魔法戦記エメラルえりなResonance

第14話「胎動」

 

 

 クオン、ネオン、エリオ、キャロ、ナディア、ロッキーを石化され、連れ去られてしまったジュンたち。コテージに戻り、ティアナとコロナがクラウンとの連絡を取っていた。

“そちらでもそんなことが・・・”

 ティアナからの報告を聞いて、クラウンが沈痛の面持ちを浮かべる。フェイトとライムもカーボンフリーズされて連れ去られたことを聞いて、ティアナたちの心も重く沈んでいた。

「かなり辛いですよ、この状況・・相手はフェイトさんたちを人質にしてくることもできますし、迂闊に攻め込むこともできませんよ・・・」

 コロナが困り顔で言いかけると、ティアナが深刻さを募らせる。

「ここは後手に回るしかないわね・・ムリに救出に向かおうとして、敵の罠にかかる危険が出てくる・・」

「だけど、このままエリオたちを放っておくわけにもいかないよ・・」

 ティアナに意見してきたのはスバルだった。

「普通だったら任務を最優先にするけど・・あたしたちはそこまで薄情じゃないよね・・・?」

「スバル・・・そうね・・でもどっちにしても、エリオたちとイースの居場所を見つけ出さないと、動き出せないわね・・・」

 深刻さを募らせるスバルとティアナ。その彼女たちの前にマコトとレイがやってきた。

「悪いけど、僕たちは僕たちだけで勝手にやらせてもらう。管理局の人間というわけじゃないからね。」

「マコト・・・」

 マコトが切り出した言葉に、スバルが戸惑いを見せる。

「悪いけど、あなたたちも勝手なことは謹んでもらうわ。下手に動けばイースの思う壺よ。」

「そんなの関係ない!相手が何だろうが、僕の敵に回ったヤツは、誰だろうが倒してやる!」

 ティアナの呼びかけにマコトの考えは変わらない。そこへ気落ちしていたジュンもやってきた。

「ジュン・・・」

 ジュンの姿を見て、スバルが再び戸惑いを見せる。クオンたちを奪われたことに落ち込んでいるジュンに、マコトが駆け寄ってきた。

「落ち込んでる場合じゃないよ、ジュン!イースに好き勝手されて、ジュンは悔しくないのか!?

「マコト・・でもクオンたちがどこにいるのか、分かんないんだよ・・」

 マコトの呼びかけにも、ジュンは悲痛さを浮かべるばかりだった。マコトには親友を失うこと、親友と戦うことの辛さや苦しみを理解している1人だった。

「だからって、何もせずにじっとしていても何にもなんないって!いつまでも思いつめてるなんて、ジュンらしくないって!」

「じっとしていても、何にもなんない・・・」

 マコトからの激励を受けて、ジュンが戸惑いを見せる。彼女はただ悲しんでいるだけの自分に恥を感じていた。

「そうだね・・何もしなかったら、それこそ何も変わらない・・動き出さなくちゃ、何も変わらない・・・」

「ジュン・・・」

「私もやるよ!クオンたちを助けて、みんなを守らないと・・!」

 微笑みかけるマコトに、ジュンが決意を呼び起こして頷く。

「はい、2人ともそこまで。」

 そこへティアナが声をかけ、マコトが不満の眼差しを向ける。

「だから居場所が分かんなくちゃ動けないって。見つけるまで体を休めておいて。いつでも全力が出せるように。」

「私が急いでエリオさんたちの居場所を見つけますから!」

 ティアナに続いてコロナが声を張り上げる。

「コロナさん・・・本当に・・本当にお願いします・・・!」

 その心を汲み取って、ジュンが深々と頭を下げた。彼女はひとまず束の間の休息を取ることとなった。

 

 仲間たちを奪われた深刻さは、デルタ本部内でも広がっていた。特にフェイトを連れて行かれた明日香の悲しみは深く、彼女はいてもたってもいられず、本部の廊下を右往左往していた。

「ちょっと落ち着こうよ、明日香ちゃん・・・って、私も人のこと言えないんだけど・・・」

 励まそうとするも効き目がなく、えりなも肩を落としてしまう。

「今は迂闊に行動を起こせないし、どうしたら・・・」

「明日香もえりなも大人しくしているのは、幸運というべきか・・」

 玉緒と健一が呟きかける。だが明日香は待つばかりではなかった。

「フェイトさんとライムさんを探しに行く。早くしないと2人が・・」

「お、おい、ちょっと待て、明日香!1人で行くなんて危険だって!」

 言葉を切り出した明日香に、健一が声を荒げる。

「こういう場合、えりなだったら頭で考えるより、体を動かすでしょう?私もえりなに感化されているってことなのかな・・」

「明日香ちゃん、ひどいこと言わないでよ・・」

 明日香に言いかけられて、えりなが苦笑いを浮かべる。

「でも、このままじっとしているのも、私らしくないよね・・」

「そうと決まったら、出発の準備を♪」

 気持ちを切り替えたえりなと、上機嫌を見せる玉緒。

「全くおめぇらときたら・・ま、そんなおめぇらと苦楽をともにしてきたオレでもあるんだけどな・・」

 肩を落として呆れながらも、健一も3人についていこうとしていた。

「どこまでいっても、その無鉄砲ぶりは変わんねぇんだな・・」

 そこへ声をかけてきたのはヴィータだった。彼女のそばにいたバサラも、えりなたちの言動に呆れていた。

「そこまで慌てなくても、クラウンさんたちが捜索を急いでいるわ。ユウキさんも、見つけ次第先遣隊を向かわせるって言っていたし・・」

「そういうわけだ。もう少し大人しくしてろ。あたしらも見捨てるつもりなんてさらさらねぇ。」

 バサラとヴィータの言葉を受けて、えりなたちは渋々踏みとどまることにする。

「その先遣隊ってのは、おめぇら4人とカタナだ。今のうちにしっかり休んどけよ。」

「ヴィータさん・・ユウキさんもやってくれるぜ・・」

 ヴィータの言葉を受けて、健一が笑みをこぼした。

(待っていてください、フェイトさん・・必ず助けに行きますから・・・)

 フェイトへの祈りを秘めて、明日香は出撃の時間を待つのだった。

 

 ティアナたちとイースからの追跡から逃れた霞美、ララ、フューリーは家に戻ってきていた。だが疲れてしまったララは、部屋のベットで休むことになった。

「いろいろありましたからね・・疲れて当然ですよ・・・」

「負担ばかりかけちゃって・・・フューリーもゴメンね。私のために・・」

 呟きかけるフューリーに、霞美が謝る。

「そんなことないですよ。霞美さんに助けられてばかりですよ・・」

「ありがとう、フューリー・・・そういってもらえると嬉しいよ・・・」

 フューリーからの弁解に、霞美が微笑みかける。だがそれが作り笑顔であると気付いて、フューリーは素直に笑えなかった。

 そのとき、家のインターホンが鳴り出した。霞美が慌てて玄関に向かい、その間にフューリーが隠れる。

「はーい。」

「ジョンです。用事の帰りに立ち寄りました。」

 やってきたのはジョンだった。霞美は玄関のドアを開けて、彼を迎え入れる。

「いきなりジョンさんが来たものだから、ちょっとビックリしました・・」

「本当にゴメンね。連絡しておけばよかったんだけど・・」

 笑顔を見せる霞美に、ジョンも微笑んで答える。

「ところでララさんは?部屋かな?」

「はい・・ちょっと疲れてしまって・・・」

 ジョンの質問に、霞美が沈痛さを押し隠して答える。

「記憶喪失で、その不安とかで心も落ち着かない・・僕たちが思っている以上に、その不安は強いのかもしれない・・」

「そうかもしれないですね・・私がララの不安を少しでも和らげてあげたいです・・・」

「本当に優しいね、霞美ちゃんは・・でもあまりムリをしても、かえってララさんを不安にさせてしまうよ。」

 ジョンの言葉に霞美が微笑んで頷く。彼の優しさに彼女は安らぎを感じていた。

 そのとき、突如強い魔力を感じ取って、霞美が緊迫を覚える。

(この感じ・・もしかしてイースが・・・!?

 魔力の正体に気付いて、霞美が警戒を強める。同時にララやジョンを巻き込んでしまうという不安も膨らんでいた。

(みんなを巻き込むわけにいかない・・何とかしないと・・)

「どうしたの、霞美ちゃん?」

 そこへジョンに声をかけられて、霞美が我に返る。

「もしかして、ララさんやフューリーさんを狙ってきた人たちが・・・」

「多分・・・私、様子を見てきます・・ジョンさんは、ララとフューリーを頼みます・・・」

 言いかけるジョンに呼びかけると、霞美は家を飛び出していった。物陰にいたフューリーが、困惑の面持ちを浮かべながら見守っていた。

 

 突如感じられた強い魔力の発生源を求めて、霞美は駆け回っていた。だがその正体を確かめることはできなかった。

「いない・・気のせいだったのかな・・・」

 何事もなかったと思い、霞美が安堵を浮かべたときだった。先ほど感じられた魔力にのしかかられ、彼女は再び緊迫を覚える。

「この近くに、まだいる・・・!?

 その気配に注意深くなる霞美。振り返った先にいた男を眼にして、彼女は緊張感を一気に膨らませる。

「お前はブラットとフューリーをかくまっている娘だな・・」

「ブラット・・・?」

 男、メガールが口にした言葉に、霞美が疑問符を浮かべる。ブラットがララであることを、彼女は知らなかった。

「我が名はメガール。イース攻撃兵団の最高司令官だ。」

「イースの、最高司令官・・・!?

 自己紹介をするメガールに、霞美が息を呑む。

「私が部隊の指揮を行わず自ら赴いたのは、ブラットを自らの手で確保するためだ。三重野霞美、ブラットをこちらに引き渡してもらおう。」

「ブラット?誰のことなの・・・!?

 呼びかけるメガールに対し、霞美は疑問を浮かべるばかりだった。

「知らないのだな。フューリーとともにお前がかくまっている娘のことだ。記憶喪失に陥っているようだから、お前が知らないのも無理はないか。」

「もしかしてララのこと!?・・ララまで狙うなんて・・・あなたたちの思い通りにさせない!」

 霞美がメガールに怒りを見せると、トリニティクロスを手にする。

「行くよ、トリニティクロス!」

Standing by.Complete.”

 トリニティクロスを起動させる霞美。十字架状のペンダントが剣になり、彼女も騎士服を身にまとう。

「ララとフューリーは私が守る!そのためなら、あなたたちとも戦う!」

「それがお前の答えか・・ならば我々イースの生存のための、栄えある人柱となるがいい。」

 決意を言い放つ霞美に鋭い視線を向けると同時に、メガールが全身から魔力を放出する。その勢いと強さに、霞美がたまらず息を呑む。

 メガールが突き出した右手から衝撃波が放たれる。霞美が殴られたような衝撃を受けて、激しく突き飛ばされる。

「キャッ!」

 悲鳴を上げて横転する霞美。メガールの力の痛感に困惑して、彼女はすぐに立ち上がることができなかった。

「余所見をするな。戦場ならば自殺志願と同列の行為だ。」

 メガールが霞美に向けて淡々と言いかける。余裕を見せながらも、彼は全く油断を見せていなかった。

(この人・・今までの敵と全然違う・・力が強いだけじゃなく、すごく落ち着いている・・これが司令官というものなの?・・これが経験というものなの・・・?)

 メガールの能力に脅威を覚える霞美。

(でも負けられない・・ここで私が負けたら、ララとフューリーが危険なことになっちゃう・・・!)

 大切な人たちを守るため、奮い立つ霞美。彼女の決意が、かつてない大敵に立ち向かう勇気を呼び起こしていた。

 

 メガールの出現とその強大な魔力を、ジュンたちも感じ取っていた。

「すごい魔力・・こんなに強く伝わってくるなんて・・・!」

「しかも場所も近い・・僕たちを狙ってきたのか・・・!?

 ジュンとマコトが声を荒げる。だが今のジュンたちには、連携が取れる人数に達していない。

「どうするの、ティア?・・放っておくこともできないけど、あたしたちだけじゃ・・」

「でもイースの人かもしれない・・エリオたちの行方を知っているかもしれない・・」

 スバルの問いかけに、ティアナが真剣な面持ちで言いかける。

「全員出動。ただし敵と遭遇しても、すぐに手を出さないこと。エリオたちを救出することを最優先に。」

「分かりました、ティアナさん・・行きましょう、みなさん!」

 ティアナの指示にジュンが笑みをこぼす。

「コロナは状況把握をしながら、なのはさんたちからの連絡を待っていて。」

「分かりました。連絡が来ましたら、すぐにみなさんにも伝えますから。」

 呼びかけるティアナにコロナが頷く。ジュンたちは仲間たちのため、魔力の発生源に向かうのだった。

 

 強大な力を振りかざすメガールに、霞美は悪戦苦闘を強いられていた。廃工場にて、彼女は迫ってくるメガールへの反撃のチャンスを狙っていた。

(こんなすごい敵が出てくるなんて・・でも、ここで負けたら、ララやフューリーが・・・!)

 危機感を決意が霞美の心の中で錯綜していた。そんな彼女にトリニティクロスが語りかけてきた。

Please believe you. Your decision makes and you are made strong also even of where.(自分を信じてください。あなたの決心が、あなた自身をどこまでも強くしていきます。)

「トリニティクロス・・・そうだね・・私がやれると思ったら、どこまでだって行ける・・・」

 トリニティクロスの励ましを受けて、霞美が自信を取り戻す。

「これ以上逃げるつもりなら、お前を放って捕獲を優先するぞ。」

 そこへメガールの声がかかり、霞美の顔から笑みが消える。

「逃げる相手でも容赦はしないが、臆病なヤツにかまっている時間はない。相手をする気がないなら、当初の目的を果たさせてもらう。」

「そうはいかないよ・・あなたを放っておいたら、ララとフューリーが連れてかれちゃう・・そんなのイヤ・・・!」

 淡々と言いかけるメガールの前に、霞美が姿を見せる。

「ならばかかってくるがよい。死ぬ覚悟があるならばな。」

 メガールが言いかけると、魔力を込めた右手を突き出す。

Thunder mode.”

 トリニティクロスと霞美の騎士服が変化する。速度を上げた彼女が、メガールの衝撃波をかわす。

「速さを上げたか。だがその程度では私に脅威を与えることはできないぞ。」

 メガールがさらに衝撃波を放つ。その攻撃も霞美はかわすが、眼の前にメガールが飛び込んできた。

「えっ!?

 驚きの声を上げる霞美に、メガールが拳を叩き込む。

「うっ!」

 重い衝撃を腹に受けて、霞美が吐血する。激痛が全身を駆け回り、彼女は思うように動けなくなる。

 その彼女に向けて、メガールが衝撃波を放つ。直撃を受けた彼女が瓦礫の中に叩きつけられる。

「これが戦いで培ってきた戦士の力だ。お前の浅い経験で、私を相手にどこまで持つかな?」

 悠然と言いかけるメガール。瓦礫から這い出てきて、霞美がせき込む。

「お前の力はその程度か?せめて私を楽しませるぐらいはしてみせろ。」

 不敵な笑みを見せるメガールに対し、霞美が集中力を上げていく。

Flame mode.”

 トリニティクロスの形態をフレイムモードに戻す霞美。彼女は攻撃力を上げて、メガールを迎え撃とうとしていた。

「真っ向勝負か。よかろう。真正面から粉砕してやろう!」

 眼を見開いたメガールが霞美に向かって飛びかかる。

Flame Blade.”

 炎をまとったトリニティクロスを振りかざす霞美。メガールが繰り出した2つの拳と、炎の剣がぶつかり合う。

 激しい衝動で周囲の瓦礫も廃工場の壁やガラスも吹き飛んでいく。そして霞美もメガールの力に押されて突き飛ばされる。

 だがメガールも、攻撃した両手に傷を付けられて、苦痛を覚えていた。

「この私に傷を付けるとは・・潜在能力は高いようだ・・」

 メガールから余裕の素振りが消えた。本気の力を出しても大きなダメージも与えられなかったことに、霞美は焦りを膨らませていた。

「あれだけ強くやったのに・・通じていないなんて・・・!」

「これは長引かせると、何を仕掛けてくるか分からない。私でも無事では済まなくなる・・」

 うめく霞美と毒づくメガール。身構える霞美に、メガールが徐々に近づいていく。

「誇るがよい。私に本気を出させたのは、実に久しいぞ・・・!」

 メガールが言い放つと、右手に魔力を集中させる。打開の糸口を必死に探る霞美。

「フレイムスマッシュ!」

 そこへ声がかかり、霞美とメガールが眼を見開く。背後から繰り出された炎の拳を、メガールが振り返りつつ左腕で防ぐ。

 攻撃を繰り出してきたのはジュンだった。攻撃を防がれたジュンが、メガールに押されて突き飛ばされる。

「お前たち、時空管理局だな?」

 振り返ったメガールの視線の先には、ジュン、マコト、レイ、スバル、ティアナがいた。

「イースの人間ですね?クオンたちを、私たちの仲間を返して・・・!」

 ジュンが声を振り絞って、メガールに言いかける。

「お前たちの仲間は我が旗艦、アクレイムにいる。だがソニカのゴルゴンアイとコペンのカーボンロックを施されているその者たちは、一切の自由を封じられている・・我々の命を絶たない限り、仲間を救出することはできん。」

「そんな・・それ以外に方法がないってこと・・・!?

 淡々と語りかけるメガールの言葉に、スバルが愕然となる。

「だが、私を倒すことができれば、仲間たちの救出と我々の進行の阻止に大きく近づくことはできるだろう。」

「それが本当なら、あたしたちはあなたを拘束する必要があるわ。」

 メガールの言葉にティアナが声をかけてきた。

「イース攻撃兵団最高司令官、メガール、地球、及びミッドチルダ防衛のため、あなたを拘束します・・・!」

「やってみるがよい。やれるというならば・・」

 鋭く言い放つティアナだが、メガールは悠然さを崩さない。彼の体から強大な魔力が放出する。

 立ち上がろうとする霞美だが、疲れている彼女は起き上がるのもままならなくなっていた。

「ティアナさん、ここは私たちが相手をします!」

「あの人連れてここから離れろ!戦いに集中できない!」

 ジュンとマコトがティアナに呼びかける。疑念を抱いていたが、ティアナは霞美を助けることを優先した。

「分かったわ。でも危なくなったらすぐに逃げるのよ。」

「あたしもティアと一緒に行くね。他にイースがいるかもしれないし・・」

 ティアナとスバルが呼びかけると、ジュンが微笑んで頷く。ふらついている霞美に、ティアナとスバルが駆け寄る。

「大丈夫?あたしたちが来たからもう安心だよ。」

「すぐにここから離れるわよ。ひとまずあなたの知り合いと合流しましょう。」

 2人に呼びかけられるが、霞美は困惑していた。

「でもあなたたち、ララを捕まえようとしているんじゃ・・・」

「もうあたしたちは捕まえないよ。あなたが心から信じている人だから・・」

 不安を口にする霞美に、スバルが笑顔を見せる。その笑顔を信じて、霞美も小さく頷いた。

「2人とも急ぐわよ。ここは危険だから・・」

 ティアナに呼びかけられて、スバルと霞美は廃工場を離れた。ジュン、マコト、レイがメガールと対峙する。

「お前たちだけでいいのか?あの2人も力はあっただろう?」

「僕たちを甘く見るなよ。お前を倒して、みんなを返してもらうよ。」

 問いかけるメガールに対し、マコトが強気な態度を見せる。

「お前たちこそ私を甘く見るな。お前たちも高い潜在能力の持ち主のようだが、私はそのお前たちをも凌駕する・・・!」

 メガールが鋭く言い放つと、ジュンたちに向けて衝撃波を放つ。ジュンが突き飛ばされ、マコトもレイを庇うも同時に突き飛ばされる。

 この衝撃で半壊していた廃工場が崩壊を引き起こす。外に飛び出したジュンたちが、遅れて出てきたメガールを見据える。

「私も時間を持て余しているわけではない。早々に決着を着けるぞ。」

「その意見には賛成だな・・」

 淡々と言いかけるメガールに、マコトが再び不敵な笑みを見せる。だがマコトはジュンとレイとともに、メガールの力を痛感していた。

「うまく連携を取るしか、アイツを倒す方法はない・・1人でぶつかっても押し返されるだけだし・・」

「そうだね・・ちょっとでも気を抜いたら、あっという間に天国に送られちゃうよ・・」

 言葉を交わすマコトとジュン。2人の顔に余裕はなかった。

「お姉ちゃん・・ジュンお姉ちゃん・・レイも手伝う・・・」

 そこへレイが声をかけてきた。その言葉を受けて、ジュンとマコトが微笑んで頷く。

「レイちゃんがサポートしてくれるなら、心強いよ・・・」

「当然だよ。僕とレイの連携は完璧で最高だよ。ジュンともうまく息を合わせられるよ・・」

 自信を取り戻したジュンたちが、改めてメガールを見据える。

「幼いながらも臆していない。さらに隙もない。迷いがない・・実に惜しいと思うぞ。お前たちのような勇者を、手にかけなければならないとは・・」

 賞賛の言葉を口にすると、メガールはジュンたちに飛びかかっていった。

 

 家を飛び出した霞美の身を案じるフューリー。彼女は窓越しに外を見つめていた。

「霞美さん・・・大丈夫でしょうか・・・」

 不安を口にせずにいられないフューリー。ララのことも気にかけていた彼女が、部屋に向かっていった。

 その部屋の光景を目の当たりにして、フューリーが驚愕を覚える。ジョンがララに向けて手をかざし、その手からは淡い光が発せられていた。

「眼を覚ますんだ、ブラット・・お前が失った記憶を、私が呼び覚ましてやろう・・」

 ジョンがララに向けて、囁くように呼びかける。その言葉にララが小さく頷く。

(ブラット!?・・イースがミットチルダに送り込んだ破壊兵器、ブラット・・・ララさんがブラット!?・・そんな・・・!?

 ジョンの言葉を耳にして、フューリーが驚愕する。彼女はブラットの存在を知っていたものの、その顔を見たことがなく、ララがブラットであったことに気付かなかったのである。

(でも、どうしてジョンさんがブラットのことを・・・ま、まず霞美さんに知らせないと・・・!)

「このことはまだ、他言無用にお願いしますよ、フューリー。」

 疑問と危機感を覚えて部屋から離れようとしたフューリーに、ジョンが振り向かずに声をかけてきた。彼は彼女の存在に気付いていた。

「か、霞美さん!」

 慌てて外に飛び出そうとするフューリーだが、突如出現したクリスタルケージに閉じ込められてしまう。

「悪いが大人しくしていてくれ。このチャンスを、くだらないことでつぶしたくないので・・」

 ジョンが淡々と言いかけると、フューリーを閉じ込めているケージを部屋の隅に置く。必死にケージの壁を叩くフューリーだが、ケージを破るどころか、音が反響することもなかった。

「どうやら霞美ちゃんが、時空管理局に連れられて戻ってくるようだ・・目覚めのときだ、ブラット・・お前の力、再び解き放つのだ・・」

 ジョンが再びララに呼びかける。その言葉を受けて、ララは無言で頷く。

「お前を完全体として生まれ変わらせてやる。このシンギュラーシステムで、お前はどこまでも高みを目指せる・・・」

 ジョンは笑みを強めると、小さな水晶をララに傾ける。水晶はララの体に入り込み、一体化していく。

「ここに時空管理局の局員がやってくる・・全員始末しろ。」

 ジョンの言葉にララが頷き、立ち上がる。彼女はスバルたちを迎え撃つため、外に出て行った。

 

 スバルとティアナとともに家に戻ろうとしていた霞美。彼女は戻っている間に体力を回復させつつあった。

「ケガはしていないわね?もうすぐなの?」

「はい・・でもジュンちゃんたちだけで大丈夫でしょうか・・・?」

 ティアナの問いかけに答えるも、霞美はジュンたちを心配していた。だがスバルは笑顔を絶やさない。

「ジュンたちもそう簡単にやられたりしないよ。あなたを送ったら、あたしたちは戻るから・・」

「だったら私も戻りますよ・・ジュンちゃんたちを助けないと・・」

「ダメよ。あなたは疲れているのだから・・こういうときぐらい、あたしたちを頼りにして・・」

 スバルの言葉を聞いてさらに心配する霞美を、ティアナが呼び止める。その言葉を受けて、霞美は小さく頷いた。

 そのとき、スバルたちが強大な魔力を感じて、緊迫を覚える。

「何、このすごい魔力・・・!?

「メガールじゃない・・あの人とは別の、強い力・・・!」

 声を荒げるスバルとティアナ。魔力が発せられたほうに、2人が振り返る。

「あの方向・・霞美さんの家があるほうだよね・・・!?

「えっ・・・!?

 スバルが口にした言葉に、霞美が驚愕する。

「ララとフューリー、ジョンさんが危ない・・急がないと!」

「あっ!待って、霞美さん!」

 慌てて家に向かう霞美と、それを追いかけるスバルとティアナ。家の前の通りに駆けつけたとき、3人は足を止めた。

 3人の前にいたのはララだった。だが霞美と生活をともにしてきた彼女ではなかった。

「この魔力・・もしかして、ララちゃんが・・・!?

 スバルは眼の前の光景に愕然となる。強大な魔力を発していたのは、変貌を遂げたララだった。

 

 

次回予告

 

ブラットとしての記憶を取り戻したララ。

霞美の声に耳を貸さず、ララは持てる力を暴走させていく。

ついに行動を開始したジョンの正体は?

邪なる企みが地球を、ミッドチルダを揺るがす。

 

次回・「もうひとつの暗躍」

 

真に倒すべき大敵は誰か・・・?

 

 

作品集

 

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