魔法戦記エメラルえりなResonance

第15話「もうひとつの暗躍」

 

 

 三重野家に駆けつけたスバル、ティアナ、霞美の前に立ちはだかったのは、変貌を遂げたララだった。

「ララ・・・!?

 ララに何か起こったのか分からず、霞美が困惑する。ララは無表情を浮かべたまま、3人を見据えていた。

「落ち着いて、ララ・・何があったっていうの・・・?」

「ダメ!近づかないで!」

 ゆっくりと歩み寄る霞美を、ティアナがとっさに呼び止める。その瞬間、ララが全身から光を放出して、霞美を突き飛ばす。

「ララ・・・!?

 その瞬間に霞美はさらに困惑する。ララが暴力を振るってきたことに、彼女は信じられないでいた。

「どうしたの、ララ!?私だよ!霞美だよ!」

「かすみ・・しらない・・・ララ・・しらない・・・」

 必死に呼びかける霞美だが、ララは表情を変えることはない。

「どういうことなの!?・・・ララが、私のことを知らないなんて・・・!?

「ミッドチルダは壊せ・・時空管理局は壊せ・・・」

 愕然となる霞美をよそに、ララがスバルとティアナに右手をかざし、魔力を集束させる。

「霞美さん、危ない!霞美さん!」

 スバルが呼びかけるが、頭の中が真っ白になっている霞美に届いていない。たまりかねたスバルが、霞美を引っ張って離れようとする。

「放して!ララを放っておけない!フューリーとジョンさんも家の中に・・!」

 しかし霞美はここから動こうとしない。毒づいたティアナがクロスミラージュを構えて、ララの注意を引く。

「こっちに来なさい!あたしが相手になるわ!」

「時空管理局は壊せ・・・あの人は、時空管理局・・・」

 呼びかけるティアナに向けて、ララが閃光を放射する。その光に飲み込まれたかに見えた彼女だが、それはフェイクシルエットによる偽者だった。

(すごい力・・あれじゃ街や人々が危ないよ・・・)

 ララが発揮した力に脅威を覚えるスバル。

(コロナ、すぐに結界を張って!頑丈にしないと簡単に破られるよ!)

“分かりました!すぐに準備します!”

 スバルが呼びかけると、コロナが慌てて結界を展開する。前回破られたことを考慮して、コロナはさらに頑丈な結界を張った。

 ララと対峙するスバルたち。その様子を、ジョンが建物の天辺から見下ろしていた。

(ブラット・・お前の高い戦闘能力は健在。いや、以前よりもアップしている・・・)

 ララの、ブラットの力を眼にして、ジョンが歓喜を覚える。

(いや、このぐらいで驚いているわけにはいかない。ブラットはまだまだ強くなる。私が与えたシンギュラーシステムを使えばな・・)

 ジョンは笑みを強めると、きびすを返してララに背を向ける。

(私も次の行動に移らなくては。ブラットの真の力を引き出すためにも、私が戦場に赴かなくては・・)

 次の企みを遂行するため、ジョンは転移をして姿を消した。彼の転移はコロナに気づかれることなく、結界を軽々と突破していった。

 

 イースの航行艦、アクレイムの行方をついにキャッチしたクラウンたち。その知らせはユウキやなのは、えりなたちにも伝えられた。

「ここに来て見つかりましたね・・今まで手がかりもつかめなかったのに・・」

 明日香がその知らせに戸惑いを見せる。

「今まで次元を隔てた異次元空間の中を進んでいたみたい。異次元から異次元へ移動していく際のエネルギーをキャッチできたから、位置を割り出すことができたの・・」

 クラウンがえりなたちに説明する。しかしえりなは腑に落ちない面持ちを浮かべていた。

「今まで私たちに居場所を知られないようにしていたのに・・どうして今になって・・・」

「なぜかは分かんねぇ・・けど、このチャンスを逃すわけにはいかねぇよ・・」

 えりなの言葉に健一が返事をする。えりなは迷いを心の片隅に追いやって、イース侵攻の阻止と仲間たちの救出に意識を集中する。

「先遣隊のメンバーに変更はないですか、クラウンさん?」

「うん。あなたたち4人で先行することに、変更は出ていないよ。」

 えりなの質問にクラウンが微笑んで答える。気を引き締めたえりな、健一、明日香、玉緒が笑顔を見せる。

 そんな彼らの前に、ユウキとなのはがやってきた。

「ユウキさん、なのはさん・・」

「フェイトちゃんたちのことはみんなに任せるよ。でもあなたたちが行くのはイースの本拠地。危なくなったらすぐに脱出して。」

「任せてください、なのはさん。みんなで力を合わせて、必ずフェイトさんたちを助けてみせます。」

 互いに言葉を掛け合うなのはとえりな。

「ミッドチルダの守りはオレたちに任せておけ。だから君たちが気にすることはない。」

「ユウキさん・・・ありがとうございます・・・」

 呼びかけるユウキに、えりなが微笑んで感謝の言葉を返す。

「よし・・出動だ!」

「はいっ!」

 ユウキからの指示を受けて、えりなたちがアクレイムを目指して出撃していった。

 

 それぞれのデバイスを起動させ、バリアジャケットを身にまとったえりなたち。4人はアクレイムに向かって飛行していた。

(できるだけ魔力を抑えて近づこう。気付かれて移動されたら、それこそフェイトさんたちを助けられなくなってしまう・・)

(そうだね・・ここは慎重に、かつ急いで・・)

(どっちなんだよ、もう・・)

 明日香の呼びかけに答えるえりなに、健一が呆れる。言葉を掛け合ううちに、4人はアクレイムが航行している地点の下に到着した。

「ここか・・・ここからは一気に飛んで行ったほうがいい・・」

「そうだね・・もう気付かれてもおかしくないし・・」

 健一の言葉に玉緒が頷く。4人は上空に浮かぶアクレイムを見据える。

「みんな、行くよ・・フェイトさんたちを助けるために・・・!」

 えりなの言葉を合図に、4人はアクレイムに乗り込んでいった。入り込む直前に、彼らは迎撃に会うと確信していた。

 だが何者の迎撃を受けることなく、えりなたちはアクレイムの下部ハッチを通った。

「どうなってるの?これだけ近づいたら、普通は気付かれて警報を鳴らされるはずなんだけど・・」

「何かあったのかな・・・?」

 玉緒と明日香が疑問を投げかける。健一も疑問を感じながらも、迷いを振り切っていた。

「今はそんなこと気にしている場合じゃない。みんなを助けるんだろ?」

「そうだね・・考えるのは後回し。フェイトさんたちを助けよう。」

 健一に続いてえりなが呼びかける。明日香が感覚を研ぎ澄まして、フェイトたちの魔力をつかもうとする。

「魔力が弱すぎて、正確な位置までは分からない・・・」

 明日香が沈痛の面持ちで首を横に振る。

「でも少しでも感じられるなら、ある程度は迷わずに済むよ・・」

「えりな・・ありがとうね。行こう、みんな・・」

 えりなの呼びかけに明日香が頷く。彼女を先頭に、えりなたちはフェイトたちの捜索を開始した。

 

 フェイトとライムを手中に収めたコペン。彼女はカーボンフリーズされたフェイトの頬に手を添えていた。

「フェイトさん・・あなたの中に宿るクローン技術の真髄、確かめさせてもらいますよ・・そしてあなたを人柱にして、私たちイースは復興するのです・・」

 歓喜と期待の笑みを浮かべるコペンが、フェイトから手を離す。

「プロジェクトFで生まれたクローンは、オリジナルの容姿と記憶を継承しますが、人格や性格まではオリジナルとは別となってしまいます・・その問題点をクリアし、完全な継承をもたらすことで、私たちの命は長らえる・・いいえ、不老不死の域に達することも不可能ではありません・・」

 さらなる期待に胸を躍らせるコペン。

「楽しそうね、お姉さん・・こんな楽しそうなお姉さんを見たのは久しぶりね・・」

 そこへソニカがやってきて、コペンに声をかけた。

「そういうあなたも楽しそうですが、ソニカ・・」

 コペンも微笑んでソニカに声をかける。

「当然よ。子供たちが傷つかずに済むんだから・・」

「子供たち・・あなたが石化した時空管理局の局員たちね?」

「子供が戦いに巻き込まれて、傷ついたり死んだりするなんてムチャクチャよ・・これからは私が、あの子たちを守っていくから・・」

「あなたの子供への優しさは感心します・・ですがあなたはその優しさのためにゴルゴンアイを使い、危うく命を落としかけたのですよ・・・」

「ゴメンなさい・・姉さんを困らせるつもりはなかったの・・・」

 コペンに言いとがめられて、ソニカが沈痛の面持ちを浮かべる。するとコペンがソニカの肩に優しく手を添えてきた。

「あなたの命は、あなただけのものではないのです・・そのことを、決して忘れないように・・・」

「姉さん・・・ありがとう、姉さん・・・」

 姉からの優しさを感じ取り、ソニカが眼に涙を浮かべる。ミッドチルダと地球への憎悪を抱きながらも、2人の姉妹の中には確かな優しさがあった。

「このようなことで、死ぬわけにはいきません・・必ず生き延びてみせます・・・」

 生への執着を強めるコペン。ソニカも生きるために信念を強めていた。

 そのとき、アクレイム内に警報が鳴り出した。その音にコペンとソニカが緊迫を覚える。

「警報!?どういうことなの!?

「何が起こったのですか!?状況を報告しなさい!」

 ソニカが声を荒げる傍らで、コペンが通信機で兵士に呼びかける。

“侵入者です!侵入者4人がそちらに向かっています!”

「侵入者!?レーダー監視は何をしていたのですか!?

 報告する兵士に怒鳴るコペン。

「すぐに撃退しなさい!殺してしまっても構いません!」

“了解!”

 コペンの命令に兵士が答える。アクレイムへの奇襲に彼女は焦りを感じていた。

「ゆっくりと研究を行いたかったのですが・・・まずは侵入者の正体を確かめるのが先決です。」

「私が行ってすぐに片付けてくるわ。メガール様の留守の間にふざけたことを・・」

「待ちなさい。軽率な行動は死を招きますよ。それにあなたはまだ体力が回復していません。」

 飛び出そうとするソニカを呼び止めるコペン。

「正体を確かめ次第、すぐに私たちも出ましょう。」

「姉さん・・今のうちに落ち着くのも悪くないかもね・・」

 コペンの呼びかけにソニカが納得する。ソニカは石化させたクオンたちを思い返していた。

(必ず私が守ってあげるからね・・・)

 一途の邪な願いを胸に秘めて、ソニカは戦いに備えるのだった。

 

 アクレイムに潜入したえりなたちを、イースの兵士たちが迎え撃つ。だがえりなたちの力に押されて、兵士たちは次々と撃退されていった。

「束になったって、力はカバー仕切れねぇよ!」

 健一が高らかに言い放ち、兵士たちに向けてラッシュを振りかざす。次々と兵士を退けたところで、健一はふと攻撃の手を止める。

 畏怖を覚える兵士たちをかき分けて、リオが姿を現した。

「リオ様・・・」

「みなさんは下がってください。負傷者の治療を優先してください。」

 困惑している兵士たちに、リオが冷静に呼びかける。兵士たちが撤退していく前で、リオがえりなたちを見据える。

「ここから先へは行かせるわけにはいきません。こちらの指示に従うなら、命まで奪うことはしません。」

「残念だけど、あなたたちの指示には従えない。ここに私たちの仲間がいるから・・」

 リオの申し出をえりなが拒む。そして健一が前に出て、リオを見据える。

「ここはオレに任せて、えりなたちはみんなを助け出してくれ。」

「健一・・・」

 健一の言葉にえりなが戸惑いを見せる。

「3人は先に行ってくれ。オレもすぐに追いつくから・・・」

「健一・・・ありがとう、健一。みんなを助けたら、私たちもすぐに戻ってくるから・・・」

 健一の言葉を受けて、えりなが駆け出す。明日香と玉緒も後を追う。

 3人の進行を阻止しようとするリオ。だがその前に健一が立ちはだかる。

「おめぇの相手はオレだぜ、リオ。」

「仕方がないですね・・あなたを倒す以外に、3人の進行を食い止めることはできないようです・・」

 不敵な笑みを見せる健一に、リオが剣を手にして構える。

「ここではアクレイムに危害が及びます。外に出ます。」

「いいぜ。思う存分やろうってか・・」

 リオの申し出に健一が頷く。床のハッチが開かれ、2人はその下に降下していった。

 

 クオンたちの救出に向かっていたえりな、明日香、玉緒。彼女たちはかすかに感じられるクオンたちの魔力の位置を特定しつつあった。

 そして3人はついに、コペンの作戦室の前にたどり着いた。

「ここに、フェイトさんたちがいる・・・」

「みんなの他にも強い魔力を感じる・・イースの幹部も中にいる・・・」

 明日香とえりなが声をかけ、玉緒が小さく頷く。

「開けるよ・・2人とも準備はいい・・・?」

 ミラクルズを構える玉緒に、えりなと明日香が身構えながら頷く。

「行くよ・・ホワイトブレット!」

 玉緒が作戦室の扉に光の弾を放つ。クオンたちを傷つけないため、彼女は弾に誘導効果を施していた。

 扉が打ち破られ、爆発と煙が巻き起こる。作戦室の中の様子を、玉緒が眼を鋭くして伺う。

 そこへ赤褐色の光が放たれてきた。えりなたちがとっさに光を回避する。

「なかなかの判断力ですね。もっとも、私としてもかわされることは想定していましたが。」

 えりなたちに向けて、コペンが声をかけてきた。

「あなたたちのことはみんなに伝えてあります。私だけじゃなく、みんなにも簡単にシンギュラーシステムを当てられませんよ。」

「あなたはこの前の・・フェイトさんたちを助けに来たのですか?」

「そうです。すぐに元に戻してくれるなら、攻撃を加えることはしません。」

 問いかけるコペンに、明日香が真剣な面持ちで呼びかける。

「残念だけど、私のゴルゴンアイで石にした子たちは、私でも元に戻すことはできないわ。」

 その言葉を拒絶したのはソニカだった。彼女は妖しい笑みを浮かべて、えりなたちを見つめていた。

「姉さんのカーボンロックは、かけても意思ひとつで解除することができる。でも私のゴルゴンアイは制御できない能力でね。私が死なない限りは石化は解けないわ。」

「つまり、あなたを殺さないとみんなを助けられない・・そういうことなの・・・!?

 説明するソニカに、えりなが静かな怒りを見せる。

「殺すの、私たちを?何の悪意もなかった私たちを、あのときのように身勝手に殺すの?・・・どこまでも身勝手なのね・・ミッドチルダも地球も・・・!」

 ソニカの顔から笑みを消え、怒りがあらわになる。

「あなたたちにも味わわせてやる・・無慈悲に命を奪わせる悲しみと怒りを・・・!」

「大切な人たちや故郷を壊される悲しみと怒りを分かっているなら、どうして私たちの仲間を奪うの・・・!?

 憎悪をたぎらせるソニカに、えりなが鋭く言いかける。

「確かにあなたたちに最初にしたことは、私たちにとって深く反省しなくちゃいけないこと・・でもこのままあなたたちの復讐を受けたら、今度は私たちの中からあなたたちに復讐しようとする人が出てきて、きりがなくなる・・・だからこの罪を、私たちで完全に終わらせる!」

 自分の心境を口にすると、えりながブレイブネイチャーを構える。

Saver mode.”

 ブレイブネイチャーから光刃が放たれる。明日香と玉緒も構えて、コペンとソニカを見据える。

「玉緒ちゃんはみんなをお願い。玉緒ちゃんの魔法なら、何とかみんなを元に戻せるかもしれない・・」

「どこまで強力な石化か分かんないけど、解けるようにやってみるよ・・」

 えりなの呼びかけに玉緒が答える。

「そうはいかないわ。これ以上あなたたちの好きにさせない・・・!」

 だがその前にソニカが立ちはだかり、コペンもえりなと明日香を見据える。

「私たちの命を絶つ以外に、仲間たちを助けられると思わないことです・・・!」

「まだそれを断定させるには早すぎますよ・・・!」

 コペンと明日香が鋭く言い放つ。ソニカが両手から光の弾を出現させていく。

 そこへえりなが飛びかかり、ブレイブネイチャーを振りかざす。ソニカはとっさに回避して、作戦室の外に出る。

「みんなを傷つけるわけにいかないから・・外で戦うよ・・・」

「それには賛成ね。でもあなただけを引っ張り出しても、子供たちに手を出されたら意味がない・・」

 低く告げるえりなだが、ソニカは乗り気にならない。

「何度も言わせないで・・私は仲間を助けたいだけ・・たとえ傷つけられそうになったり、怖い思いをしそうになったら、私たちが全力で守る・・」

「そんなのあなたの勝手な理屈じゃない・・理屈じゃ何も守れないわよ・・・」

「それに私たちは信じてる・・みんなは、簡単に傷ついたり逃げたりしないって・・・」

 えりなはソニカに向けて決意を告げる。彼女の眼は、自分の気持ちを貫くように真っ直ぐだった。

「あなたのような人は、1度決心したら頑固になって、人の言うことを聞かなくなるのよね・・私みたいに・・・!」

 ソニカが言いかけると、両手から光を放出する。その光を鞭のように使ってえりなと玉緒を捕まえ、外に放り出す。

「くっ!」

「うわっ!」

 外に投げ出されたえりなと玉緒だが、すぐに飛行して体勢を整える。

「えりな!玉緒!」

 明日香が声をかけるが、立ちはだかるコペンに視線を戻す。

「あなたの相手は私です。」

「ではあなたと戦うことに集中します。2人とも強いですから、私が助けに行く必要はないですよ・・」

 低く告げるコペンに、明日香が微笑みかける。その笑みを見て、コペンが思わず苦笑する。

「信頼しているのですね、仲間を・・ですが、私たち姉妹のほうが、絆は強いです・・・!」

「絆を大事にしているなら、フェイトさんたちを解放してください・・私のこの気持ち、あなたにも分かるはずです・・」

 互いに信念を見せ付けるコペンと明日香。

「十分に理解できますよ・・・だからこそ、この死に直面している運命を変えなくてはならないのです・・たとえ私たちの周りの全てを敵に回すことになっても・・・!」

 コペンは言い放つと、明日香に向けて光線を放つ。

Aqua protection.”

 明日香がウンディーネをかざして水の障壁を作り、光線を防ぐ。

「この際です。あなたとフェイトさんとともに調べさせてもらいますよ・・・!」

 コペンが明日香に徐々に近づいていく。紀州を警戒して、2人は緊張感を募らせていく。

 魔法による攻撃を繰り出したのは、しばしの沈黙の後、2人同時だった。2人がかざした右手から魔力の光が放たれ、相殺して爆発する。

「なかなかやりますね・・この前よりも強いです・・リミッター解除を行ったのですか・・・?」

「そうです・・ここに入る直前に、ユウキさんから解除を受けています・・それに・・」

 続けて言いかける明日香に、コペンが眉をひそめる。

「今の私に、もう迷いはありませんから・・・」

「そう・・・なら私たちに残されているのは、勝利か敗北か、そのどちらかです・・・」

 コペンが両手から赤褐色の光を放つ。

「あなたのそのシンギュラーシステムは、当たれば確実にカーボンフリーズを仕掛けることができますが、魔力のスピードは遅いです。確実に動きを止めないと、簡単によけられてしまいます・・」

 その光をかわしながら、明日香が語りかける。

「忠告ありがとうございます。でしたらあなたの動きを止めることから始めましょう・・」

 コペンが魔力の光を使い、明日香の動きを封じようとする。

(フェイトさんたちは、必ず私が助けてみせます・・・!)

 決意と想いを胸に秘めて、明日香がコペンに立ち向かっていった。

 

 アクレイムの外に投げ出されたえりなと玉緒。再びアクレイムに戻ろうとした2人の前に、ソニカが立ちはだかる。

「ここから先へは行かせないわよ。通りたければ私を倒すことね。」

 ソニカがえりなたちに向けて妖しい笑みを見せる。

「私が相手をする!玉緒ちゃんには、絶対に手を出させない!」

 えりながソニカに向けて高らかに言い放つ。

「玉緒ちゃんはフェイトさんたちをお願い・・私があの人を押さえるから・・」

「えりなちゃん・・・ありがとうね。えりなちゃんも気をつけてね・・」

 えりなの呼びかけに玉緒が頷く。ブレイブネイチャーを構えて、えりながソニカに飛びかかる。

 えりながソニカを食い止めている間に、玉緒が再びアクレイムの中に入り込んだ。

「子供たちに手出しはさせない・・すぐにあなたをつぶしてやる・・・!」

 苛立ちを見せるソニカが、右手をえりなの顔に向ける。えりなはとっさにブレイブネイチャーを振り上げて、ソニカの魔法の放射の軌道をずらした。

「負けるわけにいかない・・私たちが負けたら、みんなが傷つくことになるから・・・!」

Spirit mode,ignition.”

 スピリットモードの起動を敢行したえりな。本気になった彼女は、ソニカと戦うことに集中した。

 

 クオンたちの救出のためにアクレイムに乗り込んだえりなたち。その数分後に、地球から転移してきたジョンが姿を現した。

(こちらでも動きがあったみたいですね・・私としては好都合ですが・・)

 状況を分析したジョンが笑みをこぼす。

(デルタの戦力は完全に分断している・・それに私には好都合・・今こそ叩くときです・・・!)

 思い立ったジョンが飛翔し、クラナガンに眼を向ける。

(次の段階に移行します。ミッドチルダを完全に崩壊させる計画のね・・)

 ジョンが大きく飛翔して、クラナガンのはるか上空に移動していった。

 

 ジョンのミッドチルダ侵入を、デルタ本部のレーダーはキャッチしていた。

「何者かがクラナガン上空に侵入しました!」

 エリィの報告を受けて、ユウキと仁美もレーダーとモニターに眼をやる。

「イースなのか?」

「分かりません!データにない魔力反応です!」

 ユウキの問いかけにカレンが答える。

「攻撃をしてくるかどうかがまだ見えてこない・・念のため迎撃体勢を取る。攻撃してきたら撃墜させていい。」

「私たちで呼びかけてみます。話し合いをすることで、戦いにならずに済むかもしれませんし・・」

 指示を出すユウキに呼びかけるなのは。彼女ははやて、ジャンヌとともにデルタ本部上空に赴いた。

「あたしらも出るぜ。なのはやはやてたちだけにいいとこは持ってかせねぇよ。」

「私も行くぞ。先の戦いの傷は癒えている・・」

 ヴィータとシグナムが呼びかけるが、ユウキは首を横に振る。

「今はなのはちゃんだけでいい。状況に応じて、すぐに出撃することになるけど・・」

「ま、バックアップも悪くねぇかな・・」

 ユウキの判断を受け入れるヴィータ。彼女たちはいつでもなのはたちを助けられるように、準備することにした。

 各々のデバイスを手にして飛翔するなのはたち。彼女たちが見据える先で、ジョンが上空に停滞して眼下の街を見下ろしていた。

「街をじっと見てる・・何を考えてるんやろ・・・?」

「何をしているの、あなた!?何も答えなければ、拘束の対象になりますよ!」

 動きを伺うはやてと、呼びかけて警告するジャンヌ。だがジョンはジャンヌの呼びかけに応じる様子を見せない。

「聞こえていないのかな・・・?」

「もう少し近くで呼んでみよう・・」

 当惑を見せるなのはと、接近を促すジャンヌ。3人がジョンへの接近を試みた。

 そのとき、ジョンがクラナガンに向けて魔力の弾を放射した。弾はビルのひとつに命中して炎上を起こす。

「えっ・・・!?

「攻撃してきた・・・!」

 ジョンの奇襲に声を荒げるはやてとジャンヌ。なのはがレストリクトロックを仕掛けるが、気付いたジョンに回避される。

「残念ですが、あなたたちのことはいろいろと調べていますよ、時空管理局のみなさん。」

 ジョンがなのはたちに向けて、悠然と声をかけてくる。

「あなたは何者です!?イースの人間ですか!?

「その通りです。私はジョン。イースの暗躍部隊を指揮する者です。」

 ジャンヌが声をかけると、ジョンが自己紹介をする。彼はイースの住人であり、暗躍のため、メガールたちの侵攻より前に地球に降り立っていた。地球人、ジョン深沢として。

「ミッドチルダから受けた祖国の損害による恨み、今こそ晴らさせてもらいますよ・・」

「そうはいかない!みんなを傷つけさせるわけにいかない!」

 笑みを消すジョンに、なのはが真剣な面持ちで言い放つ。

「ならば君たちは私たちの報復を受けるべきだ。君たちミッドチルダは自分たちの勝手な考えで、私たちを絶滅の危機に追いやった。君たちには、その罪の意識がないのか?」

「罪悪感はある・・間違いや失敗を感じて、私たちはそれを繰り返さないように努力している・・罪の意識があるから、私たちは成長していける・・みんなを守りたいという気持ちが強くなる・・・!」

「偽善やきれいごとでは、私たちが負った傷は癒せませんよ・・・!」

 決意を言い放つなのはに、ジョンは憎悪を見せる。霞美に見せていなかった負の感情を、彼は久しぶりに浮かべていた。

 

 

次回予告

 

ついにイースとしての素顔を明らかにしたジョン。

地球とミッドチルダにて、一進一退の攻防が繰り広げられる。

イースに立ち向かうデルタの面々。

だがその決意が、罠の発動の引き金だった。

 

次回・「破滅への策略」

 

驚異の兵器が、エースに牙を向く・・・

 

 

作品集

 

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