魔法戦記エメラルえりなResonance

第22話「世界の終わり」

 

 

 ジュンたちの前に突如現れた霞美。傷ついたジョンを目の当たりにした霞美が、ジュンに眼を向ける。

「ジョンさん・・・ジョンさんまで傷つけたの・・・!?

「霞美さん、どうしたんですか!?

 鋭く言いかける霞美に、ジュンが呼びかける。だが霞美はジュンに冷たい眼差しを送るばかりだった。

「この世界も、私たちを傷つける・・・この世界も壊さないと・・・」

 霞美は憎悪をたぎらせながら、振り上げたトリニティクロスに魔力を集束させる。

「あの人・・・まさか、僕たちを・・・!?

「やめて、霞美さん!落ち着いて!」

 声を荒げるマコトと、霞美にさらに呼びかけるジュン。だが制止の声を聞かずに、ジュンたちに向けて黒い光刃を放つ。

 そのとき、レイが防御魔法「ライトニングウォール」を出現させる。光の壁が霞美の光刃を弾き飛ばし、ジュンとマコトを守った。

「お姉ちゃんたちを攻撃しないで・・・」

「レイ・・ありがとう。助かったよ・・・」

 真剣に言いかけるレイに、マコトが微笑んで感謝の言葉をかける。

“ジュン、マコト、レイちゃん、聞こえる!?”

 そこへティアナからの念話が飛び込んできた。

(ティアナさん、霞美さんがここに来ているんです!でも様子がおかしくて・・!)

“あなたたちのことはこっちも見てるわ!ここは撤退するしかないわ!”

 困惑するジュンにティアナが呼びかける。

(でも、それじゃ霞美さんが・・!?

“あなたたちも体力を使い切ってるはずよ!まずは撤退して、考えはそれからよ!”

(・・・分かりました・・・撤退します・・・!)

 ティアナの指示にジュンは渋々頷いた。

「マコト、レイちゃん・・・ティアナさんたちと合流しよう・・・」

「ちょっと待ってよ!あの人はどうするんだよ!?

 ジュンの呼びかけにマコトが抗議の声を上げる。

「今の私たちは疲れてる・・これじゃ、霞美さんを止めることもできない・・・!」

「くっ!・・・仕方がない・・・!」

 歯がゆさを見せながらも、マコトも同意する。

「レイ、ここから引き下がるぞ!」

「うん・・・」

 マコトの呼びかけを受けてレイが頷く。レイが霞美の放つ光刃を防ぎつつ、3人はスバルとティアナと合流すべく駆け出した。

「逃がさないよ・・・」

 霞美がジュンへの攻撃を仕掛けるが、レイの展開する障壁に阻まれる。ジュンたちはその間にこの場から離れていった。

「逃げられた・・・それなら先に、この世界も壊さないと・・・」

 霞美はイースの大地に狙いを変える。イースが攻撃されることに、ジョンが驚愕を覚える。

「ま、待て・・・イースを・・私たちの故郷を滅ぼす気か・・・!?

 たまりかねたジョンが、力を振り絞って立ち上がろうとする。

「やめるんだ・・霞美ちゃん・・・攻撃をやめるんだ・・・!」

 ジョンが声を振り絞って呼びかける。その声を耳にして、霞美が振り返る。

「ジョンさん・・・でもこの星は、ララやフューリーを狙ってきた悪い人たちのいる星なんですよ・・・」

「やめるんだ・・・こんなこと、ララさんやフューリーさんが望んでいるのか・・・!?

 ジョンが誠実な人間を装って、霞美に呼びかける。だが霞美は考えを変えようとしない。

「ララを傷つけた人を、私は許さない・・・」

 冷淡に告げた霞美が、改めて漆黒の光を集束させる。イースへの攻撃を思いとどまろうとしない彼女に、ジョンは愕然となる。

「こんなことが・・・こんなバカなことが起こるとは・・・!」

 思いも寄らない事態が起こったことに、ジョンは完全に冷静さを失っていた。霞美が放った黒い閃光に飲み込まれ、彼は姿を消した。

 

 霞美とジョンの前から撤退したジュン、マコト、レイ。彼女たちはメガールの戦いを終えたスバルとティアナと合流した。

「スバルさん!ティアナさん!」

「ジュン、無事だったんだね・・」

 声をかけるジュンに、スバルが笑顔を見せる。

「はい・・・ですが霞美さんが来て・・・霞美さん、様子がおかしかったです・・・」

「分かってる・・・霞美さんがあんなふうになったの、あたしたちは目の前で見てたから・・」

 深刻な面持ちで言いかけるジュンに、ティアナが気持ちを落ち着けて言葉を返す。

「どういうことなんですか・・・どうして霞美さんがあんな姿に・・・!?

 霞美の異変への謎が分からず、ジュンが声を荒げる。

「話せば長くなる・・・その話はイースから離れてからのほうがいいよ・・・」

 そこへスバルが声をかけ、ジュンが困惑しながら小さく頷いた。ティアナはコロナに連絡を取るため、念話を送る。

(こちらティアナ。コロナ、応答して。)

“ティアナさん!?・・はい、聞こえています!

 ティアナの声にコロナが慌しく答える。

“どこにいるのですか、みなさん!?地球上を調べても全然位置が分からなくて・・・!

(落ち着いて聞いて・・あたしたちがいるのは惑星イースよ・・)

“えっ!?惑星イース!?”

(だから落ち着いてって・・あたしたちの居場所を特定して、コテージに転送してほしいの。)

“ですが、イースの位置がどこにあるのかも分からないのに・・・”

(あたしたちの魔力反応をキャッチして。それなら位置を特定できるから・・)

“分かりました・・やってみます・・・!”

 ティアナの呼びかけを受けて、コロナが詮索を開始する。

 その直後、ジュンたちは強く魔力を感じ取って緊迫を覚える。霞美が彼女たちに近づいてきていた。

「くっ!・・こっちに近づいてくる・・・!」

「ちょっとでも魔力の強いものを狙ってるみたい・・・!」

 声を荒げるマコトと、毒づくスバル。

(急いで、コロナ・・早くして・・・!)

 焦る気持ちを抑えて耐え忍ぶティアナ。だが彼女たちは、破壊を続けながら移動してくる霞美を眼にする。

「コロナ・・早く・・・!」

“転送準備完了しました!すぐにこちらに呼び寄せます!”

 ジュンが呟いたところで、コロナからの通信が飛び込んできた。

「みんな、意識を集中して!」

 ティアナが呼びかけ、ジュンたちが意識を傾ける。彼女たちに気付いた霞美が、漆黒の光刃を放つ。

 だがその直後にジュンたちの姿が消え、光刃は標的に当たることなく地面にぶつかって弾け飛んだ。

「逃げられた・・・それなら先に、この星を壊す・・・」

 霞美は顔色を変えることなく、イースに向けて閃光を放射した。

 

 コロナに呼び寄せられて、ジュンたちはコテージに戻ってきた。彼女たちのそばにコロナが駆け込んできた。

「ティアナさん、みなさん・・・本当によかったです・・・」

「コロナ・・ありがとうね・・おかげで何とか戻ってこれたよ・・・」

 喜びを見せるコロナに、スバルが安堵の笑みをこぼす。だがジュンとマコトは深刻さを浮かべたままだった。

「あなたたち・・今まで何があったの・・・!?

 そこへカナが声をかけてきた。彼女の登場にジュンたちが唖然となる。

「あ、あなたがどうしてここに・・・!?

「そんなことはどうでもいいのよ!・・詳しい話は聞いてるわ。あとはあなたたちのことだけよ。」

 声を荒げるスバルに、カナが話を訊ねてくる。

「メガールというイースの最高司令官と、イース皇帝のジョンさんと戦ってきた・・でも、そこへ霞美さんが現れて・・・」

「彼女が!?・・イースにまで行くなんて・・そこまでララという子を傷つけられたことが・・・」

 ジュンの説明を聞いて、カナが苛立ちを覚える。

「それで、ミッドチルダはどうなっているの?・・なのはさん、ユウキさんたちは・・?」

 ティアナが問いかけると、コロナが困惑の表情を浮かべる。

「霞美さんの襲撃を受けて、クラナガンに甚大な被害が・・・ユウキさんたちとの連絡が取れない状態で・・・」

「そんな・・・なのはさんたちが・・・!?

 コロナが語った事情に、スバルが愕然となる。

「で、でも心配することはないよね・・・なのはさんは無敵のエース。それにえりなちゃんやみんなもいたんだから・・・」

「先ほど、フューリーさんという人をミッドチルダに向かわせました。状況確認と通信確保のために・・」

 笑顔を作るスバルに、コロナが状況を説明する。

「フューリーって、霞美さんと一緒にいた・・・」

「はい・・彼女が志願したことですが、もう彼女に頼る以外になかったですから・・・」

 ジュンの言葉にコロナが小さく頷く。

「とにかく、今はフューリーからの連絡を待ちながら、休養を取るしかないわね・・何をするにしても、回復しないうちに動くのは危ないから・・」

「だけどやっぱり気になってくる・・クラナガンが・・ミッドチルダのことが・・・」

 ティアナの指示に頷くも、スバルが不安を募らせていく。しかし自分たちのすべきことが見出せず、動くことができなかった。

 

 コロナの助力を受けて、ミッドチルダに赴いたフューリー。無事に到着することができた彼女は、クラナガンから少し離れた森の上にいた。

「ふぅ・・何とか無事に来れたみたいです・・・」

 安堵を浮かべるフューリーだが、すぐに真剣な面持ちになる。

「落ち着いている場合ではないです。急いでデルタ本部を探さないと・・」

 デルタ本部に向かってフューリーが移動を始める。緊急事態に陥っているクラナガンを目の当たりにして、彼女は深刻さを覚える。

(ミッドチルダがこんなことに・・・これ全部、霞美さんがやったというのですか・・・?)

 この惨事と霞美の行動に、フューリーは動揺を隠せないでいた。彼女はコロナから教えてもらったデルタ本部に向かっていった。

 そのとき、フューリーが突如つかまれた。

「えっ!?な、な、何ですか!?

 突然のことに驚きの声を上げるフューリー。

「ん?この子、ユニゾンデバイスじゃないか?」

 彼女を捕まえたのは、明日香の使い魔、ラックスだった。ラックスはクラナガンの救助活動に参加しており、それを終えて明日香たちのところに戻ろうとしていたときだった。

「は、放してください!私は急いでデルタのみなさんの無事を確かめないと・・!」

「デルタ!?・・あたしもデルタに行くとこなんだけど・・デルタに何のようだい・・?」

 声を上げるフューリーに、ラックスも当惑を見せる。

「コロナさんから、デルタやミッドチルダの無事を確かめるように言われました・・通信がつながらないので・・」

「そうだったの・・分かった。あたしもこれからデルタ本部に行くから、一緒に行くか。」

「あ・・・ありがとうございます!私はフューリーと言います!」

「あたしはラックス。よろしくね。」

 互いに自己紹介をすると、ラックスとフューリーはデルタ本部に向かっていった。

「デルタ本部も襲われて、通信機器がダメになっちゃったんだ・・それで地球にいるティアナたちに連絡できなかったんだ・・」

「そうだったのですか・・それで、みなさんは無事なのですか・・・?」

 フューリーが訊ねると、ラックスは深刻な面持ちを浮かべる。

「あたしらの仲間・・えりなと健一が、アイツにやられて・・・」

「霞美さん・・・」

 ラックスの言葉を耳にして、フューリーが一気に不安を膨らませる。

 ララを倒されたことが霞美をここまで突き動かしている。その事態に、フューリーは動揺の色を隠せなくなっていた。

 

 時空管理局が管理しているデータベースが置かれている無限書庫。書庫には書物を収めた棚が縦横無尽に広がっており、ひとつの資料を探すのもかなりの重労働である。

 その司書長を務めているのは、ユーノ・スクライアである。ユーノはなのはの親友であり、彼女が魔導師となるきっかけとなった人物である。リッキーの親戚であり、彼の魔法の師でもある。

 ユーノは今、カオスコアに関する情報を洗いなおしていた。書庫の膨大な量の情報から、カオスコアに関する情報を引き出していく。

「大変なことになったね・・魔女事件と並ぶ大惨事だよ・・」

 そこへ1人の少女、アルフがユーノに声をかけてきた。

 アルフはフェイトの使い魔で、ラックスと同じく格闘戦に長けている。現在はフェイトの魔力消費を考慮して、少女、あるいは子犬の姿を取っている。

「カオスコアは邪悪な魔力が集まった欠片でもある。ロストロギア指定物にされているけど、完全に回収できるものでもない。僕たちがこうしている間にも、ごく稀だけどカオスコアが生まれているんだ・・」

「その欠片のひとつが、あの霞美って人に擬態してたんだね・・」

 ユーノの説明に、アルフが深刻な面持ちで頷く。

「自分がカオスコアだったことも気付かないまま、怒ってあんな姿になって・・・」

「今は彼女を止めることが先決だ。それは、僕たちの総意になってるから・・」

「あたしはもう戦いに参加することはないけど、それでもやれることはたくさんあるからね・・」

 ユーノの言葉に答えて、アルフが笑顔を見せる。2人はなのはやえりなたちを信じながら、自分のやるべきことに全力を注いでいく。

 そんな無限書庫に、ユウキ、リーザ、クロノが入ってきた。

「ユーノくん、近くを通りがかったから立ち寄らせてもらったよ・・」

「ユウキさん、丁度貴重な情報が見つかりましたよ・・」

 声をかけてきたユウキに、ユーノが歩み寄ってきた。

「ジョーカー・イース・クルーザーは、カオスコアのひとつを手に入れて地球を訪れています。そのカオスコアが三重野霞美さんに擬態したんです。」

「しかしジョーカーはあえて彼女を手元に置かず、監視する形を取った。神父、ジョン深沢という偽名を使って接触を行いながら・・」

 ユーノの説明を受けて、ユウキが深刻さを込めて頷く。

「そしてララさんとの接触でデバイス、トリニティクロスを手にしたことで、魔法騎士として覚醒。これを機にジョーカーは、ララさんだけでなく霞美さんをも利用して、地球やミッドチルダへの攻撃を目論んだようです・・」

「自分の目的のために、人の命や心まで利用するなんて・・・なんてヤツだい・・・!」

 続けて語ったユーノの説明に、アルフが憤りを覚える。重い空気の漂う書庫の中、クロノが沈黙を破って声をかけた。

「アルカンシェルの使用権は、僕とクラウディアが持つこととなった。僕の判断で、アルカンシェルが彼女に向けて発射することになる・・」

「ち、ちょっと待ってよ!・・そんなことしたら、あの人消えるって・・!」

 クロノの言葉を聞いて、アルフが声を荒げる。

「発射はあくまで最後の手段だ。できることなら、僕もアルカンシェルで彼女を消滅させることは避けたい・・」

「とにかく、回復をしながら戦いに備える。それしかない。」

 クロノに続いてユウキが言いかける。その言葉にユーノたちは頷いた。

 フューリーがデルタを訊ねてきたという知らせがユウキたちに届いたのは、その後だった。

 

 突然訊ねてきたフューリーに、彼女だけでなく明日香たちも戸惑いを浮かべていた。だがクオンたちが姿を見せると、フューリーは緊張を和らげた。

「あなた、こちらに来ていたんですね・・」

「みなさん・・・ティアナさんとコロナさんに言われて、ここまで来たんです・・」

 声をかけるクオンに、フューリーが笑顔を見せる。

「ティアナさんが、こちらへの連絡が取れなくなっているんです・・それで私が状況の確認に・・」

「そうだったの・・・デルタの機器や備品は麻痺してる・・だから余計に霞美さんの行方がつかめなくなってる・・」

 フューリーの言葉を受けて、明日香が呟くように言いかける。

「霞美さん、惑星イースにやってきています!ティアナさんたちが遭遇したそうです!」

「えっ!?それじゃティアナたち、イースに行ったの!?

 フューリーの説明を聞いて、なのはがたまらず驚きの声を上げる。

「それで霞美さんはどうしたの!?

「分かりません・・私、イースには行っていませんでしたから・・・」

 ネオンが声を荒げるが、フューリーは困り顔で首を横に振る。

「ティアナたちは地球に戻っているんだね・・すぐに連絡して安心させないと・・」

 フェイトの言葉に明日香たちが頷く。管理局の通信機器を使い、ティアナたちへの連絡を取るのだった。

 

 管理局の通信機器を使ったクラウンからの通信が、コテージにて待機しているコロナに届いた。

“こちらクラウン・アイシス、コロナ・ウィッシュ、応答してください。”

「えっ!?・・クラウンさん!?・・よかった、つながりました・・」

 クラウンからの通信に、コロナが安堵を覚える。そばにいたジュンたちも喜びを浮かべていた。

「ではフューリーさんは、無事にそちらに到着したんですね・・」

“彼女が事情を話してくれたわ。ティアナさんたちも大変だったね・・”

 会話を弾ませて笑顔を見せるコロナとクラウン。だがすぐに2人の顔が真剣なものとなる。

“イースで何かあったのか、話してもらえる?”

 クラウンの切り出した話に応答したのはティアナだった。

「イース最高司令官、メガールの打破に成功。ですが母艦の爆発に巻き込まれ、生死不明に。ジュン、マコト、レイもジョンと交戦し、あと一歩というところまで追い詰めるも、霞美さんの出現により戦闘は中断。コロナの転送により、地球に帰還。」

“それで、ジョンは、ジョーカー・イース・クルーザーはどうしたの・・?”

「分かりません・・撤退を最優先にしたために・・すみません・・」

“謝らなくていいよ。それが的確な判断だと、私たちは信じるよ・・”

 謝るティアナに弁解するクラウン。その後、クラウンに代わってなのはが声をかけてきた。

“ティアナ、今は体を休めることに専念して、このまま留まって。地球が狙われないとも限らないから・・”

「それも考えられますが・・・イースならともかく、自分の故郷である地球を霞美さんが攻撃するとは思えないのですが・・」

 なのはの呼びかけに対し、ティアナが困惑を抱えながら答える。

“事態が事態だからね。用心を重ねないと、今度こそおしまいだから・・”

 ライムがかけた声に、ジュンたちは小さく頷く。

「今は霞美さんを止めることを第一にしましょう。霞美さんにこれ以上罪を重ねてほしくない。だから私に、迷いはない・・」

 呼びかけつつ自分の決意を口にするジュン。止めることを第一にしながらも、霞美を無事に救い出したい。それがジュンの願いだった。

“それで、霞美さんは今、イースにいるんだね・・?”

 そこへジャンヌが質問を投げかけてきた。

「私たちが地球に戻るまでは、確かに霞美さんはイースにいました。そこから移動したのか、まだイースにいるのかは分かりません・・」

“ならあなたたちの位置情報をこちらにも送って。そこからイースの位置を特定するわ。”

 ジュンの説明を受けて、クラウンが呼びかける。コロナが送信した位置情報から、クラウンがイースの正確な位置を導き出そうとする。

 そこへ戻ってきたユウキが通信に参加してきた。

“ティアナ、みんな、無事だったか・・”

「あ、ユウキさん・・戻ってきたんですね・・」

 声をかけるユウキにコロナが安堵を浮かべる。

“なのはちゃんたちやティアナたちに言っておきたいことがある。霞美さんの暴走を止めるために、アルカンシェルの導入が決定した。”

「アルカンシェル!?・・あんなのを使うんですか・・・!?

 ユウキの言葉にコロナが声をあげ、スバルたちも驚愕を覚える。その中でマコトとレイは疑問符を浮かべていた。

「アルカンシェル?どんなものなんだ?」

 質問を投げかけるマコトに、ジュンが説明する。アルカンシェルがどういうものかを理解したマコトが、憤りを覚える。

「ちょっと待て!そんなものでアイツを吹っ飛ばすのか!?アイツの気も知らないでお前たちは・・!」

“話しは最後まで聞け!・・その使用権はクロノが持ち、アルカンシェルはクラウディアに装備される。クロノは極力発射を避けたいと言ってる・・”

 怒鳴りかけるマコトにユウキが言いかける。

“最悪の事態と、最後の手段の使用は避けたいところだ。君たちも万全を喫してくれ。”

「はいっ!」

 ユウキの呼びかけにジュンたちが返事をする。地球、ミッドチルダの防衛だけでなく、霞美の救済も彼らの総意となっていた。

 その間にも、クラウンはイースの正確な位置を特定しつつあった。だが、

“あれ・・・?”

“どうした、クラウン?”

 突然声を上げたクラウンに、ユウキが訊ねる。

“イースが・・イースが・・・消滅、しました・・・!”

「えっ!?

 クラウンが口にした言葉に、ユウキたちもジュンたちも言葉をなくした。クラウンが惑星イースが消滅したという情報をつかんだのである。

“間違いないのか!?・・他の星ではないのか・・・!?”

“間違いありません・・確かに惑星イースの位置を特定しました・・ですがたった今、イースが消滅したのです・・・!”

 声を荒げるユウキにクラウンが答える。その知らせにジュンは困惑を募らせていた。

「それがホントだとしたら、やったのは・・・!」

 ジュンは呟きかけるも、それ以上を口にすることができなかった。ティアナたちもユウキたちも、この事態の経緯を予測していた。

 

 霞美の暴走は過激化の一途を辿った。攻撃を加えるごとに、イースへの憎悪がさらに増していき、そしてついに惑星そのものを破壊してしまった。

 霞美が放った漆黒の光刃が、イースの大地に叩き込まれた。彼女の数多くの攻撃で損傷が激しくなっていた惑星は、この一撃で完全に息の根を止められた。

 大地から次々と火柱が上がり、星の死を物語っていた。惑星の爆発を悟った霞美は、自身を球状の障壁で包んでイースから離れた。

 彼女は宇宙に出たところで、大地が全て紅い閃光に包まれる。花火のような轟音と衝撃を発しながら、惑星イースは爆発を引き起こした。

 宇宙の藻屑となったイースを、霞美は冷たい眼で見つめていた。

(これで、悲しみがひとつ消えた・・・あとは・・・)

 無表情のまま胸中で呟く霞美。彼女は障壁を展開したまま、音もなく姿を消した。

 彼女の手にかかり、生存と復興を希望としていたイースは完全な壊滅を迎えることとなった。自分の策略で覚醒させた少女の力に葬られ、ジョンは皮肉な末路を辿るのだった。

 

 霞美の手にかかり、物言わぬ石像にされてしまったえりなと健一。しかしえりなの意識はまだなくなってはいなかった。

 自分の心の世界を漂っていたえりなの意識。その姿は何も身につけていない全裸だった。

「あれ?・・・私・・・」

 意識が戻ったえりなは、暗闇に満ちた自分の心の中を流れていく。

「私・・霞美さんに石にされて・・・でも、心はまだ失っていない・・・」

 もうろうとしている意識の中、えりなが呟きかける。

「寒い・・今、私、裸だからね・・・」

 肌寒さを感じて、えりなが苦笑いを浮かべる。彼女はおもむろに体を動かして、泳ぐように前に進んでいく。

「私の心の中だから、私しかいないのは当然だけど・・・」

 さまよっていくえりなの中に、健一への想いが膨らんでいく。

「会いたい・・・健一に会いたい・・・」

 健一への想いに突き動かされていくえりな。彼女の眼からうっすらと涙が流れてきていた。

「石化されたときも、私を守ろうとしてくれた・・一緒に石にされたけど、健一の気持ちが、私に伝わってきたよ・・・」

 健一の優しさを胸に秘めるえりな。彼女はいつしか自分の裸身を抱きしめていた。

「みんなの声が聞こえない・・・明日香ちゃんも、ジュンも、健一も・・・」

 無限に広がるような心の中の暗闇に、えりなは孤独を感じていた。彼女は今も孤独を恐れていた。

「やっぱりひとりぼっちはイヤだね・・みんなも、そう思ってるのかな・・・」

 悲しみを募らせるえりなが体を震わせる。彼女は健一への想いをさらに強めていった。

 そのとき、えりなは人の姿を目撃していた。その正体を確かめる前に、彼女はその人が誰が分かっていた。

「健一だ・・健一がいた・・・」

 えりなはその人影、健一を求めて動いていく。彼女の眼にも健一の姿がはっきりとしてくる。

 健一の体を受け止めるえりな。健一も一糸まとわぬ姿で、意識を失ったままだった。

「健一、しっかりして!健一!」

 えりなが健一に声をかける。彼女に呼びかけられて、健一が閉ざしていた眼をゆっくりと開ける。

「・・・オレ・・は・・・えりな・・・!?

「健一・・よかった・・気がついたんだね・・・」

 声をもらす健一に、えりなが笑顔を浮かべる。

「・・・って、おめぇ、何で裸なんだよ!?

 えりなの裸身を目の当たりにして、健一が動揺をあらわにする。

「多分、心の中だから・・私も気が付いたからこんな姿になってたんだよ・・・」

「そうだったのか・・・気にしてる場合じゃねぇって分かってても、やっぱり・・・」

 えりなの言葉を聞いても、健一は動揺の色を隠せないでいた。

「そんなことよりも・・・とんでもないことになってるみてぇだな・・」

「そうだね・・・みんなは、大丈夫なのかな・・・」

 健一が口にした言葉に、えりなが深刻な面持ちで呟く。霞美によって石化された2人は、自分たちの心の中に取り残されていた。

 

 

次回予告

 

霞美によって石化されたえりなと健一。

2人は暗く冷たい呪縛から抜け出そうとしていた。

最終決戦に備えるジュンたちと明日香たち。

そんな中、霞美が地球への攻撃を開始した。

 

次回・「闇の中の光」

 

その心に、希望の光はあるか・・・?

 

 

作品集

 

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