魔法少女エメラルえりなVersuS

第9話「Happy Halloween

 

 

勇気の本当の意味。

それは自分自身が一歩を踏み出すこと。

周りからの声が自分に注がれても、その信頼に応えるのも自分自身。

 

たった一歩を自分で踏み出すことで、人は本当の勇気、本当の強さを持つようになる。

その気持ちと絆を胸に秘めて、私たちは歩いていく。

 

今日も、そして明日も・・・

 

 

 新暦76年10月30日

 

 この日もジュン、クオン、ネオンはえりなたちとの訓練に没頭していた。

 ミスによって生じた迷いと恐怖は、ネオンの心から消えていた。彼女はジュンとクオンとの連携を見事に披露してみせた。

「やったね、ネオンちゃん。前よりも狙いがよくなってきてるよ。」

「ジュンちゃんとクオンくんがうまくフォローしてくれたからだよ。」

 ジュンの言葉を受けて、ネオンが照れ笑いを浮かべる。そこへえりな、健一、明日香が歩み寄ってきた。

「お疲れ様、ちょっとずつハードルを上げてるけど、滞りなくクリアしていってるからビックリしてるよ。」

「そんな。えりなさんたちの教えがいいからですよ。」

 えりなの言葉にジュンが照れ笑いを浮かべる。

「お前らもここまでよくやってるし。それに、明日はお祭だ。」

 そこへ健一が続けて言いかける。その言葉にジュンたちが笑顔を見せる。

 明日、10月31日、ミッドチルダではハロウィンカーニバルが行われる。元々ハロウィンは地球の風習であるのだが、ミッドチルダでも近年、風習として取り入れられることとなった。

「せっかくのお祭りだから、大きく羽を伸ばす丁度いい機会だよね。」

 明日香が言いかけると、えりなたちが頷きかける。

「よしっ!明日は別命あるまで特別休暇だ。存分にハロウィンを楽しんで来い。」

「ありがとうございます!」

 健一の呼びかけに、ジュンたちが喜びの笑みを浮かべた。

(お祭りかぁ・・ハロウィンもそうだけど、久しぶりだね・・・)

 ジュンが胸中で期待の言葉を呟くと、昔を思い返していた。それは彼女が地球にいたころの話だった。

 マコトとレイと一緒にいった夏祭り。わたあめやラムネ、くじ引きなど、いろいろな出店に立ち寄って楽しんでいたが、その途中でレイがはぐれてしまう。通りの外れで泣いているレイを見つけたジュンとマコト。ようやく泣きやんだレイを連れて、また楽しい祭りの時間を過ごした。

(もう1度、一緒に楽しみたいよね・・マコト、レイちゃん・・・)

「ジュンちゃん、どうしたの?」

 マコトへの想いを募らせていたところへクオンに声をかけられ、我に返ったジュンが笑みをこぼす。

「う、ううん、何でもないよ、アハハハ・・」

 ジュンの言葉を受けて一瞬きょとんとなるも、クオンはすぐに笑みを取り戻した。

「フッフッフッフ。こういうパーティーには、あたしの血が燃えるのよねぇ・・」

 そのとき、ネオンが突然かけてきた言葉に、クオンは背筋が凍りつくような感覚を覚えた。ジュンが眼を向けると、ネオンが普段見せないような不気味な笑みを見せていた。

「ちょっと来てもらえるかな、クオンく〜ん?言っとくけど、“ノー”の選択肢はないからね〜♪」

「ち、ち、ち、ちょっと、ネオンちゃん!?や、や、やめてって!うわっ!」

 ネオンはクオンの声を聞かずに、彼を無理矢理引っ張っていった。その様子にえりなたちが唖然となる。

「そういえば知りませんでしたか?」

 そこへカタナが現れ、えりなたちに声をかけてきた。

「ネオンさんはコスプレ好きなんですよ。それでクオンくんがその試着に付き合わされてしまってるんですよ。」

「えっ!?ネオンちゃんにそんな趣味が!?

 カタナの説明にジュンが驚きの声を上げる。ジュンはたまらずクオンとネオンを追いかけ、カタナも続いて駆け出していった。

 

 時空管理局本局内の1室。この日も執務官の任務と後進の育成に励むゴウ。

 ゴウはこの日、ある人物との面会を果たしていた。同じく執務官であり、なのはや明日香の友人であるフェイトである。

 フェイトは2人の補佐を連れていた。起動六課にて通信主任を務めていたシャリオ・フィニーノ。そして執務官を目指しているティアナである。

「お前さんと会うのも久しぶりだな、フェイト。頑張ってるようだな。」

「そんな。私もまだまだゴウさんには敵わないですよ。」

 気さくに声をかけるゴウに、フェイトが謙そんの苦笑を浮かべる。ゴウはシャリオに眼を向けた後、続けてティアナに視線を送る。

「お前さんか、あのティーダの妹さんは。」

「はい。ティアナ・ランスター執務官補佐です。」

 ゴウに声をかけられて、ティアナが敬礼を送る。するとゴウが立ち上がり、ティアナの肩に手を当てる。

「お前さんのことは高く評価している。射撃の正確性に的確な判断力、それに無限の可能性を呼び起こす若さがある。」

「は、はぁ・・」

 ゴウの言葉の意味がなかなか理解できず、ティアナは思わず生返事を返す。

「オレはオレのできることを全力でやり通していく。これまでもこれからもな。お前さんたちはオレのできないことを全力でやってくれ。これからの世界の自由と平和は、お前さんたちの手にかかっているのだからな。」

「はい。ありがとうございます。」

 ゴウから激励を受けて、ティアナが感謝の意を示した。

「ところでフェイト、お前さんたちはデルタと合流するんだったな?」

「はい。知り合いがいますし、共同戦線を張るには都合がいいと思いまして・・連絡もつけてありますよ。」

 ゴウの問いかけにフェイトが微笑んで答える。

「だったら、オレの娘の様子を見てもらえないか?デルタのフォワードになって、どうも不安でな・・」

「ゴウさんは見かけによらず、過保護なところがありますね。」

「お前さんに言われたくないな。」

 フェイトが言いかけると、ゴウが憮然とした態度を見せる。するとシャリオが続けて笑顔を見せてきた。

「心配は要りませんよ。新人の育成はえりなちゃんたちが行っているそうですから。」

「えりな・・坂崎えりなか・・高町なのはと並ぶエースオブエース・・・」

「はい。任務報告と一緒に、娘さんのこともお話しますよ。」

 シャリオに言いかけられて、ゴウはひとつ吐息をついた。彼はフェイトたちにジュンのことを任せたのだった。

 

 ギーガが時空管理局に逮捕され、ロアの空気は重く沈んでいた。マコトもこのことに憤りを募らせ、管理局に対する憎悪を強めたのだった。

(時空管理局・・このまま終わらせてたまるか・・ギーガの仇、必ずとってやる・・・!)

 胸中で怒りの言葉を呟き、拳を強く握り締めるマコト。そのとき、彼女はレイがうつむいていることに気づく。

「どうしたんだい、レイ?」

「行きたい・・・?」

「えっ?」

「・・街でお祭りっていうのが始まるみたい・・レイ、お祭りに行ってみたい・・・」

 レイの唐突な申し出に、マコトが戸惑いを覚える。彼女も地球にいたときに楽しんだ祭りのことを思い出していた。

 その祭りでの思い出でさえ、今のレイの心には希薄なものでしかなかった。もう1度、レイとの楽しい時間を過ごしたい。マコトの心に、一途の願いがこみ上げてきた。

「レイ、シグマにお願いしよう。いいって言ってくれたら、僕と一緒に行こう。」

「お姉ちゃん・・・うんっ!」

 マコトの言葉を受けて、レイが笑顔を浮かべて頷いた。2人はポルテと話しているシグマに駆け寄った。

「シグマ、レイがお祭りに行きたいって言ってるんだけど・・」

「えっ?お祭り?・・そういえば街ではハロウィンというパーティーが行われるらしいが・・」

 マコトの申し出を受けて、シグマが考え込む。そこへポルテが不安の言葉をかけてきた。

「でも、街に出たらあなたたちの姿が眼についてしまう。そうなったら管理局に追われることになってしまうわ。そうなったらあなたやレイちゃんが・・」

「レイなら僕が守る!街でも荒っぽいことはしない!だから、街に行かせてくれ!」

 ポルテに懇願するマコト。その姉妹の願いを受けて、シグマは結論を出した。

「分かった。束の間の休息だ。2人で楽しんでくるといい。」

「シグマ・・・ありがとう、シグマ!」

 シグマからの了承に、マコトが感謝の言葉を返す。

「ただし着替えていけ。服装を変えるだけで、案外気づかれないものだからな。」

 続けて告げたシグマの言葉に、マコトとレイは頷いた。だがポルテは不安の色を拭えなかった。

「シグマ、万が一のことがあったら、2人は・・!」

「せっかくのお祭り、せっかくの休みだ。これから我々は命がけの戦いに身を投じることになる。その前の裕福な時間を潰すわけにはいかないだろう。」

 シグマに言いかけられて、ポルテは反論できず、渋々頷くしかなかった。

「それじゃシグマ、明日行くからね。」

「あぁ。ただし呼び出しをかけることがあるかもしれない。そのときはすぐに戻ってくるんだぞ。」

 シグマからの言葉を受けて、マコトとレイはこの場を駆け出していった。2人の姉妹の楽しいひと時が今、舞い込もうとしていた。

 

 ネオンに引っ張られたクオンが来たのは、街中のコスプレ専門店である。そこはネオンの顔馴染みの場所でもあり、彼女は店員や他の客たちにあたたかく歓迎されていた。

「おや?ネオンちゃん、今日は彼氏とデートかい?」

「彼氏?違う、違うって。コスプレ相手だよ♪」

 店員の1人に向けて、ネオンが気さくに声をかける。クオンは観念したのか、何も言わずに肩を落としていた。そんな2人をジュンとカタナは見守っていた。

 それからクオンはネオンによっていろいろとコスプレを試着させられた。制服、タキシード、ラフなもの。さらにはメイド服やバニーガールといった女装、果ては変身ヒロインや動物や火竜の着ぐるみまで。

 様々なものを着させられたクオンは赤面するばかりだった。彼のコスプレを眼にして、ネオンとカタナが喜びをあらわにし、ジュンは唖然となっていた。

 コスプレの試着が終了し、ネオンがそのうちのいくつかを買ったのは、店に立ち寄ってから数十分後のことだった。

「もう、ネオンちゃんにつき合わされたら、本当に身が持たないよ・・」

 解放感を実感して、大きく吐息をつくクオン。

「だって〜♪今日はいいのがより取り見取りだったんだもん〜♪」

 その隣で上機嫌になっているネオン。

「今度、ジュンちゃんにも着せてあげるね♪あたしとサイズが同じだったよね?」

「あ、うん・・今度また・・・」

 突然ネオンに話を振られて、ジュンが半ば呆れながら頷きかける。

「あ、ハロウィンって、仮装もありだったよね?みんなにお披露目してもいいよね〜♪」

「でも衣装によるんじゃないかな?場違いなのはやっぱり似合わないよ・・」

「う〜ん、そう考えると難しくなっちゃうかな・・・」

 屈託のない会話を繰り返し、笑みをこぼすクオンとネオン。そんな中、ネオンがジュンに声をかけてきた。

「そういえばジュンちゃんは、誰と一緒にお祭に行くの?」

「えっ?もちろんクオンくんとネオンちゃんと・・」

 突然のネオンの問いかけに、ジュンが困惑気味に答える。するとネオンが肩を落としてため息をつく。

「ジュンちゃん、あたしたちはもういい年頃なんだからさ。恋のひとつを経験しないといけないんじゃないの?」

「はっ!?ネオンちゃん、いきなり何言い出すの!?

 にやけるネオンの言葉に、ジュンが赤面して声を荒げる。クオンもネオンの言葉の意味が理解できず、疑問符を浮かべていた。

「もういいよ。3人で一緒に行こう。」

「エヘヘヘ。そうだね。3人仲良く遊べば、楽しさも大きくなるよ。」

 肩をすくめて言いかけるネオンに、ジュンが笑顔で頷いた。

 

 新暦76年10月31日

 

 市街ではハロウィンとそのお祭でにぎわっていた。通りには出店が立ち並び、パレードも行われていた。

 だがそのにぎわいに紛れて、暗躍を行う者もいる。その犯行を未然に防ぐため、時空管理局は警戒態勢を敷いていた。

 デルタもその警戒の要請を受けていた。ユウキたちは本部のレーダーと地上からのパトロールで、侵入者に対する警戒を行おうとしていた。

「やれやれ。オレも祭りを楽しみたいところだぜ。」

「そのお祭りを楽しいまま終わらせるためにも、僕たちが頑張らないといけないからね。」

 愚痴をこぼす健一に、リッキーが微笑んで言いかける。

「おかしをくれないといたずらするぞ〜!」

 そのとき、健一の眼の前に顔をかたどったかぼちゃが現れた。驚いた健一がたまらずしりもちをつく。

「もう、健一ったら、ビックリしすぎなんだから。」

 かぼちゃの被り物を被っていたのはえりなだった。笑顔を見せる彼女に、健一が半ば呆れる。

「もうすぐ手厳しいパトロールを始めるって時に、ふざけてる場合じゃねぇだろ、えりな。」

「エヘヘヘ。でも懐かしいよね、ハロウィンもお祭りも。」

 えりなが照れ笑いを浮かべると、健一も昔を思い返して笑みをこぼす。

「そうだな・・5年前は、オレがよくお前をからかってたんだよな・・」

「そうだよ。私たちのわたあめをつまみ食いしてさ。」

 地球での思い出を思い返して、再び笑みをこぼす健一とえりな。

「地球に帰りたくなったときってあるの、えりなちゃんと健一くんは?」

 そこへリッキーが質問を投げかけてきた。するとえりなと健一は少し考えてから答える。

「帰りたくないっていったらウソになっちゃうね。私たちが生まれた場所だから・・」

「みんな、どうしてるかな・・最近連絡取ってないし、あんまり連絡のやり取りをするのもなんだし・・」

 懐かしさを覚える2人に、リッキーが笑顔を見せた。そこへ明日香、玉緒、アレン、ラックスがやってきた。

「どうしたんだい、2人とも?今日のお祭りのことかい?」

「いや・・ちょっと、地球にいた頃を思い出してな・・懐かしくなったかなって・・」

 ラックスが気さくに声をかけると、健一が苦笑気味に答える。

「あれ?もしかして健一くん、ホームシックになったとか?」

「バ、バカなこと言ってんじゃねぇよ!オレは別にそんな・・!」

 玉緒がからかってくると、健一が赤面して反論する。その反応を見て、玉緒だけでなくえりなたちも笑みをこぼしていた。

「でも、お祭りは本当に懐かしいよ・・仕事で忙しかったせいもあるけど・・」

 明日香が微笑んで言いかけたところで、えりなたちが真面目に語りかける。

「楽しいお祭りにするためにも、私たちが頑張らないとね・・・」

 えりなが言いかけると、明日香たちが小さく頷いた。

「みんな、頑張っているようだね。」

 そんなえりなたちに向けて、彼らの聞き覚えのある声が届いてきた。振り返った先には、フェイト、シャリオ、ティアナがいた。

「フェイトさん・・!」

「シャーリーさん、ティアナさん・・久しぶりですね・・・」

 明日香とえりなが喜びの声を上げる。ユウキたちと連絡を取り合って、フェイトたちがデルタ本部を訪れたのだ。

「元気みたいね、えりな。デルタの新人の教育に励んでいるそうね。」

「エヘへ・・そんなすごいことじゃないですよ・・」

 ティアナに声をかけられて、えりなが照れ笑いを浮かべる。

「あたしもなのはさんにいろいろと教わって・・ちょっとギクシャクしたときもあったんじゃないかって・・」

「・・確かにそういうときもありました・・でも、みんないい子で強いですから・・・」

 続けて言いかけたティアナの言葉に、えりなが物悲しい笑みを浮かべて答える。苦い思い出を噛み締めつつも、前に進んでいこうとする気持ちがそこにあった。

「ところで、その新人たちはどこにいるの?」

 そこへシャリオが訊ねて周囲を見回してきた。

「今日、休みにしちゃったんですよ。丁度お祭りだったし、いい羽休めになると思って・・」

「そうだったの・・実はある人から頼まれてたことがあって・・」

 えりながその質問に答えると、フェイトが事情を口にする。

「えりな、その新人の中に春日ジュンという人がいるよね?私たちに頼み事をしてきたのは、春日ゴウ執務官。ジュンの父親なの。」

「えっ?ジュンの、お父さんが・・・?」

 その話にえりなが驚きを覚える。フェイトはえりなたちに向けて、詳しく話をするのだった。

 

 ジュン、クオン、ネオンは、祭りでにぎわう街に繰り出していた。立ち並ぶ出店や散見される仮装を眼にして、ジュンたちは期待を膨らませていた。

「こういう景色を見てると懐かしくなっちゃうよ。昔を思い出すよ・・」

 ジュンは昔のことを思い返していた。地球での楽しいひと時がこのミッドチルダで続いているのだと、彼女は感じていた。

「クオンくん、ネオンちゃん、今日は思いっきり楽しんじゃおうね♪」

「そうだね、ジュンちゃん♪」

 ジュンが笑顔で呼びかけると、ネオンもそれに答え、クオンも頷く。3人は駆け出し、店巡りへと向かった。

 数種類ものミックスジュース。甘菓子の詰め合わせ。かぼちゃのスープ。いろいろな食べ物をたしなんでいく。

 そして巡った店の中には、ネオンと顔馴染みのコスプレもあった。ただし今回はハロウィンにちなんで、かぼちゃなどのお化けの衣装を取り揃えていた。

 その試着をさせられるのはクオンだった。渋々コスプレ衣装に身を包んでいく彼を見て、ネオンが喜びを見せる。

 その傍らで、ジュンもかぼちゃの被り物を被って、有意義さを見せていた。

 さらにジュースを片手に、通りがかったパレードを見守るジュンたち。通りがかった着ぐるみのウサギに握手をされて、ジュンが戸惑いを見せ、クオンとネオンが笑みをこぼす。

 こうしてひと通りの店やイベントを見て回ったところで、ジュンたちは小休止に入った。

「ふぅ。いろいろと回ったからちょっと疲れちゃったよ・・」

 ジュンが一息ついて、未だににぎわいのあるとおりに眼を向ける。

「でもけっこう楽しんじゃったよね・・」

「僕は本当にヘトヘトだよ。またネオンちゃんにコスプレさせられて・・」

 ネオンが感嘆の声を上げると、クオンが肩を落とす。それを見てネオンが笑みをこぼす。

「さーて、休んだら次はどこに行こうかなー♪」

「ちょっと、今度はどこに連れて行く気だよ・・」

 上機嫌のネオンにクオンが呆れる。2人のやり取りを見て、ジュンは喜びを感じていた。

 

 同じ頃、祭りのにぎわう市街に足を踏み入れたマコトとレイ。出店とパレードを見渡して、レイが喜びを見せる。

「楽しそうだね、お姉ちゃん・・」

「うん。お祭りは楽しいよ・・みんなが楽しくいられる・・僕もレイも・・・」

 レイが声をかけると、マコトが微笑んで答える。だがマコトは内心では悲痛さを感じていた。

(これが偽物の平和だと思うと、ホントにやるせない・・・)

 徐々に憤りを覚えていくマコト。だがレイの笑顔を見て、彼女はこの気持ちを押し殺した。

「行こうか、レイ・・せっかくここまで来たんだから、楽しまないとね・・」

「うん・・行こう、お姉ちゃん・・・」

 マコトの呼びかけにレイが頷く。2人もまた、久しぶりのお祭りに繰り出していった。

 レイの心からの笑顔を見たいという願いを胸に秘めて、マコトは通りを進んでいく。

 やがてレイが、射的の景品であるクマのぬいぐるみを見つめ出した。それを見たマコトが射撃に挑戦。何度も挑戦して、ようやくぬいぐるみを倒すことができた。

 勝ち取ったぬいぐるみをレイに手渡すマコト。ぬいぐるみを抱きしめて喜ぶレイを見つめて、マコトも微笑んだ。

 その後も、お菓子やジュースを口にする間も、レイはそのぬいぐるみを抱いて離さなかった。よほど嬉しかったのだと思い、マコトも喜びを感じていた。

 そしてマコトとレイも、近くのレストランで休憩を取ることにした。そのときもレイはぬいぐるみを抱きしめていた。

「そんなに気に入ったのかい、レイ?」

「うん・・お姉ちゃんが頑張って取ってくれたものだから・・・」

 マコトが声をかけると、レイが喜びを見せて頷く。2人のいるテーブルにそれぞれ頼んだプリンパフェが届けられる。

「でも、食べるときぐらいは離したほうがいいよ。汚れたら逆にイヤだろ?」

「うん・・そうだね・・・」

 マコトに言いかけられて、レイは渋々ぬいぐるみを足元に置いた。そして2人はプリンパフェを口にした。

 

 ユウキの指揮下で、えりなたちは祭りの行われている市街のパトロールに出ていた。フェイトとティアナもその警備に参加した。

 えりなとティアナ、明日香とフェイト、健一とアレン、玉緒とリッキー。2人1組、4組に分かれて警備に当たることにした。

 その中で、えりなとともに南西地区をパトロールしていたティアナが、唐突に声をかけた。

「えりな、今でもあのときのこと、気にしているの・・?」

 その突然の問いかけに、えりなが足を止める。2人が思い返していたのは、かつてムチャを行っていたティアナに対するなのはの態度だった。

 今では全てが解決し、和解している。だがその苦い思い出は、2人にとっては思い出したくないものだということも事実だった。

「もう大丈夫ですよ・・私は私の道を歩いている・・ティアナさんも、ティアナさんの道を進んでいっているんでしょう・・・?」

「えりな・・そうね・・あたしもあたしの道を進んでいってる・・みんなだって・・・」

 えりなの見解に同意して、ティアナが微笑みかける。起動六課の解散後、そのメンバーはそれぞれの道を歩んでいるのだ。

「さて、いつまでもウジウジしてるわけにはいかないですよね。でないとティアナさんに怒られちゃいますよ、アハハ・・」

「大丈夫よ。腐れ縁のアイツならともかく、他の人にはそんなに怒ったりしないわよ。」

 えりなが笑顔を見せて言いかけると、ティアナが半ば呆れながら答えた。

 

 明日香とフェイトは南東地区の見回りをしていた。その中で、2人は会話に華を咲かせていた。

「話は聞いてるよ。この前、エリオとキャロと合同で作戦を行ったんだよね?」

「はい。2人にはいろいろとお世話になりました。ジュンたちも2人に勇気付けられて・・」

 フェイトに言いかけられて、明日香が照れ笑いを浮かべる。

「あのときは2人やあなたに、いろいろと勇気付けられたからね・・私がこうして頑張れるのも、あなたたちがいてくれたからだよ・・」

「・・私も、誰かに勇気を与えられるときがくるでしょうか・・・?」

 明日香が言いかけると、フェイトは微笑んで頷いた。

「もしかしたら、私があなたに勇気を与えるときが来るかもしれないね・・」

 フェイトに励まされて、明日香が笑顔を見せる。自分を結ぶ絆を胸に秘めて、明日香は未来に向かって強く踏み出していくことを心に決めた。

 

 時空管理局第4研究部。この日も1人の研究員が研究に没頭していた。

 この研究部の主任、コルト・ファリーナ。温厚な性格で部下から慕われているが、研究に熱が入ると周りが見えなくなってしまうことがある。

「コルト主任、ただ今戻りました。」

 研究室にて分析を続けているコルトに向けて、帰還したバリオスが声をかけてきた。

「バリオスくん、ご苦労さん。今、手が離せないんだ。報告ならデータにしておいてくれ。後で見るから。」

「いえ。ロアに関しては、まだ詳しい情報は得られないままです・・申し訳ありません・・」

 操作しているパソコンの画面に見入っているコルトに向けて、バリオスが頭を下げる。

「気に病むことはない。何事も根気と辛抱強さが大切なのだよ。それは研究に限られたことではない。」

「コルト主任・・・お任せください。必ずこの任務、完遂させてみせます。」

 コルトの信頼の言葉を受けて、バリオスが笑みを見せる。彼はその信頼を胸に秘めて、次の出動に備えることにした。

 

 夜になるに連れて、市街のにぎわいも強まっていった。次の出店を求めて、マコトとレイは通りを歩いていた。

「やっぱり、みんなにもお土産を買ってあげたほうがいいよね・・僕たちだけで楽しむのもなんだし・・」

 マコトは仲間たちのことを思い、レイに眼を向ける。だが振り向いたその先にレイの姿がない。

「レイ?」

 周囲を見回すマコトだが、雑踏ばかりが広がっていて、レイを見つけることができない。

「レイ・・レイ、どこだ!?

 レイを追って周囲を歩くマコト。彼女は血眼になって、妹の行方を求めた。

 

「いけない!あそこでおいしそうなチョコバナナがあったんだった!」

 ネオンが突然声を荒げ、ジュンとクオンが驚きを見せる。

「あ〜、どうしよ〜・・このまま買わないと心残りがするし〜・・」

「だったら、私が買ってくるよ。」

 困り顔を見せるネオンにジュンが言いかけて立ち上がる。

「でも、それじゃジュンちゃんに悪いよ・・」

「気にしないで。その代わり、私とクオンくんにもおごってよね。」

「えっ!?そんな〜!」

「冗談、冗談。それじゃ、行ってくるね。」

 ネオンをからかってから、ジュンは飛び出していった。彼女は通りの中で、目的の出店を探す。

「ふぅ・・これだけ人がいると、お店ひとつを見つけるのも苦労するわね・・・あ、あった、あった。」

 苦労を感じながらも、ジュンはようやく目的の店のひとつを見つけた。人の流れをかき分けて、彼女はその店に向かう。

「ふぅ・・まさかこんな苦労するなんて思わなかったわよ・・・」

 店についた途端、大きく息を吐くジュン。

「いらっしゃい。1枚くじを引いてね。」

 店の女性がジュンに声をかけてきた。

「1枚?」

「そうよ。1枚くじを引いて、書いてある数字分もらえるルールだよ。」

 ジュンの疑問に女性が笑顔で答える。それを受けて、ジュンはくじの入っている箱に手を伸ばす。

 そのとき、ジュンは店の前でじっとしている白髪の少女がいることに気付く。

「どうしたの?アレがほしいの?」

 ジュンが声をかけると、少女が振り向いてきた。彼女の顔を見て、ジュンが眼を見開く。

 その白髪の少女にジュンは見覚えがあった。それは彼女がミッドチルダに引っ越すまで過ごした、無二の親友の妹である。

「レイ、ちゃん・・・あなたが、どうしてここに・・・!?

「えっ?・・・お姉ちゃん、誰・・・?」

 声を荒げるジュンに、少女が無表情のまま首をかしげる。その様子を見て、ジュンは人違いだと思うことにした。

(そうだよね・・いくらなんでも、レイちゃんやマコトがここに来てるはずないよね・・私の勘違いだよね・・・)

「ゴメンね。お姉ちゃん、他の人と間違えちゃったみたい、アハハハ・・・」

 ジュンが照れ笑いを浮かべるが、その意味が分からず、少女は呆然となっている。

「ホントにゴメン・・お詫びに私がチョコバナナを買ってあげるから。」

 ジュンが言いかけると、少女は笑顔を見せた。

「レイ!レイ、どこだー!」

 そこへ飛び込んできた声。それに聞き覚えがあり、ジュンは驚愕する。

 人の波をかき分けて現れた白髪の少女。店の前で立ち止まり、息を絶え絶えにしていた。

「レイ・・ダメじゃないか・・1人でどこかに行ったら・・」

「お姉ちゃん・・・ゴメン・・あれが、ほしかったから・・・」

 この姉妹のやり取りを見て、ジュンは動揺の色を隠せなかった。

「間違いない・・マコト・・・」

「えっ・・・?」

 ジュンが声をかけると、少女、マコトも戸惑いを見せる。それはマコトにも望んでいたことだった。

「ジュン・・・ジュンなのか・・・」

「マコト・・・レイちゃん・・・」

 互いの顔を見つめあい、戸惑いを見せるマコトとジュン。

 このミッドチルダの街の中で、2人の少女が今、運命の再会を果たしたのだった。

 

 

次回予告

 

ついに対面した2人の少女。

幼い頃に築き上げた絆を深めようと、ジュンとマコト、2人の心が交わっていく。

その気持ちを切り裂く戦いの火蓋。

デルタのジュンと、ロアのマコト。

2つの心の行く先は・・・?

 

次回・「邂逅」

 

出会い、友情、そして錯綜・・・

 

 

作品集

 

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