ちた企みを胸に宿しながら、男は歩き出す。世界の混乱に乗じて、恐るべき策略が動き出そうとしていた。

 

 

次回予告

 

混沌に満ちあふれた街。

ジュンとマコトの暴走と衝突で、世界は荒みきっていた。

心身ともに満身創痍に陥った少年少女。

ゴウの口から語られる、忌まわしき真実。

 

次回・「創世(ジェネシス)」

 

命を弄ぶ者と、それに立ち向かう者・・・

 

 

作品集

 

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