魔法戦記エメラルえりなResonance
第16話「破滅への策略」
暴走したララから、スバルとティアナは霞美を連れて退避していた。しかし霞美はララを放っておけず、逃げることに後ろめたさを募らせていた。
「戻らないと・・このままだとララが・・・!」
「待って、霞美さん!無防備でララちゃんに近づいたら、今度は霞美さんが・・!」
ララのところに戻ろうとする霞美を、スバルが呼び止める。
「何にしても、ララさんの暴走を止めないと・・このままだと被害が増える一方だわ・・」
「待って!ララは悪い子じゃないの!だから傷つけるなんてダメだよ!」
決断するティアナに、霞美が反論する。
「ララのために、関係のない人たちが傷ついてもいいの!?ララのためを思うなら、今の彼女の行為を止めないといけない!違う!?」
「だけど・・だけど・・・!」
「友達が間違いをしたら体を張って止める・・たとえその友達を傷つけることになっても・・それでも友達のしたことなら、笑って許し合える・・それが友達ってものだよ・・・!」
ティアナの言葉を受け入れられずにいる霞美に、スバルが励ます。それすらも受け止められず、霞美は悲痛さを噛み締めていた。
そんな3人の前にララが姿を現した。無表情で見つめてくるララに、霞美は困惑を膨らませていた。
「時空管理局は壊す・・ミッドチルダを壊す・・・」
「ララ、やめて・・これ以上暴れるのはやめて・・・」
呟きかけるララに、霞美が悲痛さを込めて呼びかける。しかしその声はララには届かない。
「時空管理局は壊す・・ミッドチルダを壊す・・・」
「これ以上暴れるのはやめて、ララちゃん!」
スバルが身構えて、ララに声をかける。
「たとえ霞美さんを悲しませることになっても、ララちゃんを傷つけることになっても、あたしは心を鬼にして、ララちゃんを止める!」
決意を秘めてララに挑もうとするスバル。だが彼女のこの行為に怒りを覚えて、霞美がトリニティクロスを構える。
「ララを傷つけさせない・・これが悪いことになるとしても、ララを傷つけようとするものを全力で倒す!」
「霞美さん!?」
眼前に立ちはだかる霞美に、スバルが声を荒げる。ティアナがたまらず霞美に呼びかける。
「やめなさい、あなた!自分が何をしているのか分かってるの!?被害をもたらしている人の擁護・・それは重罪と取られかねない行為なのよ!」
「私の友達を守ることの何が罪なの!?今あなたたちがララにしようとしていることのほうが、もっと悪いことじゃない!」
ティアナの言葉にも怒りを覚える霞美。
「ララをどうしても傷つけるっていうなら、私を倒してからにして!」
「やめて、霞美さん!あたしたちが戦うことに、意味なんてないよ!」
鋭く言い放つ霞美に、スバルが困惑を見せる。そこへティアナが飛びかかり、霞美を引き離す。
「ティア!?」
「霞美さんはあたしが止めるから、スバルはララを止めて!あなたから傷つけることなくララを止められるって、あたしは信じてる!」
ティアナの呼びかけを受けて、スバルは微笑んで頷いた。無表情のままのララに、スバルが視線を戻す。
「やめて!ララを傷つけないで!傷つけたら絶対に許さない!」
「いい加減にして!眼を覚ますときなのよ!ララも、あなたも!」
憤怒を見せる霞美にティアナが呼びかける。友情を賭けて、2人も予期せぬ対峙を迫られることになった。
「ララちゃん・・ちょっと痛いけど、我慢してね・・・!」
一途の思いを抱えて、スバルがララに立ち向かっていった。
メガールとの壮絶な戦いを繰り広げていたジュン、マコト、レイ。だがメガールの力の前に、ジュンたちは悪戦苦闘を強いられていた。
「勇敢さと強さを兼ね備えている・・お前たちのような者がミッドチルダを統率していれば、我々に対する暴挙を犯すこともなかっただろう・・」
「お褒めの言葉ありがとう、といいたいところだけど、生憎僕は時空管理局に反感を持ってる人間なんでね。」
言いかけるメガールに、マコトが言葉を返す。
「だけど僕は信じてる・・ジュンの真っ直ぐな心を・・・」
「マコト・・・」
信頼を寄せるマコトに、ジュンが戸惑いを覚える。その言葉を受けて、ジュンも真剣な面持ちを見せる。
「時空管理局の局員としてじゃない・・1人の人間として決めて、そしてあなたたちと戦っている・・大切な人、大切な場所を守るために・・・!」
「そうか・・お前たちがそのような自覚でいるのならば、お前たちに恨みはない。だが我々のこの戦いは、イースの命運がかかっている。邪魔をするならば、お前たちも倒さねばならん・・」
決意を言い放つジュンたちだが、メガールは引き下がろうとしない。
「お前たちの決意に免じて、私のシンギュラーシステムを見せてやる・・・!」
メガールは言い放つと、両手に力を込める。シンギュラーシステムを発動しようとしているメガールに、ジュンたちが身構える。
「シンギュラーシステム・・グラビティドライブ!」
メガールがその両手を突き出すと、ジュンとマコトが突き飛ばされる。2人は激しく横転するも、すぐに立ち上がって体勢を整える。
「い、今のは・・・!?」
「衝撃波・・これがアイツのシンギュラーシステム・・・!?」
メガールの攻撃にジュンとマコトがうめく。
“Shooting rain.”
レイがとっさに光の雨を放つが、メガールの放つ衝撃波に阻まれかき消される。
「危ない、レイ!」
レイの危機を感じたマコトが飛び出す。メガールが放った衝撃波を、マコトはレイを抱えて回避する。
「大丈夫、レイ!?」
「お姉ちゃん・・・うん・・大丈夫・・・」
マコトの呼びかけに、レイは微笑んで頷く。
「それにしても、何て威力の衝撃波だ・・普通のものだったら、一撃で粉々にできる・・・」
「残念だが、グラビティドライブの本質はそれではない。」
毒づくマコトにメガールが声をかける。
「グラビティドライブの本質は重力操作。衝撃波はその能力の一端でしかない。」
「重力操作・・ジャンヌさんが使うような魔法・・・」
メガールの説明を聞いて、ジュンが呟きかける。
「任意の位置に仕掛けることが可能。上下左右、あらゆる角度から行える。その気になれば対象を大気圏の外に追い出すこともできる。もっとも、お前たちほどの力の持ち主が相手では、大気圏に追い出す前に脱出させられてしまうが。」
「これは厄介じゃないの・・これじゃ攻防一体に使われて、近づくこともできない・・・」
メガールの力に毒づくジュン。マコトもメガールの力を打ち破る打開の策を模索していた。
(この力を打ち破るには、戦闘機人モードを使うしかない・・でも使い方を間違えたら、街を壊してしまうかもしれない・・・)
ジュンは不安を感じていた。旅の間に戦闘機人としての力を何度か発動させたが、制御できたケースは少ない。彼女は暴走することを恐れていた。
そこへマコトが歩み寄り、ジュンの肩に手を乗せてきた。
「同じことを考えているみたいだね・・でも僕たちならもう大丈夫のはずだよ・・」
「マコト・・ありがとう・・マコトと一緒なら、自信が湧いてくるよ・・・」
マコトに励まされて、ジュンが微笑んで頷いた。
「真っ直ぐな気持ちで、どんなことにも向かっていく。それがいつものジュンだよ。」
「そうだったね・・相手は強いけど、諦めるには早いよね・・・」
マコトとジュンは頷き合うと、メガールに視線を戻す。
「諦めるのは、やれることを全部やった後・・・!」
インヒューレントスキル(IS)の発動のため、ジュンが集中力を増す。
「ブレイブブレイズ!」
「ライトニングソニック!」
ジュンとマコトの瞳の色が金色に変わる。2人の体を炎と光が包み込んでいく。
「あれが戦闘機人としての本領発揮・・魔法とは別種のインヒューレントスキルを使うため、魔法封印の影響を受けることなく戦える・・」
2人の力を垣間見て、メガールが呟きかける。
「その力で、私のグラビティドライブを見事破ってみるか・・・!」
メガールが両手を突き出して衝撃波を放つが、ジュンとマコトは踏みとどまる。
「やるようになったか・・だが次はどうだ?」
メガールがさらに重力を操作する。重みを増す重力が、上からジュンとマコトにのしかかる。
「くっ・・!」
その重みに2人がうめく。重力は前後左右からも押し寄せてきていた。
「耐えるだけでは私は倒せんぞ。」
「だったら攻めていってやるよ・・そろそろ力を込めていくぞ・・・!」
不敵な笑みを見せるメガールに、マコトが鋭く言い放つ。向かってきた彼女を、メガールが衝撃波で押し返そうとする。
「ぐっ!こんなもん・・・!」
「マコト!」
負けじと突き進もうとするマコトに、ジュンが声を上げる。
「一気に突き破る・・・ビックバン・テラ!」
マコトが全身から光を放出する。膨れ上がったそのエネルギーが、メガールの放っていた衝撃波を打ち破った。
「ジュン、今だ!突っ込め!」
マコトに呼びかけられて、ジュンが力を振り絞ってメガールに飛びかかる。
「フレイムスマッシュ!」
炎をまとった拳をメガールに叩き込むジュン。だがメガールは少し押されるだけで踏みとどまっていた。
「まだまだ浅いぞ!」
「違うよ!攻撃はまだ終わりじゃない!」
言い放つメガールとジュン。全身から炎のエネルギーを放出するジュンに、メガールが眼を見開く。
「バーストエクスプロージョン!」
ジュンから炎が舞い上がり、巻き込まれたメガールがその炎に焼かれる。だがバーストエクスプロージョンは、ジュン自身にも大きな負荷をかける技でもあった。
ジュンの身を案じるマコトとレイ。やがて炎が消えていき、消耗してふらついているジュンが姿を現す。
「ジュン!」
マコトが駆けつけて、倒れそうになるジュンを受け止める。マコトの顔を眼にして、ジュンが微笑みかける。
「アハハ・・ちょっとムチャしちゃったね・・・」
「ムチャは僕たちの専売特許だよ。何にしても、無事で何よりだよ・・」
苦笑いを浮かべるジュンに、マコトが安堵の笑みをこぼす。だが2人が浮かべた笑みがすぐに消える。
メガールは立っていた。ジュンのゼロ距離攻撃を受けて負傷していたが、それでも戦う余力はあった。
「私をここまで追い詰めるとは、さすがとしか言いようがない・・お前たちが敵として立ちはだかるなら、このまま見逃すわけにはいかない・・・」
ジュンとマコトの力を自分たちの障害になると確信したメガール。彼の体からエネルギーがあふれ、周囲を大きく揺るがす。
「お前たちをこの手で、木っ端微塵に吹き飛ばしてくれる!」
メガールが両手を突き出すと、ジュンとマコトが体を圧迫される。あらゆる角度から重力をかけて、2人の体を押さえつけていた。
「く、くそっ!体が、締め付けられる・・・!」
「私たちに耐久力があるから持ちこたえられてるけど・・そうじゃなかったらバラバラになってる・・・!」
マコトとジュンが激痛に顔を歪める。重力による圧迫はさらに強まり、2人の体を締め付ける。
「これでお前たちは全身を固定されるかのように自由を奪われた。粉々になるのも時間の問題だ・・」
メガールがジュンとマコトにとどめを刺そうと力を込める。
そのとき、メガールの両腕が突如出現した光の輪に拘束される。その反動で彼は重力操作を阻まれる。
レイが発したリングバインドが、メガールの両腕を封じた。重力操作が阻害されたことで、ジュンとマコトが解放される。
「お姉ちゃんたちをいじめたら、レイが許さない・・・!」
レイがメガールを睨みつける。振り返ったメガールが、レイに右手を向ける。
「お前から粉々にしてやろうか・・・?」
「ダメだ!レイ、逃げるんだ!」
鋭く言い放つメガールと、レイに呼びかけるマコト。メガールがレイに向けて衝撃波を放つ。
「バーストエクスプロージョン!」
だがジュンがレイの前に立ち、炎のエネルギーを爆発させてメガールの衝撃波を防ぐ。爆発を前方に集中させたため、レイに被害を及ぼすことはなかった。
「大丈夫、レイちゃん・・・!?」
「ジュンお姉ちゃん・・・うん・・大丈夫・・・」
ジュンの呼びかけにレイが頷く。ジュンはメガールに視線を戻し、眼つきを鋭くする。
「あなたの相手は私よ・・レイちゃんに手は出させない・・・!」
怒りを宿すジュン。彼女の両手に魔力の炎が燃え上がっていた。
なのはたちの前に現れたジョン。ジョンはなのはたちに攻撃の矛先を向けていた。
「君たちが時空管理局のエースであることは知っています。だからこそ、君たちは私に勝つことはできない・・」
「強気だね・・でも、私たちがエースと呼ばれているのは伊達じゃないってこと、本当に理解しているのかな・・・?」
互いに挑発的な言葉をかけるジョンとなのは。しかしジョンは悠然さを崩さない。
「自信も相当なものですね・・その自信を粉々にしてあげますよ・・・」
笑みを消したジョンが意識を集中する。戦いの空気が立ちこめ、なのはたちが身構える。
「2人とも別れて。3方向から同時攻撃を仕掛けるよ・・」
「分かったよ、はやてちゃん・・」
「何を狙っているのか底が知れない・・2人とも気をつけて・・・」
はやての言葉になのはとジャンヌが答える。3人はそれぞれの方向から、ジョンの動きを伺う。
「慎重ですね。ですがそれが正解です。無闇に突っ込むだけでの相手など、私が直接手を下す価値すらないですから・・」
ジョンもなのはたちの動きを伺う。3人の位置を確かめたところで、ジョンはさらに飛翔する。
「ですが、それでもあなたたちに勝機はありませんよ・・・」
あくまで自信を崩さないジョン。彼は魔力の弾を3つ出し、1つずつなのはたちに放つ。
“Accel shooter.”
“Impulse shooter.”
なのはとジャンヌが射撃で弾を撃ち抜き、はやても障壁を展開して弾を弾く。
「捕らえよ、凍てつく足枷!」
はやてがジョンに向けて、凍てつく足枷「フリーレンフェッセルン」を発動する。出現した氷塊の中にジョンが閉じ込められる。
だがその氷が砕かれ、ジョンが脱出してきた。彼は軽々とはやての魔法の氷を打ち破ってみせた。
「私にバインドやケージは通用しない。魔力のバリアを張れば簡単に打ち破れる・・」
「力でねじ伏せるしかないってことなのかな・・・」
悠然と言いかけるジョンに、なのはが毒づく。
「私が接近して叩き落とす。なのはとはやてはその隙を突いて。」
ジャンヌが呼びかけると、なのはとはやてが頷く。ジャンヌが注意力を高めつつ、ジョンに接近していく。
「易々と近づけさせるわけがないでしょう?」
だがジョンが右手をかざし、閃光を放つ。速さに特化した閃光に、ジャンヌは回避もままならずに直撃を食らう。
「ジャンヌちゃん!」
声を荒げるなのは。ジャンヌはすぐに体勢を整えて、落下を踏みとどまる。
「大丈夫!・・でもあれじゃ近づけない・・・!」
「遠距離攻撃で仕留めるしかないいうことか・・・!」
ジャンヌが答え、ジョンの戦法に焦りを浮かべるはやて。
“Accel shooter.”
なのはが多数の魔力の弾丸を出現させ、ジョンに向けて放つ。だがジョンが展開する障壁に全て弾き飛ばされてしまう。
「この程度の攻撃ではこの壁は破れませんよ。もっと本気で攻めてきてはどうです?」
なのはたちに向けて淡々と言いかけるジョン。
「挑発してきている・・・でも、相手の防御もすごい・・近づけば迎撃。ちょっとやそっとじゃバリアで防がれる・・・」
ジョンに決定打を与えるべく、なのはが思考を巡らせる。
「こうなったら、全力全開でやるしかない・・まずはバリアを破らないと、どうにもならない・・・!」
「ちょっと待って、なのはちゃん!そんなことしたら、なのはちゃんもレイジングハートも・・!」
なのはの決意にはやてが反論する。しかしなのはの考えは変わらない。
「大丈夫。危なくないように注意するから・・それにはやてちゃんたちを信じてるし、ヴィータちゃんたちもいるから・・・」
笑顔を見せるなのはに、はやてもジャンヌも戸惑いを見せるしかなかった。なのははレイジングハートを構えて、ジョンを見据える。
「レイジングハート、ちょっと辛いけど、頑張っていこうね・・・」
“I am with you. Please show your best without holding back. (私はあなたとともにあります。遠慮せずに、あなたの全力を見せてください。)”
なのはの呼びかけにレイジングハートが答える。気を引き締めた彼女は、リミットブレイクの敢行を決意する。
「レイジングハート、ブラスターモード、ブラスター1!」
“Blaster set.”
なのはの呼びかけを受けて、レイジングハートがリミットブレイクモード「ブラスターモード」へと形状を変える。遠隔操作機「ブラスタービット」が4機、彼女の前方に展開する。
(限界突破の高出力砲撃・・私の展開した障壁を破るほどの威力の砲撃こそが、私の求めた最高の好機・・・!)
だがジョンは、なのはが高い威力の砲撃を撃つことを狙っていた。
「エクセリオンバスター!」
なのはがジョンに向けて砲撃を放つ。だがこれこそがジョンの勝利の鍵だった。
「ここに来なさい、ブラット!」
ララと一進一退の攻防を繰り広げていたスバル。魔力を押さえつけて大人しくさせようとしていたスバルだが、ララはなかなか体力を減らさなかった。
「こんなすごい力を持っていたなんて・・・どういうことなのかな、ララちゃんは・・・!?」
ララの驚異の力に、スバルは焦りを覚えていた。それでも彼女は諦めようとしなかった。
諦めればララを救い出せず、霞美を悲しませることになる。その衝動がスバルを突き動かしていた。
「もうフルドライブでいくしかない・・でないとあたしが参っちゃう・・・!」
スバルがララに対して全力を出そうとしていた。身構える彼女が、両手を強く握り締める。
(ブラット、ここに来なさい!)
そのとき、ララのココロにジョンの声が入り込んできた。その声を聞いたララが戦闘を中断する。
「行かないと・・・呼んでる・・・」
突き動かされたララが転移魔法を使い、スバルの前から姿を消した。
「消えた!?」
突然のララの消失に、スバルが驚く。その様子に気付いたティアナと霞美も驚愕する。
「移動したの!?・・・この近くじゃない・・地球にいないの・・・!?」
「ララ!?・・どこにいるの、ララ・・・ララ!」
ララの行方を追うティアナと、ララを探す霞美。
「コロナ、ララの行方を追って!別の世界に行っている可能性もあるわ!」
“了解です!”
ティアナの呼びかけにコロナが答える。スバルもティアナも不安を感じていた。
“大変です!ミッドチルダ、クラナガン上空です!”
「えっ!?」
コロナの報告を受けて、スバルたちがさらなる驚愕を覚える。
「ララがミッドチルダに!?・・そんなことって・・・!?」
不測の事態に困惑するスバル。ジョンに呼ばれて、ララはミッドチルダに向かってしまった。
ジョンに向けて高出力の砲撃を放つなのは。だがそのとき、ジョンの眼前にララが姿を現した。
「えっ・・・!?」
ララの姿を目撃して、なのはが眼を見開く。
「ドレインバーストを発動するのだ、ブラット!」
ジョンの命令を受けて、ララが体を大きく広げる。その彼女に、なのはの放った砲撃が直撃する。
その砲撃の閃光が、ララの体に吸い込まれていく。入り込む魔力が強大なため、ララの体の筋肉が一瞬膨大化する。
「まさか・・・!?」
その現象にはやてが声を荒げる。やがて閃光が小さくなり、ララの体に完全に取り込まれた。
「そうです!この瞬間を待っていたのです!これで私たちの勝利は完全なものとなった!」
高らかに言い放つジョン。なのはの魔法を吸収したララから、不気味なオーラがあふれ出る。
「これがブラットに新たに備え付けたシンギュラーシステム、ドレインバーストです。」
「ドレインバースト・・・!?」
語りかけるジョンに、ジャンヌが困惑を膨らませる。
「あらゆる放出系の魔法のエネルギーを取り込み、パワーアップするのです。高町なのはの最上級の砲撃魔法を取り込んだことで、ブラットの力は飛躍的に増大しました。」
「そのために距離を取って、遠距離魔法を撃たせたのね・・・!」
「最初からブラットと戦わせたのでは、気付かれて警戒される危険がありましたからね。このような形を取らせてもらいましたよ。」
ジョンの言葉を聞いて、なのはが驚愕を覚える。自らの力が、敵として立ちはだかったララをパワーアップさせてしまった。
「存分に味わうがいい。エースとしてうたわれてきた自分の力を・・ブラット、まずはそこの3人を始末しなさい。」
「分かりました・・・」
ジョンの呼びかけを受けて、ララがなのはたちを見据える。
「敵は倒す・・敵は壊す・・・」
ララが無表情のまま、なのはに向けて右手をかざす。その手の平から閃光が放たれる。
(よけたら街に直撃する・・・!)
“Oval protection.”
なのはがとっさに球状の障壁を展開して、閃光からクラナガンを守る。閃光の威力は強かったが、辛くも防ぎきることができた。
「大丈夫、なのはちゃん!?」
はやてが呼びかけると、なのはが小さく頷く。しかし顔色から彼女に余裕がないことを、はやてもジャンヌも分かっていた。
「あんなのを何発も撃たれたら厄介だよ・・何とか止めないと・・・!」
ジャンヌが迎撃に出ようとするが、攻撃に踏み切れない。砲撃を放てば吸収され強くしてしまう。その危機的状況が、彼女たちをさらに追い込んでいた。
そこへララが飛び込み、ジャンヌを突き飛ばす。
「うわっ!」
強烈な攻撃を受けて落下するジャンヌ。はやてがとっさにララとの距離を取る。
(氷の魔法で動き止められるけど、砲撃魔法使うても吸収されてまう・・!)
決定打までの手段が見出せず、はやても攻撃に踏み切れなかった。
「敵は倒す・・・敵は壊す・・・」
「ラケーテンハンマー!」
はやてに攻撃を仕掛けようとしたララが、突如突き飛ばされる。飛び込んできたヴィータの、グラーフアイゼンによる打撃が、ララに叩き込まれたのだった。
「大丈夫か、はやて!?」
「うん・・ありがとう、ヴィータ・・けど気ぃ付けて。厄介なことになってるから・・」
呼びかけるヴィータに答えるはやて。
「分かってる・・まさかあたしらの力が、アイツをとんでもないバケモンにしちまうなんてな・・・!」
「あの子を倒すには直接攻撃しかない・・直接攻撃に特化したベルカ式なら、あの子に決定打を与えられる・・・」
毒づくヴィータと作戦を模索するはやて。そこへヴィッツ、アクシオ、ダイナ、シグナムも駆けつける。
「だがそれは相手も承知の上だ。易々と近づけさせはしないだろう・・」
「だがそうするしかない。距離を取って攻撃を仕掛けても、吸収されるか回避されるか、いずれにしても不利になるだけだ・・」
ヴィッツとシグナムが言いかけ、ララを見据える。
「バインドなどで動きを封じ、その一瞬に接近して一撃必殺の技を叩き込む。それが妥当だろう。」
「それとアイツがいる。あたしたちを黙って見ているわけないよね。」
ダイナとアクシオの言葉で、なのはたちの考えはまとまっていく。
“ならばヤツはオレたちに任せてもらおう。”
そこへシグマからの念話が入る。彼の他にジュリアとギーガもいた。
“オレたちであの男の妨害を防ぐ。お前たちはあの娘をけん制しながら撃退しろ。”
「へっ。かっこいいとこ持ってくじゃねぇの。」
シグマの指示にヴィータが不敵な笑みをこぼす。そこへアレンが飛翔し、なのはたちと合流する。
「僕もシグマたちとともに、あの人を食い止めます。必ず撃破してくださいね。」
「大丈夫だよ、アレン。私、無敵のエースって言われてるんだから・・」
アレンの呼びかけになのはが笑顔を見せる。
「それじゃ、その作戦でいきましょう。危なくなったらすぐに離脱すること。」
ジャンヌの呼びかけになのはたちが頷く。彼らの様子を、ジョンが悠然さを浮かべながら見下ろしていた。
「話し合いは終わりましたか?では見せてもらいましょうか。無駄な抵抗と、断末魔を・・」
ジョンが言いかけると、ララがなのはたちに狙いを定める。
「敵は壊す・・・敵は全て壊す・・・」
無表情のまま、ララが呟きかける。なのはの魔力を取り込み、強大な敵として立ちはだかった彼女は、ジョンに操られるままに力を振るっていた。
霞美とフューリーと過ごしてきた日々が、まるで最初からなかったかのように。
次回予告
なのはの魔力を取り込み、より強力になったララ。
戦闘兵器と化した彼女に、完全と立ち向かうなのはたち。
激化する戦いとその決着。
それこそが、全世界を巻き込む混乱の序曲だった。
正義がもたらすのは、安らぎか、それとも・・・