魔法戦記エメラルえりなResonance

第21話「悲しき破壊者」

 

 

 スバルとティアナの指示を受けて、フューリーはコロナのいるコテージに向かっていた。そのコテージが目前というところだった。

「あなた、三重野霞美さんと一緒にいた小人ね。」

 そこへ声をかけてきたのはカナだった。

「あ、あなたは霞美さんを追いかけてきた刑事さん・・・」

 驚きのあまりに逃げ出そうとしたフューリーだが、すぐにカナに捕まってしまう。

「は、放してください!・・私、急がないといけないんです!」

「ならその急いでいる場所へ私も連れて行きなさい。どういう状況に直面しているのか、きちんと説明してもらうわよ。」

 慌しくするフューリーに、カナが真剣な面持ちで呼びかける。

「あの上のコテージです・・あそこに行くように言われているんです・・」

 フューリーの説明を受けて、カナが彼女を捕まえたまま駆け出していく。そのコテージの前に来たところで、カナは1度足を止めた。

「コテージにいる人!中に入るわよ!」

 カナは高らかに言い放つと、コテージのドアを開けて中に入る。そこにはフューリーを待っていたコロナの姿があった。

「フューリーさんですか?・・って、あれ?確かユニゾンデバイスのはずでは・・・?」

 コロナがカナの姿を見てきょとんとなる。

「ま、待ってください・・私がそのフューリーです・・・」

 勘違いしているコロナに声をかけながら、フューリーがカナの手から這い出る。

「そ、そうでしたか・・・ではその方はどちらで・・・?」

「インターポールの牧野カナよ。この近辺で発生している異常現象の調査に来た・・・でも、あなたたちもその調査を行っていたようね・・」

 苦笑いを浮かべるコロナに、カナが自己紹介をする。

「今の状況を聞かせてもらうわよ。私もあなたたちのことや魔法については聞いているのだから。」

「分かりました・・・ですが全てを話す前に、フューリーさんを送らないと・・」

 問い詰めてくるカナに答えつつ、コロナがフューリーを案内する。フューリーとカナがコテージの中へと入っていく。

 ミッドチルダ、デルタ本部への連絡を取るため、コロナは通信を試みる。

「こちらランスター隊、コロナ・ウィッシュ。デルタ本部、応答してください。」

 コロナが呼びかけるが、デルタ本部からの応答がない。

「おかしいですね・・応答がないですね・・・」

「どうしたの?向こうからの応答がないの?」

 困り顔を浮かべるコロナに、カナが声をかけてきた。

「おかしいですね・・・向こうの映像を出してみましょう。」

 コロナはコンピューターを操作して、モニターにミッドチルダの映像を映し出す。その光景にコロナたちは眼を疑った。

 クラナガンは壊滅的な打撃を受けていた。建物の多くは崩落し、負傷者の姿も散見された。

「どういうことなんですか・・・デルタ本部は・・・!?

 コロナは慌ててデルタ本部の映像を映し出す。本部も崩壊を喫しており、被害の度合いを物語っていた。

「デルタ本部!神楽隊長!クラウンさん!」

 コロナが必死になってさらに呼びかける。するとカナが彼女の肩をつかんできた。

「落ち着きなさい!あなたが声を張り上げたところで、状況がよくなるわけではないのよ!」

「す・・すみません・・・こういうときこそ、私がしっかりしないといけないのに・・・」

 カナに呼びかけられて、我に返ったコロナが頭を下げる。

「このまま連絡を続けながら、状況の把握と仲間の安否を確かめること。連絡が取れれば、やるべきことが見えてくる・・」

「カナさん・・・そうですね・・こういうときこそしっかりしないと・・」

 カナの言葉に勇気付けられたコロナが、再び連絡を試みる。その彼女に向けて、フューリーが声をかけてきた。

「あ、あの・・私をクラナガンに送ってもらえないでしょうか・・?」

「えっ・・・!?

 その言葉にコロナが当惑を浮かべる。

「スバルさんたちに言われました。霞美さんに呼びかけられるのは、私だけだって・・私が行けば、現状をみなさんに報告できますし・・」

「でも転送先がどうなっているのか把握できていません・・今あなたを移動させたら、無事に向こうまで行かせられるかどうか・・・」

 語りかけるフューリーにコロナが不安の面持ちを浮かべる。それでもフューリーの決心は固かった。

「ララさんや霞美さん、みなさん全員、とんでもないことに直面しているんです。私にも、その覚悟があります・・・!」

「フューリーさん・・・分かりました・・みなさんのこと、よろしくお願いします!」

 フューリーの気持ちを汲み取って、コロナも意気込みを見せる。コロナは転送先の座標をデルタ本部上空に定める。

「座標はセットしたけど、そこまで確実に送れる保障はできないです。最悪、次元の狭間に落ちるかもしれません・・」

「覚悟の上です・・私を送ってください・・私、回復魔法と水の魔法には強いんです・・」

「・・・分かりました、フューリーさん。みなさんのこと、よろしくお願いします・・・」

 フューリーの決意を受けて、コロナは転送準備を完了させた。転移装置の上にフューリーが移動する。

「行ってまいります、コロナさん・・・」

 笑顔を見せるフューリー。コロナは彼女をクラナガンへと転送した。

「では、今何が起こっているのか、私にも話してもらいましょうか・・」

 そこへカナが声をかけてきた。コロナは真剣な面持ちで頷くと、現状を語りだすのだった。

 

 霞美の発揮した漆黒の力により、クラナガンは壊滅的な打撃を受けた。えりなをはじめとしたデルタや時空管理局の面々が石化され、デルタ本部も壊滅の一途を辿ることとなった。

 その非常事態に、明日香たちは困惑の色を隠せなかった。

「ここまでのことになるなんて・・・デルタまで・・・」

「えりなたちまであんなことになるなんて・・・」

 崩壊したデルタ本部を見つめる明日香に、フェイトが声をかけてきた。

「フェイトさん・・・」

「えりなたちにかけられた石化を解くことはできていない・・カオスコアの力によるものとしか・・・」

 戸惑いを見せる明日香に、フェイトが深刻な面持ちで言いかける。

「デルタ本部は壊滅状態・・施設もほとんどが壊されて使用できなくなってる・・・」

「クラナガンも被害が尋常ではないです・・戦争の後のよう・・・」

 フェイトの言葉を受けて、明日香が歯がゆさを覚える。自分の無力さのために、守らなければならない人々や街に被害をもたらしてしまった。彼女はそれが許せなくなっていた。

「シャマルさんもリッキーもアクシオも、負傷者の治療に専念している・・なのはたちも回復に専念して、いつでも出られるようにしてる・・」

「あの人、三重野霞美さんも消えてしまった・・管理局が全力で捜索してますが、まだ発見されていません・・・」

「なぜあのようなことを・・・私には、彼女が自分勝手に破壊行為を行うとは思えない・・・」

「私もです・・何かをきっかけにして、カオスコアの力を暴走させてしまったのだと思います・・」

 考えを巡らせるフェイトと明日香。そんな2人に仁美が声をかけてきた。

「彼女が現れる前に1人、少女が攻撃を仕掛けてきたわ。その少女と関係しているんじゃないかな・・」

「あの少女が?・・あの少女、以前にえりなが撃退した子ですよ・・」

 仁美の説明を受けて、明日香が言葉を返す。

「スバルと瓜二つの顔・・タイプゼロに属する戦闘機人を、あのジョンが連れ出して改造を施したと考えるべきね・・」

「魔法を自分の力として吸収する能力がその例ね・・なのはちゃんたちでも苦戦することになったし・・」

 フェイトの言葉に仁美が続ける。

「その少女・・昨日まで地球にいたの。それも記憶をなくしてね・・」

「地球に!?・・でも記憶をなくしていたから、地球で何もしなかったのですよね・・・?」

 仁美の言葉に一瞬驚くも、明日香が情報を整理する。

「その少女、ララさんのことですよね・・・?」

 そこへエリオが声をかけてきた。彼とともに、クオン、ネオン、キャロ、フリードリヒもやってきていた。

「僕たち、地球でその少女、ララさんと会っているんです・・ララさんは霞美さんに保護されて、一緒に暮らしていたんです・・」

「そのララさんを傷つけられたと思ったから、霞美さんは怒った・・それがきっかけで、カオスコアの力が・・・」

 クオンとネオンの説明を受けて、明日香たちがさらに深刻になる。ミッドチルダを守るためにした行為が、逆に家族を傷つけられたと思ってしまい、霞美の暴走の引き金を引くことになってしまった。そのことに明日香たちは後ろめたさを感じていた。

「とにかく、このまま霞美さんをこれ以上暴走させるわけにはいかない。力ずくでも止めないと・・」

 仁美の言葉に明日香たちが渋々頷く。霞美を傷つけたくないというのが本心だが、そのために大勢の人々を犠牲にしてはいけないというのも事実だった。

「ところで仁美さん、ユウキさんは?」

「ユウキは管理局の緊急会議に参加しているわ。リーザさんも一緒よ。」

 訊ねてきたネオンに仁美が答える。事態は深刻化の一途を辿っていた。

 

 霞美の暴走によるクラナガンの甚大な被害に関して、時空管理局の上層部は緊急会議を開いていた。多くの部隊長や提督とともに召集を受けたユウキは、リーザとともに会議場に来ていた。

「やっぱりこの空気には慣れないなぁ。今になってもいい気分がしない・・」

「そのような空気に慣れてしまうというのも、ある意味問題なのですがね・・」

 肩を落とすユウキに、リーザが微笑みかける。だが和やかに振舞う2人とは対照的に、会議場は張り詰めた空気で満たされていた。

「今回皆様に集まっていただいたのは他でもありません。クラナガンを攻撃し、深い爪跡を残した悪魔についての対処を検討するためです。」

 議長が議場にいる人々に説明を始める。隅のモニターに映像が映し出される。

「彼女の名は三重野霞美。第97管理外世界極東地区在住。彼女はカオスコアの擬態であり、その力を暴走させてクラナガンに甚大な被害をもたらした。」

「現在、三重野霞美はクラナガンから転移しており、その所在はつかめていません。しかしいずれ何らかの破壊行為に及ぶことは明白です。」

 議長に続いて、議長の秘書が語りかけていく。

「これ以上犠牲を増やしてはならない。それが我々の総意です。そこで、“アルカンシェル”による目標消滅を提案します。」

 秘書が打ち出した案に、ユウキとリーザが驚愕を覚える。

 アルカンシェル。管理局の艦船武装の中でも屈指の殲滅力を誇る魔導砲で、空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅する兵器である。周囲をも巻き添えにしてしまうため、一定の条件下でしか使用が許されない。

(アルカンシェルなど撃ち込んだら、いくら彼女でも無事ではいられない・・・!)

 アルカンシェルによる霞美の消滅を、ユウキは危惧していた。いくら世界の防衛のためであっても、この作戦が非人道的であることは明らか。それを行えば、第2、第3の霞美を生み出すことになりかねない。ユウキはそれを直感していた。

「アルカンシェルによる消滅が、三重野霞美を止める最善手であると判断しました。今は世界を脅かす暴走を止めることが最優先・・」

「ちょっと待ってください!」

 話を続ける秘書に、ユウキがついに声を上げた。

「三重野霞美は人間です!アルカンシェルを使えば、彼女の人権を脅かすことは必死です!」

「口を慎め、神楽隊長。もはや彼女は人間ではない。そもそも彼女はカオスコアであり、人間ではない。故に人権は存在しない。」

 呼びかけるユウキだが、議長は顔色を変えず冷淡に告げる。

「もはや事態は一刻の猶予もない。三重野霞美が存在する限り、被害は拡大の一途を辿るのだ。」

「ふざけるな!世界平和のために、1人の少女の命を犠牲にしようというのか!?

「彼女は人間ではないと言ったはずだ。彼女は世界を破滅へと導く悪魔となっている。その悪魔を倒すことに、一切の躊躇も必要ない!」

「アンタらの答えは聞いてない。1人の人間、ひとつの命すら救えずに、世界を守ることなどできるもんか!」

 議長の言葉を一蹴するユウキ。議場にいた人々が固唾を呑んでいた。

「時空管理局の魔導師に1人、カオスコアとして生を受けた人がいます。カオスコアの人格による翻弄と苦悩を重ねながらも、彼女は今も魔導師として活躍しており、高町なのはと並ぶエースオブエースへと上り詰めた・・・」

 ユウキが気持ちを落ち着けて、議場の人々に向けて語りかける。

「彼女も一歩間違えば、三重野霞美と同じ道を歩むことになったでしょう・・彼女と三重野霞美に、何の違いがあるというのですか・・・!?

 語気を強めて切実に呼びかけるユウキ。彼の後ろ姿を見つめて、リーザが微笑んでいた。

「現状は君の言うような理想論とは大きく異なっている。迫り来る危機を、このまま見過ごすわけにはいかない。」

 議長の考えは変わらず、ユウキはこれ以上言葉をかけることができず、歯がゆさをあらわにする。

「ただしアルカンシェルの使用は1隻のみとする。そしてアルカンシェルの使用権は、彼に委ねることにする・・」

 議長が言いかけた直後、議場のドアがノックされる。開けられたドアに、議長を含めて議場の人々が眼を向ける。

 その人物は、ユウキとリーザの顔見知りだった。

「クラウディア艦長、クロノ・ハラオウン提督だ。」

「ク、クロノくん・・・!?

 青年、クロノの登場に、ユウキが驚きをあらわにする。クロノの登場を事前に知っていたリーザは、平穏を保っていた。

 

 クロノはユウキたちの知り合いだった。ユウキよりも、クロノはなのはたちとの親交のほうが深かった。

 ロストロギア「ジュエルシード」を巡っての、なのはとフェイトの対立。その仲裁とジュエルシード回収のために現れたのがクロノだった。

 クロノは現在、XV級艦船「クラウディア」の艦長を務めている。遠征の任務を続けていたクラウディアだったが、クラナガン襲撃のため、管理局から帰還命令を受けて戻ってきたのである。

「まさかクロノくんが戻ってくるとは・・」

「事態が事態だからね。僕としても帰る場所がなくなってほしくないからね・・」

 驚きを込めた苦笑いを浮かべるユウキに、クロノが微笑みかける。

「アルカンシェルの使用権は僕にある。だけど、彼女に向けて無慈悲にこれを使うつもりはないよ。」

「クロノくん・・・本当にすまない・・」

 自身の気持ちを告げるクロノに、ユウキが安堵を浮かべる。

「彼女、三重野霞美を救済したいのが正直なところだ・・だけど最悪の場合、僕は彼女の完全消滅の引き金を引くことになるかもしれない・・」

「その最悪の事態にならなければいいんだけど・・・」

 深刻さを隠せないでいるクロノとユウキ。霞美を無事に保護したのが2人の本音だった。

「えりなたちにかけられている石化は、カオスコアの力によるものだ。三重野霞美の力が抑えられないと、石化が解除されることはないだろう・・」

「まずは彼女の行方をつかまないことには、何も始まらない・・こっちで探したいところだが、デルタ本部の損害がひどく、レーダーや通信機器が使い物にならない・・」

「それなら僕たちのほうで任せてくれ。発見次第、そちらに念話で連絡する。」

「助かった・・よろしく頼む・・」

 クロノの助力に喜びの笑みをこぼすユウキ。

「何も知らない少女まで利用するなんて・・イースはそこまでオレたちを・・・!」

 霞美の心までも弄んだイースの策略に、ユウキは憤りを浮かべていた。

「それで、あのジョンという青年のことなんだが・・・」

「本名、ジョーカー・イース・クルーザー。イースの皇帝で、攻撃兵団とは別行動で地球に滞在していました・・」

 クロノが話を切り出すと、リーザが説明をする。

「全てはイース侵攻のための段取りだったということか・・・」

「そのジョンなんですが、まだイースでジュンさんたちと戦っています・・救援したいところなのですが、その余力も、今の私たちにはないです・・・」

 ユウキが声を荒げ、リーザが困惑を浮かべる。

「今はジュンたちを信じるしかない・・伊達にエースに鍛えられたり、対戦したりしてきたわけじゃない・・」

 笑みを見せるユウキに、クロノとリーザも頷く。ジュンたちは必ず無事に帰ってくる。ユウキたちはそう信じていた。

 

 霞美をも利用したジョンに、ジュンたちは怒りを込めて挑む。だが戦闘機人としての力を発揮しても、ジュンたちは攻めきれないでいた。

「そうやって、自分たちに降りかかる火の粉を全て敵だと認識し、自分たちが絶対の存在であると知らしめる・・お前たちは、それで平和が訪れると思っているのか?」

「そんなことない!そんなことしても、あなたたちのような人たちを生み出すだけ!」

 あざ笑うジョンの言葉に、ジュンが反論する。

「私たちは自分たちの故郷を守るために戦う!そしてまだ、このイースを救うことができるなら!」

「救えたところで、私たちはお前たちを許しはしない。お前たちの存在が、再び私たちを脅かすことになるのだから!」

 双方の救済を望むジュンだが、ジョンはそれを憎悪をもって拒絶する。

「結局、好き勝手なことを言っているのは、お前たちも同じじゃないか・・・!」

 そこへマコトが声をかけてきた。

「償うことも許されない・・ひとつの機会もないっていうなら、僕がそんな罪、ぶち壊してやる!」

「お前たちの大罪を軽く見るな・・お前たちの罪、もはや万死に値する!」

 言い放つマコトにジョンが感情をあらわにする。

「行くよ、ジュン!長引かせたら埒が明かない!」

「そうだね!私たちの持てる力を、全部あの人にぶつける!」

 マコトの呼びかけにジュンが答える。レイも真剣な面持ちで頷く。

「お前たちに残された道は、破滅以外にない!」

 怒号を放つジョンが全身から魔力の光を放出する。彼は両手にその光を集束させる。

「これは私の使う魔法の中で威力の高い部類に入る。しかもこれは、相手に命中するまでどこまでも追い続ける・・」

 ジョンがジュンとマコトを狙って2つの光の弾を放つ。ジュンたちは跳躍して回避するが、光弾は軌道を変えて、再び2人に迫っていく。

「アイツの言うとおりか!これじゃ逃げてもしょうがない!」

 ジョンの光弾に毒づくマコト。ジュンが素早く動いて、徐々にジョンへと突き進んでいく。

「直前でかわして私に当てようという魂胆なのだろう・・だが・・」

 不敵な笑みを見せるジョンとの距離を詰め、ジュンが上に大きく飛び上がる。これにより光弾はジョンに命中するはずだった。

 だが光弾はジョンの体をすり抜け、さらにジュンを追いかけていく。

「魔法は物理障害が出ないように調整することが可能であるように、この魔法は私との接触を不可能にしてある。故に私に命中させての自滅はありえないと考えてもらおう。」

 言い放つジョンにジュンが息を呑む。するとマコトがジュンに眼を向けてきた。

 眼を合わせた2人が無言で頷くと、さらに移動していく。2人は互いに接近して、眼前に迫ったところで同時に上に飛び上がる。

 だが2つの光弾も、互いをすり抜けてジュンたちを追いかけていく。

「この魔法自体も双方の接触を受けない。小細工は一切通用しない。」

「くっ!・・もう直接叩き壊すしかないってことか・・・!」

 ジョンの言葉に、マコトが再び毒づく。彼女は迫り来る光弾を、迎撃して破壊しようとする。

 そのとき、ジュンとマコトを追っていた2つの光弾が、突如爆発を起こす。レイが「シューティングレイン」で光弾を狙い撃ちしたのである。

「レイがいること、忘れないで・・・」

「レイ・・・」

「レイちゃん・・・」

 言いかけるレイに、マコトとジュンが笑みをこぼす。だがジョンの悠然とした態度に変化はない。

「ならばお前もすぐに葬ってくれる・・・!」

 ジョンは先ほどと同じ光弾を、今度は4つ出現させた。1つずつをジュンとマコトに、2つをレイに向けて放つ。

 だがその4つ全てがレイの放った光の矢に撃ち抜かれた。

「レイの力を甘く見ないほうがいいよ。僕と一緒に、今までたくさんの困難を潜り抜けてきたんだから・・」

 マコトが笑みを見せて言いかけると、ジョンから余裕が消える。

「ありがとう、レイちゃん・・これで真っ直ぐに、あの人に攻撃を仕掛けられる・・・!」

「攻撃?お前たちの攻撃で、私が阻まれると思っているのか!?

 真っ向勝負を挑むジュンに、ジョンが反発する。だが彼からは完全に余裕が消えていた。

(えりなさん、見ていてください・・これが、今の私の気持ちの全てです・・・)

「バーストエクスプロージョン!フレアイグニッション!」

 えりなへの思いを秘めたジュンが、体に炎をまとう。戦闘機人、ジェネラル・サンとしての炎の力を、彼女は全身にまとわせたのである。

(この力は、私の中で1番の威力を秘めてる・・でも反動も1番大きいから、あんまり使えないんだけど・・・)

 思考を巡らせるジュンがジョンを見据える。

 バーストエクスプロージョンによる並外れた炎の力を全身にまとうことにより、戦闘力を一気に上昇させる。だがその炎は彼女自身をも焼くものであり、負担も大きく多用が厳禁な能力である。

「これが私の力の全部・・私たちへの復讐をしないと気が済まないっていうなら、このくらい跳ね返さないと・・・!」

「私を挑発してくるとは・・・いいだろう。お前の挑発に乗ってやることにしよう・・・」

 鋭く言いかけるジュンに対し、ジョンは全身に魔力の光を宿して返り討ちを狙う。

「それじゃ行くよ・・ジョンさん!」

 ジュンは言い放つと、ジョンに向かって飛びかかる。

Frame smash flare ignition.”

 彼女が繰り出した拳を、ジョンが魔力の光を放出して受け止める。だがジョンはジュンの炎に押されて、後ずさりしていく。

「何かを壊す力よりも、何かを守る力のほうが強いんだよ!」

「こんなことで・・私たちが潰えるわけにはいかないのだ!」

 言い放つジュンとジョン。だがジュンのまとう炎がジョンの光を蝕んでいく。

「私の力が、焼かれているというのか・・・!?

 この異変にジョンが驚愕を浮かべる。ジュンの突進力と灼熱の炎に巻き込まれ、ジョンが吹き飛ばされた。

 同時に彼の体を炎が貫いていた。ジュンの炎の拳が、矢のように彼の体を貫通したのである。

(体がいうことを聞かない・・私を、あの娘たちが上回ったのか・・・)

 全ての力を打ち砕かれたジョンが、力なく倒れていく。負けを認めたくないと思いながらも体の自由が利かなくなっていることに、彼は自分に憤っていた。

 そんな彼の前にジュンが歩み寄ってきた。全身をまとっていた炎が消えていた彼女も、力の全てを費やしていた。

「もう終わりだよ・・・スバルさんたちも、もう終わらせているはずだから・・・」

「なぜだ・・・私がここまで仕組んできた作戦は・・全て成功していた・・・私自身、敗北する要素などなかった・・・」

 心身ともに落ち着いた様子で言いかけるジュンと、声を振り絞るジョン。

「憎しみの力は確かに強い・・でも結局は壊すための力でしかない・・何も生み出せない・・・それに、守ろうとする力のほうが、ずっと強く、ずっとあたたかい・・・」

「そのことを、僕たちは思い知らされてるんだよ・・・もっとも、お前も僕たちみたいに、思い知らされないと分かんないみたいだけど・・・」

 ジュンに続いてマコトも言いかける。レイも沈痛の面持ちでジョンをじっと見つめていた。

 旅と戦いの中で、数多くの経験と力を付けていった少年少女たち。その力はもう、大切なものを守るためになっていたのは明白だった。

「思い知らされないと分からない・・・まだ勝手なことを口にするか・・・」

 笑みをこぼすジョンに、ジュンたちが眉をひそめる。

「これで全てが終わったと思っているのか?・・甘いことだ・・・終わるどころか、お前たちは破滅へと向かいつつあるのだ・・・」

「どういうことだ・・・!?

 ジョンが口にした言葉に、マコトが問い詰める。

「私を倒したところで、お前たちの状況は改善されない・・彼女の暴走は既に開始されている・・クラナガンに攻撃を加え、エースオブエースの1人、坂崎えりなをも打ち倒した・・」

「えりなさんが!?

 たまらず声を荒げるジュン。揺らぎそうになる心を、彼女は必死に抑えた。

「そんなはずない・・えりなさんがやられるなんて・・・健一さんや明日香さん、みんなが一緒なんだから・・・!」

「だが事実だ・・・坂崎えりなは彼女の手にかかり・・・」

 声を荒げるジュンに向けて、ジョンが笑みを見せたときだった。

 突如この場に強い魔力が発せられ、ジュンたちが緊迫を覚えて眼を見開く。彼らの前に現れたのは、漆黒の騎士服に身を包んだ霞美だった。

「えっ・・・!?

「霞美さん!?・・どうしたの・・・!?

「バカな!?・・・なぜここに・・・!?

 驚きの声を上げるマコト、ジュン、ジョン。霞美がジョンの倒れた姿を目の当たりにする。

「ジョンさん・・・ジョンさんまで傷つけたの・・・!?

「霞美さん、どうしたんですか!?

 鋭く言いかける霞美に、ジュンが呼びかける。霞美の変貌に、ジュンは困惑の色を隠せなかった。

 

 

次回予告

 

ついに、対立してしまったジュンと霞美。

全てを敵に回していく霞美に、ジュンは苦悩を広げていく。

ミッドチルダに到着したフューリー。

彼女の思いは、黒く染まった霞美に届くのだろうか?

 

次回・「世界の終わり」

 

破滅に手を伸ばす少女の、堕ちていく心・・・

 

 

作品集

 

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