魔法少女エメラルえりなVersuS
第7話「崩れ行く心」
一瞬の迷いを込めて引かれた引き金。
そこから放たれた銃弾が、悲劇を大きくし、自分さえも追い込んでいく。
誰かのために。
仲間のために。
みんなのために。
優しく手を差し伸べる絆の力。
その優しさと信頼に、何とか応えていきたい。
つかみ取るのは、光か闇か・・・
魔法少女エメラルえりなVersuS、始まります。
訓練場を襲撃したロアとの戦いの中、人質にされた少女、ラティを救おうとして逆に彼女に誤射してしまったネオン。責任を痛感したネオンは、後悔の念に駆られて体を震わせていた。
その困惑は寮の自分の部屋に戻っても治まらず、寝るときにまで抱え込んでいた。
そこへ遅く帰ってきたジュンが部屋に入ってきた。
「ふぅ〜。やっと報告書を提出できたよ〜・・・ネオンちゃん・・・」
気の抜けた声を上げたところで、ジュンは落ち込んでいるネオンを目の当たりにして、沈痛の面持ちを浮かべる。だが、ここで自分が落ち込んでいる場合ではないと言い聞かせ、ジュンはネオンに歩み寄った。
「あんまり気にしすぎるのはよくないって、ネオンちゃん。」
「ジュンちゃん・・・」
ジュンの呼びかけを受けて、ネオンが戸惑いを見せる。
「ネオンちゃんに比べたら、私なんて突っ走ってばっかりで、それで失敗ばかりして・・だから、ネオンちゃんはまだまだ立派だよ、アハハハ・・・」
「ジュンちゃん・・・ジュンちゃんにそういってもらえると、元気が出てくるかな・・・」
ジュンに励まされて抱きしめられて、ネオンはようやく落ち着きを取り戻した。だがネオンがすぐに沈痛の面持ちに戻る。
「でも、やっぱりあのラティちゃんのことが・・・」
「そうだ、ネオンちゃん。訓練が終わったら、ラティちゃんのお見舞いに行こうよ。もちろんクオンくんも連れてね。」
「あたしたちが、ラティちゃんのお見舞いに・・・?」
「うん。そうすればラティちゃんだけじゃなく、ネオンちゃん自身のためにもなるよ。だから、ね。」
ジュンの言葉に奮い立ち、ネオンは真剣な面持ちを浮かべて頷いた。自分への信頼に応えるために、自分が少女へ元気を与えなくてはならない。
一途の願いを胸に秘めて、ネオンは微笑んで頷いた。
ネオンの不祥事で一時重い空気に包まれていたデルタ本部。だがユウキの叱咤激励によって、本部内は元の雰囲気を取り戻していた。
そんな中、えりなと明日香が街のパトロールを終えて本部に戻ってきた。そこで2人は、ユウキとアレンと対面する。
「ユウキさんから話は聞いたよ。厄介なことになってしまったみたいだね。」
「うん・・でもネオンなら大丈夫だよ。今まで見てきたけど、ちょっとやそっとじゃへこたれたりしないって。」
アレンが言いかけると、えりなが微笑んで答える。だがアレンは深刻さを消さない。
「でも、1度のミスでどんどん深みにはまってしまうケースもあるよ。あのときのティアナさんのように・・」
アレンのこの言葉にえりなが笑みを消す。
ティアナ・ランスター。なのはの教え子の1人である。だがある日、ティアナは自分の力とその成長に疑問を感じ、任務でのムチャや過度の自主練習を行い、それを危惧したなのはに打ちのめされてしまう。
なのはの過去を知ったことでティアナは彼女と和解することができた。だがそのことに対して、えりなを始めとした多くの人々からの波紋を呼ぶこととなった。
今は全ての事態が収束したが、えりなにとっても思い出したくない苦い出来事だった。
「信じるしかないよ・・これはネオンちゃん自身の問題だから・・・それに・・・」
ネオンへの信頼を胸に秘めて、えりなが笑みを取り戻す。
「あの子は、ううん、みんなは1人じゃない。絶対に・・・」
「えりな・・・」
えりなの思いにアレンが戸惑いを見せる。彼女にはネオンが立ち直るという絶対の自信があったのだ。
「明日香ちゃん、あなた宛に連絡が入ってきたよ。」
そのとき、クラウンが明日香に向けて声をかけてきた。
「私にですか?」
「うん。自然保護隊。あの2人からだよ。」
クラウンからの言葉に明日香が笑顔を見せる。それは彼女だけでなく、この場にいる多くの人間の馴染みのある人物たちだった。
翌日、ジュン、クオン、ネオンはラティのお見舞いに来ていた。病室に続く廊下を歩く中、ネオンは沈痛の面持ちを浮かべた。
「ネオンちゃん・・そんなに落ち込んだらダメだって。ほら、スマイル、スマイル♪」
それを見かねたジュンが笑顔を見せる。そのスマイルにネオンは戸惑いを覚える。
「ゴメンね、ジュンちゃん・・頭で分かっていても・・・」
言いかけたネオンの頬を、ジュンが突如手でつかんで引っ張り、無理矢理笑わせようとする。
「ほーら。やっぱりネオンちゃんには笑顔が1番だってー。」
「ち、ち、ちょっとジュンちゃん、ネオンちゃんがかわいそうだって・・」
慌しい様子を見せたクオンに止められるジュン。やりすぎたと思った彼女は、とっさにネオンから手を離す。
「ゴ、ゴメン、ネオンちゃん。別に、悪気があってやったんじゃ・・・」
「ううん、あたしこそゴメンね。ジュンちゃん、あたしを思って・・・」
互いに謝意を見せるジュンとネオン。2人が和解したのを見て、クオンが安堵の吐息をつく。
「とにかく、行くなら行こうよ、2人とも。僕たちだってずっと暇ってわけじゃないんだから・・」
クオンの呼びかけにジュンとネオンが頷く。3人は改めて、ラティのいる病室に向かった。
そしてその病室にたどり着いた3人。ジュンの頷きに促される形で、ネオンが病室のドアをノックした。
「はーい。」
中からの声を受けてから、ネオンはそのドアを開けた。その先には、ベットにいる少女、ラティがいた。
「こんにちは、ラティちゃん。」
「デルタのお兄ちゃんとお姉ちゃんたち・・うん。こんにちは。」
ネオンが声をかけると、ラティが微笑みかけて答える。ネオンは持ってきた花束をラティに見せる。
「ラティちゃん、お見舞いに来たんだけど、お邪魔だったかな・・・?」
「ううん。そんなことないよ。むしろあたしのためにそこまでしてもらって・・・」
ネオンに向けてレティが弁解を入れる。その言葉の直後、ネオンは暗い顔を浮かべた。
「ゴメンね、ラティちゃん・・・あたしのせいで、こんなことになっちゃって・・・」
「ううん、大丈夫だよ・・お姉ちゃんは、あたしを助けてくれたじゃない・・・」
ネオンの謝罪に対し、ラティが物悲しい笑みを浮かべる。感謝はしているものの、自分の身に起きたことが深刻なものであることを痛感しているのも事実だった。
「あら、ラティのお友達・・・」
そこへ1人の女性が病室に入ってきた。ラティの母親である。
母親はジュンたちの姿を目の当たりにして、深刻な面持ちを浮かべた。
「何しに来たのですか・・あなた方のせいで、ラティは・・・」
徐々に憤りをあらわにしていく母親に、ジュンたちは息を呑む。
「あなた方の失態で、ラティの足は・・・」
「申し訳ありません・・あたしたちのせいで、ラティちゃんを危険な目に合わせてしまって・・・」
「今さら謝られても、ラティの足が治りますか!?」
ネオンが謝罪して頭を下げるが、母親の怒りは治まらない。
「帰ってください。2度とここには来ないで・・・あなた方が来ると、私たち悲しい思いをすることになるのですよ・・・!」
母親のこの言葉に逆に憤りを覚えるジュン。だがクオンに制され、彼女は踏みとどまるしかなかった。
「でも、ラティちゃんにお詫びだけでも・・」
「お詫びなんて結構です!出て行ってください!」
ネオンの謝罪をはねつけて、母親が彼女たちを病室から追い出した。追い返した母親が肩を落としてため息をついた。
「ママ、何もそこまでしなくたって・・・」
「ラティ、あなたがこんなことになったのも全部、あの人たちが引き起こしたことなのよ。だから、あなたが気にすることじゃないのよ。」
言いかけるラティだが、母親に言いとがめられてしまう。その言葉に言い返せず、ラティは黙り込んでしまった。
ラティの母親に追い返されてしまったジュンたちは、病院内の休憩所に来ていた。そこにある自動販売機で買ったジュースを口にするも、ジュンはそれを一気に飲み干してしまう。
「あれだけ一方的に追い出されちゃうと、逆に参っちゃうよ・・」
「でもお母さんの気持ちも分からなくないよ・・子供が傷つけられたら、その相手が許せなくなってしまうのは、親として当然のことかもしれない・・・」
ため息をつくジュンに、クオンが深刻な面持ちを浮かべる。するとジュンは物悲しい笑みを浮かべる。
「そうだね・・私のお母さんも、あんな感じになってたかも・・・」
(だからお父さんとの仲が悪くなっちゃったんだよね・・・)
呟きかけると、ジュンは胸中で悲しみの言葉を思い浮かべていた。子供に対する気持ちのすれ違いで、両親であるゴウとケイの関係に陰りができてしまった。そのことがジュンへの苦悩へとつながってしまっていた。
「今はそっとしておくしかないかもしれない。下手に顔を出したら、また混乱してしまう。今度こそ逆鱗に触れることになるから・・」
「クオン・・・うん・・・」
そこへクオンに呼びかけられ、ジュンは沈痛の面持ちを浮かべたまま頷く。
「・・ネオンちゃん・・・」
そこでジュンは、動揺の色を隠せないでいるネオンに眼を向ける。ネオンは愕然となったまま、周りが見えなくなってしまっていた。
「今は帰ろう・・またスクランブルがかかるかもしれないし・・・」
「そうだね・・・」
ジュンの呼びかけにクオンが答え、ネオンも小さく頷いた。
昨日のデルタへの自然保護隊からの通信。デルタの隊員たちは本部に集合。その連絡を受けての行動開始のため、議会を行っていた。
「昨日、自然保護隊から救援の申し出があった。保護地域の警護だ。オレたちもその地点がロアに襲撃されると予測して、その申し出を受けることにした。
ユウキが隊員たちに向けて説明をしていく。
「そこで保護隊に所属している局員2人が、一時的にこのデルタに合流することになった。2人を迎えに行くことになるんだけど・・・」
言いかけてしばし考え込むユウキ。そして唐突にある質問を投げかけた。
「昨夜カレー食ったヤツいるか?」
その突拍子もない質問にジュン、クオン、ネオンが唖然となる。一部の人が嫌々否定の反応を見せる中、挙手したのは明日香とネオンだった。
「よし、分かった。明日香とネオンに迎えに行ってもらおう。」
「は、はぁ・・」
ユウキの奇妙な人選に、ネオンはなかなか疑問符を拭えなかった。
デルタを代表して局員2人を迎えに出た明日香とネオン。2人は空港の展望エリアで待ち合わせることになっていた。
だが明日香は、未だに落ち込んだ様子のネオンを気にかけていた。展望エリアに到着したところで、明日香はネオンに声をかけた。
「まだあのときのことを気にしてるみたいね・・」
明日香の問いかけに戸惑いを覚え、ネオンは素直に頷くことができなかった。
「自分が犯してしまったミスは、なかなか頭や心から離れないものなんだよね・・でもあまり余計に考えることはよくないと思う。傷つけた人にとっても、傷つけられた人にとっても・・・」
「でも、あたしはあの子を、レティちゃんを傷つけてしまった・・母親からも門前払い同然に追い出されて・・・」
「どんな天才にも、ミスのひとつは必ずあるものだよ。誰だって、失敗しないで立派になれることなんてないんだから・・私も、えりなだって・・・」
照れ笑いを浮かべながら口にした明日香の言葉に、ネオンが再び戸惑いを浮かべた。
「あのエースオブエースのえりなさんも、ミスをしたことが・・・?」
「えりなは魔導師や騎士などが覚える体力や技術よりも、仲間との絆を大切に思ってる。それは昔、自分のせいで健一が傷ついてしまったことが大きな理由になってる。」
明日香はネオンに、えりなの過去を語り始めた。
それは2年前のことだった。その日、体調の悪かったえりな。健一は彼女の代わりに任務を買って出た。
だが現場に向かった局員たちは、健一も含めて瀕死の重傷を負った。彼を行かせてしまったことに責任を痛感し、えりなは苦悩の日々を過ごすこととなった。健一が完治したことでその苦痛は解消されたが、えりなにとってこれまでで1番の失敗と思っていた。
それ以来、えりなは孤独をひどく恐れるようになった。これまで抱えていた孤独への嫌悪が顕著になった。その感情は自分だけでなく、周囲に対しても感じるようにもなっていた。
「そんな・・・えりなさんに、そんなことが・・・」
えりなの過去を聞かされて、ネオンは戸惑いを浮かべていた。
「人は失敗を経験して成長するものだよ。その失敗が、その人にとって大きなものになっていく・・」
「失敗が、大きなものに・・・」
明日香からの言葉を受けて、ネオンは困惑する。今気にしている失敗が、自分にとって大きな試練となることを、彼女は痛感していた。
そのとき、明日香とネオンのいる展望エリアが影に包まれた。日の光をさえぎったのは雲でも飛行機でもなかった。
その上空を見上げたネオンが眼を見開いた。そこで彼女は巨大な白き竜を目撃する。
「大胆な登場をしてきたみたいだね。」
その姿に明日香は笑みをこぼしていた。その言葉に疑問を浮かべるネオンが、降下してきた2つの影を目の当たりにする。
降り立ったのは紅い髪の少年と桃色の髪の少女。ネオンと同じ年頃の子供たちだった。
エリオ・モンディアル。騎士を目指して鍛錬に励んでいる。かつて保護施設にいた頃は疑心暗鬼に陥っていたが、周囲からの支えを受けて立ち直っている。
キャロ・ル・ルシエ。世界で数少ない竜召喚士の1人。高い潜在能力を危険視されて一族を迫害されたが、管理局からの保護とエリオとの絆で勇気と優しさを取り戻していった。
コンビで数々の任務をこなすことが多かった2人は現在、自然保護隊に所属。自然保護に尽力を注いでいる。
「久しぶりだね、エリオ、キャロ。チームワークはうまくいってる?」
「えぇ、まぁ。保護隊のみなさんが親切にしてくれて、僕たちも緊張せずにやってます。」
声をかけてきた明日香に、エリオが微笑んで答える。そこで当惑を見せているネオンに眼を向け、エリオとキャロが敬礼を送る。
「はじめまして。自然保護隊所属、エリオ・モンディアル二等陸士です。」
「同じく、キャロ・ル・ルシエ二等陸士です。」
「こちらこそはじめまして。特別捜査部隊デルタ所属、ネオン・ラウム二等陸士です。」
エリオとキャロに続いて、ネオンも敬礼を送って自己紹介をする。その後、上空から白い竜が降下し、キャロに近づいてきた。それは先ほどの巨大なものではなく、肩に乗るほどの小ささだった。
「竜・・竜召喚士なの・・・!?」
「はい。名前はフリードリヒ。私の大切な家族です・・・」
驚きの声を上げるネオンにキャロが微笑み、白き竜、フリードリヒが声を上げる。フリードリヒはキャロの竜魂召喚を経て、巨大な真の姿となるのである。
「3人とも、ここで立ち話もなんだから、本部に行こう。みんな待ってるから。」
「分かりました、明日香さん。」
そこへ明日香が声をかけ、キャロが答えて頷く。4人は空港を後にして、街の道を進んでいた。
「明日香さん、フェイトさんやみなさん、元気にやっているようですよ。」
「うん。私も時々だけど連絡を取ってるよ。」
エリオが声をかけると、明日香も微笑んで頷く。
フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン。時空管理局執務官であり、なのはの親友である。明日香は彼女と仕事をしたことも少なくなく、交流を深めている。
エリオとキャロを保護したのもフェイトである。フェイトはかつて天涯孤独の身になったことがあり、親友、クロノ・ハラオウンの母親、リンディ・ハラオウンの養子となった。これまで宿していた優しさにその恩義が加わり、今の彼女が存在しているのだ。
「フェイトさんは、かつて荒みきっていた私やエリオくんに手を差し伸べてきてくれました。私たちも、フェイトさんが持っているような優しさを持ちたいです・・・」
「そのことなら大丈夫だよ、キャロ。あなたたちにもちゃんと、フェイトさんのような勇気と優しさがあるよ。それに・・」
キャロの感謝の言葉に明日香が言いかける。
「あなたたちの呼びかけで、フェイトさんが勇気付けられたこともあったから・・・」
明日香のこの言葉にエリオとキャロが戸惑いを覚える。
自分の出生に大きく関わる「ジェイル・スカリエッティ事件」と「第二次魔女事件」これらの中、自分の存在意義にさいなまれ、戦うこと、生きることに迷いを抱いてしまったフェイト。そんな彼女に、再び立ち上がる勇気を与えたのは、彼女が救いの手を差し伸べた子供たち、エリオとキャロ。そして自分と似た境遇にある明日香の言葉だった。
自分が勇気を与えた相手から、逆に勇気を与えられることもある。その思いを胸に秘めて、フェイトは事件解決の立役者の1人となった。
「フェイトさん、私にも感謝の言葉をかけてくれた・・“あなたやみんなの気持ちが、私に忘れかけていた本当の強さに気付かせてくれた”って・・・」
明日香の切実に語りかける言葉に、エリオとキャロが微笑んで頷いていた。だがその隣で、ネオンは困惑の色を隠せないでいた。
「あの、どうかしたのですか・・・?」
「えっ?あ、ううん、何でもないよ・・・」
そこへエリオに問いかけられ、ネオンは我に返って答える。ネオンはわだかまりを抱えたまま、デルタ本部に戻ることとなった。
「久しぶりだね、エリオくん、キャロちゃん。」
デルタ本部に到着したエリオとキャロは、早速えりなからの歓迎を受けることとなった。ユウキやリッキーたちからも迎えられ、2人はたまらず頬を赤らめていた。
「エリオ、キャロ、事情は聞いてるよ。次は君たち自然保護隊と連携して、ロアを迎え撃つことになるかもしれない。」
「分かっています。私もエリオくんも協力は惜しみません。」
「ですが、みなさんの力をある程度把握しておきたいです。連携をとる上でも重要になってきますし。」
ユウキが言いかけると、キャロとエリオが答える。その言葉を聞いて、ユウキはえりなたちに眼を向ける。
「だったらちょっと拝見してみるといいよ。えりなたちはこれから訓練だろ?エリオとキャロも付き添ってあげるといい。」
「ユウキさん・・・分かりました。エリオくん、キャロちゃん、よろしくね。」
ユウキの呼びかけを受けて、えりながエリオとキャロに言いかける。
「さて、今回はいつも以上に気合を入れないと。小さな騎士と召喚士にかっこ悪いとこは見せらんねぇからな。」
「今回は僕も見学させてもらうよ。ちょっと趣向が違うから、ケガがあったらいけないからね。」
健一とリッキーが続けて言いかける。そしてジュンとクオンが、エリオとキャロに向けて敬礼を送る。
「特別捜査部隊デルタ所属、春日ジュン二等空士です。」
「同じく、クオン・ビクトリア二等陸士です。」
自己紹介をしてから、クオンはエリオと、ジュンはキャロと握手を交わす。若き魔導師と騎士の新たなる結束を、クラウンたちが拍手で祝福する。
「それじゃみんな、早速始めるよ。」
「はいっ!」
えりなの呼びかけにジュンたちが答える。小さいながらも強さを秘めた2人の戦士が今、戦列に加わることとなった。
時空管理局との戦いにおいて拮抗状態にあるロア。その中で度重なる敗北を喫しているギーガは、苛立ちを隠せなかった。
(もう誰だろうと容赦しねぇ・・全員オレが叩き潰してやるぞ・・・!)
「虫の居所が悪いようですね、ギーガ。」
胸中で憎悪をたぎらせているギーガに、ローグが声をかけてきた。
「悪ふざけはやめとけよ、ローグ。今のオレは仲間だろうが容赦しねぇぞ・・・」
「その怒り、私の指定する場所にぶつけてみてはいかがですか?」
突き放す言い方をするギーガに、ローグが淡々と言いかける。その言葉にギーガが眉をひそめる。
「KS163地点にある人造魔導師研究所。現在は跡地になっているように思われていますが、地下にはその施設が顕在しています。」
「そこを破壊しろっていうのか?・・何でもいいさ。憂さ晴らしができるならな!」
ローグの言葉にギーガが歓喜の笑みを浮かべる。
(あのような場所は私のような者にとっては忌むべき場所。忌まわしき過去は、早々に排除してしまうのが理想的というもの・・・)
「シグマたちとは話をつけてあります。明朝に出撃しましょう。万全の体勢の中、存分に力を使うのが理想的でしょう。」
思考を巡らせた後、ローグがギーガに言いかける。ギーガが渋々納得したのを確かめてから、ローグはこの場を後にした。
シグマにもう1度話をしようとしていたローグだが、途中でマコトに声をかけられた。
「ローグ・・あの研究所への襲撃だけど・・僕も行かせてもらえるか・・・?」
「マコト・・・」
マコトの申し出にローグが眉をひそめる。だがすぐに真剣な面持ちを浮かべて、ローグはマコトに言いかける。
「残念ですが、作戦は既に構築されています。それに、あのような施設は、あなたのような人には耐え難い苦痛をもたらす場所なのですよ。」
「だけど、それならローグ、お前だって・・・!」
「この因果を断ち切るのはあなたよりも私が適任です。それに実際に破壊行為を行うのはギーガの役目です。」
声を荒げるマコトに言いとがめて、ローグは小さく頷く。マコトは反論することができず、困惑を浮かべる。
「君の気持ちは私も分かります。ですが、私があなたたちのことを考慮していることも、理解してください・・・」
「ローグ・・・」
ローグの切実な言葉を受け入れて、マコトは小さく頷いた。
「あなたもレイも優しい人です。その優しさが、真の平和をつかみ取る上で欠かせないキーポイントとなります。」
「そういってもらえると嬉しいよ・・・ありがとう、ローグ・・・」
ローグの言葉を受けて、マコトが照れ笑いを浮かべる。2人は真剣な面持ちを浮かべて、小さく頷きあう。
「だけどローグ、危なくなったら僕たちに頼ってよね。君だって1人じゃないんだから・・・」
「分かっています。あなたたちの力が必要なときには、あなたたちを頼りにしますよ。」
マコトとの信頼を確かめ合った後、ローグは歩き出してた。仲間たちの信頼に後押しされて。
エリオとキャロの現在の力を直に確かめようと、模擬戦を行うえりなと明日香。槍型アームドデバイス「ストラーダ」を振るうエリオと、ブーストデバイス「ケリュケイオン」を駆使するキャロの力は、ブレイブネイチャーとウンディーネ、ブーストデバイス「カドゥケウス」に勝るとも劣らなかった。
「成長期っていうんだろうな。エリオもキャロも、この半年間でレベルがかなり上がってる。」
4人の戦闘を見て、健一が感心の声を上げる。
「自然保護隊の任務をこなす一方で、騎士や召喚士の鍛錬を続けてたそうだから。」
リッキーがそれに答えて、4人の姿に眼を向ける。互いの力量をある程度把握したところで、えりなたちは手を止めた。
「すごいね、エリオくんもキャロちゃんも。伊達になのはさんやフェイトさんに鍛えられてないってことだね。」
「そんな。僕なんてまだまだですよ・・」
えりなに褒められてエリオが照れ笑いを見せる。
「えりなさん、明日香さん、ジュンさんたちと模擬戦をさせてください。いろいろと作戦を立てやすくなると思いますから。」
「そうね。でも少し休憩を挟んでからのほうがいいよ。今、ちょっと張り切りすぎたから・・」
キャロの申し出に明日香が微笑んで答える。ジュンたちとエリオたちの模擬戦は、小休止を挟んでからとなった。
「かつての起動六課のフォワードメンバー2人が相手か・・ちょっと緊張してきちゃうなぁ・・」
クオンがエリオとキャロとの対戦に対して、苦笑気味に言いかける。するとジュンがいぶかしげな態度を見せる。
「何言ってるのよ、クオンくん。いくらすごい部隊にいたからって、私たちと年が変わんないじゃない。」
「そうはいうけどね、ジュンちゃん。エリオくんもキャロさんも、スカリエッティ事件や第二次魔女事件での立役者の2人なんだから。高いポテンシャルと爆発力、それに竜召喚というレアスキル。それだけでも侮れないよ。」
「大丈夫だって。私たちだって頑張ってきてるんだよ。どんなに厚い壁でも、突破できないことはないんだから!」
クオンに向けて檄を飛ばすジュン。その激励に触発されて、クオンは落ち着きを取り戻して頷く。
「そうだね・・僕たちだって、厳しい訓練や辛い任務をやってきたんだから。やってやれないことはないよね・・」
「その意気だよ。私たちだっているんだってこと、あの2人にアピールしようよ。」
ジュンはクオンに頷きかけると、ネオンに振り返る。だがネオンが落ち込んでいるように思えて、ジュンは当惑を覚える。
「ネオンちゃん、大丈夫?」
「えっ・・・?」
ジュンに声をかけられて、ネオンは我に返って生返事をする。
「大丈夫?具合が悪いようだったら休んだほうがいいよ。模擬戦は私とクオンくんでやってみせるから。」
「う、ううん、大丈夫。あたしだって負けないんだからね。エリオくんやキャロさん、ジュンちゃんやクオンちゃんにも。」
ジュンに呼びかけられてネオンが笑顔を見せて頷いてみせる。だがクオンには、それが空元気に思えてならなかった。
「クオンくん、エリオくんとキャロちゃんはどういう戦い方をするの?」
「うん。エリオくんは槍型デバイス、ストラーダによる突進と斬りを重視した戦術。電撃魔法もうまく使ってくるよ。キャロさんは火竜、フリードリヒへの竜召喚を始めとした召喚魔法がメイン。サポートが多いけど、フリードと一緒に前線に出てくることもあるよ。」
「なるほど。相手にするにはいろいろと厄介になってくるね。」
クオンの説明を聞いて、ジュンが緊張感を募らせる。だが同時に期待に胸を躍らせていた。
「それじゃ行こう、クオンくん、ネオンちゃん。私たちの訓練の成果を、あの2人に見せてあげよう。」
ジュンの呼びかけにクオンとネオンが頷く。3人が擬似フィールドにて現れた市街に降り立つと、エリオとキャロも彼らの前に立った。
「私たち、負けるつもりでやったりしないからね。」
「僕たちもですよ。僕たちの力が、あなた方のためになれるなら・・」
互いに言葉を掛け合って握手を交わすジュンとエリオ。そこへえりなが頷き、彼らに声をかける。
「それじゃみんな、行くよ。」
その呼びかけを模擬戦開始の合図として、ジュンたちとエリオたちが散開する。まずジュンが先陣を切り、エリオがその打撃を迎え撃つ。
「フレイムスマッシャー!」
「ストラーダ!」
ジュンが繰り出したフレイムスマッシャーの一撃と、エリオが振りかざしたストラーダの一閃。衝突と同時に火花が散り、その反動で2人が突き飛ばされる。
すかさずジュンの背後から、スクラムを手にしているクオンが飛び出してきた。エリオを狙ってスクラムを振り上げるクオンだが、キャロの放った旋風「ウィングシュート」に行く手を阻まれる。
「フリード、ブラストレイ!」
キャロの指示を受けて、フリードリヒが火球を放つ。
“Frame smash.”
その火球に対して、ジュンが拳を繰り出して迎撃する。火球を吹き飛ばしたものの、キャロの魔法と召喚術の前に攻め手を欠いていた。
(攻めも守りもすごい。1人で突破するには骨が折れるかも・・・ネオンちゃん、キャロちゃんに向けて撃って。私がその隙を突くから。)
思考を巡らせたジュンがネオンに呼びかける。その念話を聞いて、ネオンが無言で頷く。
「あたしもやらなくちゃ。あたしだって、やれば何だってできるんだから。」
ネオンは自分に言い聞かせてから、2機のレールストームを握り締める。彼女は構えて、ジュンを見据えているキャロに狙いを定めた。
そのとき、ネオンの脳裏にラティの悲鳴が響いてきた。その声に彼女は眼を見開く。
“2度とここには来ないで・・・あなた方が来ると、私たち悲しい思いをすることになるのですよ・・・!”
続けてラティの母親の怒りの言葉がよぎってきた。その声が、ネオンの戦意と決意を大きく揺さぶった。
「ネオンちゃん・・・!?」
ネオンの異変にジュンがたまらず彼女のいるほうに振り返る。ジュンの眼に、うずくまって震えているネオンの姿が飛び込んできた。
その異変にクオンだけでなく、エリオとキャロ、えりな、明日香、健一が緊迫を覚える。
「ネオンちゃん、どうしたの!?ネオンちゃん!」
「あたし・・・あたしは・・・!」
ジュンが呼びかけるが、ネオンは怯えきってしまっており、周りからの声が聞こえていない。
「中断だ!ネオンを保護するんだ!」
そこへ健一が呼びかけ、ジュンとクオンがネオンに駆け寄る。エリオとキャロも不安の色を隠せなくなっていた。
「ネオンちゃん!しっかりして、ネオンちゃん!」
ジュンの必死の呼びかけも、混乱しているネオンに届かない。結局、ジュンとクオンはリッキーとともに、ネオンを医務室に連れて行くこととなった。
ラティへの誤射から生じた崩壊。それはネオンの勇気の瓦解につながっていた。
次回予告
壊れていく勇気。
誤射での恐怖が、ネオンの心を重く沈めてしまっていた。
彼女に向けて、えりなが語りかける言葉とは?
少年少女の心は、勇気を呼び覚ますことができるのか?
絆の強さが、奇跡を呼ぶ・・・