魔法少女エメラルえりなVersuS
第8話「勇気の証明」
未来に向かって突き進む気持ち。
でもその気持ちは、恐怖という闇に飲み込まれてしまった。
信頼をしてくれる人がいるなら、その信頼に応えたい。
力は、何かを壊すことも守ることもできる。
その使い方を決めるのは、その人の気持ち。
この荒んだ心に、もう1度勇気を・・・
魔法少女エメラルえりなVersuS、始まります。
エリオとキャロとの模擬戦の中、混乱に陥ってしまったネオン。意識さえも揺らいでしまった彼女は、ジュンとクオンに医務室に運ばれる途中に、気絶してしまった。
彼女が眼を覚ましたのは、その日の夕暮れ時だった。
「・・あ、あれ?・・・あたしは・・・?」
「よかった。気がついたみたいですね・・・」
意識がもうろうとしていたネオンに向けて声をかけたのはキャロだった。彼女はエリオとリッキーとともに、ネオンのそばについていたのだった。
「模擬戦のときに突然怯えて、ジュンさんたちが呼びかけてもずっと震えたままで・・・」
「あたしが・・・そういえばあたし、すごく怖がってたような・・・」
エリオが説明すると、ネオンは沈痛の面持ちを浮かべる。
(ホントにすごく怖かった・・レールストームの引き金を、引くことができなかった・・引いたらまた、ラティちゃんのように誰かを傷つけてしまうかもしれないと思ってしまったから・・・)
戦闘意欲を完全に揺さぶられて、ネオンは落ち込んでしまった。自分のために、また誰かが悲しい思いをしてしまう。それが彼女に恐怖を植え付けてしまっていた。
「ネオンさん、もしかして、自分が間違いをしているんじゃないかって思っていませんか・・・?」
そのときキャロから呼びかけられて、ネオンは戸惑いを見せる。
「間違いをしてしまって、間違いを繰り返したくないから、さっきみたいに怖くなってしまった・・・」
「キャロちゃん・・・うん・・実は・・・」
キャロの心配を受けて、ネオンはこれまでのいきさつを話した。任務中に誤射して人質の少女を傷つけてしまい、そのことから母親から嫌悪されてしまった。それがトラウマのような恐怖を、ネオンに与えていたのである。
「そうだったのですか・・でも、誰にでも間違いをしてしまうことがありますよ。そして、間違ったときに叱ってくれる友達や仲間が、その人のそばにいることも・・」
「えっ・・・?」
エリオの言葉にさらなる戸惑いを見せるネオン。
「ネオンさん、あなたには仲間がいます。ジュンさんやクオンさん、デルタのみなさんがついています。」
「私たちを引き取ってくれたフェイトさんも、間違いをしてしまうんじゃないかって不安になっていたときがあります。でももう1度立ち上がって、迷わずに前に進んでくれました。それは私たちが呼びかけてくれたからって言ってくれたんです・・」
「誰にも勇気を持つことができます。そして、他の人に勇気を与えることも・・」
エリオとキャロがネオンに励ましの言葉をかけていたときだった。彼らのいる医務室にえりな、健一、明日香、玉緒、ラックスが入ってきた。
「えりなちゃん。」
えりなたちの入室に気付いたリッキーが歩み寄ってきた。彼に眼を向けて頷きかけた後、えりなはエリオたちに言いかける。
「エリオくん、キャロちゃん、それは違うよ。勇気は、与えるとか与えられるとか、そういうものじゃないよ。」
「えりなさん・・・」
この言葉にエリオが戸惑いを見せる。
「確かに誰かから励まされて勇気付けられることもあるかもしれない。でもそれで勇気を覚えるのも、結局はその人自身の問題なんだよ。」
えりなの言葉にエリオとキャロが困惑を浮かべる。この言葉はあまりにも非情と取れるものだった。
重い空気に包まれている医務室にて、えりなはネオンに優しく語りかけた。
「ゴメンね、ネオン・・あなたが悩みを抱えていることに気付いて上げられなくて・・・」
「いえ、そんな・・えりなさんは・・・」
謝るえりなにたまらず弁解を入れるネオン。えりなは落ち着きを見せてから、改めて話を切り出す。
「体力や技術なら身に付けさせることができる。そのノウハウを私は知ってるから・・でも、あなたの勇気を呼び起こすことはできない・・」
えりなのこの言葉にネオンだけでなく、エリオとキャロも戸惑いを見せる。その言葉の意味を理解していた健一は真剣さを崩していなかった。
「たとえ私が、どんなに教えるのがうまくてもね・・だって自分(あなた)の勇気は、あくまで自分(あなた)だけのものだから・・」
「あたしだけのもの・・・」
えりなからの言葉を受けて、ネオンが自分の胸に手を当てる。
「もう1度頑張ってみよう、ネオン。あなたなら必ずやれる。たった一歩前に進むだけで、あなたはどこまでも強くなれる・・」
「あたしが、どこまでも強くなれる・・・」
ネオンは次第に奮起を覚えていた。自分の中にある、消えかかっていた炎がきらびやかに燃え上がりだした。
そして彼女はこうも感じていた。自分が犯してしまった失態、そこから生まれた悲劇は、自分の手で終止符を打たなければならないことを。
「ありがとうございます、えりなさん・・あたし、もう迷いません・・今度こそ、撃つべきものを撃ちます・・・!」
ネオンの決意の言葉を聞いて、えりなが微笑む。健一も不敵な笑みを浮かべて、小さく頷いていた。
「それじゃ、今日はもう休んで、ネオン。心だけじゃなく、体を疲れが残ってるんだから。」
「でも、それだとエリオくんとキャロちゃんが・・・」
えりなの呼びかけに、ネオンが困惑しながら言いかける。するとエリオとキャロが微笑みかける。
「その心配は要りませんよ、ネオンさん。僕たちは訓練データを参考にしますから。」
「それに、気持ちが通じ合えば、すぐに息を合わせられますよ。」
「エリオくん・・キャロちゃん・・・ありがとう・・ホントにありがとうね・・・」
エリオとキャロに感謝の意を示すネオン。今の彼女を包み込んでいた恐怖や迷いは、彼女の勇気によって取り払われていた。
デルタの司令室前で、ネオンの身を案じていたジュン。不安の色を隠せないでいる彼女に、カナタを連れたアレンが声をかけてきた。
「ネオンのことが心配で仕方がないみたいだね。」
アレンに声をかけられて、ジュンが困惑を浮かべたまま振り向く。
「あの怯え様、普通じゃなかった・・できることなら力になりたいけど、何をしてあげたらいいのか、分からなくて・・・」
「なら、信じてあげることですよ、ネオンさんを。」
自分の気持ちを告げるジュンに、カナタが切実に言いかける。
「固い絆で結ばれている仲間なら、信じてあげるだけで力になれるはずです。私も、デルタにみなさんに支えられたから、諦めずにここまで頑張れたんです。」
「カタナさん・・・そうですよね・・こういうときこそ、信じてあげないといけないですよね。」
カタナの言葉を受けて、ジュンは笑みを取り戻す。そしてジュンは、首から提げているロケットを手にする。
(マコト、あなたもそう思うよね・・・)
親友、マコトへの思いを募らせ、ジュンは仲間たちの絆を感じ取っていた。
「こんなところで、3人とも何をしているんだ?」
そこへアクシオ、ダイナを連れて、ヴィッツが声をかけてきた。
「あ〜、ヴィッツさま〜♪」
すると真面目な態度を崩さなかったカタナが、突然態度を一変。ヴィッツに向けて喜びをあらわにしていた。
「カナタ、任務、ご苦労だった。お前のおかげで、迅速にこなすことができた。」
「そ、そんな!む、むしろ足を引っ張ってしまったのではないかと不安になってしまって・・・!」
微笑みかけるヴィッツに対し、オドオドしながら答えるカナタ。彼女の変わり様を理解できず、ジュンは疑問符を浮かべていた。
「これを気にならない人はまずいないよね。」
そこへアクシオが半ば呆れながら、ジュンに声をかけてきた。
「カタナは立派な騎士や剣士を目指していてね。ヴィッツに憧れてて、会うと眼の色を変えちゃうんだよね。」
「は、はぁ・・」
アクシオの説明を、ジュンはただただ頷くしかなかった。
「みんな、何だか楽しそうだね。」
そこへ玉緒が現れ、ヴィッツたちに声をかけてきた。するとジュンが深刻さを浮かべて、駆け寄り声をかけてきた。
「玉緒さん、ネオンは大丈夫なんですか・・・?」
「心配しなくてもいいよ、ジュンちゃん。ネオンちゃんは元気になったから。」
玉緒の答えにジュンが笑顔を見せる。
「ただ、リッキーがもう少し様子を見たいから、今夜は医務室で寝かせることになったから。」
「そうですか・・・せめて1度、話をさせてもらえますか?」
ジュンの申し出に玉緒が首を横に振る。
「ネオンちゃんから言伝を預かってるよ。明日、もう1度みんなで病院に行こうって。」
「ネオンちゃん・・・分かりました。ありがとうございます。」
玉緒からの言葉に感謝を覚え、ジュンは敬礼を送った。
「ところでジュンちゃん、クオンくんはどうしたの?」
「今、お友達と話をしてますよ。近くまで来たから寄ったそうで・・」
玉緒の問いかけにジュンが答える。クオンは親友との面会のため、ここにはいなかった。
突然の親友の来訪を迎えたクオン。訪ねてきたのは彼の幼馴染み、バリオスだった。
バリオスは現在、時空管理局本局第4研究部主任、コルト・ファリーナの下で任務をこなしていた。今回の来訪も、その任務の途中で立ち寄ったものだった。
「久しぶりだね、バリオス。なかなか連絡が取れなくて、ゴメン・・」
「いや、僕のほうこそ、なかなか都合が合わなくて・・・」
互いに謙そんを見せ合うクオンとバリオス。苦笑いを浮かべた後、2人は落ち着きを取り戻す。
「相変わらずのようだね、クオン。実力はともかくだけど。」
「そういうバリオスだって。」
「今、僕はコルト主任のいる第4研究部を仕事の拠点にしている。輸送の警護が主な仕事になってきてるけど、輸送されるものの多くは貴重かつ重要なもので、それを狙ってくるハンターもいるから、想像以上にハードだよ。」
「デルタの仕事も訓練もけっこう厳しいよ。でも、みんながサポートしてくれるから・・」
屈託のない会話をしていく中で、クオンが唐突に沈痛の面持ちを浮かべる。
「でも、いろいろと深刻なことも少なくないよ。今も・・・」
「そうか・・よければ僕も力になるけど・・」
「いや、気にしなくていいよ。僕たちのことで、君に余計な負担をかけるわけにはいかない。僕たちのためでもあるし・・」
「そうか・・じゃ今回はあえて関わらないことにするよ。でもこれだけは忘れないでほしい。君には僕がついていることを・・」
バリオスの信頼を込めた言葉を受けて頷く。2人は握手を交わし、友情を確かめる。
「それじゃ僕は行くよ。デルタのみなさんにもよろしく。」
「うん。また、バリオス。」
バリオスはクオンと別れの挨拶をすると、きびすを返してその場を立ち去った。
その翌日、森林地帯の中心に点在する研究所跡地。その寂れた建物を、ローグとギーガは見据えていた。
「あれが今度の標的か。やる前からもうボロボロじゃねぇかよ。」
「1階は廃墟同然となっていますが、地下は依然として稼動し続けています。今回の目的はそこの破壊。あなたは十二分に破壊を楽しむことができ、私は命を弄ぶその機関を駆逐する目的を果たせる。一石二鳥ということです。」
愚痴をこぼすギーガに、ローグが淡々と答える。
「何だっていい!叩き潰して、イライラが治まるならな!」
いきり立ったギーガが研究所に向かって飛び出していった。だがローグは彼を追おうとはしなかった。
「いいんですか、ローグさん・・・!?」
「構いません。むしろ手を出すべきではありません。暴れ出した狂犬に近づけば、巻き込まれるのは必死です。」
ロアのメンバーの声にも淡々と答えるローグ。彼はギーガの強襲を見守ることにした。
この日も病室のベットでの時間を過ごしていたラティ。時間がたつにつれて、彼女は不安を膨らませていた。
ネオンの誤射によって負った傷も治り、歩くことに支障はなかった。だが彼女は歩くことを怖がっていた。
自分の力で立つことに怯えるラティに、母親も医者も深刻さを隠せなかった。そして母親たちが病室を出た後のことだった。
(怖い・・もうあたし、歩くことができないのかな・・・)
“そんなことないよ。”
胸中で不安の言葉を呟いたときだった。ラティの脳裏に、ネオンの声が響いてきた。
“ラティちゃん、あたしたちは病院の前に来てるの。またママに怒られちゃうからね。”
(お姉ちゃん、ホントに病院の前なの・・・?)
“うん。窓を開けてごらん。あたしたち、その先にいるから・・”
ネオンに促されて、ラティはベットから体を起こして窓を開けた。その先のビルの屋上に、ネオン、ジュン、クオンの姿があった。
「お姉ちゃん・・・」
一瞬驚きの表情を見せたラティに、ネオンが笑顔を見せてきた。
“ラティちゃん、ゴメンね・・あたしのせいで・・・でもラティちゃん、あたしは信じてるよ。ラティちゃんがもう1度、あたしたちに笑顔を見せてくれることを・・”
(お姉ちゃん・・・でもあたし、もう歩けないの・・歩くのが怖い・・ホントに歩けなくなっちゃったんじゃないかって・・・)
“大丈夫だよ。だってラティちゃんは、あたしよりも全然すごい勇気を持ってるから・・”
(勇気・・・?)
“そう。勇気。一歩だけでも前に歩くだけで、勇気はものすごいパワーになるの。ラティちゃんにも、それだけのパワーを持ってる・・”
(でも、あたし・・・)
“あたしたちはラティちゃんを信じてる。だからラティちゃん、ラティちゃんを信じてるあたしたちを信じて・・ラティちゃんが自分で歩けるって信じてる、あたしたちを・・・”
ラティに向けての信頼を募るネオン。その願いにラティは戸惑いを見せる。
だがネオンや多くの人たちが、自分が立ち上がることを信じ、願っている。その気持ちに応えるため、ラティは決意した。
(お姉ちゃん、ありがとう・・あたし、やってみるよ・・・)
“ラティちゃん・・・頑張ってね、ラティちゃん。あたしたちも遠くから応援してるからね。”
ラティの決意を聞いて、ネオンが笑顔で頷いた。ジュンとクオンも笑みを見せて頷いた。
そのとき、ネオンたちに向けて、クラウンからの緊急の知らせが入った。
“ジュンちゃん、クオンくん、ネオンちゃん、出動だよ!”
(クラウンさん、またロアですか・・!?)
“うん。KS163地点にある人造魔導師研究所。既に閉鎖された場所だけど、地下では非合法な研究が行われていたところでもあるのよ。”
(そんな場所をどうしてロアが・・・!?)
クラウンの説明に疑問を抱くジュン。
“執務官や査察部が調査を行っていた最中だったんだけど・・とにかく、今はロアを押さえるのが先決だよ。”
(分かりました、クラウンさん。すぐに現場に向かいます!)
クラウンからの連絡を受けて、ジュン、クオン、ネオンが頷き、研究所に向かった。ラティの勇気を信じながら、ネオンも自分の勇気を奮い立たせようとしていた。
人造魔導師の研究所の地下研究室に向けて、攻撃の手を伸ばしていたギーガ。破壊され、爆発を引き起こしていく機器を眼にして、彼は高らかに哄笑を上げる。
「アッハハハハ!こんなにスカッとしたのは久しぶりだぜ!思う存分暴れられるんだからな!」
歓喜の笑みを浮かべて、そばにある半壊した機器を殴り飛ばすギーガ。だが彼はすぐに笑みを消す。
「けどな・・あのデルタの連中を皆殺しにしねぇと、オレの腹の虫は治まらねぇんだよ!」
いきり立ったギーガが叫び声を上げると、再び研究室への破壊行為を行った。
そのとき、ギーガに向けて水色の弾丸が飛び込んできた。それに気付いたギーガが回避するが、弾は彼を追跡してどこまでも狙っていく。
たまらず地下から外に飛び出してきたギーガ。そこへ一条の旋風が飛び込み、ギーガはその一閃を受けて弾き飛ばされる。
「くっ!管理局の局員か!」
毒づいたギーガが視線を向けた先には、ウンディーネを手にした明日香と、グラン式ドライブチャージシステムを搭載したアームドデバイス「ストリーム・インフィニティー」を手にしたアレンの姿があった。
「ここまでですよ、ロア!」
続けてかけられた声。それはギーガの背後から飛び込んできた。
ギーガが振り返った先には、真の姿となったフリードリヒの背に乗るエリオとキャロの姿があった。
「火竜に竜召喚士だと!?あんなのまで出てきたって言うのかよ!」
驚愕のあまりに声を荒げるギーガ。だがすぐに彼は興奮と歓喜の笑みを浮かべた。
「上等だ・・これだけをオレの手で始末できるんだ・・こんなに嬉しいことはないぜ!」
いきり立ったギーガがエリオとキャロに向かって飛びかかっていく。
「ストラーダ!」
“Stahlmesser.”
エリオがフリードリヒの背から飛び降り、ギーガを迎撃する。カートリッジロードを行ったストラーダから放たれた一閃が、ギーガの繰り出した拳と衝突し、火花を散らす。
“Starker Wind.”
“Drop Sphere.”
そこへアレンと明日香の魔法がギーガを狙ってきた。ギーガはとっさにストラーダを弾いてエリオを突き飛ばし、その追撃をかわす。
「フリード、ブラストフレア!」
そこへキャロの指示を受けて、フリードリヒが炎を放つ。ギーガがその火炎に巻き込まれて体勢を崩し、地上に落下する。
「地上に落ちた・・追いかけましょう!」
“待って、エリオくん!ここは私たちに任せて!”
呼びかけたエリオに向けて、ジュンの念話が飛び込んできた。
“ロアが1人で乗り込んでいるとは考えにくいです!他に仲間が潜んでいて、狙っているかもしれません!”
“明日香さんたちはそこで待機してください!あたしたちで落ちたロアを拘束します!”
クオンとネオンが続けて呼びかける。その言葉を受けて、アレンが頷く。
(よし、分かった。ジュン、クオン、ネオン、ここは君たちに任せた。)
“了解!”
アレンの指示にジュンたちが答える。
「私たちは他のロアのメンバーを探そう。エリオとキャロもお願い。」
「分かりました。」
明日香の呼びかけにエリオが答え、キャロも頷く。彼らはこの場に留まり、周囲に警戒の眼を向けることにした。
明日香たちの連携攻撃を受けて地上に落ちたギーガ。頭の中に漂うもやもやを振り払い、彼は上空に眼を向ける。
「やってくれるじゃねぇかよ、管理局の連中・・今度はテメェらを叩き落としてやるぞ!」
怒りが頂点に達していたギーガが、明日香たちに向けて憎悪を抑えきれなくなっていた。
そのとき、ギーガは自分に向かってくる魔力を感じ取り、跳躍する。彼の眼下に、奇襲を仕掛けてきたジュンとクオンが現れた。
「ちっ!またあのガキどもか!」
ギーガは舌打ちして着地し、ジュンたちを見据える。彼は2人の仲間、ネオンの存在も察知していた。
「もう1人いるんだろ?出て来いよ、小娘!」
眼を見開いて高らかに叫ぶギーガ。その言葉を受けて、ネオンがやむなく姿を見せる。
「もう前のようにはいかねぇぞ・・テメェらもここで叩きのめしてやるぞ!」
「そうはいかないわよ!今度こそ、あなたを捕まえてやるから!」
互いに言い放つギーガとジュン。その傍らで、ネオンは自分の中にある勇気を確かめていた。
(やれる・・あたしだって・・・あたしたちは今まで、たくさんの訓練をこなして、たくさんの任務をこなしてきてる・・・!)
“Please have courage,my master.(勇気を持ってください、マスター。)”
思いを募らせているネオンに向けて、レールストームが呼びかけてきた。
「レールストーム・・・」
“I answer your courage.(あなたの勇気に私は応えます。)”
「うん・・・そうだね・・みんなが、あなただってあなたを信じてくれてるんだから・・・」
レールストームの信頼を背に受けて、ネオンは戦う意思を見せる。彼女は2機のレールストームを合わせ、レールモードを起動させる。
「何をゴチャゴチャ言ってるんだよ、小娘!」
怒鳴り散らしたギーガがネオンに向かって飛びかかっていく。
(あたしは歩く・・この第一歩を・・華ならず前に歩き出せることを信じて・・・!)
「やる前からしくじることを考えてたら、その先には行けないよ!」
“Rail burst.”
ネオンはレールストームの引き金を引き、言葉とともに砲撃を放つ。迷いなく放たれたその閃光が、ギーガが繰り出した拳を打ち負かした。
「何っ!?」
虚を突かれたギーガが体勢を崩し、横転する。その隙をジュンとクオンは見逃さなかった。
「ネオンちゃんの勇気、ムダにはしないよ!」
“Gravity slash.”
ネオンの勇気に後押しされて、クオンがスクラムを振り下ろす。その一閃を、ギーガがとっさに拳を突き出して受け止める。
「そうだよ!1度進み出したネオンちゃんは、誰にも止められないんだから!」
“Burning breaker.”
そこへジュンが飛び込み、スクラムの刀身の後ろに拳を押し当て、クオンの一閃に付加をかける。ギーガにさらなる重みがのしかかり、彼は支えきれなくなる。
「こ、こんなことが・・こんな・・・!」
絶叫を上げたギーガが突き飛ばされ、その先の大木に叩きつけられる。うめき声を上げると、彼は大木にもたれかかったまま、意識を失った。
「やった・・・」
勝利を実感したネオンが声をもらす。安堵のあまり、彼女は思わずその場にへたり込んでしまう。
「えっ!?ネオンちゃん、大丈夫!?」
「う、うん・・緊張の糸が切れちゃったみたい・・アハハハ・・・」
ジュンの心配の声に、ネオンが照れ笑いを浮かべて答える。その様子を見て、ジュンとクオンが安堵の吐息をつく。
「もう、ネオンちゃん、ビックリさせないでよ・・・」
「エヘヘヘ、ゴメン、ゴメン・・・」
苦笑いを浮かべるジュンとネオン。安心感を覚えつつ、クオンが上空にいる明日香たちに連絡する。
(明日香さん、アレンさん、こっちは終了しました。)
“そうか。分かった。こっちはロアの他のメンバーの加勢はない。今からそっちに行く。ギーガの連行は僕がやるから、君たちは研究所の鎮火を頼む。”
(了解しました。ここはお願いします。)
アレンからの指示を受けたクオン。彼はジュンとネオンに呼びかけ、ギーガにバインドを仕掛けてから研究所に向かった。
ジュンたちと交戦したギーガの敗北を察知したローグ。だが彼は平穏さを一切乱していなかった。
「ギーガがデルタと交戦し、敗れたようです。」
「えっ!?ギーガが!?」
ローグの言葉にロアのメンバーが驚愕を覚える。
「このまま加勢に出ても、管理局に迎撃されるのは眼に見えています。やむを得ませんが、この場は撤退しましょう・・」
ローグが仲間たちに呼びかける。その指示に反論したかったが、打開策が見つけられず、ロアのメンバーはローグの言葉に従うことにした。
(あなたは野暮すぎました、ギーガ。どの道あなたは、この戦いの中で朽ち果てるしかなかったのです・・・)
胸中で非情の言葉を呟きかけるローグ。彼もまた、真の平和のために必死だったのだ。
炎が消えようとしている研究所を背にして、ローグたちはこの場を後にした。
研究所付近でのロアとの交戦を、デルタ本部司令室にてモニター越しに見据えていたユウキ。その戦闘と事件の終息の知らせが、彼らに向けて届いてきた。
「ギーガ・タイタンを確保。研究所の火災の鎮火も終了しました。」
カレンの報告を聞いて、ユウキが安堵の吐息をつく。
「お疲れさん。後処理を済ませたらみんな帰って来い。後は執務官と査察官が任せることになるから。」
ユウキの指示にクラウンたちが頷き、明日香たちに伝達する。
「今回は、エリオくんとキャロちゃんがいてくれて助かったわね。」
そこへ仁美がユウキに向けて声をかけてきた。彼女の隣にはリーザの姿もあった。
「そうだな・・伊達になのはちゃんやフェイトちゃんに鍛えられていないな。えりなやジュンたちの支えになってくれた・・それに・・」
「それに?」
「2人はみんなに、本当の勇気と優しさを教えてくれた・・忘れかけていた、大切なことを・・・」
ユウキの言葉に、仁美も微笑んで頷いた。
「誰もが1度は、何らかの形での試練を受けることになります。それを乗り越えたとき、人は本当の強さを得ることができるのです・・・」
そこへリーザも声をかけ、ユウキと仁美が頷きかける。
「さて、私はみんなを迎えに行ってくるわね。えりなちゃんも外に出てるはずだから。」
仁美は明日香たちを出迎えようと、本部前に向かって駆け出していった。苦笑を浮かべながら、ユウキは彼女を見送った。
事件の処理を終えてデルタ本部に帰還してきた、ジュン、クオン、ネオン、明日香、アレン、エリオ、キャロ。彼らを出迎えたえりなと仁美が、笑顔を見せていた。
「ただ今帰りました、えりなさん。」
「うん。おかえり、みんな・・」
笑顔を見せて声をかけるジュンに、えりなが答える。えりなはクオンたちにも眼を向け、ネオンで視線を止める。
「立ち直ったみたいだね、ネオン・・」
「はい・・いろいろと、ご迷惑をかけて、すみませんでした・・・」
えりなに声をかけられると、ネオンが頭を下げて謝る。するとえりながネオンの肩に優しく手を添える。
「自分の中にある、自分だけの勇気。辛くても怖くても挫けない気持ちが、あなた自身を強くしていくんだよ・・・」
「えりなさん・・・ありがとうございます!」
優しく語りかけるえりなに、感謝の言葉をかけるネオン。ジュンもクオンも、新たな一歩を踏み出したネオンを心から祝福した。
頭を上げて満面の笑みを浮かべるネオン。彼女はエリオとキャロに振り返り、声をかけた。
「エリオくん、キャロちゃん、ちょっと連れて行ってほしいところがあるんだけど・・・」
ネオンからの突然の申し出に一瞬きょとんとなるも、エリオとキャロは微笑んで頷いた。
ネオンからの励ましの言葉を受けて、元気と勇気を呼び起こしたラティ。1人だけの病室の中で、彼女は自力でベットから起き上がろうとしていた。
(お姉ちゃんだって頑張ってるんだから・・あたしも頑張らないと・・・)
自分の足でしっかりと立とうと躍起になるラティ。だがしばらく歩いていなかったためか、気持ちに反してすぐに立ち上がることができなくなっていた。
「あ、あっ!」
体勢を崩して床に転ぶラティ。だが彼女は涙を見せなかった。
再びラティが立ち上がろうとしたとき、母親が病室に入ってきた。
「ラティ・・・!?」
突然のことに驚く母親。だがラティが自力で立ち上がろうと頑張っているのを見て、固唾を呑んで見守ることにした。
そして、ラティはふらつきながらも、自分の力で立ち上がり、歩くことに成功した。
「やった・・やったよ・・・」
安堵を感じた途端、再び倒れそうになるラティ。だがそこへ母親に支えられる。
「ママ・・・?」
「やったわね・・やったわね、ラティ・・・」
戸惑いを見せるラティに、母親が喜びをあらわにする。ラティを抱きしめて、母親は眼から大粒の涙を浮かべる。
「ママ・・あたし、歩けたの・・・?」
「そうよ、ラティ・・あなたは歩けた・・あなたの足で、ちゃんと・・・」
ラティの問いかけに母親が答える。その言葉を受けて、ラティはようやく喜びを実感した。
「ラティ、今、お医者さんに知らせてくるから、ちょっと待ってて・・」
「うん・・・」
母親はラティに言いかけると、医者に知らせに向かった。立つことに疲れたラティはベットに座り込んだ。
“やったね、ラティちゃん・・・”
そのとき、ラティの脳裏に声が響いてきた。その声を聞いたラティが、窓越しに外を見つめる。
その先のビルの屋上には、ネオン、エリオ、キャロ、フリードリヒがいた。ネオンはラティが自力で立ち上がったことを祝福し、笑顔を見せていた。
(お姉ちゃん・・・ありがとう・・ホントにありがとうね・・・)
ラティがネオンに向けての感謝を募らせ、一筋の涙を流した。その雫はラティとネオン、2人の勇気と友情の証だった。
勇気を呼び起こした少女は、強く歩いていくことを心に誓うのだった。
ラティの回復と強さを実感したネオンは、安堵と喜びを感じていた。
「よかったですね、ネオンさん・・・」
そこへエリオが声をかけると、ネオンは彼とキャロに振り返る。
「あたしだけの力じゃないよ・・ジュンちゃんやクオンくんやえりなさん、エリオくんとキャロちゃんがいてくれたから・・・」
「ネオンさん・・・私たちこそ、ネオンさんにいろいろと助けられて、とても感謝していますよ・・・」
互いに感謝の言葉を掛け合うネオンとキャロ。するとネオンはエリオとキャロの手に自分の手を添えた。
「また会えるときが来たら、一緒に頑張ろう、ね・・・」
「はい・・いつかまた、会えるときが来ますよ・・」
「そのときは、たくさんの幸せを守るために、一緒に頑張りましょう・・」
いつかまた、ともに戦うことを誓い合ったネオン、エリオ、キャロ。勇気と絆を胸に秘めて、エリオとキャロはネオンと別れ、自然保護隊へと戻っていった。
(ホントにありがとう、エリオくん、キャロちゃん・・あたしも前に進んでいくよ・・この勇気を大切にして・・・)
新たな親友たちとの再会を約束し、ネオンは新しい一歩を踏み出すのだった。
次回予告
にぎわいを見せる街並み。
開催される祭りに、胸を躍らせる少年少女。
そこに満ちた笑顔を守るため、デルタは飛ぶ。
その街の中で、運命の瞬間が訪れる。
束の間の休息の時間と、そして・・・