魔法少女エメラルえりなVersuS

第12話「2人のエース」

 

 

再会の直後の、親友との反発。

それはその親友だけじゃなく、私にも心に傷を付けていた。

 

どうしたらいいの?

何が最善手なんだろう?

どうすることが、私たちのためになるのだろう・・・

 

その答え、大切なこと。

それは全力でぶつかり合った先に・・・

 

心の霧を払うのは、思いを込めた力・・・

 

 

 新暦76年11月19日

 

 眼を覚ましたジュンは、マコトのことを思い返していた。彼女は普段首から提げているロケットの写真を見つめていた。

 頭では割り切ったつもりだった。しかし心のどこかで、彼女はマコトとの思いを抑えきれずにいた。

(マコト、やっぱり私は、あなたのことを忘れることはできないみたいだね・・・)

 逃れられない気持ちを痛感して、ジュンは物悲しい笑みを浮かべていた。

「ジュンちゃん、大丈夫・・・?」

 そのとき、眼を覚ましたネオンがジュンに声をかけてきた。

「ネオンちゃん・・・」

「必ず助けよう、ジュンちゃん。ジュンちゃんの友達は、あたしたちの友達でもあるんだから・・・」

 戸惑いを見せるジュンの手を、ネオンが優しく取る。

「フェイトさんたちも言ってたじゃない。あたしたちは1人じゃないって・・」

「そうだね・・私には、たくさんの人たちがそばにいてくれてるんだから・・・」

 ネオンの励ましの言葉を受けて、ジュンが微笑んで頷いた。

「さーて。今日も訓練があるから、精一杯頑張ろー♪」

「ネオンの笑顔を見てると、辛いことなんて一気に吹き飛んじゃいそうだよ・・」

 ネオンの呼びかけに同意するジュン。2人はこの日の訓練に向けて、準備を始めるのだった。

 

 デルタ本部にやってきたえりな。そこでは既に健一、明日香、玉緒、リッキー、ラックスがユウキとの軽いミーティングを行っていた。

「ゴメン、ゴメン。プラン作成に時間がかかっちゃって・・」

「いや、気にしなくていいよ。ちょっと確認事項を伝えていただけだから・・」

 謝るえりなにユウキが弁解を入れる。

「それでえりな、お前にも言っておいたほうがいいと思ってな。」

「私に、ですか・・・?」

 ユウキの言葉にえりなが疑問符を浮かべたときだった。

「ユウキさん、アレンくんから連絡よ。」

 クラウンがアレンからの連絡を受けた。振り向いたユウキが、モニターに映し出されたアレンを眼にする。

“アレン・ハント、ただ今戻りました。”

「おう、ご苦労さん。丁度話題にしてたとこだったんだ。」

 アレンの声にユウキが答える。アレンの背後にいる人物を見て、えりなが戸惑いを見せる。

 アレンの魔法の師であり、えりなたちの友人である。元祖エースオブエース、高町なのはだった。

 

 デルタ本部に来訪したなのはは、ユウキとの握手、仁美との抱擁を交わした。久しぶりの再会であったため、仁美はなのはとの再会を心待ちにしていたのだ。

「本当に久しぶりだね、なのはちゃん。なのはちゃんたちが起動六課にいたときは、私は産休中だったから・・」

「私もあの時はいろいろありましたからね・・本当に、いろいろと・・」

 仁美と言葉を交わす中で、なのはが戸惑いを見せた。彼女は同じく戸惑いを見せているえりなへの気持ちを思い起こしていた。

 えりなは一時期、なのはに対して疑念を抱いたことがある。それはなのはがティアナを打ちのめしたことが起因している。

 えりなはそのなのはの教育方針に疑念を抱き、彼女に反発するようになっていた。その反発が頂点に達し、第二次魔女事件での世界の混乱の起因となる2人のエースの対立を招いてしまった。

 事件が解決し、2人の和解は済んだものの、依然として2人は互いの方針を完全に認め合えずにいた。えりなが戦技教導官を目指したのも、なのはと違う自分の中の大切なものを、未来の魔導師や騎士たちに伝えたいという考えも含まれている。

「デルタのメンバーの教育は私に任されています。いくらあなたでも、過剰の口出しはさせませんよ。」

「分かってる。でも、その新人たちがどういう子たちなのか、ひと目見ておきたくてね。」

 鋭く言いかけるえりなに、なのはが落ち着いた様子で答える。そのやり取りを見て、健一がため息をつく。

「相変わらずの犬猿の仲だな。これからしばらくこっちにいることになるのに・・」

 健一の言葉を耳にして、ユウキも深刻さを覚えていた。

 これは時空管理局局長の要請だった。これからのロアとの交戦の激化を予期した局長は、戦技教導官としての仕事をこなしていたなのはをデルタに派遣したのだ。

「ま、一緒の時間を設ければ、いつかは意気投合するだろうに。」

 ユウキが弁解の意味を込めて、気さくな態度で言いかける。

 そのとき、なのはの背後から1人の少女が姿を見せた。お辞儀をしてきたその少女を眼にして、仁美が笑顔を見せる。

 なのはの娘、ヴィヴィオである。

「おはよう、ヴィヴィオちゃん。私とははじめましてになるわね。私は神楽仁美。よろしくね。」

「うん・・よろしくおねがいします・・」

 挨拶をする瞳に、ヴィヴィオも微笑んで頭を下げる。

「ヴィヴィオちゃん、1回抱かせてもいいかな?」

「うん。いいよ。」

 仁美はヴィヴィオを抱えて高らかに上げた。彼女との交流にヴィヴィオも笑顔を見せていた。

「嬉しそうですね、仁美さん。」

「うん。子供を想う親の気持ちは、私の中にもちゃんとあるんだからね、なのはちゃん。」

 微笑みかけるなのはに、仁美がヴィヴィオを抱えて頷く。新たに誕生した息子を持つ母親となった仁美には、親子の絆を理解しつつあったのだ。

「とにかく私も、あなたと同じ子持ちの魔法使いになったわけだからね。よろしくね、先輩。」

「もう、仁美さんったら、からかわないでくださいよ。」

 気さくな態度を見せる仁美に、なのはが苦笑いを浮かべる。

「それでは私は、デルタの新人たちの顔を見てきますね。」

 ヴィヴィオを降ろした仁美に言いかけると、なのははえりなに振り向いた。えりなも微笑んで頷きかけると、今日の訓練に備えるのだった。

 

「た、た、た、高町教導官・・・!?

 なのはを目の当たりにしたクオンとネオンの最初の反応は、激しい動揺だった。

「ああ、あ、あの無敵のエースが・・僕たちの前に・・・!」

 なかなか落ち着けないクオンとネオン。だがジュンには、2人がなぜそこまで動揺しているのか分からなかった。

 ジュンはなのはのことは耳にしていた。だが当時は管理局に関するニュースにそれほど関心を持っていたわけではなかった。

「聞いてはいたけど、そんなにすごい人なの、その人・・?」

「な、何を言ってるんだよ、ジュンちゃん!エースオブエース、高町なのは教導官!数々の難事件次々と解決してきた、砲撃魔導師のエキスパートだよ!」

 疑問を投げかけるジュンに、クオンがたまらず詰め寄って声を荒げる。その切迫した彼の態度に、ジュンは困惑を浮かべた。

「そんなにすごいというものじゃないよ。私よりすごい人はたくさんいるし・・」

 なのはが苦笑いを浮かべて弁解を入れる。そこへえりながわざと咳き込むと、ジュンたちに呼びかける。

「それじゃ、今日も頑張っていくよ。なのはさんが見てるけど、いつも通り、訓練通りにしていけばいいんだからね。」

「あ、はいっ!」

 ジュンたちが答えると、えりなは微笑んで頷いた。

 えりなはジュンたちに1体1の模擬戦をさせ、その力量を確認していた。彼女の他にも、なのは、健一、仁美もジュンたちの動きを見ていた。

 なのはも戦技教導官として、ジュンたちに対して眼を光らせていた。クオンとネオンがやや緊張の色を見せたものの、ジュンは気負うことなく、いつものスタイルを振舞ってみせた。

 そして模擬戦を終えて、ジュンたちは休憩を取っていた。彼らの前にえりなたちが現れた。

「お疲れ様。ちょっと動きが硬くなってたね。」

「すみません・・ちょっと、緊張してしまって・・・」

 言いかけるえりなに対し、クオンは頭が上がらなかった。

「でも、その点を除いても、的確な動きだったよ。伊達にえりなに鍛えられていないね。」

 そこへなのはが賞賛の言葉をかけ、ネオンが照れ笑いを見せる。

「さて、それじゃミーティングの時間だよ。今回の模擬戦を踏まえて、お互いの長所や短所を話し合ってみよう。」

 えりなの呼びかけでジュンたちは話し合いを始める。自分のことを話し合っていくことで、これからの課題が見えてくる。それがえりなの教えだった。

「もやもやは早めに消して、お互い納得してから次のステップに進む。それが私のやり方です。」

「でも教導官のやり方には添ってるんでしょう?」

 言いかけるえりなに、なのはも言葉を返す。するとえりなは頷いてから、話を続ける。

「ここは特別捜査部隊、デルタ。難易度の高い任務や戦闘が多いですからね。1からのんびり学ばせるより、実践に近い応用訓練で叩きのめし、学ばせて慣れさせる。そのほうが効率がいいですしね。」

 えりなは説明しながら、話し合いをしながら時折笑みをこぼすジュンたちに眼を向ける。

「こういう部隊の教育は、教官よりも教導官のほうが向いている。そんな気がしますね。」

「起動六課もそんな部隊だったからね。私もそう思うよ。」

 えりなの言葉になのはが同意する。

 戦技教導官はデバイスや武装のテストやシュミレーションが主な仕事である。部隊の短期教導も行っており、長期教導は異例の部類に入る。

 教導方針もより実戦的なものとなっている。えりなのジュンたちへの教導も、教導官の方針に添ったものだった。

「とりあえず話し合いは終了。それぞれについてレポートにまとめておいてね。」

「はいっ!」

 えりなの呼びかけにジュンたちが答える。えりなたちが先に本部に戻ろうとしたときだった。

「待ってください、高町なのはさん!」

 そのとき、ジュンが突然なのはを呼び止めた。足を止めたなのはがジュンに振り返る。

「あなた確か、春日ジュン二等空士だよね?」

「お願いがあります!私と1回、勝負してください!」

 疑問を投げかけるなのはに向けて、ジュンが呼びかける。その言葉にクオンとネオンが驚きを見せる。

「ちちちち、ちょっとジュンちゃん!何を言い出すんだよ、君は!?

「あのなのはさんに勝負を挑むなんて!?

 クオンとネオンが声を荒げるが、ジュンの考えは変わらない。

「あなたがどれほどの魔導師なのか、まだ実感が湧かないんです。だからこの体で、それを確かめたいんです!」

「でもジュン、それは・・・」

 ジュンの申し出をなのはは受け入れられないでいた。ジュンが攻撃的になっているのを、なのはは受け入れられなかったのだ。

「逃げるんですか?誰もが認める認めるエースというのは、ただの肩書きというわけではないでしょう?」

 そのとき、ジュンがなのはに向けて挑発を投げかけた。その瞬間、クオンとネオンの緊迫がピークに達した。

 それを見かねた健一が、ため息混じりに言いかけてきた。

「あのなぁジュン、なのはさんはこれまでの難事件の貢献をいくつも成し遂げてきてるんだ。Sクラスの魔法ランクもそれを物語ってる。第一お前、今の今までえりなと1対1で引き分けたためしもねぇだろ。そのお前がなのはさんに敵うわけが・・」

「ううん。1度相手をしてあげてください、なのはさん。」

 苦言を呈する健一の言葉をさえぎり、えりなが呼びかける。その言葉になのはも当惑を見せる。

「ジュンも私やなのはさんと同じで、ガンコな性格の持ち主ですよ。痛い目を見ないと分からない部分も出てくる。なのはさんなら分かると思うんですけど?」

「・・仕方がないね。私も運動しておきたいと思ってたところだったんだ。」

 えりなに言いかけられて、なのは渋々ジュンの申し出を受け入れることにした。

「やめといたほうがいいって、ジュンちゃん!すぐにでも謝ったほうが・・!」

「ううん。ネオンちゃん、これはどうしてもやらなくちゃいけないことだって思うの。だから、私はやる・・・!」

 ネオンがさらに言いとがめるが、ジュンは首を横に振った。もはや何を言っても聞かないと思い、ネオンもクオンもこれ以上声をかけることができなかった。

 擬似フィールドの市街の真ん中に立つジュンとなのは。それを心配そうに見つめるクオンとネオン。

「ジュンちゃん、大丈夫かな・・・」

 クオンが不安を見せると、えりなが微笑みかけてきた。

「心配ないよ。なのはさんにも出力リミッターがかかってる。それに、あの人なら魔力ダメージだけに制限するだろうから・・」

「えりなさん・・・本当に、なのはさんと仲が悪いのですか・・・?」

「まぁ、いいとはいえないね。もしそんなに悪くなかったら、私は多分、戦技教導官にはなってなかったと思う・・」

 クオンが恐る恐る問いかけると、えりなは淡々と答えた。

「私がみんなに伝えたい大切なこと。これだけはみんなに伝えておきたい。そういうことが、私の中にもちゃんとあるから・・・」

 自分の心境を語りかけるえりなに、クオンとネオンは戸惑いを見せる。

 人は誰しも、譲れない大切なものを抱いている。未来に残しておきたい大切なものを。互いの気持ちを深く理解し合いたい。その上でともに成長していきたい。それがえりなの願いだった。

 

 1対1の模擬戦を行おうとしていたジュンとなのは。インテリジェントデバイス「レイジングハート・エクセリオン」を手にするなのはを前にして、ジュンは一抹の緊張を覚えていた。

(この緊張感・・普通の魔導師じゃないっていうのは、今の時点でも十分に分かる・・でも、あの人の中にも、えりなさんと同じように深さがあるはず・・それをどこまで見抜けるか、自分自身を試す・・・!)

 決意を胸に秘めて、ジュンがなのはに飛びかかる。彼女が繰り出した拳を、なのはは飛翔してかわす。

 なのはは魔力の弾「アクセルシューター」を展開して、ジュンに向けて放つ。ジュンはその合間を縫って、なのはに向かって飛びかかる。魔力の弾が軌道を変えて彼女に再び向かっていることも構わずに。

 再び攻撃を繰り出そうとするジュン。なのはも「ラウンドシールド」を展開して、防御の体勢を取る。

 だがジュンは攻撃はせずに突如横に進行方向を変える。彼女を狙っていた魔力の弾が、なのは自身に向かっていた。

 なのはは即座にアクセルシューターを消失させ、ジュンに眼を向ける。ジュンは既に攻撃態勢に入っていた。

 だがジュンは魔力を込めた拳を叩き込まず、再び方向転換する。なのはが「フープバインド」を仕掛けようとしていたことに瞬間的に気付いたのだった。

(私のバインドを交わしてくるなんて・・この子、すごい反射神経をしてるね・・でも・・)

 ジュンの力量に胸中で賞賛を告げるも、なのはは彼女に勝ちを譲ろうとは考えていなかった。

(まだ魔導師に成り立てなのか、荒削りで直線的だよ・・)

 思い立ったなのはが、距離を置いたジュンに眼を向ける。後退して動きを止めた瞬間、ジュンは眼を見開いた。

 ジュンの周囲には無数の魔力の弾が取り囲んでいた。逃げ場を封じられたこの状況に、彼女は息を呑んだ。

(すごい・・いつの間にこんなたくさんの魔力の弾丸を・・・!)

 なのはの力を痛感して、ジュンは焦りを覚える。これだけの数の魔力の弾丸を切り抜けるのは非常に困難だった。

(こうなったら少し危ないけど、全力全開になるしかないね・・フレイムスマッシャー、行くよ。)

Considerable danger is attended. (かなりの危険が伴います。)

(それでもやるしかない・・やらなくちゃ、ここでゲームオーバーになっちゃう・・・!)

 フレイムスマッシャーと言葉を掛け合うと、ジュンは意識を集中する。彼女の体を紅いオーラが収束されていく。

「烈火奮迅!バーストエクスプロージョン!」

 ジュンは紅いオーラを放出し、周囲を取り巻く魔力の弾を吹き飛ばす。これがリスクを伴いながらの、彼女の見出した突破口だった。

 その直後、ジュンは突如バインドに体を拘束される。その束縛にジュンが眼を見開く。

(バインド!?私が気付けないなんて・・!?

「その思い切りは認めるよ。でもあれだけ大きな音を出したら、魔法を仕掛けるタイミングも探れなくなるよ。」

 毒づくジュンに向けて、なのはが言いかける。彼女はジュンに向けてフープバインドを仕掛けていたのだ。

「これで終わりだね。あなたもなかなかだけど、もう少し鍛錬が必要だね。」

 なのははジュンの戦意が消えたのを確かめると、肩の力を抜く。かけられていたバインドが解除され、ジュンは自由を取り戻す。

「負けたぁ・・勝てないとは思ってたけど、ここまで惨敗するなんて・・」

 地上に降りたジュンが落胆の様子を見せる。そんな彼女の前になのはも降り立った。

「あなたの潜在能力は眼を見張るものがあるよ。でもその力の使い方を間違っちゃいけないよ。」

「えっ・・・?」

「最後のアレはピンチを脱出するためにはいいけど、周りに危害を及ぼしかねないし、あなた自身の消耗も激しい。うまく制限をつけて使ったほうがいいよ。」

 なのはからの注意にジュンは困惑を覚えた。しかしジュンは腑に落ちない部分を抱えていた。

「確かにそういったムチャはよくないことは分かります。でも、思い切りはやっぱり大事だと思います。大切なのは想いと勇気。私はそう思います。」

「ジュン・・・」

「たとえ頭ごなしに否定されても、これだけは譲れません。えりなさんにも、このことは話し合っています・・」

 なのはの注意に真っ向から向かい合うジュン。彼女の中にも揺るぎない決意が秘められていた。

「私も一応は注意したんですけど、これだけは聞き入れなかったんですよ・・」

 そこへえりなが健一とともに降りてきた。

「えりなに負けず劣らずのガンコっぷりで、オレもやれやれって感じだったっスよ。」

 健一も呆れ気味に答えると、なのはもため息をつかずにはいられなかった。

「でも、なのはさんのいうことも分かります。私、ちょっと慌てちゃったかな、アハハ・・」

 そこへジュンが弁解を入れて、照れ笑いを見せた。そんな彼女に、えりなたちも笑みをこぼしていた。

 

 その日の夜、食堂にて夕食を取っていたジュン、クオン、ネオン。今日のジュンの行動に冷や冷やさせられっぱなしで、クオンとネオンは大きく肩を落としていた。

「もう・・今日のジュンちゃんのムチャには驚いたよ・・」

「ホント・・あのなのはさんに真っ向勝負を挑むんだもん・・見ているあたしまでドキドキしちゃったよ〜・・」

 クオンとネオンが不安の言葉を投げかけながら、カレーを頬張る。

「だって実際にやってみなくちゃ分かんないじゃない。実際やってみて、あの人の実力が理解できたわけだし。」

 ジュンが2人に対して自分の気持ちを告げる。3人の中で彼女が食事に勢いがあった。

「何にしても、これでまた目標が増えたよ。まだまだ強くなれるっていう可能性もね。」

 ジュンはさらに言いかけて、カレーを口に入れていく。しかしあまりに勢いよく食していたため、彼女は喉を詰まらせる。

「ちょっとジュンちゃん、そんながつくから・・!」

 クオンが慌てて声をかけ、ネオンが水の入ったコップを差し出す。ジュンはその水を一気に飲み干し、落ち着いて大きく息をつく。

「そんなに慌てなくても、食べ物は逃げていかないよ。」

 そんな3人の前に、ヴィヴィオを連れたなのはがやってきた。クオンとネオンが慌てて立ち上がり、敬礼を送る。

「そんなにかしこまらなくていいよ。今は任務でも訓練でもないから・・」

 なのはが微笑んで弁解を入れる。その前で、ジュンがヴィヴィオに眼を向けて戸惑いを覚えていた。彼女はヴィヴィオとレイを重ねていたのである。

「ジュン、あなたのことはユウキさんから聞いてるよ。友達が、ロアにいるんだよね・・」

 そこへなのはがジュンに声をかけてきた。その問いかけにジュンは小さく頷いた。

「幼馴染みで、戦うかもしれないことを不安に思うときがあります・・でも私が、私たちがやらなくちゃと思っています。友達からこそ、間違いを止めなくちゃいけないって・・」

 親友であるマコトを思っての決意。ジュンのその気持ちを目の当たりにして、なのはも戸惑いを覚えた。

 なのはも親友との戦いを何度も経験している。その辛さと悲しみを、彼女は十分に理解していた。

 そのとき、ジュンがヴィヴィオに視線を戻し、微笑みかけてきた。

「君も頑張ろうね。好き嫌いせず、いつも元気でいようね。ママみたいにね。」

「うん・・ヴィヴィオ、がんばれるから・・」

 ジュンの励ましの言葉を受けて、ヴィヴィオが笑顔を見せる。

 ジュンは今のような励ましをレイにしたことがあった。マコトとレイと一緒に食事を取ったとき、レイは嫌いな食べ物を食べられずにいた。そんなレイにジュンが呼びかけると、レイは勇気を持って好き嫌いを克服したのだった。

 未来を担っていく子たちに心身ともに強くなってほしい。ジュンもそう願っていた。

「勇気を出して一生懸命に生きていってほしい・・なのはさんも、そう思ってるんでしょう・・・?」

「そうだね・・管理局にいるたくさんの人が願ってることだと思う・・・」

 ジュンが言いかけた言葉になのはが同意する。クオンとネオンも微笑んで頷いていた。

「そして私たちも、今を一生懸命に頑張ってる・・」

 そこへえりながリッキーとともに、ジュンたちの前に現れた。

「なのはさん、明日、試合をしてもらえませんか?」

 えりなのこの申し出を聞いて驚いたのはジュンたちだった。試合を持ちかけられたなのはは、いたって冷静だった。

「3ヶ月前に会ったときも、ちゃんと正々堂々の試合をしましたよね。前と比べてどれだけ強くなったか、確かめ合いましょう。」

「えりな・・・そうだね・・でも、私も負けるつもりはないからね。」

 えりなの申し出になのはが微笑んで頷く。

 えりなとなのは。現在ではライバル関係になっていた。都合が合えば1対1の試合を行い、互いを高めあっていた。

 試合を承諾したなのはと微笑みかけたえりな。2人がそれぞれ左手と右手を軽く握り、軽く突いた。互いの気持ちを確かめ合う意味を込めてのやり取りである。

 

 仲間は、時に互いを高めあうライバルとなる。

 競い合うという気持ちが、互いを成長へと導くのである。

 もしも完全に和解してしまっていたら、ここまで張り合うことはなく、今のように成長することもできなかっただろう。

 模擬戦をこなす中、なのはとえりなはそう感じていた。

 だが自然と不快に感じられなかった。迷いもわだかまりも忘れられ、自分の気持ちを貫ける。悪くない心地だった。

 遠距離のなのはと近距離のえりな。2人のエースの戦いに、ジュンたちをはじめ、多くの人々が魅入られていた。

 なぜ2人がエースと呼ばれ、讃えられているのか。なぜそこまで強くなれるのか。その答えを見出せた気がする。ジュンはそう思っていた。

 

 メンバーたちの療養の中、次の出撃に備えるロア。その中で、マコトはミッドチルダ首都「クラナガン」のほうを見つめていた。

 彼女も前回に負った傷が完治していなかった。しかしそれ以上に、彼女は時空管理局に対する憎悪に駆り立てられていた。

(時空管理局・・必ず僕がお前たちを倒して、本当の未来を切り開いてやる・・・!)

 決意と敵意を膨らませて、拳を握り締めるマコト。そこへレイがやってきて、マコトに寄り添ってきた。

「レイ・・・」

「お姉ちゃん、ジュンお姉ちゃんとケンカするの・・・?」

 怒りを抑えて振り向くマコトに、レイが訊ねてきた。その問いかけに一瞬戸惑いを見せるも、マコトは真剣な面持ちで答える。

「僕もできるならケンカしたくないよ。幼馴染みだからね・・でも、本当の幸せのために、僕たちは戦わなくちゃいけないんだ。たとえジュンを相手にしてでも・・」

「辛くならない、お姉ちゃん・・・?」

「辛いよ。友達だからね・・その友達のためにも、これはやらなくちゃいけないことなんだよ・・・」

 打ちひしがれる気持ちを抑え込んで、マコトがレイに言いかける。するとレイが真剣な面持ちで、マコトに声をかける。

「だったら、レイも頑張るよ・・」

「レイ・・・!?

 レイの突然の申し出にマコトが動揺を見せる。

「お姉ちゃんが頑張ろうとしてるのに、レイが何もしないわけにいかない・・レイも、みんなが幸せになってほしいと思ってるから・・・」

「レイ・・・だけど、それじゃレイが・・・!」

「お姉ちゃんがレイに傷ついてほしくないと思ってるのと同じ・・レイもお姉ちゃんやみんなに傷ついてほしくない・・」

 自分の気持ちを正直に言い放つレイに、マコトは言葉を返せなくなる。自分に勝るとも劣らずに、レイも大切に思っていたことに、マコトは困惑を感じていた。

 そこへシグマとポルテが2人の前にやってきた。

「シグマ、ポルテ、何かあったの・・・?」

「マコト、緊急集会だ。耳に入れておかなくてはならない知らせが入った。」

 マコトが問いかけると、シグマは深刻な面持ちで答える。彼の呼び出しを受けて、マコトが向かおうとする。

 するとレイがマコトの手を取ってきた。突然のことに戸惑い、マコトは足を止める。

「レイも一緒に行く・・」

「レイ・・気持ちは嬉しいけど、いろいろと難しいことも話すことになるから・・」

「分からないこともあるけど、レイも話を聞きたいの・・みんなにとって大切なことなら・・・」

 レイの申し出に再び困惑するマコト。するとシグマがレイの肩に優しく手を添えてきた。

「分かった。君がそこまで言うなら、一緒に行こう。もし退屈になったならマコトに言ってくれ。」

「うん・・ありがとう、シグマ・・・」

 シグマの了承に、レイが微笑んで頷く。肩を落としながらも、マコトもそれに同意した。

 

 シグマとポルテに導かれたマコトとレイ。そこではローグとジュリアが既に待機していた。

「シグマ、あなたが告げてきた重要な知らせ。それは何なのでしょうか?」

 ローグが言いかけると、シグマが頷いてから語り始める。

「デルタに新たに、航空魔導師が1人派遣されてきた。今回は一時的なものではなく、我々の鎮圧まで留まるとのことだ。」

 シグマのこの言葉にマコトたちが眉をひそめる。

「その魔導師とは誰なのですか?デルタに派遣されるのですから、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンやエリオ・モンディアル、スバル・ナカジマのように、生半可でない実力の持ち主、あるいは高い成果を上げた人物ということになりますが。」

「あぁ。彼らと縁のある人物・・エースオブエース、高町なのはだ。」

 ローグの問いかけにシグマが答える。その言葉にローグとジュリアが驚愕を覚える。

 なのはの登場により、時空管理局とロアの戦いの激化にさらなる拍車がかかっていた。

 

 

次回予告

 

なのはの参戦により、ロアとの戦いは新たな佳境に突入した。

出撃するロアの戦士と、これを迎え撃つ2人のエース。

戦いの中で、ジュンとマコトが再び邂逅する。

少女たちの衝突の中で、レイの想いは・・・

 

次回・「小さな願い」

 

想いを秘めた少女が今、未来への扉を叩く・・・

 

 

作品集

 

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