魔法戦記エメラルえりなResonance
第18話「黒い魂」
なのはたちがララを撃破していた頃、えりなはソニカとの激闘を繰り広げていた。スピリットモードとなったブレイブネイチャーを使うえりなに、ソニカは徐々に追い詰められつつあった。
「くっ!・・この私が、こうも手も足も出ないなんて・・・!」
「あなたはまだ、私たちの力を甘く見てるよ・・ジュンたちと戦っていること、私も知ってる・・・」
体に痛みを感じてうめくソニカに、えりなが淡々と言いかける。
「そしてあなたが、クオンたちを石にしたことも・・・みんなを元に戻して・・後戻りができなくなる前に・・・」
「悪いけどそれは聞けないわ。私のゴルゴンアイは私でも制御できず、私でも元に戻せない・・私を殺す以外に、みんなを助ける方法はないわ・・・」
忠告を送るえりなだが、ソニカはそれを聞き入れない。
「それに、私は負けるわけにいかないのよ・・ここで勝たないと、私たちは死ぬしかないのよ・・・」
ソニカは言いかけると、右眼を隠す眼帯に手をかける。
「たとえ最強の魔導師や騎士でも、これを受ければ負けは決まりよ・・・!」
鋭く言い放つソニカに、えりなが身構える。
「シンギュラーシステム・・ゴルゴンアイ!」
「ブレイブネイチャー、フェニックスモード!」
“Phoenix mode,awekening.”
コペンが眼帯を外す瞬間、えりながリミットブレイクモード「フェニックスモード」の使用を敢行する。ブレイブネイチャーから灼熱の炎が巻き起こり、同時に彼女のバリアジャケットの基調である緑も紅へと変化し、背中から広がっている翼も炎のものとなって鋭利な形状となる。
フェニックスモードは、炎属性の魔力を放出し、高出力、大威力の打撃、砲撃を繰り出すことができる、その炎で火傷を被るなど、破損しかねないほどに反動が大きすぎるため、滅多なことでは発動されない。
“Phoenix spark.”
えりなの炎の翼から紅い光が放出される。その光が鋭く突き進み、石化の効果を備えたソニカの右眼に突き刺さった
「ぐあっ!何っ!?」
右眼に直接強い光が入り、ソニカが右眼に激痛を覚える。同時にゴルゴンアイが機能を麻痺される。
「石にされたらおしまいだからね。こうするしかなかった・・・」
えりなが沈痛の面持ちで言いかける。シンギュラーシステムを封じるためとはいえ、眼や急所を攻撃することを卑怯と見ていて快く思っていなかった。
「何とかみんなを元に戻して・・・でないとこのまま・・・」
「できないものはできないのよ・・・私もこのままやられるつもりはないわよ・・・!」
えりなの忠告を拒絶すると、ソニカが飛びかかる。彼女はえりなの両肩をつかみ、強く押さえつける。
「その程度のことで、私のゴルゴンアイは封じ込められないわよ!」
ソニカは言い放つと、両目に力を込める。麻痺して機能を失っていたゴルゴンアイに力が戻る。
「あなたもこのまま石にしてやる・・そうすればあなたも辛さから解放される・・・」
「確かに辛さから解放されるかもね・・・でも・・・」
妖しく微笑むソニカに、えりなが眼つきを鋭くする。
「自由がないと、生きていることにならない・・・」
“Phoenix rancer.”
ゴルゴンアイを受けて石に変わりだしていたえりな。彼女の持つブレイブネイチャーから、炎に似た光がソニカの体を貫いた。
“Soul crash.”
その光が爆発を起こし、ソニカの体に崩壊をもたらす。眼を見開いたまま、ソニカが力なく倒れていく。
「ち・・・力が・・・はい・・ら・・・」
踏みとどまることができず、仰向けに倒れるソニカ。意識を保つことすらままならず、彼女はゆっくりと眼を閉じた。
(ゴメンね、姉さん・・・私、姉さんと一緒に生きること、できなかったよ・・・)
コペンに向けての心の声を上げて、ソニカは力尽きた。直後、石化しかかっていたえりなの体が元に戻る。
「石化が解けた・・・それじゃ、この人はもう・・・」
えりなが倒れているソニカに眼を向けて、沈痛さを噛み締める。石化が解かれたことは、彼女の死を意味していた。
「助けてあげたかった・・・救えない命はないはずなのに・・・」
不条理と歯がゆさを痛感するえりな。彼女はブレイブネイチャーをネイチャーモードに戻してから、ソニカの亡骸を抱えてアクレイムに戻っていった。
“お願い・・・子供たちに、辛い思いをさせないで・・・”
ソニカの一途な願いは、えりなの心にしっかりと刻み込まれていた。
明日香に完全な敗北を喫したコペンは、やむなくフェイトとライムを解放することにした。
「カーボンロック、解除・・・」
コペンがフェイトとライムに意識を傾ける。すると2人がめり込まれている板に輝きが宿る。
熱エネルギーによって、炭素凍結された板が溶け出し、元に戻ったフェイトとライムが解放される。
「フェイトさん!ライムさん!」
2人の無事を確かめて、明日香が安堵の笑みを浮かべる。
「ここは・・・私、何を・・・?」
「今まで、どうしていたんだ、僕は・・・?」
何があったのか分からず、フェイトとライムが戸惑いを浮かべている。だがコペンの姿に気付いて、2人が警戒して距離を取る。
「待ってください!・・もう終わりましたから・・・」
「えっ・・・?」
「終わったって・・・」
そこへ明日香が呼びかけ、フェイトたちはさらに当惑する。
「私が犠牲を出さずに生き残るように呼びかけました・・受け入れてくれて嬉しいです・・・」
「えっ!?ホント!?・・そんなことってアリなの・・・!?」
明日香の説明を聞いて、ライムが驚きの表情を見せる。そして明日香はフェイトに、待機状態のバルディッシュを差し出す。
「フェイトさんたちが捕まっていた間、私が預かっていました・・・フェイトさんが支えてくれていたと、私は思っています・・・」
「明日香・・・あなたがここまでやれたのは、あなたの力と心だよ・・私が何かしたとしたら、あなたの背中をやさしく押しただけ・・・」
感謝の意を示す明日香に、フェイトが弁解を入れる。
「それでも、あなたがいなかったら、今の私はなかったです・・・」
「そういうことなら、私もあなたに感謝しなくちゃいけないね・・・」
明日香の言葉を受けて笑顔を見せるフェイト。彼女はバルディッシュを受け取り、じっと見つめる。
「ゴメンね、バルディッシュ・・心配かけて・・・」
“Don't worry.”
謝るフェイトにバルディッシュが弁解する。彼女を見守って、ライムも安堵を浮かべていた。
そのとき、コペンの表情が突然強張った。その異変に明日香たちも当惑を浮かべる。
「どうしたのですか・・・?」
「ソニカの魔力を感じません・・ソニカの魔力だけは、いつでも感じることができましたのに・・・」
明日香が訊ねると、コペンが困惑気味に答える。
そこへえりなが作戦室に入ってきた。彼女はソニカを抱えて、沈痛の面持ちを浮かべていた。
「えりな・・・」
「ソニカ・・・!?」
戸惑いを見せる明日香と、ソニカの姿を目の当たりにして驚愕するコペン。
「ソニカ、どうしたのですか?・・・まさか・・・!?」
「仕方がなかったんです・・これ以外に、クオンたちを元に戻す方法がなかったんです・・・」
えりなが口にした言葉に、コペンが愕然となる。彼女はえりなからソニカの亡骸を取り上げる。
「ソニカ・・・生きるって、約束していたではないですか・・・」
ソニカを抱きしめて涙するコペン。ソニカを救えなかったことに、えりなは悲痛さを宿していた。
「あなたたち、すぐにここから離れなさい・・ソニカが石化した人たちも、元に戻っているはずです・・・」
「コペンさん、あなたは・・・?」
呼びかけるコペンに、明日香が逆に問い返す。
「しばらくここにいます・・2人きりにさせてください・・・」
「ですが・・・」
「私が大人しくしている間に、すぐに消えなさい!再びカーボンロックを仕掛けますよ!」
コペンに押し切られて、明日香はやむなく彼女の申し出を受け入れることにした。
「ただしこれだけは約束してもらいます・・あなたは必ず生きること・・それが妹さんのためでもあるのですから・・・」
明日香が呼びかけるが、コペンは肯定とも否定とも取れない反応を見せる。
「行こう、明日香・・みんなが待ってるから・・・」
「はい・・・」
フェイトに声をかけられて、明日香は小さく頷く。玉緒やクオンたちと合流すべく、えりなたちはコペンたちに背を向けて、作戦室を飛び出していった。
(・・・残念ですが、あなたの願いを聞き入れることはできません・・・)
コペンは胸中で呟くと、魔力を費やして光の槍を作り出す。彼女はその槍を自分の胸に突き刺した。
(ソニカ・・あなたを1人にしません・・私もすぐにそちらに行きます・・・)
ソニカへの愛情を秘めたまま、コペンも命を閉ざした。
ソニカによって石化されていたクオンたち。だがソニカの命が尽きたことで石化が解け、彼らは白い煙をあふれさせて元に戻った。
「あ、あれ?僕は・・・?」
「ここは、どこ・・・?」
クオンとネオンがきょとんとなって周囲を見回す。エリオたちも状況が飲み込めず、動揺の色を隠せなかった。
そこへ扉が開け放たれ、突然のことにクオンたちが身構える。だが部屋に入ってきたのは玉緒だった。
「た、玉緒さん!?」
クオンが驚きの声を上げる。彼らの無事を確かめて、玉緒が安堵の笑みをこぼす。
「みんな、元に戻ったみたいだね・・・」
「玉緒さん・・僕たち、どうしていたんですか・・・?」
クオンが疑問を投げかけると、玉緒が外に振り向く。
「脱出しながら話すよ・・みんな、急いでえりなちゃんたちと合流するよ。」
玉緒の呼びかけにクオンたちが頷く。彼らはひとまず、ソニカの作戦室から脱出した。
その廊下の真ん中で、玉緒たちはえりなたちと合流するした。
「玉緒ちゃん!みんな!」
「えりなちゃん!フェイトさん!」
えりなと玉緒が声を掛け合い、駆け寄って手を取り合う。
「話は玉緒さんから聞きました、フェイトさん・・すぐにスバルさんたちのところに戻ります。もしかしたら、イースが地球に来ているかもしれません・・」
「待って。まずはデルタ本部に戻ってからよ。でないと地球に向かうこともできないよ・・」
呼びかけるエリオをフェイトが呼び止める。焦る気持ちを抑えて、エリオたちはフェイトたちの指示に従うことにした。
そのとき、リオとの戦いを終えた健一も、アクレイムに再び乗り込んでえりなたちの前に現れた。
「ありゃ?もう終わっちまったのか?急いで駆けつけたってのに・・」
健一が肩を落とすと、えりなと玉緒が笑みをこぼす。
「おしゃべりは後にしてよな。まずはここから出るよ。」
「はい!」
ライムの呼びかけにえりなたちが答える。彼らは横の壁を突き破り、アクレイムから脱出した。
その直後、えりなたちは異様な魔力を感知して、緊迫を覚える。
「な、何だ、この魔力は・・・!?」
「とっても悪い感じの魔力・・・何なの、コレ・・・!?」
かつてない強さの邪な魔力に、クオンとネオンが声を荒げる。えりなたちもこれまでにない危機を予感していた。
異様な変貌を遂げた霞美。ララを失った悲しみと怒りが、彼女の邪な姿を覚醒させた。
「霞美さん・・・どうしたっていうの・・・!?」
スバルが困惑しながら霞美に近寄ろうとする。
「許さない・・・ララを傷つけたものを、私は許さない・・・人も、世界も全て・・・」
霞美は低い声音で呟きかける。彼女の体から漆黒の霧があふれ出てくる。
「壊してやる・・あの世界を・・・」
「霞美さん!・・・もしかして、ミッドチルダに・・・!?」
スバルが慌てて呼び止めようとするが、霞美は黒い霧とともに姿を消してしまった。
「消えた・・・急がないと、ティア!霞美さん、ミッドチルダに・・・!」
「待って、スバル!今のあたしたちだけで、ミッドチルダに向かうのはムリよ!ジュンたちと合流してからじゃないと・・!」
霞美を追いかけようとするスバルを呼び止めるティアナ。
「そうだ・・ジュンたち、イースと戦っているんだった・・・!」
「いくらジュンとマコトでも、あのイース相手に持ちこたえられる保証はない・・まずは合流して、ジュンたちを助けることを考えるわよ。」
ティアナの呼びかけにスバルが頷く。2人はひとまずジュンたちのところに戻ることにした。
「あ、あの、待ってくださーい!」
そこへ声がかかり、スバルとティアナが足を止める。2人が振り返った先には、クリスタルケージを自力で破ってきたフューリーの姿があった。
「あ、あなたは・・・!?」
驚きの表情を見せるスバルが、ふらふらしているフューリーを両手で受け止める。
「この気配・・もうララさんも霞美さんも・・・」
「あなた、2人の知り合いのようね。何があったのか、話してくれる?」
肩を落とすフューリーに、ティアナが質問を投げかける。
「あなた方は、時空管理局ですね・・あの、ジョンという人が、ララさんを・・・」
「そのことならもう知っているよ・・」
語りかけるフューリーにスバルが言いかける。
「あ、そうでしたか・・それで、ララさんとジョンさんはどこに・・・?」
「ジョンさんもララさんもミッドチルダに・・それでララさんは・・・」
フューリーの問いかけに答えるものの、ティアナは言葉を詰まらせる。それが何を意味しているのか、フューリーはすぐに悟った。
「それで、霞美さんがおかしくなって、そのままミッドチルダに・・・」
「おかしくなったって・・どういうことなのです・・・!?」
スバルの言葉に困惑するフューリー。だがティアナは話を切り替えた。
「あたしとスバルは仲間を迎えに行く。あなたはすぐにあの先にあるコテージに行って。そこにも仲間がいるから・・」
「わ、私にも手伝わせてください!私はあなた方に迷惑ばかりかけてしまいました・・ですから!」
「今あなたがしなくちゃいけないことは、霞美さんのところに行って呼びかけること。それは多分、あなたじゃないとできないことだから・・」
ティアナに呼びかけられて、フューリーは納得する。
「ミッドチルダに転送するように行っておくから・・」
「分かりました・・こんな私を、ここまで支えてくれて・・本当にありがとうございます・・・」
ティアナの優しさを受け止めて、フューリーが感謝の言葉をかける。彼女はスバルとティアナを見送ってから、コテージに向かっていった。
ララを辛くも倒すことができたなのはたち。力を使い果たしたなのはを連れて、はやてとジャンヌはデルタ本部前まで下がっていた。
「大丈夫かい、なのはちゃん!?」
そこへユウキが仁美とともに駆けつけてきた。
「ユウキさん・・私は大丈夫です・・少し休めば・・・」
「今は任務のことは考えないほうがいい。みんなを信じるんだ・・」
微笑みかけるなのはにユウキが呼びかける。彼らはヴィッツたちと交戦しているジョンに眼を向ける。
「せっかくのおめぇの切り札もお陀仏になったな。」
「今度こそ終わりよ。投降するなら、これ以上の攻撃はしないよ。」
ヴィータとアクシオがジョンに呼びかける。だがジョンは悠然さを崩していなかった。
「余裕だな。まだ策があるのか?」
「フフフ。まだ私の思い通りになっている。ブラットが倒されることも想定の範囲内だよ。」
眉をひそめるヴィッツに、ジョンが淡々と言いかける。
「このときのために、私は数多くの段取りを施してきた。それが実を結ぶことになっただけだ・・・」
「どういうことなんだ・・何を企んでいる!?」
語りかけるジョンにアレンが怒鳴りかける。
「君たちも感じているはずだ。ここに向かっている力を・・」
ジョンのこの言葉の直後だった。突如感じられた強大な魔力に、アレンたちが眼を見開く。
「こ、この感じ・・・!?」
「強い魔力だけじゃない・・この感じ、間違いない・・・!」
アクシオとアレンが驚愕の声を上げる。次の瞬間、クラナガンの空に暗雲が立ち込めてきた。
「ここに現れたようだ・・先ほどのブラットの戦いを見ていて、ブラットが倒されたことに怒りを覚えた・・・」
その暗雲に眼を向けて、ジョンが微笑む。暗雲の下に、黒い稲妻を伴いながら霞美が姿を現した。
「何だ、あれは!?イースの新手か・・・!?」
「いや、そうは言い切れない・・なぜならこの気配・・・」
声を上げるシグマにアレンが言いかける。
「忘れるはずがない・・・カオスコアだ!」
「カオスコア!?カオスコアだって!?」
アレンの言葉を聞いてアクシオが声を荒げる。ヴィッツもヴィータも困惑を感じていた。
「ちょっと待って!カオスコアはもう全部回収したじゃない!えりなのカオスコアもえりなと一体化して、その力もなくなってるじゃない!」
アクシオが困惑しながらアレンに詰め寄る。
「分からない・・発見されていないカオスコアがあったのかもしれない・・・」
「とにかく、このまま放置するわけにいかない・・何かする前に止めないと・・・」
アレンも答えに詰まり、ヴィッツが霞美に眼を向ける。霞美はクラナガンの街並みをじっと見つめていた。
「ララを傷つけるものは、全部私がやっつけてやる・・・」
霞美は冷淡に告げると、トリニティクロスを振り上げる。霞美の邪な魔力に侵されて、トリニティクロスは人格が機能しなくなっていた。
「まずい!クラナガンが!」
ダイナが声を荒げた直後、霞美がトリニティクロスを振り下ろす。その刃から漆黒の光刃が放たれ、クラナガンの街並みに叩き込まれる。
建物が爆発を起こし、人々が悲鳴を上げる。復興に向かっていたクラナガンが、再び炎に包まれた。
「アイツ、勝手なマネを!」
怒りをあらわにしたヴィータが、霞美を止めるべく飛び出していく。
「待ってって、ヴィータ!」
アクシオが呼び止めるが、ヴィータは止まらない。
「アクシオ、ダイナ、我々も行くぞ!・・リイン、また力を貸してもらうぞ!」
“任せてください!いつでもいけます!”
指示を出すヴィッツに、彼女とのユニゾンを果たしているリインフォースが答える。三銃士も霞美に向かって飛び出していった。
憎悪と敵意を見せる霞美の前に、4人と騎士と剣士が立ちはだかった。
「おめぇ、いきなり何やってんだよ!?」
ヴィータが怒鳴りかけると、霞美が振り向き、冷たい視線を投げかける。
「あなたたちが、ララを傷つけた・・・あなたたちを、私は絶対に許さない・・・」
憎悪を膨らませる霞美が、ヴィッツたちに向けてトリニティクロスを振りかざす。放たれた漆黒の光刃を、ヴィッツたちは回避する。
「このヤロー・・・やるよ、グラーフアイゼン!」
“Jawohl.”
呼びかけるヴィータにグラーフアイゼンが答える。
“Raketenform.”
「ラケーテンハンマー!」
ラケーテンフォルムに形状を変えるグラーフアイゼン。ロケットでの加速による突進力を込めて、ヴィータが霞美への攻撃を仕掛ける。
だが霞美は左手で具現化させた障壁で、ヴィータの攻撃を受け止めてしまう。
「何っ!?」
「そんなのに、私は負けたりしない・・・負けるわけにはいかないのよ・・・!」
驚愕の声を上げるヴィータに、霞美が鋭く言い放つ。彼女が障壁に力を込めて、ヴィータを弾き飛ばす。
「ぐっ!・・あたしとアイゼンを跳ね返すなんて・・・!」
うめくヴィータが霞美に視線を戻す。そこへバサラが駆けつけ、ヴィータに声をかけてきた。
「相手は生半可な攻撃では跳ね返されるだけです。倒すのでしたら、全力で叩く以外にありません。」
「そうみてぇだな・・バサラ、ユニゾンいくぞ!」
バサラの呼びかけを受けて、ヴィータが彼女とのユニゾンを持ちかける。
「ユニゾンイン!」
バサラがヴィータの体に入り込み、力を増加させる。ヴィータの紅い騎士服と髪が黒に変化する。
「これであたしとアイゼンも、リミットブレイクにある程度踏ん張れる・・・最後の忠告だ!大人しくこっちの言うとおりにするんだ!」
気を引き締めたヴィータが呼びかけるが、霞美はそれに答えない。
「仕方ねぇな・・・だったら全力で叩き潰す!」
“Zerstorungsform.”
ヴィータが言い放ち、グラーフアイゼンがリミットブレイクフォルム「ツェアシュテールングスフォルム」に形状を変える。巨大なハンマーの部分がドリルとロケットに変化する。
「あたし、アイゼン、バサラ・・あたしらが手を組んで、ブッ壊せねぇもんはねぇ!」
ヴィータが再び霞美に飛びかかり、グラーフアイゼンを振り下ろす。
「・・・壊れるのは、あなたたちのほうだよ・・・」
霞美は低い声音で言いかけると、トリニティクロスを構える。その刀身に漆黒の光が宿る。
ドリルの回転する鉄槌と、漆黒の剣がぶつかり合う。互角の競り合いのように見えたか、ヴィータが徐々に押されだした。
「どんなものだって、私を止めることはできない・・・」
眼つきを鋭くした霞美が、トリニティクロスにさらなる力を注ぎ込む。その力に抗いきれず、ヴィータが突き飛ばされる。
「うわあっ!」
「ヴィータ!」
落下するヴィータをアクシオが受け止める。ヴィッツとダイナもブリットとヴィオスを構えて、霞美に飛びかかる。
「誰もが私を傷つけようとする・・そうやって、ララも傷つけた・・・」
霞美の脳裏に、ララがなのはに倒される光景が蘇ってくる。
「許さない・・・絶対に許さない!」
怒りと激情に駆り立てられる霞美が、一気に加速して飛び出す。その速さに一瞬虚を突かれたヴィッツとダイナが、霞美の突進を受けて突き飛ばされる。
「ぐっ!」
「ごあっ!」
絶叫を上げる2人が、踏みとどまって体勢を整える。空中に留まる霞美から、漆黒の霧のような魔力があふれ出る。
「もう、壊すだけじゃ足りない・・・あなたたちに、壊される以上の苦しみを与えてやる・・・!」
霞美がヴィータたちに向けて左手をかざす。その手の平に漆黒の霧が集束されていく。
「アクシオ、どけ!」
「ヴィータ!」
ヴィータがとっさにアクシオを横に突き飛ばす。霞美が左手に集めた黒い魔力を、ヴィータたちに向けて放つ。
アクシオを庇ってヴィータがその光を受ける。その光に侵されたヴィータが色をなくし、驚きの表情を浮かべたまま停止してしまう。
「ヴィータ・・・!?」
変わり果てたヴィータの姿に、アクシオが眼を疑う。霞美の魔力を受けたヴィータは、物言わぬ石像と化してしまった。
落下していくヴィータを、アクシオが即座に受け止める。
「体が石になってる・・・間違いない・・アイツ、カオスコアの力を使ってる・・・!」
緊迫を募らせるアクシオが、霞美に眼を向ける。
「いや・・今のアイツが、カオスコアとしてのアイツの人格だってことか・・・」
冷たい眼つきをしている霞美を見て、アクシオが毒づく。
カオスコアは人間に擬態する性質を持っているが、稀にカオスコアとは別の人格が生まれ、表面化していることがある。えりながその一例にあたり、カオスコアの人格が目覚めてから、2つの人格はしばらく彼女の体を共有していた。現在はカオスコアの人格は、表の人格と一体化している。
「表の人格には悪いけど、ヴィータをほっとくわけにいかないから・・・!」
アクシオがヴィータをデルタ本部前まで連れて行く。変わり果てたヴィータを目の当たりにして、なのはたちも動揺を隠せないでいた。
「ヴィータちゃん・・・!?」
「ヴィータを頼む。あたしはヴィッツとダイナと一緒に、アイツを止めてくる。」
困惑を見せるなのはに、アクシオが呼びかける。アクシオは空に視線を戻して、ヴィッツとダイナと合流するために飛翔した。
悠然とした態度を保っているジョンと、アレンとシグマは対峙していた。しかし両者は見合ったままで、攻防の様子を見せていない。
「彼女が出しているのは間違いなくカオスコアの魔力・・彼女がカオスコアの力を解放したのも、お前の計算のうちだというのか・・・!?」
「その通りだ。彼女がカオスコアの擬態であることも、ブラットが倒されることで彼女が激怒することも理解していた・・」
問いかけるアレンに、ジョンは淡々と答える。
「彼女は全てを破壊する・・家族同然の親友となっていたブラットを手にかけたお前たちミッドチルダを滅ぼすまで、彼女の暴走は止まらない・・」
「お前・・人の命を何だと思っているんだ!?彼女も本当は無関係の人間だったはずなのに!」
「お前たちに私たちイースが受けたのと同じ苦しみを与えるためなら、もはや手段は選ばない・・」
怒鳴るアレンに対して、ジョンが笑みを消す。
「お前、いったい何者なのだ・・・!?」
シグマがブレイドデバイス「スティード」をジョンに向けて問いかける。するとジョンが再び笑みを見せる。
「ジョン深沢は私の地球での仮の名前。私の本当の名はジョーカー・イース・クルーザー。イース皇帝だ・・」
ジョンが口にした言葉に、アレンたちは驚愕を覚える。イースを束ねる者が、既に地球での暗躍を行っていた。
次回予告
ジョンはイース皇帝だった。
霞美を含めた全ての策略が、ジョンによって仕組まれたものだった。
イースとは何なのか。
ミッドチルダが招いた悲劇が、全ての始まりだった。
黒き野望と力、食い止めるのは誰か・・・?