魔法少女エメラルえりなVersuS
第3話「First scramble(前編)」
突然起こった襲撃と戦い。
それぞれの思いのために奮起した幼き心。
大切な人たちを守るため。
本当の幸せに満ちた未来を切り開くため。
2人の体と心は今、果てしなき戦いに身を投じていく・・・
魔法少女エメラルえりなVersuS、始まります。
新暦76年10月2日
その日の朝、デルタの寮の中にある1室にて、ジュンは眼を覚ました。隣のベットではネオンが眠りについていた。
ジュンは昨日起こった出来事を思い返していた。突然の市街への襲撃。その中にあった親友、マコトの姿。
あの場にいたマコトは本物だったのだろうか。混乱の中で見た幻ではなかったのだろうか。
「あれは本当に、マコトだったのかな・・・」
マコトのことを思うジュンは、いつしか自分の首にかけているロケットを手にした。ふたを開けると、幼い頃の自分とマコトを映した写真が収められていた。
これはジュンがミッドチルダに引っ越す際に、同じ形のロケットをマコトと1つずつ持っていることに下。マコトのものにも同じ写真が収められているはずである。
2人の友情をつなぎとめていくために、ジュンが買い、ひとつをマコトに渡したのだった。
「何にしても、元気でいるよね、マコト・・・」
「ジュン、ちゃん・・・?」
マコトのことを思い返していくうちに微笑んでいたジュンに向けて声がかかってきた。ネオンが眼をこすりながら、ベットから起き上がっていた。
「ネオンちゃん・・おはよう、ネオンちゃん。」
ジュンはネオンに挨拶をすると同時に、手にしていたロケットをポケットの中にしまった。
昨日の戦いの疲れを取っていたマコトもまた、ジュンのことを思い返していた。
ミッドチルダへの攻撃の最中に見たジュンの姿。あれが本当かどうか、マコトも確信に至れなかった。
「もしかして、昔のことを思い返していたのですか?」
そこへローグが声をかけ、マコトはロケットのふたを閉めた。
「ローグ・・・」
「家族のことですか?それとも友人のことですか?」
ローグが問いかけるが、マコトは深刻な面持ちを浮かべたまま答えない。彼女にとって思い出したくない忌まわしき過去であった。
「優しいのですね、マコト。そこまで優しい人はおそらく数えるほどしかいないでしょう。」
「謙そんはやめてくれ。気休めにもならない・・」
「ですが、あまり過剰な優しさは弱さにしかなりません。それは戦いの中では逆に脆いもの。それでは何も守れず、信念も貫き通せない。」
「優しさがあるからこそ、怒りや勇気が湧き上がるんだよ。それは絶対に、弱さなんかじゃない・・・」
冷淡に振舞うローグに、マコトが歯がゆさを浮かべる。これ以上の反発を買うのはよくないと判断し、ローグはこれ以上言葉をかけなかった。
「お姉ちゃん・・・」
そこへ1人の少女がマコトに向けて声をかけてきた。マコトと同じ白髪を背中の辺りまで伸ばした小さな少女で、内向的な雰囲気を持っていた。
秋月レイ。マコトの妹である。
「レイ・・・」
戸惑いを見せるマコトに、レイが駆け寄ってきた。心配の様子を見せる妹に、マコトは微笑んでその髪を優しく撫でた。
「お姉ちゃん、また行くの?だったら今度はレイも・・」
「レイ・・今度はローグが行くって言い出してるんだ。だから僕もレイも、今度は留守番だよ。」
不安を見せるレイに、マコトが優しく言いかける。するとレイは落ち着いた様子を見せた。
「マコト、あなたはレイのそばにいてあげてください。体だけでなく、心も養われるでしょう。」
「ありがとう、ローグ。だけど危なくなったら遠慮せずに僕かシグマを呼んでくれ。」
「心配は要りませんよ。私もあなたやシグマに勝るとも劣らないと思っていますから・・」
感謝の言葉をかけるマコトに微笑みかけてから、ローグはきびすを返してこの場を後にした。
(今のマコトの心の支えとなっているのは、妹のレイだけ・・そのレイも、マコトの話では記憶喪失に陥っていたそうな・・)
ローグが歩きながら思考を巡らせる。
レイはマコトとともに事件に巻き込まれた際、全ての記憶を失っている。マコトの呼びかけによって、自分の名前と彼女の妹であることを思い出すことができた。正確にはその事実を新しく覚えたというほうが正しい。
たとえ記憶を失っていても、本当の姉妹のような絆でなくても、それでも妹であることに変わりはない。レイはマコトの心の支えとなっていた。
この日のデルタの本部での朝礼。ユウキはそこで、えりなたちの紹介を行おうとしていた。
その場にはデルタの隊員やオペレーターたちの他に、かつてのえりなたちの仲間たちの姿があった。
金髪の女性、ヴィッツと青髪の少女、アクシオ、赤髪の青年、ダイナ。彼らはかつて「三銃士」と呼ばれ、「パンドラ事件」の重要参考人とされている。
アレンの使い魔であり相棒である少女、ソアラ。時空管理局本局査察官であり、デルタ設立の立役者の1人である女性、リーザ・アルティス。
さらに黒髪の少女、カタナ・カワサキがフォワードとして控えている。カタナはビクトリア家と双璧を成す剣術の一家、カワサキ家の娘で、強さを極めるために時空管理局に所属。現在はその実力を買われてデルタからの誘いを受けた。
「みんな揃ってるな。ではここで、新入隊員を紹介するぞ。」
ユウキが隊員たちに呼びかけると、えりな、明日香、健一が姿を見せた。
さらに2人の少年少女も姿を見せていた。
リッキー・スクライア。えりなの親友であり、彼女に魔導師の道を歩ませるきっかけを作った人物でもある。
ラックス。明日香の使い魔であり相棒。現在は少女、あるいは子犬の姿を取ることが多い。
「その前に、出向という形での特別隊員の紹介をしておく。みんな、紹介よろしく。」
ユウキに呼びかけられて、えりなたちが自己紹介をする。
「時空管理局1039航空隊所属、戦技教導官、坂崎えりなです。教導官としてはまだまだ未熟な部分があると思いますが、よろしくお願いします。」
「時空管理局1831航空隊、町井明日香二等空尉です。よろしくお願いします。」
「時空管理局地上部隊陸士104部隊所属、辻健一。みなさん、よろしくっス。」
「時空管理局医務官、リッキー・スクライアです。よろしくお願いします。」
えりなたちの自己紹介の後、ユウキが新人たちに眼を向ける。
「クオン・ビクトリアです。至らないところもありますが、よろしくお願いします。」
「ネオン・ラウムです。執務官を目指しています。頑張っていきますので、みなさんよろしくね♪」
「春日ジュンです。このミッドチルダに住むみんなを守りたいと思っています。みなさん、どうぞよろしくお願いします!」
クオンとネオンが敬礼を送る中、ジュンが深々と頭を下げる。唐突なことに周囲が一瞬唖然となる。
その沈黙を破るかのように、えりなが笑顔を見せてジュンに声をかけてきた。
「うん。よろしくね、ジュンちゃん。」
「えりなさん・・・はいっ!」
えりなが差し出してきた手を、ジュンも取って握手を交わす。決意を秘めた2人の新しい出発の瞬間だった。
「新人メンバーの教育は、えりなと健一を中心に行っていくことになる。訓練も任務も、気を引き締めていくように。」
「はいっ!」
ユウキの呼びかけにジュン、クオン、ネオンが返事をする。他のメンバーも敬礼を送り、新人を迎えた。
“何?ジュンが管理局にはいった?”
モニター画面に映された中年の男が疑問の声を上げる。とげのある黒髪とひげが特徴の男である。
春日ゴウ。時空管理局執務官であり、ジュンの父親である。
彼を相手にしていたのは、ふわりとした茶髪の女性だった。ゴウの妻であり、ジュンの母親である春日ケイである。
その日、ゴウがケイに向けて連絡を入れてきた。ジュンが時空管理局、そしてデルタに入ったことを確認するためだった。
「そう。何かいきなり決めちゃったって感じでね・・まぁ、私としてはあの子の好きにさせてあげた言って言うのが本音だからね。」
“何をのん気なことを言ってるんだ。管理局といった危険な仕事をしてほしくなかったのが、オレの本音だ。いくらお前がその気でも、親として止めるべきだったのではないのか?”
「あなたもそうしなかったでしょう?そのあなたに言われたくないわ。」
不満の声を上げるゴウに対し、ケイが強気な態度を見せる。
2人は今、別居中である。ジュンの育て方についての意見の食い違いが原因となり、ゴウが家を出て行ったのである。ジュンは母親であるケイが育てている状態にある。
「とにかく、あの子が自分で決めたことよ。それを無碍にするなんてできないわ。」
“だがな、ジュンに何かあったらどうするつもりだ?今のうちにでも止める必要が・・”
「昨日の電話で呼びかけたけど、聞かなかったわ。あなたや私に似て、けっこうガンコなところがあるからね・・」
ケイの言葉に反論できなくなり、ゴウはため息をつくしかなかった。
“仕方がない。ケイ、ジュンから眼を離さないでくれ。オレも十分に注意を払う。デルタ所属ならば、近いうちに関係者と会うことになるだろうからな。”
「了解。そのことには同意してあげるわ。」
互いに腑に落ちない態度を見せながら、ゴウとケイは通信を終えた。だがケイは内心、ジュンを信じていた。
デルタの訓練場に来ていたジュン、クオン、ネオン。だが合同での訓練の前に、ジュンはえりな立会いの下、魔力測定を行っていた。魔導師としてどれほどの魔力、技量を備えているか、確認するためだった。
えりなから課される課題を順調にこなしていくジュン。彼女の結果を見て、えりなは彼女の高い潜在能力があることを理解していた。
そしてそのデータは、健一やユウキにも届いていた。
「なるほど。こりゃすげぇなぁ・・」
健一がデータを記載した表を見て感嘆の声を上げる。
「あの年齢でこれほどの数値をたたき出したのは、オレたちやなのはちゃんたちの他では初めてだな・・・」
ユウキもジュンの潜在能力を高く評価していた。
「だけどまだまだ戦い方が荒削りなところもあるけどね・・でもその点は、私と健一でうまくやっていきますよ。」
「そうか・・オレもできる限り協力するつもりでいるよ。だから君たちも緊張せずに、教わってきたように教えていけばいい。」
えりなが言いかけたところで、ユウキが励ましの言葉をかける。その言葉にえりなと健一が微笑んで頷いた。
「それじゃ、私たちはジュンちゃんたちの訓練に戻ります。」
「了解。それじゃ頼んだよ。」
ユウキに敬礼を送ると、えりなと健一は訓練場へと戻っていった。2人を見送るユウキに、仁美とリーザが姿を見せてきた。
「順調に進んでいるようですね、ユウキさん。」
リーザが言いかけると、ユウキが微笑んで頷きかける。
「だけど油断は禁物だ。アクシデントは後から湧いて出るかのようにやってくるから・・」
「そうだね・・うん。私も気合入れていかないとね。それじゃ私もえりなちゃんたちのところに行ってくるよ。」
ユウキの言葉を受けて、仁美が笑顔を見せて駆け出していった。
「頑張っているようですね、仁美さん。」
「元気の面倒とデルタの仕事。2つをこなしてるんだ。空回りしないかと心配はしてるんだけどね・・」
リーザの言葉にユウキが言いかける。
「あの連中の正体と目的を急いで調べておかないと。あれだけのことをやらかして、また来ないとは言い切れないからね。」
「今はクラウンさんたちの情報収集と、ヴィッツさんたちの調査を待つしかありませんよ・・」
ユウキの言葉にリーザが頷く。先日襲ってきた集団。彼らは必ず次の手を打ってくる。
そのために万全を期すため、デルタは準備を整えようとしていた。
時空管理局打倒のため、準備を整えつつあったローグ。彼は出撃する同士たちに襲撃の詳細を伝えていた。
「いいですか。今回の目的は、明日正午に輸送されてくるロストロギア“レリック”の奪取です。研究施設での最終チェックを終えて、本局に輸送されてくるのです。そのレリックの奪取が、私たちの次の目的です。」
ローグの言葉に同士たちが頷く。
「では各経路と配置の確認をします。細大漏らさず頭に入れておくように。」
「だったらオレも連れてってくれ。」
ローグが言いかけたところへ、ギーガが声をかけてきた。同士たちが当惑を見せ、ローグが眉をひそめる。
「オレもやってやる・・今度こそ、あの魔導師にひと泡吹かせてやる・・・」
「ギーガ、あなたもマコトやシグマと同様、昨日の疲労が残っているでしょう。同胞を死に追いやることに、私は賛同しかねます。」
「死にに行くんじゃない!仕返しに行くんだよ!このままやられっぱなしで黙ってられるか!」
「あなたは今回は手を引きなさい。今回は本格的な戦闘を行うつもりはありません。相手の戦力の分析も兼ねているのです。」
「そんな回りくどいマネができるか!オレだけでもヤツらを始末して・・!」
ローグの言葉を無視して、独断専行をしようとするギーガ。だがその彼の眼前に一条の刃が飛び込んできた。
ローグの所持する槍の形状のグラン式オールラウンドデバイス「ジャスティ」だった。
「あまりにも身勝手なのは、さすがの私も感心しかねますよ。最悪の場合、あなたをこの場で倒さなくてはならなくなります・・・!」
鋭く言い放つローグに睨まれ、ギーガが動けなくなる。その殺気に襲われて、ギーガは不本意ながら恐怖を募らせていた。
「そんなに邪険にしないでください。今回、あなたもついてきて構いませんよ。」
ローグは微笑みかけると、ジャスティの刃をギーガから離す。殺気から解放されて、ギーガが安堵の吐息をつく。
「では今度の出撃にはギーガも同行。それ以外の変更点はなしです。」
ローグは改めて、ギーガや同士たちに向けて呼びかけた。
ジュン、クオン、ネオンが正式にデルタの一員となってから一夜が明けた。その日、えりなと健一の課す訓練が開始された。
最初の訓練はえりなと新人たちに分かれての模擬戦。各メンバーの課題を見出すことが目的である。
えりなや健一が抱いていた教育方針は、教官職のような基礎を重点的に学ばせるものではなく、模擬戦といった実戦的なものを重視する教導隊の方針に基づいている。
クオンがグラン式ブレイドデバイス「スクラム」を振りかざし、活路を切り開く。
ネオンがライフル型インテリジェントデバイス「レールストーム」を発砲する。
そしてジュンがフレイムスマッシャー、フレアブーツを身にまとい、中央突破する。
模擬戦をこなす中で、3人のチームプレイが確立されていく。そのよい点、悪い点をえりなと健一が見出していく。
そしてその模擬戦が終わり、えりなたちは休憩に入っていた。ジュン、クオン、ネオンは疲れ切って呼吸を荒くしていた。
「ふぅ・・こんなにきついものだとは・・・」
クオンが大きく息をついて、訓練の厳しさを痛感する。
「3人ともすごいよ。最初にしては少しきついかなって思ってたけど、十分ついてこれてたよ。」
そこへえりながジュンたちに向けて声をかけてきた。3人は彼女の話に耳を傾ける。
「クオン、剣は切りたいものを切るだけじゃない。使い方次第で防御することもできるからね。」
「はいっ!」
えりなからの指摘にクオンが答える。
「ネオンは射撃を正確に。全身に眼があるって感じて、逃さずに撃っていくこと。」
「分かりました!」
続けて出たえりなの指摘に答えるネオン。
「それからジュン、あなたはいつも力任せに突っ込んでいくのが多いよ。緩急を付けてみると、けっこう違ってくるものだよ。」
「緩急、ですか・・・」
「そう。フェイントをうまく取り入れていくと、相手も慎重になってくる。そうなってくれば、力での攻撃もうまく決まるようになる。」
えりなの指摘を受けて、ジュンが当惑を見せる。自分の戦い方を振り返り、模索していた。
「それじゃ、ひと休みしたらもう1度模擬戦をやるよ。それぞれ注意点を頭に入れながら取り組んでよね。」
「はいっ!」
えりなの呼びかけにジュンたちが答える。4人のやり取りを、健一と仁美が遠くから見つめていた。
「どう、小さな教官くん?」
「みんな鍛えがいのある連中ばっかっスよ。今はえりなだけに任せてるけど、近いうちにオレも加わることになる。
仁美に聞かれて、健一が淡々と答える。
「これから個別の訓練も始めるつもりっス。そんときには明日香も一緒にやることになる・・・」
健一の言葉に仁美は頷く。新人たちの訓練は、さらなる拍車をかけようとしていた。
同じ頃、ユウキはヴィッツからの連絡を受けていた。ヴィッツたちは襲撃者に関する情報を得て、報告を入れていた。
「ロア・・それがあのときの襲撃者たちの名前か・・」
“はい。ミッドチルダの前にも、彼らはいくつかの場所を襲撃しています。その何度かに、彼らはロアと名乗っています。”
ユウキに向けて、ヴィッツがさらに報告を行う。
“ロアの襲撃地点、襲撃目標は、いずれも管理局に関わりのあるものでした。私たちに何らかの恨みがあるか、それとも別の何かが・・”
「そうか・・とにかく、連中には注意が必要だ。ヤツらはオレたちの阻害を利益としている。単純に破壊行為を楽しんでいるとはとても思えない・・」
ヴィッツたちからの報告を受けて、ユウキが思考を巡らせる。
「おそらく、連中の次の狙いは、今日の正午に輸送されてくるレリックだ・・」
ユウキが口にした言葉に、ヴィッツたちだけでなく、彼の隣にいた明日香も頷いた。
「お前たちは研究所から輸送トラックを追ってくれ。ミッドチルダからはえりなたちを向かわせる。」
“分かりました。ではトラックの追跡と護衛を開始します。”
ユウキからの指示を受けたヴィッツが通信を終える。ロアの出方を気にしていたユウキは、真剣な面持ちを浮かべていた。
(ロア・・いったい何が目的なんだ・・それがある程度でも分かれば、対策の立てようもあるんだけどな・・・)
思考を巡らせるユウキが、打開の糸口を必死に探っていた。
ミッドチルダ市街にある時空管理局本局に向かって走行する輸送トラック。その動きを、ローグ率いる小隊が見据えていた。
「あれか・・さっさとレリックってヤツを奪い取っちまおうぜ。」
ギーガが憮然とした態度で言いかけるが、ローグに制される。
「焦りは禁物と言ったはずです。護衛の局員が近くにいるはずです。注意を怠らぬよう、お願いしますよ。」
「分かったよ。ったく、お前のやり口はどうも苦手だぜ、ローグ・・」
ローグの言葉に、ギーガは腑に落ちないながらも了解する。他の同士たちも真剣な面持ちで頷く。
「では行きますよ。ミーティング通りにお願いしますよ。」
ローグは言いかけると、同士たちとともに暗躍を開始した。小隊はトラックの左右に分かれ、タイミングを見計らって、ローグが後方から、ギーガが前方から飛び込んだ。
「なっ!?」
驚く運転手の眼前で、ギーガが飛び込んできた。前方のガラスを打ち破り、運転席に殴りこむ。
運転手と助手席にいた研究員を突き飛ばし、外に追いやるギーガ。乗り込んだ車のハンドルを取り、アクセルを踏んで加速させる。
護衛していた魔導師たちが、暴走するトラックを止めようとするが、左右に潜んでいたロアのメンバーに迎撃されてしまう。だがそれでも、魔導師の1人がタイヤを狙撃してパンクさせ、トラックを止めることに成功する。
動けなくなったことに毒づいたギーガが外に出る。
「なめたマネしてくれるじゃないか・・容赦しないぞ、貴様ら!」
いきり立ったギーガが、降り立った魔導師たちに向かって飛びかかっていった。
デルタ本部に警報が鳴り響いた。輸送トラックが襲撃にあったとの通報だった。
その警報を耳にして、えりなとジュンたちが模擬戦を中断する。ブレイブネイチャーを下げるえりなに、明日香とラックスが駆け込んできた。
「何があったの、明日香ちゃん!?」
「レリックを運んでいる輸送トラックが襲われたよ。」
問いかけるえりなに明日香が答える。
「護衛の局員が食い止めてるけど、いつやられるか分かんない。それであたしらデルタに出動要請が来たってわけ。」
ラックスが説明を入れると、えりなと健一が頷く。
「ジュン、クオン、ネオン、合同訓練は中断だ。しばらく休んでてくれ。」
健一がジュンたちに向けて呼びかけ、本部に戻ろうとした。
「私も行かせてもらえないでしょうか!?」
そこへジュンが声をかけ、えりなと健一が眉をひそめる。
「また誰かが傷ついて、悲しい思いをしているんですよね?こういうときに私たちが行かなくてどうするんですか・・・!?」
「けどなぁ、ジュン・・お前らはまだまだ未熟だし、第一今は疲れてる。そんなヤツを現場に放り込むわけにはいかねぇんだよ・・」
「私も、私たちも、みんなを守りたいんです・・・!」
憮然とした態度で言いとがめる健一だが、ジュンはそれでも出撃を諦めない。するとクオンが立ち上がり、続けて言いかける。
「僕も大丈夫です!襲撃者の犯行を、僕たちが阻止してみせます!」
「クオンくん・・」
クオンの呼びかけにジュンが戸惑いを見せる。
「あたしも行けます!絶対に、みなさんの足手まといにはなりませんから!」
「ネオンちゃん・・・」
続いてネオンが呼びかけ、ジュンが微笑みかける。3人の決意を垣間見たえりなも、微笑んで頷いた。
「分かった。3人とも、すぐに準備して。」
えりなのこの言葉にジュンたちが笑みをこぼす。だが健一は納得していなかった。
「おい、えりな!コイツらは・・!」
「分かってる。でもやる気になってる3人の気持ちを無視するなんて、私にはできない。自分で決めたことだから、覚悟もできてるし諦めの気持ちもない。」
反論する健一にも、えりなは笑顔を見せる。彼女の決心を聞いて、健一は苦笑するしかなかった。
「仕方ねぇなぁ。それじゃオレは外からサポートを入れるぜ。だからお前らが任務の中心に立つことになるからな。」
「僕たちが、任務の中心に・・・」
えりなたちの気持ちを汲み取った健一が口にした言葉に、クオンたちが戸惑いを見せる。
「詳しいことはユウキさんから出るだろうけどさ。何にしてもお前らは任務の中心、オレらはお前らのサポート役に回る。」
「健一さん・・・ありがとうございます!必ずやり遂げます!」
健一に対してクオンが感謝の意を示して頭を下げる。
「それじゃみんな、急ごう。ユウキさんたちが待ってる・・」
明日香の言葉にえりなたちが頷く。彼らはロアの襲撃に立ち向かうべく、駆け出していった。
ロアの犯行の知らせを受けて、デルタ本部は緊張に包まれていた。指示を出すユウキに、えりなたちが駆けつけた。
「ユウキさん!」
「えりなちゃん、みんな・・・!」
えりなが声をかけると、ユウキが振り返る。
「ユウキさん、私たちが現場に向かいます。ジュンちゃんたちも一緒です。」
「新人メンバーも連れて行くのか・・・!?」
えりなの言葉にユウキが眉をひそめる。
「私たちが頼んだんです!絶対にみんなを守ってみせます!」
えりなが弁解の意味を込めて言いかける。彼女の気持ちを汲み取って、ユウキは頷いた。
「よし、分かった。新人たちの指示はえりなたちに任せる。」
「分かりました。お任せください。」
ユウキの呼びかけを受けて、えりなが敬礼を返す。
「それじゃみんな、行くわよ。」
「クラウン、予定より早いが、お前の出番だぞ。新人たちを送ってやってくれ。」
ジュンたちに呼びかけるえりなの後ろで、ユウキがクラウンに呼びかける。
「了解♪待ってました♪」
クラウンが立ち上がって、期待に胸を躍らせる。彼女はヘリコプターパイロットの資格と艦船操舵ライセンスを有しており、ヘリコプターや艦船の操縦の腕前は指折りである。だが最近はオペレーターに専念していたため、このことを知っているのはデルタの一部の人間だけである。
「みんな急いで♪一気にひとっ飛びだからね♪」
「えらく上機嫌ですね、クラウンさん・・」
半ば舞い上がり気味なクラウンに、えりなが思わず苦笑いを浮かべる。
「だって久しぶりに運転ができるんだからね♪心配しないで♪危ない運転じゃないってことは、ユウキさんと仁美さんが証人だから♪」
機嫌をよくしたまま、クラウンが大型ヘリコプターに向かっていく。その様子にやや不安げな面持ちを浮かべる健一だった。
だがクラウンの運転するヘリコプターは問題なく飛行した。
「ふぅ。何とか無事に飛んでよかったぞ・・・」
「だから言ったじゃないの。危ない運転じゃないって。」
安堵の吐息をつく健一に、クラウンが笑みを浮かべて答える。
「ところでえりなちゃん、作戦はどういったものなの?」
クラウンが真剣な面持ちを浮かべて、えりなに訊ねた。
「まずは私、健一、明日香ちゃんが出て、襲撃者の注意を引きつける。その間にジュンたちがレリックの保護を行う。」
「でも、相手の中に慎重な人がいるかもしれない。交戦も十分起こりうる。」
えりなに続けて明日香が言いかける。大人数を抱える集団ならば、頭脳派がいても不思議ではない。
「大丈夫です。どんな相手が出てきても、こっちも落ち着いて対応します。」
そこへジュンが言いかけ、クオンとネオンが頷きかける。
「分かった。私たちもサポートしたいとは思ってるけど、そればかりに頼らないこと。自分自身の強さと、あなたたちのチームワークが優劣を左右するから。そのことを肝に銘じておいて。」
「はいっ!」
えりなの言葉にジュンたちが答える。それぞれの思いを胸に秘めて、少年少女の初陣が始まろうとしていた。
「みんな、もうすぐ着くよ。気を引き締めてちょうだいね・・・!」
次回予告
ついに開始された新生デルタの初戦。
ロアの猛威が迫る中、クオンに押し寄せる葛藤。
自分の何のために戦うのか?
何のために剣を手にしているのか?
その答えを見つけるため、少年は未来を切り開く。
戦いを好む者と好まざる者・・・