魔法少女エメラルえりなVersuS

第13話「小さな願い」

 

 

本当の強さの意味。

それは誰にも譲れない思い。

 

自分自身の思い、願い、決意。

それを全力で伝えていくこと。

間違っているのなら、それを全力で止めてあげること。

 

私は伝えていく。

戦いに飛び込んでいった友達に、この思いを・・・

 

 

 シグマが告げたなのはのデルタ合流に、ローグとジュリアは息を呑んだ。だがマコトとレイはきょとんとしたままだった。

「そんなにすごい相手なのか、その高町なのはっていうのは・・・?」

「ちょっとマコト、すごいなんてものじゃないわよ、高町なのはは・・」

 マコトが疑問を投げかけると、ジュリアが呆れた態度で答える。

「高町なのは。時空管理局局員の中でも、“誰もが認める無敵のエース”と言われている魔導師よ。解決に貢献した事件は多く、砲撃魔法では右に出る者がいないとまで言われてるくらいよ。」

「その高町なのはが現れるとなれば、我々の攻撃も困難を極めますね・・」

 ジュリアがマコトに説明すると、ローグが苦言を呈する。ロアの面々にとって、なのはほどのレベルの相手は厄介な大敵だった。

「ともかく、デルタの布陣は強化の一途を辿っている。やがてフェイト・テスタロッサやスバル・ナカジマたちも、戦列に復帰することになるだろう。そのような高レベルの相手に対しては、軽率な行動は命取りになると心得てくれ。」

 シグマの言葉にマコトたちが頷く。マコトとレイも油断ならない相手の参戦を理解し、気を引き締めるのだった。

「お姉ちゃん、みんな、レイも頑張るからね・・・」

 そこへレイが声をかけ、マコトが戸惑いを見せる。

「こういうときだからこそ、レイも頑張らなくちゃいけないと思う・・お姉ちゃんのために、みんなのために・・・」

「レイ・・・」

 レイの決意に困惑を見せるマコト。そこへローグが微笑みかけ、レイに手を差し伸べてきた。

「感謝するよ、レイ。君の力が、多くの人々を幸せにするだろう・・」

「ありがとう・・レイ、頑張る・・・」

 そのローグの手を取って、レイが頷く。

「しかしくれぐれもムリはしないように。危ないと感じたらすぐに戻るように。」

「うん、分かった・・」

 ローグの注意にレイが頷く。彼女を見つめながら、マコトは心の中で呟いていた。

(レイも一生懸命なんだね・・僕たちと同じように、みんなのために戦おうとしてる・・たとえ記憶がなくても、自分のできることがきっとある。そう信じて・・・)

 妹が抱えている想いと願いを察し、マコトは落ち着きを取り戻す。その気持ちを大切にすることが、姉である自分のやるべきこと。マコトはそう思っていた。

「では作戦を話しておく。相手のあの状況下で施設や要人を狙っても、手痛い奇襲を受けるのが関の山だ。そこで今回の標的は・・」

 そこでシグマがマコトたちに言いかけ、モニターに映し出された地図のある場所を指し示した。

「ミッドチルダ中央区画南東山間部、デルタ本部だ。」

 シグマの告げた言葉に、マコトは緊迫を覚える。ロアの、デルタに対する本格的な攻撃が始まろうとしていた。

 

 ロアの襲撃に備えて、鍛錬と調査を続けていくデルタの面々。ユウキ、仁美、なのはは本部司令室にて、話し合いを行っていた。

「なるほど。これらがロアとそのメンバーに関するデータですね。」

 ロアのデータを記した用紙を手に取って、なのはが言いかける。

「そして、彼女がジュンの親友の、秋月マコトね・・」

 その1枚を手にして、なのはは小さく頷く。

「オレたちの仕事は私情を挟まないのが鉄則だけど、そんな非情なルール、オレとしてはゴメンだな。かといって、あんまりそれにこだわりすぎても、何の解決にもならない・・」

「せめて話し合いの場を設けたい・・彼らロアの考えを、汲み取ることができれば・・・」

 ユウキと仁美が自分の心境を告げる。

「これだけの暴挙を行っている相手の考えを、人々は受け入れるでしょうか・・」

 そこへリーザがやってきて、深刻な面持ちを向けてきた。

「リーザ・・・」

「人の心というのは複雑です。自分自身のことさえ、満足に理解することは難しいです・・完全に嫌悪していることを受け入れてもらうというのは、至難の行為といっても過言ではありません・・」

 当惑を見せるユウキの前で、リーザが語りかける。その言葉の意味を、なのはは痛いほどに理解していた。

 えりなとの考えと気持ちのすれ違い。現在では安定しているが、完全に分かり合えたとは言いがたい。嫌悪しあいながらも、互いを高めあう原動力となっている。その見解に落ち着いていた。

「分かり合うのって、本当はものすごいことなんですね・・・」

「なのはさん・・・」

 物悲しい笑みを浮かべるなのはに、リーザが戸惑いを見せる。

「とにかく、まず考えが至るのは・・」

 そこへユウキが口を挟み、話題を変える。気落ちしやすくなっている場の空気を変えようと取り繕ったのだ。

「そろそろオレたちも、ロアの標的にされる頃だろうな。そうなってくると、今度の連中の攻撃目標は・・」

 ユウキは言いかけて床に向けて指差した。正確には自分たちのいるこの場を。

 その意味をなのはたちは理解していた。このデルタ本部も、ロアの標的にされかねないことを示唆していた。

 そのとき、司令室に警報が鳴り響き、なのはたちが緊張を覚える。それを聞きつけてえりな、健一、明日香、玉緒、リッキーが駆けつけてきた。

「こちらに接近する魔力を感知!数4!」

 ルーシィの報告の直後、モニター画面に映像が映し出される。マコト、レイ、シグマが上空から、ジュリアが地上からデルタ本部に向かってきていた。

「言ってるそばからこれかよ・・たいそうなことだな、全く。」

「ユウキさん、私たちが行きます!」

 毒づくユウキに向けて、えりなが呼びかける。

「オレたちが出て行って、連中を食い止めてきてきてやるっスよ!」

 健一も続けて意気込みを告げる。それを受けてユウキが頷いた。

「よし。えりな、健一、明日香、玉緒、先行してロアを迎え撃つんだ。」

「はいっ!」

 ユウキの呼びかけにえりなたちが答える。

「なのはちゃん、君もえりなと一緒に出撃してくれ。みんなをうまくサポートしてほしい。」

「分かりました。私も出ます。」

 ユウキに対して、なのはも微笑んで頷いた。5人はロアの進行を食い止めるべく、出撃準備を開始した。

「私も行かせてください!」

 そこへジュンがクオンとネオンとともに駆けつけ、呼びかけてきた。だがユウキは首を横に振る。

「今はえりなたちに任せるんだ。ヘンに先走ったら、かえってイヤな結果になってしまう。」

「ですが・・!」

「親友を何とかしたいっていうお前の気持ちは分かる。けどこれはお前だけの問題じゃないんだぞ。」

 言いかけるジュンを言いとがめるユウキ。これ以上反論できないまま、ジュンが歯がゆさを覚える。

「そんなに慌てなくても、お前たちの出番はすぐにやってくる。それに・・」

 ユウキは不敵な笑みを浮かべて言いかけ、ジュンの肩に手を添える。

「オレたちには今、2人のエースオブエースがついてるんだからな・・・」

 この言葉にジュンは冷静さを取り戻す。信頼を寄せている2人のエースに対し、彼女は想いを募らせていった。

 

 向かってくるロアに対し、迎撃体勢に入ったデルタ。健一、明日香、玉緒が先に出た中で、えりなとなのはは前をじっと見つめていた。

「久しぶりだよね。こうして私たちが空を飛ぶのって。」

「私も少しですけどドキドキしています。奇妙なんですけど・・」

 微笑みかけるなのはに、えりなが照れ笑いを浮かべる。2人はすぐに落ち着きを取り戻し、気持ちを引き締める。

「それじゃ行きますよ、なのはさん。私たちがいれば、どんな壁も突破できる。」

「そうだね・・無敵のエースが伊達じゃないってところを、みんなに見せてあげないとね。」

 えりなの言葉になのはが頷く。

「坂崎えりな、ブレイブネイチャー・・」

「高町なのは、レイジングハート・エクセリオン・・」

「いきます!」

 声が重なったと同時に、えりなとなのはが出撃する。各々のバリアジャケットを身にまとい、それぞれのデバイスを手にして。

 

 デルタ襲撃に向けて先陣を切ったマコト、レイ、シグマ、ジュリア。彼らは迎撃に出てきたえりなたちを目撃する。

「あれは・・・!?

 その中にいるなのはを目撃して、シグマとジュリアが眼を見開く。

(マコト、レイ、あれが高町なのはだ!気をつけろ!)

 シグマからの念話に、マコトが眼を凝らす。初めて見る魔導師を、彼女はなのであると断定した。

(あれが高町なのは・・僕たちの天敵ということか・・・だけど!)

 思い立ったマコトが速度を上げる。なのはを標的にして。

「お前がどれほどの相手でも、僕たちは負けるわけにはいかないんだ!」

Meteor shoot.”

 マコトがなのはに向けて一蹴を繰り出す。

Round shield.”

 レイジングハートが障壁を展開し、マコトの一蹴を受け止める。その反動で跳ね返されたマコトが、なのはたちとの距離を取る。

「大丈夫ですか、なのはさん・・!?

「うん、大丈夫。いきなり狙われたから、ちょっと驚いただけ。」

 玉緒が声をかけると、なのはが微笑んで答える。

「地上からも来てる。オレがそっちに向かうから、えりなたちはここを頼む。」

 健一の呼びかけにえりなたちが頷く。彼は地上を進んでいるジュリアを食い止めるべく、降下した。

「それじゃ、こっちも派手に行くとしますか。」

 明日香の呼びかけを引き金とするかのように、えりな、なのは、玉緒も構える。長距離砲撃をロアに向けて放とうとしていた。

「ナチュラルブラスター!」

「ディバインバスター!」

「オーシャンスマッシャー!」

「シャイニィフォース!」

 4人の魔力を結集した4色の閃光が放たれる。マコト、レイ、シグマがとっさに回避を取り、閃光は外れて虚空に消えた。

(何だ、今のは!?・・あんな砲撃、1人だけでも掃討の威力だぞ・・・これがエースの底力ってわけか・・・!)

 えりなたちの力を目の当たりにして、マコトが毒づく。そこへシグマからの念話が飛び込んでくる。

(軽率に動くなと言ったはずだぞ、マコト!それに、もうすぐローグが行動を起こす!)

(シグマ・・分かった。ローグが切り開く突破口、僕が広げてやる!)

 シグマの激励を受けて、マコトが冷静さを取り戻す。ロアのメンバーが次々と駆けつけ、えりなたちへの攻撃を開始しようとしていた。

 

 地上からの攻撃を行おうとしていたジュリア。だがそこへ健一が降り立ち、彼女の前に立ちはだかってきた。

「またあなたなのね・・今度は前のようにはいかないわ・・」

「それはこっちのセリフだ。今度こそとっ捕まえてやるぜ。」

 互いに鋭く言い放つジュリアと健一。ジュリアが身につけているアウトランナーから光刃が発せられる。

「そのデバイス、スピードと切れ味は抜群だが、ラッシュに比べたら力不足だな。」

「そういうのだったら、パワーよりスピードのほうが重要だということを立証してやるわ。」

 不敵な笑みを見せる健一に、ジュリアが強気な態度を見せる。そして加速をつけて迫り、ジュリアが健一に向けて一蹴を繰り出す。

 健一はとっさにラッシュを掲げて、魔力を帯びた刀身でジュリアの一蹴を受け止める。反動を受けたジュリアが突き飛ばされ、横転しそうになるのをすぐに体勢を整えることで何とか免れる。

「ちょこまかしてくる相手を追いかけたりしたら、相手の思う壺みたいなもんだからな。ここはきっちり迎え撃つ作戦を取らせてもらうぜ。」

「くっ・・・!」

 さらに言いかける健一にジュリアが毒づく。2人の交戦はさらに激しさを増そうとしていた。

 

 マコトたちとえりなたちの戦いを、モニターで見つめていたユウキ。その中で彼は、腑に落ちない感覚を覚えていた。

(おかしい。えりなたちだけじゃなく、なのはちゃんまで迎撃に参加してるんだ。にもかかわらず、ロアの主力の1人、ローグ・デュアリスの姿がない・・・)

「クラウン、本部周辺の注意を・・」

 思考を巡らせたユウキがクラウンに呼びかけた瞬間だった。

 本部内で轟音が響き、大きく揺れた。

「な、何っ!?

 その振動にネオンが声を荒げる。

「本部内に何者かが侵入!1階第4エリアです!」

「侵入だと!?

 エリィの声にユウキが驚愕を覚える。デルタ本部のセキュリティは厳重で、認証されているもの以外の魔力を感知すると、侵入防止の措置が取られることになっている。

「モニターに出せる!急いで!」

「はいっ!」

 仁美の呼びかけにカレンが答える。各モニター画面が侵入者を求めてめまぐるしく切り替わっていく。

 そしてそのひとつに、鎧のような機影が飛び込んできた。

「機械兵・・あれがどうしてセンサーに引っかからずに・・!?

 廊下を進んでいく機械兵に対し、カレンが声を荒げる。このからくりに気づいたユウキが、クラウンたちに呼びかける。

「魔力センサーを確認するんだ!」

「魔力センサー確認!機械兵からは魔力が探知されません!」

 ルーシィからの報告を受けて、ユウキは確信した。機械兵は完全な機械ベースであり、魔力を一切宿していない。

「だからこっちのセキュリティに引っかからなかったわけか・・!」

「僕たちを行かせてください!このままでは本部が・・!」

 呟きかけるユウキに向けて、クオンが呼びかける。ユウキに視線を向けられて、仁美が頷く。

「仁美、ジュンたちを連れて向かってくれ。みんなにムチャさせないようにな。」

「了解です、コマンダー。」

 ユウキの指示に仁美が微笑んで答える。ジュンたちも真剣な面持ちで頷く。

「それじゃ、みんな行くわよ!」

「はいっ!」

 仁美の呼びかけにジュンたちが答える。4人は機械兵の進行を食い止めるべく、司令室を飛び出した。

「本部周辺にもロアが接近しています!」

「ヴィッツ、アクシオ、ダイナ、お前たちは外の防衛ラインを張れ!オレも出撃する!」

 エリィの報告に対してのユウキの呼びかけ。その言葉にクラウンたちが驚きを見せる。

「ダメですよ、コマンダー!コマンダー自ら・・!」

「部下にばかり仕事を押し付けて高みの見物ばかりしてる上官にはなりたくないんだよ。それに、そろそろ運動しないと、体がなまってしまう。」

 言いとがめるルーシィの前で、ユウキは不敵な笑みを見せた。

 

 ジュン、クオン、ネオンを連れて、機械兵のいる地点に向かう仁美。その途中、彼らは客室のひとつにいたヴィヴィオを発見する。

「ヴィヴィオちゃん!」

 仁美が足を止めて、駆け込んできたヴィヴィオを受け止める。

「ヴィヴィオちゃん、大丈夫!?ケガはない!?

「うん・・だいじょうぶだよ・・」

 心配の声をかける仁美に、ヴィヴィオが笑顔を見せる。一瞬安堵を覚えるジュンだが、再び轟いた爆発音を耳にして、緊迫を覚える。

「ネオン、ヴィヴィオちゃんを司令室に!この状況で1番安全なのはあそこだから・・!」

「仁美さん・・・分かりました、仁美さん!行こう、ヴィヴィオちゃん!」

 仁美の呼びかけを受けて、ネオンが答える。

「ここは私たちに任せて、ネオンちゃんはヴィヴィオちゃんをお願い!」

「うん、任せて!」

 ジュンの呼びかけにネオンが頷く。ネオンはヴィヴィオを抱えて、司令室へと戻っていった。

 そのとき、客室のそばで爆発が起こり、ジュンたちが振り返る。侵入してきた機械兵が、彼らの前に姿を現したのだ。

「ここだと戦いにくいし被害が大きくなるばかりよ。何とか外に追いやるわよ。」

「分かってますが、あの巨体をどうやって外に・・・」

 仁美の指示にクオンが苦言を口にする。

「相手は魔力を全然宿していない。私たちの魔法は十分効果があるはずよ。あなたたちが注意を引きつけて、私が動きを封じるから。」

「了解!」

 仁美の指示にジュンとクオンが答える。

Burning dash.”

 ジュンが素早く動いて、機械兵の背後に回り込む。同時にクオンがスクラムを構えて、機械兵の前に立つ。

 だがこれは囮だった。

「炎の楔!フレイムバインド!」

 仁美の持つインテリジェントデバイス「クライムパーピル」から放たれた炎の楔が、機械兵の動きを封じる。すかさず仁美は炎を振り上げ、機械兵を天井に叩きつけ、そのまま外へと追いやった。

 

 マコトたちと交戦するえりなたちが、デルタ本部が襲撃されたことに気付き、一瞬動きを止める。

「デルタ本部が・・!」

 本部のほうに眼を向けて、玉緒が声を荒げる。

「本部ならユウキさんたちがついてる!だから大丈夫だよ!」

 なのはがえりなたちに呼びかけ、いさめる。その声を耳にしたマコトとレイが本部に眼を向ける。

「大丈夫だとは思うけど、ローグたちが心配になってきたな・・・」

「お姉ちゃんはローグたちのところに行って・・レイがあの人たちを止めるから・・」

 マコトが呟いたところで、レイが言いかける。その言葉にマコトが眼を見開く。

「ダメだ、レイ!いくらシグマがついてきてても、お前を残して行けるわけが・・!」

「レイもみんなのために頑張りたい・・だからレイも・・・大丈夫だよ・・レイも負けるつもりないから・・」

 言いとがめるマコトだが、レイは聞き入れようとしない。ここまでガンコなレイを見たのは、マコトには初めてのことだった。

「お姉ちゃんやみんなをいじめる悪い人は、レイがやっつけてやる・・・!」

 戦意を見せたレイがなのはに眼を向ける。

Shooting rain.”

 クレセントの宝玉に光が宿ると同時に、光の雨がなのはに向けて降り注がれる。

Accel Shooter.”

 その光の雨を、なのはの魔力の弾の群れが迎え撃つ。光の雨はこの迎撃によって、一部は相殺、一部は軌道をそらされ、なのはに命中することはなかった。

「レイがみんなを守る・・みんなの幸せを、誰にも壊させたりしない!」

 普段見せない感情をあらわにしたレイが、なのはに向かって飛びかかる。なのはは回避を取って距離を保ち、迎撃のチャンスをうかがう。

「レイ・・・くっ!」

 レイの願いを背に受けて、マコトがデルタ本部に向かう。彼女を追って、えりなも戦線を離れて動き出した。

 

 デルタ本部前でもローグ率いるロアのメンバーとヴィッツ、アクシオ、ダイナの戦いが繰り広げられていた。三銃士の攻防一体の戦術の前に、ローグたちは攻めあぐねていた。

「くっ!三銃士を3人まとめて相手をするのは、さすがに骨が折れますね・・・!」

 ヴィッツたちの力に毒づくローグ。

(ポルテが開発した機械兵が侵入に成功したようですが、こちらもこちらで外から攻め込まなくては・・・!)

 ローグが打開の策を練り上げていたときだった。

 デルタ本部の壁から機械兵が飛び出してきた。その瞬間に、ロアのメンバーが驚きを覚える。

「機械兵が・・!」

「まさかポルテさんの機械兵が返り討ちにされるなんて・・!」

 半壊した機械兵を目の当たりにして、ロアのメンバーが声を荒げる。

(だがデルタ本部へ通じる活路は開けました。今こそそこを・・!)

 思い立ったローグがその壁に空いた穴に入り込もうとする。

「ローグ!」

 そのとき、えりなたちの敷いていた防衛線を突破したマコトが駆けつけてきた。

「マコト!?シグマたちはどうしたのですか!?

「まだ戦ってる。僕だけ先にこっちに来たんだ。」

 ローグの言葉にマコトが答える。そのとき、マコトは本部から仁美とクオンとともに外に出てきたジュンを目撃する。

「ジュン・・・」

 マコトがジュンに対して戸惑いを覚える。彼女も親友に攻撃の矛先を向けることに全く迷っていないわけではなかった。

 そこへマコトを追いかけてきたえりなが到着してきた。

「坂崎えりな・・・」

「アイツ、追いかけてきたのか・・・」

 ローグとマコトがえりなに眼を向ける。いきり立ったマコトが、デルタ本部に向かっていく。

「あっ!待ちなさい!」

 えりながたまらずマコトを追いかける。

「マコト!えりなさん!」

「あっ!待つんだ、ジュンちゃん!」

 2人に気付いたジュンも、クオンの制止を聞かずに、空いた穴からデルタ本部に戻っていった。

 消火用のシャワーが降り注ぐ廊下の中を突き進んでいくマコト、えりな、ジュン。追跡されていくことに毒づき、マコトは廊下の真ん中で立ち止まり、えりなに攻撃を仕掛けた。

「これ以上奥へは進ませない!」

「いい加減に邪魔されてたまるか!」

 えりなのリーフスラッシュとマコトのライトスマッシュが衝突し、火花を散らす。その反動で2人が突き飛ばされる。

 廊下の突き当たりの壁に背中をつけたマコト。そのとき、そこへ通りがかったネオンとヴィヴィオを目撃する。安全ルートを進んでいったところで、2人はマコトたちの交戦を目撃したのである。

「マコトちゃん・・・」

 戸惑いを見せるネオン。マコトもヴィヴィオを眼にして戸惑いを感じていた。彼女がレイと重なって見えたのだ。

「もうやめて、マコト!こんなことをしても、みんなが悲しくなるだけだよ!レイちゃんだって!」

 そこへジュンがマコトに向けて声をかけてきた。一瞬心が揺らぐも、マコトは自分とレイの気持ちを優先させた。

「今の僕とレイの気持ちは、たとえジュンでも分からないよ・・・!」

「マコト!」

 ジュンの制止を振り切って、マコトは床を殴りつける。爆発と振動が巻き起こる廊下を駆け抜け、マコトはジュンの横をすり抜けていく。

(ジュン・・・)

 親友に対する一途な想いを胸に秘めて、マコトはデルタ本部を脱出した。

 マコトの攻撃によって、廊下に崩落が引き起こされた。えりなとジュンが身構え、ネオンがヴィヴィオを守ろうとする。

 そのとき、崩落によって天井が崩れ出し、ネオンたちに向けて瓦礫が落下する。

「あっ!」

「危ない!ネオンちゃん!」

 声を荒げるネオンとジュン。えりながたまらず飛び出し、フィールド魔法「リーフフィールド」を展開して、ネオンとヴィヴィオを守る。

 だがさらに落下してきた瓦礫が、えりなの左腕に直撃する。

「ぐっ!」

 激痛を覚えたえりなが左腕を押さえてうずくまる。その直後、彼女が展開していたフィールドが消失する。

「えりなさん!」

「大丈夫ですか、えりなさん!?

 ジュンとネオンが駆け込み、えりなに心配の声をかける。

「私のことは気にしないで・・それよりも2人とも、ヴィヴィオちゃんをお願い・・」

「えりなさん・・・分かりました!」

 えりなの呼びかけを受けて、ジュンはネオンとともにヴィヴィオを連れてこの場を離れた。えりなも飛行魔法を駆使して、安全な場所へと向かうことにした。

 

(えりな!?

 えりなが危機にさらされていると直感し、健一が戦いの手を止める。彼と交戦しているジュリアは、徐々に追い詰められつつあった。

(これだけやりあっても、向こうはまだ余裕がある・・でも、何とかしないと・・・!)

「ジュリアさん!」

 打開の糸口を探っていたジュリアに向けて、突如声がかかった。ロアのメンバー2人が健一に襲い掛かってきた。

 動揺を覚えていた健一が不意を突かれるも、すぐに反応してラッシュを振りかざし、2人を撃退する。だがその隙を、続けて飛び込んできたジュリアに突かれる。

 ジュリアが繰り出したビームブレイドの一蹴が、健一の体に叩き込まれる。とっさにバリアを展開したものの、ダメージまでは軽減できず、健一が激痛を覚えてうめく。

 ジュリアがさらにビームブレイドの一蹴を健一に叩き込む。地上に叩きつけられた健一は、うつ伏せに倒れこんだまま意識を失った。

 動かなくなった健一を見下ろして、ジュリアは深刻な面持ちを浮かべる。

「やった・・やりましたね、ジュリアさん!」

「今のうちにとどめを刺してやりましょう!」

 ロアのメンバーが口々に言いかける。だがジュリアは健一を見下ろしたまま言いかける。

「いいえ、この人は連れて帰るわ。」

「えっ?しかし、コイツも高レベルの騎士。今のうちに始末しておいたほうが・・」

「完全に魔力を封じ込めて、厳重な拘束をしていれば、人質として十分利用できるわ。彼は私が連れて行く。あなたたちは攻撃を続けて。」

 仲間たちの動揺を言いとがめると、健一を抱えてこの場を離れた。彼女の言葉を受けて、仲間たちも行動を再開した。

 

 強まっていくデルタの防衛線に対し、ローグは劣勢を強いられていた。本部の機能を削りつつあるものの、彼らも攻め切れないでいた。

(そろそろ終焉ですか・・2人のエースを相手にここまでやれただけでもよしとしますか・・・)

「引き上げますよ、みなさん。シグマたちにも伝達を。」

 判断を下したローグが仲間たちに呼びかける。

「しかし、もうすぐデルタを壊滅させられるというのに・・せめてあの三銃士だけでも。」

「深追いはいけません。こちらが優位に立っているとは言いがたいです。すぐに撤退を・・」

 抗議する仲間をローグが言いとがめたときだった。

 ロアのメンバー数人が突如、放たれた強烈な閃光に巻き込まれて吹き飛ばされる。ローグたちが振り返ったその場所には、アームドデバイス「シェリッシェル」を手にしたユウキの姿があった。

「か、神楽ユウキ!?

「デルタのコマンダー自ら、戦場に出てくるなんて!?

 ロアのメンバーがユウキの登場に驚愕する。

「いえ、神楽ユウキは部隊の隊長でありながら、戦闘に自ら参加する人物です。最近は指揮に徹していたようですが・・」

 ローグが冷静さを保って呟きかける。

「ユウキ、大丈夫だって!こんなの、あたしたちだけで十分だって!」

「オレたちは試合をしてるわけじゃないんだ。こういうのは早期に終わらせるに限る。」

 不満を口にするアクシオに対し、ユウキはロアを見据えながら言いとがめる。

「しかし、あなたが自ら出向くほどには・・」

「前にも言ってきたけどさ、オレは部下にばかり仕事を押し付ける上官にはなりたくないんだよ。こういう状況になってまで、出し惜しみするのはオレの性分じゃない。」

 ヴィッツの呼びかけをも退け、ユウキがシェリッシェルを構える。

「離れていろ!オレが一気に終わらせる!」

 ユウキの呼びかけにヴィッツ、アクシオ、ダイナが離れる。ユウキの力は出力リミッターを外されていた。

「久しぶりにフルで行かせてもらうぜ!」

 言い放つと同時に、ユウキがシェリッシェルを振りかざし、光の刃を放つ。その巨大な一閃が、ロアのメンバーをなぎ払っていく。

「そんな!?あれだけの力を使ってくるなんて!?

 他のロアのメンバーがさらなる驚愕を浮かべる。ローグもユウキの力に毒づいていた。

「撤退しますよ!この場で撃墜されたくなければなおさらです!」

 ローグのさらなる指示を受けて、ロアがデルタ本部から撤退を開始する。

「追撃しなくていい!今のうちにこっちも体勢を立て直すぞ!」

 ユウキもヴィッツたちに呼びかけ、デルタの防衛線の立て直しに専念した。

 

 ローグからの念話を受けて、シグマも撤退すべきと判断した。

「レイ、下がるぞ!攻撃は終了だ!」

「イヤ。」

 シグマが呼びかけるが、なのはと対峙しているレイはそれを拒む。レイはなのはに対して劣勢に追い込まれていた。

「よさないか、レイ!これ以上戦う必要はない!このままでは君が・・!」

「イヤ。お姉ちゃんやみんなを守る・・」

 さらに呼びかけるシグマだが、レイは聞こうとしない。彼女が砲撃魔法「ブーストシュート」を放つが、なのはの放ったディバインバスターに相殺される。

「レイは決めたの・・お姉ちゃんのように、みんなを幸せにするって・・みんなのために痛い思いをするなら、レイは全然辛くない・・」

「しかしこのままでは君が傷つく!君が傷つけばマコトが、お前の姉さんが悲しむことになるのだぞ!」

 自分の気持ちを呟くように告げるレイに、シグマがさらに呼びかける。

「レイ!」

 そこへデルタ本部から脱出してきたマコトが駆けつけ、レイに向けて声をかけてきた。それを耳にして、レイが一瞬戸惑いを見せる。

「レイ、もう大丈夫だ!とりあえず戻ろう!みんなが待ってるから!」

「お姉ちゃん・・・ありがとう、お姉ちゃん・・レイに、忘れていたものを教えてくれて・・・」

 呼びかけるマコトに向けて、レイが微笑みかける。その笑顔を目の当たりにして、マコトが戸惑いを覚える。

「レイ・・・」

「今までお姉ちゃんがレイを守ってくれたみたいに、今度はレイが、お姉ちゃんを守る・・・」

 思い立ったレイが、クレセントに意識を集中する。彼女の思いを受けてか、クレセントの宝玉に宿る輝きが一気に強まり、煌いた。

「これがレイとクレセントの、全力全開・・・」

Crescent flasher.”

 レイの最大の魔法「クレッセントフラッシャー」が放たれる。

(ユウキさん、私のリミッター解除を!)

 思い立ったなのはがユウキに呼びかける。状況を察していたユウキが、とっさに彼女のリミッターを解除する。

Exceed Mode,ignition.”

 レイジングハートの自己判断と相まって、フルドライブモード「エクシードモード」が起動。

Excellion Buster.”

「ブレイクシュート!」

 なのはは即座に砲撃魔法「エクセリオンバスター」を放射。レイのクレッセントフラッシャーを迎え撃った。

 2つの閃光が衝突し、周囲に激しい振動と魔力の拡散を引き起こす。だがリミッターを解除されたなのはが、徐々にレイを押していく。

「レイ!ダメだ、レイ!」

 マコトが叫ぶ前で、レイが唐突に微笑みかける。その笑顔に、マコトは再び戸惑いを覚える。

(お姉ちゃん・・レイは、お姉ちゃんと一緒にいられて・・すごく幸せだったよ・・・)

 一途な想いを宿したレイの心の声。それはマコトの心にしっかり伝わっていた。

 姉を慕う妹の思いと願い。記憶喪失であるはずのレイにも、その心がしっかりと宿っていた。

 その直後、レイがなのはの砲撃に巻き込まれる。その閃光に包まれて、レイの姿が消える。

「レイ・・レイ!」

 マコトの悲痛の叫びが、この戦場にこだました。

 

 

次回予告

 

レイを失った悲しみ。

かつてない孤独に陥ったマコトの心が激しく揺れ動く。

一方、ロアの襲撃で半壊を被ったデルタ本部。

その中で交わされる数々の想いの交錯。

少年少女の心の行き着く先は・・・

 

次回・「告白」

 

感情が導くものとは・・・?

 

 

作品集

 

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