魔法戦記エメラルえりなResonance
第19話「イース」
両親を事故で亡くし、幼い少女は泣きじゃくっていた。小さな子供にとって、早すぎる両親との別れは悲しすぎることだった。
そんな少女の前に現れた1人の青年。青年に優しく頭を撫でられて、少女はようやく泣き止んだ。
「君のようなかわいい子には、涙なんて似合わないよ・・」
「お兄さん・・誰・・・?」
「君のお父さんの知り合いでね・・顔を出しに来たんだよ。」
戸惑いを見せる少女に、青年は微笑みかける。
「君のパパとママは先に天国に行ってしまったけど、今も君を守っているんだよ。それなのに、君はいつまでも泣いているところを見せていてもいいのかな?」
「ううん・・よくない・・・」
「それじゃ、君の優しい笑顔を見せてあげないとね・・僕も君の笑顔を見てみたいな・・・」
青年の言葉を受けて、少女は笑顔を見せた。元気を取り戻した少女を見つめて、青年も微笑んだ。
少女は幼い頃の霞美。
そしてその青年こそが、姿を変えて霞美に接触していたジョンだった。
正体を打ち明けたジョンに、アレンもシグマも驚愕を覚えていた。
「お前が、イースの皇帝だっていうのか・・・!?」
「そうだ。私がイースの全てを束ねていた長だ。最も、イースの上級幹部ですら、私の姿を知っているのは最高司令官であるメガールだけだが・・」
疑問を投げかけるアレンに、ジョンが淡々と答える。
「皇帝である貴様が、なぜ地球人を装っていたのだ・・皇帝ならば、他の民から畏敬、あるいは恐怖を向けられているはず・・・!」
「メガール以外に姿を知られていないことが都合がよかったのだ・・私が今まで彼女と接触することに問題はなく、他のイースの者に不審な視線を向けられることもなかった・・」
問い詰めるメガールに、ジョンは笑みをこぼしながら答えていく。
「彼女はカオスコアであったから接触した。親交を深め、当初は裏切りの形で激情をもたらし、カオスコアの力を引き出すつもりだった・・・」
ジョンは語りかけて、霞美に眼を向ける。
「ところが、彼女はブラットと出会った・・記憶喪失に陥り、周囲に害を及ぼすこともなくなったブラットは、彼女にとってなくてはならない存在となった・・ブラットが倒されても、彼女はカオスコアとして覚醒するに至った・・」
「自分の目的のために、関係のない人を利用したというのか・・・お前が彼女と時間を共有してきたのは、ちょっとやそっとの時間じゃない・・彼女に対して、心からの情は全く芽生えなかったというのか!?」
ジョンの態度に怒りを爆発させるアレン。だがジョンはそれすらあざ笑う。
「それは断言できる・・・情が芽生えたなど、皆無だ。」
「そこまで・・・そこまで性根が腐っているのか、お前は!?」
ついに怒りが頂点に達したアレン。だが飛び出そうとした彼を、シグマが制する。
「落ち着け、アレン。いつものお前らしくないぞ・・」
「シグマ・・・ゴメン・・僕としたことが・・・」
シグマに言いとがめられて、アレンが謝意を見せる。
「人の命を弄ばれることへの怒りと悲しみは、私も痛いほど理解している・・・」
低い声音で告げるシグマ。彼の左手は強く握り締められており、爪が食い込んで血が出てきていた。
「これ以上の暴挙はやめろ・・たとえこれまでがお前の筋書き通りのことであっても、オレたちは必ずお前を倒す・・・!」
「残念ですが、あなたたちでは私は倒せません。そもそも、私はあなたたちの相手をするつもりはありませんが・・」
「このまま逃がすつもりはない・・大人しくオレたちの言うとおりにしろ・・・!」
鋭く言い放つシグマだが、ジョンは態度を改めない。
「君たちの相手は彼女だ。怒りに駆られた彼女には、君たちが束になっても敵わないがね。」
ジョンは言いかけると、突如アレンたちの前から姿を消した。
「転移した・・こうも容易く逃がしてしまうとは・・・!」
「今は彼女を止めることが先決だ・・ヴィッツたちを援護しよう!」
毒づくシグマと、呼びかけるアレン。2人は霞美と交戦するヴィッツたちに加勢するのだった。
一方、メガールのシンギュラーシステム、グラビティドライブに押されて、ジュンとマコトは窮地に追い込まれていた。メガールの力によって、レイは意識を失っていた。
「もはやここまでのようだな。私をここまで追い込んだのだ。誇ってもいいぞ。」
不敵な笑みを見せるメガールが、マコトに右手を向ける。
「グラビティドライブの絶対圧迫で、お前の体を華々しく散らせてやる。」
「ぐっ!・・こんなところで、負けてたまるか・・・!」
とどめを刺そうとするメガールに対し、マコトが必死に抗う。ジュンは打開の策を頭の中で模索していた。
(もう1度バーストエクスプロージョンを使うしかない・・でも立て続けに使ったら、さすがに私の体がバラバラになってしまうし、マコトやレイちゃんまで巻き込むことになる・・・)
最善手を見出すことができず、困惑してしまうジュン。メガールがマコトへの攻撃を繰り出そうとした。
そのとき、メガールの背中から突如爆発が巻き起こる。メガールは動じた様子を見せず、ゆっくりと背後に振り返る。
その先には、クロスミラージュを構えたティアナの姿があった。
「あの娘か・・仲間のために戻ってきたか。」
再び不敵な笑みを浮かべたメガールが、攻撃の矛先をティアナに移す。衝撃波が彼女に向けて放たれる。
だがティアナの姿は、衝撃波に当てられると歪んで消えた。彼女が作り出した幻覚の偽者だった。
それにも動じる様子を見せず、メガールは再び振り返る。その方向からスバルが飛びかかってきていた。
「リボルバーシュート!」
スバルが拳を繰り出して衝撃波を放つ。メガールも即座に衝撃波を放ち、迎撃する。
衝撃波の威力の差で、スバルが吹き飛ばされる。
「やはりもう1人いたか・・1人は特攻、1人はその援護を担っているようだからな。」
メガールが言いかけて、再び視線を移す。その先の物陰から、ティアナが姿を現す。
「スバルさん、ティアナさん・・・霞美さんとララさんは・・・!?」
ジュンが問いかけるが、スバルもティアナも答えられず、沈痛の面持ちを見せるしかなかった。
「何かあったんですね・・・何があったんですか・・・!?」
困惑するジュンがたまらず問い詰める。
「それは・・・」
「それは君たちにとって、最悪の事態といえることだ・・」
スバルが答えようとしたところで、別の声が飛び込んできた。ジュンたちの間に、ジョンが姿を現した。
「あなた・・・!?」
「こ・・皇帝陛下・・・!」
声を荒げるティアナと、ジョンにひざまずくメガール。
「こ、皇帝って・・ジョンさんが・・・!?」
ジュンが困惑を見せると、ジョンが彼女に振り向いて悠然とした態度を見せる。
「君たちにはまだ名乗っていなかったね・・私はジョーカー・イース・クルーザー。イース皇帝だ・・」
名乗るジョンにジュンたちが驚愕する。
「皇帝であるお前が、何でアイツと一緒に・・・!?」
マコトが疑念を投げかけるが、その前にメガールが立ちはだかる。
「イース皇帝陛下は全知全能の存在。お前たちの理解など及ぶことはない。」
「全知全能だと!?調子のいいことを!」
語りかけるメガールに、マコトが苛立ちを見せる。
「しかし、陛下がなぜこのようなところに・・?」
「君たちを欺いてしまったことはすまないと思っている。だがミッドチルダ攻略のために、これは必要なことだったのだ。」
疑問を投げかけるメガールに、ジョンが淡々と答える。
「何でこんなことを・・・ララちゃんと霞美さんにあんなことして、何を考えているんだ!?」
腹を立てたスバルがジョンに怒鳴る。するとジョンが微笑を浮かべてきた。
「全てはイース復興と、ミッドチルダ、地球への報復のためだ。君たちがイースへの攻撃を行わなければ、私たちは絶滅の危機に陥ることもなかったし、地球を疎ましく思うこともなかった・・」
「そのために2人を・・・許せないよ、こんなの・・・!」
ジョンの言葉を聞いても、スバルは憤りを覚えるだけだった。
「あなたをこのまま放置するわけにはいかないわ。必ず逮捕するわ・・・!」
ティアナがクロスミラージュの銃口をジョンに向けて言い放つ。
「私を捕らえたところで、もはやこの状況を覆すことはできない。彼女の手によってミッドチルダは壊滅する。その事実に変わりはない。」
「ミッドチルダにはなのはさんやえりな、2人のエースオブエースがいるのよ。みんなを守って、霞美さんを止めてくれるわ。」
ジョンもティアナも臆することなく言葉をかけていく。
「2人の無敵のエースのことも先刻承知だ。それでも彼女を止めることはできない。なぜなら、彼女を突き動かしているのは激しい怒りと、カオスコアによる闇の人格なのだから。」
「えっ!?・・・カオスコア・・・!?」
ジョンが口にした言葉に、ティアナが緊迫を覚える。
「霞美さんが、カオスコアだっていうの・・・ふざけたことを言わないで!」
「ウソではない。現にミッドチルダにいる彼女の魔力資質は、紛れもなくカオスコアのものだ。」
怒鳴るティアナに答えるジョン。カオスコアについて聞かされていたジュンとマコトも、困惑を募らせていた。
「カオスコアの人格を覚醒させた彼女は、ブラットを傷つけたミッドチルダを倒すことしか考えていない。倒す以外に彼女を止める術はないし、そもそも彼女を倒すことも叶わない。」
「そんなことはない・・あの優しい霞美さんなら、あたしたちの声を聞いてくれる・・・!」
「勘違いするな。今の彼女は、普段の彼女とは明らかに違う。それは君たちも理解しているはずだ。」
ジョンの言葉に反論できなくなり、スバルが言葉を詰まらせる。そこへジュンがジョンに声をかけてきた。
「あなたは人の心を分かっているようで、全然分かっていないんですね・・人の心は壊れやすいけど、1度壊れたら元に戻らないほど、やわにもできてはいない・・・!」
「君たちが彼女を呼び戻そうとでも言うのですか?残念ですが、彼女の心を取り戻すことはできません。そもそも、君たちは彼女のところに行くこともできない・・」
強く言いかけるジュンに向けてジョンが言いかけたときだった。彼女の前にメガールが立ちはだかった。
「お前たちの相手は私だ。皇帝陛下が直接手を下すこともありません。」
「いいだろう。ただし場所を変えて戦ってもらう。」
ジョンがメガールに声をかけたときだった。彼らの上空にアクレイムが転移してきた。
「アクレイム・・・!?」
「お前たちを特別に案内しよう。私たちの故郷、イースに・・」
ジュンが驚愕する前で、ジョンが言いかける。直後、彼らを取り囲む形で魔法陣が展開し、全員をアクレイムへと転移させた。
デルタ本部付近から感じられた魔力に、緊張の色を隠せなくなっていたえりなたち。彼らはなのはたちの救援のため、救出したクオンたちとともに急行していた。
「えりな、この感じ、おめぇも気付いてんだろ・・・!?」
「うん・・多分、私が1番に分かってないといけないと思う・・・」
健一が声をかけると、えりなが深刻な面持ちで頷く。2人も明日香も玉緒も、感じられる魔力がカオスコアによるものだと分かっていた。
「カオスコアは対象を別の物質に変えてしまう力がある・・シンギュラーシステムに負けず劣らずの・・」
「急ぐぞ・・何が起こってるか、分かんねぇぞ・・・!」
えりなの言葉を受けて、健一が呼びかける。彼らが加速し、クオンやキャロたちを乗せているフリードリヒも速度を上げた。
そしてついに、えりなたちはデルタ本部に駆けつけた。そこで彼らは、空中に浮遊している霞美を目の当たりにして、緊迫を膨らませる。
「あの人からだ・・あの人からカオスコアの魔力があふれ出している・・・!」
「アクシオたちが戦ってる・・援護しないと・・・!」
えりなと明日香が声を荒げる。霞美はデルタ本部前にいるなのはたちを見下ろしている。
「ララを傷つけたあの人を、絶対にやっつける・・・」
「アンタの相手はあたしたちよ!」
呟いていたところへ、霞美はアクシオに呼びかけられる。霞美は冷たい視線をアクシオたちに向ける。
「もう容赦しない・・全力でアンタをブッ倒す!」
「私は倒されないよ・・私が倒されたら、ララが悲しむから・・・」
言い放つアクシオに対し、霞美が冷徹に答える。
「アクシオ、ダイナ、散開しろ!相手は何を仕掛けてくるか分からない!決して油断するな!」
「任せといて!」
ヴィッツの呼びかけにアクシオが答え、ダイナが頷く。3人が散開して霞美を取り囲む。
「ララを傷つけた人は、全員私が倒す・・・」
「一閃必殺!天光刃!」
「黒炎必砕!ブラックブレイク!」
「豪雪の閃光、アヴェランス!」
ヴィッツ、ダイナ、アクシオが3種の光刃を解き放つ。3人の攻撃は霞美に直撃した。
だが霞美は周囲に球状の障壁を張って、攻撃を防いでいた。
「なっ!?」
「あたしたち、全力でやったのに・・それを障壁で防ぎきるなんて・・・!?」
ヴィッツとアクシオが驚愕の声を上げる。霞美が振り向き、トリニティクロスに力を込める。
「あなたたちの攻撃に、私は負けない・・・」
「まずい!2人とも離れろ!」
霞美が再び低く告げると、ダイナが呼びかける。霞美がトリニティクロスを振りかざして光刃を放ち、ヴィッツたちを吹き飛ばす。
「ぐあっ!」
「キャッ!」
「ぐっ!」
地上に落下するヴィッツたち。霞美が間髪置かずに左手をかざし、閃光を放つ。
「アクシオ!」
ダイナがそばにいたアクシオをつかむと、全力で投げ飛ばす。デルタ本部に投げ飛ばされたアクシオは助かったが、ヴィッツとダイナが漆黒の閃光に巻き込まれる。
「ヴィッツ!ダイナ!」
声を上げるアクシオ。彼女のそばにはやてとジャンヌが駆けつける。
光に巻き込まれたヴィッツとダイナも、石化して動かなくなってしまった。
「そんな・・・ヴィッツとダイナまでやられた・・・!」
悔しさのあまり、アクシオが地面を殴る。霞美は彼女とはやて、ジャンヌに眼を向けてきていた。
「アクシオはユウキさんのところに行って。シャマルに傷を持てもらわんと・・」
「あとは私たちとなのはで何とかする・・あのまま好きにさせるわけにいかない・・・!」
はやてがアクシオに呼びかけ、ジャンヌが霞美を見据える。霞美は石化の光を放とうと、左手を構えていた。
「あなたたちにも苦しみを与えないと・・・」
完全にミッドチルダへの憎しみと敵意に駆り立てられていた霞美。だが突如出現した光の輪が、霞美の体を拘束してきた。
「これ以上、みんなを困らせないで・・・」
霞美に声をかけてきたのはなのはだった。アクシオたちに注意が傾いていた霞美は、なのはと接近とフープバインドの展開に気付かなかった。
「あなたたちが私とララを困らせたのに・・どうしてそんなことが言えるの・・・?」
なのはに向けて冷たい言葉をかける霞美。なのはが意識を集中して、レストリクトロックをかけて霞美にさらなる束縛を与える。
「そう・・そうやって、気に入らないものは何でも壊してしまうんだね・・・」
「今は大人しくして・・でないと力ずくであなたを止めなくちゃいけなくなる・・・」
冷笑を浮かべる霞美に呼びかけるなのは。自身の強引なやり方に、なのはは少なからず歯がゆさを感じていた。
「あなたはただでは終わらせない・・ララが苦しんだ分、あなたにも苦しんでもらうから・・・」
霞美は口調を変えずに、全身に力を込める。腕から血をあふれさせながら、彼女は自分を縛るバインドを強引に打ち破った。
「そんな!?・・頑丈なバインドを、無理矢理に破るなんて・・・!?」
なのはがたまらず驚愕の声を上げる。
カオスコアは負の感情に敏感に反応し、力を増す。その効果が、霞美に絶大な力を発揮させていたのだ。
「普通に正面からぶつかっても跳ね返される危険が高い・・呼びかけるしか・・・」
「なのはさん!」
考えを巡らせていたところで、なのはは声をかけられる。彼女の前にえりなたちが駆けつけてきた。
「えりな!みんな!・・無事に戻ってきたのね・・」
「戻ってくる途中で感じました・・この気配、カオスコアの魔力ですよね・・・!?」
笑みをこぼすなのはに、えりなが深刻な面持ちで訊ねる。
「同じカオスコアの擬態だった私には分かります・・この体が、教えてくれています・・・」
「ヴィータちゃんとヴィッツさんたちがやられた・・・あの人も石化の力を持ってる・・・」
えりなとなのはが霞美を見据える。フリードリヒがデルタ本部前に降下して、キャロを除いて全員が降りた。
「みんな、大丈夫なのか!?」
「はい。ですがまだティアナさんたちは地球にいます・・」
ユウキが声をかけると、クオンが真剣な面持ちで答える。
「今、地球でも戦いが行われてる・・でも、この状況では、あなたたちを援護のために地球に送ることもしてあげられない・・・」
「どうしてこんなことに・・・あの人、霞美さんですよね!?どうして霞美さんが・・!?」
仁美が状況を説明すると、クオンが変わり果てた霞美の姿を見て声を荒げる。
「彼女の仲間が先に攻撃を仕掛けて、それをなのはちゃんが止めたんだ・・やむを得なかったと、なのはちゃんも思ってる・・・!」
「その仲間、きっとララさんです!霞美さんの友人です!」
ユウキの説明を聞いて、ネオンが声を上げる。
「なのはさんはみんなを守るために、ララさんを倒しました・・ですがララさんを傷つけられた怒りで、霞美さんがあたしたちを倒そうとしているのです・・・」
「ムチャクチャだけど、今はアイツを止めないことには話にならねぇ・・・!」
ナディアとロッキーも言いかける。霞美はえりなとなのはをじっと見据えていた。
「この世界は、全部壊してやる・・・絶対にあってはいけないのよ・・・」
霞美は言いかけると、えりなたちに向けて漆黒の閃光を放つ。なのはとえりなは左右に回避する。
「やめて!そんなことをして、あなたの仲間が喜ぶと思ってるの!?」
「ララのことを何も知らずに、勝手に傷つけたくせに・・・!」
呼びかけるえりなだが、霞美の憎悪を煽るだけだった。
「こうなったら倒すしかない!このままだとみんなに迷惑がかかる!」
「ダメです、なのはさん!今の彼女はカオスコアの人格に操られています!仲間を傷つけられたために怒っているだけです!力ずくじゃ、逆に彼女の怒りを増してしまうだけです!」
身構えるなのはをえりなが呼び止める。
「大丈夫!気絶させるだけ!意識がなくなれば、ゆっくりだけど気持ちも落ち着くから!」
「なのはさん・・・そううまくいけばいいんですけどね!」
なのはの言葉を受けて、えりなも臨戦態勢に入る。
「私も傷つけないと気が済まないの?・・・そんなムチャクチャだから、辛さが消えないんだよ・・・」
霞美が眼つきを鋭くして、力を集束させる。彼女はついにえりなとなのは、2人のエースオブエースと対峙することとなった。
突如出現したアクレイムに転移させられたジュンたち。その司令室に彼女たちは送られていた。
「アクレイム・・またここに連れてこられるなんて・・・!」
「僕たちをここに連れ込んで、何のつもりだ・・・!?」
ジュンが呟きかけ、マコトが声を張り上げる。すると暗闇に包まれていた司令室に明かりが灯った。
「言ったはずだ。私たちの故郷、イースに案内すると・・」
ジョンの言葉を聞いて、ティアナが注意力を強める。アクレイムが航行していることに彼女が気付く。
「既にアクレイムは異空間を通り、イースに向けて進んでいる。間もなくして到着する。」
「ホントにどういうつもりなの!?・・敵であるあたしたちを、自分の本拠地ともいえる故郷に案内するなんて・・・」
言い放つジョンに向けて、ティアナが疑問を投げかける。
「直に眼で確かめなければ、己の罪は分からないものだ。たとえ、お前たち自身が直接手を下したものでないとしてもだ。」
ジョンが眼つきを鋭くして言いかける。その言葉が重くのしかかり、ティアナもスバルも反論することができなかった。
しばらくの沈黙が経過したところで、アクレイムを揺るがしていた振動が治まった。
「ついた・・・あの星こそが私たちの故郷、イースだ。」
「あれが、イース・・・えっ!?」
ジョンが呼びかけて窓越しの光景を目の当たりにするジュン。その光景に彼女は眼を疑った。
「あ、あれ・・・この島の形と、海・・・!?」
「海の色は違うけど・・・地球そっくりだ・・・!」
ジュンとマコトが声を荒げる。スバルもティアナも驚きを隠せないでいた。
「どういうことなの?・・・イースト地球が形がそっくりなんて、どうなってるの!?」
スバルがジョンに問い詰める。イースの島々は、地球の日本列島、アジア、アメリカ大陸、ヨーロッパ州など、地球と瓜二つだった。
「イースは、次元の壁を隔てた、もうひとつの地球なのだ。」
「次元の壁を隔てた・・・!?」
ジョンが口にした言葉に、ジュンがさらなる驚愕を覚える。
「ただ、イースは地球よりも技術や科学力が大きく飛躍している。ミッドチルダに勝るとも劣らないほどに成長し、シンギュラーシステムを開発するに至った。」
ジョンから語られる事実に、ジュンたちは言葉を失っていた。
「だが、お前たちミッドチルダはシンギュラーシステムを宿した私たちを妬み、実験を兼ねて私たちへの攻撃を仕掛けた。お前たちの身勝手な行為が、私たちの力を、報復のための剣に変えた・・」
「確かにあたしたちが悪いことをした・・・でももう、話し合って、分かり合うことはできないの・・・!?」
語りかけるジョンに、スバルが悲痛さを込めて呼びかける。
「ならばお前たちは、家族や仲間、故郷が脅かされても、1度も憎悪を抱かずにいられたか?人は心ある生き物だ。情に厚い人間ならば、大切なものを傷つけられて、黙って見ていることなどできない。」
ジョンの言葉を聞いて、ジュンたちは昔の自分を思い返していく。姉を傷つけられて暴走したスバル。両親を殺され、妹の心をも壊されて、1度はミッドチルダへの復讐を誓ったマコト。クオンを傷つけられて見境をなくしたジュン。
家族や仲間を傷つけられて、ジュンたちは怒りに我を忘れた経験をしていた。
「怒りや憎悪に駆り立てられた者に、和解を求めても通用しない。お前たちへの報復以外に、この憎悪が消えることはない。」
「だったらなぜ地球も目の仇にするの!?地球はあなたたちに何もしていないじゃない!」
そこへティアナがジョンに言い放ってきた。だがジョンは彼女の言葉をあざ笑う。
「今の地球も、私たちを攻撃した時空管理局の人間に似た野心に満ちあふれているではないか。私たちやミッドチルダと比べれば小さいが、それでも裕福な資源で満たされている。だがその野心で、その資源が食いつぶされようとしている・・」
「その資源を食いつぶさないためにも、我々は地球にも攻撃の矛先を向けたのだ。」
ジョンに続いてメガールが言いかける。
「今の地球人は、地球上の資源を有効活用できる要素が欠けている。地球人に代わって、我々がその資源を活用していく。」
「だからって、命まで取ることはない・・今のあなたたちのしていることは、あなたたちを攻撃した人たちと同じだよ!」
メガールの言葉にジュンが言い放つ。
「憎み合って、解決することなんてない・・・こんなことしたって、あなたたちは絶対に報われない!」
「黙れ!先に攻撃を仕掛けたお前たちに、私たちの行為をとがめる権限があるというのか!?」
呼びかけるジュンに対し、ジョンが怒りを表してきた。冷静沈着を続けてきた彼が、ついに感情をあらわにしてきた。
「イースは今も崩壊に向かっている!私たちは生き延びるために、お前たちを葬らなければならないのだ!」
「そんな理由のために、あなたたちの行動を黙って見ているわけにいかない!」
怒号を放つジョンに、ジュンも言葉を返して身構える。マコト、スバル、ティアナも構えを取る。
「もはや言葉は意味を成さない・・・イースの姿を眼にしながら、朽ち果てるがいい・・・メガール!」
「皇帝陛下の手を煩わせるまでもありません・・・ここをお前たちの墓場にしてくれるぞ、時空管理局よ!」
ジョンの命令を受けて、メガールがジュンたちの前に立ちはだかる。
「この人たちからみんなを守る・・それがこの人たちに対する謝罪にもなるから・・・」
メガールを見据えながら呟きかけるジュン。イースを舞台にして、彼女たちの最大の戦いが始まろうとしていた。
次回予告
幕を開けた2つの決戦。
ジュン、スバル、マコト。
えりな、なのは、霞美。
様々な思いが交錯し、かつてない激闘と悲劇を引き起こす。
黒く染まった怒りが、全てを消し去る。