魔法戦記エメラルえりなResonance
第13話「魔性の眼光」
コペンが両手に集束させた光が赤褐色に変化する。明日香たちはその力をシンギュラーシステムと判断していた。
(気をつけて、2人とも・・どんな効果があるのか分からないよ・・・)
フェイトの呼びかけに明日香、ライムが頷く。3人はコペンの出方を慎重に伺っていた。
「命の延長を目指すべく、あなた方をものにさせていただきます・・・!」
鋭く言い放ったコペンが、赤褐色の光を解き放つ。速さが割合遅かったため、明日香たちは光を難なくかわす。
だが回避ルートを予測していたコペンが、明日香の背後に回りこんでいた。
「やはり速さと命中率という欠点は否めませんね・・・」
コペンは呟きながら、明日香に光を放とうとする。
“Solid mode drive ignition.”
ライムがとっさにリミットブレイクモード「ソリッドモード」を起動させる。
「ソリッドモード」はバリアジャケットを「ソリッドフォーム」にして超高速を可能としており、その速さは時空管理局の中で右に出る者がいない。
だがリミットブレイクは莫大な威力を発揮する反面、デバイスへの負担も大きい。ソリッドモードも例外ではなく、クリスレイサーだけでなくライム自身に多大な負担をかけるため、彼女は滅多に使わない。
高速化したライムが、横から明日香を抱え込み、コペンの光を回避する。距離を取ったところで、ライムは動きを止める。
「大丈夫、明日香!?」
「はい、大丈夫です・・ありがとうございます、ライムさん・・」
ライムの呼びかけに明日香が答える。2人はすぐにコペンに視線を戻す。
「それがあなたの超高速ですね。ですが動きが速い分、動きも通常と比べてわずかながら直線的になっているようです。精進して克服してきているようですが、完全とはいいがたいですね・・」
コペンに弱点を指摘されて、ライムが歯がゆさを浮かべる。
「チェスのように追い詰めていきますよ。チェックメイトは目前です。」
コペンが言いかけたとき、明日香とライムの足元に魔法陣が展開される。魔法を封じられて、2人は動けなくなってしまう。
「し、しまった・・・!」
「ここまでです。まずはあなた方からです・・・」
毒づくライムに向けて、コペンが光を放とうとする。
“Zamber Form.”
そこへバルディッシュを金色の大剣を発現するフルドライブフォーム「ザンバーフォーム」に形状を変えて、フェイトがコペンに飛びかかる。コペンを退けると、フェイトがバルディッシュを振りかざして、明日香とフェイトを閉じ込めていた結界を打ち破る。
「すぐに体勢を立て直して、2人とも!」
「フェイトさん、危ない!」
呼びかけるフェイトに、明日香がすぐに呼び返す。コペンがフェイトに狙いを変えていた。
自身の魔力を鞭のように振りかざすコペン。この攻撃を受けて、フェイトが岩場に叩きつけられる。
「ぐっ!」
「フェイトさん!」
うめくフェイトに、明日香が悲痛の声を上げる。コペンが赤褐色の光を放ち、フェイトが直撃を受けてしまう。
「ぐあっ!・・体が、言うことを・・・!」
声を上げるフェイトを強い束縛が襲う。体の自由を奪われた彼女の手から、バルディッシュが落ちていく。
体が光に包まれていくフェイト。その光が形状を変えて、板状に形を変える。
「まずは1人・・フェイトさんが私の手中に納まりました・・・」
歓喜の笑みを浮かべるコペン。やがて光が治まり、中から板と、その中に埋め込まれたフェイトが固まって動かなくなっていた。
「フェイトさん・・・フェイトさんに何をしたの!?」
明日香がたまらず声を荒げる。コペンが笑みを浮かべたまま、彼女に答える。
「私のシンギュラーシステム、“カーボンロック”。魔力を凝縮した光を浴びせた相手に炭素凍結を施し、固める能力。誰かに助け出された例はあるけど、自力で打ち破った例は1度もありません・・」
「炭素凍結・・フェイトさんはまだ生きているんだね・・・!」
「確かに。ですがあなた方2人で、私のカーボンロックを受けることなく、フェイトさんを助けることができますか?」
一縷の望みを見出す明日香の前に、コペンが立ちはだかる。だがライムは明日香の2人だけでコペンを相手にするのは難しいと判断していた。
「明日香、君はすぐになのはたちと合流するんだ。ここは僕1人で食い止めるから・・」
「ライムさん!?ですがライムさん1人では・・!」
呼びかけるライムに明日香が反論する。
「大丈夫だって。危なくなったときの逃げ足だって速いんだから、僕は。」
「ライムさん・・・分かりました・・絶対、無事でいてください・・・!」
微笑みかけるライムの言葉を受けて、明日香がえりなたちと合流すべく、この場を離れた。
「さて、ここから先は、僕が相手をしてやるさ。」
「1人で食い止めるつもりですか?どこまで持ちこたえられますでしょうか?」
真剣な面持ちを見せるライムに、コペンが笑みを浮かべていた。カーボンフリーズを受けたフェイトは、板に埋め込まれたまま微動だにしなくなっていた。
(えりな、フェイトさんがイースに捕まった!今、ライムさんが1人で食い止めてる・・・!)
明日香からの念話がえりなたちに伝わってくる。彼女たちはフェイトとライムの危機を理解していた。
「明日香ちゃんがこっちに向かっています!すぐに合流して、フェイトさんたちのところに急ぎましょう!」
「そうだね!スピードを上げよう!」
えりなとなのはがスピードを上げる。しばらくして、2人の視界に明日香の姿が入ってきた。
「明日香ちゃん!」
「えりな、なのはさん・・・急ぎましょう!このままではライムさんも危ないです!」
声を掛け合う明日香とえりな。だが疲弊していた明日香が一瞬ふらついた。
「大丈夫、明日香ちゃん!?」
「戦闘での消耗があるね・・ここは私たちに任せて。」
声を荒げるえりなと、明日香を支えて呼びかけるなのは。玉緒やはやてたちも遅れて駆けつけてきた。
「今は休むことを優先したほうがいいですよ、明日香さん・・・治療は私がやります。みなさんは急いで2人を・・」
シャマルの言葉にえりなたちが頷く。すると明日香が沈痛の面持ちを浮かべる。
「すみません、みなさん・・・」
「大丈夫だよ、明日香ちゃん。伊達に一騎当千のエースオブエースと呼ばれていないから。」
笑顔を見せるえりなに、明日香も笑みを取り戻した。明日香の願いを背に受けて、えりなたちはライムとコペンが戦っている場に向かった。
(ゴメン、姉さん・・姉さんからきつく言われてたけど・・この力、使わせてもらうわ・・・)
コペンへの謝意を抱えながら、ソニカは右眼を隠す眼帯に手をかけた。
「まさかここまで使わせるなんて・・子供なのにやるじゃない・・褒めてあげるわ・・・」
不敵な笑みを浮かべながら、ソニカが眼帯を外した。その右眼もまだ閉ざされたままだった。
「でも、私のシンギュラーシステムからは逃れられない・・絶対に・・・」
その眼がゆっくりと開かれる。
「シンギュラーシステム・・ゴルゴンアイ!」
その右眼が大きく開かれる。左眼の蒼い瞳と対照的に、右眼は紅い瞳をしていた。
その右眼の視線が、まずエリオの姿を捉えた。
「えっ・・・!?」
その視線を受けたエリオに異変が起きた。彼の腕がだらりと下がると、顔から徐々に灰色になっていく。
全身が灰色になり、呆然と立ち尽くしたまま動かなくなったエリオ。
「エリオくん!?」
「次はあなたよ、お譲ちゃん。」
驚愕の声を上げるキャロに、ソニカが右眼の視線を移す。その視線を受けたキャロも、エリオと動揺に灰色になって動かなくなってしまった。
「いけない!あの人の右眼を見てはダメよ!」
ティアナがとっさにジュンたちに呼びかける。彼らはとっさに散開して、ソニカの視線から回避する。
(うまく判断したわね・・私のゴルゴンアイは、眼を見ただけで相手を石にすることができる、シンギュラーシステムの中でも強力な能力・・・)
ソニカが思考を巡らせながら、ジュンたちの行方を追う。だがソニカの息が徐々に乱れてきていた。
(でもゴルゴンアイは私自身、制御できていない・・私の言うことを聞かず、眼帯で眼を隠さないと常に発動したまま・・しかも使用すると私の寿命を縮めることになる・・・だから姉さんは使うなと・・・)
ソニカの顔色が悪化していき、呼吸も荒くなっていく。絶対的な効果をもたらすゴルゴンアイは、それに比例するかのような大きなリスクを伴っていた。
(みんな、大丈夫!?ちゃんと隠れている!?)
その間に、ティアナがジュンたちに念話で呼びかける。
(あたしは大丈夫!でもエリオとキャロが・・・!)
(見ただけで石化する・・厄介な力を隠し持っていたなんて・・・!)
返事をするスバルと、ソニカの力に毒づくジュン。
(あの力を何とかしないと・・このまま逃げ隠れしても、追い詰められてやられるだけです・・・!)
(けどどうやって!?・・見られただけで石にされちまうんだぞ・・・!)
ナディアとロッキーも困惑を見せる。ティアナは必死にソニカのゴルゴンアイを破る策を模索していた。
「かくれんぼはなしよ!姿を見せなさい!」
ソニカが声を張り上げて、ジュンたちに向かって歩を進める。その彼女の前に現れたのは、何人ものジュンたちの姿だった。
ティアナが発動した幻覚魔法「フェイクシルエット」によるものだった。衝撃に弱いが、肉眼やセンサーをも欺くことが可能である。
(幻覚魔法・・そんな小細工まで使ってくるなんてね・・でもゴルゴンアイは、幻や偽者を全く映さない。映し出すのは本物だけ・・)
笑みを見せるソニカが、本物のジュンたちの行方を探る。
(まさか、幻覚を見破っている・・・!?)
その動きから、ティアナがソニカが本物を見抜いていることに気付く。
「ちっ!くそっ!」
「あっ!待って、ロックさん!」
たまりかねたロッキーが飛び出し、ナディアが続く。
「フフフ。思う壺とはこのことね。」
微笑を浮かべたソニカが、ロッキーとナディアに眼を向ける。石化の眼差しを受けた2人もまた、棒立ちの石像に変わってしまう。
4人も石化したソニカだが、ゴルゴンアイの使用による体力の消耗を痛感していた。
(ま、まずい・・早くしないと、私の命まで尽きてしまう・・・!)
焦りの色を隠せなくなるソニカ。彼女の体力は限界に近づいていた。
(ここは僕が囮になります!みなさんは1度退却してください!)
危機感を覚えたクオンの言葉に、ジュンとネオンが驚愕を覚える。
(ちょっと!何を言ってるの、クオン!?)
(クオンくんを置いてあたしたちだけ逃げるなんて・・!)
そこへソニカがネオンの背後に回り込んできた。
「えっ・・・!?」
驚きの声を上げるネオンが、ソニカのゴルゴンアイを受けて石化を引き起こす。呆然と立ち尽くしたまま、彼女も石にされてしまった。
「そんな・・・ネオンちゃんまで・・・!?」
変わり果てていく仲間たちを眼にして愕然となるジュン。一方、ソニカもゴルゴンアイの多用で体力を消耗し、その場にひざを付いていた。
(限界が近い・・でもここでやめたら、時空管理局を逃がしてしまう・・・!)
激痛にさいなまれながらも、ソニカが立ち上がる。
「早く逃げてください!僕が食い止めている間に!」
クオンがジュンたちに呼びかけると、スクラムを手にしてソニカに飛びかかる。
「いったん退くわよ、ジュン!クオンの行為をムダにしちゃダメよ!」
ティアナが呼びかけるが、ジュンは愕然となったまま何も答えない。たまりかねたティアナが、ジュンの頬を叩く。
「しっかりして!あたしたちまでやられたら、何もかもおしまいよ!」
「ティアナさん・・・」
怒鳴るティアナに、ジュンが弱々しく声を上げる。その視界の中で、クオンが振りかざした一閃をかわして、ソニカが右眼を見開く。
その視線を受けたクオンも石化に襲われ、物言わぬ石像にされてしまう。
「クオン・・クオン!」
悲痛の叫びを上げるジュン。体力の消耗に耐えられなくなり、ソニカがうつ伏せに倒れてしまう。
「クオンやネオンちゃん・・みんなを・・・!」
怒りを爆発させたジュンが魔力を放出させる。彼女は怒りのあまり、自身の魔力を暴走させていた。
コペンを食い止めるべく全力を上げていたライム。だが眼にも留まらぬ速さを発揮するソリッドモードを発動しているにもかかわらず、彼女は動きを読まれ、追い詰められていた。
「まさか僕の速さがここまで読まれるなんて・・・!」
「言ったでしょう?たとえ速くても、直線的になっているあなたの動きを読むことは難しくないと・・」
毒づくライムに向けて、コペンが淡々と語りかける。ソリッドアクションの多用で、ライムの体力は著しく消耗していた。
「私の力と同様に、多用は厳禁のようですね、あなたのその能力は・・」
コペンが言いかけたとき、ライムの足元に魔法陣が展開する。
「しまっ・・!」
魔法を封じる結界に閉じ込められて、ライムが力を発揮できなくなる。
「これでチェックメイトです。フェイトさんと一緒に、私と来てもらいますよ・・」
コペンがライムに向けて赤褐色の光を放射する。その光を受けたライムが、体の自由を奪われる。
「くっ!・・ここまでなのか、僕は・・・!」
うめくライムが意識を失っていく。光に包まれた彼女が、フェイトと同様にカーボンフリーズを施されてしまう。
「これで2人の上位魔導師を手中にすることができました。ですがこれ以上の捕獲は危険・・」
コペンがフェイトとライムを連れて退却しようとした。そのとき、コペンはソニカの魔力の変化を感じ取り、緊迫を覚える。
(ソニカ・・まさかソニカ、あの力を使ったのですか・・・!?)
驚愕をあらわにするコペン。そこへ明日香からの連絡を受けたえりなたちが駆けつけた。
「フェイトちゃん!」
「ライムさん!」
なのはとえりなが呼びかける。彼女たちの前で、フェイトとライムが板に埋め込まれて固められていた。
「残念ですが、あなたたちの相手をしている時間はなくなりました・・・」
眼つきを鋭くしたコペンが、フェイトとライムを転送して、自身も転移して姿を消した。
「しまった!フェイトさんとライムさんが・・!」
2人を連れ去られてしまったことに、えりなは愕然となっていた。フェイトとライムがコペンの手に落ちてしまった。
クオンたちを石化されて、ジュンは怒りを爆発した。だがゴルゴンアイの多用で、ソニカは立ち上がるのもままならなくなっていた。
(思っていたより消耗が激しかった・・これじゃ、転移魔法を使うための集中力が・・・!)
「みんなを元に戻しなさい!でないと私は、あなたを倒さなくちゃならない!」
胸中で毒づくソニカに、ジュンが言い放つ。ジュンがソニカに飛びかかり、拳を叩き込もうとした。
その拳が、突如出現した障壁に阻まれる。弾かれたジュンが体勢を整え、眼前を見据える。
「あれほど警告したではないですか、ソニカ・・私が来なければ、あなたは確実に倒されていたのですよ・・」
ソニカの前に現れたのはコペンだった。ソニカの危機を感じて、コペンは駆けつけたのである。
「ゴメン、姉さん・・私のために・・・」
「気にしなくていいですよ。あなたとあなたが石にした人たちを連れて、ここから離れます・・」
謝るソニカにコペンが呼びかける。彼女は意識を集中して、ソニカと石化したクオンたちをこの場から転送した。
「クオン!みんな!・・みんなをどこに連れて行ったの!?」
ジュンがコペンに向けて言い放つ。するとコペンが冷静な態度で答える。
「アクレイムに転送しただけです。全員命は落としてはいません。」
「アクレイム・・イース攻撃兵団の次元航行艦・・・」
その言葉を耳にして、ティアナが呟きかける。
「みんなを返して!みんなを元に戻して!」
「残念ですがそれはできません。ソニカのシンギュラーシステムは、自分でも制御できない能力。あの子の命が尽きない限り、あの子でも石化を解くことはできません。」
呼びかけるジュンに、コペンが淡々と答える。
「時空管理局といえど、私たちを止めることはできません。早急の全面降伏を切に願います。」
「待ちなさい!このまま逃がすわけには・・!」
ジュンが呼び止めるのも叶わず、コペンもこの場から姿を消してしまった。追跡ができなくなり、ジュンが足を止めてひざを付く。
「クオン・・みんな・・・みんな・・・」
「ジュン・・・」
涙を流してうなだれるジュン。その後ろ姿を、マコトは困惑の面持ちで見つめていた。
「コロナ・・霞美さんたちの居場所を捜索して・・あたしたちはコテージに戻るわ・・・」
“分かりました・・気をつけて・・・”
ティアナの呼びかけにコロナが答える。窮地に立たされたジュンたちは、その場で打開の糸口を見出すことができず、引き上げるしかできなかった。
アクレイムに帰還したコペンとソニカ。だがゴルゴンアイの使用で体力を激しく消耗させたソニカは意識を失い、コペンの作戦室で横たわることになった。
「ソニカ・・あなたという子は、本当に・・・」
眠るソニカに、コペンが心配の眼差しを送る。彼女はその視線を、石化したクオンたちに向ける。
「それにしても、ソニカらしいですね・・子供たちだけを石化して、戦いに巻き込まないようにするとは・・」
ソニカの心情を思い返すコペン。クオン、ネオン、エリオ、キャロ、ナディア、ロッキーはゴルゴンアイによって物言わぬ石像と化していた。
「ですが、私が2人に施したのは、あの子のような温情あふれたものではありません。」
コペンの視線が、カーボンフリーズされたフェイトとライムに向けられる。
「プロジェクト・フェイトにおける最初にして最高のF・・彼女の中にある技術の秘密を解き明かしたとき、私が求める命の延長、不死の獲得に結びつくことができます・・」
板に埋め込まれたまま動かないフェイトの頬に手を添えるコペン。
「このまま朽ち果てるわけにはいきません。あなたの中にある技術は、私たちの運命すら大きく左右するのですから・・」
決意と生への執着を胸に秘めるコペン。そのとき、作戦室のドアが開かれ、リオが姿を見せてきた。
「手間をかけましたね、リオさん。ですがおかげでフェイトさんを手中に収めることができました。」
「イースの復興は私にとっても果たさないといけない使命ですから。そのためにあなたの作戦に協力させていただきました。」
声をかけるコペンに、リオが真剣な面持ちで答える。
「たとえ自分たちが生き残るためであっても、他人の命を犠牲にすることを、私は快く思いません。平和的に解決するのが、双方にとって最も快いことだと、私は思います。」
「そうですね。ですがイースの危機的状況を生み出したのはミッドチルダ、時空管理局なのですから・・覚悟を決めなさい、リオさん。この戦いに身を投じた時点で、その覚悟を背にしているのですから・・」
深刻さを浮かべるリオに、コペンが淡々と言いかける。納得がいかないと思いながらも言葉が見つからず、リオはコペンにこれ以上反論できなかった。
「それより、用件は何ですか?用がなければ、私は早速フェイトさんの分析を始めたいところですが。」
「そうでした・・メガール様がお呼びです。全員召集です。」
コペンの問いかけにリオが答える。その答えを聞いて、コペンがソニカに眼を向ける。
「分かりました。ですがソニカはここで休ませておきます。ゴルゴンアイの使用で、あの子は疲弊していますから・・」
コペンはそう告げると、リオとともに作戦室を出た。2人が司令室に赴いたときには、メガールとディオンの姿があった。
「お待たせいたしました、メガール様。ソニカはただ今休養中です。」
「そうか。ならばコペン、ソニカにはお前が後で伝えておけ。」
頭を下げるコペンに、メガールが振り返らずに呼びかける。
「お前たちの働き、見事だった。時空管理局に属する人間を、それも最高位の魔導師と騎士を捕獲するとは・・」
「は。ありがたきお言葉、痛み入ります・・」
「その者たちの身柄はお前に任せる。だが、お前たちを呼んだのは別にある。」
メガールの言葉にコペンが眉をひそめる。
「我々の所有する最高破壊兵器、エースキラー、ブラットを発見した。」
「ブラットを、ですか!?・・ですがブラットは、坂崎えりなさんとの戦いで生死不明になったはずでは・・!?」
「そのブラットの生存が確認されたのだ。それも地球にいる。」
驚きを見せるコペンに、メガールは淡々と語りかける。司令室にあるモニターに、海鳴市の風景が映し出される。
「偶然にもソニカが遭遇していた。時空管理局の介入で、追跡はできなかったが・・」
「まさかブラットが生きていたとは・・・分かりました。すぐにブラットを連れてまいります。」
「いや、それには及ばん。」
地球に向かおうとしたコペンを、メガールが呼び止める。
「ブラットの捕獲は、私自らが行う。」
「メガール様自ら、地球の地に赴かれるというのですか・・!?」
メガールの言葉にコペンだけでなく、リオも驚きを見せる。
「我々はまだまだ、時空管理局を侮っていたということだ。高町なのは、坂崎えりなをばじめとしたエースと呼ばれる精鋭たち。さらにスバル・ナカジマや春日ジュンといった、若くも高い実力を備えた者たち。チームは当然として、単独でも我々と渡り合うことができる・・」
「ですが、我々は現にフェイトさんたち、一部のその戦力を攻略しています。我々にはまだ正気が残っています・・」
「おごるな。そのおごりが失態をさらすことになるのだぞ。お前たちは先の戦いでシンギュラーシステムを使い、疲れ果てている。お前たちをセヴィルの二の舞にするわけにはいかん。」
メガールに言いとがめられて、コペンが言葉を詰まらせる。
「お前たちはアクレイムの守備をしつつ待機だ。私はブラット捕獲のため、地球に赴く。」
「了解しました。メガール様、ご武運を・・」
呼びかけるメガールに、リオが頭を下げる。自らの手でブラットを捕獲するため、メガールは地球に赴くのだった。
(メガール様自ら出向かれるとは・・ブラットに関してはその素性を私も把握しています。ですが私でも理解していない部分がまだ残っていました・・その部分を、メガール様は知っておられるのですね・・・)
胸中で呟いて、疑問を解消しようとするコペン。だがこの場に留まっての解明は難しいことだった。
(今考えても仕方がありません。今はフェイトさんたちを分析し、命の延長を完成させることが先決です・・)
「私は研究に戻らせてもらいます。アクレイム防衛の指揮は、リオさん、ディオンさん、あなたたちにお任せします・・」
「コペンさん・・分かりました。お任せください。」
コペンが呼びかけると、リオが真剣な面持ちで答える。コペンも研究のため、司令室を後にした。
「何を企んでいるというのだ、メガールもコペンも・・・?」
そこへディオンがリオに向けて声をかける。だがリオは顔色を変えない。
「私もディオンと同じく、メガール様やコペンさんの行動が気になります。ですが私たちがこの部隊に身を置いた時点で、そのような疑念や詮索は無用です。」
「それでお前が後悔しないというなら、私も不満はない・・」
リオの心境を聞いて、ディオンは呟くように答えた。
「ここからが正念場だ。本当に命を賭けなければならないのは、これからだ。」
「分かっています・・私たちはもう、後戻りすることはできません・・生き延びるためには、立ちはだかる相手を倒さなければならない・・」
ディオンからの忠告を受け止めるリオ。己の生のため、彼女は剣士の誇りを切り捨てていた。
イースとティアナたちの追跡から逃れた霞美、ララ、フューリー。ジュンたちの仲間までもが自分たちに敵意を向けてきたことに、霞美は動揺していた。
「どうして・・どうしてこんなことに・・・!?」
「大丈夫ですよ、霞美さん・・きっと何かの手違いでこうなっただけですよ・・」
疑問を募らせる霞美に、フューリーが励ましの言葉をかける。しかし霞美が元気を取り戻さず、フューリーまでもが困惑してしまう。
「こうなったら何が何でもララを守らないと・・ララは私たちの大切な親友、家族・・だから、絶対に守る・・・!」
霞美の中にある疑問は、友情と決意となって彼女を突き動かしていた。
「とにかく今は、家に戻って休みましょう。ララさんも辛そうですから・・」
「フューリー・・そうだね・・戻ろう、ララ・・もう心配しなくていいからね・・・」
フューリーの申し出を受けて、霞美がララに呼びかける。3人はひとまず家に戻ることにした。
だがこの間も、ララの中で異変が起きていることに、霞美もフューリーも気付いてはいなかった。
次回予告
仲間たちをさらわれ、えりなたちもジュンたちも途方に暮れていた。
重く沈んだ気持ちの中、静かに芽生えていく決意。
ついに明らかになるメガールの力。
そして、心の奥底に眠っていたララの力が、ついに覚醒する。
その目覚めが呼び込むのは、希望か、絶望か・・・?