魔法少女エメラルえりなVersuS

第4話「First scramble(後編)」

 

 

強さを求めての訓練。

本当の強さへの答えを見出してきた僕たち。

だがその中で募る一抹の疑問と不安。

 

何のために戦うのか?

何のために剣を手にしているのか?

 

その答えは、かけがえのない絆の中にあった・・・

 

魔法少女エメラルえりなVersuS、始まります。

 

 

 3年前。

 ミッドチルダの中で有数の剣術の流派を継承しているビクトリア家の息子であるクオン。

 だがクオンはこのとき、強くなることに疑問と不安を感じていた。強さへの焦りと心の揺らぎで、彼の鍛錬は空回りしていた。

 必死に考えるが答えを見出せず、クオンは途方に暮れていた。

「どうしたの、君・・・?」

 そこへ1人の少年が声をかけ、うつむいていたクオンが顔を上げる。

「君は、誰・・・?」

「僕はバリオス。バリオス・ゼファー。君は?」

「僕はクオン。クオン・ビクトリア・・・」

 互いに自己紹介をする少年、バリオスとクオン。

「それでクオンくん、どうしたの?」

「うん・・僕、強くなることに迷ってしまって・・考えても全然分かんなくて・・・」

 訊ねてくるバリオスに、物悲しい笑みを浮かべて事情を説明するクオン。するとバリオスは頷いて微笑みかける。

「それは、君が何のために戦ってるのかが分かれば、解決するんじゃないかな?」

「何のために・・・?」

「家族、親友、栄光、夢、何でもいいよ。とにかくそういうものを持てれば、戦うこと、強くなることの理由が見えてくるんじゃないかな?」

 バリオスに言いかけられて、クオンは困惑する。改めて考えていくうちに、自分の強くなる理由が見えてきた気がしてきた。

「僕は誰かのために体を張れればいいと思ってる・・その誰かはまだ分からないけどね・・・」

「なるほどね・・僕も似たようなものかな。世界平和のための力になりたい。そのために強くなりたいってね。」

 互いに自分の強くなる理由を告げたクオンとバリオス。するとバリオスがクオンに手を差し伸べてきた。

「これで僕たちは友達であり、互いを高めあうライバルとなったわけだ。これからよろしくね、クオンくん。」

「うん。こちらこそよろしくね、バリオスくん。」

 クオンはバリオスの手を取り、握手を交わした。こうして2人の友情は芽生えたのである。

 

 現場に向かうヘリコプターの中で、クオンは昔を思い返していた。だがヘリコプターを運転するクラウンの声を耳にして、彼は意識を現実に戻す。

「それじゃ、私たちが先に出るから。クラウンさん、後はお願いします。」

「了解。任せといて。」

 えりなの呼びかけにクラウンが答える。ヘリコプターの後部ハッチが解放され、えりな、健一、明日香が地上を見下ろす。

「それじゃ行くよ、ブレイブネイチャー。」

「ウンディーネ、行くよ。」

「ラッシュ、気張っていくぜ!」

Standing by.

 えりな、明日香、健一がそれぞれの待機状態のデバイスに鍵を差し込み回す。

Complete.

 ブレイブネイチャー、ウンディーネ、ラッシュが起動し、それぞれ杖と剣の形状に変わる。同時にえりなたちも各々の形状の防護服「バリアジャケット」を身にまとう。

 魔導師の姿となった3人は降下し、現場へと急行していった。その接近に、輸送トラックを襲撃していたロアが振り返る。

「魔導師!?くそっ!応援が来たか!」

「ローグがレリックを回収してる!それまでヤツらを食い止めるんだ!」

 声を荒げながらもえりなたちを迎え撃とうとするロアの戦士たち。輸送はレリックを分けて、数台のトラックを使って運んでいたのである。

 たまらず迎撃に出たロア。これに対しえりながロングレンジバインドを展開。数人の拘束に成功するが、残りは素早く動いて回避していた。

「逃がさないっての!」

 それを見据えていた健一が飛び込み、ラッシュを振りかざす。その強烈な一閃にロアの戦士たちが突き飛ばされていく。

 明日香もウンディーネを振りかざして、水属性の魔力の弾丸を出現させる。追跡型のドロップスフィアが、ロアの戦士たちに命中していく。

 この先手により、ロアの戦士の多くは完全にえりなたちに注意を引き付けられていた。

 

 交戦を開始したえりなたちを見据えていたジュンたち。クラウンが頷くと、ジュンたちに呼びかける。

「さぁて、ルーキーさんたち、今度はあなたたちの番だよ。」

「はいっ!」

 クラウンの呼びかけにジュンたちが答える。3人は後部ハッチから飛び降り、待機状態のそれぞれのデバイスに意識を傾ける。

「フレイムスマッシャー、フレアブーツ、セットアップ!」

「スクラム、イグニッションキー・オン!」

「レールストーム、セットアップ!」

 ジュン、クオン、ネオンの呼びかけを受けて、4機のデバイスが起動する。クオンとネオンがトラックの1台に降り立ち、ジュンがその上空で停滞する。

「デルタですが応援に来ました!それで状況は!?

「はい。数個の回収には成功しましたが、残りを奪取されて・・・」

 ネオンの呼びかけを受けた局員が、保守したレリックを見せる。

「私とクオンくんが追いかけるから、ネオンちゃんはこのレリックをお願い。」

「うん。任せといて。」

 ジュンの指示を受けてネオンが頷く。

「よし。行こう、ジュンちゃん。」

 クオンの声を受けてジュンが頷く。保護したレリックをネオンに任せて、2人は残りのレリックを奪取したロアのメンバーを追った。

Discovery of target in the north-northwest 50 meters from here it.(ここから北北西50メートルに目標発見。)”

 スクラムがロアの位置を感知する。2人の視線が、そのトラックに眼を向ける。

 クオンが先行し、トラックの上に飛び移る。そして間髪置かずにスクラムを下に突きつける。

「バーストインパクト!」

 クオンがトラックの荷台の中に振動を起こす。その衝撃を受けて、中にいる人は怯むはずだった。

 だが中にいたロアの1人が荷台から即座に飛び出してきた。それはレリック数個を所持していたローグだった。

「このような手を打ってくる人がいたとは。なかなかですね。」

 ローグが空中に停滞して、クオンを見据える。クオンは緊張感を募らせて、ローグの出方を伺う。

(やっぱりというべきか、手ごわそうなのが出てきたね。)

(だからってすぐに降参するつもり?私はそう簡単に白旗は振らないからね。)

 念話で語り合うクオンとジュン。ローグがシューティングモードのジャスティを構えて、2人に言いかける。

「来ないのですか?このままにらみ合いをするのは好きではないのですが。」

「私だって好きじゃないわよ。すぐにあなたを拘束させてもらうわよ。」

 淡々と言いかけるローグに対し、ジュンがいきり立つ。

「ダメだ、ジュンちゃん。挑発に乗ったら・・」

 クオンが呼び止めようとするが、ジュンは聞かずにローグに飛びかかる。そこを狙って、ローグが砲撃を繰り出す。

Trust shooter.

 ジャスティから放たれた鋭く光の弾が、ジュンに降り注がれる。その集中砲火にジュンが痛みを覚えて顔を歪める。

「ジュンちゃん!」

 クオンが叫ぶ前で怯むジュン。その彼女を、クオンがとっさに受け止める。

「ジュンちゃん、大丈夫!?しっかりして!」

「ク・・クオンくん・・・」

 心配の声をかけるクオンに、ジュンが弱々しく答える。

“どうしたの、クオンくん、ジュンちゃん!?

 そこへネオンがジュンとクオンに向けて念話をかけてきた。

(ううん、何でもないよ、ネオンちゃん。ネオンちゃんはこのままレリックとみんなをお願い。)

 落ち着いたジュンがネオンに呼びかける。痛みを振り切って、ジュンは改めてローグを見据える。

「クオンくん、この人、手ごわい。この前相手した男の人ぐらいに・・・」

 ジュンの言葉にクオンが緊迫を募らせる。眼前の敵は、生半可な実力者でないことを彼も痛感していた。

(もしかして、あの少女がシグマと交戦した子ですか。私の今の攻撃なら、普通の魔力の保持者なら、すぐに自由に動けなくなるところですが・・)

 ローグも胸中でジュンの底力を分析していた。

(防御力が高いならば、攻撃力も相当のはずです・・・)

 相手の力量を認めたローグは、加減を少しだけ緩めることにした。

「相手をしたいのでしたら、お受けしましょぅ。ただし、覚悟を承知の上で。」

 ローグの呼びかけを受けて、ジュンとクオンが身構える。クオンがこれまでの武術の経験を元にして、ローグの出方を伺う。

(ジュンちゃんの言うとおり、この人は手ごわい・・隙をうかがっても、その隙を見つけられない・・・!)

 立ちはだかる強敵に次第に焦りを覚えるクオン。するとジュンが彼の背中を叩いてきた。

「ジュンちゃん・・・・!?

 突然のことに戸惑いを見せるクオン。そんな彼に、ジュンが笑顔を見せてきた。

「クオンくんは強いはずだよ。だってクオンくんはあのビクトリア家で、強くなろうとずっと頑張ってきたじゃない。」

 ジュンのこの言葉にクオンは思い立つ。彼は勇気とともに、親友、バリオスとの思い出をよみがえらせていた。

 

 ビクトリア家での修行の傍ら、クオンはバリオスとの絆を深めていた。互いが心身ともに強くなるために剣を交え、助言し、励ましあった。

 そんなある日のこと、普段のように模擬試合をした後のことだった。

「初めて勝負したときと比べて、ずい分と腕が上がったね、クオンくん。」

「そういうバリオスくんこそ。僕もまだまだって感じだね、アハハハ・・・」

 バリオスの言葉を受けて、クオンが照れ笑いを浮かべる。バリオスは一瞬笑みを浮かべると、すぐに真剣な面持ちを浮かべる。

「クオンくん、僕、決めたんだ。執務官になるって。」

「執務官?」

 バリオスの言葉にクオンが疑問符を浮かべる。

「世界のルールに基づいて、犯罪者確保と犯行の防止を筆頭になって行う。それが執務官だよ。」

「ルール・・それだけの仕事をするわけだから、試験とかも難しいんじゃないかな?」

「確かに難しいよ。執務官になれるのはほんのわずかだし、何度も落ちている人もいる。でも僕は諦めないよ。考えて考え抜いて、やっと決めた道だから・・・」

 不安の面持ちを見せるクオンに、バリオスが自信を込めた笑みを見せる。もはやバリオスには迷いなく自分の夢を見据えているのだ。

「じゃ、僕も急いで将来を決めないと・・・」

「アハハハ。別に急いで決めなくてもいいよ。僕が早く決めてしまっただけだから・・クオンくんにはクオンくんのペースがある。ムリして僕に合わせなくてもいいって。」

 バリオスに励まされて、クオンは心を落ち着かせる。

「僕のペースか・・僕、周りから鈍いってよく言われるから、僕のペースが早いのか遅いのか分からなくて・・・」

「他は他。自分は自分。自分の将来なんだから、最後は自分で決めなくちゃいけないんだよ。」

「アハハ、ありがとう。バリオスくんに励まされると、本当に自信が持ててくるよ。」

 クオンが笑顔で頷きかけると、立ち上がってバリオスに手を差し伸べる。

「僕も必ず自分の夢を見つけてみせる。そのときには、君に最初にほうこくするつもりだよ。」

「別に僕が最初じゃなくてもいいよ。でも、君か僕、どっちが先に夢を叶えるか、それも勝負だよ。」

 互いに決意を言い放つクオンとバリオス。クオンの手を取って立ち上がり、そのままバリオスは握手を交わす。

「これからもよろしくね、親友。」

「こっちこそ。どんなことがあっても、諦めたらダメだからね。」

 友情を確かめ合って、手を離すクオンとバリオス。この絆が、2人の背中を後押ししていた。

 

 ジュンに励まされて、勇気と決意を呼び起こしたクオン。彼は冷静沈着となり、改めてローグの出方を伺う。

(自分を信じるんだ・・僕はビクトリア家で鍛錬に明け暮れ、そしてデルタでもえりなさんたちに鍛えられてる・・その僕が一歩前に踏み出せば・・)

 思い立ったクオンがローグに向かって飛び出す。

(突破できない壁なんてない!)

Srash trust.

 決意を込めたクオンの一閃が、ローグに向けて振り下ろされる。ローグもジャスティを構えて、その一閃を受け止める。

Spear form.

 槍の形状へと変化し、先端から光刃を発したジャスティを振りかざし、ローグがクオンを跳ね除ける。そしてローグがジャスティを突き出し、クオンを狙う。

 クオンはとっさに身を翻し、スクラムを振りかざす。その刃がジャスティを下に叩きつける。

「今だよ、ジュンちゃん!」

 そのときクオンが呼びかけ、ローグが眉をひそめる。その直後、飛び出していたジュンが間合いを一気に詰め寄り、ローグの持つレリックに手を伸ばしていた。

 だがローグが左足を振り上げ、ジュンの特攻を跳ね除ける。レリックを奪還することができないまま、ジュンが突き飛ばされる。

 そこへクオンがローグに詰め寄り、ジャスティをつかんで怯ませる。体勢を崩されたローグがレリックを手放す。

 それを手にしたのは、すぐさま体勢を立て直したジュンだった。

「レリック、取り返したよ!」

 ジュンは言い放つと、クオンを振り払ったローグから離れる。

「ジュンちゃんはネオンちゃんのところへ!僕はこの人を押さえるから!」

「クオンくん!・・分かった!あなたもすぐにこっちに!」

 クオンの呼びかけを受けて、ジュンが引き下がる。彼女を追おうとするローグだが、クオンが完全と立ちはだかった。

「あなたの相手は僕ですよ!ここから先へは行かせません!」

 

 周囲のロアの戦士たちを拘束、撃退を続けていたえりなたち。3人はジュンたちのことが気になり、トラックに眼を向ける。

「健一、明日香ちゃん、ジュンたちのところに行ってくる!」

「えりな!」

 えりなの呼びかけに健一が声を荒げる。彼女はジュンたちの援護のため、飛び出そうとした。

 そこへ鋭い拳の一撃がえりなに向けて飛び込んできた。えりなはとっさに障壁を発して、その攻撃を防ぐ。

「えりな!」

 声を荒げる健一の前で、えりなが踏みとどまる。彼女に攻撃を仕掛けてきたのはギーガだった。

「また会ったな、魔導師・・・」

「あなた、この前の・・・」

 不敵な笑みを浮かべるギーガに、えりなが眉をひそめる。

「この前の借り、倍にして返してやるよ!」

 いきり立ったギーガがえりなに飛びかかる。彼が繰り出した拳をかわし、えりなが飛行する。

Blaster mode.

 ブレイブネイチャーが砲撃型のブラスターモードに形状を変える。距離を置いたえりながブレイブネイチャーを構え、ギーガに狙いを定める。

「“斬る”の次は“撃つ”かよ・・退屈しねぇなぁ、貴様!」

 笑みを強めるギーガが、えりなに真っ向から向かっていく。

「久しぶりの長距離砲撃、受けてみなさい!」

Natural blaster.

 えりなが言い放つと同時に、ギーガに向けて砲撃する。強力な一条の閃光に虚を突かれ、ギーガが眼を見開く。

 とっさに回避行動を取るギーガだが、完全にかわすにはいたらなかった。だが直撃すれば、その威力の前に気絶していただろう。

「ぐっ!・・内からも外からも、強烈なのをかましてきやがった・・バケモノかよ、アイツ・・・!?

 えりなの底知れぬ力に動揺の色を隠せなくなるギーガ。彼は左肩を痛めて、右手で押さえていた。

「けどな、このままやられっぱなしで尻尾を巻いて逃げちまうほど、オレは臆病じゃないんだよ!」

“ギーガさん、みなさん、今回はこれまでです。撤退を。”

 負けじとえりなに飛び掛ろうとしたギーガに、ローグの念話が飛び込んできた。

(ローグ!?撤退!?

“これ以上の戦闘は無意味です。無事な同士を連れて、この場を離れてください。”

(何いってやがる!?このままやられっぱなしで終われるかっての!オレはコイツに借りを返すまでは帰らねぇぞ!)

“ならば監獄入りになりますか?それがお望みならば、我々はあなたを放置して先に退散しますが。”

 ローグに言いとがめられて、ギーガが歯がゆさを覚える。敗北と逃亡は屈辱だったが、自由を奪われることは地獄に等しい苦痛。ギーガはやむなく苦渋の決断をすることとなった。

「今度こそ・・今度こそバラバラにしてやるからな!」

 ギーガは捨て台詞を残して、えりなの前から去っていった。レリックの保護と負傷した局員を優先して、えりなたちはロアを追おうとはしなかった。

 そしてローグも攻撃の手を止めて、クオンとの距離を取る。

「今回は挨拶代わりです。ですが、たとえあなた方でも、我々を止めることは不可能ですよ。そう、我々は、止まることなど許されないのです・・・」

 ローグの言い放った言葉にクオンが眉をひそめる。その間にローグがきびすを返し、この場から離れていった。

「ふぅ・・何とか危機を脱したって感じだね・・退散してくれなかったら、正直、僕は負けてたかもしれない・・・」

 たがが外れたクオンが腰が抜けたようにその場に座り込んだ。

“クオンくん、大丈夫!?どっかケガした!?

 そこへネオンの念話が飛び込んできた。

(ネオンちゃん・・僕は無事だよ。危機一髪だったけどね・・)

“よかった・・こっちもレリックを守ったよ。今、ジュンちゃんがすぐに向かうから。”

(了解。)

 ネオンの呼びかけにクオンが答える。今回の事件は終息へと向かいつつあった。

 強敵を前にして怯まず、心と体を前進させたクオン。その勇気は親友たちとの絆がもたらしたものだった。

 

 レリックを奪い返され、撤退を余儀なくされたロア。現場のほうへ眼を向けているローグのそばで、ギーガが苛立ちをあらわにして、地面に拳を叩きつける。

「くそっ!・・オレが、何もできずに逃げることになるとはな・・・ローグ、この落とし前は高くつくぞ!」

 ギーガがローグに向けて八つ当たりをする。だがローグは顔色を変えない。

「前にも言ったはずですよ。今回は相手の戦力分析も兼ねていると。あなたが相手にした坂崎えりなは管理局のエースの1人。迂闊に攻めれば敗北は必死です。」

「そんなことはねぇ!オレは絶対に負けねぇ!たとえ誰が相手だろうと!」

「私が言葉で伝えなくても、彼女と実際に戦ったあなたの体は十分理解しているはずです。その感覚はどんなに拒んでも拒みきれないことは、あなたが1番よく分かってるはずです。」

 ローグのさらなる言葉にギーガがようやく押し黙る。この歴然とした差を覆す力が今の自分にないことを、ギーガは否応なく受け入れるしかなかった。

「これからは相手の能力を徹底的に分析する必要があります。打開の糸口を見出すことができれば、あなたに十分勝機はあります。」

「オレの勝機・・勝利・・・オレに1番似合う言葉だぜ・・・アハハハ・・・」

 ローグの言葉を受けて、ギーガが思わず哄笑をもらす。他のロアのメンバーも、期待を覚えて笑みを浮かべていた。

「体力を回復させ次第、戻りますよ。あまり長居するのも得策ではありませんから。」

 ローグはギーガたちに言いかけると、再び現場に視線を向けた。

(特別捜査部隊、デルタ、それに坂崎えりな・・今回のデータ収集、絶対にムダとは言わせませんよ・・・)

 

 ロアからレリックを取り戻すことに成功したえりなたち。彼女たちは研究所からトラックを追っていた玉緒と三銃士、ヴィッツ、アクシオ、ダイナと合流していた。

「えりな、大丈夫だったか?」

「うん。私もみんな無事だよ。デルタに来て初めての仕事だったから、ちょっと慌てちゃったけどね。」

 ヴィッツの問いかけにえりなが照れ笑いを浮かべて答える。

「あたしたちも急いでたのに。来たときにはもう全部終わってたんだからね。」

「文句は言うな。オレたちは遊びをしているわけではないのだから。」

 不満を口にするアクシオに、ダイナが淡々と言いかける。

「分かってるって。ちょっと言ってみただけだって。」

 その言葉にアクシオが憮然さを見せるが、えりなに視線を戻して笑みをこぼす。

「でも、まだまだ腕は落ちてないみたいね。そればかりか前より上がってる。ホント、底が知れないわね。」

「ヴィッツさんたちもレベルアップしてること、私も知ってるよ。今度はヴィッツさんたちの番かな。」

 アクシオの言葉にえりなが弁解を入れる。そこへ健一と明日香が駆け込んできた。

「ユウキさんへの報告終わり。すぐに本部に引き上げろってさ。」

 健一が憮然さを見せてえりなに言いかける。

「了解。みんなで帰ろうね・・ところで、ジュンたちは?」

「あの子たちならヘリで休んでるよ。模擬戦直後の初任務だったからね。」

 えりなの問いかけに明日香が答える。健一やヴィッツたちはただただ苦笑いを浮かべるばかりだった。

 その頃、ジュン、クオン、ネオンはクラウンの操縦するヘリコプターの中で眠り込んでしまっていた。

(みんな相当頑張ってたみたいね・・・)

 3人の寝顔を見て笑みをこぼすと、クラウンはヘリコプターの発進準備を始めた。

 

 明日香たちからの報告を聞いて、本部にいたユウキも笑みをこぼしていた。

「ふぅ。どうやらうまくいったようだな。」

「私たちの出番、なくなっちゃったわね。」

 安堵を浮かべるユウキと笑みをこぼす仁美。その2人にリーザがやってきた。

「あの3人の潜在能力は、やはり眼を見張るものでしたね。」

「オレやみんなで選別してきた若者を選んだんだ。ちょっとやそっとでへこたれるわけないさ。」

 リーザが言いかけると、ユウキが自慢げに答えてみせる。だが2人はすぐに真剣な面持ちを浮かべる。

「しかし、ロアが侮れないことも紛れもない事実です・・これはジェイル・スカリエッティ事件や、第二次魔女事件に続く大事件に発展してしまう可能性も無視できません。」

「分かってる。それで、連中のことは何か分かったのか?」

「はい。まだ名前しか分かっていませんが・・・」

「分かってるだけでいいよ。いろいろと親切を受けてるのに、これ以上無理強いさせるのはどうかなってね。」

 リーザの言葉にユウキが弁解を入れる。リーザは改めて話を持ち出した。

「判明したのはシグマ・ハワード、ローグ・デュアリス、ギーガ・タイタンの3名。今回の襲撃にはローグとギーガを含めた十数名で行われていました。」

「そうか・・シグマが出てこないのが気にかかるし、他に強いヤツがいないとも限らない。もしかしたら、これは様子見・・いや、こっちの出方を伺ってるのか・・それともこっちの情報を・・」

 リーザの言葉を受けて、ユウキが考えを巡らせる。これまでの襲撃の裏には、恐るべき何かが蠢いている。彼はそんな気がしてならなかった。

「ユウキ、今はみんなが帰ってきたら、あたたかく迎えることを考えようよ。」

 そこへ仁美が気さくな様子で声をかけてきた。その言葉を受けて、ユウキは難しい思考を中断する。

「そうだな・・今は気楽に考えるようにしようか・・みんな、ご苦労だったね。」

 ユウキの呼びかけを受けて、オペレーターのエリィ、カレン、ルーシィが安堵の表情を浮かべる。

「私は引き続きロアの調査を行いますので。」

 リーザはユウキたちに小さく頷きかけると、この場を後にした。司令室のモニターには、クラウンの操縦するヘリコプターが映し出されていた。

 

 待機していたシグマたちのところに帰還してきたローグたち。シグマはローグから、今回の出来事の詳細を聞かされていた。

「そうか・・まさかギーガがここまでやられるとは・・」

「ギーガが侮りすぎたというのもありますが、坂崎えりなは油断ならない相手であることも明白です。」

 深刻な面持ちを浮かべるシグマに、ローグがさらに言いかける。

「しかも、彼女以外にも上位の魔導師や騎士が控えているようですし、また新しく成長を遂げてきた人もいるようです。」

「やはり難攻不落の城壁か、時空管理局は・・いや、デルタだけでも持て余すかもしれない・・・」

「だが心配は要りません。まだ完全ではありませんが、坂崎えりなを含めたデルタの人員のデータは集まってきています。」

 ローグの告げた言葉に、シグマは落ち着きを取り戻して頷きかける。

「悲願はもうすぐ叶います。我々が自らの手で叶えるのです・・」

「そうだ・・我々が変えなければ、我々だけではない。世界全ての未来が潰えるのだ・・・」

 ローグの言葉にシグマが言いかける。彼らロアのメンバーの決意は強固なものであった。

「ところで、マコトはどうしましたか?姿が見えないようですが?」

「あぁ。マコトならレイと散歩に出ている。あの2人はまだ幼い。気晴らしをするのも必要なことだ。これからの戦い、そのゆとりさえ持てなくなってしまうだろうから・・」

「散歩ですか?それは不安がありますね。マコトは我々の中でも時空管理局に対する憎悪の念が強い。管理局の賛美と我々への侮蔑を耳にすれば・・・」

「それは私も心配していないわけではない。だが私は彼女たち2人の将来を信じているのだ。幼い2人が、新たな世界の中でどのような成長を遂げていくのか・・・」

 不安視するローグに対し、シグマはマコトとレイへの信頼を募らせていた。

「しばらく休息を取ろう。みんな疲れ果てている。」

「私も同意です。特にギーガの負傷は大きいです・・」

 シグマの言葉にローグが頷く。2人は次の挑戦に備えて、束の間の休息を取ることにした。

 

 その日の夜、ジュンは寮の部屋にて窓越しに外の空を見つめていた。ベットでは既にネオンが眠りについていた。

 ジュンはこの夜も、いつも首から提げているロケットを見つめていた。彼女は親友であるマコトを想っていた。

(マコト、今日、デルタでの初任務だったよ。正直、少し緊張したけど、私たちがやるしかないって思ったね。)

 ジュンは胸中で、マコトへの言葉を呟きかける。

(みんなで協力し合って、何とか任務をこなすことができたよ・・マコトにも見せてあげたかったなぁ。なーんてね。)

 冗談を織り交ぜて思わず照れ笑いを浮かべるジュン。彼女は再び外の夜空を見つめていた。

(マコト、私、これからもどんどん頑張っていくからね。みんなを傷つける人たちなんかに、絶対負けないから・・・)

 決意を胸に秘めて、ジュンがロケットを持っていた右手を軽く握る。その決意と思いが報われると信じて、彼女は明日に備えて眠りについた。

 

 

次回予告

 

小さな心で膨らんでいく大きな憎悪。

見下しあざ笑う者に、その矛先が向けられる。

マコトに秘められた悲劇。

ジュンと別れた後に起こった事件と絶望。

それが彼女の運命を大きく変えることとなった。

 

次回・「忌まわしき過去」

 

封じられし記憶が今、呼び起こされる・・・

 

 

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