魔法戦記エメラルえりなResonance
第17話「ララ」
アクレイムのそばで、一進一退の攻防を繰り広げる健一とリオ。だが2人とも力を全て出し切ってはいなかった。
「そろそろ出せよ、アンタの青い炎・・全力出さずに負けたんじゃ、納得いかねぇだろ?」
健一が突然リオに呼びかけてきた。それを聞いたリオが、攻撃の手を止める。
「出し惜しみしているわけではありません。私の・・いえ、イースに住む者の多くが、負担の大きいシンギュラーシステムを備えているのです。私のヘルフレイムも、長時間使用すれば私自身すら焼き尽くすものなのです・・・」
「だったらすぐに終わるようにしようぜ。そうすりゃお互い都合がいいからさ。」
「そうなれば、あなたは間もなくして命を落とすことになりますよ。」
「見くびるなって。オレは簡単にやられるほどやわじゃねぇよ。」
忠告を入れるリオだが、健一は不敵な笑みを見せるだけだった。
「いいでしょう。そこまでいうならば、私にも覚悟があります・・あなたの命を絶つことを、お許しください・・・」
リオは決意すると、剣を構えて意識を集中する。
「シンギュラーシステム・・ヘルフレイム!」
リオの持つ剣から青い炎が湧き上がる。彼女の戦闘能力も大きく増大していく。
「行きますよ・・わずかでも気を抜けば、死にますよ・・・!」
リオが低く告げると、その直後、健一に向けて飛びかかる。
「ラッシュ!」
加速されたリオの一閃を、健一がラッシュで受け止める。彼は眼だけでなく、空気の動きや魔力の気配で動きを読んでいた。
(ホントに鋭い攻撃だ・・ちょっとでも気を抜けば、あっという間に負け決定だ・・)
リオの力に健一が胸中で毒づく。リオからあふれ出る炎が、健一に迫ってくる。
“Blast strush.”
健一がラッシュを振りかざすが、青い炎は全てかき消されてはいなかった。
「炎のほうもずい分しぶといみてぇだな・・・!」
眼前の炎を完全にかき消してから、健一がリオを見据える。その瞬間、リオが青い炎をまとったまま、健一に飛びかかってきた。
「私は負けるわけにはいかないのです・・この剣には私だけでなく、イースを生きる全ての方々の命がかかっているのですから・・・!」
「負けらんねぇのはオレも同じだ!オレの後ろには、ミッドチルダと地球の人たちがいるんだ!」
互いに鋭く言い放つリオと健一。2人が剣をぶつけ合い、つばぜり合いに持ち込む。
「オレが負けたら、オレを信じてる仲間に顔向けできねぇ・・だからオレは!」
健一が力を込めて、リオの剣と炎を振り払う。
「オレはアンタに勝って、えりなたちのところに帰る!」
“Pressure strush.”
魔力を宿したラッシュを構えて、健一が飛びかかる。重みのある一閃が青い炎を切り裂き、リオの剣を叩く。
「ぐっ!」
健一の攻撃に押し切られて、リオが突き飛ばされる。体勢を整えようとする彼女に、健一が再び距離を詰める。
“Ultimate strush.”
ラッシュの刀身に輝きが宿る。その剣を健一がリオに振り下ろす。
「負けられない・・・蒼炎斬!」
リオも青い炎を剣に宿して、健一に迎撃を繰り出す。2つの一閃がぶつかり合い、周囲に大きな衝撃をもたらす。
相手の力に対して必死に耐え抜く健一とリオ。だがリオは限界を痛感していた。
(このまま長引けば負ける・・・一気に力を燃やすしかないです・・・!)
「ヘルフレイム、全開!」
リオが力の全てを発揮する。青い炎にも力が込められ、健一との力比べで押し返そうとする。
(こんなもんで、オレがやられてたまるかっての・・・!)
負けん気を強める健一が、左手でデバイスを取り出す。ユウキから預かったデバイス「シェリッシェル」である。
健一はシェリッシェルをラッシュの柄にセットする。するとシェリッシェルの形状が変化し、ラッシュとの結合を果たす。
シェリッシェルは他のデバイスと結合することでブースターの役割を担い、そのデバイスと使い手の負担を軽減したり、魔法の威力を増加させたりすることができる。
「ユウキさん、あなたの思い、使わせてもらうッスよ・・・!」
ユウキの思いを背に受けた健一が、力を振り絞る。ラッシュと結合したシェリッシェルが、彼に力をもたらしていた。
「力が一気に上がった!?・・お、押される・・・!」
健一が振り下ろしたラッシュを押し返せず、リオが突き飛ばされる。強烈な一閃で、彼女の持っていた剣も刀身が折れる。
(そんな・・・全てを出し切り、気持ちでも負けていないと思っていた私が、完膚なきまでに叩き潰されるとは・・・)
力なく落下していくリオは、絶望を感じていた。
(すみません、みなさん・・私の過信が、希望の未来を絶ってしまいました・・・)
仲間たちへの謝意を募らせるリオ。地面に叩きつけられたとき、自分の全てが終わる。彼女はそう思っていた。
だが地面に落ちる前に、リオは落下を感じなくなる。違和感を覚えて眼を開けた彼女が見たのは、手をつかんで支えていた健一だった。
「えっ・・・!?」
「おい、しっかりしろ・・こんなとこでお陀仏になんてなるなよ・・・!」
驚きを見せるリオを、健一が必死につかみ上げる。敵だった相手に助けられたことに、リオは冷静さを保てなかった。
「なぜです・・・どうして私を・・・!?」
「見くびるなって・・時空管理局は非情な連中じゃねぇ。少なくともオレたちは違う。」
問いかけるリオに、健一は憮然さを込めて呼びかける。
「生き延びるために一生懸命になってるヤツらを、オレたちは放っておくことなんてできねぇんだよ・・それにアンタはオレより強い。シェリッシェルがなかったら、負けてたのはオレのほうだった・・・」
「謙そんはやめてください・・現にあなたは私に勝った・・これは、勝負でしたから・・・」
「とにかく、アンタはオレより強いのは確かだ。オレよりも未来を切り開く可能性を持ってるわけで・・・ったく、オレは何を言ってんだか・・・」
自分が何を言っているのか分からず、健一が肩を落とす。その様子を見て、リオが思わず笑みをこぼす。
「楽しそうな人ですね・・元気が出てくるようです・・・」
「そ、そうか・・それはよかった、アハハハハ・・・」
リオに笑みを見せられて、健一が苦笑いを浮かべる。2人はアクレイムに眼を向けて、真剣な面持ちに戻る。
「まだえりなたちが戦ってるかもしれない・・オレも行かねぇと・・・」
「ダメです。あなたの体力はかなり消耗されています。行ってもコペンさんとソニカさんには太刀打ちできません。」
アクレイムに向かおうとする健一を、リオが呼び止める。しかし健一の意思は変わらない。
「敵わないと分かっていても、戦わなくちゃいけないときがある・・アンタにも分かってるはずだろ。」
「そうでしたね・・・ですがイースの人間である以上、今はあなたと手を組む気はありません。仲間たちに背を向けることになりますから・・」
「それならそれでいいさ。オレにはオレの、アンタにはアンタの道があるさ・・・オレたちの仲間も、それぞれの道を進んでるんだからな・・・」
リオに言いかけて、健一がえりなのことを思い出していた。なのはの考えに反したえりなは、教導官としての別の道を進むようになった。道はひとつでないことを、彼もこのとき思い知らされたのだった。
「アンタはそこで大人しくしてろよ。勝手なことしたら、すぐに戻ってくるからな。」
健一はリオに釘を刺すと、アクレイムに向かっていった。
(託すことができるかもしれません・・私たちの未来を・・・)
リオはいつしか、健一への信頼を抱いていた。だが仲間たちへの背信を行えず、彼女はことの成り行きを見守るだけだった。
リオと別行動を取っていたディオンは、クラナガンに向かっていた。彼はダイナとの決着を着けようとしていた。
(私の中で渦巻くこだわり・・私にも意地があるのだな・・・)
心の中で自分に苦笑するディオン。彼の視界になのはたちの姿が入ってくる。
(何者かと戦っているようだな・・イースの者ではないのか?・・いや、どちらとも断定できない・・・)
ジョンとララの姿を目撃したディオンが、戦況を把握しきれないでいた。
(残念だが、私の相手はあくまで1人・・・)
迷いを切り捨てたディオンが、ダイナに向かっていく。その特攻をダイナも気付いた。
「お前たちは先に行け。アギト、ユニゾンだ。」
ダイナがヴィッツたちに呼びかけると、ヴィオスを構えてディオンの突進を防ぐ。ダイナに振り払われたディオンが、距離を取りつつ人の姿となる。
「お前の相手はオレたちだ。一瞬の勝負ですまないが、オレたちも時間がないのでな。」
「それもいい。煌く火花は、長く咲き誇る花よりも美しいものだ・・・」
言いかけるダイナに、ディオンが不敵な笑みを見せる。ダイナがアギトと頷き合い、互いに意識を傾ける。
「ユニゾンイン!」
アギトがダイナの体と一体になる。彼の紅い髪と騎士服の紅が黒く変色していく。
「お前も持てる力の全てを出し切れ。それと、命を絶ってしまうかもしれないことを、許してくれ。」
「私の死など気にするな。死ねば私がそれまでだったということだ・・」
鋭く見据えてくるダイナに、ディオンが不敵な笑みを見せる。2人が同時に飛び出し、攻撃をぶつけ合う。
その衝突の反動で弾き返されるダイナとディオン。ダイナの強さを痛感して、ディオンが高揚感を覚える。
「これがユニゾンというものか。融合による力とはいえ、これほどの強さを持つ相手は今までにいない・・・」
興奮を抑えきれなくなったディオンが哄笑を上げる。
「この勝負が一瞬のひと時でしかないのが、実に悔やまれる!」
いきり立ったディオンが、真正面からダイナに向かってくる。ダイナとアギトは精神を統一させて、眼前の相手に意識を集中する。
「黒炎必砕!ブラックブレイク!」
黒い炎をまとったヴィオスを振り下ろすダイナ。その一閃が、ディオンが繰り出した拳と衝突する。
だが黒い炎によって威力を増しているヴィオスの一閃は、ディオンの拳と力を容易く退けてしまった。
「ぐおっ!」
黒い一閃を右肩から右のわき腹にかけて叩きつけられ、ディオンが力を失う。だが地上に落下する直前に、ディオンは踏みとどまって地面との衝突を免れる。
「ぐっ!・・オレが、痛みに恐怖を覚えるとは・・そこまで力の差を痛感したということか・・・」
体に刻まれた傷の痛みを感じて、ディオンが顔を歪ませる。彼が上空を見上げると、ダイナはジョンと対峙するアレンたちに加勢していた。
「本当の決着は、しばらく後になりそうだ・・・」
ディオンは強い相手への喜びを感じながら、力尽きてうつ伏せに倒れ込んだ。
(リオ・・すまない・・・私もここまでのようだ・・・)
力を使い果たしたディオンは、獣の姿に戻った。守護獣である彼は、リオが敗北したことを感じ取っていた。
フェイトたちを救うため、果敢にコペンに挑む明日香。だがコペンの巧みな攻守に、明日香は攻めきれないでいた。
(この人、単に魔力が強いだけじゃない・・私の攻撃をうまく防いでいる・・・)
決定打を与えることができず、明日香は息をも荒げていた。
「ムダですよ。あなたの戦闘パターンも分析済みです。そこからの予測もいくつか立てています。」
コペンが明日香に向けて淡々と言いかける。
「あと、あなたに残されているのは、リミットブレイクですか・・・」
コペンのこの指摘に、明日香が息を呑んだ。
「私はこれからフェイトさんたちの体を調べて、命の延長を解明しなくてはなりません。出すなら出し惜しみはやめていただけますか?」
「・・・そこまでいうなら、私ももう出し惜しみはしません・・・」
コペンに促される形で、明日香が意識を集中する。
「あなたは自分たちが生き延びるために、その科学力を使っているようですが・・自分たちが生き延びるためなら、他の人の命はどうなっても構わないのですか?・・誰かが犠牲になっても構わないのですか・・・!?」
「時空管理局の局員であるあなたがそれを口にできるのですか?あなたたちは私利私欲のために、私たちの故郷を実験の標的にして攻撃し、私たちを絶滅の危機に追いやりました・・・あなたたちがいなければ、私たちは今も平穏に過ごせていたはずなのですよ・・・」
明日香の問いかけに、コペンが苛立ちをあらわにする。
「他のものを犠牲にすることを快く思っていないのが、私の本心です・・ですが、あなたたちに私の過ちをとがめる資格があるのですか・・・!?」
「確かに私たちが行ったこの罪は、必ず償わなければなりません・・ですが、大切な人たち、大切な場所が傷つけられて、私は黙って見ているわけにはいきません・・・!」
“Splash form,awakening.”
鋭く言いかけるコペンに対して自分の気持ちを告げる明日香。ウンディーネがリミットブレイクフォーム「スプラッシュフォーム」に変形する。
スプラッシュフォームはエレメントフォーム以上の魔力操作を行えるようになったが、許容量を超える魔力集中を行うため、かなりの危険を伴う。
「強い光・・その魔力、まさに限界突破と呼べるほどの強度なのでしょうね・・」
ウンディーネから発せられる光を眼にしても、コペンは悠然さを見せていた。
「ですがその力が光と水の属性を備えていることは明白です。十分に対処できます・・」
「破られる危険があっても、もう進む以外の選択肢を捨てています・・前進あるのみです!」
「・・そういう純粋なのも、私は嫌いではないですよ・・・」
鋭く言い放つ明日香に、コペンは微笑を浮かべていた。
“Drive charge,infinite splash.”
明日香とウンディーネの最大の魔力収束「ドライブチャージ・インフィニティ」を発動させる。その余波の光の粒子が、コペンの頬をかすめた。
(まだ魔力を集めている途中だというのに、その余波が飛び火しているようですね・・ですが、それだけの魔力に不規則な動きを加えるのは至難・・)
分析を踏まえて、コペンが迎撃に踏み切る。
「シンギュラーシステム・・カーボンロック!」
コペンが体から赤褐色の光をあふれさせる。
(真正面からの大振りの魔法発動・・私のカーボンロックなら、その魔力ごと明日香さんを包み込むことができます・・・!)
コペンが両手をかざして、光を集束させていく。
「これが最後の勝負になりますね・・私を倒してフェイトさんたちを救い出すか、私にカーボンフリーズを施されるか、あなたが行き着くのはそのどちらかです。」
「そうなりますね・・ですが、私は負けるつもりはありません・・・!」
淡々と言いかけるコペンに、明日香も言葉を返す。ドライブチャージ・インフィニティによる魔力集束が完了した。
「フェイトさんたちを助け出す・・でないと私がここに来た意味がなくなりますから・・・!」
明日香は言いかけると、ウンディーネを大きく振りかざす。
「海神激流!スプラッシュスマッシャー!」
明日香によって集束された膨大な魔力が、大津波のようにコペンに迫る。
「ですがその津波、私のカーボンロックは突き抜けます!」
コペンが赤褐色の光を放射する。魔法の種類を問わず、炭素凍結の光はその魔法を受け付けず通過するはずだった。
だが明日香の放った津波は、コペンの光を受け止めていた。
「そんな!?人間の魔力は確実に通過できるはず・・・!?」
「私の魔力だけでは威力に限界があります。ですから私は周囲に散りばめられている魔力の粒子も集めているのです・・」
驚愕するコペンに、明日香が冷静に語りかける。
「その魔力は人のものだけじゃない・・動物や植物、無機物の魔力も含まれているのです・・・」
「そこまで予測できなかったとは・・私も詰めが甘かったということですか・・・」
明日香の言葉を聞いて、コペンが苦笑を浮かべる。赤褐色の光が、明日香の光と相殺されて互いに消滅する。
「フェイトさんたちを元に戻して・・私たちと、犠牲が出ずに生き延びる方法を見つけていこう・・・」
明日香が微笑んで、コペンに向けて手を差し伸べる。だがコペンは首を横に振る。
「もう遅いです・・・私たちは、自らの手で生きる道を閉ざしてしまいました・・・」
コペンは物悲しい笑みを浮かべた。だが彼女が自分に向けていた右手を、飛び込んできた明日香に止められる。
「・・・どういうつもりです?・・私はあなたたちの敵なのですよ・・・」
「死んでいい命なんてありません・・死んでも、悲しみしか生まれません・・・生きて笑顔を作りましょう・・他の人たちにも、自分にも・・・」
疑問を投げかけるコペンに、明日香が優しく言いかける。その言葉に、コペンは冷静さをかき乱されてしまった。
ララの安否を気にしながらも、スバル、ティアナ、霞美はジュン、マコト、レイのところに向かおうとしていた。その間も、霞美はララを気にせずにいられなかった。
「ララ・・・お願い!ララがどうなっているのか、私に見せて!」
「えっ・・・!?」
霞美の突然の申し出に、スバルが驚きの声を上げる。
「もしもララに何かあったら・・私・・・」
“分かりました、霞美さん・・ミッドチルダの映像を、ティアナさんたちのところにも送ります・・”
沈痛さを募らせる霞美の願いを受け止めたのはコロナだった。
「待ちなさい、コロナ!安請け合いで映像を見せるのは軽率よ!」
“あんなにララさんを心配している霞美さんを、放っておくことができるのですか、ティアナさんは・・・!?”
ティアナが呼びかけるが、コロナが声を荒げる。彼女の滅多に出さない激情に、ティアナもスバルも困惑を覚える。
“霞美さん、何が起こっているか、断定はできません・・見たくないものが見えてしまうかもしれません・・その覚悟があるなら・・・”
コロナの忠告に霞美が小さく頷く。それを受けて、コロナは彼女たちに、ララの映像を送信することにした。
ジョンの動きを止めるべく、ヴィッツたちが戦闘を繰り広げていた。ヴィッツはリインフォース、ヴィータはバサラとユニゾンを果たし、ケガが完治していないシグナムはバックアップを行っていた。
だがジョンはヴィッツたちを相手にしても、余裕を崩していなかった。
「私を気にするよりは、ブラットを相手にしたほうがいいのでは?エースたち、ブラットに追い込まれているようだけど?」
ジョンがブラットに眼を向けて、ヴィッツたちに言いかける。だがヴィッツたちも不敵な笑みを見せていた。
「なのはたちを見くびるなよ。どんな逆境だって乗り切るのがエースってもんだ。」
「えりなたちも、フェイトたちを助け出して必ず戻ってくる。分析だけで分かるものではない。私たちは・・」
ヴィータとヴィッツがジョンに言い放つ。だがそれでもジョンの悠然さは崩さない。
「君たちこそ、私たちのことを理解していない・・イースの本質も・・・」
「どういうことです!?・・あなた、本当は何者ですか・・・!?」
ジョンの言葉に疑問を投げかけるアレン。するとジョンが微笑をもらしてきた。
「今はまだ話すときではない。そもそも、話すときになるまでに、君たちは生きていられるかな?」
ジョンは言い放つと、ヴィッツたちに向けて光の弾を放った。
ララを止めるべく果敢に挑むなのはたち。だが強化されたララの力に、なのはたちは決定打を与える機会さえ見出せずにいた。
「何とか、接近してデバイスを仕掛けないと・・・!」
なのはがララの背後から接近を試みる。だがララは即座に振り返り、なのはに衝撃波を放って突き飛ばす。
「なのはちゃん!」
はやてが声を荒げる先で、なのはが体勢を整える。
「近づこうとしてもすぐに気付かれる・・感覚も鋭い・・・!」
「私は周りだけを気をつければいいの・・誰も私に近づかせない・・・」
毒づくなのはにララが呟きかける。あらゆる放出系魔法を吸収してしまうララは、接近されることに注意すれば負けることはない。
「私がけん制して隙を作る。はやてはそこを狙ってバインドをかけて。」
ジャンヌが切り出した言葉に、はやてが当惑を覚える。
「でもどうやって・・ジャンヌちゃんの魔法も、私らと同じ放出系魔法重視やない・・」
「重力操作を使う。重力操作は空間を歪めるほどの力と効果をもたらすから、その衝撃までは吸収することはできない。」
不安を口にするはやてだが、ジャンヌは考えを変えない。
「出し惜しみしてる場合じゃない・・やるだけやってみよう・・」
「ジャンヌちゃん・・・そうだね・・やってみないと、分かんないよね・・・」
ジャンヌの呼びかけになのはが頷く。3人は改めてララに眼を向ける。
「同じ攻撃は2度通じないから、チャンスは1回。絶対に逃さないで・・」
「それじゃ行くよ・・ジャンヌちゃん、お願い!」
互いに声を掛け合うジャンヌとなのは。ジャンヌがシャイニングソウルを構えて、意識を集中する。
「シャイニングソウル、エクスプロージョンフォーム!」
“Explosion form,ignition.”
シャイニングソウルがエクスプロージョンフォームに形状を変える。
「ブラックホール、指定展開!」
“Death hole,neutralizing.”
ジャンヌがララの背後の空間を歪め、ブラックホールを展開する。黒い引力に引かれて、ララが力を込めて踏みとどまる。
「そんなので、私は負けない・・・」
ララが全身から魔力を放出して、ブラックホールに対抗する。だがこれが、彼女がブラックホールに注意を引かれる要因となった。
「はやて、今のうちに・・!」
「うん・・戒めの楔(くさび)!」
ジャンヌの呼びかけを受けて、はやてがシュベルトクロイツが振りかざす。ララの体を輪のような光が締め付ける。
ブラックホールに気を取られていたララは、はやての戒めの楔を受けて注意が散漫になる。
「今だよ、なのはちゃん!」
はやてが呼びかけ、なのはが攻撃態勢に入る。彼女はララに特攻を仕掛け、至近距離での砲撃を行おうとしていた。
「エクセリオンバスター」のバリエーション、「エクセリオンバスターA.C.S」。ゼロ距離での砲撃により、与えるダメージを絶大なものとするが、なのは自身にも大きな反動を受けることになる。ムリをして被った瀕死の重傷も相まって封印していたが、今、彼女はその封印を解こうとしていた。
「本当なら使いたくなかったけど、これ以外にみんなを守れそうにない・・・ゴメンね、レイジングハート・・」
“Don't worry. I am of one mind and flesh with you.(気にしないでください。私はあなたと一心同体です。)”
なのはの謝意にレイジングハートが弁解する。その言葉に背中を押されて、なのはは迷いを振り切った。
「ありがとう、レイジングハート・・・それじゃ、行くよ!」
なのはがララに狙いを定め、特攻に集中する。
「エクセリオンバスターA.C.S、ドライブ!」
なのはがララの懐に飛び込み、彼女にレイジングハートの切っ先を突きつける。ララは体の中に叩き込まれた砲撃までは吸収できないでいた。
「痛い!・・痛いよ・・苦しいよ・・・!」
激痛を覚えて、ララがうめき声を上げる。だがなのはは攻撃の手を緩めなかった。
「みんなが作ってくれたこのチャンス、絶対にムダにできない・・・!」
決意を秘めたなのはが、持てる力の全てを費やす。レイジングハートに装てんされているカートリッジも全て消費させる。
体内に入り込んでくる膨大なエネルギーに、ララはついに悲鳴を上げる。
「ヤダ・・助けて・・・助けて・・・ララ・・・!」
ひたすら助けを求めるララ。ジョンに操られていた彼女だったが、霞美との思い出は完全に消えていなかった。
だが、そのあたたかな記憶を完全に打ち崩すかのように、なのはの放った閃光がララを包み込んだ。その反動で突き飛ばされたなのはが、はやてとジャンヌに受け止められる。
「大丈夫、なのはちゃん!?」
「大丈夫・・って、とてもいえないね・・・今、かなりムチャしちゃったからね・・・」
心配の声を上げるはやてに、なのはが弱々しく微笑みかける。
「みんなにあれだけムチャするなって言ってるのに・・これじゃ説得力ないよ・・」
「アハハハ・・そうだね・・・」
肩を落とすジャンヌに苦笑を見せるなのは。彼女たちはかつてない脅威を辛くも退けたのだった。
その戦況はジョンと対峙していたアレンたちにも伝わっていた。だがララが倒されたにもかかわらず、ジョンは悠然さを消していなかった。
ララが倒された瞬間を、スバルたちも目撃していた。その瞬間は、霞美にこの上ない絶望を与えていた。
「そんな・・・ララが・・・ララが・・・!?」
「霞美さん、落ち着いて・・・大丈夫ですよ・・なのはさんのことですから、うまく加減してくれてますよ・・・」
愕然となる霞美にスバルが励ましてなだめる。だが彼女も困惑を隠しきれず、口調が不安定になっていた。
「ララは最後・・私のことを呼んでくれてた・・私に助けを求めてた・・・」
そのスバルの声さえも、霞美には届いていなかった。
「ララはまだ心を失っていなかった・・・それなのに・・・それなのに・・・!」
怒りに打ち震える霞美が、地面を殴りつける。握り締める手からも血が滲んでいた。
「許せない・・・絶対に許しておけない・・・!」
怒りの声を上げる霞美から、突如黒い霧のようなものがあふれ出てきた。彼女の異変にスバルとティアナが眼を見開く。
「霞美さん・・・どうしたの・・・!?」
「待って、スバル!・・・この現象・・・まさか・・・!?」
霞美に近寄ろうとするスバルを呼び止めて、ティアナが驚愕を見せる。
「霞美さん・・・まさか、あなた・・・!?」
「こんな世界・・・何もかも、壊れてしまえばいいのよ・・・」
立ち上がった霞美が鋭く言いかける。だがその声色は今までの彼女の声よりも低くなっていた。
体からあふれている黒い霧が、霞美を包み込んでいく。
「霞美さん!」
「ダメ、スバル!」
霞美に手を伸ばすスバルだが、ティアナに止められる。漆黒の霧が霧散し、中から霞美が姿を現した。
だが彼女が着ていたのは今までの騎士服ではなかった。黒を基調とした騎士服で、肩ほどまでだった黒髪も腰の辺りまで伸びていた。
「霞美、さん・・・!?」
異様な変貌を遂げた霞美に、スバルが驚愕する。ララを失った悲しみと怒りが、霞美を黒く染めていた。
次回予告
ララを奪われ、変革を遂げた霞美。
心を凍てつかせた彼女には、世界の破滅しかなかった。
霞美の過去と悲劇。
それこそが運命の始まりだった。
漆黒の激情が、さらなる絶望を生み出す・・・