魔法少女エメラルえりなVersuS

第11話「連係(コンビネーション)」

 

 

再会の直後の突然の衝撃。

こんな事態を、誰もが望んではいなかったはず。

 

たくさんの人たちが辛い思いをしているのに、自分の気持ちさえ分からない。

どこに向かっているのだろうか。

どこに答えがあるのだろうか。

 

自分のすべきことを見つけるため、戦い続ける。

 

この迷い、振り切ってみせる・・・

 

 

「久しぶりだね、ティア。」

 ティアナの危機を救ったのは、彼女の親友、スバル・ナカジマだった。グローブ型アームドデバイス「リボルバーナックル」を装着した右手での打撃で、ハーツの攻撃を跳ね返したのである。

「スバル・・どうしてアンタが・・!?

 スバルの登場にティアナが驚きを見せる。

 2人は起動六課のフォワードだった。部隊の解散後、スバルは湾岸特別救助隊へ転属となり、その前線で活躍していた。

「春日ケイ一等空尉からの呼び出しを受けてね。丁度こっちに来てたんだよ。」

「春日ケイ・・春日ジュンのお母さん・・・」

 スバルが事情を説明すると、ティアナが少し考えてから頷きかける。スバルをミッドチルダ市街に呼び寄せたのは、特別救助隊と連絡の取り合いをしているジュンの母親、ケイだった。

「やっぱりゴウ執務官とケイ一尉は犬猿の仲のようね・・」

 ティアナが半ば呆れ、スバルが苦笑いを浮かべる。

「管理局の新手か・・お気楽におしゃべりばかりしてないで、かかってきなさいよね!」

 2人のやり取りを見かねたパッソが、鋭く言い放つ。するとスバルとティアナが真剣な面持ちになり、パッソとハーツを見据える。

「久しぶりだよね。ティアとこうしてコンビを組むの。」

「余計なことは言わなくていいの。今はロアを何とかすることが先決よ。」

 微笑みかけるスバルに対し、突っ張ってみせるティアナ。

「1人はブーメラン型のデバイスを使っての遠距離攻撃重視。もう1人は格闘術による接近戦重視。」

「迅速に対処するには、相手の苦手なやり方で攻めるのが1番だね・・」

 ティアナからの情報を受けて、スバルが打開策を告げる。ティアナが見つけようとしていた答えが、ようやく見出されたのだ。

「あたしがブーメランの子を相手にするから!」

 スバルがティアナに呼びかけると、パッソに向かって駆け出す。それを阻止しようとするハーツだが、ティアナが放った魔力の弾丸に妨害される。

「それじゃ行くよ、マッハキャリバー!」

All right buddy.”

 スバルの呼びかけに、彼女の装着しているローラーブーツ型インテリジェントデバイス「マッハキャリバー」が答えた。

 

 スバルの参戦を感知したえりな、明日香、ラックス。ジュリアもそのことに気付き、劣勢を痛感していた。

(管理局の新手が加わった・・これじゃパッソとハーツが・・・!)

 パッソたちの救援に向かおうとするジュリアだが、えりなと明日香が行く手を阻む。ラックスも丁度ロアのメンバーたちを撃退していた。

「こっちは片付いたよ。アンタらもすぐに捕まえてやるから・・・!」

 高らかに言い放つラックスの言葉を受けて、ジュリアが毒づく。3人を相手にする術が見つからず、彼女は焦りを覚える。

「ジュリア!」

 そのとき、ジュリアに向けて声が飛び込んできた。直後、飛んできた拳をえりながとっさにブレイブネイチャーの光刃で受け止める。

 乱入してきたのはマコトだった。1度はこの場を離れた彼女が戻ってきたことに、ジュリアは驚きをあらわにした。

「マコト!?どうして!?

 ジュリアが声を荒げたときだった。

「明日香、危ない!」

 ラックスが明日香に飛びついてきた。その瞬間、ラックスの背中に一条の光が直撃する。

「ぐっ!」

「ラックス!?

 うめくラックスに明日香が声を上げる。脱力するラックスを支えて、明日香が光が飛んできたほうに振り向く。

 その先にはシューティングモードとなっているジャスティを手にしているローグの姿があった。

「ジュリア、マコトとレイとの合流に成功しましたよ。」

「ローグ・・あなただったのね・・」

 淡々と言いかけるローグに、ジュリアが安堵の笑みを浮かべる。打撃による反動で、えりなとマコトが距離を置く。

「明日香、ゴメン・・だけど、ケガとかなかったよね・・・?」

「・・・ありがとう、ラックス・・後は私がやるから・・・」

 微笑みかけるラックスに対して悲痛さを見せるも、明日香はすぐに真剣な面持ちを浮かべる。

「あなたはここから離れて、リッキーたちと合流して。彼なら治療してくれるから・・・」

「うん・・分かったよ・・・」

 明日香の呼びかけを受けて小さく頷いたラックスは、力の入らない体でゆっくりと降下していった。ウンディーネを構えた明日香が、ローグを見据える。

「あなたの相手は私です。あなたたちを逃がすわけにはいきません。」

「よろしいのですか?このまま戦いを激化させれば、市街に影響が及ぶことは眼に見えています。たとえあなた方がリミッターの制約下のままであっても。」

 鋭く言い放つ明日香に対し、ローグは落ち着いた態度を崩さずに答える。このまま戦えば街に危害を及ぼすことになる。

「そのことなら承知しています。あなたたちを、街から引き離します!」

「それは不可能ですよ。我々はミッドチルダへの攻撃を目的としているのですから・・」

 互いに言い放つ明日香とローグ。2人の周囲にはそれぞれの魔力光と同じ色の弾丸が出現していた。

 

 市街から離れながら、シグマと交戦していたフェイト。だが戦況は依然として悪い方向だった。

「そろそろフルドライブを発動したらどうだ?あまり出し惜しみをしていると、自分の首を絞めることになるぞ。」

 シグマがフェイトに向けて鋭く言い放つ。だがフェイトはその挑発に乗らず、冷静さを崩さない。

「あくまで今の状態を維持するつもりか・・それで果てるのも一興か・・」

 シグマは嘆息をもらすと、スティードを高らかに振りかざす。これを迎え撃とうと、フェイトもバルディッシュを構える。

 そのとき、突如スティードの刀身が強い衝撃を受ける。虚を突かれたシグマが眼を見開き、たまらず後退する。

 乱入してきたのはアームドデバイス「ストリーム・インフィニティー」を手にするアレンだった。

「大丈夫ですか、フェイトさん!?

「アレン・・」

 アレンの呼びかけに一瞬戸惑いを見せるフェイト。

「ユウキさんから連絡を受けました。健一もえりなたちのところに向かっています。」

 アレンの説明を受けて頷くフェイト。2人は各々のデバイスを構え、シグマを見据える。

「新手か・・少し時間をかけすぎたか・・・」

 毒づくシグマが2人を見据える。アレンが先行し、シグマに迫る。

Zerstorung Blatt.”

 重みのあるストリームの一閃が、再びスティードの刀身を叩く。その衝撃にやや押されるも、シグマは踏みとどまった。

「こんなもので、私とスティードを止められるものか!」

Crush blade.”

 シグマが言い放つと、スティードから衝撃度の強い一閃が繰り出される。その圧力に押されて、アレンが突き飛ばされる。

 だがその後方で、フェイトがかざした左手に魔力を収束させていた。

「プラズマスマッシャー!」

 フェイトが放った金色の閃光が、シグマに向かって飛んでいく。受け止めきれない威力と判断したシグマは、迎撃せず回避を取った。

 目標を外した閃光は虚空に消え、星のように煌いた。

(さすがはフェイト・テスタロッサ・ハラオウンだ。戦術もポテンシャルも眼を見張るものがある。これほどの魔導師や騎士が管理局にゴロゴロしているなら、まさに難攻不落の城だな・・)

 胸中でフェイトの力量を賞賛するシグマ。

(そろそろマコトとレイがローグと合流した頃だろう・・潮時か・・)

「今回はここまでだ。お前たちのような者を打ち倒さねばならないということが、とても歯がゆい・・・」

 フェイトとアレンに言いかけると、シグマはスティードを振りかざし、この場を離れる。

「くっ!・・逃げられてしまった・・・」

「今は彼を追うよりも、街を守ることのほうが先決だよ。すぐに人々の保護を。」

 毒づくアレンに向けて、フェイトが呼びかける。2人は市街と人々の救助のため、再び空を飛んだ。

 

 路上にて激しい攻防を繰り広げるスバルとパッソ、ティアナとハーツ。自分の得意な戦術を崩され、パッソとハーツは追い込まれていた。

「リボルバーシュート!」

 スバルが繰り出した拳から閃光が放たれる。パッソは飛翔してそれをかわし、そのまま飛行して上空に留まる。

「アンタのスタイルはどう見ても地上戦向き!空中にいる相手には攻撃は届かないよ!」

 パッソがスバルに向けて高らかに言い放つ。飛行魔法の使えない相手からの攻撃は限定される。パッソはそう確信していた。

 そのとき、パッソの周囲を光の道が伸びた。その道にパッソが眉をひそめる。

「何、この道・・まさか!?

 パッソが思い立ったときだった。その道を走行してきたスバルが、パッソに向けて拳を繰り出してきた。

「リボルバーキャノン!」

「ぐあっ!」

 衝撃波を伴ったその一撃を受けて、パッソがうめく。これが決定打となり、パッソが力なく光の道「ウィングロード」に倒れ込む。

「やったね、マッハキャリバー。」

It is a result of the duty and training. (任務と訓練の賜物ですよ。)

 笑顔を見せるスバルにマッハキャリバーが答える。彼女は気絶したパッソを抱えて、ウィングロードを伝って地上に降りた。

 

 接近戦に持ち込んでいたハーツと、一進一退の攻防を繰り広げていたティアナ。だがそれは彼女の狙いだった。

 ダガーモードのクロスミラージュで、ハーツの攻撃を防いでいくティアナ。その間にも彼女は、ハーツ打倒のための布石を打っていた。

「防戦一方になっていますよ。それでは勝機が見えてくるはずもない・・」

「なら見せてやるわよ。形勢逆転っていうのをね。」

 淡々と言いかけるハーツに対し、ティアナが笑みを見せる。その瞬間、ハーツは後方から光の弾が飛んでくるのに気付く。

 ハーツはとっさに跳躍し、弾を回避する。だが弾はさらにハーツを狙って飛んでくる。

(遠近双方からの巧みな攻撃・・でもこっちは速さで切り抜ける・・!)

 思い立ったハーツが建物の中に入り、細い廊下を駆け抜ける。それでティアナのクロスファイアシュートをやり過ごそうとする。

 建物の外に出ようと疾走するハーツ。だがその出入り口に通じる角から光の弾が飛び込んできた。

 前後からの砲撃の挟み撃ちを、ハーツはその合間をすり抜けていく。その彼女の視界に、クロスミラージュを構えるティアナが飛び込んでくる。

 ハーツはそれがフェイクシルエットによる偽者ではないか疑う。彼女はそれがわずかのぶれもないと認識する。

(小細工なしで攻め立てますか・・・!)

 いきり立ったハーツがティアナに向けて拳を叩き込む。だがその感触に、彼女は違和感を覚える。

 彼女が攻撃を加えたのは鏡だった。彼女が見たのは鏡に反射していたティアナの姿だった。

 ハーツがこれに気付いたときには遅かった。ティアナの放ったクロスファイアシュートの1発が、ハーツの右こめかみに直撃する。

 精神に衝撃を受けたハーツが意識を保てなくなり、その場に倒れ込む。その彼女にティアナが近づき、見下ろす。

「これが、形勢逆転というものよ。」

 ティアナは呟くように言いかけると、ハーツを抱えて建物の外に出た。1度スバルと合流するために。

 

 マコト、ローグ、ジュリアの猛攻に、えりなと明日香は劣勢を強いられていた。リミッター解除を検討したが、街に被害を及ぼしかねないと判断し、2人はそれを思いとどまっていた。

(何とか街の外に出ないと・・このままの状態でも、みんなが危ないことに変わりはないよ。)

(でも下手に動けば、相手は標的を街に向けてくる。あの人、かなり頭がいいよ・・)

 えりなの呼びかけに、明日香がローグに眼を向けて答える。知的な戦略を企てるローグに対し、2人はなかなか思い切った手を打つことができなかった。

 さらにレイも加わり、マコトたちの援護に回る。彼女の周囲に、ブースドデバイス「クレセント」が生成した魔力の弾が展開していた。

「お姉ちゃんをいじめる人は、レイが許さない・・」

 レイが呟くように言いかけると、えりなと明日香に向けて弾を放つ。誘導弾と察した2人は、リーフスフィアとドロップスフィアで迎え撃つ。

 だがその合間を縫って、マコトとジュリアが飛び込んできた。2人の特攻による一撃、一蹴が、えりなと明日香を突き飛ばす。

「これでとどめにしてやるわ!」

 ジュリアが追い討ちのためにえりなたちに迫る。えりなも明日香もまだ体勢を整えていない。

 そのとき、ジュリアが振りかざしたビームブレイドを、一条の刃が叩いた。体勢を崩されたジュリアがビルの壁に叩きつけられる。

「ジュリア!?

 眼を見開いたマコトが振り返った先には、ラッシュを手にした健一の姿があった。

「健一!」

「待たせたな、えりな!遅くなってワリィ!」

 声を荒げるえりなに眼を向ける健一。その間にえりなと明日香は体勢を整えていた。

「さっき、ラックスと合流した。今、リッキーが応急措置を行ってくれてる。」

「そしてあたしと健一くんが、ここに来たってわけ。」

 健一に続いて声をかけたのは、彼とともに駆けつけた玉緒だった。

「辻健一と豊川玉緒ですか。」

 ローグが眼つきを鋭くして、相手4人を見据える。

「横槍入れてくるなんて・・いいわ。私が相手をしてやるわ!」

 ビルから飛び出したジュリアが、健一に向かって飛びかかる。その接近に気付いた健一も身構え、ラッシュを振りかざす。

 ラッシュとアウトランナーのビームブレイドがぶつかり合い、火花を散らす。その反動で健一とジュリアが距離を置く。

「あのデバイス、切れ味抜群だ・・けど、オレとラッシュも負けちゃいねぇぜ!」

Burst strush.”

 健一が振りかざしたラッシュから、魔力を込めた光の刃が放たれる。

「こんなもの、アウトランナーなら!」

 ジュリアがその刃をアウトランナーのビームブレイドで叩き壊す。そこへ健一がその懐に飛び込んできた。

Blast strush.”

 健一が魔力を込めた一閃を繰り出す。それを受けた右足のアウトランナーに亀裂が生じる。

「くっ!」

 その瞬間に毒づくジュリア。とっさに左足のアウトランナーを振りかざして、健一を引き離す。

「大丈夫、アウトランナー!?

Damage rate 40%. The combat more than this is dangerous.(破損率40%。これ以上の戦闘は危険です。)

 声を荒げるジュリアに、アウトランナーが答える。焦りを覚える彼女に、健一がラッシュの切っ先を向ける。

「これで終わりだ。とどめを刺されるのがイヤなら、大人しくオレたちについて来い。悪いようにはしねぇ。」

 忠告を送る健一に対し、ジュリアは歯がゆさを浮かべるしかなかった。

 

 同じ頃、えりなたちに代わって、玉緒がマコトたちを足止めしていた。彼女はオールラウンドデバイス「ミラクルズ」を振りかざし、無数の光の弾を出現させる。

「行くよ、光の雨、ホワイトレイン!」

 玉緒がミラクルズを振り下ろすと、弾がマコトたちに向かって雨のように降り注がれる。彼らを外した弾も地上に当たる前に、光の屈折のように上空に飛んでいく。

「くっ!やむを得ませんか・・ジャスティ、プロヴィデンスモード!」

Providence mode,ignition.”

 思い立ったローグがジャスティのフルドライブモード「プロヴィデンスモード」を起動させる。槍状の突起物が数機、ジャスティの先端から射出される。

Spatial shooter.”

 その突起物の先端から光線が放射され、玉緒の魔力の弾を撃ち抜いていく。ローグは自分たちのこの危機を、空間的な射撃で回避してみせた。

「そんな・・ホワイトレインを、あんな方法で・・!?

「まさかこんなに早く、プロヴィデンスモードをさらすことになるとは・・・」

 愕然となる玉緒と、歯がゆさを覚えるローグ。だが2人はすぐに冷静さを取り戻し、現状を見据える。

「今回はここまでです。これ以上交戦しても、消耗戦にしかならないでしょう。」

「ローグ・・仕方ないか・・レイ、戻ろう!」

 ローグの判断に同意して、マコトが呼びかける。

(ジュリア、帰還しますよ。アウトランナーがその状態では、戦闘継続は危険です。)

(ローグ・・分かってるわよ。でも、パッソとハーツが・・)

 ローグの呼びかけにジュリアが答える。そのとき、彼女の前に戦いを終えたスバルとティアナが姿を現した。

「あなたたち!?・・パッソとハーツはどうしたの!?

「あの2人なら拘束したわよ。武装局員が本局に連行しているわ。」

 声を荒げるジュリアに、ティアナが淡々と答える。怒りのままに攻撃を仕掛けたかったジュリアだが、この状態で敵うはずもないことを痛感し、それを思いとどまっていた。

「次に会ったときは、絶対に打ち倒してやるから!」

 ジュリアは吐き捨てると、左足のアウトランナーに意識を集中し、加速する。ローグも撤退を開始し、マコトもこの場を離れようとした。

「マコト!」

 そこへ声がかかり、マコトが止まる。呼びかけたのは、彼女を追いかけてきたジュンだった。

「ジュン・・・」

「お願い、マコト・・あなたとレイちゃんが抱えているもの、その解決に私も協力させて!昔はあなたが私を守ってくれた!今度は私が・・!」

「うるさい!僕たちの気持ちを裏切ったくせに!管理局の人間になったくせに!」

 ジュンが再び呼びかけるが、マコトはそれを一蹴する。

「僕は君を信じない・・たとえ君でも、管理局の人間には頼らない・・・」

「待って!行かないで、マコト!」

 冷淡に告げて離れていくマコトを追いかけようとするジュン。だが追いついたクオンとネオンに止められる。

「ダメだよ、ジュンちゃん!1人で向かっていくなんて、ムチャだよ!」

「放して、クオンくん!このままじゃマコトが!マコトが!」

 クオンが呼びかけるが、ジュンはそれでもマコトを追いかけようとする。たまらずクオンはそんなジュンの頬を叩いた。

 頬の痛みを覚えて、ジュンが我に返る。その直後、クオンがジュンを強く抱きしめた。

「君の友達は、彼女たちだけじゃない!僕たちも、君のそばにいるんだから!」

「クオンくん・・・」

 クオンの呼びかけにジュンが戸惑いを見せる。その言葉に心を打たれて、ジュンは眼に涙を浮かべる。

「ゴメンね、クオンくん・・・私、マコトとレイちゃんを放っておけなくて・・・」

「君がそう思いたいならそれでもいい・・でも、僕たちがいつも、君のそばにいることは忘れないでほしい・・・」

 涙ながらに言いかけるジュンに、クオンが切実に呼びかける。2人は互いや多くの人々に対する信頼の結びつきを実感していた。

「とにかく今は街の人たちの保護が先だよ。」

 そこへネオンが呼びかけ、ジュンとクオンが頷く。降りてきたえりなたちも頷いて、街の警護を行った。

 危険が去ったことを悟ったえりなたちは、一路デルタ本部へと帰還していった。

 

 事件の終息に貢献したえりなたちの帰還を、ユウキたちが出迎えた。その中で仁美は、再会したフェイト、スバル、ティアナと握手を交わしていた。

「久しぶりね、フェイトちゃん。半年前は私は藤ねぇのところに戻ってたから・・」

「お久しぶりです、仁美さん。元気くんは元気ですか?」

「まぁ、名前負けしないくらい元気でやってるよ。今は本部近くの部屋で世話してるけど・・子持ちの魔導師、けっこう大変なのよね。」

「それならなのはにも同じことが言えますよ。」

 屈託のない会話をして微笑みかける仁美とフェイト。そして仁美は、同じく笑みを見せているスバルとティアナに振り返る。

「こうして面と向かって話をするのは初めてだよね。スバル・ナカジマさんとティアナ・ランスターさん。」

「はい。デルタ・サブコマンダー、京野仁美二等空尉、よろしくお願いします。」

 仁美に声をかけられて、ティアナがスバルとともに敬礼を送る。

「私もまだまだこれからだから、お互い頑張っていこうね、2人とも。」

「仁美さん・・・」

 仁美の励ましの言葉を受けて、スバルが頷く。お互いの未来に思いを込めて、3人は改めて握手を交わしたのだった。

 

 マコトとレイがロアのメンバーだったことに、ジュンは沈痛さにさいなまれていた。体だけでなく、心までも引き裂かれてしまったものと思い、彼女は落ち込んでいた。

(マコト・・レイちゃん・・・どうして、ロアにいるの?・・どうして、私たちを信じてくれないの・・・?)

 心の声をマコトたちに向けて発するジュン。しかしその気持ちが膨らむほどに、彼女は悲しみに苦しめられていた。

 そんな彼女のところへ、フェイトが歩み寄ってきた。

「友達のことを気にしていたの?」

 フェイトに声をかけられて、ジュンが顔を上げる。

「フェイトさん・・・」

「私も昔、友達とケンカしたことがあるの。ケンカってほどじゃないけど、それに近いかな。気持ちのすれ違いというもの。」

 語りかけてきたフェイトに、ジュンが戸惑いを覚える。

「話し合いで解決できればいいけど、それだけじゃ分かり合えないこともある。そのときには、気持ちや言葉だけじゃなくて、体も思いっきりぶつかり合ってみればいいんだよ。」

「思いっきり、ぶつかり合う・・・」

「思いっきりぶつかり合うことで、話し合うだけでは分かり合えなかったことが分かることがある。だから、本気で分かり合いたいなら、全力を出し切ることも必要になってくることを理解して・・」

 フェイトは優しく語りかけると、ジュンの両肩に優しく手を乗せる。その瞬間、ジュンはひとつの安らぎを覚えていた。

「絶対に優しさを失わないで。たとえその気持ちが裏切られたとしても、信じようとする心を失くさないで・・」

「フェイトさん・・・ありがとうございます・・私、まだまだ諦めませんから・・」

 フェイトの励ましを背に受けて、ジュンは笑顔を取り戻した。信じることと諦めないことが、いつかお互いを和解へと導いてくれる。ジュンはそう願った。

「ジュンちゃん・・」

 そこへクオンが現れ、ジュンに声をかけてきた。

「クオンくん・・・」

「ジュンちゃん、僕たちも君のために頑張りたい。君のために、僕自身のためにも・・」

 戸惑いを見せるジュンに、クオンが切実に自分の心境を告げる。

「彼女たちだけじゃない。僕もネオンちゃんも、君の友達なんだよ・・・」

「クオンくん・・・私は嬉しいよ・・私の周りには、私を支えてくれる人たちがこんなにも・・・」

 クオンからの言葉に喜びを感じるジュン。するとクオンがジュンを優しく抱きしめてきた。

「ジュンちゃん、僕、前々から悩んでいたことがあったんだ・・何のために強くなるのかって・・」

「クオンくん・・・」

「でも、僕もその答えを見つけることができたかもしれない・・僕の大切な人たちを守りたい。そのために強くなるって、僕は心に決めたんだ・・」

 クオンは言いかけると、ジュンから手を離す。

「もちろんジュンちゃん、君のことも、僕は守るから・・君の悩みとも、真剣に向き合いたいよ・・」

「ありがとう、クオンくん・・でも私は守られてばかりじゃないよ。私もクオンくんを、みんなを守っていくから・・」

 クオンとジュンは信頼の言葉を掛け合うと、硬い握手を交わした。2人はこの握手に、さらに強まった信頼を込めた。

「これからの戦いは、あなたたちの肩にかかってるから・・」

「はいっ!」

 フェイトの呼びかけにジュンとクオンが答える。2人は決意を新たにして、ロアとの戦いに備えるのだった。

 

 同じ頃、ゴウはケイとの連絡を取っていた。デルタの支援のためにスバルを派遣したのがケイだったことを知り、ゴウはため息をついていた。

「やはりお前は食えないヤツだな。オレと気が合うのか合わないのか・・」

“何言ってるのよ。気が合わないから今も別居が続いているんじゃないのよ。”

 ゴウの愚痴を聞いて、ケイもため息をついた。

“あなたこそ断りもなく後輩の執務官たちをデルタに送ったじゃないの。ジュンの様子を見ることも兼ねて・・”

「心配だろうが。娘がかなりの難易度の激務のある部隊にいるのだからな。」

“ハァ。相変わらずなんだから。あなたのその過保護ぶりは。”

「お前に言われたくないぞ・・いずれにしろ、いらぬお節介だったようだがな・・」

 愚痴をこぼした後、ゴウが再びため息をついた。自分たちが娘のためにしたことが徒労に終わったことが腑に落ちなかったのだ。

「とにかく、他からの要請がない限り、余計なことはしないほうがよさそうだ。」

“その意見には私も同意するわ・・・”

 ゴウの言葉にケイも頷く。その後、ゴウは真剣な面持ちを浮かべて話を持ちかける。

「あのことは、デルタのメンバーは知っているのか・・・?」

“えぇ。隊長クラスの人たちは、そのことを知っているわ。ちゃんと面倒を見てくれてる・・・”

 ケイも真面目に答えると、ゴウは小さく頷いた。2人は自分たちに大きく関わるある問題を抱えていた。

 

 ジュンとの再会とすれ違いに直面したマコトは、憤りを抱えていた。なぜジュンが時空管理局の局員になっているのか、マコトは納得できないでいた。

(ジュン・・どうしてこんなことになってるんだよ・・まさか君まで、僕たちの敵になってるなんて・・・)

 歯がゆさを募らせるマコトが、心の中でジュンに対する気持ちを膨らませていた。

 そんな彼女に、シグマとレイが歩み寄ってきた。

「お姉ちゃん・・・」

 レイが困惑の面持ちを浮かべて声をかけると、我に返ったマコトが振り向く。

「以前お前が話してくれた友人と会ったのだな・・」

 シグマが問いかけると、マコトは落ち着きを見せて頷く。

「最初はジュンと再会できて、とても嬉しかった・・でも、まさか時空管理局の、デルタの人間になってたなんて・・・」

「こんな形での再会は、私としても辛いところだ・・だが、お前の進むべき道は、お前自身が決めることだ・・」

 呟くように言いかけるマコトに、シグマが言葉をかける。

「このまま戦い続ければ、いずれは友人と敵対することになる。それが辛いと思うなら、戦いから降りたほうがいい。仮にその決断をしても、私はお前をとがめるつもりは・・」

「いや、僕は戦うよ・・これは心に誓った譲れないことなんだ・・・」

 考慮を込めて言いかけたシグマの言葉に対し、マコトは自分の意思を貫いた。

「管理局が僕たちをムチャクチャにした。管理局を何とかしないと、本当の幸せは訪れない。それは間違いのない、確かなことだから・・・」

「マコト・・・」

「僕は戦う。みんなが本当の意味で幸せになってほしいから・・それは僕だけの願いじゃないから・・」

 戸惑いを見せるシグマに決意を告げるマコトが、レイに眼を向ける。妹の髪を優しく撫でて、マコトは微笑む。

(そうだ・・みんなに、僕やレイが受けた悲しみや苦しみを味わってほしくない・・・だから、僕は・・)

 胸中で決意と願いを膨らませるマコト。

「本気で戦うつもりなのか・・お前の友人と戦うことになるぞ。」

「分かってる。それでも僕は戦う・・たとえジュン、君と戦うことになっても・・・」

 シグマの忠告でも、マコトは考えを変えなかった。彼女はジュンとの争いに対して、自身の願いを曲げようとしなかった。

 

 ロアの襲撃で一時は騒然となった市街だが、次第に平穏を取り戻し、祭りも無事に終えることができた。

 その翌日、スバルとティアナはジュンたちの訓練に付き合った。活躍の場を増やしているフォワードとの模擬戦の中、ジュンたちはその技術と戦略を学んでいった。

「一撃必倒!ディバインバスター!」

 スバルの拳から閃光がほとばしり、ジュンを突き飛ばす。これはスバルがなのはの魔法を模倣し、自分のスタイルへのアレンジを施したものである。

「くぅー・・すごいですね、スバルさん。こんなに威力のある打撃魔法、初めて受けましたよ。」

「ううん。ジュンもなかなかだよ。あれだけすごいパンチを受けたの、ギンねぇ以来だよ。」

 賞賛を送るジュンに対し、スバルも姉のギンガを思いながら賞賛を返した。

 その後も交流を深めながらの訓練や模擬戦は続いた。疲れを覚えながらも、ジュンたちもスバルたちも楽しさを実感していた。

 そしてその日の夕方、フェイトたちはそれぞれの部署に戻ることとなった。

「今日もいろいろとありがとうございました。」

 ジュンが感謝の言葉をかけて、フェイトと握手を交わす。

「本当に助かりました、フェイトさん。私たちもまだまだ頑張りますよ。」

「私たちもこれからだからね。また会うときがあったら、一緒に頑張ろうね。」

 明日香がかけた言葉にフェイトが答える。2人の絆がさらに強まり、それを実感した2人は微笑を浮かべていた。

「私たちは絶対に1人じゃない。家族や仲間がそばにいることを、忘れないでいてほしい・・・」

 フェイトの呼びかけにえりなたちが微笑んで頷く。

「危なくなったら、あたしたちはすぐに駆けつけるからね。」

「どんなに離れてても、あたしたちは一緒だからね。」

 スバルとティアナも続いて声をかける。

(そう。私たちは1人じゃない。間違ったときに止めてくれる仲間が、ここにいる・・)

 仲間たちの思いを胸に秘めて、誓いを新たにする明日香。デルタ本部を去っていくフェイトたちを見送りながら、明日香は微笑んでいた。

 

 

次回予告

 

デルタ本部を訪れた人物。

それはもう1人のエースオブエース、高町なのはだった。

2人のエースの教えに、ジュンの心は揺れる。

願いと決意が交錯する中、少年少女は答えを見出していく。

 

次回・「2人のエース」

 

未来へ紡がれる、大切なこと・・・

 

 

作品集

 

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