魔法戦記エメラルえりなResonance
第23話「闇の中の光」
心の中で意識を通わせたえりなと健一。無限に広がる心の闇の中、2人は肌寒さを感じていた。
「体が石になってる・・だからこんなにも寒く感じるのか・・・」
「裸の姿だっていうのもあるかもしれないね・・・」
真剣に言いかけたところで、えりなに照れ笑いを見せられ、健一は呆れて肩を落とす。
「そんなふざけてる場合じゃねぇだろ・・何とかして元に戻らねぇと・・」
「そうだね、ゴメン・・・まだ何も解決できていないし、みんなのことも気になるし・・・」
気持ちを落ち着ける健一とえりな。信頼を寄せながらも、2人は仲間たちのことが気がかりになっていた。
「えりな、何か知らないのか?・・この石化はカオスコアによるものなんだろ?なら・・」
「ダメだよ・・私の中にいたカオスコアと、霞美さんのカオスコアは別種だから・・・」
訊ねてくる健一に、えりなが沈痛の面持ちを見せる。
「マジでどうしたらいいんだ・・こうしてる間にも、アイツが何を仕出かしてるか分かんねぇってのに・・!」
「霞美さん・・これ以上何もしてなければいいんだけど・・・」
歯がゆさを覚える健一と、不安を口にするえりな。この不自由の状況に対する打開の糸口を探る以外に、2人は行動を起こすことができなかった。
霞美の手によって、惑星イースが消滅した。その事実を知って、ジュンたちも明日香たちも驚愕を感じていた。
「アイツが惑星を消したって・・・そこまですごくなってるっていうの・・・!?」
「いくら惑星が壊滅的な状況にあったっていっても、それを壊すなんて・・・!」
ライムとアクシオがたまらず声を荒げる。
「オレたちの魔法やミッドチルダの科学は、街や戦艦を吹っ飛ばせるほどにまで上がっている・・それにカオスコアはまだまだ未知な代物。星ひとつ壊せたとしてもおかしくはない・・」
「本当に何とかして霞美さんを止めないと・・でないと、本当にアルカンシェルを使うことになりかねない・・」
ユウキとフェイトが言いかけ、明日香たちが深刻さを募らせる。
「とにかく、三重野霞美の動きを絶対に見逃したらいけない。クラウン、こんな状況じゃ無理難題になるだろうが、頼むぞ・・」
「任せてください、ユウキさん。エリィたちと一緒に全力を尽くします。」
ユウキの呼びかけにクラウンが答える。
「ティアナたちはこのまま地球に滞在してくれ。地球が攻撃される可能性は低いが、ないとはいえないから・・」
“分かりました。厳重に警戒いたします。”
通信先のティアナに呼びかけるユウキ。敬礼を送る彼女との通信が終わる。
「なのはちゃんたちも体を休めてくれ・・それと、何とかしてえりなたちを元に戻さないと・・・」
ユウキの呼びかけに明日香が頷く。
えりな、健一、ヴィータ、ヴィッツ、ダイナは石化されたままである。依然としてその解除の手段を見つけられずにいた。
「あ、あの・・・私にも、何か手伝わせていただけないでしょうか・・・?」
そこへフューリーが声をかけてきた。
「私、責任を感じているんです・・私がしっかりしていれば、霞美さんをあんな姿になることもなかったんです・・・だから、私・・・」
「君の協力は、今のオレたちにとってはとても心強い・・だけどひとつ、オレたちは霞美さんがあんなことになったのを、君の責任だとは思っていない・・」
切実に言いかけるフューリーに対し、ユウキも切実な態度を見せる。その返事にフューリーが戸惑いを覚える。
「霞美さんを暴走させてしまったジョンは、ジュンたちが撃退した・・捕まえて連れてくることはできなかったが、霞美の心の痛みは伝わっているはずだ・・」
「ありがとうございます・・・私のできることを、精一杯やらせていただきます・・・」
ユウキの励ましの言葉を受けて、喜びを感じるフューリー。笑顔を見せた彼女が感謝の意を示した。
「ところでユウキさん、仁美さんは・・?」
玉緒がユウキに質問を投げかけた。気持ちを落ち着けてから、ユウキはその問いに答えた。
その頃、仁美とリーザは海上隔離施設に赴いていた。年少者や若年者の犯罪者の収監所ではあるが、更正施設としての意味合いが強い。
その中の牢獄の1つに、リオとディオンはいた。魔力を封じられて拘束されていた2人の前に、仁美たちはやってきた。
「何のようですか?・・話を聞く限り、大変なことになっているようですが・・・」
リオがおもむろに仁美たちに声をかける。リオもミッドチルダで起きた悲劇を耳にしていた。
「あなたたちの力を借りたいの・・今の私たちは、猫の手も借りたい状態にあるの・・」
「何を言っているのか分かっているのですか?私たちは、あなたたちの敵だった人間ですよ?」
「それは先刻承知よ。あなたたちの力は、未来さえ切り開くことができる。そう確信してるから・・」
懸念を見せるリオだが、仁美は淡々と言いかける。
「ただし条件があるの・・シンギュラーシステムは、基本的に使用禁止。」
「シンギュラーシステムを、ですか・・?」
「あなたのシンギュラーシステムは、攻撃力だけでなく、体への負担も大きい。多用すると寿命を縮めることになる・・」
「それは私も自覚しています・・」
「それならいいんだけど・・・どうしても使わないといけないとき、使うべきだと思ったとき以外は使わないで・・あなたたちは、2人きりじゃないんだから・・・」
仁美がかけた言葉に、リオは戸惑いを覚える。ディオンをはじめとしたイースの面々だけではなかった。敵視していたはずのミッドチルダにも、仲間となってくれる人々が存在していた。
「ありがとうございます・・・そこまで・・そこまで私を信頼してくださるとは・・・」
喜びが膨らむあまり、リオは眼から涙をこぼしていた。彼女にとってそこまで自分が慕われたことは今までなかった。
「あなたも協力してくれますか?あなたの強さも、この世界に欠かせないものですよ・・」
「私はリオの守護獣。リオとともにある。リオが赴くところならば私も行くぞ・・」
リーザが声をかけると、ディオンは落ち着いた様子のまま答える。
「力を貸しましょう・・まだ、辻健一さんとの決着は着いていないのですから・・・」
デルタへの助力を決意したリオは、ディオンとともに施設から出るのだった。
霞美の行方をレーダーで追うクラウン。エリィ、カレン、ルーシィも懸命に捜索を行っていた。
「目標は惑星ファビアにて停滞。バリアを解除して呼吸を整えています・・」
「構造は人間になっているようです・・バリアは酸素がもれないようにもしていたようです・・」
「星は壊せても、宇宙でも動けるわけではないようです・・・」
エリィたちが報告と不安の言葉を口にする。
「あなたたち、集中して。転移してくることもあるから。」
「今のところ、魔力を強めてはいません・・引き続き監視を続けます・・」
クラウンが注意を促し、エリィが続けて報告を告げる。
「私たちのこの行動が、世界を左右しているのだから・・・」
「あまり気負うな、みんな・・ムチャして倒れたら元も子もない・・」
呟いていたクラウンに声をかけてきたのはユウキだった。
「ユウキさん・・・」
「通信士やオペレーターも立派な戦力であり、仲間だ。その仲間に倒れられてほしくないんだ・・」
「すみません・・ですがここは、私たちの正念場ですから・・・」
ユウキから励まされて、クラウンが笑顔を見せる。彼女は霞美の監視に再び集中する。
「そろそろ仁美が戻ってくる・・それと、フューリーの身体検査もそろそろ終わるだろう・・」
ユウキが仁美たちと合流すべく、クラウンたちの前から立ち去ろうとしたときだった。
「目標、転移を開始しました!追跡します!」
「何っ!?」
カレンの言葉にユウキが声を荒げる。
「位置特定できました・・これは・・!?」
「どうしたの!?」
ルーシィの言葉にクラウンが問い返す。
「目標の現在位置・・第97管理外世界です!」
「なっ・・・!?」
その言葉にユウキたちは愕然となった。霞美が転移を行い、地球に戻ってきたのだった。
破壊と転移を繰り返してきた霞美は、地球の空に姿を現した。自分が今まで住んできた町を、彼女はじっと見下ろしていた。
(私はあそこで生活してきた・・そして、ララやフューリーとも・・・)
数々の思い出を思い返していく霞美。
(でも、そこで辛いこともたくさんあった・・・)
だが霞美の表情が徐々に曇っていく。
(その辛いことも、みんなのために消さないといけない・・)
心を凍てつかせた霞美が、眼下の街に敵意を向ける。
「この街も消さないと・・ララのために・・みんなのために・・・」
霞美がかざした左手から漆黒の閃光を放つ。その光に包まれた建物や人々が、次々と石に変えられていく。
「こうしてみんな止めてしまえばいい・・辛いことも起こらなくなるから・・・」
石化されていく街を見下ろして、霞美は妖しい微笑を浮かべていた。
霞美の突然の地球への攻撃。信じられない行動に出た霞美に、ユウキが歯がゆさを覚える。
「予想できたこととはいえ、本気で攻撃してくるとは・・・!」
「カオスコアの力で、石化を広げています・・これでは地球全体が・・!」
苛立ちを見せるユウキと、声を荒げるカレン。
「すぐにティアナたちに連絡するんだ!オレたちもすぐに地球に向かう!」
「分かりました!なのはさんたちにも連絡を入れます!」
ユウキの呼びかけにエリィが答える。
(これが最悪の事態だったとは・・もう妥協している場合じゃない・・彼女のためにも、オレたちが全力で止める・・・!)
目の前に迫った戦いに備えて、ユウキは動き出すのだった。
「えっ!?霞美さんが地球を!?」
クラウンからの連絡を受けて、玉緒が声を荒げる。
「私たちも急いで地球に行かないと・・・!」
明日香が言いかけると、なのはたちが頷く。
「私たちは先に彼女を押さえるわ。ナディアたちはティアナたちと合流して。」
「分かりました!ランスター隊に合流します!」
なのはの指示にナディアが答える。
「シャマル、ヴィータたちのこと頼むわ・・」
「任せて、はやてちゃん・・みんなを元に戻したら、私もすぐに行くから・・・」
はやての呼びかけにシャマルが答える。
「アクシオ、あなたもここに残って。あなたの力も、えりなちゃんたちを助ける切り札になると思うから・・」
「玉緒・・・任せてよ!必ずみんなを元通りにするんだから!」
玉緒の呼びかけを受けて、アクシオが意気込みを見せる。
「それでは行きますよ・・私たちの故郷を守りに・・・」
明日香は言いかけると、自分の故郷を守るため、霞美との戦いに臨むのだった。
同じ頃、ティアナたちもクラウンから、霞美襲撃の知らせを聞かされていた。
「霞美さんが地球を襲うなんて・・・!」
「そんなバカな!?地球は霞美さんが今まで住んでいたところだぞ!あの人が攻撃するわけが・・!」
ジュンとマコトがたまらず声を荒げる。霞美が地球を攻撃したことが信じられなかったのだ。
「霞美さんはイヤなものへの憎しみが強くなりすぎてる・・イヤなものを徹底的に排除しないと落ち着かない・・もう見境がなくなってるとしか・・」
「そんな・・霞美さんが、心を失くすなんてこと・・・」
落ち着いた様子で言いかけるティアナに、スバルも困惑を見せる。
「あなたがギンガさんを傷つけられたときと同じよ。怒りや憎しみに駆られて、自分の体やマッハキャリバーが傷つくのも省みずに攻撃を繰り返した・・今の霞美さんは、そのとき以上に暴走していると見るべきよ・・」
「今の霞美さんが、見境をなくしてしまってるってこと・・・!?」
固唾を呑むスバルに、ティアナが小さく頷く。
「それだけの暴走をすれば、体力の消耗と体の負担が蓄積されて、いずれ活動不可能となる。でもカオスコアである霞美さんは、膨らませている憎悪を力に変えている。体力も体もその力で回復し、力尽きることはない・・」
「それじゃどうするんですか!?そんなの、普通の敵でも厄介じゃないですか!?」
ティアナが口にした言葉に、コロナが慌てふためく。
「落ち着いて、コロナ!・・その回復もその人が意識して発揮されるもの・・だから意識を失わせれば、一時的に回復を抑えられる・・ううん、意識を失えば、精神状態も安定に向かう・・」
「意識を失わせる、か・・それなら僕の得意分野だ・・」
コロナに呼びかけるティアナと、不敵な笑みを見せるマコト。
「油断したらダメよ。相手は星さえ壊すほどの力を発揮しているのよ・・・」
「だからって逃げるわけにいかない!下手したら地球が壊されるんだ!なのに僕は逃げるなんてできない!」
ティアナが注意を促すが、マコトは考えを変えない。その態度を見て、ジュンも笑みをこぼす。
「マコトらしいね・・相変わらずといったところかな・・」
「ジュンだって、このまま黙ってるわけじゃないよね・・?」
言葉を交わすジュンとマコト。2人を見つめて、レイとスバルが微笑み、ティアナが呆れる。
「どこまで行っても問題児なのね、あなたたちは・・・でも・・」
ため息をつくティアナだが、すぐに自信を込めた笑みを見せる。
「あたしも、アンタたちに負けず劣らずのガムシャラなんだけどね・・」
「行きましょう、ティアナさん、スバルさん!霞美さんを救い出しましょう!」
ジュンの呼びかけにティアナたちが頷く。
「すぐになのはさんたちも来るわ。あたしたちに、エリオたちと合流するように言われてる・・」
「エリオたちが・・無事だったんだね・・・」
ティアナの言葉にスバルが喜びを覚える。
「ではエリオさんたちに会いましょう・・ネオンちゃんとも、クオンとも・・・」
呼びかけながらも、仲間たちと会えることに安堵するジュン。彼女たちはクオンたちと合流すべく、そして霞美の暴走を止めるべく、コテージから飛び出していった。
ミッドチルダから地球へと急行した明日香たち。到着した海鳴市は、まだ霞美の攻撃を受けていなかった。
「霞美さんはまだここには来ていないですね・・」
「でもこっちに近づいてきてる・・私たちの魔力を上げて、人のいない海のほうにおびき寄せるしかない・・」
明日香とフェイトが声を掛け合う。彼女たちは霞美の接近をひしひしと感じ取っていた。
「できれば地球からも遠ざけたいところだけど、それが通じないのはこの前分かってる・・」
「こうなったら被害を抑えて食い止めるしかないってことだね・・」
なのはとライムが言いかけると、明日香たちが頷く。
「私たちの思いと願いを、全部彼女にぶつけよう・・もしも人の心が失われていないなら、必ず伝わる・・・」
「大切な人たちと、いつまでも幸せな時間を過ごしたい・・それは、私らの願いでもある・・・」
ジャンヌとはやても呼びかける。彼女たちは霞美の心への信頼を捨ててはいなかった。
「ユウキさんから、出力リミッターの解除を受けてる・・霞美さんに、私たちの全てをぶつけられる・・・」
「来るよ・・彼女を海のほうに追いやらないと・・!」
明日香とフェイトが言いかけたときだった。漆黒のオーラをまとった霞美が、明日香たちの前に姿を現した。
「あなたたち・・あの世界の人たち・・・ここにまで・・・」
ミッドチルダの魔導師、騎士を目の当たりにして、霞美が憤りを膨らませていく。
「壊さないと・・ララのためにも・・・」
「ララのためっていうけど、本当は自分のためじゃない・・・」
霞美に対して、なのはが冷徹な態度を見せてきた。
「自分がイヤな思いをしたくないから、家族や友達のためと言いながら壊しているんじゃない・・」
「ララを傷つけた人・・何も知らないのに、ララを傷つけただけじゃなくて、そんな自分勝手なことを!」
そのなのはの態度に怒りを爆発させる霞美。漆黒のオーラが吹き荒れて、周囲を揺るがす。
「僕が突っ込んで海に突き飛ばす!石化には十分に気をつけるよ!」
ライムが飛び出して、霞美にクリスレイサーを突き出す。
「クリスレイサー、ソリッドモード!」
“Solid mode drive ignition.”
ライムの呼びかけを受けて、クリスレイサーが光刃を発する。同時に彼女のバリアジャケットが、軽量化された「ソリッドフォーム」に変化する。
超高速となったライムの突進を受けた霞美が、抵抗できずに海まで突き飛ばされた。
「ライムを追いかけよう、みんな!」
フェイトが声をかけ、明日香たちが頷く。彼女たちはライムと霞美を追いかけていく。
海鳴市からかなり離れた海上に出たライム、霞美、そして明日香たち。
「ここなら被害も最小限に食い止められる・・でも、それでも気休めというところだけど・・」
「海でも・・私の気持ちは変わらない・・ララを傷つけたあなたたちを、私は絶対に許さない・・・」
苦笑いを浮かべるライムと、憤りをさらに膨らませる霞美。
「まずは、ララを傷つけた人から・・・ララを傷つけて、それが正しいと思い込んでいる悪い人・・・2度と悪さができないように、消してあげる・・・」
「口で言っても分からないんじゃ・・体を張って止めるしかない・・・」
敵意をむき出しにする霞美に、なのはが身構える。彼女たちは各々のデバイスのリミットブレイクの起動を敢行した。
明日香たちと別行動を取っていたクオンたち。竜魂召喚を果たしたフリードリヒの背に乗った彼らが、ジュンたちと合流する。
「クオン・・みんな・・・無事だったんだね・・・」
「ゴメンね、ジュン・・えりなさんたちのおかげで元に戻れたよ・・」
喜びを見せるジュンとクオン。
「でも、えりなさんたちが、霞美さんに・・・」
「話は聞いてるよ・・・私たちが、何とかするしかない・・・」
沈痛の面持ちを浮かべるネオンに、ジュンが真剣な面持ちになって答える。
「海岸まで行こう・・そこからどうするかはそこで考えよう・・」
「そうと決まったら、急行よ、みんな!」
スバルが言いかけたところで、ティアナが呼びかける。突進力のある面々は地上を走行し、それ以外はフリードリヒに乗って海を目指した。
海岸に出たジュンたちは、明日香たちと霞美の交戦を眼にする。
「霞美さん・・・もう壊すことしか頭にないの・・・!?」
破壊の限りを尽くす霞美に、ジュンは歯がゆさを感じていた。
「止める・・止めないといけない・・みんなのために・・霞美さんのためにも!」
言い放つジュンが飛び出し、マコトも彼女に続いていった。
その頃、アクシオやシャマルたちは、えりなたちにかけられた石化の解除に尽力していた。だが石化は強固で、えりなたちが元に戻る気配さえなかった。
「えりな・・どうしたら元に戻せるっていうの・・・!?」
事態の非情さに体を震わせるアクシオ。
「クラールヴィントでも解除できない・・カオスコアの力が、ここまで上昇しているなんて・・・」
シャマルもこの事態に動揺を隠しきれなかった。
「すみません・・私にもっと力があれば・・・せめてみなさんの力を向上させることができれば・・・」
自分の無力さを痛感するフューリー。だが彼女が口にした言葉が、アクシオを奮い立たせた。
「アンタ、水の魔法は使える・・・!?」
「えっ?・・・はい・・水と風の魔法は得意ですけど・・」
アクシオに聞かれて、フューリーが当惑しながら答える。
「フューリーはユニゾンデバイス・・ユニゾンして魔法を使えば、石化を解けるかもしれない・・・!」
喜びに満ちた笑顔を見せるアクシオ。彼女の見出した希望が確信に変わった。
「それなら私とユニゾンしてください。私が石化を解除します。」
だがシャマルがフューリーとのユニゾンを申し出てきた。
「えっ?それならあたしがユニゾンしたって・・・」
「この後私たちははやてちゃんの援護に行くことになる・・攻守のバランスが取れて、さらに治癒魔法も使えるあなたが、現場では重要になってくる・・」
「そのための切り札ってわけだね、あたしは・・すごいプレッシャー・・」
シャマルに言いかけられて、アクシオが肩を落とす。
「ここは任せますよ、医務官どの。あたしは戦場の任務に専念いたします。」
アクシオが笑顔を浮かべて、シャマルに敬礼を送る。シャマルは微笑みを返すと、フューリーに視線を移す。
「それではお願いしますね。お互いを信じましょう・・」
「はい。よろしくお願いします、シャマルさん・・」
シャマルとフューリーが互いに意識を傾けあう。2人の体から淡い光が発せられる。
「ユニゾンイン!」
フューリーの体がシャマルの体に入り込んでいく。シャマルの身につけている騎士服の黄緑が青になり、髪も水色になる。
「シャマル・・体は安定してる・・・?」
「・・・はい・・今まで感じたことのない安らぎを実感しています・・・」
アクシオが問いかけると、シャマルが微笑んで頷く。
「それに力もあふれてくる・・リインとユニゾンしたとき以上・・・」
あふれてくる力を実感するシャマル。彼女はえりなたちに振り返り、意識を傾ける。
「安らぎの風よ、闇を吹き払え・・・!」
シャマルの魔力を込めた風がえりなたちを包み込む。「安らぎの風」が、霞美のかけた石化を払おうとしていた。
石化されながらも、意識は残っていたえりなと健一。2人は自力で元に戻ろうと、思考を巡らせていた。
「なぁ、えりな・・おめぇ、魔女にカオスコアを抜き取られたことがあったよな?・・魔女の中にいて、どんな気分だった・・・?」
「いきなり何なの?・・・とても暗くて冷たかった・・吹雪の吹いてる雪山の中にいるみたいだった・・・」
「今とどっちが気分が悪かった・・・?」
「こういうのって、比べる気にもならないんだけど・・・どっちも、みんなには味わってほしくない気分だってことは確か・・・」
「そうか・・・そういうもんだよな、やっぱり・・・」
えりなの答えを聞いて健一が苦笑いを浮かべる。
「ここから出よう、健一・・・みんなが待ってる・・・」
「あぁ・・こんな呪縛から何が何でも抜け出して、みんなのところに行ってやるんだ・・・!」
言いかけるえりなと健一が意識を集中する。2人は今いる漆黒の世界から抜け出すことだけを考えた。
信じ抜くことが、どんなものにも負けない力に変わる。そのことを胸に秘めて、えりなと健一が意識を傾ける。
「私たちは行く・・みんなの居場所を守り、そして帰る・・・!」
言い放つえりなが、健一とともに手を上に伸ばす。
そのとき、上に漆黒を振り払うような光が出現する。その光の中から、えりなと健一に向けて手が伸びてきた。
「みんなが手を伸ばしてくれたのか・・・後はオレたちが、その手をつかむだけ・・・!」
健一も伸ばす手に力を込める。2人がついに、光からの手をつかんだ。
次の瞬間、2人の目の前の光が一気に強まった。
「うっ・・・!」
その煌きに眼をくらまされるえりなと健一。光は2人のいた心の暗闇を一気に払拭した。
フューリーとユニゾンしたシャマルの魔法によって、石となっていたえりなと健一の体が元に戻った。続いてヴィッツ、ダイナ、ヴィータも元に戻った。
「えりな!健一!ヴィータ!みんな・・!」
元に戻ったえりなたちに、アクシオが喜びを浮かべる。
「も・・元に戻れたのか・・・」
「シャマルが、やったのか・・・」
ヴィッツとヴィータが当惑を浮かべる。石化から解放されたえりなたちに、シャマルも安堵を覚えた。
だがシャマルが突然ふらつく。倒れそうになった彼女を、ヴィータが慌てて受け止める。
「お、おい、シャマル!?」
「・・少し、力を使いすぎてしまったみたいね・・・」
声を荒げるヴィータにシャマルが微笑みかける。ユニゾンが解除され、姿を現したフューリーも沈痛な面持ちを浮かべる。
「すみません・・私がうまく力をコントロールできていれば・・・」
「ううん・・みんなを元に戻せたのは、あなたの力があればこそよ・・・ありがとうね・・・」
謝るフューリーにシャマルが微笑みかける。力を使い果たしたシャマルの姿を見て、アクシオは気持ちを引き締める。
「フューリー、アンタはまだ大丈夫だね・・・!?」
「あ、はい・・私は大丈夫です・・・」
アクシオの問いかけに、フューリーが当惑しながら答える。
「シャマル・・あなたの思い、絶対にムダにしないから・・・」
真剣に言いかけるアクシオに、シャマルが微笑んで頷く。
「アクシオ、どういう状況なのか教えて・・明日香ちゃんたちは・・?」
「・・今、地球にいる・・・地球を攻撃しようとしてる霞美と戦ってるよ・・・」
えりなが訊ねると、アクシオが現状を説明する。えりなたちも霞美との戦いのため、故郷である地球に急行しようとしていた。
次回予告
故郷での攻防。
大切なもの、大切な人、大切な場所。
ジュン、スバル、霞美。
えりなをも巻き込んで、心のぶつかり合いはさらなる拍車をかける。
共鳴するのは共存か、反発か・・・