魔法戦記エメラルえりなResonance

第25話「ミンナノココロ」

 

 

 漆黒に彩られた虚無の世界。その真っ只中を、ジュンはさまよっていた。

(寒い・・私の心が裸になってるのもあるんだけど・・・)

 肌寒さを痛感して、ジュンが自分の体を抱きしめる。

(これが霞美さんの心の中・・カオスコアに汚染された心・・・まるで雪国の中に放り込まれたみたい・・・)

 霞美の心の闇を感じて、ジュンが不安を覚える。

(えりなさんもカオスコアだった・・カオスコアの力を発揮したえりなさんも、このように暗く冷たかったのかな・・・)

 考えを巡らせるうち、ジュンが周囲を見回す。

(えりなさんと健一さんは?・・私と一緒に、霞美さんの心の中に入ったはずなのに・・・)

 えりなと健一の姿が見えず、ジュンが当惑する。

(私しかここにいないとしたら、もう私が何とかするしかない・・霞美さんを引き戻すしかない・・・!)

 気持ちを引き締めて、霞美の意識に向けて、ジュンはこの虚無の空間を進んでいくのだった。

 

 えりなたちの石化を解いたことで、体力を著しく消耗していたシャマル。だがほとんど回復し、遅れて地球に赴こうとしていた。

「お願いです、シャマルさん・・みなさんに、力を貸してあげてください・・」

 クラウンがシャマルに一礼し、自分の願いを託す。

「私には今の戦況を切り抜ける力はありません・・ですが、みなさんの傷を癒すことはできます・・」

「体の傷だけじゃなく、心の傷も・・・」

 言葉を返すシャマルに、仁美が声をかけてきた。仁美はリオとディオンを連れてきていた。

「あなたたちも来たのですね・・」

「私はまだ、辻健一との決着を着けていない・・このまま彼を死なせるわけにはいかない・・」

 優しく声をかけるシャマルに、リオが自分の気持ちを告げる。

「健一さんも隅に置けないですね・・・行きましょう、一緒に・・」

「あと1人、一緒に連れて行ってほしい人がいるの・・・」

 笑顔を見せるシャマルに、仁美が続けて声をかける。そこにはもう1人、少女の姿があった。

「あなたは・・・!?

 その少女にシャマルが驚きを覚えた。

 

 えりな、健一、ジュンが霞美と衝突した瞬間、霞美の周囲に白と黒の光が球状に展開していた。

「何だろう・・何が起こっているんだろうか・・・?」

「ジュンちゃんやえりなさんたち、大丈夫かな?・・・何もなければいいんだけど・・・」

 クオンとネオンが心配の声を口にする。

「こうなったらオレがあのヘンな光を打ち破ってやる!」

「待ちなさい、ロック!・・何が起こってるのか分かんないのよ。下手に手を出して、えりなや霞美さんたちに何かあったら・・・」

 飛び出そうとするロッキーをティアナが呼び止める。苛立ちを浮かべながらも、ロッキーは思いとどまった。

「今はまだ、被害が広がらないようにしながら、こうして見守るしかないんだね・・・」

「信じて待とう、えりなちゃんたちを・・えりなちゃんたちなら、きっと・・・」

 明日香と玉緒も深刻さを押し隠して言いかける。

「絶対帰ってくる!ジュンも霞美も、必ず僕たちのところに戻ってくる!」

 そこへマコトが声を上げてきた。

「そうだ・・ジュンは僕が信じ抜いている1番の友達だ・・こんなことでダメになるなんてことはない・・・!」

 歯がゆさを募らせながら、マコトが言いかける。彼女はすぐにでも飛び出したい気持ちを必死に抑えていた。

(ジュン・・必ず戻ってきて・・・みんな、待ってるんだから・・・)

 ジュンへの信頼を胸に秘めて、マコトはこの場で待ち続けることにした。

 

「ジュン・・眼を覚まして、ジュン!」

 呼びかけてくる声を耳にして、ジュンは意識を取り戻した。眼を開けた彼女の視界に、えりなと健一の姿が飛び込んできた。

「えりなさん・・健一さん・・・私、2人を探していたはずなのに・・・」

「この空間の中を流れてたんだぞ・・・気を失ってたのか・・・」

 困惑するジュンに健一が言いかける。

「そうかもしれません・・・でも、2人を見つけられてよかった・・・」

 えりなと健一との再会に、ジュンが安堵の笑みを浮かべる。だが3人はすぐに真剣な面持ちを浮かべる。

「ここが霞美さんの心の中・・ここに霞美さんの意識が、魂があるわけですね・・・」

「多分、私と同じように、カオスコアの中に閉じ込められているかもしれない・・行ってみれば分かる・・」

 ジュンの言葉にえりなが答える。

「感覚を研ぎ澄ましてくれ・・オレはカオスコアでも、アイツと関わりが深いわけでもねぇから・・」

「分かったよ、健一・・やってみる・・・ジュン、手伝って・・」

「はい・・・!」

 健一の言葉を受けて、えりなとジュンが感覚を研ぎ澄ます。2人の意識が霞美に向かって飛んでいく。

(霞美さん、どこにいるの?・・私たちの声に答えて・・私たちに心を開いて・・・)

 一途の思いと願いを募らせて、ジュンが眼を見開く。彼女の視界にひとつの水晶が出現する。

 その中には、えりなたちと同じように一糸まとわぬ姿の霞美が閉じ込められていた。

「霞美さん・・・!」

 たまらず声を上げるジュン。霞美の意識はその水晶の中に閉じ込められていた。

「やっぱり私のときと同じ・・カオスコアの中に閉じこもっている・・・」

「コアに閉じこもってるから、コイツはコアの力を抑え切れなくなり、感情の赴くままに行動しているんだ・・」

「すぐにここから出してあげないと・・このままにしておけない・・・」

 えりな、健一、ジュンが言いかける。ジュンが霞美を閉じ込めている水晶を叩く。

「霞美さん!眼を覚まして、霞美さん!この中にいたらいけない!」

 必死に霞美に呼びかけるジュン。すると霞美が閉じていた眼をゆっくりと開いてきた。

「霞美さん、みんながあなたのことを待っています!一緒に帰りましょう!」

「何を言ってるの?・・みんなが、私たちの大切なものを奪ったじゃない・・だからもう、あなたたちのいう帰る場所は、自分で作るしかないの・・・」

 冷徹に告げる霞美に、ジュンが戸惑いを覚える。

「コイツ・・カオスコアに影響されてるのかよ・・・!?

「違う・・これは霞美さんの本心・・心の底から、仲間や家族を傷つけられたことに怒っている・・・」

 歯がゆさを見せる健一に、えりなが言いかける。

「私たちの罪なんだよ・・私たちが正しいと思ってやったことが、どこかで誰かを傷つけたり、悲しませたりしている・・昔も、今も・・・」

「えりな・・・」

「私たちはしっかりしないといけない・・何が正しくて、何が間違っているのか、しっかりと考えないといけない・・考えてすぐに分かるほど、私たちが直面しているこの問題は単純なものじゃないけど・・」

 深刻な面持ちで言いかけるえりなに、健一が小さく頷く。

 現実はドラマのように勧善懲悪にはできていない。法によって管理が敷かれているものの、それが正義の一枚岩とは言い切れない。罪のほとんどが法における悪に相当しているが、仲間、家族のための行動が法と対照的になることも少なくなく、正義と悪への分け隔てができないこともある。

「でも今は、霞美さんを止めることが最優先・・みんなの居場所が壊れてしまうことが正しいことだなんて、絶対に違う!」

 気持ちを引き締めたえりなが、霞美を閉じ込めている水晶に手を当てる。

「霞美さん、そこから出て!私たちに謝らせて!」

 えりなが呼びかけると、霞美が一瞬戸惑いを浮かべる。

「私たちがあなたを追い込んでしまったのなら、私はあなたに謝らなくちゃいけない・・でもあなたがそこに閉じこもっていたら、私は言葉を伝えることができない・・・だから霞美さん、そこから出てきて!」

「出てきて何になるの?・・そんなこと言って、私の心まで傷つけようというの・・・?」

「そこまで私たちが憎いなら、出てきた瞬間に、私にその憎しみを全部私にぶつけてくればいい・・そうすればあなたが傷つくこともない・・」

 冷たくあしらおうとする霞美に、えりながひたすら呼びかける。彼女の言動に霞美が動揺をあらわにする。

「でも私以外に危害を加えないで・・みんな私の大切な人たちだから・・・あなたが家族を傷つけられたくないように、私も大切な人を傷つけられたくない・・だから・・・」

「どうしてそんなことをするの?・・あなたが何もかも背負おうとしても、私の心が晴れるとは限らない・・・」

「私も昔は、あなたと同じ境遇に会ったから・・・」

 微笑みかけるえりなの言葉に、霞美は戸惑いを募らせる。その動揺を表現するかのように、霞美を覆う水晶にヒビが入った。

「大切な人を傷つけられて、怒りのままに攻撃したことがあった・・でもその憎い相手に勝っても、全然気分がよくならなかった・・・傷つけても壊しても、何の解決にもならないことを、私は思い知らされた・・・」

 えりなが語りかけていくに連れて、水晶のひび割れが徐々に進行していく。

「あなたには、私と同じ苦い経験をしてほしくないの・・・」

「そんなことはない・・・そんな、ことは・・・」

「私たちは、あなたの友達になりたいの・・・」

 えりなのこの言葉に、霞美は感極まって涙を浮かべる。次の瞬間、彼女を閉じ込めていた水晶が粉々に砕けた。

「霞美さん!」

 ジュンが慌てて霞美を受け止める。もうろうとした霞美が、微笑みかけてくるジュンの顔を目にする。

「霞美さん、しっかりしてください!」

「ジュンちゃん・・・ジュンちゃんなのね・・・」

 呼びかけるジュンに、霞美が当惑する。

「霞美さん、ゴメンなさい・・私がしっかりしていれば、こんなことにならなかったのに・・・」

 沈痛の面持ちを浮かべて謝るジュン。

「もうあなたに辛い思いはさせない・・もしそんなものがあったら、私があなたたちを守るから・・・」

「ありがとう、ジュンちゃん・・・でももうダメだよ・・」

 ジュンの優しさに感謝を見せるも、霞美はすぐに悲痛さを噛み締める。

「私の中にあった怒りや悲しみが強くなりすぎて、私でも止められない・・私が望まなくても、何もかも壊してしまう・・・」

「諦めないで!壊してしまうかどうかは、霞美さんの心次第だよ!」

「諦めなければ止められるというんでしょう・・・でも分かるの・・どんなに願っても、気持ちを止められない・・・」

 呼びかけるジュンだが、霞美は物悲しい笑みを浮かべるばかりだった。

「自分だけでどうしても止められないっていうなら、私も力を貸すよ・・・」

「ジュンちゃん・・・!?

 ジュンの言葉に、霞美だけでなく、えりなと健一も驚きを覚える。

「私が霞美さんを守りながら、霞美さんと一緒にカオスコアの力を跳ね返す・・そうすれば霞美さんも、みんなも傷つかずに済む・・・」

「ジュン、あなた、まさか・・・!?

 霞美に言いかけるジュンに、えりなが声を荒げる。

「待ちなさい、ジュン!そんなことしたらジュン、あなたは2度と意識が戻らなくなるかもしれないのよ!」

「分かっています・・でも霞美さんをサポートする人がいないと・・体以上に、心が寄り添うくらいに・・・」

「そこまでいうなら、そのサポートは私がやる。あなたにそんな危ない目にあわせられない・・」

「いいえ・・これは私しかできないことなんです・・・霞美さんのためにも、みんなのためにも・・・」

 注意を促すえりなだが、ジュンは自分の意思を貫いていた。決意を固めた彼女に、えりなも健一もかける言葉がなかった。

「ゴメンなさい、わがままを言って・・・でもこういうときなのにドキドキしているんです・・自分にしかできないことが見つかった気がして・・・」

「ジュン・・・」

 微笑みかけるジュンに、えりなが戸惑いを覚える。ジュンが自分に勝るとも劣らずの大人に成長したように思えたからだった。

「そこまでいうからには、もう心配する必要はねぇな・・・」

「健一さん・・・」

 そこへ気さくな態度を見せてきた健一に、ジュンが戸惑いを見せる。

「そこまでいうならやってみろ・・けどな、2人とも無事に戻ってくること。それだけは守ってくれよな・・」

「健一さん・・・ありがとうございます!」

 期待を寄せる健一に、ジュンが感謝を込めて敬礼を送る。

「もう、しょうがないんだから・・どうしてそこまでムチャで頑固なんだろう・・・」

「えりなさんやなのはさんたちにだけは言われたくないですよ。みなさんも何だかんだ言って、けっこうムチャで頑固ですよ・・」

 肩を落とすえりなと、言い返すジュン。2人は顔を見合わせると、おもむろに笑みをこぼした。

「私と霞美さんで、カオスコアを切り離して追い出します。えりなさんたちはその間にカオスコアを吹き飛ばしてください・・」

「ジュン・・・分かった。私と健一は1度ここから出る。あなたと霞美さんの信念を信じてるから・・」

 声を掛け合うジュンとえりな。えりながジュンを優しく抱きしめる。

「ジュン、あなたはあなたが信じる道を進んで・・今までのように、これからも・・・」

「えりなさん・・・本当にありがとうございます・・・」

 信頼を寄せるえりなに、ジュンが笑顔を見せる。ジュンはえりなから離れて、霞美に寄り添う。

「私たちの力だけじゃ足りない・・霞美さんの勇気と力、気持ちがみんなを救うんだよ・・・」

「ジュンちゃん・・・ありがとう・・あなたと出会わなかったら、私は本当にここに閉じこもったままだった・・・」

 寄り添いあうジュンと霞美が涙を流す。健一に寄り添って、えりなが2人に微笑みかける。

「信じてるからね・・私と健一だけじゃなく、クオンやマコト、みんなも・・・」

「分かっています・・・みんなの気持ちが、ここにいる私にしっかり伝わってきています・・・」

 えりなの言葉にジュンが頷く。彼女と霞美を見つめたまま、えりなと健一は心の世界を後にした。

 

 えりなたちを包んでいた白と黒の光に異変が起こった。まばゆい閃光に変化して、一気に弾け飛んだ。

 そのまぶしさに眼をくらまされる明日香たち。直後、意識を取り戻したえりなと健一が飛び出してきた。

「えりな!健一!」

 たまらず声を上げる明日香の前に、えりなと健一が後退してきた。

「2人とも大丈夫なの!?ジュンと霞美さんは!?

 玉緒が訊ねてくるが、えりなは光を見据えたままだった。

「おい、ジュンはどうしたんだよ・・・まさか、まだあの中に・・・!?

「今は2人を信じるしかねぇ・・2人が、カオスコアの魔力を外に追い出すのを・・・!」

 マコトが問い詰めてきたが、健一は光を見つめたまま言いかける。

「アイツが言い出したことなんだ・・あそこまで決意が固かったら、オレたちは託したんだよ・・・」

「そうなのか・・・ジュン・・霞美・・・」

 健一の言葉を受けて、マコトが歯がゆさを浮かべる。ジュンと霞美の安否を、えりなたちは外から見守っていた。

 

 心の世界は、ジュンと霞美の2人だけとなった。彼女たちは心の中を取り巻くカオスコアの闇をひしひしと感じていた。

「力を合わせましょう、霞美さん・・私がしっかりと支えますから・・・」

 ジュンの呼びかけに霞美が小さく頷く。

「意識を集中して、闇を追い出すイメージを膨らませて・・・」

「これは私自身の闇・・負けたら自分に負けたことになる・・・」

 呟きかけるジュンと霞美。意識を高める中、ジュンがこれまでのことを思い返していた。

(私は今まで、きちんと夢や目標を定めていなかった・・デルタの一員として頑張っていたときも、デルタを抜けて旅に出ていたときも・・)

 ジュンの脳裏にえりなやマコト、クオンやネオンの姿がよぎってくる。

(でもようやく答えを見つけられた気がする・・みんなの幸せを絶やしたらいけない・・そう思ったから、そう願ったから、私は戦っているんだって・・・)

 自分が見出した決意を確かめるジュン。大切なもの、大切な場所、大切な人を守るために戦う。それが彼女の決意だった。

(ゴメンね、ララ、フューリー・・あんなに心配してくれていたのに・・・)

 一方、霞美も自分の気持ちを思い返していた。

(大切なものが傷つくのがイヤだった・・私がみんなを壊していったのも、傷つく辛さを分からせる意味もあったのかもしれない・・・)

 彼女は怒りと悲しみに駆り立てられて暴走する自分と向かい合っていた。

(でも、そんなことをしても、私の嫌う悪い人になるだけだった・・それじゃ、ララもフューリーも喜ばない・・・)

 自分の罪を後悔して、霞美が涙をこぼす。

(ララ、フューリー・・まだ信じてくれているなら、私に力を貸して・・・)

“ララ・・霞美を信じてる・・・”

 そのとき、霞美の脳裏にララの声が飛び込んできた。

「えっ・・・!?

 霞美は一瞬耳を疑った。傷つき倒れたはずのララの声がしたのが、確信がなかった。

「ララ・・・ララの声が・・・!」

「霞美さん・・・!?

 霞美の声にジュンが当惑を浮かべる。

“霞美・・ゴメン・・・霞美のこと、心配させて・・・”

「ララ・・心配させたのは私のほうだよ・・ララやフューリー、みんなに迷惑をかけて・・・」

“ララは大丈夫だよ・・ララ、霞美が帰ってくるのを待っているから・・・”

「ララ・・・ありがとうね、ララ・・・私にも、いるべき場所があったんだね・・・」

 ララの言葉を聞いて、喜びを戸惑いを覚える霞美。家族や仲間の大切さを、彼女は改めて実感したのだった。

“霞美さん、私もいます・・ララさんが帰ってきて、私も嬉しいです・・・”

 ララに続いてフューリーの声も届いてきた。

「フューリー・・ゴメンね・・フューリーの声を聞かなくて・・・」

“もういいんです・・・私もフューリーさんと一緒にいますから・・2人で、ううん、みなさんで待ってますから・・・”

「ありがとう、フューリー・・・待っていて・・すぐに帰るから・・・」

 フューリーの優しさも受け取って、霞美が笑顔で頷く。彼女は意識を目の前に戻し、集中する。

「帰る・・私は、みんなとまた、楽しい時間を過ごしていく・・・!」

 決意を言い放つ霞美が、ジュンとともに、心に宿っている闇を振り払った。

 

 ジュンと霞美を覆っている閃光が、徐々に黒ずんでいく。

「光が・・・まさか、カオスコアが・・・!?

「そんなことあるものか!・・ジュンが、こんなことで負けるなんてこと・・・!」

 驚愕の声を上げるネオンに、クオンが言いかける。彼らが見守る光が徐々に浮遊していく。

 そんな中、えりなが明日香たちに声をかけてきた。

「カオスコアを宇宙まで跳ね飛ばす。明日香ちゃんたちはそこを撃ち抜いて、カオスコアを破壊してほしいんだけど・・」

「宇宙での砲撃だったら、私たちが出て行くことはないよ・・クラウディアが地球の大気圏の外側で、アルカンシェルを搭載して待ってるから・・」

 明日香の答えにえりなと健一が一瞬驚きを浮かべた。

「クラウディア・・アルカンシェル・・・クロノさんが来ているんだね・・・」

「カオスコアが宇宙に出てきたら、アルカンシェルによる消滅も選択肢に入れていたんだよ・・あくまで最後の手段としてだけどね・・」

 微笑みかけるえりなに、玉緒が真剣な面持ちで言いかける。

「分かった・・まずはカオスコアを宇宙に追い出さないと・・」

 えりなはカオスコアの邪な魔力に狙いを定めて身構える。彼女の持つブレイブネイチャー・レゾナンスを、健一も握る。

「オレたちなら、どんなことも貫き通せる・・そうだろう、えりな?」

「健一・・・そうだね・・そしてその気持ちは、みんなに受け継がれていく・・・」

 声をかけてくる健一に、えりなが微笑んで頷く。

(ジュン、霞美さん、信じているからね・・・)

「力と勇気をひとつに・・・ウルティメイト・レゾナンス!」

 信頼を胸に秘めたえりなが、健一とともに持てる力の全てをつぎ込んだ。その魔力が閃光となって、上空に浮かび上がっていた光に撃ち込まれる。

 直後、えりなと健一が自分たちが撃った閃光に向かって飛びかかる。その突進力で閃光に勢いを加える。

 これがブレイブネイチャー・レゾナンスがもたらす最高の魔法「ウルティメイト・レゾナンス」である。砲撃と打撃の2つの特性を兼ね備えた魔法で、撃った砲撃に勢いを向上させつつ、相手に打撃も与えるものである。

 勢いを増した閃光は、カオスコアの光を一気に空に跳ね飛ばした。光は一気に大気圏を突き抜けて、その外で待機しているクラウディアの射程まで飛んでいった。

「カオスコア、アルカンシェルの射程範囲に入りました!」

「発射と同時に障壁展開しつつ後退する・・アルカンシェル、発射!」

 オペレーターの報告を受けて、クロノがアルカンシェルの始動キーを回す。戦況とえりなたちの会話を見聞きしていた彼らは、いつでもアルカンシェルを放てるよう備えていたのだ。

 クラウディアから放たれた弾丸が、カオスコアの光にぶつかる。その瞬間、弾丸は巨大な空間歪曲を引き起こし、邪な光を反応消滅に追いやった。

「カオスコアの魔力反応消滅。空間も安定していきます・・・」

 オペレーターからの報告を聞いて、クロノが安堵を覚える。彼は緊張を和らげてから、えりなたちへの連絡を行った。

 

 カオスコアの魔力の収縮と消滅を、えりなたちも感じ取っていた。その後、えりなたちはクロノからの連絡を受けた。

“カオスコアは消滅した・・時期にカオスコアの影響による石化も解けるだろう・・”

「ふぅ・・これで一息ってとこッスね・・」

 クロノの言葉を受けて、健一がえりなとともに安堵の吐息をつく。

「それで、ジュンと霞美さんは・・・?」

 明日香が訊ねると、えりなたちが視線を移す。白と黒の光が停滞していた場所には、横たわっているジュンと霞美の姿があった。

「ジュン!」

「霞美さん!」

 マコトとフューリーがたまらず飛び出す。クオンとララも続いて、ジュンと霞美に駆け寄る。

「ジュン!しっかりするんだ、ジュン!」

「霞美さん・・・目を・・目を開けてください・・・」

 ジュンに呼びかけるマコトと、霞美を見つめて悲痛さを浮かべるフューリー。そこへクオンがジュンを強く抱きしめてきた。

「ジュン・・・こんなことで参ってしまう君じゃない・・だから、目を覚まして・・・!」

 自分の想いをジュンに告げるクオン。彼は深呼吸すると、ジュンと口付けを交わした。

 突然のクオンの行動に、えりなたちは驚きを覚えた。クオンがゆっくりと唇を離すと、ジュンが閉じていた目を開いてきた。

「・・私たちは・・戻れたの・・・?」

「ジュン・・気が付いたんだね・・・」

 意識を取り戻したジュンに、クオンが笑みをこぼす。マコト、ネオン、えりなも喜びを感じていた。

「クオン、えりなさん、健一さん・・・カオスコアはどうなりました・・・!?

「宇宙に飛ばしたところを、クロノさんが消滅させたよ・・ジュンもうまくやったんだね・・・」

 ジュンの問いかけにえりなが答える。2人は事態の沈静化に安堵の笑みをこぼした。

「霞美さん!目を開けてください、霞美さん!」

 そのとき、フューリーが悲痛の叫びを上げてきた。霞美の意識がまだ戻っていない。

「霞美さん・・どうして・・・!?

 目覚めない霞美の姿に、ジュンが愕然となる。

「一緒に帰るはずだったのに・・フューリーちゃんやララさん、みんなが帰りを待っていたっていうのに・・・」

 困惑を募らせるジュンが、霞美にすがりつく。

「起きて、霞美さん!みんなそばにいるんですから!」

「霞美・・・ララ、ここにいるよ・・・霞美・・・」

 声を荒げるジュンに続いて、ララも声をかける。

「霞美がいなかったら、ララも辛くなる・・・だから霞美、ララのところに帰ってきて・・・」

 ララの目から涙がこぼれてくる。彼女に心が芽生えている証拠だった。

「生命反応も魂もある・・体力も消耗はしてるけど、命に危険なほどじゃない・・」

 霞美の様子を見て、ヴィッツが呟きかける。

「だったら何で、彼女は目を覚まさないのよ・・・!?

「分からない・・・魂に何かあったのか・・・」

 声を荒げるアクシオに、ヴィッツが深刻さを募らせながら言いかける。精神面の診察は非常に繊細で、少なくともこの場での診察は不可能だった。

 押し寄せてくる悲しみを抑えて、何とか気持ちを落ち着けたジュン。霞美を目覚めさせようと、彼女はある決意をした。

「私の魔力を、霞美さんに送ります・・・」

「何を言っているんだ、ジュン!?そんなことをしても、霞美さんが目覚める確証はないんだ!」

 ジュンの言葉にクオンが声を荒げる。

「それに、ジュンも疲れ切ってるじゃないか!それなのに、霞美さんに力を送ったら、ジュンの命が・・!」

「ゴメン、クオン・・でもこれが、私にしかできないことだと思うから・・・」

 呼び止めようとするクオンに、ジュンが自分の気持ちを告げる。真っ直ぐな気持ちの彼女に、クオンは言葉をかけられず困惑を浮かべる。

「霞美さん、あなたは私が必ず連れ戻す・・それがみんなの願いだから・・・」

 ジュンは微笑んで言いかけると、霞美に向けて意識を集中する。みんなが求めていた幸せを取り戻すため、彼女は全身全霊を賭けようとしていた。

 

 

次回予告

 

かけがえのない命を守るため、体を張る少女。

家族と幸せを守るため、剣を手にする少女。

大切なものを守るため、旅を続ける少女。

少女たちはそれぞれの道を歩んでいく。

だが、その志は通じ合っている。

 

次回・「キミノウタ」

 

旅立つ者の未来は果てしない・・・

 

 

作品集

 

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