魔法戦記エメラルえりなResonance

第20話「絶望の瞬間(とき)

 

 

 イースに赴いたアクレイムの中で、ジュンたちはメガールと対峙していた。だがメガールのグラビティドライブに対し、ジュンたちは攻めきれないでいた。

「もう容赦はしない・・私は今、お前たちを倒すことに専念している・・・」

 グラビティドライブを駆使して、メガールがジュンたちを空中に持ち上げている。重力操作による束縛から、ジュンたちは抜け出せないでいる。

「くっ!・・・こんなもんで、僕が身動きが取れなくなるなんて・・・!」

 うめくマコトが重力操作から逃れようとするが、体を強く押さえ込まれ、力を出すことができない。

「諦めろ。お前たちが辿る末路は、破滅以外にない。」

「そんなことない・・こんなところで、私たちは負けるわけにはいかない!」

 言いかけるメガールにジュンが反発する。意識を集中する彼女の眼が金色に変わる。

「ブレイブブレイズ!」

 インヒューレントスキルを発動させて、重力の拘束を打ち破るジュン。着地した彼女が、メガールに鋭い視線を向ける。

「ジュン・・・ライトニングソニック!」

 マコトとスバルも戦闘機人としての力を発揮する。スバルが特攻を仕掛け、メガールに拳を叩き込む。

「ぬっ!?

「ジュン、マコト、レイちゃんはジョンさんを止めて!ここはあたしとティアで押さえるから!」

「スバルさん!」

 うめくメガールの前で呼びかけるスバルに、ジュンが声を上げる。重力操作の効力が弱まり、ティアナもその束縛から逃れる。

「勝手に仕切んないでよね!でも、このままメガールばかりに気を取られてる場合じゃないわね!」

「ティアナさん・・・」

 ティアナの言葉にジュンが戸惑いを見せる。

「行って、ジュン!ジョンさんを止めるのは、あなたの役目だよ!」

「スバルさん・・・分かりました!行ってきます!」

 スバルの言葉を受けて、ジュンはジョンに向かって飛びかかる。

「陛下には手は出させんぞ!」

 彼女の行く手をメガールが阻もうとする。だが彼の体にティアナが放った光の弾丸が叩き込まれる。

「あなたの相手はあたしたちよ!」

「お前たち・・・そこまで私の相手をしたいならばそれもよかろう・・皇帝陛下に刃向かうことなど、愚の骨頂なのだ・・・」

 呼びかけるティアナに、メガールが鋭い視線を向ける。

「あなたを倒した先に未来がある・・だからあたしは、全力全開で、あなたを倒す!」

「よかろう・・私の背後に未来があるなら、その未来を閉ざしてくれる。お前たちを完膚なきまでに叩き潰してやる!」

 真正面から飛びかかるスバルとメガール。スバルは持てる力を右の拳に集中させる。

「一撃必倒!ディバインバスター!」

 魔力を込めた一撃を、スバルはメガールに向けて繰り出す。だがメガールの突き出した両手に受け止められる。

「この程度の攻撃で私を倒せるか!」

「ぐっ!・・もっと力を・・もっと力を!」

 高らかに叫ぶメガールに対し、スバルがさらに力を込める。彼女の力とメガールの衝撃波が拮抗する。

 その最中、メガールは別の魔力を感じ取る。ティアナがクロスミラージュを構えて、砲撃を放とうとしていた。

「ファントムブレイザー!」

 スバルが攻撃を続けているにもかかわらず、ティアナが砲撃魔法を放射する。遠近による強力な攻撃に、メガールがたまらず毒づく。

 スバルとの競り合いから逃れると、メガールは再び衝撃波を放ってティアナの砲撃を防ぎつつ回避する。メガールは標的をティアナに変えて、飛びかかる。

 だが攻撃したティアナは、彼女が作り出した幻影と入れ替わっていた。飛び込んできたメガールの周囲には、彼女が放った誘導弾が取り巻いていた。

「魔法射撃の包囲網・・その中に自分と仲間の幻影を含めて、さらなるかく乱をもたらしている・・・だが!」

 メガールが全身から衝撃波を放ち、弾丸と幻影を全て吹き飛ばす。弾丸が爆発を起こして煙を発する。

 その煙を突き破って、ティアナが飛び出してきた。クロスミラージュの銃口から光刃「ダガーブレード」が発せられていた。

「偽者の中に紛れていたか・・だがお前自身が格闘に不向きであることに変わりはない!」

 メガールが拳を繰り出してティアナを迎撃する。その瞬間、スバルも煙を突き破って飛び込んできた。

「リボルバーキャノン!」

 全力を込めたスバルの一撃が、メガールの体に叩き込まれる。重い攻撃を受けて、メガールがうめく。

(くっ!・・あくまで一方は注意を引きつけるだけ・・あくまでもう一方が主力・・・!)

「もう1度!ディバインバスター!」

 毒づくメガールに向けて、スバルがさらなる攻撃を加える。一気に押さえ込まれて、メガールが顔を歪める。

「この程度で、私が敗れるわけには・・・!」

「あたしたちも、ここで倒れるわけにはいかない!」

 耐え抜こうとするメガールに対し、スバルが決意を言い放つ。彼女の力がさらに高まり、メガールの体を大きく揺さぶった。

「バカな・・体から、力が抜けていく・・・!」

 脱力して踏みとどまることができず、メガールが倒れる。スバルの攻撃が決定打となり、メガールは立ち上がることもできなくなっていた。

 力の全てを叩き込み、息を絶え絶えにしていたスバル。戦闘機人モードが解かれて倒れかかった彼女を、ティアナが受け止める。

「しっかりしなさい、スバル!まだ終わってないのよ!」

「アハハ・・ゴメン、ティア・・・」

 呼びかけるティアナに、スバルが苦笑いを見せる。2人は倒れているメガールに眼を向ける。

「くっ・・まさか、この私が敗れるとは・・・」

 声を振り絞るメガールが、スバルたちに敗北を認める。

「時空管理局の人間・・よくぞ私を倒した・・・だが春日ジュンたちに未来はない・・皇帝陛下を止めることは、誰にもできない・・・」

「そんなことない・・ジュンたちも、必ず未来をつかんでみせる。あたしたちはそう信じてる・・」

 不敵な笑みを見せるメガールに、スバルが信頼を込めた言葉を口にする。ティアナもジュンたちを信じて、小さく頷く。

「ならば足掻いてみるがいい・・たとえお前たちが加わろうとも、戦況が覆ることはない・・・」

 メガールが哄笑を上げた瞬間、アクレイムに振動が起こった。突然の出来事にスバルとティアナが警戒を見せる。

「とうとう耐えられなくなったか・・それほどまでに激しい戦いだったということだ・・・」

「どういうことなの!?あなた、何かしたの!?

 メガールの言葉にスバルが声を荒げる。

「私は何もしていない・・我々の戦いに、アクレイムが耐えられなくなっただけだ・・・」

 メガールの言葉を受けて焦りを覚えるスバルたち。アクレイムの司令室にも爆発が発せられてきた。

 気持ちを落ち着けたスバルは、倒れているメガールを持ち上げようとする。

「何のつもりだ・・・私はお前たちの敵だぞ・・・」

「敵かなんて関係ない・・死んでいい命なんてない・・・」

 嘲るメガールを連れて、アクレイムから脱出しようとするスバル。ティアナも呆れながら、メガールに手を貸す。

 だが爆発が一気に広がり、3人を飲み込もうとする。

「いけない!爆発が!」

 声を荒げるスバル。その瞬間、メガールがスバルとティアナを、グラビティドライブを使ってアクレイムの外に追いやった。

「メガール!?

 突然の出来事にスバルもティアナも眼を疑った。不敵な笑みを見せたメガールが、爆発の炎の中に消えていった。

 

 ジョンを追ってイースの地に降り立ったジュン、マコト、レイ。荒廃しているイースを目の当たりにして、ジュンたちは動揺の色を隠せなくなっていた。

「これが、イース・・・!?

「時空管理局の実験で、こんなになってしまったっていうの・・・!?

 たまらず言葉をもらすマコトとジュン。彼女たちの前に、ジョンが立ちはだかっていた。

「そうだ。これが今のイースの姿だ・・・」

「ジョン・・・!」

 言いかけてくるジョンに、ジュンたちが視線を向ける。

「かつてのイースは、ミッドチルダに勝るとも劣らない、科学と自然に満ちた星だった。だがお前たちの仕掛けた実験のためにこの有様だ・・・ミッドチルダをこの悲惨な姿にしなければ、私たちの憎悪が晴れることはない・・」

「そんなことさせない・・そんなことしても、憎しみが増えるだけだよ・・・!」

 語りかけるジョンに、ジュンが呼びかける。だがジョンの考えは変わらない。

「ならばどうすれば憎悪が払拭される?憎悪は簡単に割り切ることなどできない・・」

「そんなことない・・私たちは、憎しみで戦うことがどういうことなのかを知ってる・・・」

 嘲るジョンに向けて、ジュンが語りかけていく。

「憎しみで戦っても、心が晴れることはない・・それどころか、もっとたくさんの悲しみや憎しみが増えるだけ・・・」

「その憎しみを植えつけた張本人の分際で!」

 ジュンの言葉を怒号ではねつけるジョン。そこへマコトが立ちはだかり、構えを取る。

「マコト・・・」

「憎しみで戦ってた僕が言えた義理じゃないんだけど・・憎しみは、自分の心まで傷つけていくんだよ・・・」

 戸惑いを見せるジュンの前で、マコトがジョンに呼びかける。

「僕は今、僕の大切な人を守るために戦う・・お前を全力で止めてやる!」

「ならばやってみるがいい。私は先ほどもデルタのエースたちを退けてきている。お前たちに私を止められるかな?」

 言い放つマコトに対し、ジョンが魔力を集束させる。ジュンたちのイースでの戦いが、今まさに開始されようとしていた。

 

 暴徒と化した霞美の前に立ちはだかったえりなとなのは。健一たちも霞美を止めようと全力を振り絞ろうとしていた。

「黒い光には気をつけて、石化の効果があるから・・・」

「うまくけん制して、隙を狙って一気に叩き込むしかないですね・・・」

 注意を促すなのはに、えりなが言いかける。

「私たちが注意を引きつけるから、えりなは攻撃に専念して。」

「私も援護するから。遠慮なしでね、えりな。」

 なのはに続いて明日香もえりなに呼びかける。

「それじゃ行きますよ!ちょっとの油断でも致命的ですから!」

 えりなが答えて、ブレイブネイチャーを構える。えりな、健一、フェイト、ライムが霞美に向かっていく。

「私と玉緒はフェイトちゃんたちのサポートをするよ!」

「明日香も気にせずに陽動に専念して!」

 はやてと玉緒も声をかける。霞美を止めるべく、えりなたちはフォーメーションを取った。

Accel shooter.”

Drop sphere.”

Impulse shooter.”

 なのは、明日香、ジャンヌが霞美に向けて射撃を放つ。だが霞美が展開している球状の障壁に弾かれる。

「やはりこのくらいでは効き目がないですね・・・!」

「でも注意を引きつけることはできた・・この調子で攻撃していこう。」

 毒づく明日香に、ジャンヌが冷静なまま呼びかける。霞美が彼女たちを狙って、トリニティクロスを振りかざして光刃を放つ。

 明日香たちは散開して光刃を回避する。

「今だよ、フェイトちゃん!えりな!」

 なのはの呼びかけを受けて、えりな、健一、フェイト、ライムが霞美に向かって飛びかかる。

 ハーケンフォームのバルディッシュとブレイドモードのクリスレイサーが振り下ろされる。だが霞美は飛翔して、2人の攻撃をかわす。

 だがそこにはえりなと健一が待ち構えていた。セイバーモードのブレイブネイチャーとラッシュが、霞美の体を捉えた。

「やった!」

 健一が声を上げる前で、霞美が地上に向けて落下していく。

(痛くない・・このくらいの痛み、ララの痛みに比べたら・・・!)

 ララを想う霞美が、体から漆黒のオーラを発する。地上に衝突する寸前で踏みとどまり、彼女がえりなたちに向けて光刃を放つ。

 えりなたちは再び散開して、光刃をかわす。霞美が立て続けに光刃を放ちながら、徐々に上昇していく。

「負けたくない・・こんな人たちに、絶対に負けたくない・・・!」

 憤りを募らせて、えりなたちを執拗に狙う霞美。だが激情によって引き上げられる魔力とは裏腹に、彼女は劣勢を強いられたままだった。

 戦闘の経験と人数の差があったため、力を増している霞美でも優位に立つことができなかった。

「被害が広がってもまずい。バインドとケージで動きを止めていこう。」

「それは私と玉緒でやるから。なのはちゃんたちは今までどおりに。」

 声を掛け合うフェイトとはやて。霞美に対する攻防がより攻撃的になっていく。

「こんなことで・・こんなことで負けたくない・・・」

 戦いが長引くに連れて、霞美の心は揺れ動いていた。

「この人たちは、ララを傷つけた悪い人たち・・・こんな人たちがいたら、またララや私と同じ思いをする人が出てきてしまう・・・」

 彼女からあふれ出てくる黒いオーラが、さらに濃くなっていく。

「そんなの絶対に、認めるわけにいかない!」

 絶叫を上げた霞美が閃光を放出する。膨張する閃光に、えりなたちが吹き飛ばされる。

 霞美からあふれ出る黒いオーラは、漆黒の稲妻のようにほとばしっていた。彼女の魔力の強度が、えりなたちの連携を脅かすほどに近づいていた。

「すげぇ魔力だ・・まさかここまで跳ね上がるなんて・・・!」

「これ以上魔力が上がったら、制御が利かなくなってくる・・自分でも止められなくなるかもしれない・・・!」

 霞美の発揮した魔力に、健一もえりなも毒づく。霞美は暴走という形で、どんどん力を増していった。

「えりな、明日香、玉緒、大丈夫か!?

 そこへアレンが駆けつけ、声をかけてきた。すると明日香たちもなのはたちも、立ち上がって顔を見せてきた。

「このくらいならまだまだ平気だよ。」

「でも本当に被害は広げられない・・人のいないほうに近づけないと・・・」

 玉緒と明日香が声をかける。霞美が自分たちを狙っていることを利用して、えりなたちは引きつけようと試みる。

「逃げても意味ないよ・・私は、この世界の全部が許せないんだから・・・」

「もう!手に負えなくなってる上に、ムチャクチャなこと考えてるんだから!」

 冷淡に告げる霞美にライムが毒づく。霞美がクラナガンに攻撃の矛先を向けていた。

「コイツ、街を攻撃する気か!?

「私たちの第2の故郷を、壊させるわけにいかない!」

 健一とえりなが霞美の攻撃を止めるべく飛び出す。不意を突かれたため、霞美が2人の突進の直撃を受けて吹き飛ばされる。

「街に攻撃しないで!街には、たくさんの人たちがいるんだから!」

 えりなが霞美に向けて呼びかける。体勢を立て直した霞美が、彼女と健一に眼を向ける。

「ララを攻撃したあなたたちに、そんなことをいう資格があるの・・・?」

「何言ってんだよ・・先に攻撃してきたのは、おめぇの仲間じゃねぇかよ・・・!」

 冷たく告げる霞美に、健一が憤りを見せる。

「そいつが攻撃してきたから、オレたちはそれを止めた・・どっちが悪いか、おめぇも分かるだろうが!?

「分かってないのはそっちじゃない・・ララは優しい子・・いたずらに何かを傷つけるようなことはしない・・・」

 怒鳴る健一だが、霞美は聞く耳を持たず、冷たくあしらうばかりだった。

「あなたの友達が悪いことをしても、あなたは止めようとしないの・・・?」

 そこへえりなが低い声音で声をかけてきた。

「あなたの友達は悪いことをした・・私たちはあなたの代わりに止めただけ・・本当は、友達のことを1番に大切に思っているあなたが飛べるべきだった・・・」

「いい加減にして・・そうやって自分の悪いことをいいことのように言わないで・・・」

 えりなの言葉さえ、霞美の怒りを煽るものでしかなかった。

「今は大人しくして・・でないと私も、あなたを力ずくででも止めなくちゃいけなくなる・・・」

「そう・・そうやって私も傷つけようとするんだね・・・」

 呼びかけるえりなに対し、霞美がトリニティクロスを構える。

「私は消えない!消えるのは、あなたたちのほうよ!」

 怒号を上げる霞美が、えりなに向けて光刃を放つ。

「健一、手伝って。ユウキさんから預かっているシェリッシェルで、持てる力の全てを叩き込むの・・」

「あぁ・・ブレイブネイチャーとラッシュを結合させるのか・・・」

 えりなの呼びかけに健一が答える。彼は左手で、ユウキから預かったシェリッシェルを持つ。

 そこへ飛び込む霞美の光刃。2人にいた地点に飛び込み、爆発を起こす。

 攻撃を当てたと思い、霞美が微笑みかける。だが巻き起こる煙が突如吹き飛ぶ。

 シェリッシェルの能力によって、ブレイブネイチャーとラッシュが結合する。「ブレイブネイチャー・レゾナンス」を手にするえりなと健一。

「どうしても言うことを聞かないって言うなら、全力全開であなたを倒す!」

「痛い思いをすることになるが、我慢してくれよな!」

 えりなと健一が言い放ち、魔力を集束させる。

Phoenix mode,awekening.”

 ブレイブネイチャーがフェニックスモードへと変化する。負担の大きいフェニックスモードだが、ブースターの役割を担っているシェリッシェルがその負担を軽減していた。

「これだけの力と絆が合わさったブレイブネイチャー・レゾナンスは、誰にも止められない!」

「それでも私は止められない・・ここにある全てを、私は壊す!」

 言い放つえりなに霞美が言い返す。

「行くよ、健一!」

「ああ!おめぇも気を抜くなよ、えりな!」

 呼びかけ合うえりなと健一。2人は霞美に狙いを定める。

「熱血一貫!」

「共鳴必勝!」

「フェニックスランサー!」

 えりなと健一の声が重なる。2人がまとっていた紅い炎が純白の光となったかのように輝きを放つ。

 その光が霞美に向かって飛び込んでいく。霞美は魔力を振り絞って、えりなと健一の光を受け止める。

(こんなのイヤ・・こんなことで、私たちの幸せが壊れるなんてイヤ・・・)

 追い込まれていく自分を否定する霞美。彼女の脳裏に、これまでの思い出が蘇ってきた。

 

 ララが霞美と出会って数日がたっていた。ララは日常を過ごすのに必要なことは、ある程度覚えてきていた。

「霞美さんのお料理、とても美味しいです。」

「ありがとう、フューリー。そういってもらえると嬉しいよ。」

 笑顔を見せるフューリーに、霞美が微笑みかける。ララも霞美の手料理を口にして、微笑みかける。

「美味しい、ララ?これでも1人暮らしが長いから・・」

「うん・・おいしいよ・・・」

 霞美が声をかけると、ララが小さく頷く。

「もっともっと料理の腕を上げないとね。ララやフューリーに、もっともっと喜んでもらえるように・・」

 霞美が自信を膨らませて、キッチンに行って後片付けをする。

「今度・・・」

「えっ・・・?」

 そこへララが声をかけ、霞美が洗い物をする手を止めて振り向く。

「今度・・料理・・やりたい・・・」

「ララ・・・」

 ララが口にした言葉に、霞美が戸惑いを覚える。だが彼女はすぐに気持ちを落ち着けて、ララに笑顔を見せる。

「うん、いいよ。今度、私と一緒に料理、頑張ってみようね。」

「ありがとう、霞美・・・ララ・・頑張る・・・」

 明るく声をかける霞美に、ララも笑顔を見せた。

(楽しい・・ララとフューリーと一緒にいるだけで、どんどん楽しくなってくる・・・)

 霞美は心の中で、ララたちと過ごす日常を喜んでいた。

(いつまでも続いてほしい・・本当に毎日が楽しくなる・・勇気と元気が湧いてくる・・・)

 3人の生活が、霞美にとってもかけがえのないものになっていた。そしてその生活が長く続いていくものだと、彼女は信じていた。

 

 だが、その時間と幸せは無常にも打ち砕かれた。時空管理局の魔導師と騎士の手で、ララは倒されてしまった。

(私たちの幸せを、この人たちが壊した・・・ここで私が負けたら、もう、何も残らない・・・)

 霞美の中で、悲しみと怒りが渦巻いていく。

(そんなの、絶対に・・絶対に認めない!)

 そのとき、えりなと健一の攻撃に追い込まれていた霞美から、漆黒の光があふれてくる。その衝撃は、えりなと健一の最高の攻撃をも吹き飛ばした。

「ぐっ!何だ、今のは・・!?

「すごく邪悪な魔力・・・カオスコアの力が、ここまで引き上げられるなんて・・・!」

 驚愕の声を上げる健一とえりな。霞美の体からは、カオスコアによる禍々しい魔力があふれ出していた。

「全部壊してやる・・イヤなものは、全部壊してやる・・・」

 低い声音で呟くと、霞美が全身から漆黒の魔力を放つ。その閃光に押されて、えりなと健一が吹き飛ばされる。

「えりな!」

 声を上げる明日香。光の炎を巻き上げて、えりなと健一が踏みとどまる。

「カオスコア・・ここまで力を上げられるもんなのかよ・・・!?

「私もカオスフォームを使っていたときは、その気になればどこまでも力を上げられると思ってた・・でも負担が大きいからそんなことはしなかった・・・」

 健一とえりなが、漆黒に彩られた霞美に息を呑む。

「あの人はそれを再現している・・ううん、もう力を抑える歯止めがなくなって、どこまでも力を上げようとする気持ちしかない・・・!」

 霞美の今の状況を痛感して、えりなが困惑している。霞美はカオスコアの邪な力を全開してしまっていた。

「あの2人から先に壊す・・次にララを傷つけた人を壊す・・・そうやって、この世界の全てを壊す・・・」

 冷淡に告げると、霞美がえりなと健一の前に移動する。あまりに速い動きだったため、2人は虚を突かれる。

「まずい!よけきれねぇ!」

 健一が声を荒げた瞬間、霞美がトリニティクロスを振り下ろす。漆黒の一閃を受けて、えりなと健一が地上に落とされる。

 受身が取れず草原の地面に叩きつけられるえりなと健一。

「くっ!・・大丈夫か、えりな・・・!?

「う、うん・・私はこのくらいじゃ・・・」

 うめきながら言いかける健一に、えりなが答える。その2人に向けて、霞美が左手から閃光を発射する。

「危ない、えりなちゃん!」

 玉緒の声がかかり、えりなが顔を上げる。閃光は回避できないほどにまで迫っていた。

「えりな!」

 健一がえりなを守ろうと抱きしめる。その瞬間、漆黒の閃光が2人を包み込んだ。

 黒い光はえりなと健一の体を石に変えていく。2人は意識が薄まり、力が入らなくなる。

「体が、石に・・・い、いけない・・・」

「やべぇ・・このままじゃ・・・」

 苦悶の表情を浮かべるえりなと健一。2人の姿が完全に閃光の中に消える。

 やがて閃光が消失し、草原に煙が舞い上がる。

「え、えりな・・健一・・・!?

 眼下の草原に明日香が困惑を募らせる。その煙の中から、えりなと健一が姿を現した。

 だが2人の体は石化しており、抱きしめあったまま微動だにしなくなっていた。

「そんな・・・!?

「えりなちゃんと、健一くんが・・・!?

 明日香と玉緒が変わり果てたえりなと健一に愕然となる。ヴィータやヴィッツたちに続いて、2人も霞美の手にかかり、石化してしまった。

「まさか、えりなまでやられるなんて・・・こんなことが・・・!」

 アレンもこの事態に困惑の色を隠せなくなっていた。

「他のものも全部壊す・・・幸せを壊すものは、全部私が・・・」

「まずい!障壁を展開するんだ!」

 低く告げる霞美に、ユウキがとっさに呼びかける。霞美がトリニティクロスを振りかざし、デルタ本部に光刃を放つ。

 クラウンたちがコンピューターを操作して、本部の周囲に球状の障壁を展開する。だが霞美の光刃はその障壁を粉砕してしまった。

「障壁が破られた!?

 エリィが声を荒げる瞬間、霞美が立て続けに光刃を放つ。盾を失ったデルタ本部に光刃が叩き込まれる。

「キャアッ!」

 本部内に爆発が起こり、クラウンたちが悲鳴を上げる。激しい衝撃と崩れる壁や備品に巻き込まれ、デルタの面々が突き倒される。

「みんな!」

「これ以上はやらせない!」

 声を荒げる明日香。いきり立ったライムが飛びかかり、霞美に向けてクリスレイサーの光刃を振りかざす。

 その一閃をかわした霞美が、トリニティクロスを突き出す。大量の光の弾が放射され、ライムやなのはたちを突き飛ばし、街や森林地帯にも飛び火する。

 ミッドチルダは火の海に包まれた。建物も崩壊に陥り、デルタ本部も壊滅的な打撃を受けていた。

「うぅ・・・み、みんな・・大丈夫・・・!?

「は、はい・・私は大丈夫です・・・!」

 瓦礫から這い出てきた仁美の呼び声に、クラウンが答える。

「ルーシィ!しっかりして、ルーシィ!」

 カレンの悲痛の声が響く。ルーシィは頭から血を流して、意識を失っていた。

「すぐに回復させるから、みんなで脱出しましょう!」

 シャマルの呼びかけにクラウンたちが頷く。

「私がみんなを助け出します!シャマルさんは負傷者の治療をお願いします!」

 仁美はシャマルに呼びかけると、インテリジェントデバイス「クライムパーピル」を起動させて、隊員たちの救助のために駆け出した。

 炎の舞い上がるクラナガンを見下ろす霞美。ララを傷つけた世界の崩壊を目の当たりにして、彼女は物悲しい笑みを浮かべていた。

(これでいい・・・これでもう、幸せが壊れることはない・・・)

 ララへの想いを募らせて、喜びを表す霞美。だがその気持ちとは裏腹に、彼女の眼から涙があふれてきていた。

 

 

次回予告

 

エースの喪失。

崩壊の危機に瀕したクラナガン。

世界を滅ぼす死神と化した霞美を討伐するため、時空管理局の上層部は非情の決断を下す。

かつてない世界の危機に、デルタの取った行動は?

 

次回・「悲しき破壊者」

 

全てを壊したその先に、未来はあるのか・・・?

 

 

作品集

 

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