魔法少女エメラルえりなVersuS

第10話「邂逅」

 

 

私たちの再会が、ここで起こるなんて全然思ってなかった。

それでも、この喜びと絆に変わりはない。

みんなとも分かり合えるはずだと、信じて疑わなかった。

 

平和のために、全てを壊す人と守る人。

その2つに分かれた心は、ぶつかり合うしかないの・・・?

 

私は、どうしたらいいの・・・?

 

 

 ハロウィンの祭りのにぎわうミッドチルダの市街。その中心で、ジュンとマコト、2人の少女が再会を果たしていた。

「ジュン・・・ウソじゃ、ないのか・・・」

「ホントにマコトなの・・まさか、そんな・・・」

 眼の前にいる親友の姿をなかなか受け止められないでいるマコトとジュン。

「ちょっと、僕のほっぺをつねってくれないか・・・?」

 マコトに促されて、ジュンは渋々彼女の頬を引っ張る。痛みを覚え、マコトが引っ張られた頬に手を当てる。

「イテテ・・夢じゃない・・ホントにジュンだ・・・」

 眼の前の光景が現実であることを確信したマコトが、歓喜の笑みを浮かべる。ジュンもマコトとの再会を、心から喜んでいた。

「マコト・・まさかマコトが、この世界に来てるなんて・・」

「まぁ、いろいろあってね・・ホント、いろいろ・・・」

 ジュンと声を掛け合うマコトの笑みが徐々に曇る、彼女の脳裏に、これまで自分たちに起きた悲劇が蘇ってきていたのだ。

「それじゃ、やっぱりこの子はレイちゃん、なんだよね・・・?」

 ジュンは視線をレイに向けて言いかける。先ほどのレイの様子に対して、ジュンは困惑を感じていたのだ。

「実は、レイは記憶がないんだ・・・」

「えっ・・・!?

 物悲しい笑みを浮かべるマコトの言葉に、ジュンが驚愕を見せる。マコトはレイが記憶喪失に陥ったことを話した。何とか自分の名前を認識したものの、依然として記憶が戻っていないことも。

「レイちゃんが、そんなことになってたなんて・・・それなのに私は・・・」

「いや、ジュンのせいじゃないって・・ジュンは何も知らなかったわけだから・・・」

 歯がゆさを覚えるジュンに、マコトが弁解を入れる。

「とにかく、ここで立ち話するのもなんだから、ちょっと場所を変えよう。落ち着いてからいろいろ話そう。」

「あ、その前にレイちゃんがチョコバナナをほしがってるみたいだから・・それに・・」

「それに?」

「私、友達の代わりに買い物に出てるの。近くに待ち合わせてるから・・せっかくだから紹介するね。ここで出会った、私の新しい友達を。」

 マコトに向けて笑顔を見せるジュン。その心からの喜びを感じ取り、マコトも笑みをこぼした。

 

 その後、ジュンとマコトはチョコバナナを購入。3枚引いたくじのうち1枚が2と書かれたもので、レイが喜びを見せていた。

 そしてジュンはマコトとレイを連れて、クオンとネオンのところに戻った。

「ゴメンね、2人とも。遅くなっちゃって・・」

「ジュンちゃん・・・えっ?その子たちは・・?」

 謝るジュンに声をかけて、ネオンがマコトとレイに眼を向ける。

「クオンくん、ネオンちゃん、私の友達の秋月マコトと、妹のレイちゃん。」

「秋月マコト、よろしく。」

 ジュンに紹介されて、マコトも自己紹介をする。

「はじめまして。僕はクオン・ビクトリア。」

「あたしはネオン・ラウム。よろしくね♪」

 クオンとネオンもマコトとレイに自己紹介をする。

「ゴメンね、マコト。引越しのこと、詳しく教えられなくて・・このミッドチルダに引っ越すだなんて、いえなかったものだから・・」

「いいよ、ジュン。こんな世界があるなんて、話しても普通は信じてもらえないよ。まぁ、僕だったら信じてたかもしれないけどね・・」

 謝るジュンに、マコトが微笑んで答える。

「そうだ。あたしたちとマコトちゃんとレイちゃんの親睦を深める意味で、みんなでまた祭りを楽しもうよ♪」

 そこへネオンが提案を持ちかける。

「そうだね。ジュンちゃんの友達なら、僕たちも仲良くなりたいよ。」

 クオンも同意して、レイも微笑んで頷いた。それを見たマコトも、その案に同意する。

「分かった。僕も君たちみたいな人と仲良く慣れればと思ってる。よろしくね、2人とも。」

 マコトが頷くと手を差し伸べる。ネオンがその手を取って握手を交わした。

(よかった・・マコトとまた会えて・・ホントによかった・・・)

 親友との再会を、ジュンは心から喜んでいた。

 だが、これが束の間の安らぎでしかないとは、ジュンもマコトも知る由もなかった。

 

「ロアのメンバーが街に?」

 明日香とともに街のパトロールを行っていたフェイトが、デルタ本部のユウキからの連絡を受けていた。

“あぁ。今まで確定させていなかったメンバーだ。リーザの調査で新しく判明した。2人はそのメンバーの捜索も行ってほしい。えりなたちにもクラウンたちが連絡を入れている。”

「分かりました。それでそのメンバーの情報は?」

“今、データを送る。確認して捜査に当たってくれ。”

 ユウキとの連絡を終えたフェイトが明日香に眼を向ける。明日香もその連絡を聞いており、フェイトに向けて小さく頷いた。

「その人を探すことも、頭に入れないといけないですね・・」

「うん。でも他のロアにも警戒をしなくちゃいけない。それ以外にも、犯行を行う人がいないとは限らないし。」

 声を掛け合う明日香とフェイト。2人は改めて街の捜索を開始した。

 同様の連絡がえりなたちに届けられた。デルタ本部からは仁美とカタナが出動し、事態は本格化に向けて拍車をかけていた。

 

 デルタの警戒網の強化を、シグマとローグが察知していた。

「やはり彼らも街の警備に当たっていたようです。」

「まずいな。このままではマコトとレイが危ない。」

 ローグとシグマが現状に苦言を呈する。そこへジュリアが親しい2人の少女、パッソとハーツを連れてやってきた。

「シグマ、私を街に行かせて。急いでマコトとレイを連れ戻してくるわ。」

「あたしも行きます!」

「私も!」

 ジュリアがシグマに呼びかけ、パッソとハーツも続ける。だがシグマは首を縦に振らない。

「ダメだ。焦りを見せれば、逆に事態を悪化させかねない・・」

「でも、このままではマコトとレイが・・!」

 ジュリアが反論すると、シグマがローグに呼びかける。

「私が先陣を切る。ローグ、ジュリアたちの指揮はお前に任せる。」

「しかし、それではシグマ、あなたが危険に・・・」

「今はマコトとレイが危険にさらされているのだぞ。下手な行動を取るわけにいかないが、このまま何もしないわけにもいかない。」

「シグマ・・・分かりました。お任せください。ただし、くれぐれも早まった行動はしないように。マコトにもそのように。」

「分かっている・・ローグ、頼むぞ。」

 シグマはローグに指揮を任せると、マコトとレイの救出のため、街に乗り出していった。

 

 ジュン、クオン、ネオンはマコト、レイとともに、再び祭りでの楽しいひと時を過ごした。今度はレイが興味を示したものを中心に回っていき、彼女は事ある度に笑顔を見せていた。

 クオンとネオンと戯れるレイを眼にしながら、ジュンとマコトは語り合う。

「楽しそうだね、レイちゃん。記憶喪失になってるのがウソみたい・・」

「うん・・ホント、ウソであってほしいと思ってる・・・」

 マコトが物悲しい笑みを浮かべたのを見て、ジュンが戸惑いを見せる。

「ゴメン、気にしたくないことを考えさせちゃって・・」

「いや、君のせいじゃないよ、ジュン・・こっちこそゴメン。楽しい時間に水を差して・・」

 互いに謝るジュンとマコト。2人は気持ちを切り替えようと、満面の笑みを見せた。

「さて、そろそろ僕たちは戻らないと。仲間をあまり待たせるのもいけないから・・」

「仲間?何かの部隊に入ってるとか?」

 ジュンが疑問を投げかけると、マコトは微笑んで頷く。

「レイ、そろそろみんなのところに戻ろう。」

「お姉ちゃん・・・うん・・」

 立ち上がったマコトが呼びかけると、レイが振り返って頷く。

「マコト、近いうちにまた会おうよ。私たち、この街に住んでるから。よかったら一緒に暮らすって言うのもありだから・・」

 ジュンがマコトに向けて切実に呼びかける。その言葉にマコトが戸惑いを見せる。

「ジュン・・・僕も会いたい・・このままずっと君と一緒にいたい・・それは僕の正直な気持ちであり、レイもそう思ってるはずだよ・・・」

「ありがとう、マコト・・・せっかくこうして再会できたんだから・・・」

「僕も君とまた会えて嬉しい・・もしも都合が合うなら、僕たちはすぐにでもまた・・・」

 また再会し、ともに時間を過ごしたいという願いを込めて、ジュンとマコトは握手を交わした。そこへレイが駆け寄り、2人に笑顔を向けていた。

 そのとき、2つの影がジュンたちの前に降り立った。彼らが振り返った先には、バリアジャケットを身にまとったフェイトと明日香の姿があった。

「明日香さん・・・?」

「あ、あなたは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官・・・!?

 きょとんとなっているジュンの傍らで、クオンが声を荒げる。明日香とフェイトがジュンたちに眼を向けて言いかける。

「あなたが春日ゴウ執務官のお嬢さん、春日ジュン二等空士ね?」

「お父さんの、知り合いですか・・・?」

 フェイトの問いかけに、ジュンが半ば呆然と答える。するとクオンが慌しくジュンに駆け寄ってきた。

「な、な、何をやってるんだよ、ジュンちゃん!」

「えっ?」

「ハイレベルの執務官にして、あの高町教導官の友人、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官だよ!」

 クオンに説明されて、ジュンが慌てて敬礼をフェイトに送る。それを受けて微笑みかけた後、フェイトは真剣な面持ちを見せる。

「ところでフェイトさん、どうしてここに?」

 ネオンが口を挟み、訊ねる。フェイトが頷きかけてから説明を入れる。

「私たちはこの祭りにロアのメンバーがいるという情報を得て、パトロールをしていたの。えりなたちも他の地区を警備している。」

「それで、そのメンバーは見つかったんですか?」

 ジュンの問いかけにフェイトが頷く。そしてフェイトは、視線をマコトとレイに向ける。

「秋月マコト、秋月レイ、ロアのメンバーであるあなたたちを拘束します。」

「えっ!?

 フェイトが申し出た言葉に、ジュンは驚愕し、マコトは毒づいていた。マコトとレイがロアのメンバーであることを、ジュンは信じられなかった。

 

 明日香とフェイトがジュンたちと合流し、ロアのメンバーを発見したことを、デルタ本部は感知していた。クラウンたちオペレーター陣によって、その情報はえりなたちに伝えられた。

「フェイトさんと明日香ちゃんが、ですか?」

“うん。そばにジュンたちもいたから、取り逃がすことはないと思う。でも万が一ってこともあるし、仲間の乱入も考えられるから、えりなちゃんたちも現場に向かって。”

「分かりました。現場に急行します。」

 クラウンからの連絡を受けたえりな。念話による会話を終えた彼女に、ティアナも真剣な面持ちで頷く。

「行きましょう、ティアナさん。」

「うん。」

 えりなの呼びかけにティアナが答える。2人はクラウンの提示した場所に向かって飛翔した。それぞれのデバイスを起動させ、バリアジャケットを身につけて。

 

 フェイトが告げた真実に、ジュンは動揺の色を隠せなかった。幼馴染みのマコトとレイが、自分たちと敵対しているロアの一員であるということを受け入れられないでいたのだ。

「どういうことなんですか・・マコトとレイちゃんが、ロアのメンバーって!?

 たまらずフェイトに向けて声を荒げるジュン。だがフェイトと明日香は平穏さを崩さなかった。

「デルタ、そして本局での調査で、この2人もロアのメンバーであることが明確になったの。襲撃の際に、2人の姿も確認されている。」

 フェイトはジュンに説明すると、インテリジェントデバイス「バルディッシュ・アサルト」を構える。「ハーケンフォーム」となったバルディッシュを握り締め、フェイトはマコトとレイを見据える。

「待ってください、フェイトさん、明日香さん!」

 そのとき、ジュンがフェイトたちとマコトたちの間に割って入ってきた。マコトたちを庇い立てする彼女に、クオンとネオンが動揺を見せる。

「ち、ちょっとジュンちゃん、何を・・!?

「何かの間違いですよ!マコトとレイちゃんが、ロアの一員だなんて・・・!?

 クオンが声を荒げる前で、ジュンが切実に呼びかける。だがフェイトの態度は変わらない。

「全て確認した上での対応だよ、ジュン。彼女たちは現に管理局の施設や局員に危害を加えている。どういった事情であれ、このまま彼女たちを野放しにするわけにはいかない。」

「マコトはそんなことをする人じゃありません!いじめられた私を何度も助けてくれた!喧嘩っ早いところもあるけど、友達や家族のことをホントに大切にしている、優しい人なんです!」

 フェイトが呼びかけるも、ジュンは退こうとはしない。

「個人的な感情ばかりに流されてはいけないよ、ジュン。あなたも管理局の、デルタの一員なんだから。」

 続けて明日香がジュンに呼びかける。その言葉にマコトが驚愕を覚える。

「ジュン!?・・君が管理局の局員・・・!?

 マコトも今の言葉が信じられず、動揺のあまり後ずさりする。その反応の意味が分からず、ジュンが当惑を見せる。

「ジュン、ホントなのか・・ホントに君は、時空管理局の人間なのか・・・!?

「うん・・といっても、入ったのは1ヶ月前なんだけどね・・・」

 声を振り絞るように問いかけるマコトに、ジュンは深刻さを浮かべたまま答える。

「誰かが傷ついたり悲しんだりするのを、黙って見ていることなんてできなかった・・だから私は、管理局の、デルタの一員として・・!」

「ウソだ!」

 自分の心境を打ち明けるジュンの言葉を、マコトが怒鳴ってさえぎる。その態度にジュンがさらなる動揺を見せる。

「悪いのは管理局のほうだ・・僕たちをムチャクチャにしてるのに、まるで英雄みたいに慕われて・・・みんなを傷つけたり悲しませてるのは、お前たちのほうだ!」

 言い放ったマコトがフェイトに向けて指差す。彼女は込み上げてくる怒りを隠せないでいた。

「ホントに何があったの、マコト!?・・あなたたちに何があったの・・・!?

「・・君が引っ越した後、僕たちの父さんと母さんは殺された・・その上、僕とレイを、戦闘機人というのに改造したんだ・・・!」

 問いかけるジュンに、マコトが憤りを押し殺して説明する。その言葉にフェイトと明日香が息を呑む。

 フェイトは「プロジェクト・フェイト」の中で生み出された、アリシア・テスタロッサのクローンである。命を弄ばれる怒りと悲しみをよく知っていた。そして、フェイトと心を通わせた明日香も、その悲劇を理解していた。

「レイの記憶喪失は、改造手術で脳改造をされそうになって起きたんだ。僕はそれらを引き起こしたのが、管理局に属する人間だって知った・・僕たちをムチャクチャにしたヤツのいる時空管理局を、僕は絶対に許さない!」

 言い放ったマコトがレイを抱えて飛翔する。

「マコト!レイちゃん!」

 ジュンが悲痛の叫びを上げるが、マコトとジュンには届かない。明日香がウンディーネを構えて、フェイトとともに2人を追いかける。

「レイ、離れてるんだ!」

 マコトはレイを引き離すと、明日香とフェイトを迎え撃つ。ライトスマッシャー、メテオブーツを身につけて、彼女はフェイトが振りかざした金色の鎌を受け止める。

 マコトが繰り出した拳に跳ね返されるも、フェイトはすぐに踏みとどまり、バルディッシュを構える。

「ハーケンセイバー!」

 フェイトが振りかざしたバルディッシュの光刃が、回転を帯びて飛んでいく。とっさに回避するマコトだが、光刃は弧を描いて再び彼女を狙ってきた。

「くそっ!ライトニングスマッシュ!」

 マコトが向かってきた光刃に向けて、拳を叩き込む。爆発性のある一撃を受けて、光刃が粉砕される。

 だがそれは囮だった。フェイトは次の攻撃、金色の光弾「プラズマランサー」を解き放っていた。

 とっさに回避行動を取ろうとするマコト。だが光弾はフェイトとバルディッシュの意思で、彼女を狙って方向を変えていく。

「だったら本人を直接叩くだけだ!」

 いきり立ったマコトが、フェイトを狙って飛び込んでいく。だがそれもフェイトの計算の範疇だった。

 フェイトがリングバインドを発動させ、マコトの手足を拘束する。強引にバインドを引き剥がそうとするマコトだが、フェイトのリングバインドは強度があり、抜け出すことができない。

「あなたが抱えている悲劇は、私にも分かります。だからこそ、あなたの暴挙を放置するわけにはいきません。」

「分かった口を叩くな!オレはお前たちに、何もかもムチャクチャにされたって言っただろ!」

 落ち着きを払って言いかけるフェイトに、マコトが反論する。

「私はあなたを止めます。あなた自身のためにも・・」

「やめてください!」

 フェイトが言いかけたところで、ジュンが再びマコトを庇ってきた。彼女の手足にはフレイムスマッシャー、フレアブーツが装着されていた。

「どいて、ジュン。あなたも、このまま友達が間違ったことをするのはよくないと思っているはずよ。」

「せめて、マコトともう1度話をさせてください!マコトがこんなことをするのも、必ず理由があるはずです!」

 ジュンはフェイトに呼びかけると、未だに手足を拘束されているマコトに振り返る。

「マコト、私に話してくれない?あなたが考えてることを。私は、あなたの助けになりたいの!」

「何を言ってる!時空管理局があるから、僕たちが辛い思いをしたんじゃないか!」

 切実に呼びかけるジュンだが、憤ったマコトはその救いの手を取ろうとしない。

「まさかこんなことになってるなんてね・・君が管理局の人間になってるなんて!」

「マコト!」

「ずっと信じてたのに・・いくら間違っても、こんなことにならないと信じてたのに・・・この裏切り者が!」

 激情に駆られて叫んだマコトの言葉に、ジュンは愕然となる。これからまた強まろうとしていた絆が断ち切れてしまったと、彼女は痛感してしまった。

「ジュン、危ない!」

 そのとき、フェイトが突然ジュンに飛びついてきた。その直後、ジュンがいた場所に、鋭い一閃が飛び込んできた。

 攻撃を加えてきたのは、マコトとレイを探して街に現れたシグマだった。

「シグマ!」

 シグマに呼びかけるマコトが、フェイトのリングバインドを打ち破る。彼女はレイに近づき、フェイトたちを見据える。

「マコト、レイ、大丈夫か!?

「シグマ、僕たちは大丈夫だよ!だけど、管理局が・・!」

 シグマの呼びかけにマコトが答える。シグマがスティードを構えて、フェイトたちを見据える。

「ここは私が食い止める!お前たちはすぐに離脱しろ!」

「だけど、それじゃシグマが・・!」

「私なら気にするな!すぐにローグたちも駆けつける。お前たちはすぐに合流するんだ!」

 シグマの呼びかけにマコトが小さく頷く。彼女はレイを連れて、徐々に後退していく。

「このまま逃がすわけにはいかない・・明日香、あなたは2人を追って。この人は私が相手をするから。」

「フェイトさん、分かりました!」

 フェイトの指示を受けて明日香が答える。

「行かせはしないぞ!」

 それを阻止しようと明日香に詰め寄ろうとするシグマ。だがそこへフェイトが割り込む。

「クオン、ネオン、ジュンをお願い!少し混乱しているから!」

「明日香さん!」

 マコトとレイを追いながら、明日香がクオンとネオンに呼びかける。

「もうすぐえりなたちが来るから、ジュンを連れて合流して!」

「明日香さん・・分かりました!」

 明日香の指示を受けて、クオンとネオンがスクラムとレールストームを起動させる。2人は愕然となったまま地上に降りてきたジュンに駆け寄る。

「ジュンちゃん、しっかりするんだ!」

 クオンが呼びかけるが、ジュンにはその声が届いていない。

「ダメだよ、クオンくん!ジュンちゃん、マコトという子に裏切り者と呼ばれて、ショックを受けてるよ!」

「ジュンちゃん・・仕方がない。えりなさんたちのところに連れて行こう!」

 声を荒げるネオンの前で、クオンが判断を下す。同意したネオンとともに、クオンはジュンを連れてこの場を離れた。

 

 マコトとレイを逃がすため、フェイトと交戦するシグマ。振り下ろされるスティードの重い攻撃を、フェイトの構えるバルディッシュが受け止める。

「お前のことは聞き及んでいるぞ。プロジェクトFの、最初にして最高のクローンであることを。」

「その物言いは好きではないのだけれど・・」

 淡々と言いかけるシグマとフェイト。向かってくるシグマに力負けし、フェイトは劣勢を強いられていた。

(このままではかえって街に被害をもたらしてしまう・・リミッターを解除する必要が・・・!)

 胸中で打開の糸口を探るフェイト。

 上位の魔導師、騎士はその持てる力で周囲への被害をもたらさないよう、出力リミッターをかけられて魔力ランクを一定値まで下げられる。そのリミッター解除の権限を持つ人間は、さらに上位の人間の中でも一握りの人物に限られる。

 現在、ユウキにもフェイトのリミッター解除の権限を与えられている。

(ユウキさん、私のリミッターの解除をお願いできますか?)

“何っ!?フェイト・・・!

 フェイトの呼びかけに、ユウキが声を荒げる。

(祭りで人がごった返しています。このままでは被害が出るのは眼に見えています。私が全力で彼らを街から引き離します。)

“フェイト・・もうすぐえりなたちが駆けつける。せめて少しだけ踏みとどまるんだ。”

(ユウキさん・・・分かりました。もう少しこらえてみせます・・・!)

 ユウキの呼びかけを受けて、現状を維持するフェイト。彼女はシグマの注意を引きつけ、街から離れようとしていた。

 

 マコトとレイを追って街の上空を飛ぶ明日香。その3人の前に、ブレイブネイチャーを構えたえりなが現れた。

「坂崎えりな・・ローグたちと合流する前に・・・!」

 毒づきながら止まるマコト。2人はえりなと明日香の挟み撃ちにあう形となった。

(どうする・・ハイレベルの魔導師2人に挟まれたら、さすがに厄介だぞ・・・どうしたら・・・)

「お姉ちゃん、レイも戦うよ・・・」

 思考を巡らせていたマコトに向けて、レイが唐突に言いかける。その言葉にマコトが息を呑む。

「レイ・・・ダメだ!君を危険な眼に合わせられない・・!」

「この戦いに出ている時点で、レイも危険と隣り合わせになってるよ・・」

 マコトが言いとがめるが、レイの心は変わらない。その気持ちを汲み取って、マコトも心を決める。

「分かったよ、レイ・・お前がそこまでいうなら、僕はもう止められない・・だから!」

 マコトがレイを庇うようにして身構え、えりなと明日香を見据える。

「僕もホントの平和のために、全力を出して戦う!」

 マコトは言い放つと、えりなに向かって飛びかかる。えりなはとっさに飛翔して、マコトが繰り出した拳をかわす。

 えりなが急降下して、光刃を発しているブレイブネイチャーをマコトに向けて振り下ろす。

Planet breaker.”

 マコトが貫通性のある一撃を繰り出して、その一閃を迎え撃つ。重い一撃と衝突したえりなの光刃に亀裂が生じる。

 危険を感じたえりながとっさに身を翻して、マコトとの距離を取る。マコトが追撃を入れようと、えりなを追いかける。

 そこへ数発の光の弾が飛び込み、マコトがたまらず回避行動を取る。彼女が見下ろした先のビルの屋上には、拳銃型インテリジェントデバイス「クロスミラージュ」を構えたティアナの姿があった。

(陸上魔導師か・・足元から狙ってきて・・・!)

 3人からの攻撃に毒づきながらも、マコトはこの包囲網を切り崩そうと考えていた。

「これで終わりです。あなたの身柄を拘束します。抵抗しなければ、あなたたちの身の安全は保障します。」

「きれいごとを言うな!そんな保障、ホントにあるかどうか怪しいもんだよ!」

 明日香が警告を送るが、マコトはそれを一蹴する。マコトは明日香と対峙しているレイを気にかけながら、えりなとティアナに注意を向ける。

「マコト!」

 そのとき、一条の刃が回転を帯びて飛び込んできた。それに気付いたえりなが移動してかわす。

「えりな!」

 それを見て声を荒げるティアナ。だが彼女に向けて一条の刃が飛び込んできた。

Dagger Mode.”

 光刃を発したクロスミラージュを振りかざし、ティアナはその一閃を受け止める。光刃を発するアウトランナーでの一蹴を繰り出してきたジュリアだった。

 攻撃が相殺され、ティアナとジュリアが距離を取る。

「パッソ、ハーツ、私がマコトとレイを連れて行くわ!ここをお願い!」

「任せといて!」

「分かりました!」

 ジュリアの呼びかけにパッソと、遅れて駆けつけてきたハーツが答える。

「マコト、レイ、あなたたちはすぐにここを離れて!」

「パッソ・・ありがとう・・レイ、行くよ!」

 パッソに促されて、マコトがレイに呼びかける。追跡しようとする明日香の前に、ハーツが立ちはだかる。

「あなたの相手は私よ、町井明日香。」

 低い声音で言いかけるハーツ。明日香はやむなく彼女の相手をすることとなった。

(えりな、あの2人はあなたに任せるよ・・ラックス、えりなを援護して。)

(明日香ちゃん・・分かった。任せて。)

(あたしも全力でやってやるよ、明日香・・!)

 明日香の呼びかけにえりなとラックスが答える。えりなを止めようとするパッソを、飛翔してきたラックスが食い止める。

「ギクシャクしてきたわね・・ハーツ、連携攻撃で一気に済ませるよ!」

「分かりました、パッソ。任せてください。」

 パッソの呼びかけにハーツが答える。2人が地上に降下し、ティアナを見据える。

 えりなと明日香が援護しようとするが、2人の前にロアのメンバーが立ちはだかる。

「パッソとハーツのコンビネーションが始まるんだ!」

「他の連中に邪魔はさせないぞ!」

 ロアのメンバーがえりなたちに言い放つ。その態度にラックスがいきり立つ。

「上等じゃないの!あたしらだってね、ここで指をくわえてみてるわけにいかないのよ!」

 ラックスが単身、ロアに向かって飛びかかる。鍛錬を重ねてきた格闘術で、ロアのメンバーと対峙する。

「えりな、明日香、ここはあたしだけで十分だよ!」

「ありがとう、ラックスさん!」

 ラックスの呼びかけを受けて、えりなが明日香とともに降下していった。2人の追跡を試みるロアだが、ラックスに行く手をさえぎられてしまっていた。

 

 ブーメラン型アームドデバイスを駆使するパッソと、格闘術による接近戦を狙うハーツの同時攻撃に悪戦苦闘するティアナ。両極端の2つの戦術に対し、彼女は打開の糸口を必死に探っていた。

「悪いけど、あたしとパッソの連携は打ち破れないよ。しかも2対1。今のアンタじゃ余計に打ち破れないって。」

 余裕を見せつつも攻撃の手を緩めないパッソ。ハーツもすぐに攻撃を仕掛けられるように身構えていた。

(一方は接近戦重視。一方はブーメランによる遠距離攻撃重視。それぞれの欠点をお互いがカバーしている・・これをあたし1人で切り崩すのはホントに難しいわね・・)

 2人の連携に焦りを覚えるティアナ。だがここは自分がやらなくてはならないと言い聞かせ、彼女は頭の回転を速める。

(考えても手が見つからないなら、こっちから攻めてその手を見つけ出すまで・・・!)

 思い立ったティアナが、2機のクロスミラージュの引き金を引き、パッソとハーツに同時射撃を行う。2人はその光の弾を打撃で粉砕する。

 その間にティアナは路地に身を潜める。パッソとハーツが周囲を警戒し、彼女の行方を追う。

 そしてパッソは、背後から姿を現したティアナに気付き、振り返る。

「そんな見え見えの奇襲は通じないって!」

 クロスミラージュを構えるティアナに向けて、パッソがブーメランを投げつける。ブーメランは真っ直ぐ向かい、ティアナに直撃したように見えた。

 だがティアナの姿が霧のように突然消える。その瞬間にパッソが眼を見開く。

「消えた!?

「違う。あれは幻です。幻術魔法でかく乱にかかっているのでしょう。」

 声を荒げるパッソに、ハーツが冷静さを崩さずに説明する。

「希少な魔法で魔力消費が激しい。しかも彼女のは衝撃にもろいようです。」

 ティアナの幻術魔法「フェイクシルエット」の特徴を察知したハーツ。

(その特徴は、空気の流れで見抜けないことはない・・・!)

 思い立ったハーツが、幻術による偽者の中に紛れている本物のティアナを見つけ出した。その念話を聞いたパッソがブーメランを放つ。

 回転を帯びて不規則に旋回するブーメランの衝突により、本物のティアナが突き飛ばされる。痛みに顔を歪めながら、彼女がパッソとハーツに眼を向ける。

「残念だったね。ハーツは冷静沈着でね。弱点なんてすぐに見つけちゃうよ。」

 パッソが悠然と言いかけると、立ち上がるティアナに向かってハーツが近づいていく。

「長くなると援護に阻まれますので、早急に始末させてもらいますよ。」

 ハーツが言い放つと、ティアナに向けて拳を繰り出す。ティアナがダガーモードのクロスミラージュで、無謀ながらも迎え撃とうとする。

 だが、そこへ飛び込んできた衝撃でハーツが突き飛ばされる。

「えっ!?

「ハーツ!?

 ティアナとパッソが声を荒げる。ハーツが踏みとどまって、体勢を整える。

「久しぶりだね、ティア。」

 呼びかけてきた声に、ティアナは覚えがあった。

 彼女の危機を救ったのは、彼女の親友、スバル・ナカジマだった。

 

 

次回予告

 

危機に陥ったティアナを救ったのは、スバルだった。

騒然となる市街にて激化するロアとデルタの戦い。

スバルとティアナ。

最高のコンビが見せる特攻が、今始まる。

そして、渦巻く思いの中で、ジュンとマコトとの心境は?

 

次回・「連係(コンビネーション)」

 

行く手をさえぎる壁を、その拳でぶち砕け・・・!

 

 

作品集

 

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