魔法少女エメラルえりなVersuS

第6話「ロアの猛攻」

 

 

正義と復讐。

それは悲劇、決意、勇気が引き金となったもの。

 

過激になっていく双方の衝突。

力よりも心が折れたほうが押される戦い。

 

巻き込まれていく人々。

無関係な人たちをこの戦いに巻き込めない。

その気持ちの向かう先は・・・

 

魔法少女エメラルえりなVersuS、始まります。

 

 

 新暦76年10月21日

 

 この日もジュンたちはえりなたちが課す訓練に明け暮れていた。最近は健一、明日香も加わっての個別の指導が多くなり、細部にまでこだわる傾向になりつつあった。

 剣術重視の訓練を健一から課されるクオン。遠距離、多面的な戦術を重視した訓練を明日香から受けるネオン。総合的な訓練をえりなから受けているジュン。

 それぞれのスタイルに合った訓練によって、3人の総合能力は飛躍的に増強していった。

 そしてその日の訓練が終了した後の小休止のときだった。3人は食堂にてミックスピザを頬張りながら、話をしていた。

「ふぅ。今日も疲れちゃったよ〜・・」

「でも本当に飛躍していってるよ。僕たちの力。」

 大きくため息をつくジュンに、クオンが微笑んで言いかける。

「そうはいうけど、私たち以外のメンバーのレベルと比べたら、月とスッポンだって丸分かりだって。」

「比べるものさしが悪すぎるよ。このデルタは選りすぐりのメンバーで構成されてるんだから。」

「しかもレアスキル所持者もいるみたいだよ。たとえば、神楽隊長とか。」

 ジュンとクオンに続いてネオンも言いかける。

「レアスキルにエースオブエース、それ以外にもSクラスの魔導師や騎士ばかり・・」

「そんな人たちのいるところにあたしたちがいるなんて、場違いというか何というか。」

「何いってるのよ、2人とも。私たちだっていつかはそのくらい、もしかしたらそれ以上の局員になれるって。諦めたらそれ以上成長しなくなっちゃうって。」

「ジュンちゃん・・そうだね。僕たちだってまだまだ発展途上なんだ。やれると信じてやらなきゃ、本当にそれまでだよ。」

「そういうこと。私もまだまだ負けるつもりはなにんだからね・・」

 話を盛り上げていく中で皿にあるピザを手に取ろうとしたジュン。だが既に皿の上にピザがない。

 一瞬きょとんとなったジュンが視線を移すと、ネオンがピザを手に取っていた。ピザは6つに切り分けられ、ネオンは既に2切れを口にしていた。

「ネオンちゃん、ちょっと!それはないでしょ!2切れずつだって言ったじゃない!」

 ジュンが不満を口にして、ネオンに手を伸ばす。

「がつかないでよ!」

「いいじゃなって。」

 ジュンはネオンからピザを奪い返すと、そのまま口に入れた。

「やれやれ、2人とも。大人気ないよ。」

「それ矛盾してるよ、クオンくん。あたしたち子供じゃない。」

 呆れて言いかけるクオンに、ネオンが悪びれる様子を見せずに答える。一気にピザを口に入れたジュンの頬は膨らんでいた。

 

 同じ頃、えりな、健一、明日香、玉緒も束の間の休息を取っていた。その間にえりなは、ジュンたちのデータを記した表に眼を通していた。

「へへ。お前も教導官として様になってきたじゃねぇの。」

 そこへ健一が気さくな笑みを見せてきた。

「私もいろいろと考えてやってるんだけど、うまくいってるのかどうか、自信を持って断言できないんだよね・・」

「その気持ちも分からなくねぇけど、どっかで割り切らねぇとやり取りに困るときが出てくるぞ。」

「それは分かってるんだけど・・・」

 健一が言いとがめるが、えりなは不安を消さない。そこへ明日香が微笑みかけて言いかける。

「えりなは今まで学んで、戦技教導官になったわけなんだから。だから自信を持ってやっていけばいいよ。」

「そうだよ。えりなちゃんは先生なんだから、ちょっと威張ってたほうが丁度いいって♪」

 明日香に続いて玉緒が明るく言いかける。その励ましに後押しされたかのように、えりなが笑みを取り戻す。

「ありがとう、みんな・・私、何だか勇気が湧いてきたよ♪」

「その意気、その意気。えりなはちょっと生意気になってるぐらいが丁度いいんだって。」

「健一に言われたくないわね。」

 からかってくる健一をえりなが軽くいなす。2人のやり取りに明日香と玉緒が笑みをこぼしていた。

 

 時空管理局に対して次の襲撃を練り上げようとしていたロア。その中でマコトがミッドチルダ首都、クラナガンを見据えていた。

(管理局・・必ず僕たちがお前たちを倒して、ホントの平和を取り戻してやる・・・)

「そんなに気負っていると体に毒よ。」

 決意と憎悪を募らせていたところで、マコトが声をかけられる。振り返った先には、白髪の少女がいた。

 ジュリア・ファミリア。ロアの一員であり、マコトと同じ戦闘機人として改造された人間である。名前以外の記憶を失くしており、同じ境遇にあるレイを気にかけている。

「レイちゃんは休んでいるようね。聞いた話、今度はレイちゃんも戦うみたいだけど・・」

「僕も反対したけど、全然聞かなくて・・僕もレイには頭が上がらなくてね・・」

 言いかけるジュリアの言葉に、マコトが照れ笑いを浮かべる。だがマコトもジュリアもすぐに真剣な面持ちを浮かべる。

「次は私とマコト、レイちゃん、シグマさん、ギーガが先陣を切ることになる。ローグはデータ収集に専念するそうよ。」

「そうか・・ローグのデータにはホントに感謝してるからね・・・」

 ジュリアの言葉にマコトが頷く。そこへシグマが現れ、2人に呼びかけてきた。

「話をまとめて伝達しておきたい。2人とも集まってきてくれ。」

 シグマの言葉にマコトとジュリアが頷く。

「ところで、今度の攻撃場所はどこなんだ?」

「あぁ。集まったときに話そうと思ってるのだが、ここでも話しておこう。今度の攻撃場所は、時空管理局教官隊訓練場だ。」

 マコトの問いかけにシグマが答える。それを聞いて、マコトは眼つきを細めていた。

 

 新暦76年10月22日

 

 この日はジュンたちは訓練を課されてはいなかった。休息も訓練のうちというのがえりなたちの見解だった。

 だが訓練はなくとも、データ整理や報告書作成はいつものようにあった。その作業にジュンとネオンは頭を抱えていた。

「ハァ・・こういう頭を使う作業は難しいよ・・」

 作業に難航しているジュンが大きくため息をつく。その隣でクオンは淡々と作業を進めていた。

「こういうのがよくこんなに早く進められるよね、クオン・・」

「魔導師や騎士は力だけでなく、頭もよくなくちゃいけないからね。そういうことで滅入ってたら先が思いやられるよ。」

 うらやましそうに視線を向けてくるジュンに、クオンがキーボードを操作しながら答える。

「もー、何だかエラソーじゃないのよ、クオンー・・」

 ジュンがふくれっ面を浮かべて、クオンの手元をじっと見つめる。ネオンはとうとう難しさを感じて眼を回していた。

「おやおや。みなさん、お悩みのようですね。」

 そこへリーザが現れ、ジュンたちに優しく声をかけてきた。

「リーザ査察官・・」

 ジュンたちが立ち上がり、リーザに敬礼を送る。

「いいえ。気にしなくていいですよ。あなたたちの成長と活躍は耳にしていますから。」

 リーザは微笑んで弁解を入れると、ジュンたちは促されるままに着席する。

「ですが、人は誰でも、人生で1度は正念場を経験するものです。」

「正念場、ですか・・」

「はい。その正念場で、その人の本当の強さが試されることになるのです。いつどこで、どのような形でやってくるのか、誰にも分かりません。ですが・・」

 リーザは真剣な面持ちで語りかけると、当惑を見せるジュンの肩に手を添える。

「自分らしさを常に持っていれば、その試練を乗り越えることができます。」

「リーザさん・・・」

「自分を信じましょう。私は、いいえ、あなたたちを支えているみなさんは、あなたたちを信じていますから・・」

 リーザはジュンたちに励ましの言葉をかけると、笑顔を見せてからこの場を立ち去った。

 

 時空管理局教官隊訓練場。そこでは武装隊が教官の課す訓練を受けていた。

「よしっ!次は2組に分かれての模擬戦だ!疲れているときこそ基礎が活かされてくるのだ!」

「はいっ!」

 教官の呼びかけに局員が答える。局員たちが2組に分かれて、模擬戦の準備を行おうとしたときだった。

 そこへ1人の少女が訓練場に入り込んできた。その少女に局員が眉をひそめ、教官がいぶかしげに駆け寄る。

「ほら、ダメダメ。お譲ちゃん、ここは危険だから、入ってきたらダメだよ。」

 教官が呼びかけるが、少女はこの場から離れない。

「レイ、おじさんたちをやっつけに来たの。」

「えっ・・・?」

 少女、レイの言葉に教官が眉をひそめる。その直後、レイからまばゆい閃光がほとばしった。

「何っ!?

 驚愕し不意を突かれた教官が、その閃光に巻き込まれて吹き飛ばされる。周囲にいた局員たちが、たまらず各々のデバイスを手にして身構える。

「レイは傷つけさせないぞ、お前たち!」

 そのとき、局員たちのいる場所の真ん中で爆発が起こる。飛び込んできたマコトが地面を殴り、吹き飛ばしたのだ。

「も、もしかしてコイツら!?

「ロアか!?

 声を荒げる局員たちに向けて、マコトが打撃を繰り出す。その攻撃に局員たちがなす術なく突き飛ばされていく。

「レイ、大丈夫か!?

「うん・・レイなら全然大丈夫だよ・・」

 マコトの心配の声にレイが微笑んで頷く。

「お姉ちゃん、レイも戦うよ。みんなが幸せになれる世界を作るために・・・」

「レイ・・分かった!やろう!」

 レイの言葉にマコトが頷く。同時にシグマ、ギーガ、ジュリアが降り立ち、本格的な攻撃を開始した。

「今度こそ叩き潰してやる・・ぐうの音も出ないほどにな!」

 いきり立ったギーガが、迎撃体勢を見せた局員たちに向かって飛びかかっていった。

 

 新たなるロアの襲撃の知らせを受けたデルタの本部に警報が鳴り響く。状況の把握に努めるユウキたちのいる司令室にえりな、健一、明日香、玉緒が駆けつけ、続いてジュン、クオン、ネオンもやってきた。

「何があったんですか!?

「教官隊の訓練場がロアに襲われた。周囲にいた武装局員が迎撃に出てるが、その勢いを止められない・・」

 問いかけるジュンにユウキが説明を入れる。ロアの猛攻にジュンが歯がゆさを覚える。

「ユウキさん、私たちが行きます。ロアを止めなくちゃ・・!」

「それなら私たちが先行する。」

 ユウキに声をかけたえりなに呼びかけたのは、本部に帰還していたヴィッツだった。隣にはアクシオとダイナの姿もあった。

「この前は出番はなかったけど、今度は先陣を切らせてもらうからね。」

 アクシオが自信を込めた笑みを浮かべて言いかける。その言葉を受けて、ユウキが頷く。

「よし。ヴィッツ、今回はお前と仁美で現場の指揮を執れ。アクシオとダイナも、一緒に先行するんだ。」

「了解。」

「任せといて!」

 ユウキの指示を受けてヴィッツとダイナが答え、アクシオも笑みを見せて頷く。

「その後はジュン、クオン、ネオン、お前たちの出番だぞ。」

「はいっ!」

 ユウキの呼びかけにジュンたちが答える。新生デルタの戦いの幕が、再び上がろうとしていた。

 

 ロアの襲撃によって混乱に満ちた訓練場。武装局員が迎撃を試みるが、ロアの猛攻を止めることができないでいた。

「ケッ!こんなザコばっかじゃ話にならねぇ!やっぱあの坂崎えりなじゃねぇと気分が乗らねぇ!」

「だからあなたじゃ荷が重過ぎるのよ、ギーガ。」

 不満をあらわにして地面を蹴るギーガにジュリアが言いとがめる。

「そろそろ増援がやってくるぞ。おそらくはあのデルタだろう。」

「デルタ?望むところだぜ。今度こそオレがアイツを!」

 シグマの呼びかけを受けて、ギーガが不敵な笑みを浮かべる。マコトもレイを守るようにして、局員の増援に対して身構える。

 そこへやってきたのは金、蒼、紅の魔力の光。ヴィッツたち三銃士だった。

「あれは、三銃士か・・・!」

「三銃士?」

 シグマの声にマコトが眉をひそめる。彼らの前の上空でヴィッツたちが止まる。

「時空管理局特別捜査部隊、デルタだ。お前たち、これ以上の暴挙は許さん。全ての武装を解除し、こちらの指示に従ってもらおう。」

 ヴィッツが呼びかけるが、それに易々と聞き入れるロアではなかった。

「坂崎えりながいねぇみてぇだが・・アイツらでもやりがいは十分ありそうだな!」

 眼を見開いたギーガがヴィッツたちに飛びかかる。彼が繰り出した拳を、ダイナの振りかざしたブレイドデバイス「ヴィオス」が受け止める。

「こっちの言葉を聞く耳は持たないか・・不本意だが、力をもって拘束するしかないようだな!」

 戦意を強めたダイナがヴィオスに力を込めて、ギーガを弾き返す。ギーガは体勢を立て直して、地面に衝突する前に踏みとどまる。

「やっぱすげぇ。かなりのパワーがあるぜ・・けどな!」

 笑みを強めたギーガが再度ダイナに飛びかかる。

「スピードと突進力ならこっちのほうが・・!」

 旋回を織り交ぜて攻撃を繰り出そうとしたギーガ。だがダイナは翻弄されることなく、ヴィオスを振りかざしてギーガをなぎ払う。

(な、何っ!?

 動きさえも見抜かれたことに驚愕するギーガが、力なく落下していく。

「速さで翻弄してこようとも、お前の殺気に満ちあふれたお前の魔力など、手に取るように分かる。」

 淡々と言いかけるダイナの眼下で、ギーガが訓練場を隔てる金網に突っ込み、その先の坂を転げ落ちる。

「ギーガ!・・くっ!アウトランナー!」

 毒づいたジュリアがローラーブーツ型インテリジェントデバイス「アウトランナー」に呼びかける。足の先からひざの下の部分にかけて光刃を発したアウトランナーの前進を受けて、ジュリアが飛びかかる。

「ジュリア!くっ!攻を焦りおって!」

 毒づいたシグマも飛び出し、マコトもそれに続く。向かってくるジュリアと2人を、アクシオ、ダイナ、ヴィッツが迎撃に出る。

「ここで食い止めるぞ!周囲に被害を出してはならない!」

 ヴィッツがアクシオとダイナに呼びかけると、ブレイドデバイス「ブリット」を振りかざし、マコトを迎え撃つ。

「レイ、お前はギーガを連れてここを離れるんだ!お前の力なら、誰も近づくことはできない!」

「うん・・・」

 マコトの呼びかけにレイが頷く。レイはギーガを追って、交戦の場を離れる。

「逃がさない!」

 それに気付いた仁美がレイを追う。だがレイも気付いてチェーンバインドを繰り出してきた。

 光の鎖に行く手を阻まれ、後退するしかなかった仁美。その間にレイがギーガのところへ向かっていった。

 レイのことに気付いていたヴィッツたちだが、マコトたちの猛攻を食い止めるのに手一杯だった。

 

 ヴィッツたちとロアの激闘をモニター越しに見ていたユウキたち。一進一退の状況を察して、ユウキは指示を出す。

「よし。ジュン、クオン、ネオン、出動だ!」

「はいっ!」

 ユウキの指示を受けてジュンたちが答え、駆け出す。

「えりなたちは街の守りに徹してくれ。お前たちが育ててきたあの子たちなら、どんなことだって乗り切れる。」

「分かりました。私たちも行きます!」

 ユウキの呼びかけにえりなたちが頷き、続いて飛び出していった。

(オレだけじゃない。みんながお前たちを信じてくれているのだから・・・)

 仲間たちに向けて信頼を送るユウキが、現状打破のために思考を巡らせていた。

 

 ヴィッツたちの救援に向かうべく、街を駆けていくジュンたち。ジュンとクオンが先行し、ネオンが遠距離からの援護に徹することとなった。

(ネオンちゃん、私とクオンくんがロアを追い詰めるから、そこを狙って。)

(任せて、ジュンちゃん。クオンくんと、うまくサポートし合ってね。)

 ジュンの念話にネオンが答える。クオンと頷きあったところで、ジュンはスピードを上げた。

“エリア316にロアのメンバー2人が移動中。”

 そこへルーシィの連絡が入る。ジュンは意識を集中して、その地点の方向へ意識を傾ける。

(見つけた!)

 ジュンは移動する2つの魔力を感じ取った。

「急ぐよ、クオンくん!遅れないでよね!」

「僕も君の速さには負けないよ!」

 ジュンの呼びかけにクオンが答える。ロアの暴挙を食い止めるべく、彼らは全身全霊を賭けようとしていた。

 

 負傷したギーガを連れて戦場から離れていくレイ。だが苛立ちをあらわにしたギーガが、レイの支えを振り払う。

「余計なことをするな、ガキ!オレはこんなことでいちいち尻尾巻くわけにはいかねぇんだよ!」

「ダメだよ。レイ、あなたをポルテのところに連れて行くから・・」

 言い放つギーガだが、レイは考えを変えようとしない。

 そのとき、ギーガは接近する魔力を感じ取り、そのほうへ振り返る。

「きやがったか・・ガキはすっこんでろ!アイツらはオレの獲物だ!」

 ギーガはレイを突き飛ばすと、近づいてくる魔力に向かって飛翔していった。その彼の視界に、空を駆けてくるジュンの姿が飛び込んできた。

「何だよ、ひよっこか。せいぜい退屈させないでくれよな!」

 いきり立ったギーガがジュンに向けて拳を繰り出す。ジュンも右手を握り締めて、攻撃を繰り出す。

 衝突する2つの攻撃によって轟音が鳴り響く。眼を見開くギーガと、負けじと力を込めるジュン。

Frame smash.”

 フレイムスマッシャーが魔力を収束させ、爆発を起こす。その衝撃でギーガとジュンが吹き飛ばされる。

 ジュンと違い、疲弊していたギーガには、衝撃での体への負担が異なっていた。

「くっ!このガキ、見た目から考えられない力を持ってやがる・・・!」

 ジュンの底力に毒づくギーガ。そこへクオンが現れ、着地したジュンの隣に立つ。

「ジュンちゃん、大丈夫?」

「うん。私なら平気。」

 クオンの呼びかけにジュンが答える。クオンはスクラムを構えて、ギーガを見据える。

「観念するんだ。今のお前に、僕たちと戦うだけの力も残ってないはずだ。」

「言ってくれるじゃねぇかよ・・オレをなめるな、ガキども!」

 クオンの忠告を聞かずに、ギーガが再び飛びかかる。クオンも迎え撃ち、スクラムを振りかざす。

Gravity slash.”

 クオンの重みのある一閃が、ギーガの打撃をぶつける。その威力に跳ね除けられ、ギーガが押される。

(くっ!このオレが押されるだと!?そこまでオレが消耗してるっていうのかよ・・!?

 自分の劣勢に歯がゆさを覚えるギーガ。だが敗北は彼にとってこの上ない屈辱だった。

(このままじゃ済まさねぇ・・必ずコイツらに眼にものを・・そして今度こそ、坂崎えりなを・・・!)

 いきり立つギーガは、いつしか手段を選ばなくなっていた。そのとき、彼の眼に、混乱の中で逃げ出そうとする1人の少女の姿が映った。

 不敵な笑みを浮かべたギーガが駆け出す。ジュンとクオンも逃がすまいと彼を追う。

 だがその少女を捕まえたギーガを目の当たりにして、ジュンとクオンがたまらず足を止めた。

「しまった!」

「ハハハハ!形勢逆転だな!コイツが痛い目にあいたくなかったら、デバイスを捨てて大人しくしろ!」

 クオンが声を荒げる前で、ギーガが哄笑を上げる。少女は怯えるあまり、悲鳴を上げることもままならなくなっていた。

(僕とジュンちゃんが下手に動けば、アイツは女の子を傷つけかねない・・・ネオンちゃん、君があの子を助けるんだ。)

 思考を巡らせた後、クオンが建物の陰に身を潜めているネオンに呼びかける。

“あたしがあの子を!?”

(今、アイツに気付かれていないのは君だけだよ。僕とジュンちゃんでアイツの気を引き付けるから、君はレールストームでアイツを撃ち抜くんだ。)

 当惑の声を上げるネオンにクオンが呼びかける。その強い信頼を受けて、ネオンは頷いた。

“分かったよ、クオンくん。ジュンちゃんもうまくお願い。”

 ネオンの言葉にクオンだけでなく、ジュンも小さく頷いた。2人はネオンの狙撃を成功させるため、ギーガの注意を自分たちに引きつけることに専念した。

 

 クオンの信頼を受けて、物陰からギーガを狙うネオン。ギーガと人質の少女の動きに注意して、彼女はレールストームを構える。

(ここから正確に相手だけを狙うには、レールモードしかない・・)

 ネオンは胸中で成功の筋書きを行っていた。

 レールストームの遠距離形態「レールモード」は、2機をひとつに連結させることで、長距離、大出力の射撃、砲撃を可能とする。

「レールストーム、レールモード。」

 ネオンは呼びかけると、レールストームを合わせる。2機のデバイスがひとつに連結し、レール砲の形状となる。

 ネオンは「レールモード」となったレールストームを構え、ギーガを狙う。

(落ち着け・・落ち着いてやれば、絶対に当てられる・・えりなさんや明日香さんたちからの訓練を受けてきたあたしたちに、できないことなんて何も・・)

 自分に言い聞かせて、冷静さを保とうとするネオン。だが思考を巡らせるほどに、彼女は焦りを覚え始めてしまっていた。

(ダメだって、そんな気持ちじゃ!今は眼の前のことに集中しなくちゃ。)

 押し寄せる迷いを振り切って、ギーガへの狙いに意識を傾けるネオン。そしてギーガがジュンとクオンに向けて、攻撃の手を加えようとした。

(今!)

「レールバースト!」

 ネオンが射撃のチャンスを見出す。だがそのとき、ギーガが彼女が狙っていることに気付き、視線を向けてきた。

(えっ!?

 その瞬間に虚を突かれたまま、ネオンがレールストームの引き金を引く。一条の光が銃口から放射され、一直線に伸びていく。

 だがその射撃は、狙っていたギーガではなく、人質となっていた少女の左足をかすめた。

「イタッ!」

 光の当たった足に痛みを覚えて、少女が悲鳴を上げる。反射的に座ろうとする彼女にもたれかかられ、ギーガはたまらずその場を離れる。

「くそっ!」

 毒づきながらスクラムを振りかざし、一閃を放つクオン。だがそれがギーガに命中することはなかった。

「君!」

 ジュンがうずくまっている少女に駆け寄る。少女は傷ついた足を押さえて、苦しみのため涙を浮かべていた。

「まさか、こんなことになるなんて・・・」

 この事態に一瞬愕然となりながらも、クオンはデルタ本部に連絡を入れる。

(デルタ本部、こちらクオン!ロアに人質にされていた少女が負傷!救援願います!)

“負傷!?・・了解!リッキーくんをそっちに行かせるから、応急措置をお願い!

 クラウンからの答えを受けて、クオンが頷く。

「すぐに応急措置をする!そしたらジュンちゃんはこの子を連れて医療局へ行って!リッキーさんも向かってるから!」

 クオンはジュンに呼びかけながら、少女への応急措置を始める。

(ネオンちゃん、君は逃げたロアを・・!)

 クオンが念話でネオンに呼びかけるが、彼は彼女に異変が起きていることに気付いた。

 ネオンは恐怖を膨らませて体を震わせていた。誤射してしまったことに、彼女は後悔の念を強く感じていた。

「あたし・・わたしは・・・!?

 自分のしてしまったミスに動揺し、ネオンは完全に周りが見えなくなってしまっていた。

 

 一進一退の攻防の続くヴィッツたちとロアの戦い。その最中、マコトはレイからの念話を聞いて、攻撃の手を止める。

(シグマ、レイとギーガが追い詰められてる!)

(何っ!?

 マコトからの念話にシグマが毒づく。ダイナが突き出してきたヴィオスをかわすと、シグマは仲間たちに呼びかける。

「全員撤退だ!先に引き上げたレイとギーガと合流する!」

「シグマ!?

 シグマの指示にジュリアが声を荒げる。

「我々の攻撃で、若干ながら管理局の訓練に支障が出たはずだ。深追いをしても逆効果になるだけだ。」

「シグマ・・・分かったわ。マコト、今日はここまでよ。」

 シグマに言いとがめられて納得したジュリアが、マコトとともに撤退を始める。

「逃がさんぞ!雷刃波!」

 それを放っておくまいと、ヴィッツがマコトに向けて光刃を放つ。だが割り込んだシグマが振りかざしたスティードの一閃で、その光刃が粉砕される。

「くっ!」

 力押しされたことに毒づき、迂闊に追撃ができなくなるヴィッツ。マコトとジュリアが見えなくなったところで、シグマもきびすを返して急速でこの場を後にした。

「もー、このまま逃がさないって!」

「待て、アクシオ!」

 不満を浮かべながらシグマたちを追いかけようとしたアクシオを、ヴィッツが呼び止める。

「だけど、ヴィッツ・・!」

「深追いしても返り討ちにされるだけだ。それに・・こっちもいい状況とはいえない・・・」

 歯がゆさを見せるアクシオに呼びかけながら、ヴィッツは深刻な面持ちを浮かべていた。その心境を察しながら、アクシオはジュンたちへの連絡を行う。

(ジュン、クオン、ネオン、大丈夫?ケガとかしてない?)

“アクシオさん、大変です!ネオンちゃんが・・ネオンちゃんが!”

 クオンからの返答にアクシオが眉をひそめる。ネオンの異変にヴィッツたちもさらなる深刻さを覚えていた。

 

 ネオンの、新生デルタの最大の汚点だった。隊員の誤射によって、人質になっていた少女にその射撃が当たってしまったのだ。

 命に別状はなかったものの、少女は自由に歩くことができなくなってしまい、入院を余儀なくされた。この事態にネオンだけでなく、ジュンとクオンも責任を痛感していた。

 落ち込んでいるジュンとクオンに、少女の症状を確かめてきたリッキーが歩み寄ってきた。

「リッキーさん・・・あの子は大丈夫ですか?」

「うん。足のケガ以外は異常はないよ。大事には至ってなかったのが、不幸中の幸いだった・・」

 クオンが声をかけると、リッキーが沈痛の面持ちで答える。

「名前はラティちゃん、5歳。クラナガン内の住宅地に住んでいる子で、今日は母親と一緒に出かけていたそうだよ・・」

「そうだったんですか・・・すみません・・僕たちのせいで、こんな・・・」

「気にしなくていいよ。えりなちゃんたちから、君たちは頑張ってるって聞いてるし、誰だって失敗は経験するものだよ。」

 謝罪の言葉をかけるクオンに、リッキーが微笑んで弁解を入れる。

「君たちも疲れたはずだ。そろそろ戻ったほうがいいよ。」

「そうですね・・・でも、ネオンちゃんが・・・」

 リッキーの呼びかけに対し、ジュンが沈痛の面持ちを浮かべる。ネオンが未だ落ち込んでいることに、リッキーも困惑の色を隠せなくなった。

 ネオンはジュンたちのいる病棟の屋上で、塞ぎ込むように落ち込んでいた。自分のミスが関係のない人を傷つけたことが我慢ならなかったのだ。

 彼女がデルタ本部に戻ったのはそれから数分後。ジュンたちに呼びかけられてからのことだった。

 

 

次回予告

 

迷いを込めた弾丸が引き起こした悲劇。

生まれたひとつの溝が、次々と波乱を呼び起こしていく。

苦悩するネオンを支える仲間たちの絆。

その思いを背に受けて、少女は試練に立ち向かう。

 

次回・「崩れ行く心」

 

輝く光と、広がる闇・・・

 

 

作品集

 

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