魔法少女エメラルえりなVersuS

第15話「邪なる覚醒(前編)」

 

 

あのときから、僕の進む道は決まっていたのかもしれない。

 

偽物の正義を壊して、本物の平和を見つけ出す。

それは僕だけじゃなく、みんなの願いでもある。

 

みんなの笑顔を、みんなの幸せを守りたい。

そのためなら僕は、立ち塞がる壁をぶち壊す。

誰が相手だろうと叩き潰す。

 

たとえ、僕自身がどうなっても・・・

 

 

 突然持ちかけられたロアの交渉。デルタ内でもそれに対する動揺が広がっていた。

「まさか、ロアがあのような手を打ってくるなんて・・」

 仁美が深刻な面持ちを浮かべて、呟くように言いかける。

「こっちは正当な理由での逮捕を行っているが、向こうからは人質を取っているように思われてるんだろうな。」

「何にしても慎重に考えないと・・私たちは、健一を人質にされているのですから・・」

 ユウキに続いて、明日香も言いかける。彼らは考えを巡らせるも、なかなか最善手を見出すことができないでいた。

“ユウキさん、ロアと話し合ってみてください。”

 そこへ通信が入り、ユウキたちがうつむいていた顔を上げる。連絡を入れてきたのは、医務室にいるえりなだった。

「えりな・・話し合うって・・」

“ロアのメンバーの中には、ジュンの親友、秋月マコトがいます。マコトが信頼しているロアなら、こちらの話し合いに応じてくれるはずです。”

 言い返すユウキに、えりなは自分の考えを伝える。彼女に信頼されていることに、ジュンは戸惑いを覚える。

「それでえりな、お前はどっちを取るべきだと考える?」

“相手の考え方次第ですが、私は受け入れてもいいと思います。戦闘にならずに事を収めるに越したことはないですからね。”

「そうか・・・よし。ではオレが話の相手をしよう。」

 えりなの意見に同意して、ユウキが交渉に応じようとする。

「ですが、それではユウキさんが・・!」

「デルタの隊長であるオレがチームワークを取らなくてどうするんだ。クラウン、君は第4研究部に連絡を・・」

 声を荒げるクラウンにユウキが言いかけたときだった。

「いいえ、あたしが行きます。」

 玉緒が交渉に出ると言い出してきた。その言葉に、ユウキたちが再び緊張を覚える。

「話し合いのつもりなら、誰でもいいはずです。ユウキさんは第4研究部に連絡を入れてください。」

「大丈夫なの、玉緒?・・あなただけに行かせるわけには・・」

「大丈夫だって。あたしだっていろいろと修羅場潜ってきてるんだから♪」

 心配の声をかける明日香に、玉緒が笑顔を見せる。

「あと、誰かミラクルズを預かっててくれないかな?話し合いをするのにデバイスを持ち込むわけにいかないからね。」

「それなら私に預からせてください。すぐ近くに待機して、臨戦態勢に入ったと判断した場合に、すぐにそちらにお返しします。」

 玉緒の申し出にカタナが受けようとしたときだった。

“ロアの面々に告ぐ。私は時空管理局本局、第4研究部主任、コルト・ファリーナ。”

 ロアに向けて、コルトからの通信が飛び込んできた。突然のことにユウキたちが息を呑む。

“我々が逮捕、拘束している君たちの同胞は我々が預かっています。”

 淡々と申し付けられるコルトの言葉に、デルタだけでなく、多くの人々が注目していた。

“我々は、君たちの申し出を受け入れるつもりはありません。”

 コルトの突然の回答に、デルタ本部は驚愕に包まれた。

 

 コルトの回答に、ロアの面々も驚愕を覚えていた。マコトはその驚愕を怒りへと変えていた。

「やっぱり時空管理局だ!僕たちをあざ笑っている連中なんだ!昔も今も!」

 憤りのあまりに、拳を地面に叩きつけるマコト。

「落ち着きなさい、マコト。これでこちらが打つべき術が確定することになったのですから。」

 そこへローグが言いかけ、マコトが落ち着きを取り戻す。彼らの耳にも、コルトの回答が響いてくる。

“君たちロアは、このミッドチルダや関係地域に武力行使を行い、多くの犠牲をもたらしました。その言葉に屈すれば、やがては世界全土が崩壊へと向かうことになる・・我々は断じて、君たちの考えを受け入れるわけにはいかない!”

「よく言うわね・・世界の崩壊を引き起こそうとしているのは、あなたたち自身だっていうのに・・」

 コルトの言葉をあざけるジュリア。

「では、そろそろ出撃の準備をしましょう。マコトは高町なのはの姿を確認次第、出撃してください。」

「分かった・・・こっちは任せて・・・」

 ローグの呼びかけにマコトが頷く。壮絶な戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。

 

 突然のコルトの回答に納得のいかないユウキは、即座に第4研究部へ連絡を入れた。

「いったいどういうつもりなんですか、あなた!?

 モニターに映し出されているコルトに向かって怒鳴るユウキ。だがコルトは顔色を変えない。

“どういうつもりも何も、受け入れるわけにいかないでしょう。彼らの暴挙を受け入れれば、時空管理局の体制は崩壊し、世界は崩壊に陥る。部隊の指揮を一任されているあなたにも、それが予測できるでしょう。”

「しかし、向こうの言い分を一切聞かず、一方的に事態を進めるなど・・!」

“仮に逮捕しているメンバーを解放して、彼らが素直に辻三等陸尉を解放し、撤退する保障はあるのですか?メンバーを取り戻した途端、一気に攻め込んでくることも考えられますよ。現にこの手の策略を受けたケースが何件か確認されていますよ。”

「そんな非情な対応・・」

“これが我々、時空管理局が下すべき最善手です。攻撃の手を伸ばしている相手に、交渉や歓迎は無意味です。”

 コルトの言葉にこれ以上反論できなくなり、ユウキは歯がゆさを抱えたまま通信を終える。

「ダメだ・・コルトはこっちの言葉を聞き入れない。他の部隊の抗議も受け付けていないようだ・・」

「そんな・・これでは街に攻撃が飛ぶのは眼に見えているはずなのに・・・!」

 ユウキの言葉を聞いて、アレンが深刻な面持ちを浮かべる。

「どうするんですか、ユウキさん!?このままでは、街がロアに攻撃されてしまいますよ!」

 クオンが声を荒げて呼びかけると、ユウキは真剣な面持ちを浮かべて頷く。

「分かった。アレン、カタナ、クオン、ネオンはロアの攻撃を食い止めろ。絶対に街や市民に危害を加えさせてはダメだ。」

「了解!」

 ユウキの指示にアレンたちが答える。

「ジュン、お前は仁美と一緒に街に向かいながら、秋月マコトを見つけろ。お前たちだけでも話し合って、攻撃をやめるように説得するんだ。」

「分かりました。絶対にやり遂げてみせます。」

 続けてユウキの指示にジュンが頷く。

「明日香、玉緒、ヴィッツ、アクシオ、ダイナは待機。すぐに出ることになるから準備しておいてくれ。なのはちゃんも。リッキー、ラックス、ソアラは街の救助に向かってくれ。」

 なのはたちも真剣な面持ちで頷く。ロアの攻撃に向けて、デルタも本格的な迎撃体勢を敷こうとしていた。

 

(ローグ、ジュリア、直ちに攻撃を開始する!マコトは高町なのはとの戦いに専念しろ!)

 交渉決裂と判断としたシグマが、ローグたちに向けて念話を送る。

「行くぞ、スティード!」

Standing by.Complete.

 すかさずシグマはスティードを起動させ、その柄を握る。臨戦態勢を取った彼は、眼下の街から飛び出してきた武装局員たちを迎え撃った。

 重みのあるシグマとスティードの攻撃の前に、武装隊の魔導師や騎士は歯が立たなかった。そこへ彼からの呼び出しを受けたローグが駆けつけ、ジュリアも道を駆け込んでいた。

「お待たせしました、シグマ。」

「ローグ、ジュリア・・よし、一気に攻め立てるぞ!」

 声をかけてきたローグに、シグマが指示を出す。ロアのクラナガンに向けての攻撃が、さらに激化していった。

 そのとき、2つの刃がシグマに向けて飛び込んできた。シグマはスティードを振りかざし、その攻撃を跳ね返す。

 その直後、シグマはアレンとカタナが向かってきたことを目撃する。

「デルタか・・!」

 シグマが毒づきながら、アレンとカタナと対峙する。

(主力が街の防衛に出てきましたか・・なら本部の息の根を止める絶好の機会というものです。)

「シグマ、ジュリア、ここは任せましたよ。」

 思い立ったローグが戦列を離れ、デルタ本部の攻撃を企てる。そうはさせまいとするアレンとカタナだったが、シグマに行く手を阻まれる。

 一方、ジュリアもクオンとネオンの迎撃にあっていた。クオンの振り下ろすスクラムの一閃を、ジュリアはアウトランナーのビームブレイドで迎え撃つ。

 だがそこへネオンのレールストームによる射撃が飛び込み、ジュリアは真っ向からの攻防に持ち込めないでいた。

 

 ローグの接近を、デルタ本部にいるユウキたちは察知していた。

「こっちの迎撃を見越して、本部の警備が手薄になったと判断してきたか・・」

 毒づきながらも、ユウキは次の指示を明日香たちに送る。

「明日香たちも出動だ。ロアに攻撃をさせるな。」

「はいっ!」

 明日香たちが続いて、デルタ本部から出撃していく。そしてユウキは、医務室にいるなのはにも呼びかける。

「なのはちゃんも向かってくれ。みんなをサポートしてくれ。」

“分かりました。任せてください。”

 なのはの答えを聞いて、ユウキは小さく頷いた。

 

 ユウキからの連絡を受けたなのはは、ベットで横たわっているえりなと、それに寄り添っているヴィヴィオに振り返る。

「それじゃ行ってくるからね。ヴィヴィオ、えりなのそばについていてあげてね。」

「うん。頑張ってね、ママ。」

 なのはの呼びかけに、ヴィヴィオが微笑んで頷く。えりなもなのはに向けて笑みを見せていた。

「頼みましたよ、ピンチヒッターさん。私の分までお願いします。」

「あなたはそこで大人しくしているように。ちゃんと見張りがいるんだから、早まったことはできないよ。」

「エヘヘヘ、かわいい見張りさんだことで。」

 えりながなのはに向けて、思わず苦笑いをこぼした。

「正直、私も交渉を受けるべきかどうか、分からなかったんです。健一だったら、みんなだったらどうするんだろうって・・でもみんなが迷ってるなら、私が迷っている場合じゃないって思って・・・」

「自分勝手な言い分だよね・・・でも、そうでもしなかったら、きっとすぐには割り切れなかったと、私も思う・・・」

 えりなの唐突な言葉に、なのはも苦笑を浮かべて答える。様々な思いを背に受けて、なのはは医務室を飛び出した。

 

 デルタ本部に向かっていたローグは、出撃してきた明日香たちを目撃する。

「彼らが残っていたようですね・・ですが、突き崩せない壁ではなさそうです・・」

 このまま突き進むローグが、ジャスティを持つ手に力を込める。

「ここまで来てしまえば、出し惜しみをする必要はないですね・・」

Providence mode,ignition.

 ジャスティがフルドライブ、プロヴィデンスモードと変形する。槍状の突起物が数機、ジャスティの先端から射出される。

「気をつけて!あのデバイス、いろいろな方向から砲撃を仕掛けられるよ!」

 玉緒の呼びかけに明日香たちが頷く。彼女たちは集中砲火を受けるのを避けるために散開する。

(いい判断です。ですがプロヴィデンスモードとなったジャスティの攻撃はそう簡単にはかわせませんよ。)

 だがローグが放つ多方面からの射撃「スペーシャルシューター」が、容赦なく明日香たちに襲い掛かる。

(くっ!けっこうきつい攻撃してくるじゃないのよ!)

(五感を研ぎ澄まさせていないと、すぐにやられてしまうぞ!)

 胸中で毒づくアクシオとヴィッツ。

「おのれっ!強行突破で術者を叩くしかないか!」

「それなら私が何とかするよ!」

 ダイナが特攻を仕掛けようとしたときだった。遅れて駆けつけたなのはが、フルドライブモード「エクシードモード」となっているレイジングハートを構える。

「行くよ、レイジングハート!」

Accel shooter.

 なのはが魔力の弾を放ち、ジャスティの突起物を狙う。ローグは突起物を操作し、回避行動を取る。

 だがそれはなのはの狙いだった。

Straight buster.

 なのはの放った砲撃が、集まっていた突起物に向かう。反応炸裂効果を備えた「ストレイトバスター」で、突起物の連鎖破壊を行おうと考えていたのだ。

 ローグはとっさに突起物を散開させ、強引にアクセルシューターによる包囲網を突破させる。だが突起物の何機かが損傷を被る。

(シャープビットに傷を負わせるとは・・やはりエースオブエース、というべきでしょうか・・・)

 なのはの脅威にローグが毒づく。デルタのフォワード陣を前にして、彼はデルタ本部に攻め込めないでいた。

 

 戦場に赴いたなのはの姿を、マコトとポルテは目撃していた。

「やっと姿を見せてきたか・・高町なのは・・・」

 マコトがなのはを見つめて、拳を強く握り締めていた。

「あなたの出番のようね、マコト・・くれぐれもムリはしないで。」

「分かってる・・ありがとう、ポルテ・・・」

 心配の声をかけるポルテに、マコトは微笑んで頷く。そしてマコトは空を見上げ、気持ちを巡らせる。

(レイ、待っていて・・僕が必ず、お前をいじめたヤツをやっつけてやるから・・・!)

「行くよ、ライトスマッシャー、メテオブーツ!」

Standby ready,set up.

 マコトの呼びかけを受けて、ライトスマッシャー、メテオブーツが起動する。それぞれのデバイスを身にまとい、彼女が眼前を見据える。

 マコトは飛翔し、一気に加速する。ローグを見据えているなのはに向かって、彼女は突っ込んでいった。

 

 ローグの襲撃に立ち向かうなのはが、別の強い魔力の接近に気付く。

「あれは・・秋月マコト・・・!?

 新手の参戦に緊張感を膨らませる明日香たち。だがマコトの標的はなのはだけだった。

「お前を倒す!高町なのは!」

 いきり立ったマコトが、なのはに向かって拳を繰り出す。なのははとっさに飛翔して、この一撃をかわす。

 マコトはさらになのはに向かっていく。なのはの放つアクセルシューターを、マコトは素早いステップを駆使して切り抜けていく。

「明日香、そっちはお願いね!」

「なのはさん!」

 なのはの呼びかけに明日香が答える。直後、明日香たちに向けて、ローグが射撃を放ってきた。

「マコトの戦いの邪魔はさせませんよ。高町なのはを倒すのは彼女です。」

 立ちはだかるローグに、明日香たちは迎撃を試みようとしていた。

 

 クラナガンに踏み込んだところで、ジュンと仁美はマコトの魔力を感知して足を止める。

「マコトが・・デルタ本部に・・・!」

「なのはちゃんと戦ってるみたい・・他のみんなを全然気にせずに・・」

 ジュンと仁美が声を荒げる。シグマたちと交戦しているアレンたちを眼にして、仁美はジュンに呼びかける。

「ジュン、あなたはデルタ本部に行って!私はアレンたちと合流するから!」

「仁美さん・・・分かりました!」

 仁美の指示を背に受けて、ジュンはマコトのところに向かった。仁美もアレンたちと合流すべく、街の空を駆けていった。

 

 マコトの参戦を、クオンとネオンも気付いていた。

「もしかしたら、ジュンちゃんがマコトちゃんのところに・・」

「マコトちゃんの魔力がどんどん上がってる・・こんなところに飛び込んでいったら、ジュンが・・!」

 ネオンとクオンが不安を覚える。そこへジュリアが飛びかかり、ビームブレイドによる一蹴をクオンに放ってきた。

「クオンくん!」

 ネオンがレールストームの引き金を引き、ジュリアに向けて発砲する。射撃に阻まれて、ジュリアはクオンと距離を取る。

「ここはあたしが押さえるから、クオンくんはジュンちゃんのサポートに行ってあげて!」

「ネオンちゃん!?

 ネオンの呼びかけにクオンが声を荒げる。

「ジュンちゃんの1番の相棒はあなただよ・・行ってあげて、クオンくん。」

「ネオンちゃん・・・ありがとう!ここは任せたよ!」

 ネオンの優しさを背に受けて、クオンは駆け出していった。

「逃がさない!」

 彼を追いかけようとしたジュリアだが、ネオンの射撃に行く手を阻まれる。

「あなたの相手はあたしですよ!」

「くっ!」

 呼びかけるネオンに対し、ジュリアは毒づいた。

 

 同じく、シグマ、アレン、カタナもマコトの魔力を感知していた。

(マコトが高町なのはを発見したようだな。)

 シグマがマコトの参戦に気を向ける。

「隙あり!魔龍閃!」

 そこへカタナが飛びかかり、エスクードを振りかざしてきた。シグマがスティードを掲げてその一閃を受け止め、即座に距離を取る。

「お前の相手は私たちですよ!」

「分かっている。私もここでお前たちを足止めさせてもらうことになる。」

 呼びかけるカタナに対し、シグマが鋭く言い返す。その言葉にカタナだけでなく、アレンが眉をひそめる。

「どういうことだ?・・何を企んでいる!?

「我々の本来の目的は、お前たちの撃退と同胞の奪還だ。だがマコトは今、高町なのはの撃破を最大の目的としている。それを誰にも邪魔させるわけにはいかないのだ。」

 アレンの問いかけにも答えるシグマ。アレンはなのはに対し、一抹の不安を覚えていた。彼女が負けるはずがないと思いながらも、彼はその不安を拭うことができないでいた。

 

 なのはに対して激しい怒りをぶつけるマコト。これまで以上に荒々しい彼女の攻撃に対し、なのはは防戦一方となっていた。

(このままじゃやられてしまう・・何とかして反撃しないと・・・!)

 思い立ったなのはが、魔力の弾でけん制を図り、マコトを引き離す。その間に彼女は直射魔法を繰り出そうとした。

 だがマコトはその弾丸を跳ね除け、なのはとの距離を詰めてきた。なのははとっさに射撃を中断して、マコトの拳をかわす。

 なのはは次にバインドを仕掛けて、動きを封じる手段に出る。だがそれを予測していたマコトは、機敏に動いてバインドによる拘束も回避してみせる。

 次々と攻撃をかわされることに毒づくなのはと、不敵な笑みを見せるマコト。マコトの脳裏に、ローグの言葉がよぎった。

“高町なのはは確かに動きは速い。射撃も、バインドを仕掛けるタイミングも絶妙です。ですが彼女は、絶対に近距離での戦闘を行いません。砲撃するにしろ、突進を仕掛けるにしろ、必ず相手との距離を一定区間取ってきています。バインドで相手の動きを封じてでも、そのスタイルを崩していません。そこに、エースオブエース打倒の鍵が秘められています。”

 これはローグと練り上げた分析とシュミレーションの賜物だった。マコトは今、なのはを徐々に追い詰めつつあった。

「何度も何度も同じ手を!いちいち逃げるな!」

 距離を取るなのはに、マコトが叫びながらその距離を詰める。

Light smash.

Round shield.

 マコトが繰り出してきた拳を、なのはが障壁を展開して防御する。力を込めるなのはに向けて、マコトが鋭く睨みつける。

「お前がレイを撃った!みんなのために一生懸命になってたレイを、お前が!」

 込み上げてくる怒りをあらわにするマコトが、拳にさらなる力を込める。

「許さない・・・お前だけは、絶対に許さないぞ!」

Meteor shoot.

 マコトはすかさず、なのはに向けて一蹴を繰り出す。さらなる付加を受けて、なのはの発していた障壁が打ち破られる。

 体勢を崩したなのはに向けて、マコトの拳が叩き込まれる。レイジングハートが自動発動させたフィールド魔法による防御でダメージを軽減させたものの、なのははその衝撃で街に突き飛ばされていた。

 その先の建物の壁に叩きつけられたなのは。体中を駆け巡る痛みを覚え、彼女は顔を歪める。

(すごく重みのある攻撃・・このまま長引かせたら、ミッドチルダが・・・!)

 奮起したなのはが、傷ついた体に鞭を入れる。自分の持てる全てを駆使して、彼女はマコトを止めることを心に決めた。

「お前は僕が倒すんだ!レイのためにも・・みんなのためにも!」

 そこへマコトが全速力で飛び込んできた。なのははレイジングハートを振りかざし、魔力の弾丸の群れを出現させる。

「ちょっとムリさせることになっちゃうけど・・大丈夫、レイジングハート?」

No problem.

 なのはの呼びかけにレイジングハートが答える。なのはは頷くと、マコトをじっと見つめる。

「怒りや憎しみからは、何も生まれないよ・・・」

Accel shooter.

 なのはがマコトに向けて射撃を放つ。だがマコトは強引にその群れを突っ切っていく。

「撃たせないと言っているのが分かんないのか!」

 マコトが一気になのはに詰め寄る。なのははレイジングハートを構え、砲撃の体勢を取っていた。

 そのとき、マコトが突如出現した光の輪に手足を拘束される。突然のことにマコトが驚愕する。

「何っ!?

 なぜバインドの発動に気付かなかったのか分からず、マコトが毒づく。必死にもがく彼女を見据えて、なのはが呼びかける。

「これでやっと、距離が取れるね・・」

「お、お前!」

 たまらず声を荒げるマコト。なのはが距離を取り、砲撃のために魔力を収束させる。

「こんなもの、すぐに・・・!」

「ムダだよ。このレストリクロックは、私が最初に覚えた上位レベルの魔法だから・・力任せじゃ、絶対に外せない・・・!」

 もがくマコトになのはが冷静に告げる。レイジングハートの宝玉に、魔力の光が宿る。

「マコト!なのはさん!」

 そこへ駆けつけたジュンが2人に声をかけてきた。ジュンは息を絶え絶えにしながら、マコトに呼びかける。

「お願い、マコト!私たちの話を聞いて!」

「うるさい!僕たちのことを弄んだ時空管理局に味方している君が何を言う!」

 しかしマコトはジュンの言葉に耳を貸そうとしない。

「しかもコイツは、レイを傷つけたんだ!みんなのために一生懸命になってたレイを、コイツは撃ち落としたんだ!」

「違う!なのはさんは、外傷の出ないように調整していた!たとえ犯罪者でも、心のある人には優しい人だよ!」

「時空管理局は身勝手な連中のたまり場だ!人の命を弄ぶ、悪魔の集団だ!」

「マコト、違う!」

「ジュン、もういいよ・・・」

 マコトに向けてのジュンの呼びかけをさえぎったのはなのはだった。

「マコトは頭に血が上りすぎてるだけなんだよ・・だから、少し休ませてあげよう・・・」

 なのはの呼びかけに対し、ジュンはただただ歯がゆさを浮かべるしかなかった。

「大丈夫。気絶させるだけだから・・・」

 なのはは言いかけると距離を取り、マコトに狙いを定める。彼女は改めて砲撃を繰り出そうとしていた。

 敗北の危機に立たされたマコトの脳裏に、様々な記憶が蘇る。

(冗談じゃない・・このまま・・このままやられるわけにはいかないんだよ・・・)

 両親の暗殺。自分とレイの改造。問われない大罪。それらを払拭するための命懸けの戦い。

 まだ世界が本当の平和を迎えていないのに、自分の戦いを終わらせるわけにはいかない。

(父さん・・母さん・・・レイ・・・僕は・・・)

 家族とのかけがえのない時間。自分の中に取り戻すことはできなくても、他の家族にそれをもたらすことができる。

(僕は・・・こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ・・・)

 再び戦意を募らせたマコトが、全身に力を込める。

「エクセリオンバスター!」

 そんな彼女に向けて、なのはが誘導制御型砲撃魔法「エクセリオンバスター」を放つ。マコトは絶対にこの砲撃を逃れることができない。なのははそう確信していた。

「貴様なんかに、オレたちの邪魔はさせないぞ!」

 感情が頂点に達した瞬間、マコトの中で何かが弾けた。同時に、今まで彼女を強固に縛っていたバインドが突如断ち切れる。

「えっ!?

 その瞬間になのはもジュンも驚愕を覚える。その直後、なのはの放っていた砲撃がマコトに直撃する。

 たとえバインドを断ち切られている状態であっても、直撃すれば気絶は免れないはずだった。

 だが爆発によって巻き上げられていた煙の中で、マコトは浮遊していた。しかも彼女は、今までと様子が違っていた。

 彼女の体を白い稲妻がほとばしっており、蒼かった瞳の色が金色に変わっていた。魔法陣の色も蒼から白に変わっており、以前とはまるで別人のような雰囲気をも放っていた。

「マコト・・・!?

「これはいったい・・何が起こったの・・・!?

 変貌を遂げたマコトに、なのはもジュンも驚愕を隠せなかった。マコトがなのはに向けて、鋭い視線を向ける。

「殺す・・・高町なのは、貴様だけは、絶対にオレが殺してやる!」

 かつてない憎悪をなのはに向けて放つマコト。今の彼女を突き動かしているのは、殺意ともいえる怒りだけだった。

 

 漆黒に彩られているひとつの部屋。モニター画面の明かりだけが照らすその部屋に、1人の男がいた。

 男はモニター画面をじっと見つめていた。そこに映し出されていたのは、なのはと交戦するマコトだった。

「まさか、アレがここで目覚めることになるとは・・しかも予測以上の魔力数値をたたき出している・・・」

 マコトが発揮している驚異の力に、男は悠然さを込めた笑みを浮かべていた。

「そうだ。もっと私の予想を大きく上回ってくれ。そうなればなるほど、私の心がより躍動することになるのだから・・」

 マコトの姿に歓喜を浮かべる男。そこへ1人の青年が入室し、男に声をかけてきた。

「分析作業の準備、完了しました。いつでも開始できます。」

「そうか。だがしばらく分析は後回しだ。今はあの娘のデータ収集に専念を。」

 報告を持ちかけた青年に、男が指示を出す。青年もモニターに映し出されているマコトを眼にする。

「あのオーラ・・もしかして彼女はあの・・!?

 マコトの発する魔力を目の当たりにして、青年が驚愕を覚える。

「そうだ。しかも私たちが収集していた以上の数値の魔力を放っています。データの洗い直しも兼ねて、彼女のデータを細大漏らさず収集しなさい。」

「了解しました!直ちに!」

 男の指示を受けて、青年が慌しく部屋を飛び出していく。男は悠然さを崩さずに、再びマコトを注視する。

「私の研究は、今まで人類がたどり着いていない境地へと向かいつつある。それは新たなる世界の創世を意味するものとなるであろう・・」

 男の浮かべている笑みに、不気味ともいえる狂気が宿る。

「私たちがもたらした君たちの本懐、改めてかつ目させてもらいますよ・・秋月マコト・・いえ、ジェネシス・ムーン。」

 喜びを抑えることができず、交渉を上げる男。時空管理局とロアの戦いに興じて、ひとつの暗躍が今、動き出そうとしていた。

 

 

次回予告

 

マコトの中で起こった変化。

それは彼女の中に隠されていた絶大なる力の解放だった。

狂気に満たされたマコトの猛威が、なのはに、ジュンに迫る。

怒れる魂が、世界に破滅をもたらす。

 

次回・「邪なる覚醒(後編)」

 

荒み行く心と力に、救いはあるのか・・・?

 

 

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